icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル53巻9号

2019年09月発行

雑誌目次

特集 栄養を学ぶ—学際と実際

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.869 - P.869

 管理栄養士でもないのになぜ理学療法士が栄養のことを知らねばならないのだろうか.知らなければならないとしても,何をどこまで理解しておかなければならないのか.近年,栄養と理学療法の関係が注目されるなかで,新たな「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」では,栄養学の基礎が必修化され,すべての理学療法士が栄養学を学ぶ必要性が示された.本号では特に栄養学の周辺学問領域についても理解を深め,養成校で栄養学を学んでいない理学療法士でも本特集を読むことによって,より効果的な理学療法を実施できるようになることを期待して企画した.

—あらためて問う—なぜ理学療法に栄養学が必要か

著者: 若林秀隆

ページ範囲:P.871 - P.877

はじめに

 日本理学療法士協会には栄養・嚥下理学療法部門があり,「リハビリテーション(以下,リハ)栄養」という言葉を聞いたことのない理学療法士は少ないと考える.理学療法に栄養学が必要なことは一見,自明のように思われる.しかし,理学療法士の数のわりには,栄養学に関心をもつ理学療法士は少ない印象にある.

 本稿では,なぜ理学療法に栄養学が必要なのか,なぜ栄養管理に理学療法学・リハ医学が必要なのかをあらためて解説する.そのうえで,すべての理学療法士が基本的な栄養学を理解し,効果的な理学療法ができるために役立つリハ栄養ケアプロセス,リハビリテーション栄養診療ガイドライン2018年版について紹介する.

重症病態における侵襲制御と栄養療法

著者: 長谷川大祐 ,   西田修

ページ範囲:P.879 - P.883

重症病態が生体に及ぼす影響

1.重症病態と筋崩壊

 大手術,敗血症,重症外傷,広範囲熱傷など高度侵襲が生体に加わると,高度かつ持続的に生体内の異化が亢進する.この代謝の変化は,炎症性サイトカイン,各種ホルモンの変化によって,生理的なレベルを上回って脂質,糖,タンパク分解を引き起こす1).特に重症例では,ミトコンドリアの機能異常,インスリン抵抗性や脂質代謝異常によって,アミノ酸の貯蔵庫としての機能を担っている骨格筋が生体のエネルギー供給に使用され,脂肪を除いた体重,除脂肪体重の急激な喪失を引き起こす.強いストレスがかかっている重症患者においては,肝臓での急性期タンパクの合成と免疫機能や創傷治癒関連のタンパクの合成が亢進し,それに必要なアミノ酸を利用するためにも筋肉の分解が生じる.

 筋肉が生体の主な除脂肪体重であるが,実際に重症患者では,集中治療室(intensive care unit:ICU)入室後10日間に15〜25%の筋肉を失っていると言われている2).このような筋肉の分解に伴う除脂肪体重の減少は感染の増加や筋力低下,死亡率の上昇を引き起こす3).したがって,これら生体の変化に対する適切な栄養と,喪失した筋肉を補塡するためのタンパク質の供給が重要である.これまでの報告は,ICU入室期間での栄養,特にタンパク質のunderfeedingは長期予後やQOLの低下に関連がある可能性を示唆しており,積極的なタンパクの投与が筋肉量減少を防ぎ,感染症併発などさまざまな合併症による長期予後の悪化に歯止めを来す可能性を示唆している4)

口腔機能と栄養—咀嚼を中心に

著者: 岩佐康行

ページ範囲:P.885 - P.891

はじめに

 リハビリテーション医療を効果的に行うために栄養管理は必須であるが,その基本は口から食べることにある.近年,口腔機能の低下と,身体機能の低下や栄養障害との関連性が指摘されている.口腔機能とは顎口腔領域におけるさまざまな機能の総称であるが,本稿では主に咀嚼機能と栄養との関連について概説する.

心身内科学と栄養

著者: 榊弥香 ,   菊池春菜 ,   宇都奈々美 ,   乾明夫

ページ範囲:P.893 - P.898

はじめに

 超高齢社会を迎えたわが国では,高齢者の健康寿命の延伸や介護予防は非常に重要な課題である.

