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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル56巻11号

2022年11月発行

雑誌目次

特集 回復期リハビリテーション病棟 これからの役割と戦略

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1266 - P.1267

 回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)は,急性期と生活期の中間に位置し,積極的かつ集中的リハビリテーションの提供によりADL向上と住み慣れた地域において少しでも長く自立した社会参加できることを目的に,多職種が協働して取り組むための病棟である.2025年の医療需要推計に基づいた地域医療構想,地域包括ケアシステムの推進により,今後,回復期病棟にはどのような役割が期待されるのか.回復期病棟の第一線でご活躍されている先生方に現在取り組まれている事例をご紹介いただき,今後の回復期病棟の役割と戦略を検討するにあたっての一助としたい.

回復期リハビリテーション病棟の変遷とこれからの役割

著者: 村永信吾

ページ範囲:P.1268 - P.1273

Point

●回復期リハビリテーション病棟は,「リハビリテーション前置主義」に向け介護保険制度施行と同時に2000年に制度化された

●地域完結型医療に向け,医療計画制度,地域医療構想などが推進されるなか,アウトカム評価を導入し,リハビリテーションの質向上に向けた病棟づくりが進められている

●複雑化する入院患者の個別ニーズに対応したアウトカム達成に向け,多職種・多施設での協働による包括的リハビリテーションが期待される

回復期リハビリテーション病棟におけるチームビルディング

著者: 後藤伸介

ページ範囲:P.1274 - P.1280

Point

●チームビルディングとは,パフォーマンスの高いチームをつくることである

●チーム機能の向上のためには,スタッフの個性などを踏まえて組織環境の整備と体系的な教育を行う必要がある

●チーム方針に沿った業務をデザインし,その日常的な経験によってチーム行動が学習,醸成される

歩行自立に向けた多職種連携の取り組み

著者: 星野高志 ,   小口和代 ,   伊藤正典 ,   田中元規 ,   宗像沙千子 ,   池内健 ,   野原聡 ,   西明子

ページ範囲:P.1281 - P.1289

Point

●回復期リハビリテーション病棟における歩行自立判定には,客観的評価と観察評価を組み合わせた多職種での自立判定プロセスが重要である

●転倒事例から学び,プロセスを随時更新していく

●プロセスの定着には細かな工夫とスタッフの成長が不可欠である

回復期リハビリテーション病棟における活動性向上のための工夫

著者: 福江亮

ページ範囲:P.1290 - P.1298

Point

●高齢化・重症化していく入院患者に対し,限られた期間内に住み慣れた地域にソフトランディングさせるためには,多職種が連携し安全かつ段階的に患者の活動性を高めていく

●患者の活動性を高める工夫として,リハビリテーション時間以外の過ごし方について目標を設定し,共有する

●入院中だけでなく,退院後の活動性の維持・向上が重要である.退院後の環境を想定した施設外練習や,退院後の転倒防止などリスク管理の視点も活動性向上に必要である

回復期リハビリテーション病棟における栄養管理とリハビリテーションの連携

著者: 高芝潤

ページ範囲:P.1299 - P.1304

Point

●回復期リハビリテーション病棟における栄養サポートチームには,システムとチーム医療が重要である

●栄養障害は日常生活活動に影響を来す可能性がある

●栄養障害の対象者には栄養の適切な投与量や方法,タイミングを設定することが重要である

回復期リハビリテーション病棟における心臓リハビリテーション連携

著者: 山本智史 ,   遠藤宗幹

ページ範囲:P.1305 - P.1310

Point

●回復期リハビリテーション病棟における心臓リハビリテーションはまだ確立されていない

●従来の心臓リハビリテーションへの移行や心不全再発予防を含めた退院支援が重要である

●回復期リハビリテーション病棟としての日常生活機能の改善と従来の心臓リハビリテーションの両面を考慮したリハビリテーションが重要となる

回復期リハビリテーション病棟におけるロボティクスおよびテクノエイドセンターの役割

著者: 佐藤義文

ページ範囲:P.1311 - P.1316

Point

●近年,リハビリテーション用のロボットが臨床的に利用されるようになった

