icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル54巻12号

2020年12月発行

雑誌目次

特集 歩行PART 2 運動器疾患と歩行指導

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1374 - P.1375

 前号「脳神経疾患と歩行」に続いて歩行を取り上げた.近年,理学療法士が予防活動にかかわる機会が増えたが,その対象の多くは複数の慢性的な運動器疾患をもつ高齢者であり,歩行指導は単に運動器疾患予防だけでなく,体力低下や転倒予防も加味する必要がある.本特集では,「歩行」をどのように指導するかについて目的別に整理し,主に慢性的な運動器疾患の異常歩行とその理学療法について具体的に解説する.

歩くことをどう教えるか?—目的に見合った歩行指導のために

著者: 石井慎一郎

ページ範囲:P.1376 - P.1382

Point

●歩行能力を維持,向上させるための指導として「上半身重心の配置の適正化」と「下肢の抗重力伸展活動の強化」は,疾患特性や患者の個別性によらない普遍的な要素である

●歩行に必要な機能の維持や改善が見込めない患者に歩行指導を行う場合には,実用的な代償方法を指導しなくてはならない

●環境や動作課題に適応的に歩行動作を変化させるための指導も,歩行を日常生活の移動手段として実用化するためには必要不可欠な指導である

歩行指導の基本と応用歩行

著者: 小玉裕治 ,   石田和宏

ページ範囲:P.1383 - P.1387

Point

●運動器疾患に対する歩行指導では,歩行時に生じる関節への負荷を評価し,軽減させるための指導を実施する

●応用歩行では通常歩行よりも関節への負荷が多く生じるため,適応を考慮して指導を実施する

●運動器疾患患者では歩行時に生じる関節への負荷を軽減させるために,杖などの歩行補助具の使用を推奨する

足部・足関節に起因する歩行障害の評価と治療

著者: 越野裕太

ページ範囲:P.1388 - P.1394

Point

●足部・足関節の傷害や解剖学的構造異常は歩行時の異常な足部・足関節運動の原因となる

●足部を単一の剛体ではなく多関節から構成されていることを考慮した評価と治療が必要である

●構造的および機能的な観点から評価・治療を行うことで,歩行障害の改善を図ることが必要である

膝関節に起因する歩行障害の評価と治療

著者: 赤坂清和

ページ範囲:P.1395 - P.1399

Point

●歩行に影響する膝関節のバイオメカニクス異常を分類し,その特徴と評価について理解しよう

●膝関節のバイオメカニクス異常に対する理学療法介入について理解し,実施できるようになろう

●変形性膝関節症のバイオメカニクス異常に関連するエビデンスについて理解しよう

股関節に起因する歩行障害の評価と治療

著者: 石羽圭 ,   永井聡

ページ範囲:P.1400 - P.1408

Point

●評価においては,疼痛と歩行動作の関係を見極めることが重要である

●関節変形の進行を抑えるためにもTrendelenburg徴候の改善をめざす

●蹴り出し脚と踏み出し脚の役割を交換したり,偏った左右差を修正したりすることでストレスの軽減を図る

体幹の運動器疾患に起因する歩行障害の評価と治療

著者: 藤本鎮也

ページ範囲:P.1409 - P.1418

Point

●腰部脊柱管狭窄症は退行変性による器質的狭窄に,姿勢,運動による機能的狭窄が加わることで症状が増悪する

●腰部脊柱管狭窄症患者の歩行においては,前遊脚期の腰椎伸展運動と荷重応答期の接床による衝撃が症状を増悪させる要因となり得る

●腰部脊柱管狭窄症患者に対する歩行練習においては,脊柱の安定化機能と下肢の衝撃吸収機能に対して段階的にアプローチすることが重要となる

運動器疾患をもつ高齢者の歩行指導

著者: 高橋浩平

ページ範囲:P.1419 - P.1426

Point

●運動器疾患をもつ高齢者は,栄養障害やサルコペニアを合併していることがある

●歩行指導をする際は,栄養状態とサルコペニアの有無も評価する

●栄養管理を併用することで,ウォーキングがより効果的となる

転倒・骨折予防のための歩行評価とアプローチ

著者: 神先秀人 ,   池添冬芽 ,   大津創

