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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル53巻5号

2019年05月発行

雑誌目次

特集 全体像を把握する

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.429 - P.429

 「全体像」は「外観」や「総体」,「普遍集合」という類義語をもつが,どこか同じではない響きを有する.また「全体像を把握する」ことは重要であると従来言われているが,それは何を示しているのか.どこか一部分に引っ掛かりすぎては全体を見失うという教示としては理解できるが,その具体像を探り,さらに理学療法士としての具体的行動に結びつける技術としてどのような行動をとる必要があるのか.理学療法自体のモデルの歴史的変遷,海外での全体像の把握例とともに,あえて理学療法以外の分野からの提言も含め論議する.

「ゼロ秒思考」に基づく,患者全体像把握のための思考プロセス

著者: 赤羽雄二

ページ範囲:P.431 - P.440

思考プロセスの大前提—もやもやをなくして明晰な思考を身につける

1.もやもやをなくすA4メモ書きの効用

 仕事やプライベートで悩みがあり,もやもやししていると,明晰な思考を身につけることができません.迷いが体をがんじがらめにしてしまうからです.

 これまで悩みを減らす方法,もやもやを減らす方法はたくさん提唱されてきましたが,なかなか効き目を体感することはできませんでした.

患者全体像把握の熟達化

著者: 下島裕美

ページ範囲:P.441 - P.447

はじめに

 筆者が所属する杏林大学は,ワシントン大学で長年臨床倫理の現場で活躍してきたMcCormick博士を2006年と2013年に招聘し,医療倫理に関する講義を聴く機会をもった.その際に,後述する4ボックス法の講義を受けた教員で共同研究を計画し,医療現場で働く理学療法士群と理学療法学科学生群が実施した4ボックスの内容を比較検討した1).本稿ではこの研究を再分析してその概要を紹介し,認知心理学における熟達化とメタ認知の視点から,患者全体像の把握の熟達化について考察する.

統合と解釈のプロセス

著者: 西守隆 ,   上杉雅之 ,   大野直紀

ページ範囲:P.449 - P.458

統合と解釈とは

 統合と解釈は,個人が有する活動制限の原因となっている機能障害を同定するまでの臨床意思決定過程(clinical decision making)である.したがって,個人の活動制限を把握するための情報収集や医療面接(問診)の段階から,主訴や現病歴の内容を整理し,活動制限の改善に必要な基本動作能力や機能的制限を選定し,その動作障害の原因となる機能障害を検査結果で数量化し,「活動制限と機能障害の関連性」を導くものである1)

 本稿では情報収集から始まる一連の統合と解釈までのつながりを,症例を提示して解説する.

全体像を捉えるための理学療法の考え方

著者: 星文彦

ページ範囲:P.461 - P.467

はじめに

 理学療法を実施するにあたり,対象者の全体像を捉えるとはどういうことか.理学療法に対する対象者からの問題提起は,怪我や疾病に伴う機能の低下,喪失,不全などから発起されるが,急性期,回復期,維持期,進行,寛解,誕生,終末などの時間経過と疾病の特性,対象者のディマンドやニーズ,家族,物理的環境や社会的環境など,対象者を取り巻くさまざまな要因により問題は多様化,変化する.したがって,対象者の全体像は一義的,一元的に決定されるものではないように思われる.

 このような観点からすると,理学療法の問題となる対象は,何であろうか.理学療法は本来,治療的アプローチとして個体の機能の改善,回復を目的とするが,適応的アプローチとして課題や環境の調整を行うことも手段の1つである.人の運動行動は個体のもつ機能と課題,および環境との相互作用により発現するという概念から考える1)と,理学療法の対象は運動行動であると捉えることができる.運動行動は,運動・動作・行為の3つの側面から分析されるが2),それぞれを対象とする国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)モデルや疾病症候障害学に基づく関係性や因果性からの捉え方も必要となると思われる3,4)

 本稿では,全体像を捉えるための理学療法を考えるうえで必要と思われる3つの視点,① ICFモデルに基づく問題抽出とアプローチ,② 疾病症候障害学における属性(因果性)と関係性から捉える問題抽出とアプローチ,③ 病期に関連する問題抽出とアプローチについて記述し,最後にバイオサイコソーシャルアプローチ(biopsychosocial approach)5〜7)および患者中心アプローチ(patient-centered approach)8)の観点から全体像を捉えることを考えてみることにする.