●ロボティクスリハビリテーションを通じ,機能・能力回復を促せるようになった

●退院支援においてもテクノエイドデバイスは有効で,患者や地域への情報提供が肝要である

回復期リハビリテーション病棟での就労支援と自動車運転再開に向けた取り組みと課題

著者: 廣澤全紀 ,   山川諒太

ページ範囲:P.1317 - P.1325

Point

●就労を支援する医療チームの一員として,就労支援の流れを理解し,関係するリハビリテーション資源の把握や情報共有などの連携が求められている

●回復期リハビリテーション病棟入院中から就労準備性を意識し,患者が就労した生活を具体的に想像して課題に対する準備を怠らない姿勢が重要である

●自動車運転再開を支援する医療チームの一員として,関連法規を理解し,安全な交通社会への復帰に向けた積極的なかかわりが求められる

Close-up MCID

MCIDとは何か

著者: 宇田和晃

ページ範囲:P.1328 - P.1333

はじめに

 目の前の対象者のある評価(アウトカム)の測定値がほかの対象者と比較して差があった場合や時間経過で変化があった場合,これらの差や変化が対象者にとってどのような意味があるのか(効果があったのかなかったのか,正常なのか異常なのかなど)思いを巡らせることは,リハビリテーション専門職にとって日常的なことである.このとき,各アウトカムの差や変化について,多くの対象者に適用することが可能な基準値があれば,観測された差や変化を解釈するのに利用できるかもしれない.この基準値の一つとして提案されているのが,本稿で解説するminimum clinically important difference(MCID)である.

 本稿では,まずMCIDの概念をその有用性の観点から概説し,次にMCIDの推定方法の考え方と代表的な方法を解説する.

脳血管障害と機能評価指標におけるMCID

著者: 熊谷謙一

ページ範囲:P.1334 - P.1337

序論

 MCID(minimal clinically important difference)は,治療効果を判断する基準の一つであり,臨床試験において,臨床的重要性を反映する患者立脚型評価の改善の程度のベンチマークとして使用されている1).過去数十年で医療研究の重点は統計学的有意性から臨床関連性へと変遷しており2),このためにMCIDが重視されるようになった.

 一方,MCIDは比較的新しい概念であることや,類似用語や算出方法に多様性があることなどにより解釈が困難になっている.上記のように,MCIDは本来臨床試験の効果判断基準であるが,このわかりにくさのためにMCIDの数値のみが強調され,臨床場面での治療目標と捉えられやすい印象を筆者は受けている.

回復期リハビリテーション病棟における運動器疾患と脳血管疾患のMCIDの比較

著者: 中口拓真

ページ範囲:P.1338 - P.1340

 臨床的に意義のある最小差(minimal clinically important difference:MCID)は,臨床的な効果判定指標として注目されている.MCIDのなかでもアンカー法で算出された数値は特に重要であり,アウトカムの反応性として解釈する場合がある1)

 MCIDの解釈は統計学的な分布から算出する標準誤差(standard error of measurement:SEM)と混同されることも多いが,アンカー法で算出されたMCIDはSEMや最小可検変化量(minimal detectable change)とは別の意味をもつ.本稿では,回復期リハビリテーション病棟で介入頻度の高い脳卒中患者と運動器疾患患者のアンカー法で算出されたMCIDについて解説する.

連載 とびら

多業種とともに成長する

著者: 西村英亮

ページ範囲:P.1263 - P.1263

 医療現場で長く仕事を続けると,よくも悪くもいろいろな出来事に慣れてくる.その結果も含め,経験年数が進むにつれてモチベーションに変化が見られることは当然である.もし皆さんの現在がそうであったとしても至極自然なことだと思ってよい.立場が変われば求められることも変化し,その変化のたびに自分を変えていく努力をし,試行錯誤しながら毎日を終わらせていくこと,これはとても大切なことである.ただその繰り返しに余裕ができ,物足りなさを感じて今までにない刺激を求めている方がいれば,その方には自分が不得意としている新しい分野に飛び込むこと,多業種とともに学ぶことをお勧めしたい.

 そもそも医療現場において理学療法士だけで完結できるような課題はほぼない.医療の現場で20年以上勤務して理学療法士の限界が見えてきた私が,さらなる成長のために飛び込んでいった場所は,これまで経験の少ない介護・福祉の分野であった.

