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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル55巻11号

2021年11月発行

雑誌目次

特集 パーキンソン病の最新知見と効果的な理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1170 - P.1171

 パーキンソン病の本邦での有病率は1.0〜1.8人/千人とされているが,60歳以上では100人に約1人とも言われている.治療には薬物療法,手術療法および非薬物療法として運動療法を含めたリハビリテーションアプローチがあり,診療ガイドラインの改訂,デバイスを用いた治療方法の開発などがなされてきている.理学療法では軽症の段階から終末期に至るまでの特徴を知り,治療に沿った継続的な関与が必要となる.本特集では,パーキンソン病治療に関する最新知見とともに病期や治療方法を考慮した理学療法について述べていただいた.

パーキンソン病の最新治療

著者: 波田野琢 ,   服部信孝

ページ範囲:P.1172 - P.1181

Point

●パーキンソン病の薬物治療の中心はL-ドパ製剤である

●ドパミン受容体作動薬はL-ドパ製剤と比較して安定したドパミン刺激をするが,衝動制御障害,睡眠障害,精神症状の副作用に注意が必要である

●進行期パーキンソン病で経口治療が困難な場合,デバイスを用いた治療(脳深部刺激療法,L-ドパ持続経腸療法など)が症状緩和に役立つ

パーキンソン病の運動症状と非運動症状

著者: 川崎一史 ,   山元敏正

ページ範囲:P.1182 - P.1191

Point

●パーキンソン病の運動症状には無動,静止時振戦,筋強剛,姿勢保持障害,姿勢異常,すくみ現象などがある

●パーキンソン病の非運動症状として,睡眠障害,精神・認知・行動障害,自律神経障害,感覚障害などがある

●パーキンソン病の運動合併症にはウェアリングオフとジスキネジア(異常運動)がある

パーキンソン病Hoehn and Yahr重症度分類Ⅰ〜Ⅳの理学療法

著者: 牧野諒平

ページ範囲:P.1192 - P.1199

Point

●パーキンソン病患者への運動療法は効果的であり,進行予防の観点からも重要である

●運動症状,非運動症状などさまざまな症状があり,病気の進行に対応した介入が重要である

●歩行補助具や環境調整により,パーキンソン病患者の生活の質を改善する可能性がある

パーキンソン病Hoehn and Yahr重症度分類Ⅴの理学療法

著者: 坂野康介

ページ範囲:P.1200 - P.1206

Point

●Hoehn and Yahr重症度分類Ⅴの患者に対する理学療法の目的は,生命機能維持,褥瘡予防,拘縮予防である

●理学療法は,褥瘡や拘縮予防の情報提供,姿勢調節,呼吸練習,起居動作戦略の強化,介護方法指導などが行われる

●理学療法独自の役割や多職種による共通の役割を理解することは,効果的な組み合わせ戦略となる

パーキンソン病患者の生活指導・環境整備と転倒予防

著者: 北野晃祐 ,   古川晃大

ページ範囲:P.1207 - P.1212

Point

●パーキンソン病に対する転倒予防は,病期や病状を理解したうえで生活指導や環境調整を行うことが重要である

●発症早期からの運動は,正しい方法と頻度の理解を促し,生活環境に沿った習慣化を目標に指導する

●転倒予防は,福祉用具の導入や視覚刺激の強調が有効であり,継続的な社会参加を目標に環境を整備する

Topics

パーキンソン病に対する反復経頭蓋磁気刺激治療と理学療法

著者: 松﨑英章 ,   髙橋真紀

ページ範囲:P.1213 - P.1214

1.rTMS治療の原理

 反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)治療は,非侵襲的な脳刺激でありながらも神経可塑性に基づく変化をもたらす新たな治療法として注目されている.TMSは,頭皮上に置いたコイル内へ高い電流を急速に流すことによって生じる磁場が起こす渦電流を用いて,直下の大脳皮質を刺激する方法である.rTMSは,このTMSを一定のリズムで反復することによって刺激終了後も長期的に持続する効果が得られる治療法である1,2)

パーキンソン病に対する脳深部刺激療法と理学療法

著者: 土山裕之 ,   高尾和孝 ,   坂井登志高 ,   旭雄士 ,   池田清延

ページ範囲:P.1215 - P.1217

1.パーキンソン病に対する脳深部刺激療法

 パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は,脳内のドーパミン減少により振戦・強剛・動作緩慢・姿勢保持障害などを来す神経疾患である.PDに対し早期より内服治療が行われるが,進行期になると内服治療を行ってもウェアリングオフ現象,オン-オフ現象,ジスキネジア,腰曲がりなどの症状が出現してくる.脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)は,脳内に電極を挿入し電気刺激をすることでPDの運動症状を軽減させる治療法である.