 65歳以上の高齢者が要介護状態となった主な原因として,「認知症」が最も多く,次いで「脳血管疾患(脳卒中)」,「高齢による衰弱」,「骨折・転倒」が挙げられる1).高齢による衰弱いわゆるフレイルや,骨折・転倒のリスク因子であるサルコペニアは,ともに低栄養が深く関与する.

 日本において65歳以上の低栄養傾向の者[Body mass index(BMI)≦20kg/m2]の割合は16.4%であり,80歳以上では約20%に及ぶ2).また,リハビリテーション実施患者の30〜50%に低栄養の可能性があり,低栄養の場合,機能回復が不良で,再入院・死亡率が高いとの報告もあり3),高齢者の低栄養予防は非常に重要である.しかし,高齢者においては,栄養摂取が大事であることは理解していても食べたいという欲求(食欲)そのものが低下していることが多い.本稿では,高齢者の食欲不振の要因について述べるとともに,食欲不振に対するアプローチについて概説する.

スポーツ栄養学と病態栄養学—相反する食事方法の接点を考える

著者: 沖田孝一

ページ範囲:P.899 - P.905

はじめに

 高齢の慢性心不全や慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD),慢性腎疾患(chronic kidney disease:CKD)・透析などの慢性疾患患者では,食欲不振,嚥下機能低下,消化・吸収不全,ポリファーマシーおよび安静時エネルギー需要の増加(呼吸筋疲労など)による栄養障害などが生じ,骨格筋量減少・萎縮を助長し,それらがさらに予後を悪化させることになる.従来の心不全の栄養管理ガイドライン[急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)]では,肥満の是正と減塩が中心であったが,現在では二次性サルコペニアおよびカヘキシー(悪液質,cachexia)を念頭に置いた栄養不良への介入方法が検討され始めている.

 スポーツ栄養学は,概してevidence-basedの分野ではないが,身体をつくるためにインスリン分泌を促すglycemic index(GI)が高い糖質食と高タンパク質食を運動後30〜120分以内で摂取するGIとタイミングを重視した食事法は,その特徴の1つである.この考え方は,低GIと食後の運動を基本とする糖尿病や肥満治療のための食事法と相反するものであるが,サルコペニアやカヘキシーには有効かもしれない.本稿では,スポーツ栄養学と病態栄養学の接点について概説する.

慢性疾患患者に対する低栄養対策と理学療法

著者: 河野裕治 ,   矢箆原隆造

ページ範囲:P.907 - P.912

はじめに

 近年の急性期医療の進歩による救命率の改善と人口動態の高齢化に伴い,多疾患を重複した高齢慢性疾患患者が急増している.理学療法は運動療法が主な介入手段となり,最終的なゴールは健康関連生活の質(health related quality of life:HRQOL)の改善となる.運動療法の効果は,身体機能やHRQOLの改善など多く報告されているが,高齢患者に対しては運動療法のみの効果に限界があり,その阻害因子の1つには低栄養が挙げられる.したがって,栄養管理のもとで適切な運動療法を行うことは必須であるとも言える.本稿では,慢性疾患でみられる「悪液質(cachexia)」に焦点を当て,その病態背景から管理方法についてまとめる.

連載 脳画像から読み取る障害像と理学療法・9

—被殻出血 ②—空間性注意障害を伴った異常姿勢によって痙縮のリスクが高まった右被殻出血患者

著者: 増田司

ページ範囲:P.863 - P.866

Question

術前と術後の画像から,障害像と理学療法戦略をどう読み取りますか?

とびら

変わらざるべきこと,受け継がれるべきこと

著者: 及川龍彦

ページ範囲:P.867 - P.867

 筆者は岩手県の養成校教員を務め二十数年を迎えるが,最近,学生に喜びを覚えた経験があった.本学では国家試験学習にあたり,学生によるグループワークを取り入れている.メンバー構成は担任が行い,学生同士の関係や成績などの面から構成にはいつも苦慮するのだが,このときは成績不振者の学習効率向上を目的にクラスのなかでも優秀な学生を組み込んだ.当該学生はグループでの学習進行に相当の努力を要したが,それでも周辺学生の成績向上に大きく寄与した.本来,メンバー構成の理由は学生に伝えないが,本人の努力に敬意を払う意味もあり,面談で当該学生に担任が求めていることを説明した.その際,本人からは担任の意図は説明されなくても理解していたし,周りの学生の学習効果が向上している実感があるとのことだった.若者間のコミュニケーションが希薄だと言われるこのご時世に他者の意図を汲み取り,他者に貢献しようとする姿が嬉しく,変わらずにいてほしい学生の姿であると感じた.