ページ範囲:P.1427 - P.1435

Point

●歩行中の転倒,骨折を防ぐには,各個人のもつリスク因子に合わせた,多角的アプローチやバランス,歩行,筋力などを含んだ複合的な運動トレーニングが有効である

●転倒中に生じる身体の回転により,骨折の危険性を少なくできる可能性がある

●歩行観察においては,重心の運動方向と速度を考慮に入れた評価視点も重要である

Close-up 理学療法士としての有意義な「同職種連携」

よりよい治療の質のために—理学療法士の院内同職種連携

著者: 中谷知生

ページ範囲:P.1437 - P.1440

はじめに

 日本理学療法士協会の統計資料1)では,2020年3月時点での会員数は125,372人,所属施設数は18,905施設となっている.そのうち理学療法士が31人以上所属する職場は528施設で施設数全体の割合では2.7%であるが,2017年の同統計2)と比較すると施設数全体の伸び率が13%増であるのに対し,16〜20人の職場が12%増,21〜30人の職場が31%増,31人以上の職場は44%増と,より多人数の理学療法士が所属する施設ほど高い増加率を示している.

 多人数の理学療法士の勤務先としては大学病院や一般病院が多く1),かつ回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)において多人数の理学療法士が所属する傾向にある3)ことからも,回復期病棟では経験年数の浅い理学療法士が多数勤務する傾向が強まっていることがわかる.こうした急激な量的拡大を背景に理学療法の質の低下を懸念する声が高まっており,施設内理学療法士の連携強化による治療の質の向上は喫緊の課題となっている.

シームレスな理学療法のために—病期を超えた同職種連携

著者: 徳久謙太郎

ページ範囲:P.1441 - P.1445

はじめに

 現在,本邦の医療提供体制は病院機能により高度急性期,急性期,回復期,慢性(生活・療養)期に分化しており,病期に合わせて(高度)急性期病院から地域包括ケア病棟,回復期リハビリテーション病院,老人保健施設などに転院することから,理学療法を実施する場所や担当者も変更する場合が多い.さらに生活期に入ると介護保険領域において,自宅での訪問リハビリテーションや通所リハビリテーション,介護予防や地域支援事業による通いの場などにて理学療法士がかかわることも多くなっている.対象者のリハビリテーションの進度に合わせてシームレスで最適な理学療法を提供するには,担当者間の情報提供内容が重要となる.本稿では経過報告書の調査による理学療法士間の情報提供の現況を検討し,各病期や院所間における情報提供にはどのような内容が含まれるべきかを検討する.

理学療法士を育てる—養成校と実習指導者の同職種連携/①養成校の視点から/②実習指導者の視点から

著者: 玉利誠 ,   小林賢

ページ範囲:P.1446 - P.1449

はじめに

 これまでの養成施設卒業時の到達目標と臨床実習の関係を振り返ると,養成施設卒業時の到達目標のミニマムは「基本的理学療法を独立して行えるレベル(臨床実習教育の手引き 第4版,2000年)」とされ,評価実習と総合臨床実習に多くの時間が割かれてきた.また,実習施設には養成校から1名の学生が配置され,学生は実習期間中に1〜2名の患者を担当し,その理学療法過程をレポートにまとめるというスタイルが広く行われてきた.

 しかしながら,そうした臨床実習教育のなかで,無資格である学生が単独で理学療法を行うことに関するコンプライアンスの問題や,患者の権利保護の問題,臨床実習指導者の権威的指導や学生のメンタルヘルスの問題などが指摘されるようになり,また,在院日数の短縮や複合疾患を有する患者の増加といった患者像の変化も加わり,従来の到達目標と臨床実習形態の見直しが求められるようになった.そのため,養成施設卒業時の到達目標のミニマムは「基本的理学療法をある程度の助言・指導のもとに行えるレベル(臨床実習教育の手引き 第5版,2007年)」に改められ,また,評価実習や総合臨床実習の前に見学実習や検査測定実習を実施するなど,早期から段階的に臨床経験を積ませる養成校も増え,養成校と臨床実習指導者が情報交換を行う臨床実習指導者会議や実習施設訪問も頻繁に行われるようになった.

連載 とびら

失敗から逃げない.初心にかえる.

