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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル55巻1号

2021年01月発行

雑誌目次

特集 高齢者の膝関節の痛み

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.6 - P.7

 高齢者の膝関節痛は日常生活を制限する原因になっている.また膝関節痛は変形性膝関節症や関節リウマチなどと疾患別に捉えられることが多いが,実際にはさまざまな原因が交絡し,1つの疾患として捉えることが困難な場合も多々みられる.この国民的課題とも言える高齢者の膝関節痛に対して,疫学,原因論,疼痛という観点から理学療法とのかかわりを紹介する.また理学療法はどの程度,疼痛に関して効果的なのだろうか.姿勢,変形性膝関節症,半月板,膝蓋大腿関節,関節周囲軟部組織とのかかわりを踏まえて解説する.

高齢者の膝関節痛の疫学

著者: 田中亮

ページ範囲:P.8 - P.18

Point

●疫学的な観点から,膝関節痛および変形性膝関節症(膝OA)の有病率の報告をまとめ,危険因子に関する最近のシステマティックレビューおよび観察研究の知見を示した

●医療経済学的な観点から,保存療法と手術療法に分けて,膝OAの治療にかかる医療費の例を試算し,費用対効果の研究を紹介した

●理学療法における高齢者の膝関節痛および膝OAの位置づけについて考察した

高齢者の膝関節痛の原因

著者: 中宿伸哉

ページ範囲:P.19 - P.25

Point

●高齢者における膝関節痛は,大きく関節内病変と関節外病変に分けて捉える

●筋から神経まで各々の解剖学的特性を考慮した評価を行うことが重要である

●疼痛が急激に出現し安静時痛や夜間痛を伴うものは,骨病変を疑うことも必要である

姿勢と膝関節痛

著者: 森健太郎 ,   原淳子

ページ範囲:P.26 - P.32

Point

●高齢者の変形性膝関節症と姿勢は相互に影響を及ぼし合っている

●脊柱の柔軟性低下や動きの改善は変形性膝関節症の予防や進行に有効である可能性がある

●臨床では唯一の「よい姿勢」があるわけではないことを念頭に置いて,諸家の姿勢分類を参考にしながら慎重なアプローチが望まれる

高齢者の慢性疼痛の特徴

著者: 西上智彦 ,   鳴尾彰人

ページ範囲:P.33 - P.36

Point

●高齢者と非高齢者の痛み感覚が異なる可能性がある

●慢性疼痛を有する高齢者の疼痛には多面的な視点が必要である

●疼痛に対する介入目的は,活動的な生活を維持することである

高齢者の膝関節痛と変形性膝関節症

著者: 井野拓実 ,   寒川美奈 ,   石田知也

ページ範囲:P.37 - P.47

Point

●疼痛は「生物心理社会モデル」に基づき捉えることが重要である

●変形性膝関節症(膝OA)の疼痛は,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,非特異的疼痛,さらには中枢性感作など多様な側面を含む病態である

●膝OAの疼痛に対する治療として,身体機能面的な改善のみに固執することなく,さまざまな要因のマネジメントが重要である

高齢者の膝関節痛と半月板損傷

著者: 木村佳記 ,   前達雄 ,   中田研 ,   小柳磨毅

ページ範囲:P.48 - P.54

Point

●高齢者の半月板損傷には,半月板の変性を背景とするものがあり,内側半月板の水平断裂や後根断裂,外側円板状半月板変性断裂などの損傷が多い

●半月板の変性損傷には,変形性膝関節症が併存して,その症状が混在することも多いため,症例ごとに病態を十分に検討し,膝関節痛の原因を考える

●保存療法は,受傷初期には消炎鎮痛,運動量の調整および動作指導を行い,回復期には損傷部への過負荷を回避しながら柔軟性,関節可動域,筋力および荷重下の下肢アライメント制御を回復する