 話は変わるが,筆者が理学療法士免許を取得して間もない20歳台の頃は諸先輩方に食事をごちそうしていただく機会が多く,そのときには職務の責任や社会貢献など多くのご指導をいただいた.食事の後には「おまえがこの立場になったら,同じことを後輩にしてやれ」とよく言われたものだった.恥ずかしながら状況は今もあまり変わっていないが,後輩との食事ではこの言葉を実践するよう心がけている.いつも思うことは後輩を思いやる気持ち,われわれのあり方を脈々と伝えようとする姿への尊敬であり,これを受け継いでいきたいと普段から思っている.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

アンクルストラテジーとヒップストラテジー

著者: 枡田隆利

ページ範囲:P.921 - P.921

 「ストラテジー」とは「戦略」という意味である.現代社会では,経営や特定の事業における目標達成のために行う方策として,この用語がよく使われている.理学療法においては,主に立位での姿勢制御を説明する際に使用されている.

 立位で平衡を維持するための矢状面での対応には,アンクルストラテジー(ankle strategy:図a),ヒップストラテジー(hip strategy:図b),ステッピングストラテジー(stepping strategy:図c)の3つのストラテジーがある1).アンクルストラテジーとヒップストラテジーは身体重心(center of mass:COM)を支持基底面内に保つためのストラテジーである.ステッピングストラテジーはCOMが支持基底面から外れた際に,支持基底面を広げるためのストラテジーである.

外国人とのコミュニケーション

インド

著者: 平林博

ページ範囲:P.922 - P.922

 インドからの訪日観光客数は年間15万人を超え(2019年1月現在),今後急速に増える見込みである.インドは人口12憶人超を擁し,生活水準も中間層以上は上がっているほか,日印関係が加速的に発展しているからだ.インドは欧州連合と同じ面積の大国であり,言語・人種・宗教・地方色など多様性に富んだ奥の深い国だ.本稿では,筆者が駐在インド大使,その後の日印協会理事長として見聞し経験したことをベースに,日本人がインド人を理解し,円滑なコミュニケーションを図るためのカギを紹介する.

入門講座 地域生活につなげるさまざまなサービス・1【新連載】

障害児の就学前と学齢期の生活とサービス

著者: 芝原美由紀

ページ範囲:P.923 - P.931

はじめに

 今から50年余り前,重症心身障害児の問題が示され,昭和42(1967)年,「重症心身障害児施設」が法的に認められた.この施設は,医療ニードの高い重症心身障害児に対応する医療機能と児童福祉法の両面を備えた施設である.その後,国立療養所重症心身障害病棟も加わった.家庭で行えないケアや治療を受けながら,重症心身障害児が生活する場となった.このころは,多くの重症心身障害児は成人までの生命予後は厳しいとされていた.

 その後,重症心身障害児であってもともに生活したいという家族の願いや,昭和54(1979)年,重症心身障害があってもすべての子供に教育をという思いを受け,養護学校(当時)での義務教育制が始まった.家庭で生活し学校に通学などするという,障害児と家族のための在宅生活の支援が始まった.在宅支援に,障害児の通園療育や特別支援学校・特殊学級などの教育支援も加わった.

 そして,障害児に関係する法令はこの数年で大きな分岐点にきている.2012年に18歳未満の障害児を対象とした施設・事業は,児童福祉法に一本化された(表,図1).身近な地域での支援を充実するため,支援の主体は都道府県から市町村となり,現在,各市町村で具体的な取り組みが行われている.しかし,高齢者への取り組みや急務とされる認知症への課題が大きく迫るなかで,この障害児に対する在宅生活の地域支援事業の変化は見えにくい.

 本稿では,小児理学療法の地域生活支援という視点から,まず,対象の子供の障害像,ともに生活する家族の現状と課題を取り上げる.次に,近年の公的な支援制度について支援事業とサービスの具体的内容を説明する.この支援事業とサービスは各市町村で異なるが,一般的な支援事業と新しく加わった事業を障害児のライフステージを考慮して紹介する.

