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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル55巻2号

2021年02月発行

雑誌目次

特集 関節可動域評価のABC—治療計画につなぐ応用的解釈まで

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.132 - P.133

 関節可動域測定は,理学療法士にとって極めて身近な評価であり,不可欠な情報である.しかし標準的手技による可動域測定値は基本情報に過ぎない.それは可動域測定の対象運動のほとんどが関節複合運動であることによる.測定後の治療には「病態解釈」と「角度情報と制限因子とを関連づけた考察」が不可欠である.

 A:当該関節に多くみられる病態を例に,関節可動域評価の注意点と制限因子の考察例

 B:可動域測定と並行し留意すべき痛みの評価と多関節連携

 C:身体運動と関連づけた可動域制限の応用的解釈

 本特集では,基本となる可動域測定手技と測定結果に理学療法士の運動学的考察・問題点の推察を合わせた応用解釈までを「関節可動域評価」と捉え,その基本を関節ごとの特性と合わせて整理する.

関節可動域評価のABC

著者: 谷口匡史 ,   市橋則明

ページ範囲:P.134 - P.141

Point

●関節可動域(range of motion:ROM)測定に合わせてエンドフィールや痛みの有無を確認する

●筋腱や関節包がROM制限因子である場合には,筋短縮テストによる鑑別を行う

●ROM制限には複数の制限因子が混在することがあるため,エンドフィールや筋短縮テスト,痛みを総合的に評価する必要がある

肩関節の可動域評価のABC

著者: 宮坂淳介

ページ範囲:P.142 - P.150

Point

●可動域評価は角度を測定することが重要なのではなく,制限因子を見出すために行う

●肩関節の可動域を測定するには自動可動域と他動可動域を評価する

●他動可動域測定では,運動方向とエンドフィールにより制限因子を判別することが重要である

体幹の可動域評価のABC

著者: 柿崎藤泰 ,   本間友貴

ページ範囲:P.151 - P.156

Point

●体幹の可動域は胸郭アライメントの良・不良に依存する

●胸郭と骨盤との長軸関係の破綻は肋椎関節に回旋性の偏位を惹起し,脊柱においては運動性の連鎖および感覚性による反応が生じ,上位胸椎と下位胸椎においては相反した回旋性の偏りが形成される

●体幹の可動域評価の解釈には胸郭の詳細な機能評価が必要であり,胸郭における開始肢位に偏りのない「ニュートラルポジション」は体幹の可動域の確保に重要である

股関節の可動域評価のABC

著者: 熊谷匡晃 ,   浅野昭裕 ,   猪田茂生

ページ範囲:P.157 - P.163

Point

●腰椎・骨盤の動きを含めた股関節複合体の可動域と股関節固有の可動域とを比較することで,可動域制限の原因がどちらに存在するのかを判断できる

●制限因子を特定するためには,診療録や画像,問診などの情報を収集し,複数の理学所見を比較,統合して検討することが重要である

●可動域制限の責任部位と病態の明確化により治療方針が明らかとなり,適切な治療方法の選択が可能となる

膝関節の可動域評価のABC

著者: 田中繁治

ページ範囲:P.164 - P.169

Point

●膝関節の関節可動域測定では,制限因子となり得る要因を整理しておく必要がある

●膝関節の関節可動域測定では,疼痛に関する検査も同時に行う必要がある

●膝関節の関節可動域制限の原因追究や治療目標の設定,効果判定には科学的知見を用いる必要がある

足関節の可動域評価のABC

著者: 伊藤浩充

ページ範囲:P.170 - P.175

Point

●足関節の可動域測定は,距腿関節だけでなく脛腓関節,距骨下関節,横足根関節の可動性も含まれている

●距腿関節の疼痛は,必ずしも可動範囲を制限している因子が原因とは限らない

●距腿関節運動から多関節連鎖は距骨の動きに左右される.荷重位では距骨と一体化する下腿骨の動きを介して膝関節・大腿骨・股関節へと運動が連鎖する

Close-up 訪問理学療法のおもしろさ

複雑な状況を見極めながら

著者: 大森豊 ,   新井健司

ページ範囲:P.176 - P.179

はじめに

 訪問の対象となる利用者の多くは単独の疾患ではなく,複合的な疾患を抱えている.病期的に終末期に近い方もおられ,経験の少ない理学療法士が担当する場合には悩んでしまうようなケースも少なくない.また,それぞれの利用者が自分らしく生きるという部分を理解し,その希望を叶えることに視点を当てていくとさらに支援が難しくなる.訪問理学療法を志す理学療法士はその複雑な業務に興味をもっている人も少なくないと感じている.

