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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル54巻4号

2020年04月発行

雑誌目次

特集 症例から考える脳幹病変へのアプローチ

EOI(essences of the issue) フリーアクセス

ページ範囲:P.370 - P.371

 脳幹は複雑ではあるものの高位によって核や神経路の部位はほぼ解明されている.しかし,病変による臨床現象が多岐にわたることから現象の理解や評価に難渋し,合理的な理学療法に結びつきにくい傾向がある.脳幹における特徴的な病変を取り上げ整理することによって,それらの問題をひもとく一助にする.

脳幹の基本的な機能解剖

著者: 内山靖

ページ範囲:P.372 - P.378

Point

●脳幹は,脳神経,神経核,上行・下行路が密集し,わずかな病巣の違いによって症状や回復過程が大きく異なる

●脳幹の病巣では,覚醒,随意運動・筋トーヌス,感覚,姿勢・歩行,自律神経,眼球運動などの多彩な症状が動作・活動に影響を与える

●効果的な理学療法を行うためには,対象者の症状・状態をつぶさに観察して,病巣による脳の局在機能とシステムの双方への影響を解釈した臨床推論を進める必要がある

中脳大脳脚出血

著者: 上野信吾 ,   岩佐彩美 ,   前田尚子 ,   河野寛一

ページ範囲:P.379 - P.386

Point

●視床出血の多くは,血腫が内包や視床下部,中脳など周辺へ進展する

●皮質橋小脳路損傷により小脳性認知情動症候群が認められることがある

●低周波を利用した促通反復療法が有効である

中脳・橋出血

著者: 廣谷和香

ページ範囲:P.387 - P.395

Point

●中脳・橋には上下行線維・脳神経核・小脳脚など複数の神経核・神経線維が混在しており,小さな損傷であっても多様な病態を呈するため,適切なアプローチの選択が必要となる

●多様な病態の把握には臨床症状に加えて,画像解釈を用いることで予測の一助となる

●小脳は感覚情報をもとにした運動や姿勢の制御と学習にかかわるため,小脳脚・鈎状束など大脳・脊髄と小脳の連絡線維の残存は機能改善をめざすうえで重要な役割をもつ

両側橋底尾側梗塞—運動失調,歩行障害を主徴とした一症例

著者: 岡本善敬

ページ範囲:P.396 - P.401

Point

●橋底尾側梗塞症例では明らかな片麻痺を呈さず運動失調を主徴とする場合がある

●橋底部には協調運動に関与する橋小脳線維が走行しており,障害されると運動失調を生じると考えられる

●橋梗塞は多様な症状を呈するが,画像読影と解剖学的理解を深めることで臨床症状をより一層理解することが可能である

橋背側出血

著者: 髙橋慎太郎 ,   志方淳

ページ範囲:P.402 - P.408

Point

●橋背側部の損傷によって大脳小脳神経回路,運動ループが障害され,感覚障害や運動失調が出現する可能性がある

●網様体損傷により両側に姿勢制御障害がみられる

●残存機能を利用した理学療法アプローチが有効である

Wallenberg症候群

著者: 脇坂成重 ,   高野碧 ,   藤田里奈 ,   久保田勝徳 ,   遠藤正英

ページ範囲:P.409 - P.416

Point

●Wallenberg症候群は,病変の拡がり方により症状の多様性を有するため,画像情報と神経学的所見の正確な評価が重要である

●脳画像や臨床徴候,症例の内省を総合的に捉え,lateropulsionの神経学的背景を解明していくことが重要である

●Lateropulsionを呈する症例へのリハビリテーションを進めていくうえで垂直位の再学習を図ることが重要である

視神経脊髄炎—脳幹まで病変が及んだ症例

著者: 吉井亮太 ,   櫛引かなえ

ページ範囲:P.417 - P.424

Point

●脳幹や脊髄が損傷された場合,臨床症状は多岐にわたり障害像が見えにくいことが多い.画像から障害部位や残存機能を推察することで,より精度の高い評価や理学療法アプローチが可能になる

●歩行には随意的な制御機構と自動的な制御機構があり,後者が破綻すると歩行の予後は不良であることが多い

●画像所見からの情報だけではなく,視神経脊髄炎特有の現象に注意しながら難易度を調整していく必要がある

脊髄小脳変性症・多系統萎縮症

著者: 板東杏太 ,   近藤夕騎 ,   有明陽佑

ページ範囲:P.425 - P.431

Point

●脊髄小脳変性症には,純粋小脳型と多系統型の2種類がある

●多系統萎縮症は,多系統型の代表例であり脳幹変性を伴う

●姿勢反射障害,自律神経症状は脳幹病変の症状で特徴的であり,十分に評価する必要がある

Close-up 病棟専従

ADL維持向上等体制加算算定病棟に専従する理学療法士の活動

著者: 安田耕平

ページ範囲:P.434 - P.438

概要と活動内容(図1)