 本邦ではPDの運動障害に対してDBSが2000年に保険適用となり,当院では2015年1月〜2021年5月までの間に進行期PD患者に対してDBSを81例に施行している.また,術前評価や刺激装置交換,刺激調整などで多数のPD患者の入院を受け入れている.PDに対するリハビリテーションは早期からの介入が必要であり1,2),DBS施行後もリハビリテーションの継続が重要である.

パーキンソン病の嚥下障害と理学療法

著者: 内田学

ページ範囲:P.1218 - P.1221

はじめに

 パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)の嚥下障害の特徴はPD患者の50〜90%に存在し1),罹病期間とも相関せず2),Hoehn and Yahr重症度分類などの運動症状と必ずしも関連しない3).自覚症状も少なくsilent aspirationが多いことが報告されている4).そのため,体重減少や肺炎,脱水の発症により初めて摂食嚥下障害が発見されることがある5)

 PDの平均寿命は,一般の高齢者と比して差は認めず天寿を全うする病気と認識されているが,PDの死因として多くを占めているのは誤嚥性肺炎と窒息である6).疾患特有の身体症状に対しては多くのリハビリテーションが展開されており一定の効果を示している.しかし,死因に直結する摂食・嚥下機能に対する介入に関してはチーム医療の体制が形成されていない施設が多い.PDにおける摂食・嚥下障害は,口腔顔面に限局したものではなく,疾患の進行に伴い変容する全身の構造的変化・呼吸機能障害に付随して障害が出現するものである.したがって,われわれも摂食・嚥下障害をoutcomeにした嚥下理学療法としての役割を明確に示す必要がある.

パーキンソン病患者に対するLSVT®プログラムの紹介

著者: 岩井隆比古

ページ範囲:P.1222 - P.1225

はじめに

 パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)における運動療法は現在に至るまでさまざまなエビデンスが得られている.活動依存的な神経可塑性を活性化する運動療法の基本原理が確認され,運動療法によってPD症状の進行を遅らせ得ることが実証されたのである1〜3)

 「パーキンソン病診療ガイドライン2011」においても運動療法が身体機能,健康関連QOL,筋力,バランス,歩行速度の改善に有効であることが示されている4).また改訂版にあたる「パーキンソン病治療ガイドライン2018」では有効性が報告されているエクササイズが種類に富むことが紹介されている4,5).本稿ではその多様なアプローチのなかからLSVT®(Lee Silverman Voice Treatment),特に四肢運動系に対応するLSVT®BIGについて述べる.

Close-up デジタル化する理学療法

デジタルヘルスと理学療法

著者: 高橋哲也 ,   松田雅弘 ,   森沢知之 ,   齊藤正和 ,   鍵山暢之 ,   葛西隆敏 ,   藤原俊之 ,   代田浩之

ページ範囲:P.1228 - P.1236

はじめに

 人工知能(artificial intelligence:AI)や仮想現実(virtual reality:VR),スマートウォッチ,スマートトラッカー,スマートグラスなどのウェアラブルデバイス,スマートフォンアプリなどを医療に応用した「医療のデジタル化」が止まらない.さまざまなセンサー技術やデジタル技術が進歩し,以前では考えられないほど正確に,そして簡便に生体情報を収集することができるようになった.そして,それらを利用した遠隔医療や遠隔理学療法が急速に広がっている.