腰痛の全体像の把握

著者: 江戸英明

ページ範囲:P.469 - P.477

はじめに

 本稿では,「腰痛の全体像の把握」を実践するためにはどのような思考プロセスが必要となるのか,筆者がオーストラリアでの理学療法教育・臨床を通じて学んだことを,筋骨格系クリニカルトランスレーションフレームワーク(musculoskeletal clinical translation framework1);以下,フレームワーク)を用いて紹介する.フレームワークは,西オーストラリア州にあるカーティン大学理学療法学科の学士・修士課程の教材として開発され,臨床推論を行ううえで重要な役割を担っている.

 近年では,筋骨格系疾患を有する患者に対して,より包括的な視点での治療・介入を行う必要性が認知されてきている.その代表的な概念が,生物心理社会的モデル(bio-psycho-social model)2)であり,評価・治療を行ううえで重要な要素となる.臨床で痛みが慢性化しているような難渋する症例を担当した場合,従来の生物学的なアプローチのみでは好ましい結果が望めないことも多く経験する.生物学的な情報のみに限らず,心理社会的要因,身体活動,生活習慣などさまざまな要素を含めた適切な情報を得ること,それらの情報を解釈し,介入に取り入れることは,認知されてきているにもかかわらず十分に行われていない現状がある3〜5).それらの橋渡しの補助役として開発されたのがフレームワークである.

連載 脳画像から読み取る障害像と理学療法・5

前脈絡叢動脈梗塞

著者: 廣谷和香

ページ範囲:P.423 - P.426

Question

発症11病日のMRI画像,この画像から何を読み取りますか?

とびら

いままで,そして,これから

著者: 岸川典明

ページ範囲:P.427 - P.427

 最近,定年退職される先輩方の退職祝賀会にも参加する機会が多くなった.順番という表現は合わないかもしれないが,この業界を背負っていかなければならないときが自分にも回ってきているのだと感じる.60歳定年まで5年であることに気づきハッとする.30数年の仕事を通して恩師や先輩たちに胸を張って誇れることはあるのか,後輩たちに正しいことを伝えられてきたのか…….甚だ疑わしい.

 卒後すぐ,急性期病院である他県の大学病院に就職した.そこでは,1年目から集中治療室での呼吸理学療法を先輩理学療法士や医師たちにご指導いただいた.筆者の今は,そのときにあると言っても過言ではない.

新人理学療法士へのメッセージ

理学療法士にとって重要なこと

著者: 井開美波

ページ範囲:P.480 - P.481

はじめに

 この春,理学療法士となった皆さま,国家試験に合格されましたこと,心よりお祝い申し上げます.

 まだまだ経験の浅い身ですが,今までの理学療法士生活のなかで感じたことを皆さまにお伝えしたいと思います.

 私が理学療法士になろうと思ったきっかけは,高校時代,野球部のマネージャーをしており,スポーツ選手をサポートできるような仕事に就きたいと思ったことです.母が看護師をしていたこともあり,元々医療関係に興味があったので,医療関係でかつスポーツに携わることのできる理学療法士をめざしました.

 現在,私は兵庫県の西川整形外科リハビリクリニックというところで勤務しています.外来の患者さまの理学療法が中心で,それ以外に訪問リハビリテーション,通所リハビリテーション,スポーツ現場でのトレーナー活動など,幅広く活動できる職場です.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

オピオイド

著者: 大住倫弘

ページ範囲:P.487 - P.487

 “オピオイド”というと「鎮痛のための薬物療法」という印象をもつ理学療法士も多いのではないだろうか.もちろん,体外から投与されるオピオイド(外因性オピオイド)は疼痛緩和に大きく貢献しているが,体内で生成されるオピオイド(内因性オピオイド)も存在しており,理学療法による鎮痛効果を説明するためのメカニズムと考えられている.

