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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル55巻10号

2021年10月発行

雑誌目次

特集 タッチ—触れることと触れられること

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1052 - P.1053

 岩村吉晃先生の名著『タッチ』(医学書院,2001)の「序」には,この書籍の表題を体性感覚ではなくタッチとした理由について,アリストテレス時代の触覚の定義は曖昧であり,その顰に倣って幅広い内容,例えばアクティブタッチや内臓感覚を含むためであると言及されている.今回,「タッチ」として特集を組むにあたってさまざまな角度からの情報,成果,展望を取り込んで構成しようと考え,気鋭の先生方に論述していただいた.皆様の探求心の琴線に「触れる」ことができれば幸いである.

触れることと触れられること—動くことの意味

著者: 樋口貴広 ,   渡邉諒

ページ範囲:P.1054 - P.1060

Point

●触れること(能動的触知覚,アクティブタッチ)は運動指令情報が貢献するという点で,受動的触知覚とは異なる作用で成立する

●触れる対象に対する事前の推測(質量推測)が運動指令に反映されるため,運動指令には必然的に,対象物の重量感など,触知覚に利用可能な推測情報が包含される

●ダイナミックタッチの概念では,能動的触知覚とは探索行為によって物体と身体との関係に変化を起こし,変化のなかでも不変な物体の性質を抽出することと捉える

理学療法士のタッチと癒し効果

著者: 山口創

ページ範囲:P.1061 - P.1066

Point

●看護師のタッチはリラクセーションや癒しを目的とし,理学療法士のタッチは身体機能の改善を目的とすることが多い

●「間主観的」にタッチすることで,自律神経や運動神経が同調し,疼痛やストレスの緩和効果が得られる

●適切なタッチにより患者のオキシトシン分泌が促され,ストレス緩和やリラックス,疼痛緩和,免疫活性などの効果がある

体性感覚情報処理と脳活動

著者: 大西秀明

ページ範囲:P.1067 - P.1072

Point

●脳磁図や機能的MRI,非侵襲的脳刺激法は,脳機能を解明するための有用なツールである

●体性感覚刺激時には,一次体性感覚野や二次体性感覚野だけでなく,後頭頂皮質や小脳など,非常に多くの皮質領域が活動する

●動的な触圧覚刺激を識別する際には,中側頭回V5野の活動が増大する

VR空間におけるタッチ

著者: 河合隆史

ページ範囲:P.1073 - P.1077

Point

●ラバーハンド錯覚とVR空間におけるクロスモーダルの活用

●VR空間で触れる:視覚情報による触覚情報の補完

●VR空間で触れられる:視触覚情報のずれと触運動錯覚

痛みとタッチ

著者: 内藤卓也 ,   平川善之

ページ範囲:P.1078 - P.1083

Point

●痛みを抱える患者の多角的な評価に基づき状態を把握したうえでのタッチは,患者に安心感を与え,癒しにつながる“手当て”となり得る

●痛みには感覚的・情動的・認知的要素が関与しており,こうした要因を包括的な評価に基づき理解したうえでタッチを行う必要がある

●広範性の痛覚過敏には中枢性感作,末梢性感作,身体認識能力の低下がかかわっている可能性がある

ライトタッチと姿勢・歩行バランス

著者: 新井智之 ,   山崎雄一郎

ページ範囲:P.1084 - P.1090

Point

●ライトタッチは,体性感覚情報に基づく姿勢制御であり,年齢や障害にかかわらず,身体動揺を減少させる効果がある

●ライトタッチは,下肢筋活動をあまり減少させることなく,安定性を高める効果があり,バランス能力を高める介入手段として有用である

●肩の高さでのinterpersonal touchは,身体動揺を最も減少させることが示されており,臨床場面でも患者の歩行介助に応用できる

タクティール®ケアから学ぶタッチ—終末期リハビリテーションに可能な緩和ケア

著者: 神谷万波

ページ範囲:P.1091 - P.1097

Point

●緩和ケアという言葉は,痛みや苦痛を伴うがん終末期を指していたが,近年では認知症や慢性疾患,加齢や障害により自立を保てなくなった非がん患者の人たちにも使われる言葉であり,がん患者と同じように緩和ケアを必要としている