 わが国では,医師法,医療法や薬機法などが複雑に整備されていることから,そのような最新技術を既存の医療インフラに組み込みにくい点では,アナログな理学療法技術はとって代わられないとの意見もある.しかしデジタル化の波は想像以上に強く,大きく,コスト高の医療従事者は,デジタルに代替されていく可能性も否定できない.理学療法分野においても,遠隔運動指導,自動姿勢解析,運動療法メニューの提供など,新しい技術やサービスが広がっている.その範囲はあまりに広く,すべてを網羅することはできないが,筆者が行っている最近の取り組みを含めて,理学療法が関係するデジタルヘルスについて解説する.

VRリハビリテーション—特性と臨床応用

著者: 安田和弘 ,   加藤史洋 ,   佐武陸史 ,   岩田浩康

ページ範囲:P.1237 - P.1242

はじめに

 医療や介護の現場にもバーチャルリアリティ(virtual reality:VR)技術の導入が進みつつある.

 現在のVRの原型はアメリカ航空宇宙局(NASA)のエイムズ研究所で1980年代に開発されたワークステーション(VIEW)と名づけられたプロジェクトが起点と言われている1).近年では,頭部搭載型ディスプレイ(head mounted display:HMD)が安価に手に入るようになり,VR技術を用いたアミューズメント体験や研究を行うことが容易になった.また,民生用のHMDでもヒトの視野角程度の画角が呈示できるものが登場しており,VR装置を用いることで臨場感の高い視覚体験を容易に得ることが可能になってきた.

 このような技術革新が進むなかで,セラピストはVRを臨床導入することに関して,原理や特性,臨床知見などに対してさまざまな関心をもっていることが予想される.そこで本稿では,VRの定義,一般的に使用される装置を概観しつつ,VRの重要な特徴である「臨場感」や「身体所有感」などについて触れる.また,この技術や原理を用いた実際のリハビリテーションへの適応例についても紹介したい.VRは,家庭用ゲーム機やスマートフォンによる簡易VR視聴装置など没入感の高い体験手法が“VR”として一般に普及してきた経緯があるため,本稿に限っては「没入型ディスプレイ(immersive virtual reality)」をVRと呼称することにする.

理学療法教育のデジタル化—オンライン授業とLearning Management Systemの活用

著者: 門馬博

ページ範囲:P.1244 - P.1247

外的要因による急激な変革

 2019年末に端を発した新型コロナウイルス感染症のパンデミックは理学療法士養成教育に非常に大きな影響をもたらした.2020年,学生や教員は臨床実習はおろか学校に通うことすらできないなかで卒前教育を進めることを強いられることとなり,これまでの理学療法士養成教育において存在しなかった「代替実習」という言葉はこの年の大きなトピックになった.

 未曽有の感染症流行という状況下でいかに教育を継続するか.何年もの間なかなか動かなかった教育のデジタル化の波は,パンデミックという予想だにしなかった外的要因に急激に推し進められたと言える.この状況は海外でも同様であり,The World Physiotherapy COVID-19 education task forceが開催したウェビナー(アーカイブ視聴可能)においても各国での対応の様子がさまざま語られていた1)

特別寄稿

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第5波までを経験して—理学療法士の役割とリスク管理について考える

著者: 北原エリ子 ,   山崎優太 ,   亀山啓博 ,   望月正道 ,   高橋哲也 ,   藤原俊之

ページ範囲:P.1249 - P.1255

はじめに

 2020年4月より新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)患者に対するリハビリテーションを開始し,第5波の2021年8月までに入院患者194名に対する理学療法を経験してきた.その間,昨年参加した本誌の座談会1)において他病院のエキスパートの方々の話に大きな影響を受け,さまざまなリハビリテーションに関する報告2〜6)に学びながら手探りで理学療法を行ってきた.

 第4波以降にはそれまでとは違う年齢層,重症度,経過を示すリハビリテーションの対象患者が急増した(図1).また,第5波では40〜50歳台の患者が激増し,high flow nasal cannula(HFNC)を使用する患者に対する理学療法を多く経験した.この新たな患者群に対しては,従来行ってきた理学療法の内容とは異なる評価とプログラムの早急な検討を迫られた.同時期に全国的にもCOVID-19患者の受け入れ病院が増加し,COVID-19患者のリハビリテーションを新たに開始する病院があることを聞き及び,当院にも感染対策や理学療法内容などについて問い合わせが多く寄せられるようになった.