画像評価—何を読み取る? どう活かす?・第11回

急性心不全

著者: 西原浩真 ,   岩田健太郎

ページ範囲:P.1255 - P.1260

症例情報

患者:78歳男性

現病歴:7月中旬から夜間の寝苦しさや労作時呼吸困難の訴えが増え,徐々に日中の活動量も減っていた.入院前日,寝室から5m離れたトイレへ移動するのも息苦しくなってきた.翌朝に同居の娘が,患者が寝室で動けなくなっている状態を発見し,救急要請した.搬送時は意識障害あり,収縮期血圧91/34mmHg,平均血圧53mmHg,心拍数130bpm,酸素飽和度84%であった.慢性心不全の急性増悪からの心原性ショックと診断され,入院後,非侵襲的陽圧換気を導入,輸液負荷,強心薬,昇圧薬による薬物治療が開始された.

理学療法のスタート—こうやってみよう,こう考えていこう・第11回

現実的な目標を立てるために行う情報整理のポイント/患者さんの暮らしや文化—理学療法士世代とのギャップ

著者: 三宅貴志

ページ範囲:P.1342 - P.1346

新人さんではない指導者の方へ

 COVID-19の蔓延により,臨床実習は大きく影響を受けました.実習の制約は,学生が理学療法士へ,新人が理学療法士へ変貌する過程で大切なことは何かを振り返るきっかけになったとも言えます.

 新人理学療法士の緊張と戸惑いの要因は,技術的なことや患者さんとの対話など,さまざまです.しかしCOVID-19に臨床実習の機会を制約された本人たちは,それ以前の新人との違いを実感することはできません.私たち現場指導者は,新人なら当然のことまで「実習経験量のせい」と捉えてしまうかもしれません.本連載は,入職1,2年目の新人理学療法士を応援すべく,日常の臨床で出会うエピソードを提示し,理学療法のおもしろさ・難しさ・ポイントを伝えたい,と企画しました.

臨床実習サブノート 退院後から振り返るゴール設定—推論を事実と照合して学ぶ・第6回

在宅復帰 車椅子自立

著者: 二瓶健司

ページ範囲:P.1350 - P.1356

はじめに

 回復期リハビリテーション病棟入院中に,車椅子レベルで早期在宅復帰をめざした症例について,退院後どのような生活を過ごしているかも含めご紹介します.今回のポイントは,「入院中における自宅訪問」と「退院後の生活空間を見据えたアセスメント」です.それによって,ゴール設定がどのように変わる可能性があるかをお伝えします.

私のターニングポイント・第34回

日々の無力感と焦燥感の先に

著者: 小口和弘

ページ範囲:P.1341 - P.1341

 理学療法士人生のターニングポイントなどあっただろうかと初めて考えてみました.ただ残念なことに,エピソード記憶が脆弱な私にとってそれはとても難題で,これまでに執筆された方々のような,センセーショナルなエピソードが一つも思い浮かびませんでした.ただ,病院に就職しての数年間,日々無力感に苛まれていたことは強烈な感情体験として残っています.

 私は養成校卒業後,田舎の小さな病院に就職しました.そこで運動器疾患から脳血管疾患の入院患者さんなど幅広く担当させていただきました.最初の1年ほどは日々の業務に忙殺されましたが,2年目で少し余裕が出た頃に気づき始めます.「あれ,リハビリテーションが全然成立していない」.多くのセラピストが駆け出しでそう思うようですが,私もご多分に漏れず気づいてしまいました.

My Current Favorite・8

農業にかかわるなかで再考した「食の重要性」

著者: 粂原由梨

ページ範囲:P.1347 - P.1347

現在の関心事は?

 私の実家は祖父母の代から米農家であり,米だけでなく自宅で食べる野菜なども栽培している.最近,祖母が高齢になったため,私も農業の手伝いを始めた.農業にかかわるなかで,自身が口にするものを意識し始めたことが,食に対して関心をもったキッカケである.

 農薬や食品添加物の日本の使用率はトップレベルであり,健康面への問題が指摘されている.何を摂取し,何を避けるべきかを考えていくと,その理由が,食べ方や咀嚼,消化器系に至るまで関連する.さらにそうして選んだ食物が身体の動きや軽さとリンクすることを自身の身体や臨床の場で経験することが多い.高齢者のフレイル予防やスポーツ選手に対する栄養はトピックスに挙がることが多いが,その他の方々にとっても食は重要項目である.しかし,私たち理学療法士の食に対する知識・情報不足は否めない.