 まずは,“オピオイド”という用語の成り立ちと,その受容体の種類について整理する.強力な鎮痛・鎮静作用があるモルヒネは,ケシを原料とするアヘンから抽出される化合物であり,このモルヒネ由来の天然物および合成薬物は「オピエート」(opiate)と呼ばれる1).このオピエートに“のような”という意味の「オイド」(-oid)が組み合わさって「オピオイド」(opioid)という用語が造られた1).つまり,「モルヒネのような作用をもたらす物質」という意味であり,オピオイド受容体に結合して痛みをコントロールすることが可能な物質ということである.オピオイド受容体の概念は1970年代に形成され,薬理作用の違いによりμ(ミュー)受容体,κ(カッパ)受容体,δ(デルタ)受容体,σ(シグマ)受容体に大別されてきた(σ受容体はオピオイドの拮抗物質であるナロキソンによって作用が阻害されるため,現在ではオピオイド受容体からは除外されている).これらのオピオイド受容体は1次求心性神経の末梢終末,脊髄後角,延髄腹内側部,中脳中心灰白質,視床など,痛みに関連のある領域に広く分布しており,オピオイド鎮痛薬などによって活性化して,鎮痛効果を発現する.例えば,μオピオイド受容体を活性化させる薬剤は,中脳水道中心灰白質,延髄網様体,大縫線核に作用し,下性性疼痛抑制系を賦活させ,さらに,脊髄後角に投射している1次知覚神経からの疼痛伝達物質(サブスタンスP物質・ソマトスタチン・グルタミン酸など)を抑制して鎮痛をもたらす2)

外国人とのコミュニケーション

スペイン

著者: 木下智統

ページ範囲:P.488 - P.488

 文献の記録上,日本を最初に訪れたスペイン人としてフランシスコ・ザビエルが挙げられます.おそらく日本で最も有名なスペイン人である彼は,キリスト教の布教という使命を帯びて日本に滞在すると,「自分が知り得る限りで最も素晴らしい国民」と評するほど,日本人の国民性を称賛しました.その後,1613年には伊達政宗がスペインへと使節団を派遣し,ここから両国の交流は,今日まで戦火を交えることなく友好的に継続されてきました.また,こうした国家間の歴史に加え,2017年にはスペイン国王王妃両陛下が国賓として来日され,2018年にはヨーロッパ最古の大学の1つに数えられるスペインのサラマンカ大学創立800周年を祝う会に天皇皇后両陛下(当時)が出席されるなど,皇室とスペイン王室の絆も深められてきました.

 こうした関係にあるスペイン人とのコミュニケーションを図るために,彼らの国民性を理解するポイントを3点に分けて提示してみたいと思います.

入門講座 困難への対応—経験者に学ぶ・1【新連載】

患者・家族とのコミュニケーションの悩み—急性期病院で起こる患者・家族とのコミュニケーションの悩みへの対応/患者からのクレームに対応する—回復期リハビリテーション病棟/患者・家族とのコミュニケーションの難しさと対処法—精神科領域

著者: 田村幸嗣 ,   濱崎寛臣 ,   金子努

ページ範囲:P.489 - P.495

はじめに

 コミュニケーションの難しさは,同じことを伝えたつもりでも対象者の受け取り方は十人十色であることにある.こちらが正しいと感じていても,相手の価値観や常識,心理状態によって受け取り方は変わってしまう.

 急性期病院では,術後の早期離床を図りたいが,痛みや不眠,恐怖心によって患者に治療を断られることを経験する.治療者の思いが十分に伝わらないまま理学療法を進めていくと信頼関係に溝が生じてしまう.患者の気持ちに早期に気づき,適切に対応する能力が円滑な理学療法を行ううえで重要となる.これらの対応について心がけていることや具体的な対応方法を,実際の症例を通して述べていく.