 そして最後に,理学療法士としてこれからの障害児の生活支援について,どのように考えていくべきかを述べる.

講座 運動器の理学療法—その常識は正しいか?・1【新連載】

変形性膝関節症に対する膝関節伸展筋筋力トレーニングは関節の負荷を軽減させるか?

著者: 島田昇

ページ範囲:P.932 - P.936

はじめに

 「変形性膝関節症(knee osteoarthritis:膝OA)に対する膝関節伸展筋筋力トレーニングは疼痛を軽減させるか?」.答えは「Yes」である.複数のシステマティックレビューにおいて,膝関節,股関節を含む下肢筋力トレーニング,有酸素運動,ストレッチングは,膝関節伸展筋力増強効果に加え,疼痛と身体機能を改善させることが報告されている1〜3)

 では,本稿のテーマである,「膝OAに対する膝関節伸展筋筋力トレーニングは関節の負荷を軽減させるか?」について,ここで言う「関節負荷」をわれわれ理学療法士が連想しやすい「歩行中メカニカルストレス」とした場合,答えは「No」である.

臨床実習サブノート 「日常生活活動」をみる・5

床上

著者: 斎藤均

ページ範囲:P.937 - P.943

 床上(しょうじょう)とは,とこの上(ベッド上):on the bed,ゆかの上:on the floorを示します.床上は,病院や施設でのベッド上だけではなく,日常生活における畳(床)の上での布団の使用,床からの起居動作も想定する必要がありますが,本稿では,ベッド上の背臥位,寝返り,起き上がりについて解説します.

学会印象記

World Confederation for Physical Therapy Congress 2019—ジュネーブの地で/理学療法士から社会へ向けた情報発信の重要性/理学療法の世界基準を“参考”にする

著者: 三木貴弘 ,   大塚翔太 ,   近藤夕騎

ページ範囲:P.913 - P.915

●概要

 世界理学療法学術大会[World Confederation for Physical Therapy(WCPT)Congress]は世界中の理学療法士が集まる2年に1回開かれる学会で,理学療法のなかでは世界最大規模を誇る.主催はWCPTであり,1951年に世界の理学療法の連携を図るために設立された非営利団体である.

私のターニングポイント・第5回

社会に新たな価値を提供する—介護と医療の融合への挑戦

著者: 文野勝利

ページ範囲:P.920 - P.920

 私の理学療法士人生のターニングポイントはまさに“今”である.

 13年間勤めた社会福祉法人を退職し,大阪市の天王寺区という新天地で株式会社Sieg(ジーク)を立ち上げ再出発をした.

症例報告

補助人工心臓を離脱した乳幼児患者の一症例

著者: 天尾理恵 ,   平田康隆 ,   中野克俊 ,   犬塚亮 ,   小野稔 ,   芳賀信彦

ページ範囲:P.946 - P.951

要旨 【はじめに】これまで,補助人工心臓(ventricular assist device:VAD)離脱に至った小児患者の離脱後の運動指標は明確でない.今回,VAD離脱に至った幼児患者の理学療法について検討したので報告する.【症例紹介】左室瘤2か月女児.LVADを装着術後,心機能の改善を認め,装着術後530日にVAD離脱術を施行した.【経過】VAD装着時安静時心拍数(heart rate:HR)は110台,啼泣時に140台まで上昇する状況であった.理学療法は離脱術後2日に開始.理学療法実施中のHRは興奮にて一過性に150bpmに上昇したが,おおむね120〜140bpmで推移した.退院前にはほぼ,離脱術前と同等のプログラムを実施可能な状態であった.【考察】本症例の循環動態の評価として,HR,血圧,および他覚的所見として心不全症状の有無などを評価した.安静時HRより20%程度上昇する運動負荷で,安全かつ効果的な理学療法が行え,VAD離脱後の乳幼児の理学療法として許容範囲内であることが示唆された.【結語】VAD離脱後の乳幼児の理学療法は,安静時HRより20%程度上昇HRであれば許容範囲内であった.