原著

歩行動作の時間的・空間的パラメータと膝関節の力学的負荷,加速度関連指標との相互関係

著者: 松田友秋 ,   新保千尋 ,   加藤浩

ページ範囲:P.1357 - P.1364

要旨 【目的】歩行中の時間的・空間的パラメータと,膝関節の力学的負荷や加速度を用いた評価指標との相互関係を検討すること.【方法】健常成人男性17名を対象とした.動作課題は,歩幅と歩行率を調整した17条件の直線歩行とした.測定項目は立脚期の外部膝関節内反モーメント(knee adduction moment:KAM)と,下腿上部の加速度のroot mean square(RMS)とjerk cost(JC)とした.各変数間の相互関係は主成分分析を用いて検討した.【結果】歩行速度と歩行率,RMS,KAM力積,矢状面合成成分のJCは第1主成分に,歩行比と歩幅,KAM第2ピーク値は第2主成分に分類された.また,KAM第1ピーク値と側方成分のJCはそれぞれ独立した主成分に分類された.【結論】歩行速度や歩行率などの時間因子は,膝関節の動揺性や持続的な力学的負荷,矢状面の円滑性に関連した評価指標として活用できる可能性が示唆された.一方で,歩行比や側方成分のJCは,歩行速度などの時間因子とは異なる側面の評価指標として活用できる可能性が示唆された.

報告

臨床実習指導における2:1モデルの成否に対し実習生同士の関係性が及ぼす影響—スクリプト化された協同を用いた指導方法の実践報告

著者: 髙木武蔵

ページ範囲:P.1365 - P.1370

要旨 【目的】2:1モデルでの実習指導において,実習生同士の関係性が実習の成否に与える影響および良好な関係性を構築するための指導方法についての検討を行った.【方法】当院で2:1モデルでの実習を行った4ペアの実習生に対し,実習生同士の関係性および実習の成否について半構造化面接を実施した.またそのうち2ペアにはスクリプト化された協同を用いた指導方法を採用し,良好な関係性の構築に寄与したかどうかを検討した.【結果】すべての実習生が「相手との関係性は実習のやりやすさに影響すると思う」と回答した.またスクリプト化された協同を用いた2ペアはいずれも協力的関係を築き全員が2:1モデルを支持したのに対し,ほかの2ペアでは競争意識を感じ1:1モデルを支持する回答もあった.【考察】2:1モデルにおいて,相手との関係性は実習の成否に影響を及ぼす可能性が示唆された.またスクリプト化された協同を用いた指導は実習生同士の良好な関係性の構築に寄与したと考えられる.

ひろば

理学療法学者の存在意義

著者: 奈良勲 ,   山本大誠 ,   吉井智晴

ページ範囲:P.1371 - P.1371

 学者とは,辞典による表現の違いはあるが,「何らかの学問の研究や教授を専門とする人およびその職業人の総称であり,研究者および学問専門家」と定義されている.英語ではscholarであるが,ラテン語のstudeoに由来する.これは学生(student)のことでもあり「熱意のある者,努力する者」との意味になる.また,学生は初学者とも呼ばれるため,学者の卵であるともいえるのではないだろうか.余暇を過ごすことや哲学などの講義が行われた場所(学校)を意味するラテン語のscholaは,ギリシャ語のskholeに由来する.

 人類は太古の時代から,自然界の現象や自身の人体の構造などに関心を抱き続けてきた.歴史上,古代オリエント,古代インド,古代中国をはじめとするさまざまな文明圏において,これらの関心事項を理解するための知識や経験を蓄積してきた.つまり,学問の始まりは哲学(philosophy)であり,徐々に科学(science)による観察や実験に基づく体系的な学問として自然哲学や実験哲学が駆使されてきた.今日でも「科学」は,自然科学・人文科学・社会科学の総称として用いられている.それらの学者のなかで,いまだブラックボックスとされているのは脳機能である.学者には脳科学者と称する人々も存在しており,それらの学者の研究成果が解説されているが,自身の脳機能についてどれほど認知されているのかと疑問を感じることがある.

対象者と共同的に理学療法を展開するためにマイクロアグレッションを自覚する

著者: 喜多一馬 ,   楠田菜緒子

ページ範囲:P.1373 - P.1373

 マイクロアグレッションとは,「ありふれた日常のなかにある,ちょっとした言葉や行動や状況であり,意図の有無にかかわらず,特定の人や集団を標的とし,人種,ジェンダー,性的指向,宗教を軽視したり侮辱したりするような,敵意ある否定的表現」1)とされるものである.近年,差別や偏見をめぐる議論が盛んになっているなか,注目されている.