 これまでにどのような感染対策のもと,どのような評価と理学療法を行い,そして現在,どのような課題を抱えているのか,われわれの限られた経験であるが報告する意義があると認識し,今回の寄稿に至った.

 本稿においては,まず当院が行ってきた感染対策と人員配置体制,COVID-19患者の理学療法を行うにあたって必要と考える基礎知識,軽症・中等症・重症の患者に対して行っている理学療法評価と理学療法プログラムについて解説する.そして今現在も抱えている課題として,第4波途中より経験した労作時の酸素需要が高い患者に対する理学療法の開始基準と中止基準についても共有したい.

連載 とびら

出会い,感謝,ミライ

著者: 横井裕一郎

ページ範囲:P.1165 - P.1165

 私は理学療法士になって32年が経ちました.少々,理学療法士人生を振り返ります.

 私は平成2(1990)年に道立札幌療育センターに就職し,脳性まひの子など6名を担当しました.悩みつつ,また先輩たちに相談しながら理学療法をしました.毎日の理学療法は大変でしたが,障がいのある子どもたちは,人懐っこく遊び,理学療法がとても楽しい思い出です.また当時の私は,訓練課職員のほか,看護師や保育士,事務職員などに歓迎していただき,野球部,バレーボール部など参加して楽しんでいました.

再考します 臨床の素朴な疑問・第11回

歩行自立度の近位監視-遠位監視-自立をどう判断する?

著者: 小川隆

ページ範囲:P.1256 - P.1257

 われわれ理学療法士が患者の歩行の自立度を考察する際,直接的介助が必要な場合は判断に悩むことはないでしょう.また近位監視の場合も同様だと思います.

 しかし遠位監視に移行する判断はどうでしょうか.特にこれといった指標もなく,判断に悩むことも多いと思います.どういう状況になれば自立と判断するのか,これも経過から判断する場合が多いと思います.特に中枢神経疾患ではそうでしょう.

診療参加型臨床実習・第11回

グローバル・先端技術医療での新たな診療参加型臨床実習の展望

著者: 亀田佳一

ページ範囲:P.1258 - P.1261

 診療参加型臨床実習の導入は,社会や疾病構造,教育体系の変化に併せて,これからの社会で求められる理学療法士をどのように教育するかをゼロから考えなおすよい機会であろう.本邦に理学療法が導入された1963年から著しく進んだ高齢化により変化した社会構造や,information technology(IT)/artificial intelligence(AI)など臨床場面への導入が期待される先端技術の発展に合わせて,理学療法も変革すべき時期にきている.

 2020年から続いている新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease:COVID-19)禍は,皮肉にも理学療法の提供や教育にITを導入する機会となった.今後もIT/AIを活用した技術の加速は経済合理性を考えれば必然である.学生だけでなく,指導する理学療法士にも変革に振り落とされない準備が必要である.

国試から読み解く・第23巻

多発性硬化症患者に対する運動療法の注意点

著者: 藤田裕子

ページ範囲:P.1262 - P.1263

 55歳の女性.8年前に多発性硬化症と診断され,再発や寛解を繰り返し,2回の入院歴がある.現在は症状が落ち着いており,訪問理学療法で屋外歩行練習が実施されている.その際,理学療法士は運動強度を軽度から中等度とし,かつ,外気温の高い時間帯を避けて実施するなどに留意している.

 この理由として関係するのはどれか.

臨床実習サブノート 診療参加型臨床実習—「ただ見ているだけ」にならないように!・8

慢性心不全

著者: 渡邉英孝

ページ範囲:P.1264 - P.1268

はじめに

 日本の高齢化率は上昇を続け,それとともに心不全を含む心疾患を有する患者が増加しています.その結果,心疾患(高血圧を除く)での死亡率は悪性新生物〈腫瘍〉に次いで第2位となっています1).そして,今後も高齢の心疾患患者が大幅に増加すること=心不全パンデミックが予想されています.心疾患は高齢患者が多いこともあり,心臓機能以外にもさまざまな問題を併存していることが多いため,理学療法士の幅広い知識ときめ細やかな対応が期待されています.