●触れることで痛みや気持ちのつらさを軽減することができる手技がある

動作誘導とタッチ

著者: 冨田昌夫

ページ範囲:P.1098 - P.1107

Point

●不安や自信を喪失したときの緊張・バランス戦略の選択

●情動・報酬系の重さ

●つかず離れず一緒に動く

Close-up 転倒予防に活かすバランス評価

ベッドサイドで行う転倒予防に活かすバランス評価

著者: 中嶋俊祐

ページ範囲:P.1111 - P.1115

転倒予防に活かすバランス評価

 バランス能力の低下は,転倒を引き起こす主要な身体的要因の1つである.そもそも,ヒトを特徴づける二足立位姿勢は,重心位置が高い一方で支持基底面が小さいという構造的な不安定さを有する.それでも,ヒトは環境に適応しながら生活の場を拡大するために必要なバランス能力を獲得してきた.だからこそ,脳卒中などの疾病によってこのバランス能力がいったん損なわれると,転倒リスクはとたんに高まる.この場合,手すりにつかまるなどの手段によって転倒を回避しようとすることが多いが,本稿のテーマであるベッドサイドでは,必ずしも十分な支持物が存在せず転倒リスクの低減は難しい.このような環境であっても転倒を予防しながら自立度を高め,生活範囲の拡大をめざすためには,二足立位姿勢における十分なバランス能力が必要であり,その評価・治療に対して理学療法士が果たすべき役割は大きい.

 転倒予防におけるバランス能力の評価には,Berg Balance ScaleやTimed Up and Go Testなどの評価バッテリーが用いられ,転倒リスクとの関係性が検討されている1,2).一方で,急性期のベッドサイドでは,全身状態の変化や安静度による制限,評価を行うこと自体による転倒リスクから,実際にはこれらの評価バッテリーを十分に活用できることは少なく,むしろ,治療を行うなかで患者の運動課題に対する反応を観察・触診することでバランス能力の評価を行うことが多い.

施設内での転倒予防に活かすバランス評価

著者: 松下信郎 ,   田中直次郎 ,   福江亮 ,   松四健太 ,   岡本隆嗣

ページ範囲:P.1116 - P.1120

はじめに

 転倒のリスク因子は内的要因と外的要因に大別され,内的要因には筋力低下などの身体機能や注意機能といった認知機能が含まれ,外的要因には障害物や滑りやすい床面などの環境要因が含まれる.バランスは内的要因の1つであり,転倒危険因子のなかで相対危険度は高い1)

 バランスの定義について望月2)は「バランス」と「バランス能力」を分けて検討しており,観察される姿勢や動作の安定性を「バランス」,バランスを担っている身体機能の総称を「バランス能力」として区別して用いている.国際生活機能分類(International Classification of Functioning,Disability and Health:ICF)では,バランス能力は心身機能・身体構造の要素で,バランスは活動状況を修飾する要因に相当すると考えることができる3).臨床上大切なことは,バランス能力にはいくつかの機能が関与し,さらに同じバランス能力であっても,課題の難易度や動作を実行する環境によってバランスは変化する点である.そのため1つの評価や1つの場面のみでバランス障害を捉えることは難しく,複数の評価指標や複数の場面を組み合わせながら評価を行うことが必要となる.

 回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)の役割は急性疾患を安定させ,慢性疾患を制御しつつ,機能障害の改善,ADLの向上,家庭復帰を目的とした集中的なリハビリテーションを実施することである4).回復期病棟では,地域,急性期病棟,施設などと比較して,最も高率に転倒が発生しており5),その背景には患者の身体能力や活動性の変化が関係してくる.転倒リスクを減らしながら活動性を高めていくためには,適切に動作の安定性(バランス)を評価し,適切な時期に自立の判断を行うことが重要となる.

 本稿では,転倒予防の視点から当院回復期病棟でのバランス評価や動作の自立に向けた取り組みについて紹介する.

在宅生活での転倒予防に活かすバランス評価

著者: 小暮英輔

ページ範囲:P.1121 - P.1124

はじめに

 本邦における要介護高齢者は増加傾向1)であり,訪問リハビリテーションを必要としている者も年々増えている.介護を必要としている要因として転倒が18.7%1)を占める.訪問リハビリテーションの対象となる要介護高齢者を対象にした調査では,転倒率が25.3%であり,そのうち骨折した者は9.7%と報告されている2).このように,転倒により骨折を受傷しさらなる心身機能低下を引き起こす可能性があることから,在宅における転倒予防に活かすためのバランス評価は重要と考える.