 例えば,ジェンダーにかかわるマイクロアグレッションとしては,明らかなものとしてセクシャル・ハラスメントがあるのはもちろんのこと,家事や育児を女性の役割として押し付けることや結婚しているかシングルかを前提とした会話を行うこともその範疇であり,あるいは,これらの存在を否認して問題がないことにしてしまうこともマイクロアグレッションに該当するものである.また,これらは意図的で他者を傷つけることを目的にしているものだけが存在するのではなく,非意図的で一見すると無害あるいは無垢であるような存在のものもあり,発する側が気づかないことも多いものである.

書評

—石井直方(監修)渡邊裕也(著)—「下肢と体幹の筋がよくわかる基礎ノート」

著者: 山田実

ページ範囲:P.1327 - P.1327

 「思ったより時間がかかってしまった.けど納得がいく本が出来上がった」,著者の渡邊先生が本書を片手に私に言った言葉です.その言葉の意味は,すぐにわかりました.現場への想いを込めた充実した内容,224頁で構成される圧巻の情報量,試行錯誤を繰り返したであろうわかりやすい文章表現,渡邊先生らしさが存分に詰まった,率直に「素晴らしい」と感じた一冊.サルコペニアやフレイル対策を目的とした書籍は数多くありますが,ここまで網羅的かつ臨場感のある書籍は他に類を見ません.書評は二つ返事でお引き受けしました.

 「“使えるエビデンス”を持ってください」,医療機関,介護施設,さらに地域のそれぞれの現場で勤務されている方々に対して,私がよくお伝えする言葉です.Evidence-based medicine(EBM:科学的根拠に基づく医療)という言葉が身近になり,医療・介護・病気予防の場面では根拠を持った対応が求められるようになりました.近年では,多くの良質な情報が報告されるようになり,またインターネットの普及も相まったことで,情報へのアクセスが飛躍的に容易になりました.しかし同時に,情報過多とも言われる現在において,適切な情報を取捨選択することが難しいのも事実.いくら多くの知識・情報を抱えていても,目の前の対象者にそぐわない内容であれば,何の役にも立ちません.つまり,“使えないエビデンス”ではなく“使えるエビデンス”を持っておくことが重要になります.

—紀伊克昌(監修)金子断行(著)—「近代ボバース概念による正常発達分析—脳性まひの治療示唆」

著者: 大槻利夫

ページ範囲:P.1349 - P.1349

 ボバース概念を日本に紹介し,発展させてこられた紀伊克昌先生のもとで長期にわたり脳性まひの治療や,セラピストをはじめとするリハビリテーション関係者の指導・育成およびご家族の指導に携わってこられた金子断行氏が,姿勢・運動制御の発達をベースにした近代ボバース概念による脳性まひの評価・治療介入のための解説書を執筆された.

 最初,成人分野で働いている私が書評を書くことに戸惑いを感じていたが,本書を読んで納得した.すべての章で,成人分野での中枢神経系に問題を抱える患者の評価,治療介入にもすぐさま用いることができる内容になっている.本書の「序」にある「赤ちゃんが示すパフォーマンスには無駄なものはひとつもない,すべての運動や感覚が次の段階に進む跳躍台であり,二足直立にむけての準備となっている」,これは重力に抗して二足直立を獲得していく治療介入を日々行っている成人分野のセラピストにとっても,患者さんの反応を見ていく際に重要な視点だと考えている.

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目次

ページ範囲:P.1264 - P.1265

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1298 - P.1298

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.1376 - P.1377

編集後記

著者: 村永信吾

ページ範囲:P.1378 - P.1378

 私が理学療法士になりたての1990年頃,急性期以降に専門的リハビリテーションを受けるには,自宅から遠く離れた地方の専門施設へ転院することが一般的でした.しかし,2000年,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)が制度化されてからは,順調に回復期病棟が増加し,住み慣れた地域においても専門的リハビリテーションが受けられるようになってきました.

 これからは,これらの地域において少しでも長く自立した生活と社会参加を可能とする安全で効果的な質の高いリハビリテーションの提供が期待されることでしょう.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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