著者: 和田陽介

ページ範囲:P.1371 - P.1371

 もし,「理学療法のすべて」という1,000ページの本があるとしたら,私はまだ10ページほどしか読んでいないのかもしれない.私は1998年に免許を取得した23年目の理学療法士である.これまで,臨床,教育,研究,運営とさまざまな経験をさせていただいてきたが,いつも,勉強するべきことの量の多さに圧倒されている.そもそも,冒頭の「理学療法のすべて」は,時代の変化とともに改訂版が出てくるので,この学びに終わりはない.山登りに例えると,頂上が見えてこないのに,ひたすら登り続けている感覚である.けれども,登っていると新たな景色に出会えて楽しい.その道のりで背負う荷物が重たいと感じるときもあるけれど,背負った分だけ達成感が湧いてくる.だから,この仕事が好きなのだ.

 本稿の執筆の機会をいただき,あらためて23年間の具体的なエピソードを振り返ってみた.思い出せることをすべて書くと,この雑誌1冊分になり,和田ジャーナルになってしまう.さすがに編集者の方に怒られそうなので,2つだけ記すことにする.若い頃(今も若いつもりだが),臨床で挫折しそうになった出来事である.

目で見てわかる 今日から生かせる感染対策・5

白衣の正しい洗浄法は?

著者: 森本ゆふ ,   高橋哲也

ページ範囲:P.1361 - P.1362

通常の洗濯では,白衣に付着した菌を洗い落とせず,乾かす過程で増やしてしまうことがあります.菌が増えることは衣類の臭いの原因ともなります.

脳画像から読み取る障害像と理学療法・24【最終回】

いろいろな脳画像と歩行

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.1363 - P.1368

Question

この脳画像を理解できますか?

内科疾患患者における理学療法介入に必要なアセスメント・Part 6【最終回】

がん・腫瘍疾患の理学療法介入に必要なフィジカルアセスメント

著者: 明﨑禎輝 ,   中田英二

ページ範囲:P.1454 - P.1456

はじめに

 現在,がん罹患者は増加しているものの,化学療法など治療の進歩で生存率が向上している.がんのリハビリテーションは,手術前後の介入だけでなく,化学療法・放射線治療による体力の低下・維持に対する介入も求められる.終末期の患者では,ADL向上によって満足度が高まる1).また,「がんロコモ」も注目され,リハビリテーションの必要性が広がっている.本稿では,進行がん患者を対象に,高額な機器を用いず実施可能なフィジカルアセスメントを述べる.

質的研究の魅力と可能性・第3回【最終回】

作業療法分野における質的研究の動向と可能性

著者: 佐川佳南枝

ページ範囲:P.1457 - P.1460

作業療法における質的研究の動向

 作業療法分野は理学療法と比べると質的研究はなされていると言えるのかもしれない.しかし作業療法の分野でも,研究と言えば量的研究が本流であるという目に見えぬ雰囲気は常々感じている.エビデンスレベルで比較されるならば質的研究者の肩身は狭い.学会での発表時間,論文の長さにしても量的研究を前提に規定されていることは否めないし,図や表でコンパクトに結果をまとめられる量的研究に対して,具体的にインタビュー内容などを引用する質的研究は紙面的制約に苦しむ.

 筆者が初めて質的研究を投稿したのは,今から20年前のことである.その当時は,査読も数量的方法論における評価概念で対応されることが多く,そうした誤解を一つひとつ丁寧に解いていく努力が必要であった.しかし,20年後の今では状況は大きく変わり,質的研究による投稿や学位論文も増加している.いったい,この間に何があったのだろうか.

理学療法士が知っておきたいヘルスケア産業・12【最終回】

進化する在宅介護用ベッド

著者: 小池清貴

ページ範囲:P.1453 - P.1453

 筆者はパラマウントベッド株式会社に勤務している理学療法士です.福祉用具は利用者の身体機能を補い,QOLを高めるのに役立ちます.福祉用具メーカーに所属する理学療法士として,さまざまな利用者の生活や動作を考えながら,福祉用具の有効な使い方を提案できるよう心掛けています.

 医療・介護用ベッドには,病気やけがなどをしている身体をしっかりと休められるだけでなく,身体機能が低下している方が,体を起こし離床することを補助することも求められます.また,治療・看護・介護にあたる方にとっては「ケアのしやすさ」も重要な視点となります.本稿では,当社からの最新の在宅介護用ベッド「楽匠プラスシリーズ(図)」の一部機能を理学療法士の視点から紹介します.最新のベッドの機能を知っていただくことで,ベッドの進化を感じていただけたら幸いです.

