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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル56巻1号

2022年01月発行

雑誌目次

特集 機能解剖と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.8 - P.9

 動的組織が有する身体運動との関連性については理学療法そのものと密接に関係する.屈筋や伸筋という分類がされていても,実際はそれ以外の思わぬ作用を有すること,習慣的な姿勢や運動がもたらす身体変化は予測を超えていることなどは,実際の患者とのやりとりのなかでしか把握できないものである.定型的な評価も考え抜かれた治療もすべての礎は機能解剖であるといえる.身体が運動する瞬間の機能的役割については把握が不十分な点もある.本特集によって機能解剖をさらに深く理解し,考察するきっかけとしたい.

解剖学からみる運動器の特徴と理学療法とのかかわり

著者: 坂井建雄

ページ範囲:P.10 - P.18

Point

●解剖学用語に骨格筋の名称は229個あり,わかりやすい名前がつけられている

●骨格筋の起始と停止がわかると,作用が容易に理解できる

●骨格筋を触診するためにも,筋の起始・停止の知識は有用である

頸部の機能解剖と理学療法

著者: 中村幸之進

ページ範囲:P.19 - P.23

Point

●頸部の伸筋群は4層になっており,多裂筋・回旋筋・頸半棘筋は上位頸椎に位置する後頭下筋群とともに深層筋群を形成する

●頸椎の伸展最終域で頭部の重心が肩のラインよりも前方に位置している場合,上位頸椎優位の伸展動作となっている

●頸部伸筋群エクササイズは,種目の選択および運動量の設定が重要である.過負荷にならないよう注意し,段階的に運動強度を上げていく

肩関節の機能解剖と理学療法

著者: 春名匡史 ,   立花孝

ページ範囲:P.24 - P.28

Point

●腱板機能テストは側臥位での肩関節挙上運動が有用である

●肩関節挙上運動初期の肩甲骨下方回旋運動に着目する

●腱板機能の改善が期待できない患者では,肩関節挙上運動初期における肩甲骨下方回旋運動が獲得をめざすべき代償運動である

肘関節の機能解剖と理学療法

著者: 川崎卓也 ,   上田泰久 ,   長谷川大輔

ページ範囲:P.29 - P.34

Point

●理学療法を行うにあたって,肘関節の構造と機能解剖の理解が必要である

●肘関節は末梢側の手関節や中枢側の肩関節・体幹などの影響を受ける関節である

●理学療法では肘関節への直接的なアプローチとともに,手関節・肩関節・体幹に対する間接的な理学療法も効果的である

胸部の機能解剖と理学療法

著者: 多々良大輔

ページ範囲:P.35 - P.42

Point

●脊柱アライメントの指標として側面からのX線画像を用いたパラメータが提唱されている

●胸部が頸椎・腰椎へ及ぼす影響を理解する

●胸部を,肋骨を含めた胸部リングと捉え,ベクトル分析によって主要な機能障害を抽出することが有用である

腰部の機能解剖と理学療法

著者: 荒木秀明

ページ範囲:P.43 - P.50

Point

●胸腰筋膜の機能解剖では前層・中間層・後層の3層と,その周囲の外側縫線,神経支配を理解する

●胸腰筋膜を中心とした後部靱帯系の生体力学的効果を理解することは,臨床応用のための前提となる

●後部靱帯系理論に基づいた理学療法は効果的と考えられる

股関節の機能解剖と運動療法

著者: 山﨑敦

ページ範囲:P.51 - P.59

Point

●股関節に可動性と安定性をもたらす骨格構造を理解する

●股関節特有の解剖学的特徴を理解する

●股関節周囲筋への運動療法実践には,機能解剖学的特性を理解することが重要である

膝関節の機能解剖と理学療法

著者: 福田奨悟 ,   八木茂典

ページ範囲:P.60 - P.71

Point

●変形性膝関節症の疼痛は,解剖学的に分析すると膝蓋下脂肪体,半膜様筋,内側側副靱帯由来が多い

●理学療法は,膝蓋下脂肪体の柔軟性を改善し,半膜様筋anterior armの脱臼を抑制して伸張性を改善し,内側側副靱帯表層の滑走を改善させる

足関節の機能解剖と理学療法

著者: 小林匠

ページ範囲:P.72 - P.77

Point