 2014年,急性期病棟における療法士の専従配置に対して,ADL維持向上等体制加算が新設された.急性期のチーム診療として,病棟に専従し,従来のリハビリテーションに先行した評価を行い,理学療法の専門性が加味された2次的合併症予防などの病棟マネジメント活動が,成功報酬として公的に評価された.その後の診療報酬改定においても,増点や算定要件の緩和などが行われ,加算の普及が期待されている.

 急性期病院では,早期離床・早期退院の傾向が強く,さまざまな診療科の高齢入院患者のADL維持向上に対して,リハビリテーション部門の役割がさらに拡大してきている.公立昭和病院(以下,当院)も同様のニーズがあり,2015年から外科混合病棟で算定を開始したが,具体的方策については模索が必要であった.そこで,当院の実情を踏まえ,専従理学療法士のマネジメント活動として,公立昭和病院版病棟専従ADL維持向上プログラム[Showa General Hospital(SGH)版病棟専従プログラム]1)を作成した.2017年から消化器内科病棟でも算定を開始し,専従1名(専任3名登録)体制で活動している(図2).この日々の活動によって,在院日数短縮(専従前10.1日→専従後7.7日)と在宅復帰率向上(専従前92.5%→専従後98.2%)に効果を示し1),転倒転落対策では,多職種による情報共有を行いながら,急性期の患者特性に応じて個別性が高い予防指導や介入が毎日切れ目なく実現した2)

集中治療病棟に専任する理学療法士の活動

著者: 柴田涼

ページ範囲:P.439 - P.443

 集中治療病棟[以下,intensive care unit(ICU)]における早期リハビリテーションは,せん妄予防・人工呼吸器管理期間の短縮・退院時身体機能改善に有用1,2)とされている.聖隷浜松病院(以下,当院)ではICU専任理学療法士(以下,PT)を配置し,多職種連携をより密にする取り組みを行っている.また2018年度の診療報酬改定にて早期離床・リハビリテーション加算が新設されたことを受け,同年より心臓血管外科術後患者を対象に離床プロトコルの運用を開始し,多職種で早期離床の促進に取り組んでいる.本稿では専任PTの導入までの経緯と活動内容について,ICU病棟にかかわるPTを呼吸リハビリテーション班と心臓リハビリテーション班(表1)に分け報告する.

地域包括ケア病棟に専従する理学療法士の活動

著者: 木下めぐみ ,   四谷昌嗣

ページ範囲:P.444 - P.447

地域包括ケア病棟の目的と要件

 日本の65歳以上の高齢者人口は,現在3000万人を超えており,2042年の約3900万人でピークを迎え,その後も75歳以上の人口割合は増加し続けることが予測されている.このような状況のなか,団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025年以降は,国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれる.このため厚生労働省は,2025年をめどに,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的として,地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進している1).高齢者の介護という視点から生み出された「地域包括ケアシステム」における医療の役割は,地域のなかでいつまでも元気に暮らすためのツールの1つであり,できるだけ早期に的確な治療と支援を受けて退院することが望まれている.

 2014年度の診療報酬改定で,亜急性期入院料を算定する病棟の機能を拡張する目的で地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料が創設された2).地域包括ケア病棟(以下,包括病棟)は当初,① 急性期医療からの受け入れ(ポストアキュート機能),② 緊急時の受け入れ(サブアキュート機能・入院以前より生活支援が多い患者),③ 周辺機能の大きく3つの受け入れ経路(機能)から開始した.③ の周辺機能は,(1)周辺機能・緊急時と(2)周辺機能・その他の2つに分けられる.(1)は入院以前に生活支援が少ない患者の受け入れであり,(2)は化学療法や短期滞在手術基本料3,糖尿病教育入院や医療必要度の高いレスパイト入院が含まれる.このように,包括病棟は実に多機能と柔軟性を有する病棟であり,地域包括ケア病棟協会は使い勝手のよさを活かす運営を提唱している3).「地域包括ケアシステム」を支える急性期と回復期の両機能を兼ね備えた懐の広い病棟と言える.