 そのような複雑な症例に対面すると,筆者の恩師が「難しい症例をそつなくこなすのがプロの仕事だ」とおっしゃったのを思い出す.それができるようになれば訪問理学療法士としての自己肯定感も生まれ,仕事が楽しくなるのだと思う.大切なのは誰かの指示の下に作業を行うのではなく,理学療法士が主体性をもって適切な判断を行い,それらに対応ができるということに尽きると思う.

在宅領域で必要な訪問理学療法の“力”—多種多様な対象者や他職種の背景を的確に捉えて

著者: 光村(新井)実香

ページ範囲:P.180 - P.184

はじめに

 昨今,在宅領域は理学療法士にとって活躍の場となり,その役割も大きい.20年ほど前は「理学療法士は病院で働くもの」というのが常識で,今日に至る訪問理学療法の需要や発展は考えられなかった.しかし,2000年に本格的な高齢社会を迎えるため介護保険がスタートし,在宅領域に本格的に携わるようになった.近年では新生児集中治療室(NICU)のベッド数不足や医療依存度の高い子どもの増加などの背景により,その対象は乳幼児から高齢者まで幅広い.さらにがんや難病の方々を担当する機会も増え,看取りを目的とした介入が必要な場面も多くなった.そのため訪問理学療法では,患者・利用者(以下,対象者)本人やその家族,医師・看護師・介護職だけではなく,行政や時には地域住民など幅広い人々とかかわりをもちながら日々の臨床を行うことが重要である.本稿では筆者の経験や私見から,訪問理学療法の専門性や他職種とのかかわり方を中心に解説する.

呼吸を極めて効果的に

著者: 中田隆文

ページ範囲:P.185 - P.188

地域における呼吸障害者

 本邦の公的介護保険制度(以下,介護保険)の要介護に認定される国民は増加の一途をたどり,その背景は多様化している.要介護となる原因疾患としては中枢神経疾患,運動器疾患,認知症が多いが,内部障害も一定数存在し,心疾患,糖尿病,呼吸器疾患が代表的(図1)1)である.内部障害における代表的な症状である呼吸困難はさまざまな原因で出現し,身体機能,心理,さらに活動や参加を制限する要因となるだけではなく,生命を脅かす可能性も含んでおり,臨床において重要な項目である.

 また,神経筋疾患患者,末期がん患者,医療的ケア児,医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare associated pneumonia:NHCAP)に関する呼吸理学療法のニーズも高まっている(表1).呼吸器症状の評価において「呼吸困難」は最も重要な項目であるが,その原因は呼吸器疾患に限らず,心不全や代謝性疾患,心理的要因など多岐にわたる.そして,呼吸理学療法は「呼吸困難」を軽減・緩和し得る方法である.

連載 とびら

学び直しと心理学

著者: 小林修

ページ範囲:P.129 - P.129

 私は現在,放送大学で心理学を学んでいる.子育てがひと段落し手を離れたこと,学生時代に心理学が苦手だったこと,認定心理士が取得できることから入学を決めた.理学療法士養成校時代の取得単位が認められず,基礎科目からの受講となったことはショックだった.あれほど苦労した3年間が認められない…,出鼻を挫かれた思いであった.

 5年の在学期間を経て認定心理士の必要単位も取り,卒業まであと少しのところまできた.社会・組織心理学,組織行動,リーダーシップ心理学,メンタルヘルスにすっかりのめりこんでしまった.

目で見てわかる 今日から生かせる感染対策・7

触れてしまうところを想像してみましょう

著者: 高橋哲也 ,   森本ゆふ

ページ範囲:P.125 - P.126

Question. 理学療法室の機器・備品においても1日数回,定期的な消毒が望ましいと言われています.