高齢者の膝関節痛と膝蓋大腿関節

著者: 野尻圭悟

ページ範囲:P.55 - P.61

Point

●膝蓋-大腿関節の評価は,内側大腿-脛骨関節・外側大腿-脛骨関節の運動の特性を理解することが必要である

●変形性膝関節の患者に特徴的な大腿-脛骨関節の動きと膝蓋骨との関係性を理解する

●股関節・足部との関係性を理解することで,適正な膝蓋骨を伴うエクスセンターメカニズムの再建を行うことが変形性膝関節の治療に重要である

高齢者の膝関節痛と膝周囲軟部組織

著者: 赤羽根良和

ページ範囲:P.62 - P.68

Point

●高齢者の膝関節痛では,関節外の軟部組織が起因となることがある

●膝関節痛の病態解釈においては,解剖と機能解剖の知識が基本軸となる

●運動療法と自習運動は,適切に病態解釈することで実現できる

Close-up 非侵襲的脳刺激 NIBS

TMS 経頭蓋磁気刺激

著者: 久保仁 ,   角田亘

ページ範囲:P.70 - P.74

はじめに

 非侵襲的脳刺激(non-invasive brain stimulation:NIBS)は,脳機能を非侵襲的に促進・抑制できる点が特徴である.これを利用することで脳の可塑性を高める介入が可能となる.

tDCS 経頭蓋直流電気刺激

著者: 山口智史 ,   松田雅弘 ,   藤原俊之

ページ範囲:P.75 - P.79

はじめに

 経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)は,頭皮上に貼付した刺激電極から1〜2mA程度の微弱な直流電流を3分から30分程度通電することで,頭蓋内の脳皮質の神経活動を高めるもしくは低下させることができる1).この特性を利用して脳活動を変調することで,中枢神経疾患後の運動機能や感覚機能,認知機能などのリハビリテーションの効果を促進することが期待されている.

 現在,tDCSの効果を明らかにするための基礎的および臨床的研究が世界中で盛んに行われている.本稿では,これまで明らかになってきた知見からtDCSの効果メカニズム,適応と禁忌,臨床応用の可能性について解説する.

GVS 電気前庭刺激

著者: 松木明好

ページ範囲:P.80 - P.82

電気前庭刺激(GVS)とは

 電気前庭刺激(galvanic vestibular stimulation:GVS)とは,両側もしくは片側乳様突起上に刺激用電極を貼付して通電する(図a)ことで,前庭一次神経における発火頻度を極性依存的に変化させ,身体運動,眼球運動,頭部変位知覚等を誘発するものである1).これまで矩形波や正弦波,ノイズを付加した波形パターンなどの適用が報告されている(図b).

 最も代表的な波形パターンである矩形波刺激は,強度0.5〜4mA程度の微弱かつ,100ミリ秒程度のごく短時間の通電でも閉眼立位者の身体を陽極方向に,かつ頭部方向依存的に動揺させることができる(図c).これは,陰極方向への頭部運動で生じる前庭からの信号に対する応答として解釈されている1)

連載 とびら

ご縁に導かれて

著者: 平元奈津子

ページ範囲:P.3 - P.3

 大学教員15年目,ウィメンズヘルス理学療法を専門として,研究や教育に日々努めながら,日本理学療法士学会ウィメンズヘルス・メンズヘルス理学療法部門の運営に携わっています.ここに至るまで,本当に多くの方によいご縁をいただいたことを思い出していきたいと思います.

 大学受験では理学療法士について知らず,ただ地元の大学,医療職になる新しい学科,受験科目に苦手科目が含まれなかったという理由で,広島大学に進学しました.日本の理学療法士教育において,最初の4年制大学である広島大学の理学療法学専攻3期生として入学した私たち学生に対して,ある先生に「皆さんには,将来の理学療法士教育を担う教員になってほしい」と言われたことは,はっきりと覚えています.理学療法士の職業を知らず進学した私にとって,このお話により,将来教員になりたいという大きな光の道筋が示されました.

目で見てわかる 今日から生かせる感染対策・6

院内感染の原因となる微生物

著者: 森本ゆふ ,   高橋哲也

ページ範囲:P.1 - P.2

Question 1. 院内感染はさまざまな微生物によってもたらされます.下の写真はなかでも代表的な菌です.それぞれ何の菌でしょう?

再考します 臨床の素朴な疑問・第1回【新連載】

服の上から聴診してはダメ? 血圧を測定してはダメ?

著者: 森雄司

ページ範囲:P.84 - P.85

 理学療法士は,診療業務において血圧測定,聴診,触診などバイタルサインの測定やフィジカルアセスメントの際に,患者の肌に触れる機会が多い.日本人の文化的特徴として,人前で肌をさらすことに対して抵抗があることは周知の事実である.

 橋本ら1)は,女性患者の身体診察の抵抗感についての調査を実施しており,医師の診察においても腹部,胸部の診察には20〜30%の患者が,抵抗があると回答している.そのため,聴診をする際に服の上から実施する,血圧測定を実施する際に服の上から,または袖をまくり上げて測定する.このような行為は臨床で散見されるが,実際には正しく評価や測定ができていないとされている.本稿ではその根拠を再考し,解説していく.