講座 ビッグデータ・1【新連載】

ビッグデータとは何か

著者: 二宮洋一郎 ,   佐藤真一

ページ範囲:P.497 - P.503

AI研究の盛衰

 人工知能,あるいはAI(artificial intelligence)という言葉を日常的に耳にするようになってしばらく経つ.始めのころこそバズワードとしてもてはやされ,猫も杓子もという勢いでAI利用を謳う機器やサービスが登場し,AIにあらざれば先進にあらずという様相を呈した時期もあった.なかには,本当にそれはAIなのか,と疑うような例もあったが,さすがに最近はいわゆるAIブームも落ち着いてきた印象で,AIも広く社会に根付きつつある状況である.AIを利用した顔認識などの生体認証は当たり前に社会のなかに存在し,Amazon EchoやGoogle Homeに代表される音声操作ができるスマートスピーカーもAIの技術なしには成立しない状況である.

 ところで,人工知能の歴史は意外に古く,1956年に開催されたダートマス会議で初めてartificial intelligenceという用語が提唱され,人工知能の学術研究分野が確立した.そこから数えると,現在の人工知能研究の隆盛は第3次AIブームにあたる.1960年代の第1次AIブームでは入力をあらかじめ規定した処理手続きを経て出力するアルゴリズムをベースとし,1980年代の第2次AIブームでは知識表現に依拠したエキスパートシステムのように,特定分野の専門家の知識をルール化したプログラムが盛んに研究された.いずれのAIも,計算機が扱うべき課題に関する特徴や概念を人間が抽出して処理手順や知識表現としてプログラムに組み込む必要があり,扱う課題の規模が大きくなればなるほどシステムの設計が複雑化する問題を抱えている.例えば,犬と猫を判別する機械を作るためには,まず犬と猫の違いを人間が抽出し,その抽出した概念を1つひとつ機械に教え込まなくてはならないことを意味していた.

臨床実習サブノート 「日常生活活動」をみる・1【新連載】

理学療法士が「活動」をみる

著者: 内山靖

ページ範囲:P.504 - P.511

活動を捉えるポイント

1.理念から具体化

 理学療法では,対象者を全人的に捉え,疾病や病態ではなく“病をもつ人”を対象とします.このことは,理学療法士養成課程に入学した直後から繰り返し教授され,国際生活機能分類(International classification of functioning, disability, and health:ICF)の枠組みや健康寿命の延伸を目標とした生活の重要性について学ぶ機会は多くあります.一方で,学年が進むにつれて病態生理やエビデンスに基づく理学療法を追求する過程で,活動や参加を念頭に置いた理学療法評価と治療・介入をいかに具体化していくのかが重要となります.

あんてな シリーズ 介護予防への取り組み・5

地域リハビリテーション(広域)支援センターにおける介護予防と理学療法士のかかわり—京都府山城北圏域における取り組み

著者: 田後裕之

ページ範囲:P.512 - P.517

はじめに

 今,日本は少子高齢化・人口減少社会に突入し,「支え合い基盤の弱化」,「労働力・介護力の不足」,「社会保障費用の不足」,「生活課題の複雑化」が進み,対象者別・機能別の公的支援制度(いわゆる縦割り)では対応しきれない状況となっている.これに対し国は,市町村の実情に応じた地域包括ケアシステムを土台に,住民を主体とする地域の多様な資源が,我が事・丸ごとともに支え合う地域共生社会の実現を進めている1)

 そのうえで二次医療圏域に設置される地域リハビリテーション支援センターでは,心身機能,活動,参加,環境調整など個々への直接的支援だけでなく,地域資源・課題の把握とケア会議,通いの場,人材育成など間接的支援2)における調整,つなぎ,教育および場の提供が重要となる.本稿では,京都府の体制・事業の特徴も交えつつ,地域リハビリテーション支援センターとしての介護予防への取り組みや理学療法士としてのかかわりを紹介する.

学会印象記

—第5回日本地域理学療法学会学術大会—可能性に満ち溢れた地域理学療法学

著者: 井手一茂

ページ範囲:P.485 - P.485

●はじめに

 本学術大会に参加し,学会テーマでもある地域共生社会において,われわれ,理学療法士,そして自分自身が今後,果たすべき役割や可能性について考えるよい機会となりました.