国試から読み解く・第12巻

X線写真とフローボリューム曲線を読み解く

著者: 正保哲

ページ範囲:P.1464 - P.1465

 75歳の男性.身長170cm,体重48kg,BMI 16.6.約10年前から呼吸困難が出現し自宅近くの医院で加療していた.徐々に呼吸困難感が増悪してきており,50m程度の連続歩行で呼吸困難感のため休息が必要である.動脈血ガス分析PaO2 65Torr,PaCO2 48Torr,肺機能検査%VC 81%,FEV1% 31%であった.患者の胸部エックス線写真を別に示す.

 予測されるフローボリューム曲線として最も適切なのはどれか.

臨床実習サブノート 運動器疾患の術後評価のポイント—これだけは押さえておこう!・9

腱板断裂

著者: 石川博明

ページ範囲:P.1466 - P.1471

はじめに

 手術適応となる代表的な肩関節疾患には,腱板断裂や反復性肩関節脱臼,投球障害肩(上方関節唇損傷)などがあります.そのなかでも腱板断裂は手術件数が比較的多く,実習生が接する機会も多々あります.術後理学療法の目標は,再断裂や脱臼,骨折などの術後合併症を予防し,関節可動域や筋力などの機能を回復させることです.まずは,疾患や手術に関する知識を整理し,予後や理学療法を行ううえでのリスクを把握します.理学療法は術式や主治医の方針に基づいて作成されたプログラムに沿って行いますが,疼痛の改善や機能回復がうまく進まない症例も少なくありません.術後評価ではこの原因を明らかにし,評価をもとに理学療法プログラムを修正していくことが良好な治療成績を得るための鍵となります.本稿では,疾患および手術の特徴,禁忌事項を整理するとともに,安全かつ効果的な理学療法を遂行するうえで必要な評価のポイントを解説します.

HOT NEWS【最終回】

令和3年度介護報酬改定の主な議論と今後の行方—理学療法を中心に

著者: 村松拓也

ページ範囲:P.1436 - P.1436

介護給付費分科会とは

 3年に一度行われる介護報酬改定に向けた議論をする場が,社会保障審議会介護給付費分科会(以下,介護給付費分科会)である.介護給付費分科会では医師や歯科医師,介護支援専門員などの医療・介護従事者,被保険者,市町村などのさまざまな団体の代表者や有識者が介護保険制度について議論し,それをもとに厚生労働省が介護報酬改定を行っていく.なお現在は,リハビリテーションに直接関連する職種は構成員に含まれていない.

甃のうへ・第77回【最終回】

明るいほうへ

著者: 信太奈美

ページ範囲:P.1452 - P.1452

 学生時代にバスケットボールを通じて理学療法という仕事と障害のある人のスポーツに出会った.その後の私の人生に大きくかかわることになる車いすバスケットボールを最初に見たときは,自分の行っているバスケットボールの面白さと,車いすと障害という異なる要素が加わった魅力的なスポーツに見えた.選手たちのような障害がある人,特に重い障害をもつ人のリハビリテーションにかかわりたいとリハビリテーションセンターを志した.センターに就職してからは,幸運にも多くの脊髄損傷を担当し,またセンターには医療体育科があったので,そこでさまざまな障害やスポーツに触れることができた.その頃の私は,車いすバスケットボールのコーチとしてステップアップしていた時期だったが,恵まれた環境のなかで全国障がい者スポーツ大会にも参加し,活動範囲を国内に広げていき,まさに障がい者スポーツがライフワークとなった.

 車いすバスケットボールの海外遠征や合宿などに帯同して視野が広がると,もっと障がい者スポーツにかかわりたいと感じ,また社会の理解が得られない場に遭遇すると,彼らの環境を改善したいという問題意識も高まった.前者は障がい者にスポーツを職業にできる人はほとんどいなかったので諦め,後者に対して何かできないかと大学院を探した.障がい者スポーツを専攻できる大学院はなかったが,進学した体育系大学院ではスポーツ文化や施策など,スポーツにかかわる多くの情報が得られ,何より貴重な人脈ができた.物事は希望どおりに進むことは多くないが,目の前にある選択肢のなかで少しでも好きなほうに寄っていった結果,予想しないよい結果を生んできたと私は思う.こうしてたどり着いたところが今の場所である.