 東京消防庁3)によると高齢者の転倒発生場所は,居間・寝室,玄関・勝手口,廊下・縁側・通路,トイレ・洗面,台所・ダイニングの順に多いと言われている.転倒要因はさまざまな要因が複合して生じており,バランス能力などの身体的要因のほかに認知機能,服薬状況4)も影響するので生活動作の自立基準について明確に述べるのは難しい.また,在宅における訪問リハビリテーションは,1回40〜60分であることが多く,週1〜2回の頻度であるため,短時間かつ簡便にバランス,動作観察,環境設定についての評価が必要となる.本稿では,筆者が訪問リハビリテーションで使用しているバランス評価,それを補う環境設定について述べる.

連載 とびら

「職域拡大」に向けて

著者: 林雄史

ページ範囲:P.1049 - P.1049

 私は日本赤十字社の救急法講習の指導員として活動しています.心肺蘇生をはじめとした救急処置を,一般の方々にお伝えしています.指導員になった経緯は,個人的なスポーツ活動において,私が理学療法士であると知られるや否や,大会などイベントの際には必ずといっていいほど,救護係などの役割を依頼されたことです.一般の方々は,医療職種である理学療法士は医療行為全般に長けているという過分な期待をもっているのだなと感じました.

 一般病院に勤務する私の業務において,スポーツ現場で起き得るような緊急事態に対応した経験はほぼありません.ましてやそれに即応できるスキルも持ち合わせていません.このことを,当院に非常勤で来られていた救急センターの医師にぼやいたところ,「できることは多くあると思いますよ」とすすめられたのが,赤十字救急法の講習会です.さっそくこれを受講したのですが,なるほど一般の方々が期待しているであろうことの,一通りのスキルを習得できました.

再考します 臨床の素朴な疑問・第10回

パーカッションに痰を移動させる効果はない? 人工呼吸器装着中に呼吸介助をしてはいけない?

著者: 瀬崎学

ページ範囲:P.1126 - P.1127

呼吸理学療法における手技を整理してみよう

 従来呼吸理学療法においては,軽打法(いわゆるパーカッション)や呼吸介助といった種々の呼吸理学療法手技が行われている.しかし,同じ方法を行っているにもかかわらず,異なる呼称で呼ばれていたり,適応が明確にならないまま実施されていたりと,一部その整合性・有効性に疑問を呈されることもあった.

 そのため,2008年に呼吸理学療法手技の用語・方法を再定義しその適応を提示するために『呼吸理学療法標準手技』1)が刊行された.2021年現在においても呼吸理学療法の手技に鑑みる際,礎となる書であるので,臨床場面においてもぜひ活用してほしい.

診療参加型臨床実習・第10回

診療参加型臨床実習の取り組みの現状と展望—介護老人保健施設/通所・デイケア

著者: 石田悦二 ,   竹野恭平 ,   松井一人

ページ範囲:P.1128 - P.1131

介護老人保健施設

はじめに

 2020年の理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則の改正により,臨床実習の形態も明確に診療参加型実習が推奨されることとなった.本稿では,筆者が勤務する介護老人保健施設での取り組みを紹介し振り返るとともに,今後の展望について考える.

国試から読み解く・第22巻

三次元歩行分析装置の評価

著者: 福井勉

ページ範囲:P.1134 - P.1135

 反射マーカを用いた三次元歩行分析装置で評価が最も困難なのはどれか.

臨床実習サブノート 診療参加型臨床実習—「ただ見ているだけ」にならないように!・7

超高齢者

著者: 江渕貴裕

ページ範囲:P.1136 - P.1140

はじめに

 平均寿命が84.3歳1)と世界一の長寿国である日本では,当然のことながらリハビリテーションの対象となる方にも多くの高齢者が含まれています.高齢者には表12)に示す特徴があります.それに加えて,健康な状態と要介護状態の中間の状態を意味するフレイルや,加齢により筋肉量が減少し,筋力や身体機能が低下した状態を意味するサルコペニアは,入院・転倒・ADL障害・死亡のリスク増加,QOLの低下などに関与する3,4)とされ,患者さんの全体像を把握するうえでも押さえておきたいポイントです.基本的には「フレイルだから入院しましょう」ということはありません.つまり,肺炎で入院した患者さんも,骨折や脳梗塞で入院した患者さんも,すべての患者さんに対してフレイルやサルコペニアを評価し,予防・改善を行う必要があると言えます.また,対象者のなかにはフレイルではなく,すでに要介護状態の方も多いため,それぞれに合わせた対応が求められます.

