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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル55巻10号

2021年10月発行

文献概要

Close-up 転倒予防に活かすバランス評価

施設内での転倒予防に活かすバランス評価

著者: 松下信郎1 田中直次郎1 福江亮1 松四健太1 岡本隆嗣1

所属機関: 1西広島リハビリテーション病院

ページ範囲:P.1116 - P.1120

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はじめに

 転倒のリスク因子は内的要因と外的要因に大別され,内的要因には筋力低下などの身体機能や注意機能といった認知機能が含まれ,外的要因には障害物や滑りやすい床面などの環境要因が含まれる.バランスは内的要因の1つであり,転倒危険因子のなかで相対危険度は高い1)

 バランスの定義について望月2)は「バランス」と「バランス能力」を分けて検討しており,観察される姿勢や動作の安定性を「バランス」,バランスを担っている身体機能の総称を「バランス能力」として区別して用いている.国際生活機能分類(International Classification of Functioning,Disability and Health:ICF)では,バランス能力は心身機能・身体構造の要素で,バランスは活動状況を修飾する要因に相当すると考えることができる3).臨床上大切なことは,バランス能力にはいくつかの機能が関与し,さらに同じバランス能力であっても,課題の難易度や動作を実行する環境によってバランスは変化する点である.そのため1つの評価や1つの場面のみでバランス障害を捉えることは難しく,複数の評価指標や複数の場面を組み合わせながら評価を行うことが必要となる.

 回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)の役割は急性疾患を安定させ,慢性疾患を制御しつつ,機能障害の改善,ADLの向上,家庭復帰を目的とした集中的なリハビリテーションを実施することである4).回復期病棟では,地域,急性期病棟,施設などと比較して,最も高率に転倒が発生しており5),その背景には患者の身体能力や活動性の変化が関係してくる.転倒リスクを減らしながら活動性を高めていくためには,適切に動作の安定性(バランス)を評価し,適切な時期に自立の判断を行うことが重要となる.

 本稿では,転倒予防の視点から当院回復期病棟でのバランス評価や動作の自立に向けた取り組みについて紹介する.

参考文献

1)Tinetti ME et al:The patient who falls:“It's always a trade-off”. JAMA 2010;303:258-266
2)望月 久:神経系理学療法領域におけるバランスの捉え方の今日的解釈.PTジャーナル2018;52:791-800
3)望月 久:バランスの評価と理学療法.中部リハ雑誌2010;5:5-11
4)日本リハビリテーション病院・施設協会,他(編):回復期リハビリテーション病棟,第2版—質の向上と医療連携を目指して.pp9-11,三輪書店,2010
5)大高洋平(編).回復期リハビリテーションの実践戦略—活動と転倒.pp1-2,医歯薬出版,2016
)による回復期リハビリテーション病棟の情報共有および臨床活用.MB Med Reha 2018;219:57-68
7)福江 亮,他:回復期リハビリテーション病棟における転倒予防患者安全委員会を中心とした取り組み.日転倒予会誌2017;4:11-21
8)Shumway-Cook A, et al:Predicting the probability for falls in community-dwelling older adults. Phys Ther 1997;77:812-819
9)Shumway-Cook A, et al:Predicting the probability for falls in community-dwelling older adults using the Timed Up & Go Test. Phys Ther 2000;80:896-903
10)松四健太,他:歩行自立カットオフ値を下回った回復期リハビリテーション病棟入院の脳卒中初発患者の歩行自立判断の検討.回復期リハビリテーション病棟協会第29回研究大会in広島抄録集,2017
11)藤野雄次(編):そのとき理学療法士はこう考える—事例で学ぶ臨床プロセスの導きかた.pp 48-49,医学書院,2017
12)Housdorff JM, et al:Gait variability and fall risk in community-living older adults:a 1-year prospective study. Arch Phys Med Rehabil 2001;82:1050-1056
13)小林吉之:特集転倒予防の新しい視点 転倒リスクが高い者の歩行特徴とその知見に基づく判別技術の開発,および当該分野の今後の展望.Jpn J Rehabil Med 2018;55:915-920
14)鈴木みずえ,他:在宅高齢者への転倒・転落予防介入—効果的な転倒・転落予防介入と予防評価.EB NURS 2001;2:3-42
15)宮川 健,他:水平外乱時の姿勢制御に関するバイオメカニクス的研究—高齢者と若年者の姿勢保持動作の比較.川崎医療福祉学会誌2020;29:341-347
16)松四健太,他:健常者に対するステップバランストレーナーを使用してのバランス反応の評価.回復期リハビリテーション病棟協会第33回研究大会in舞浜・千葉抄録集,2019

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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