 本稿では診療参加型実習において指導者が心不全患者のどのような点を評価しており,実習生には何を見てもらいたいかを解説します.実習生が臨床現場で充実した実習を送る助けとなることを期待しています.

報告

急性期脳梗塞後早期に歩行が自立する患者における退院前後の身体活動量の比較

著者: 岩﨑寛之 ,   藤野雄次 ,   高橋秀寿 ,   牧田茂

ページ範囲:P.1269 - P.1274

要旨 本研究の目的は,急性期脳梗塞後早期に歩行が自立する患者における,入院中と自宅退院後の身体活動量を比較することである.対象は,入院から1週間以内に歩行が自立した初発の急性期脳梗塞患者17例とした.方法は,身体活動量計を使用し入院中と自宅退院後の歩数と活動時間を測定した.その結果,退院後に歩数と活動時間がともに向上したのは17例中7例,両者が低下したのは17例中4例,歩数のみ減少したのは17例中6例であった.また,女性の6例中5例は自宅退院後に活動時間が増加する傾向がみられた.以上から,急性期脳梗塞後早期に歩行が自立する患者の17例中10例は退院後に歩数と活動時間の一方あるいは両者が低下することが明らかとなり,性別による特性の差異も示唆された.本調査をもとに,今後は家庭内や社会的な役割と身体活動量との関係について実態調査を進める必要があると考えられた.

自立歩行が可能な脳卒中患者における日本語版Physical Activity Scale for the Elderly(PASE)を使用した身体活動量評価の妥当性および信頼性の検討

著者: 吉田啓志 ,   増田裕里 ,   近藤駿 ,   井戸田弦 ,   永井宏達

ページ範囲:P.1275 - P.1279

要旨 【目的】自立歩行が可能な脳卒中患者における日本語版Physical Activity Scale for the Elderly(PASE)を使用した身体活動量評価の妥当性および信頼性を検証することである.【方法】妥当性は,対象者27名に対し,入院環境と生活環境においてPASEと3軸加速度計にて評価した身体活動量の相関係数にて基準関連妥当性を評価した.信頼性は,対象者19名に対し,級内相関係数(intraclass correlation coefficients:ICC)にて検者内信頼性を評価した.【結果】妥当性は,生活環境において高い妥当性を認めた(ρ=−0.40〜−0.67).信頼性においても,高い信頼性を認めた(ICC=0.98).【結論】自立歩行が可能な脳卒中患者におけるPASEを使用した身体活動量評価は,妥当性および信頼性とも良好であり,生活環境での応用が今後期待される.

症例報告

腓腹筋筋膜内解離を生じた症例に対する運動療法—超音波画像診断装置による損傷部位の同定と経過観察の有用性

著者: 山本紘之 ,   井坂晴志 ,   岡本和之

ページ範囲:P.1280 - P.1285

要旨 腓腹筋近位側に生じる筋膜内解離の病態は稀であり,また運動療法についての報告はない.今回,腓腹筋内側頭の筋膜内解離を生じたスポーツ活動を行う学齢期の症例に対し,損傷部位が脆弱な時期は離開ストレスが加わらないように考慮した腓腹筋内側頭のストレッチングや,弾力包帯による圧迫を実施した.また損傷組織の安定性の獲得や筋力低下の予防,循環を促し血腫の吸収を促進する目的で,疼痛のない範囲での腓腹筋の反復収縮と補高を施行し荷重を促した.さらに,損傷部位が離開しないか超音波画像診断装置で適宜確認しながら荷重負荷を設定した.損傷部位が安定する時期までに関節可動域制限や筋力低下の改善を行えたことで,すみやかにスポーツ復帰できたと考えた.損傷部位や創傷治癒過程を考慮し,その時期に合った運動療法を展開することは,再発を防止し組織の安定化と機能を改善することができる.また損傷部位の同定や創傷治癒過程の評価,再発の有無の観点からも,超音波画像診断装置は有用なツールであると考えられた.