連載 とびら

物まねの大切さ

著者: 塚田絵里子

ページ範囲:P.367 - P.367

 筆者は養成校の教員になって十数年経つが,近年の学生を見ていて気になっていることがある.それは,検査測定などの技術習得に苦労する学生が増えてきていることだ.手本を示してもうまくまねをすることができず,自身の身体の使い方が下手であるという印象である.筆者の学生時代とは違い,挿絵や写真,動画のある書籍が増えており,技術の勉強をする際には大変助けになると思われる.しかし,とある学生いわく,「だって写真とか絵とかは二次元じゃないですかー」だそうだ.絵や写真のとおりに身体を動かすことに困難さを覚える学生も多いようである.多人数を相手にする実技指導において,どのような方法がよいのかいまだ考えあぐねている.

 近年,他人の行動を見て模倣する際に働く細胞としてミラーニューロンが注目されている.多くの方がご存知のとおり,ミラーニューロンは「物まね細胞」とも呼ばれ,模倣学習のみならず,他人の表情などから感情を読み取り,共感を覚える際などにも働くとされている.技術指導に模倣学習は不可欠であり,このミラーニューロンの働きから,指導方法のよいヒントがないものか考えてみたい.

脳画像から読み取る障害像と理学療法・16

頭頂葉の皮質下出血により多様な症状がみられた症例

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.361 - P.365

Question

この脳画像からどのような障害像が読み取れますか?

はじめてのマネジメント学—できることから始めよう・Part 4

クオリティアシュアランス—その方策とは

著者: 佐藤房郎

ページ範囲:P.451 - P.455

クオリティアシュアランスとは

 本邦の医療安全への取り組みは,重大アクシデントが契機になり政策的に整備されてきた(表1)1).2002年の医療法施行規則の一部改正で初めて医療安全に関する要件が義務づけられ,2006年には,医療安全対策にかかわる専門の教育を受けた看護師,薬剤師などを医療安全管理者として配属(専従)している場合,医療安全対策加算が申請できるようになった.これは,医療安全対策の質を診療報酬に反映させたものである.

 さらに,2018年には医療安全対策地域連携加算が新設され,医療機関同士が医療安全対策についてピアレビューを行う制度が確立され,質の担保と標準化が図られるようになった.ピアレビューとは,医療従事者同士で医療サービスの妥当性を審査するもので,米国の医療機関にはピアレビュー機能をおくことが義務づけられている.

新しい臨床実習・第4回

臨床実習における教育学的アプローチ

著者: 小林賢

ページ範囲:P.457 - P.461

はじめに

 本邦では約20年ぶりに理学療法士作業療法士養成施設指定規則および指導ガイドラインが改正された.そのなかでも,とりわけ臨床実習に関する変更は重要な意味を持つものである.本稿では今後の臨床実習のあり方について,教育学の視点からみたアプローチ方法を概説する.

理学療法士が知っておきたいヘルスケア産業・4

簡易表面筋電計

著者: 鈴木里砂

ページ範囲:P.450 - P.450

 表面筋電計は,筋線維より生じる活動電位を計測するものである.本邦における筋電計の多くは,診断や研究目的で使用されていることが多く,一般の理学療法の臨床の場面や,予防理学療法において日常的に使用されることはほとんどない.

 図aはスマートフォンを利用した簡易筋電計1)(制作費1,500円程度/台)である.この筋電計は,インターネットなどで入手した部品を組み立て,工学的知識の少ない者でも容易に製作できる.図bは学生が簡易筋電計を製作している場面である.多くの学生が,この装置を30分程度で完成できた.このような簡易筋電計が,角度計や聴診器のように身近なツールとなれば,運動指導時の共通言語として筋電位情報を利用でき,関節角度や血圧,脈拍などと同様,健康増進のための運動やスポーツ指導など,さまざまな場面で筋電位の“みえる化”がなされ,定量的な運動指導の実施に活用できると予測される.

国試から読み解く・第4巻

人工股関節置換術後に注意すべき動作

著者: 福井勉

ページ範囲:P.462 - P.463

右人工股関節置換術(後方進入)後の患者の靴下の着脱動作として正しいのはどれか.

2つ選べ.

臨床実習サブノート 運動器疾患の術後評価のポイント—これだけは押さえておこう!・1【新連載】

変形性股関節症—人工股関節全置換術

著者: 白谷智子

ページ範囲:P.465 - P.471

はじめに

 変形性股関節症(以下,股関節症)は退行変性による長い経過のなかで,疼痛,脚長差,可動域制限や筋力低下を生じ,床上動作や靴下の着脱,爪切り動作などの日常生活活動に支障を来します.また,歩行では跛行を呈し,活動範囲が狭小化し,最終的には社会参加へも影響を及ぼすことになります.日常生活や社会生活への影響が大きい場合,人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)が適応となります.

