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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル55巻12号

2021年12月発行

文献概要

書評

—相澤純也・大見武弘(監訳)—「アナトミカル キネシオロジー」

著者: 坂井建雄1

所属機関: 1順天堂大学保健医療学部

ページ範囲:P.1351 - P.1351

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 平成の時代に入った1990年頃から,医学・医療は大きく変貌してきた.それまでの経験知に基づく医学から,科学的検証に基づいた医学へと変わり,さまざまな医療職種が連携して医療を行うようになった.医師・歯科医師以外に,21の医療職が国家資格として認められている.これらの医療職の仕事は,特有の専門知識や特殊技能を必要としており,学生教育にあたってもその職種ごとに適切なアプローチが必要である.例えば理学療法士や柔道整復師が基礎として必要とする運動器の解剖学の知識は,一般的な医師がもつべきものをはるかに凌駕している.しかも解剖学の最良の教材である人体解剖実習は,基本的に医学と歯科医学の学生にしか許されていない.特に運動器の解剖学の知識は膨大なもので,全身には87種類206個の骨があり,それぞれの骨に突起や陥凹などの部分に至るまで名前がついている.全身の骨格筋は229種類600個以上で,それぞれの筋について起始・停止の部位,神経支配,作用の情報が伴っている.世界中の理学療法学の教員と学生は,運動器の解剖学の教育と学習に大いに苦慮している.しかもわが国では1990年代から養成校が急速に増えて,2021年度には279校(大学121,短期大学8,専門職大学5,専門学校145),入学定員14,574人に達している.また運動器の解剖学については,昨今の筋トレブームなどもあり,スポーツ愛好家を含め一般の人たちも強い関心をもつようになっている.

 そういった運動器の解剖学の人気と需要を前置きに,本書『アナトミカル キネシオロジー』をご紹介する.キネシオロジー(運動学)と言えば,身体運動すなわち運動器の機能を教える分野である.教科書として日本語で執筆されたものや英語から翻訳されたものがいくつもあるが,本書はそういったキネシオロジーを扱うものではない.解剖学的視点から学ぶキネシオロジーの基礎,あるいはキネシオロジーを視野に入れた運動器の機能解剖学である.さらに欧米で編まれた最近のいくつかの解剖学書と同様に,明瞭でわかりやすい図版と,情報をよく整理したレイアウトが秀逸である.巻末に切り離せるワークブックを収載しているのも,学習者への配慮としてよいセンスである.翻訳にあたっては,若手で頭角を現しているお2人を中心に,現役の理学療法士の人たちがチームをつくっておられるので,大いに期待されるところである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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