診療参加型臨床実習・第1回【新連載】

なぜ,診療参加型臨床実習が切望されるのか?

著者: 内山靖

ページ範囲:P.86 - P.92

診療参加型臨床実習を取り巻く現状

 理学療法界において,診療参加型臨床実習に高い関心がもたれたのは,一部の教育関係者を除けば,令和2(2020)年4月から施行された理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則(以下,指定規則)の改正にある.

 理学療法士作業療法士養成施設指導ガイドラインでは,臨床実習に関する事項として,「評価実習と総合臨床実習については,実習生が診療チームの一員として加わり,臨床実習指導者の指導・監督の下で行う診療参加型臨床実習が望ましいこと」が明記された.これに関連し,臨床実習における実習時間以外における学修などの時間,実習指導者の要件,臨床実習前後の評価,チームの一員として求められる基礎能力(人間関係,コミュニケーション,栄養,薬理,画像,医療・介護保険制度の理解など)の拡充が盛り込まれている.改正の趣旨には,地域包括ケアをはじめとする理学療法の役割の変化を踏まえた社会が求める専門職の育成,教育の質の向上,学習環境の改善が挙げられる(図1).

国試から読み解く・第13巻

下腿三頭筋の筋活動を機能から理解しよう

著者: 福井勉

ページ範囲:P.94 - P.95

健常成人の平地歩行時の下肢筋活動を図に示す.

下腿三頭筋の筋活動に相当するのはどれか.

臨床実習サブノート 運動器疾患の術後評価のポイント—これだけは押さえておこう!・10

橈骨遠位端骨折

著者: 萬谷尚大

ページ範囲:P.96 - P.101

はじめに

 橈骨遠位端骨折は臨床上多く経験する骨折の1つです.青壮年ではスポーツや事故といった比較的高エネルギー損傷で生じるのに対して,骨粗鬆症を基盤にもつ高齢者には最も頻度の高い骨折であり,転倒して手をつくなどの容易な外力で生じる低エネルギー損傷であることが多いです.同じ部位の骨折ですが世代によって治療法や手術の適応,治療成績も異なってきます.

 本稿では橈骨遠位端骨折術後患者の評価で臨床実習を行ううえで,最低限押さえておきたいポイントを紹介していきます.

私のターニングポイント・第13回

人間万事塞翁が馬

著者: 長谷川正哉

ページ範囲:P.83 - P.83

 まず,私は順風満帆,意気揚々と進む健全な理学療法士ではありません.むしろ,理学療法士としての22年を振り返ると,停滞し悶々と過ごした日々こそがターニングポイントだったと感じます.

 最初のターニングポイントは,実習中にスーパーバイザー(SV)から「臨床に向いていない」と告げられたことから始まります.その指摘に妙に納得させられる部分があり,自身の適性について思い悩む日々が続きました.また,臨床向きではないという評価から病院就職に対する不安が募り,ひとまず進学して2年間の猶予期間を設けるという逃げの選択をしました.進学後も適性についてはわからないままでしたが,その期間に取得した学位や研究の経験が幸いし,後に教員の道を拓く礎となりました.もしSVの指摘がなければ,あるいはその指摘に立ち止まって悶々としていなければ,現在の私はいなかっただろうと思います.

報告

歩行における下腿三頭筋の筋電図積分値とwavelet周波数パワーの差異

著者: 妹尾祐太 ,   井上優 ,   戸田晴貴 ,   加藤浩

ページ範囲:P.102 - P.108

要旨 【目的】歩行中の下腿三頭筋の筋活動量と運動単位動員の特徴を明らかにすること.【方法】健常若年男性16名の腓腹筋内側頭(medial head of gastrocnemius:MG),外側頭(lateral head of gastrocnemius:LG),ヒラメ筋(soleus:SOL)を対象に,自然歩行の表面筋電図を記録し,筋電図積分値に加えて,wavelet変換を用いて周波数パワーを求め,最大等尺性収縮時のそれらで正規化した.そして3筋の%IEMG(integrated electromyography)および低・中・高周波数帯域における%パワーを歩行周期の各相で比較した.【結果】%IEMGは,3筋とも歩行周期31〜40%でピークとなる先行研究と同様のパターンを示した.%パワーは,歩行周期11〜30%の低・中周波数帯域でMGとSOLはLGより有意に高値を示した.歩行周期91〜100%の低周波数帯域で,SOLがMG,LGより有意に高値を示した.【結論】Mid stanceにおいてMGとSOLの遅筋・速筋線維の両方の運動単位が優位に動員される.また,%IEMGでは3筋の差や明らかな活動の変化がみられなかった荷重直前のterminal swingから,SOLの遅筋線維の運動単位が優位に動員される.