●足部・足関節を複数の骨・関節運動の集合体として捉え,各関節運動を丁寧に評価する

●荷重位での足関節背屈には下腿内旋,距骨下・ショパール関節外がえしが必要である

●足関節最大底屈時には,下腿内旋とショパール関節外がえしが求められる

Close-up メカノセラピー—メカノバイオロジーと理学療法

物理的外力のコントロール—メカノバイオロジー・メカノセラピーと理学療法

著者: 小川令

ページ範囲:P.79 - P.83

はじめに

 メカノバイオロジーとは,張力や浸透圧といった力学的刺激が,細胞,組織,臓器あるいは生体にどのような影響を与えるかを解析する生物物理学の研究領域である1,2).メカノバイオロジーの概念をもとにした医療,すなわち人体に力学的刺激を加えたり取り除いたりと,力学的環境をコントロールする医療をメカノセラピーという2).広義には,臓器・組織・細胞・分子レベルにおいても物理的環境をコントロールし,細胞に影響を与える医療であると言える2)(図1).近年では細胞に力を感じるしくみ,すなわちメカノセンサーがあることが判明しつつある3).一方,理学療法は運動・温熱・電気・水・光線などの物理的手段を人体に加えるフィジカルセラピーであるが,特に器具を用いた理学療法をメカノセラピーと表現することがある.

 メカノバイオロジーの概念に基づいた広義のメカノセラピーと,器具を用いた理学療法である狭義のメカノセラピーは定義が異なるが,「細胞がいかに力を感じて反応するか?」という命題,そして力学的刺激の感知機構は共通である.

 本稿では,メカノバイオロジーの現状と未来について記述する.

メカノセラピーと理学療法

著者: 望月久

ページ範囲:P.84 - P.89

はじめに

 生物は環境に適応して生存するために,さまざまな物理的・化学的刺激を情報として感知して,その情報をもとに反応している.力学的刺激(機械的刺激)も環境に適応するために必要な情報の1つであり,生物の発生や成長過程,生理的機能の維持,組織損傷からの回復過程にも力学的刺激がかかわっている.力学的刺激に対する細胞や組織の反応を研究する領域をメカノバイオロジー(mechanobiology)と呼び,生理学,生物物理学,細胞生物学,生体力学,組織工学,再生医学などの分野において研究が行われている1〜3).メカノバイオロジーの知見をもとに力学的刺激をコントロールして治療に適用することをメカノセラピー(mechanotherapy)と呼ぶ2〜6)

 理学療法は,身体に統制された非特異的な物理的刺激を与え,その物理的刺激に対する生体反応を治療に応用する技術と考えることができる.そのため,柔軟性改善のためのストレッチング,筋力増強運動における抵抗運動,徒手療法,装具療法,テーピング,牽引療法,超音波療法などの力を媒介とする理学療法はすべてメカノセラピーとして捉えることも可能である4,7).メカノバイオロジーの知見は,理学療法として対象者に与えている力学的刺激が細胞のレベルでどのような反応を引き起こし,機能改善に作用しているかを解き明かしてくれる.そのため,理学療法の基礎理論を構築し,損傷治癒や再生医療に理学療法を適切に適用していくためにもメカノバイオロジーの知見は有用である3〜5,7).本稿では,理学療法と関連するメカノバイオロジーの基礎的な知見を紹介し,それらの応用として理学療法を捉える立場からメカノセラピーと理学療法の関連性について述べる.

メカニカルストレスの影響

著者: 森山英樹 ,   井上翔太 ,   脇本祥夫 ,   髙村大祐

ページ範囲:P.90 - P.94

メカニカルストレスと理学療法の接点

1.適度なメカニカルストレス=理学療法?

 運動は心身両面に好ましい効果をもたらし,健康のために推奨される.一方で,運動はすべてがよいというわけではなく,運動量は「適度」であることが重要であり,不足すれば効果に乏しく,過剰であれば害になる.では,適度とはどの程度であろうか.身体状態や疾病の有無などにより個々人で異なるため,具体的な数値をもって示すことは難しい.そこで,単純化して考えてみる.身体は常に合成と分解を繰り返し,その均衡が保たれることで恒常性を維持している.そして適度とは,合成が分解を上回る範囲といえる(図1).運動量が不足あるいは過剰になると,合成と分解の均衡が崩れ,廃用あるいは過用に至る.また,廃用症候群と過用症候群は別の病態として扱われているが,ともに分解が合成を上回る共通の病態という捉え方もできる.

