症例報告
右上肢の筋力低下を主症状とする顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー症患者に対する単関節型HAL®の試用評価
著者:
稲葉塁希
,
加藤浩章
,
野田康平
,
中村憲一郎
,
馬見塚尚孝
ページ範囲:P.713 - P.717
要旨 【はじめに】筋ジストロフィー症においては,筋力増強を図りながらも,過用性による筋破壊を伴う筋力低下に留意しなければならない.この相反する課題に対し,上肢単関節型HAL®(HAL®-single joint:HAL®-SJ)の試用機会を得たため報告する.【対象】顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー症(facio-scapulohumeral muscular dystrophy:FSHD)と診断された26歳女性.上肢運動機能障害度:6(机上で肘伸展による手の水平前方への移動).患肢の徒手筋力テスト(manual muscle testing:MMT)は肘関節屈曲:1.【方法】患肢にHAL®-SJを装着し,背臥位で肘関節の屈曲伸展自動介助運動を10回×10セット,週1回程度,合計33回実施した.評価は,上肢筋肉量,握力,関節可動域,機能的自立度評価法(functional independence measure:FIM),上肢・手指機能評価,主観的評価を選択した.また,機器の試用評価・改善策について記録した.【結果】運動終了時に,右上肢筋肉量と患肢握力に若干の増大を認めた.評価期間中に重度の筋痛や過用性の筋力低下は認めなかった.右肘関節の自動屈曲可動域の改善はみられなかった.FIMに変化はなかった.上肢・手指機能評価および日常生活での主観的評価が改善し,患肢上肢の日常使用が促進された.HAL®-SJ試用経過のなかで,座位姿勢でのADL練習が困難であった.【考察】顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー症患者に,HAL®-SJを用いて自動介助運動を実施した結果,右上肢筋肉量増加と患肢握力増大,上肢・手指機能評価および主観的評価の改善を得た.今後,医療機関以外でHAL®-SJを用いた自主練習が可能となれば,使用効果をさらに高められると考える.