あなたならどこに注意して,消毒しますか?

再考します 臨床の素朴な疑問・第2回

筋緊張低下,筋力低下と支持性低下.これらの違いと重なるところは?

著者: 髙見彰淑

ページ範囲:P.196 - P.197

筋緊張低下とは

 筋緊張とは,神経支配されている筋が,持続的かつ不随意的に一定の緊張状態を保つものである.運動や姿勢保持の際,活動する骨格筋の準備状態に重要な役割を果たす.

 神経学的要素と非神経学的要素によって筋緊張を規定できる.神経学的要素は,伸張反射による筋収縮を主とする要素で,反射性要素とも言われている.非神経学的要素は,筋線維や筋膜,腱などの構成要素で,非反射性要素とも言われる.筋緊張が低下すると運動効率が低下し,他動的な動きに対し過度の可動性が観察され,姿勢保持安定性などにも影響する.末梢神経障害や小脳障害,大脳基底核障害などで現れる.

診療参加型臨床実習・第2回

入職時に必ず備えておいてほしい能力—診療参加型臨床実習の到達目標

著者: 伊藤義広

ページ範囲:P.198 - P.202

 理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則の改正に伴う診療参加型臨床実習の導入は,単位数の変更や実習形態の変更という形式的なことではなく,学内・学外教育の目標や手法の変更によって新人理学療法士をどのように育成するか,という問いにあらためて取り組む起点と捉える.本稿では診療参加型臨床実習の到達点とも言える理学療法士として働く際に,今日の職業倫理・職場管理の視点から,入職時に必ず備えておくべき能力(態度,技能,知識)ならびに学内教育で経験し,学ぶことが望ましい事項について述べる.

臨床実習サブノート 運動器疾患の術後評価のポイント—これだけは押さえておこう!・11

多発外傷

著者: 山田耕平

ページ範囲:P.203 - P.209

はじめに

 多発外傷の原因は,日本外傷データバンク2019(JTDB2014-2018)年次報告1)によると,交通事故(32.3%),転倒(29.7%),墜落・転落(20.9%)の順に多く(図1),損傷部位は多部位に及びます.そのため多発外傷では外傷医が中心となり,整形外科,脳神経外科,消化器外科,麻酔科など多科が連携をとりながら医療チームが形成され,診療が行われています.理学療法士は集中治療室から多発外傷患者の治療にかかわるため,医療チームの治療戦略を理解する必要があります.

 多発外傷患者の理学療法の目的は,早期離床により,廃用による筋力低下や術後の合併症を予防し,社会復帰につなげることです.急性期に離床を妨げるさまざまな要因が存在するので,多発外傷患者の術後の評価は骨折だけではなく,全身の状況を把握することが必要になります.

国試から読み解く・第14巻

臨床的評価指標から予後予測をしよう!

著者: 藤田裕子

ページ範囲:P.210 - P.211

 62歳の女性.約半年前から歩行中にふらつき,しゃべりにくいことに気付いていたが,最近これらの症状が悪化してきた.その他,四肢協調運動障害,頭部CTで小脳および脳幹萎縮を指摘されている.

 この症例の評価指標として適切でないのはどれか.

私のターニングポイント・第14回

脳卒中から理学療法士をめざせた1つの出会い

著者: 小林純也

ページ範囲:P.195 - P.195

 2005年11月9日.私は,ボクシングの練習中に脳梗塞を発症した.プロテスト直前の出来事だった.当時23歳の私にとってはつらく,険しい道のりの始まりだった.

 動かず感覚もない右半身,まとまらない思考,体中につながった管.