 メカニカルストレス(mechanical stress)は,機械的刺激,力学的刺激,物理的刺激と訳される.運動により身体にはメカニカルストレスが加わる.物理療法は身体にメカニカルストレスを加えることで生理的反応を起こす(熱や電磁波などのエネルギーも広義のメカニカルストレスに含まれる).このように理学療法は,メカニカルストレスを治療手段として用いている.実際,欧米では理学療法,特に運動器に対する理学療法をメカノセラピー(mechanotherapy)と称すグループもある.廃用症候群には運動療法や物理療法でメカニカルストレスを負荷し,過用症候群には杖や装具などでメカニカルストレスを軽減することで,合成と分解が均衡,あるいは合成が上回るまで回復させる.また,このとき用いるメカニカルストレスには,負荷でも軽減でも合成が分解を上回ることを促す適度なものが求められる.つまり理学療法は,適度なメカニカルストレスそのものと考えることができる.

連載 画像評価—何を読み取る? どう活かす?・第1回【新連載】

一次性変形性股関節症

著者: 川端悠士

ページ範囲:P.1 - P.3

症例情報

患者:77歳,女性

診断名:両変形性股関節症(右:進行期,左:初期)

現病歴:半年前に第3腰椎圧迫骨折を受傷し,軟性コルセット装着にて保存的に加療となる.1か月前よりコルセット除去となるが,コルセット除去後より誘因なく右股関節痛が出現し,徐々に増悪したため,当院整形外科受診となる.

既往歴・合併症:第3腰椎圧迫骨折(半年前),骨粗鬆症

とびら

会話や言葉に注意しながら

著者: 尾谷寛隆

ページ範囲:P.5 - P.5

 理学療法士となり,医療の現場,病院に勤務して30数年が経ちますが,患者さんの部屋をノックし入室する際は,今でも緊張します.まず挨拶をして,病状や現状を聞き,機能および能力評価を行いますが,このときには必ず,会話,言葉がつきものです.この自らが発する言葉には,今でも細心の注意を払っています.信頼関係を築き上げるのは,この最初の会話が大きく影響を及ぼすと感じているからです.

 かくいう私も,学生時代やキャリアの浅い頃,スーパーバイザーや上司,先輩から数多くの指導を受けました.患者さんに対して,「うん,うん」と無意識に返答,相槌をしていて,バイザーから「『はい』でしょ」と訂正していただいたことがありました.上司からは「○○じゃないですか」,「○○になります」などを発した際に「今の言葉は不適切,日本語として意味が通じない」と指摘されました.先輩からは「今の語尾はちょっと強いから,もう少し柔らかく言ったほうがよいよ」と指導がありました.このようなバイザー,上司,先輩に恵まれた環境であったことに感謝しています.私なりに理解し,一つひとつ体得してきたつもりです.

スポーツ外傷・障害の予防・第1回【新連載】

前十字靱帯損傷

著者: 小柳磨毅 ,   杉山恭二

ページ範囲:P.97 - P.99

スポーツ損傷の予防モデル

 van Mechelenら1)が概要を示した外傷予防のモデル(図1)は,スポーツ損傷の領域にも応用されている.前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷予防の取り組みも,このモデルをもとに加速した.モデルは,① 発生率や重症度の疫学調査から問題を特定する,② 問題となるスポーツ損傷が発生するメカニズムやリスクファクターを特定する,③ 特定されたメカニズムやリスクファクターを反映させた予防策を導入する,④ その予防介入効果の検証を行う,の4つの段階から構成される.予防の取り組みには,このサイクルを繰り返し回すことが重要である.

理学療法のスタート—こうやってみよう,こう考えていこう・第1回【新連載】

「もうすぐ理学療法士,どうしよう?」「もうすぐ2年目! 早いなあ」でも大丈夫/体に触れるよ 動きましょう「合わせてともに」—介助・評価のコツ

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.100 - P.104

「新人さん」ではない指導者の方へ

 COVID-19の蔓延により,臨床実習は大きく変化しました.COVID-19に伴う実習の制約は,学生が理学療法士へ,新人が理学療法士へ変貌する過程で大切なことは何かを振り返るきっかけになったとも言えます.