Relay Message・第12回【最終回】

“寄り添う”

著者: 秋吉哉花

ページ範囲:P.1472 - P.1472

 私は学生時代に部活動での怪我を繰り返しており,自分の最大限のパフォーマンスができず,十分に練習できないもどかしさを経験していました.怪我をするうちに,自分でどうにか治せないか,怪我をしないような身体づくりはできないかということに興味が湧くようになりました.高校生のころ,自分のようにスポーツによって怪我をしたり,また病気で苦しんだりする人を手助けできる仕事はないかと探したところ,理学療法士の仕事をみつけ,めざすようになりました.

 理学療法士になって,患者さんの笑顔がみられる瞬間に一番やりがいを感じます.たとえ小さな変化でも,少しずつよくなりできることが増えていく,そのような瞬間に立ち会い,一緒に喜ぶことのできるこの環境にいられることをとても幸せに感じます.先日,自分の担当する患者さんが,怪我を乗り越えてまた楽しくスポーツをしている姿を見て,本当に嬉しく思い,感慨深い気持ちになりました.

症例報告

成人麻疹脳炎後に急性散在性脳脊髄炎,ギランバレー症候群を合併した症例の理学療法経験

著者: 野倉豊文 ,   岡田久 ,   鈴村賢一 ,   深谷孝紀 ,   平林宏之 ,   加納裕也 ,   湯浅浩之 ,   稲垣俊明

ページ範囲:P.1474 - P.1478

要旨 30歳台男性,麻疹脳炎と診断され集中治療が行われるなか,理学療法を開始した.さらに急性散在性脳脊髄炎とギランバレー症候群を合併した.人工呼吸器管理,完全四肢麻痺で意識障害が1か月以上遷延するなか,バイタルサインを確認しながら関節可動域練習,端座位練習へと進めた.血漿交換療法の効果もあり,徐々に意識水準と筋力の改善を認め,人工呼吸器を離脱できたが,疼痛が問題となった.離床方法の工夫や,チーム医療での疼痛の軽減を図りながら,筋力改善に合わせて装具,歩行補助具など選定し,歩行練習を行った.入院136日後には独歩見守りまで改善して転院した.

 成人麻疹脳炎後に急性散在性脳脊髄炎とギランバレー症候群を合併したという症例の理学療法の報告は,これまでにみられない.最重症時には完全四肢麻痺になったが,疾患の特徴を考慮した理学療法プログラムで歩行可能となるまで改善した.貴重な症例と考え,介入経過を考察を交えて報告する.

ひろば

老人と海—超高齢者の生きざま

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.1479 - P.1479

 『老人と海』(The Old Man and the Sea)は,アメリカの小説家アーネスト・ヘミングウェイの作品の1つで1952年に出版された.世界的なベストセラーとなり,1954年にヘミングウェイが受賞したノーベル文学賞の大きな根拠となった.その作品は2人の異なる俳優によって映画化されている.

 本小説は1950年代に始まったカストロ,ゲバラらによるキューバ革命以前より漁師として長年暮してきた,82歳のサンチャゴが主人公である.当時は社会保障制度も十分に整備されていなかった時代であり,80日以上もの不漁が続いていたため,身体機能が衰退していた彼は助手の少年も雇えず小船で単独1人漁に出た.ところが,あまりにも巨大なカジキが釣れたので,彼はそれを小船まで手繰り寄せ,ロープで小船の横に縛り付けて帰港する.だが,その途中に鮫の群れがカジキに襲いかかるのである.当然のこと彼はカジキを鮫に奪われまいと櫓で鮫と長い時間格闘するのだが,年老いた彼は力尽きてしまいカジキの骨だけが残るという物語である.

卒業論文のひろば

運動教室後の自主活動者の運動機能および認知機能の変化

著者: 伊藤里紗 ,   今岡真和

ページ範囲:P.1480 - P.1485

要旨 〔目的〕地域在住者を対象に運動教室終了後の自主活動の成果を反復測定し,運動および認知機能の改善について調査することを目的とした.〔対象および方法〕対象は3回の反復測定が可能であった60歳以上の地域在住者25名(男性3名,女性22名)とした.効果判定の指標は歩行速度,2ステップテスト,四肢骨格筋量指数,握力,Mini-Mental State Examination,Trail Making Test-A,基本属性とした.測定は事前検査を行い,3か月の運動教室を実施したのちに,事後検査を行い,それぞれの参加者による3か月の自主活動を継続実施したのち,追加検査を実施した.〔結果〕歩行速度および握力について事前検査と比較して事後検査では有意な改善がみられた(p<0.05).事後から追加の自主活動期間で改善した項目はなかった.〔結論〕専門職による運動教室は運動機能の改善効果が示唆されたが,自主的な活動における持続した運動機能改善はみられなかった.