 近年は在院日数の短縮により,THA術後早期より理学療法を行い退院できるように進める必要があり,できる限り術前評価を含めた術後評価ができることが重要です.

 本稿では,THA術後患者の評価で臨床実習生として最低限押さえておきたいポイントを解説します.

HOT NEWS

「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」にて,理学療法士の現行制度上実施可能な業務が示される

著者: 佐々木嘉光

ページ範囲:P.433 - P.433

 厚生労働省医政局は2019年10月23日に「第1回医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」を開催し,医療専門職種の法令等を改めて精査し,現行制度の下で可能な領域におけるタスク・シフティングを最大限に推進するための具体的検討を開始した.公益社団法人日本理学療法士協会は2019年7月17日に開催された「第2回医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」において,急性期病棟において標準的プロトコールによる医師の指示を認めること,リハビリテーション実施計画書等の書類業務に係る負担軽減,外来リハビリテーション患者に対する診察とカンファレンス業務の削減等の提案を行った.

 その後,2020年2月19日に行われた第6回検討会では,タスク・シフト/シェアを推進するために法令改正が必要な業務および現行制度上実施可能な業務が示された.このなかで職種にかかわりなく特に推進するもののうち,説明と同意,各種書類の下書き・仮作成(いずれも職種ごとの専門性に応じて実施)が可能な職種として理学療法士が明記された.また,理学療法士が現行制度上実施可能な業務は「リハビリテーションに関する各種書類の作成・説明・書類交付(リハビリテーション総合実施計画書,計画提供料に関わる書類,目標設定等支援・管理シート等)や非侵襲的検査の定型的な検査説明」が示され,「特に推奨する業務」として取り組むこととされている(表).

甃のうへ・第73回

置かれた場所で咲くということ

著者: 寒川美奈

ページ範囲:P.449 - P.449

 もともと私は,田舎の小学校の先生になりたかった.自然のなかで子どもたちと一緒に遊び,学びたいと思っていた.ところが大学入試の頃,スポーツでのケガをきっかけに引退する仲間を見ていて,ケガからの復帰をサポートしたいと思い,私の進路は変わった.

 大学時代の担任だった石橋朝子先生は,日本へ理学療法士が導入された頃に資格を取得され,呼吸理学療法では第一人者だった.とにかく情に厚く元気な先生で,いつも私たちに臨床への思いを語ってくれた.私たちが病院で働くようになってからも,毎年お正月は先生の自宅に招いてくださり,手料理とともに1人ひとりへお年玉を渡してくれた.亡くなる少し前,体調を崩された先生をお見舞いに行ったときは,ひと回り小さくなられた先生に力強く手を握られながら「私は子どもがいないけれど,あなたたちの頑張りをいつも自分の子のように嬉しく見てきたよ.これからもスポーツの分野でしっかりがんばりなさい」と言われたときのことを今でもしっかりと覚えている.

Relay Message・第4回

“楽らくボクシング”—楽しく取り組める運動療法

著者: 谷名英章

ページ範囲:P.472 - P.472

 “楽らくボクシング”,これは関西電力病院(以下,当院)で糖尿病教育入院患者さんに対する運動療法指導として実際に行っている運動です.運動療法指導は主にわれわれ理学療法士が担当していますが,これまでの自転車エルゴメーターやウォーキングなどの画一的な運動療法では患者さんにとって義務的あるいは強制的になりやすく,場合によっては精神的な負担が重くなっているのでは? と臨床で感じることが多々ありました.そこで,何か楽しんで取り組める運動はないかと考え,音楽を聴きながらリズミカルにボクシングのパンチ・ステップ・ディフェンス動作を取り入れた全身運動である“楽らくボクシング”を考案しました.

 “楽らくボクシング”の導入にあたり,事前に健常成人における“楽らくボクシング”実施時の酸素摂取量および消費エネルギーを呼気ガス分析装置により測定し,嫌気性代謝閾値レベル以下の運動強度で安全な運動として実施可能であることを確認しました.現在では,“楽らくボクシング”を糖尿病教育入院の週間プログラムの一つとして提供しており,患者さんに楽しみながら取り組んでもらえています.