—第6回日本運動器理学療法学会学術大会—運動器理学療法の核心と革新に挑む

著者: 小林裕生

ページ範囲:P.486 - P.486

●ヘルスプロモーターとしての理学療法士の役割

 基調講演として,宮本重範先生より「運動器理学療法の趨勢と今後に期待すること」と題してこれまでの理学療法の歴史・今後の展望について講演がありました.そのなかで印象に残っているのは,これからの理学療法士は世界の動向や社会のニーズに目を向け,理学療法の知識と技術を働かせて国民のヘルスプロモーターとしての役割を担ってほしいという内容でした.ヘルスプロモーションとは,「人々が自らの健康とその決定因子をコントロールし,改善するようにするプロセス」と定義されています.決定因子には,医学的・社会的な多くの因子がありますが,理学療法士がかかわれる運動機能は重要な決定因子の1つと思われます.臨床研究や学会参加は,最新知見や世界の動向,社会のニーズを知るために必要な活動だとあらためて認識させられました.

私のターニングポイント・第3回

志を再び! Re ambitious!

著者: 福島努

ページ範囲:P.484 - P.484

 弊社は2012年4月に神奈川県秦野市にてリハビリテーション特化型デイサービスとしてリハセンターR-studioを開設.理念には“私たちはリハビリテーションを通じ,「できるを明日へ」つなげ周りの人を幸せにできる「人間・健康・地域づくり」に貢献していきます”と掲げている.現在,スタッフは総勢30名となり,リハビリテーション特化型訪問看護ステーションとして訪問R-station,フィットネス,子供向けスポーツ教室を展開している.

 学生時代,理学療法士になっても一番になれなかった葛藤,挫折.起業までの決意が僕にとってターニングポイントとなった.

報告

脊椎腫瘍患者に適したADL評価尺度の検討—機能的自立度評価法(FIM)と脊髄障害自立度評価法(SCIM)を用いて

著者: 黒川由貴 ,   村上英樹 ,   加藤仁志 ,   堀江翔 ,   出口清喜 ,   吉田信也 ,   八幡徹太郎 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.518 - P.522

要旨 【目的】機能的自立度評価法(Functional independence measure:FIM)と脊髄障害自立度評価法(Spinal cord independence measure version Ⅲ:SCIM)を用い,麻痺を呈した脊椎腫瘍患者に適したADL評価尺度を明らかにすること.【方法】麻痺のある48例の脊椎腫瘍患者を対象とした.ADL評価尺度としてFIM,SCIM,神経学的評価として米国脊髄損傷協会の機能障害尺度(American Spinal Injury Association impairment scale:AIS),がん患者の身体機能特性評価としてカルノフスキーの一般全身状態スコア(Karnofsky performance status:KPS)を用い,これらの評価の関連を相関分析にて検証した.さらに,AISの重症度で対象者を群分けし,群間比較を行うことで各尺度のADL評価法としての妥当性を検討した.【結果】FIM,SCIMはともに,AIS(FIM:ρ=0.63,SCIM:ρ=0.63),およびKPS(FIM:ρ=0.86,SCIM:ρ=0.92)と有意な相関が認められた(p<0.01).一方,SCIMはAISの重症度によるすべての群間で有意差があった(p<0.05)が,FIMはAB群とC群の間には有意差が認められなかった.【結論】FIMとSCIMは同等に脊椎腫瘍患者のADL評価尺度として適している.

理学療法の臨床実習における効果的なチーム医療・多職種連携教育の検討—理学療法学生に対するフォーカスグループインタビューの結果から

著者: 木曽貴紀 ,   沖田一彦 ,   吉川ひろみ ,   長谷川正哉

ページ範囲:P.523 - P.529

要旨 【目的】臨床実習における理学療法学生のチーム医療・多職種連携の経験を質的研究の手法で分析し,臨床実習における効果的な多職種連携教育の方法を検討することである.【対象と方法】対象は大学の理学療法学科4年生17名であった.対象者を4グループに分け,フォーカス・グループ・インタビューを実施した.【結果】修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した結果,<臨床実習で学んだチーム医療の実際>,<病期/施設/病棟/個人によって異なるチーム医療の特異性と重要性>,<チーム医療にとって大切なもの>,<チーム医療の学習方法>などのカテゴリーが形成された.【考察】チーム医療にかかわる学内教育と臨床教育には類似点と相違点があり,それぞれに教育の守備範囲が存在することがわかった.特に,インフォーマルな交流や会合は臨床実習特有の学習手段だと考えられた.