書評

—石川 朗(総編集),佐竹將宏(責任編集)—「—15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト—装具学 第2版」

著者: 長倉裕二

ページ範囲:P.1451 - P.1451

 装具は疾患や病期においてエビデンス推奨グレードにおいて評価されていることもあり,理学療法の分野では介入手段として必須アイテムとなってきている.今回,『15レクチャーシリーズ理学療法テキスト 装具学』(中山書店)は第2版となり,ページ数も増加し,内容も充実してきている.

 第1版と比較して基本的な章立てなどは大きく変わっていないが,今までのモノクロではわかりにくかった画像やイラストをカラーに置き換えることによって詳細な構造を鮮明にしているところは,学修する学生にとっても科目担当者にとっても利用しやすいものとなっている.装具部品は現物を見てもどのように機能するのかわかりにくいものも多く,新しい装具が出る度に知識もアップデートしていかなければならないため,教科書を改訂する側として悩ましい部分でもある.しかし画像情報を詳細にすることで理解しやすくなると考える.また最近では国家試験でも実際の装具の画像を用いた問題もあることから,画像として理解することは重要であると考える.

—森若文雄(監修),内田 学(編集)—「姿勢から介入する摂食嚥下—パーキンソン病患者に対するトータルアプローチ」

著者: 山田実

ページ範囲:P.1463 - P.1463

 『長年,専門職として貢献できることを追求し,多職種連携の重要性や困難さを感じながら,摂食嚥下と向き合ってきたからこそ辿り着いた一冊』,私が本書を拝読させていただいた際の印象です.『姿勢』というコメディカルが介入可能な視点から,臨床現場で培った経験と学術的に裏打ちされた情報をもとに,パーキンソン病患者の摂食嚥下に対するアプローチについてまとめられています.また,臨床現場で観察されるさまざまな事象を単一ではなく,多職種による複数の側面より考察されており,多職種連携によって高められる相乗効果を実感できる内容となっています.著者らのもつ数多くの経験と数えきれない苦労がエッセンスとなり,表面的ではない奥深さを感じられる一冊です.

--------------------

目次

ページ範囲:P.1372 - P.1373

文献抄録

ページ範囲:P.1486 - P.1487

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1485 - P.1485

バックナンバー・次号予告のお知らせ

ページ範囲:P.1490 - P.1491

編集後記

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.1492 - P.1492

 今年はCOVID-19の影響により世界各地の社会・経済が大きく変化した年でした.その猛威は生活様式や仕事のスタイルを変え,オリンピックをも延期としました.そして私たちは,社会がいかに安寧であったか,日々がいかに自由であったかを思い知ることになります.あの緊急事態宣言から半年以上が過ぎ,3密回避が身について,WEB会議にもずいぶん慣れました.しかし,直接顔を合わせて議論・談笑した頃の心はもっと温かだったような気がするのです.

 特集は前号に続き「歩行」がテーマです.はじめの「歩くことをどう教えるか」では,運動器疾患の歩行指導に対する総論について,石井慎一郎先生がわかりやすく述べています.また,小玉裕治先生と石田和宏先生には歩行指導の基本について,現場に則した内容でお書きいただきました.部位別の歩行障害の評価と治療については,足部・足関節は越野祐太先生に,膝関節は赤坂清和先生に,股関節は石羽圭先生と永井聡先生に,体幹は藤本鎮也先生に解説していただき,いずれも臨床的な内容となっています.運動器疾患だけでなく呼吸・循環器疾患や慢性疾患,フレイルなどを併せ持つ高齢者については高橋浩平先生が幅広い視点で述べています.最後の「転倒・骨折予防のための歩行評価とアプローチ」では,神先秀人先生,池添冬芽先生,大津創先生から歩行時の転倒に着目して具体的に示していただきました.歩行や転倒予防を専門的に扱う職種は理学療法士だけであることを肝に銘じなければなりません.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?