書評

—森田秋子,後藤伸介(編集)—「理学療法士が知っておきたい認知能力のアセスメントとアプローチ—高次脳機能障害を行動から分析する」

著者: 森岡周

ページ範囲:P.1227 - P.1227

 「起きて,座って,立って,歩く」こうした基本動作の(再)獲得を援助するリハビリテーション専門職が理学療法士である.周知のとおり,理学療法士はPhysio-Therapistとよばれるように,身体あるいは身体運動のスペシャリストである.ゆえに,理学療法士は対象者の病態を捉えるために,身体運動学を用いてアセスメントを行う.しかし,関節の可動性や筋力が十分であるにもかかわらず,強い運動麻痺がないにもかかわらず,歩行自立に至らないケースや,何度も練習しているにもかかわらず,学習が定着しないケースが存在することを多くの理学療法士は知っている.その際,自立に至らなかった理由を「注意機能が…」「学習能力が…」と個人的な問題を列挙し,自分たちの介入に問題がなかったかのように振る舞う理学療法士がいることを評者は知っている.動きを運動水準のみで観察してしまうと,それら問題を解決に導くことができない.行動水準で動きを観察する視点をもつ必要がある.その際,役立つのが本書のタイトルでもある「認知能力のアセスメントとアプローチ」である.

 本書は言語聴覚士である森田秋子先生と理学療法士の後藤伸介先生がタッグを組まれ,「理学療法士が知っておきたい」と修飾されたうえで書かれている.第1章は「理学療法士はなぜ認知能力を理解する必要があるか」と挑戦的な章となっているが,冒頭の問題を払拭するように記述されている.第2章は「理学療法士が知っておくべき認知能力の理解」と題して,認知関連行動アセスメント(CBA)に至るまでの神経心理・認知モデルについて極めて平易に書かれている.認知モデルの解説は難解になることが多く,それが要因となって,学習の機会を奪ってしまうことがある.批判を承知のうえ,あえて簡略化することで,まずは認知に関連する事柄を「理学療法士に知ってもらいたい」という著者の強い思いを感じとることができる.第3章には事例,第4章には地域領域を配置しているが,第4章が本書の特色ではないかと思う.地域になれば,関節運動学を基盤としたアセスメントのみでは通用しないことを,地域にかかわる理学療法士は痛感しているはずである.地域で働く理学療法士にとって,本書はまさに「かゆいところに手が届く」情報だと確信している.今後は改訂を重ねていただき,情報の一貫性にこだわっていただきたいと思っている.

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目次

ページ範囲:P.1168 - P.1169

文献抄録

ページ範囲:P.1286 - P.1287

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1242 - P.1242

バックナンバー・次号予告のお知らせ

ページ範囲:P.1290 - P.1291

編集後記

著者: 横田一彦

ページ範囲:P.1292 - P.1292

 本号の特集は「パーキンソン病の最新知見と効果的な理学療法」です.今後,高齢化社会が進むなかで増加が予想されるパーキンソン病について,治療と症状に関する知識を整理し,効果的に理学療法を進めるポイントを論じていただきました.理学療法を進めるうえで大切なことは,適切な評価による目標設定と運動療法の立案,そして環境整備と生活指導です.理学療法に関しては,治療や病期に応じて考慮すべき点を,専門的に取り組んでおられる方々に執筆していただきました.治療の進歩と現在位置,そして丁寧な理学療法の組み立てや先進医療とタッグを組んだ理学療法が示されており,読者の方々がそれぞれの臨床現場で対応されている同疾患の対象者へのアプローチに,きっと役立つものと考えます.

 連載「診療参加型臨床実習」とClose-up「デジタル化する理学療法」では,IT,AIといった科学技術の進歩が,いよいよ理学療法の臨床,教育現場に浸透し始めていることをひしひしと感じられる論文を掲載できました.COVID-19が後押ししていることは間違いありませんが,これはデジタルが理学療法の可能性を大きく広げる転機として捉えるべきなのだろうと思います.一方で,「とびら」では,人との出会いが語られ,アナログなことの大切さに気づかされるご寄稿をいただきました.また,「臨床の素朴な疑問」では,歩行自立度の判断という難しいテーマについて述べていただきました.これらを通して,デジタルとアナログ,どちらもバランスよく知り,活用していくことが,これからの理学療法そして理学療法士の成長を促していくのではないかと感じました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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