脊柱後彎高齢者における腸腰筋トレーニングが脊柱後彎ならびに身体機能・能力に及ぼす効果

著者: 佐藤佑樹 ,   佐々木誠 ,   大沢真志郎

ページ範囲:P.109 - P.114

要旨 【目的】脊柱後彎高齢者における腸腰筋トレーニングは脊柱後彎の改善に有効であるか,また,身体機能や脊柱アライメント,身体能力への影響を検討することである.【対象】20名の脊柱後彎高齢女性.【方法】身体機能として股関節屈曲筋力を測定した.脊柱アライメントはSpinal Mouse(IdiagAG社製)を使用し,全脊椎傾斜角,胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角を計測した.身体能力は,30秒椅子立ち上がりテスト,10m歩行試験,Timed Up and Go Testを評価した.トレーニングはセラバンドを使用した股関節屈曲運動を4週間実施した.【結果】トレーニングにより股関節屈曲筋力の増加が認められた.脊柱アライメントは4項目すべてにおいてトレーニング前後で変化が生じ,各種パフォーマンスでも向上がみられた.また,腰椎前彎角の変化は仙骨傾斜角,歩行速度,歩行率の変化との間に相関が認められた.股関節屈曲筋力の増加は歩行速度,歩行率の変化との間に相関が認められた.【結語】腸腰筋トレーニングは股関節屈曲筋力を増大させ脊柱後彎の改善や身体機能・能力の向上に有効であり,股関節屈曲筋力の向上と腰椎の前彎方向への変化は歩行速度・歩行率の向上につながると考えられた.

卒業論文のひろば

ダブルケアの支援につなげるための意識調査—食事介助に着目した検討

著者: 山田彩 ,   渡邉麻由 ,   村山明彦

ページ範囲:P.115 - P.117

要旨 近年,晩産化・少子化・高齢化が同時進行し,子育てと親の介護を同時期に行う状態(以下,ダブルケア)の増加が社会問題となっている.しかし,同分野の先行研究は非常に少ない.本研究の目的は,ダブルケアを行う人たちへの支援につなげるための実践への示唆を得ることである.子育て経験の有無にかかわらず特別養護老人ホームに勤務する看護・介護職員を対象とし,独自に作成した質問紙を用いた調査を行った.その結果,育児の経験がある者からは,育児と介護の相互作用を肯定するような回答が得られた.また,育児の経験がなくとも,認知症介護の経験があることで,育児と介護の相互作用を肯定するような見解につながる可能性が示唆された.

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目次

ページ範囲:P.4 - P.5

文献抄録

ページ範囲:P.118 - P.119

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.32 - P.32

バックナンバー・次号予告のお知らせ

ページ範囲:P.122 - P.123

編集後記

著者: 福井勉

ページ範囲:P.124 - P.124

 新型コロナウイルスに対する世の中の動向を見ていくうちに,あらためて情報の重要性を感じます.重要な情報はどこにあるのか,ある程度自分の五感で感じ取らなければなりません.メディアの情報が異なるなかで,研ぎ澄ました感覚によって自分の行動をとっていくにはどのようにしたらよいのかを考えさせられています.

 本号の特集テーマは,「高齢者の膝関節の痛み」です.卓越した執筆陣による論文をぜひご覧いただきたいと思います.高齢者の膝の疼痛については読者のほとんどの方が何らかの形で接したことがあると思われます.田中論文では,疫学的に変形性膝関節症の有病率を中心に述べていただきました.中宿論文では,膝関節痛に対して解剖学的特性を考慮した評価の重要性が述べられています.また森論文では高齢者の姿勢分類についてのポイントをお示しいただきました.また高齢者の慢性疼痛には多面的視点が必要なことを西上論文から,さらに井野論文からは身体機能面だけを見てはいけないことをご教示いただきました.木村論文からは,高齢者の半月損傷に対するポイントを,膝蓋大腿関節と下肢全体のかかわりについては野尻論文から,また赤羽根論文からは関節外軟部組織の関与について貴重な情報をいただくことができました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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