原著

リハビリテーション部門におけるトランザクティブメモリーシステムや組織風土は職員満足度に影響を及ぼすか

著者: 八木麻衣子 ,   森田英隆 ,   坂本雄 ,   小諸信宏 ,   宮城春秀 ,   亀川雅人

ページ範囲:P.212 - P.221

要旨 【目的】リハビリテーション部門にて,トランザクティブメモリーシステム(transactive memory system:TMS)や組織風土と,職務・職場満足との関連性を検討することを目的とした.【方法】対象は首都圏の医療機関3施設のリハビリテーション専門職331名であった.調査項目は回答者属性のほか,TMSと組織風土を評価し,因子構造を確認して用いた.アウトカムとして職務・職場満足を調査し,多変量解析で関連する因子を検討した.【結果】職務満足は,TMSの高い信憑性,相互調整や高い専門分化,組織風土の高い組織環境性,職種,経験・勤続年数と関連した.職場満足は,高い信憑性,相互調整や低い専門分化,低い伝統性と高い組織環境性,年齢,勤続年数などと関連した.医療職としての転職経験,上司との意識的なコミュニケーションは職務・職場満足とも関連した.【結論】職務満足にはTMSの全要素と組織風土の組織環境性が,職場満足にはTMSの全要素と,組織風土の伝統性・組織環境性が関連した.今後は診療成績などとの関連性の検討が望まれる.

学会印象記

—第36回日本義肢装具学会学術大会—新しい技術を学ぶ,新しい形で学ぶ

著者: 田中慎也

ページ範囲:P.194 - P.194

●ハイブリッド形式の学術大会

 第36回日本義肢装具学会学術大会が,「先人に学ぶ,達人に学ぶ,科学に学ぶ」というテーマのもとに,東京大学本郷キャンパスにて開催されました.本大会は,新型コロナウイルス感染症に対する感染予防の観点から,会場への入場者を制限したうえでの集合開催とオンライン開催を組み合わせたハイブリッド形式が採用されました.

 一部の演題発表は事前にWEB上で視聴することができ,質問の投稿も可能であったことから,一般演題等は質疑応答を含め,非常にスムーズに進行された印象を受けました.また,コンピューター制御の義肢装具をはじめとした新しい製品や技術に触れること,それらを使用した症例報告などの演題発表を拝聴することで,最新の知見を数多く学ぶことができた学術大会でした.

臨床のコツ・私の裏ワザ

関節リウマチ患者の体幹運動制御に対するハンドリングのコツ

著者: 小林春樹

ページ範囲:P.190 - P.191

はじめに

 関節リウマチは慢性的な滑膜炎を起因とし関節構成体が破壊されていく疾患で,直接的には中枢神経系の障害は起きない.しかし,関節リウマチではボディイメージや運動イメージが低下すると報告1)されており,ハンドリングなどで運動を促通する際に配慮が必要になる.また慢性的な炎症や疼痛による逃避姿勢が長期にわたり,画一的な動作を強いられるため体幹の分節運動が低下していることを多く経験する.そのため理学療法を実施する際,質量の大きい体幹の分節運動を向上させることは四肢の動作効率を高めるうえでも重要となる.本稿では,体幹の分節運動を促通するハンドリングのコツについて解説する.

動脈血ガス分析を深く読むコツ—神経筋疾患症例から学ぶ

著者: 加藤太郎

ページ範囲:P.192 - P.193

 動脈血ガス分析(以下,血ガス)を読むためのステップは,① 酸塩基平衡(pH)をみる(アシデミア・アルカレミア),② 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2),重炭酸イオン(HCO3)をみる(呼吸性・代謝性),③ Anion Gap(AG),補正HCO3を計算する,④ 代償性変化をみる4つが基本である1,2)

 本稿では,神経筋疾患症例の実データ(表)を読み解き,血ガスを深く読むコツを解説する.

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目次

ページ範囲:P.130 - P.131

文献抄録

ページ範囲:P.222 - P.223

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.221 - P.221

バックナンバー・次号予告のお知らせ

ページ範囲:P.226 - P.227

編集後記

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.228 - P.228

 昨年の2月,春以降の生活や学びや働き方の変貌を,誰も予想できていませんでした.COVID-19に翻弄された年が明け,冬を過ごし,今も国を挙げ初めての経験を重ねています.

 そんななか,学生も含め理学療法士なら日常的に繰り返すなじみの「関節可動域測定」に焦点を当て,「関節可動域評価のABC」というテーマで特集を組みました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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