症例報告

超音波治療を併用した上腕二頭筋長頭腱の滑走練習により肩関節下垂位外旋制限が改善した凍結肩の1例

著者: 寺山佳佑 ,   田村滋規 ,   正意敦士 ,   種継真輝 ,   小西喜子 ,   廣田哲也 ,   泊一輝 ,   安原遼太

ページ範囲:P.473 - P.477

要旨 本症例は,凍結肩により肩関節下垂位外旋が著明に制限されていた.さらに,前腕回内位肩関節下垂位外旋では,肩関節痛が増大し下垂位外旋の制限が強くなり,前腕回外位肩関節下垂位外旋では,肩関節痛が軽減し下垂位外旋が増大した.前腕の肢位を変えたことで肩関節下垂位外旋の可動域および疼痛が変化したため,上腕二頭筋長頭腱(long head of biceps tendon:LHBT)が関与していたと考える.超音波治療で上腕二頭筋長頭腱が走行する腱板疎部の深層を照射しながら上腕二頭筋長頭腱の滑走練習を実施した.このことにより,肩関節下垂位外旋時に制限されていた上腕二頭筋長頭腱の滑走運動が改善し,肩関節下垂位外旋時の上腕二頭筋長頭腱の緊張の高まりが緩和され,伸張痛が軽減し肩関節下垂位外旋の改善を得たと考える.肩関節下垂位外旋が制限された凍結肩に対し,超音波治療を併用した上腕二腕頭筋長頭腱の滑走練習を行うことは肩関節下垂位外旋制限に対し改善が期待できる.

資料

理学療法教育における学習理論

著者: 下井俊典

ページ範囲:P.478 - P.481

要旨 教育実践を考える際,教授方法などの方法論だけではなく,その背景にある学習理論の理解は必須である.学習理論の哲学的前提は行動主義(behaviorism,behaviourism)と構成主義(constructivism)に大別される.これら2つの立場の違いは,教授者-学習者間の活動と学習者の誤りの取り扱いで明確となる.ただし教育実践においては,これら2つの立場を二項対立的に扱うのではなく,互いに補完し合う学習サイクルとして,それらの相乗効果を期待することが肝要である.また,近年の医学教育で導入が進んでいる診療参加型臨床実習は,構成主義の1つである状況主義をその背景理論としている.このため,教師だけでなく,臨床実習指導者にも学習理論の理解が求められる.

学会印象記

—第24回日本基礎理学療法学会学術大会—最新の知見から臨床へのヒントを得る

著者: 上條史子

ページ範囲:P.448 - P.448

●最新の知見の把握

 第24回日本基礎理学療法学会学術大会が,「理学療法によるニューロモデュレーションの可能性」の大会テーマのもと,新潟の朱鷺メッセで開催された.近年,体外刺激から可逆的に神経活動や随意運動の制御を行う研究や,外的刺激が脳活動に与える影響に関する研究などが数多く行われている.数十年前とは分析機器,刺激機器は大きく異なり,新たに判明することも多くなっている.最新の知見を得て,臨床や研究に活かすためにも,学会参加は有意義なものとなるとあらためて感じることができた.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.368 - P.369

文献抄録 フリーアクセス

ページ範囲:P.482 - P.483

編集後記 フリーアクセス

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.488 - P.488

 読者の皆さまは変わらずにお過ごしでしょうか.現在流行している新型コロナウイルスは人間社会をかなり脅かしていますが,ヒトが地球上に生まれてこれまで,そしてこれからもヒトと感染症との戦いは避けられないものなのです.この戦いが完全になくなるという未来もあり得ないということでしょう.今回の流行が理学療法士たちの感染予防の意識づけにしっかりとつながることを期待しています.

 この度の騒動は新型コロナウイルスの正体がわからないことが一番の要因になっているわけですが,本特集で取り上げた「脳幹」の病変についてもよくわからないままで臨床活動がなされている傾向にあります.病態や現象をつぶさに観察して意味づけすることを放棄していては何も始まりません.卒前教育で学んでいなくても,脳の機能解剖をひもとけば目の前の病態を理解する糸口が見つかるはずです.途中で放棄せずに,しっかり考え抜きましょう.そのための道筋を示してほしいと内山氏に依頼しました.多くの助言も含めて懇切丁寧にまとめていただきました.そのうえで,7名の臨床家たちに提示していただいた症例を通した検討過程に触れてほしいと思います.それらの過程はすべてが正しいとは言えないかもしれませんが,それを含めて多くを読み取ってほしいと思います.果敢に挑戦していただいた皆さまに感謝いたします.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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