ひろば

日本理学療法哲学・倫理学研究会第1回フォーラムに参加して

著者: 作田晴香

ページ範囲:P.952 - P.952

 2019年2月9日に日本理学療法哲学・倫理学研究会(以下,本会)主催の第1回フォーラムが「なぜ,理学療法と哲学・倫理学なのか?」をテーマにして神戸大学で開催された.私は理学療法士になって6年目になるが,主に心疾患者の理学療法に関与してきた.卒業後も専門分野に関する知識と技能を修得するために,種々の研修会や学術大会に参加してきた.その間,対象者に対する職場の基本方針をはじめ,他部門を含む職員の姿勢と連携,人間関係の有り様などは,何らかのかたちで対象者への医療サービスに反映されると感じてきた.つまり,「医療は技術である」ことを認識していても,医療現場における対象者と職員間の関係性には,ハードウェアとしての技術だけではなく,ソフトウェアとしての人間学的考え方によって,対象者に及ぼす影響は多大であると感じてきた.

 プログラムは,本会世話人代表の奈良 勲氏による「なぜ,理学療法と哲学・倫理学なのか?」との課題提起で始まり,奈良氏の長年にわたる臨床・教育・研究に基づき,対象者もセラピストも人間であることを前提にして,人間自体の本質を追究し続けることの意義を提起された.日本理学療法士協会長の半田一登氏は長年の臨床家としての経験と協会長の立場から,「臨床理学療法をより効果的に」という視点で講演され,臨床の知を究めることが理学療法の真髄であることを提唱された.シンポジウムでは,臨床(岩田健太郎氏:神戸市立医療センター)・教育(内山 靖氏:名古屋大学)・研究(淺井 仁氏:金沢大学)らが,それぞれの観点からテーマに沿って発言された.一般演題では2人の報告があり,いずれのセッションにおいても活発な質疑応答を交わす時間が設けられ臨場感に溢れていた.

臨床のコツ・私の裏ワザ

テニス肘に対する他関節からの評価のコツ

著者: 岡村俊

ページ範囲:P.916 - P.917

テニス肘に対する肩関節の評価

 テニス肘は上腕骨外側上顆付近に付着する長撓側手根伸筋,短撓側手根伸筋,尺側手根伸筋などによる筋腱付着部炎とされています.特に付着部断面積の影響により上腕骨外側上顆から中指の中手骨底背側に走行する短撓側手根伸筋の影響が大きいと言われています.理学療法として前腕伸筋群のストレッチや筋力トレーニングを行うことがありますが,それだけでは症状が改善できない症例を多く経験します.テニス肘のストレステストはchair test,中指伸展テスト,Thomsen test(図1a)があります.肩関節からの影響を考慮する場合は図1bのように肩甲骨を固定し,ストレステストを行い疼痛が消失ないし軽減したときは肩関節などの近位関節の影響と判断しています.

 日常生活では前腕回外位の肘屈曲動作より,物を拾うなどの前腕回内位の肘関節屈曲が多く観察されます.図1cのように前腕回内位の肘関節屈曲運動を評価し,肘関節屈曲運動時に手関節背屈運動がみられる場合は上腕筋の機能低下を疑い,上腕筋の徒手筋力検査を用いて評価を行います.このときも肩甲骨の固定で筋力の改善がみられれば,近位関節の評価も行います.

卒業論文のひろば

大学生のリュックサックの使用方法と腰痛について—質問紙調査結果からの示唆

著者: 德竹優花 ,   荒井卓巳 ,   小堺雅也 ,   坂上眞樹美 ,   新嶋廉 ,   村山明彦

ページ範囲:P.953 - P.956

要旨 本研究では,腰痛の発生機序について一定の知識を有する大学生のリュックサックの使用方法(知識と嗜好)を調査することで,今後の腰痛予防教育に有益となる知見を得ることを目的とした.群馬医療福祉大学(以下,本学)に在籍している理学療法専攻および作業療法専攻1〜3年生179名を対象とし,独自に作成した質問紙を用いて調査を行った.その結果,女性のほうが男性よりもリュックサック使用中に腰背部の痛みを感じていた.また,女性のほうが嗜好を重視する傾向がうかがえた.しかし,腰背部へのストレスが最も少ないと思われるリュックサックの使用方法の認識に関しては,女性のほうが高かった.本学の理学療法・作業療法学生(特に女性)においては,リュックサックの使用方法による身体への負担の差異を理解しているにもかかわらず,嗜好を優先する傾向がみられた.これらのことから,今後の腰痛予防を目的とした健康教育においては,予防の知識を深めるだけでは不十分である可能性が示唆された.