 新人理学療法士の緊張と戸惑いの要因は,「技術的なこと」,「患者さんとの対話」,「自分で考えまとめる難しさ」,「既存のシナリオがない」などさまざまです.しかし臨床実習の機会や内容を,COVID-19の影響で変更させられてきた本人たちは,たっぷり実習体験をもつそれまでの新人と自分たちとの違いを実感することはできません.臨床現場での学びはきわめて重要で,体験量の差による何らかの影響があり得ますが,私たち現場指導者は,新人なら当然のことまで,「実習経験の差による」と捉えるかもしれません.

 COVID-19は,今後も何らかの形で影響を及ぼし続けると予想され,指導側・現場にも順応と工夫が求められます.本連載は,入職1,2年目の新人理学療法士へ日常の臨床で出会うエピソードを提示し,そのおもしろさ・難しさ・ポイントを伝えたいと思い,企画しました.

臨床実習サブノート 診療参加型臨床実習—「ただ見ているだけ」にならないように!・10

集中治療室

著者: 西原浩真

ページ範囲:P.105 - P.112

指導者は何を見ていて,学生に何を見てもらいたいのか

1.患者の全体像把握

 集中治療室(intensive care unit:ICU)で理学療法士が患者の全体像を捉え,リハビリテーションを提供していくには,「なぜ患者がICUにいて,理学療法にとっては何が問題なのか?」を把握し,多職種とリハビリテーションについて協議するところから始まります.ですが,ICUチームにおいて,理学療法士はまだまだ新参者です.多職種にICUチームの一員として認められるためには,最低限の知識や技術を身に付けておくことは専門家として欠かせません.

 さて,指導者の理学療法士は実習生とともにリハビリテーション回診のためにICUにやってきました.指導者の理学療法士は敗血症性ショックで挿管下人工呼吸器管理となった患者を前に,医師・看護師に対してプレゼンテーションを始めました….

私のターニングポイント・第24回

心の中にあった課題

著者: 山本理恵子

ページ範囲:P.96 - P.96

 私のターニングポイントは,今まで心の中にあった課題について,時間をかけて取り組もうと思い,研究活動を始めたことです.今思い返すと,ちょうど生活上の家族全体の健康や仕事に関することが落ち着き,少し気持ちに余裕ができたことがきっかけだったと思います.気づいたら理学療法士になってから15年が経った頃でした.

 私の場合は,それまでの理学療法士のキャリアとして,広く浅くさまざまな分野で急性期から生活期,終末期までの一連の時期の理学療法と,養成教育も含めて,国内外のさまざまな地域で経験してきたことが特徴です.その国・地域に根づく文化的背景や生活様式,死生観などの違いから,その価値基準や地域医療・福祉システムのなかで提供される理学療法は少なからずさまざまな点で異なり,地域による理学療法士の職業観やそれらの臨床,教育の発展のユニークさは大変興味深いと感じていました.

追悼

山田英司先生を偲んで

著者: 福井勉

ページ範囲:P.95 - P.95

 いつもまっすぐに前を向いて走っている.というのが山田英司先生の常にある姿でした.エネルギッシュなまま生涯を全うした人生だったと言えます.

 山田先生は愛媛に生まれ,人生の多くの時間を瀬戸内海に面した場所で過ごされてきました.香川大学医学部附属病院でさまざまな疾患に対処し興味を深め,その傍ら,研究活動にも非常に熱心で博士号を取得されるとともに,常に研究の重要性を説き,さらに専門誌への投稿を繰り返してこられました.回生病院時代には今までにない圧巻の症例数の変形性膝関節症症例の動作分析をされておられました.2012年に自著を発刊されたときには,両親によい報告できると喜んでいたことが昨日のことのように思い出されます.

報告

慢性閉塞性肺疾患患者に対する外来呼吸リハビリテーションの有用性—2年以上の継続が及ぼす影響

著者: 仙石敬史 ,   佐藤直樹 ,   佐野裕子

ページ範囲:P.113 - P.118

要旨 【目的】石巻地域COPDネットワーク登録患者のうち,当院外来呼吸リハビリテーションを2年以上継続した12例[対標準1秒量(% forced expiratory volume in one second:%FEV1)39.0±15.3%]に対し長期介入が及ぼす影響について調査することである.【方法】測定項目は体格指数,呼吸機能検査,運動機能評価の各項目とし,baseline,1年後,2年後,5年後の4群において後方視的に比較・分析した.【結果】増悪入院頻度は1回が2例,2回が1例,9例は一度も増悪入院せず経過した.全項目・群間で有意差はみられなかった.Six-minute walk distance,修正ボルグスケールの変化量は緩やかに悪化傾向を示した.呼吸機能,握力,体格指数は維持傾向であった.COPD Assessment Test totalスコアは2年まで改善傾向を示し,5年後にはbaselineより悪化傾向を示した.長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケールは,症例ごとに増減しながらもbaselineを維持した.【結論】セルフマネジメントの不十分さや増悪を繰り返す慢性閉塞性肺疾患患者に対し,地域連携を基盤とした長期介入を行ったことで患者自身の行動変容を引き起こし,増悪入院や再入院の回避につながったと考えられた.