私のターニングポイント・第22回

在宅サービスに必要なこと

著者: 亀谷真久

ページ範囲:P.1133 - P.1133

 私は理学療法士の免許をもち,個人事業主として主に訪問の分野にて,診療や臨床指導,および経営や運営のサポート業務を行っています.ご縁をいただき,首都圏から地方までさまざまな地域で働く機会を得て,多様な地域特性や,資源の違う環境のなかでの在宅サービスを経験でき,やりがいを感じています.

 免許取得時から訪問分野での勤務を希望していた私は,「環境を問わず機能回復アプローチができるように」と8年間の病院勤務にて知識や徒手の技術を研鑽し,高い技術を利用者様に提供することこそ最高のサービスだと信じて実践していました.ありがたいことに,喜んでくださる多くの利用者様に恵まれ訪問業務に自信をつけてきた頃,ある利用者様と出会う機会を得ました.

原著

大腿骨頸部/転子部骨折術後における急性期リハビリテーションの費用対効用

著者: 近藤千雅 ,   八木麻衣子 ,   川崎一泰 ,   西山昌秀 ,   田口さやか ,   鈴木智裕 ,   仁木久照

ページ範囲:P.1141 - P.1146

要旨 【目的】大腿骨頸部/転子部骨折術後の急性期リハビリテーションの費用対効用の検討.【方法】大腿骨頸部/転子部骨折術後症例67名(平均76.7±11.2歳)について,診療録より患者背景,診療状況,医療費,人件費,設備費を調査した.また介入時と術後1週ごとに,健康関連QOLをEuro-QOL 5 Dimensionsで評価し,リハビリテーションによる増分質調整生存年(quality-adjusted life years:QALY)と増分費用を求め,増分費用対効用比(incremental cost-utility ratio:ICUR)を算出した.【結果】増分QALYは0.03,増分費用は14.6万円,ICURは464万円/QALYとなった.【結論】医療経済学的に有用とされるICURは約500〜600万円であり,本モデルでは急性期リハビリテーションの費用対効用が認められた.

報告

夜間痛を合併した拘縮期の肩関節周囲炎における臨床的特徴

著者: 赤羽根良和 ,   竹中裕

ページ範囲:P.1147 - P.1152

要旨 【目的】拘縮肩に続発した夜間痛の程度と臨床的特徴を検証するため,非夜間痛群,夜間痛軽度群,夜間痛重度群の3群間に分類し検討した.【方法】対象は肩関節周囲炎150例150肩である.肩甲上腕関節の位置関係は肩関節X線像からacromion humeral interval(AHI),humeral head diameter(HHD),AHI/HHD比,glenoid humeral angle(GHA)を測定し,肩関節可動域は屈曲,外旋,内旋角度を測定し,それぞれを比較した.【結果】AHI,HHD,AHI/HHD比は3群間で有意差を認めなかった.GHAは非夜間痛群と比較して夜間痛軽度群,夜間痛重度群が有意に大きく(p<0.01,p<0.01),夜間痛軽度群と比較して夜間痛重度群が有意に大きかった(p<0.01).肩関節の屈曲角度は非夜間痛群,夜間痛軽度群と比較して夜間痛重度群が有意に小さかった(p<0.01,p<0.01).外旋・内旋角度は非夜間痛群と比較して夜間痛軽度群,夜間痛重度群が有意に小さく(p<0.01,p<0.01),夜間痛軽度群と比較して夜間痛重度群が有意に小さかった(p<0.01).【結語】拘縮肩は夜間痛の程度に応じて肩甲上腕関節の位置異常や可動域制限が顕著となる.

症例報告

クリーゼを呈したLambert-Eaton筋無力症候群に対し,理学療法を介入した一例

著者: 大熊遼太郎 ,   大森まいこ ,   立石貴之 ,   櫛田幸 ,   朝倉めぐみ ,   佐々木優 ,   齋藤真希子 ,   二宮智子 ,   渡辺裕樹 ,   林伸一 ,   佐藤将樹 ,   石橋康伸 ,   石川晴美