書評

—上杉雅之(監)/杉元雅晴,菅原 仁(編著)—「イラストでわかる物理療法」

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.919 - P.919

 本書は,医歯薬出版が発行している「イラストでわかるシリーズ」の1つ『イラストでわかる物理療法』である.通常,物理療法と称するなかには,水治療法,電気療法,などが含まれているが,本書はそれらを総称した名称である.これまでも物理療法の書籍は発行されているが,本書は主に学生や新人理学療法士を読者層としている.よって,第1章から15章で構成され,養成校の一学期の15回の授業に合わせて企画されている.本書では,総論,すべての物理的手段のエッセンス,定義と効果,治療目的,適応,禁忌,図を多用した具体的実施手順,症例,トピックス,先輩からのアドバイス,設問,そして病態生理の科学的基礎などが詳細に網羅されており,安全管理と疾患別物理療法の章もある.つまり,想像以上に複雑な物理療法の機序を特に初学者にはたいへん理解しやすく記述されている.

 理学療法(physiotherapy:英国,physical therapy:米国)の歴史的起源は,古代ギリシャのヒポクラテスやいわゆる東洋医学などの自然界の物理的エネルギーを活用していたことに由来している.前者のphysiotherapyはphysiology(生理学)の接頭語が用いられているが,これは一般的治療原則のうち理学療法にも含まれている「刺激・誘導・補助・情報」であり,生体の望ましい生理学反射,反応,行為,行動を得るためである.一方,physicalの意味は正しく物理的治療手段を表している.双方の目的自体に相違はないが,治療手段を問わず治療機序を表すphysiotherapyの名称は,現在の理学療法の内容に合致していると考える.

—町田志樹(著)—「町田志樹の聴いて覚える起始停止」

著者: 𠮷田一也

ページ範囲:P.945 - P.945

 本書の著者である町田氏は,専門職の養成校で学生教育に従事しながら,解剖学の卒後教育をコンセプトとした講習会「いまさら聞けない解剖学」をセラピスト向けに開催するなど多方面で活躍している.また,順天堂大学大学院医学研究科 解剖学・生体構造科学講座の協力研究員として解剖学領域の最新の知見にも精通する研究者でもある.そんな町田氏が執筆した本書は,これまでの卒前卒後教育の経験が集約した一冊と言える.

 本書を読んでまず感じたことは,学生教育をずっとされてきた先生のお人柄.これまでに筋の起始停止を解説した本にはみられなかった工夫や試みがされており,初学者でも理解しやすいと感じた.私が読んでいて感じた本書のお薦めするポイントを下記に3つ挙げる.

 ① 学生は国家試験対策に最適!セラピストにはミニ知識も楽しめる!

 ② スマホでリスニング動画も視聴できるので通学・通勤時にも便利!

 ③ 付録「支配神経別の筋の起始・停止・作用一覧表」はセラピスト好み!

--------------------

目次

ページ範囲:P.868 - P.868

文献抄録

ページ範囲:P.958 - P.959

次号予告

ページ範囲:P.877 - P.877

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.951 - P.951

読者の声

ページ範囲:P.957 - P.957

編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.962 - P.962

 全国的に梅雨が明け,猛暑日が続いています.第25回参議院議員通常選挙が終わり,理学療法士業界にとっては残念な結果となりましたが,新たな課題ややるべきことが明らかになりました.この経験をもとにさらなる一歩が踏み出せること期待しています.

 さて,理学療法ジャーナル第53巻9号をお届けします.本号の特集テーマは「栄養を学ぶ—学際と実際」です.この特集を読み終えて,思わず「う〜ん」と唸ってしまいました.本当に面白かったのです.そして認識を新たにしました.理学療法士の皆さんのなかには最近「リハビリテーション栄養」があまりに注目されているので,必要性は認識しながらも(理学療法士なので)若干苦手意識をもっていた方も少なくないと思います.何を隠そう私もその一人でした.理学療法士として,運動療法の専門家として,筋肉を動かすもととなる栄養についてあまりにも認識が足りませんでした.その一方で,各エキスパートの論文を読んでみると,面白いほどしっくりと理解できる内容が多く,感動しました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?