臨床のコツ・私の裏ワザ

呼吸困難感を解釈するコツ

著者: 吉川和孝

ページ範囲:P.482 - P.483

 呼吸困難感は呼吸器疾患,循環器疾患,血液疾患,神経筋疾患,精神疾患など,あらゆる患者にみられる現象である.泉崎ら1)は呼吸困難感のメカニズムとして,motor command theory,呼吸困難感発生に対する受容器の関与,中枢-末梢ミスマッチ説の3つを紹介している.呼吸困難感は日常生活の制限につながり,生活の質を低下させてしまうことが多い.今回は呼吸器疾患患者に焦点を当て,呼吸困難感を解釈するコツを紹介したい.

 呼吸器疾患患者にはSpO2が低下するとともに呼吸困難感が出現する者もいれば出現しない者もいる.またSpO2が低下していないにもかかわらず,呼吸困難感を訴える者もいる.

書評

—樋口貴広(著)—「研究的思考法—想いを伝える技術」

著者: 建内宏重

ページ範囲:P.479 - P.479

 本書の著者である樋口氏は,心理学・認知科学領域の第一線で活躍する研究者であるとともに,大学院で多くのセラピストを指導してきた経験をもつ.また,個人的には,私は過去に樋口氏と共著で書籍を執筆した経験があり,その際に,どのような構成,文章にすれば相手(読者)にわかりやすく正確に情報を伝えることができるか,その知識・技術を多く教わった.そのような樋口氏が,「研究領域において実践される作法に沿って,自分の考えを整理し,他者に伝わる形式で表現するための一連の思考プロセス」である研究的思考法をまとめたのが本書である.

 私は本書をすべてのセラピスト(およびその卵である学生)にお薦めする.本書には,学術論文を執筆する必要がある人だけではなく,文献を速く読み効率的に情報収集をしたい人,学会や勉強会でのスライド作成やプレゼンテーションが上手になりたい人,学生や後輩のレポート・論文の指導をしなければならない人など,言わばあらゆるセラピストが経験するであろう活動に関するコツが,随所に惜しげもなく散りばめられているからである.

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目次

ページ範囲:P.428 - P.428

文献抄録

ページ範囲:P.530 - P.531

次号予告

ページ範囲:P.483 - P.483

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.529 - P.529

編集後記

著者: 福井勉

ページ範囲:P.534 - P.534

 新元号になり,新たな歴史を刻む必要があるのは理学療法も同様であり,この『理学療法ジャーナル』も徐々に生まれ変わりつつある.本号の特集は「全体像を把握する」という古くて新しい,また少々捉えどころの難しいテーマである.全体の反意語は部分,個別であり,対象者を1人の人間として,しかもその背景を考慮することでこそ理学療法のダイナミズムもあるということには反論はないと思う.バイアスはどちらかというと嫌われるものであり,それは人としてどうあるべきかという理念に結びついているからでもある.しかしながら,臨床における理学療法は常に具体的なものでなければならない.「全体像を把握することは重要である」ことは間違いないが,企画段階で「全体像」というキーワードでの理学療法関連文献はほとんど検索できなかったことに対しては奇妙な感じもした.

 上記の観点から本特集では,理学療法を全体像として捉えておられる先生方にご執筆いただいた.下島氏は,「全体像」で,唯一検索できた著者である.論文執筆にあたり新たな設定を設けてくださり,分析を行っていただいた.西守氏には症例提示から重要な統合と解釈の具体例を挙げていただいた.症例も広範囲に渡っており,読者の対象疾患と重なる機会が多いと思われる.星氏からは現在までの理学療法の「捉え方」を広範囲に及ぶさまざまな視点からおまとめいただいた.江戸氏からは世界のトレンドとしての論理展開をベースとした重要な示唆をいただくことができた.また私事ながら,昨年度在外研究で海外にいた際に読んだ多くの書籍のなかで,最も強いインパクトを受けた赤羽氏に依頼したところ快くお引き受けくださり,人として必要な決定プロセスに関する重要な視点をいただいた.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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