ページ範囲:P.1153 - P.1157

要旨 今回,重症化し人工呼吸器管理となったLambert-Eaton筋無力症候群合併のsmall cell lung carcinoma(SCLC)症例に対する理学療法を経験した.症例は下肢脱力感,歩行困難を主訴に入院,その後,筋力低下は急速に進行,呼吸状態は悪化し93日間の長期人工呼吸器管理を要した.理学療法介入を早期より行い,人工呼吸器管理中にも多職種と協働のうえ,離床(端座位,起立,車椅子)を継続した.有害事象により化学療法は中断され,筋力にも変化を認めずADL全介助の状態であったが,車椅子乗車への離床は継続した.人工呼吸器離脱後,3, 4-diaminopyridineが開始され,それを契機に筋力は著明に改善した.機能変化は急速であり,筋力やADL評価,プログラムの再編を細目にわたり行った.ADL改善に伴い現病治療は再開し,第262病日にADL自立,杖歩行自立で退院となった.長期入院のなかで病態の変化が激しい症例であり,その都度,適切な理学療法を多職種と交えて迅速に行えたことが,原病治療,ADL改善に寄与できたと考えた.

書評

—武藤芳照(著)—「スポーツ医学を志す君たちへ」

著者: 金岡恒治

ページ範囲:P.1108 - P.1108

 武藤芳照先生の100冊目の著作である本書は,“正しく普遍の理念を実践するべく社会で行動し続けている人”である武藤先生の一つの節目であり,本書にはこれまで先生が実践されてきたことの総てが整然とまとめられている.本書を評することは先生の人生を評することにも等しく,私にはおこがましく感じるとともに,光栄に感じている.

 自分がスポーツ医学を志した研修医のときから一貫して武藤先生から学んできたことは,“スポーツの世界に医学を応用してスポーツ人の健康を守る,スポーツ現場の安全を守る,スポーツの健全さを守る”こと.さらに“医学の世界にスポーツを応用して,運動器の機能低下や障害を予防する”ことで,スポーツ界と医学界の両方から認められるようにならなくてはならない,ということであった.これはまさにスポーツ医学がめざすところであり,私を含め多くの関係者が実践に勤しんでいる.

—手塚純一,増田 司(著)—「神経システムがわかれば脳卒中リハ戦略が決まる」

著者: 松田雅弘

ページ範囲:P.1125 - P.1125

 脳は「ブラックボックス」でいまだ解明されていない点が多い.学生時代にこう教わってから20年近くが経過した.1990年代よりCTやMRIによる画像診断が普及し,非侵襲的に脳内の変化を確認できるようになった.また,1996年にはNudoらの発見によって,脳の可塑性が明らかになった.脳を中心とした神経システムに障害が生じると,神経の再組織化が起きるという事実から,ニューロリハビリテーションの考え方が急速に広まった.

 一方,私たちが提供するリハビリテーション戦略に,大きな変化はあったのであろうか? 脳の神経システムに関する知見は,神経科学の発展とともに急増している.それは,私たちセラピストも脳画像を確認し,そこから得られた情報をもとにリハ戦略を再考し,より効果的なアプローチを提供することが可能になったと言える.

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目次

ページ範囲:P.1050 - P.1051

文献抄録

ページ範囲:P.1158 - P.1159

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1115 - P.1115

バックナンバー・次号予告のお知らせ

ページ範囲:P.1162 - P.1163

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.1164 - P.1164

 「手当」という言葉は,昨今の状況では休業要請に対する金銭的補填のことを思い起こす方も多いでしょうが,古来より信仰的,治療的な行為を指していたことは周知のことと思います.文字通り患部に手を当てることが痛みを緩和することはよく知られていますが,そのことにとどまらず,手を当てること,すなわち触れることの意味は多彩で奥深いと思われます.そこで本号の特集は「タッチ—触れることと触れられること」とし,心理学,生理学,工学,医学などの幅広い領域からの興味深い論文が掲載されています.

 例えば「触れることと触れられること—動くことの意味(樋口・他論文)」では,ダイナミックタッチの意義について解説していただき,「理学療法士のタッチと癒し効果(山口論文)」 では,疼痛やストレス緩和における「間主観的タッチ」について紹介されています.さらに「体性感覚情報処理と脳活動(大西論文)」では,動的触圧覚の識別に関する脳活動を述べていただき,「VR空間におけるタッチ(河合論文)」では,VR空間におけるさまざまな感覚システムの最新知見を解説していただきました.このほか臨床的視点から「痛みとタッチ(内藤・他論文)」,「ライトタッチと姿勢・歩行バランス(新井・他論文)」,「タクティール®ケアから学ぶタッチ(神谷論文)」,「動作誘導とタッチ(冨田論文)」というラインアップとなっています.どれも大変な力作であり,ぜひ手にとってこれらの論文を味わっていただきたいと思います.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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