荷重位での股関節内転可動域運動は人工股関節全置換術例の自覚的脚長差を即時的に改善させるか?—ランダム化クロスオーバーデザインを用いた検討

著者: 川端悠士 ,   木村光浩

ページ範囲:P.119 - P.125

要旨 【目的】荷重位での術側股関節内転可動域運動が,人工股関節全置換術例の自覚的脚長差を即時的に改善させるか否かを明らかにすることを目的とした.【方法】術後2週の段階で自覚的脚長差を有する人工股関節全置換術例20例を対象とした.研究デザインはランダム化クロスオーバーデザインとした.非荷重位および荷重位での可動域運動の順番を無作為に割り付け,ベースライン,非荷重位での可動域運動後,荷重位での可動域運動後における自覚的脚長差,術側下肢荷重率,術側股関節内転可動域を比較した.【結果】分割プロットデザインによる分散分析の結果,運動前後条件の主効果が有意であり,ベースラインと非荷重位での可動域運動後に比較して,荷重位での可動域運動後に有意な自覚的脚長差および術側下肢荷重率の改善を認めた.またベースラインから荷重位での可動域運動後における自覚的脚長差の改善の程度は,最小可検変化量を上回る変化であった.【結論】荷重位での股関節内転可動域運動は,自覚的脚長差を即時的に改善させる可能性が示唆された.

症例報告

X線検査から腰部脊柱管狭窄症が疑われた絞扼性伏在神経障害患者

著者: 窪浩治 ,   横井孝 ,   田中誠也 ,   鈴木啓介 ,   高見修治

ページ範囲:P.126 - P.131

要旨 【目的】慢性膝痛の原因としてX線所見から腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal canal stenosis:LCS)が疑われたが,病態に合わせた介入により急速に症状が改善し,絞扼性伏在神経障害の治療的診断に至った症例を経験したので報告する.【対象】対象は約3年前より明らかな誘因なく運動時に右膝関節内側上顆付近に疼痛が出現,徐々に増悪した70歳台後半男性.【経過】間欠性跛行や体幹運動による症状変化がなく,神経支配領域と症状出現部位の不一致からLCSは否定的であった.症状出現部位が伏在神経の支配領域と一致し,内転筋管においてTinel様徴候陽性,内転筋管を構成する筋の柔軟性が低下していることなどから,主治医より絞扼性伏在神経障害の可能性が最も高いと判断された.推察した病態に合わせた理学療法と生活指導により急速に痛みは消失し,主治医より絞扼性伏在神経障害の治療的診断に至った.【結論】痛みの原因となる疾患が複数推測される場合,適切な介入のためには理学所見を含めた各種検査結果の十分な評価による鑑別診断が重要であると考える.

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目次

ページ範囲:P.6 - P.7

文献抄録

ページ範囲:P.132 - P.133

第33回「理学療法ジャーナル賞」発表

ページ範囲:P.104 - P.104

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.112 - P.112

バックナンバー・次号予告のお知らせ

ページ範囲:P.136 - P.137

編集後記

著者: 福井勉

ページ範囲:P.138 - P.138

 機能解剖が理学療法にとって重要であることは今さら論じるまでもないが,構造と機能,器質と機能のような対語からは,静と動の関係性あるいは個と全体のような連続性や連鎖も想像できる.なぜここに筋があるのかという素朴な疑問は尽きないものである.これらの学びに関して,坂井先生からは「日本語で解剖学を学習できるのは実は大きなアドバンテージである」という言葉をいただいた.東南アジアに行くとそのことを痛切に感じる.

 一方で,われわれがその恩恵に浸りきって,母国語で学ぶことができるよさが,今後のわが国のグローバル化にとっての足枷にならないように祈りたくなるもなる.解剖用語がない国では,ないがために英語で学習し,その結果として世界共通で使用できるメリットを有することはあちこちで耳にする.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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