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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル56巻2号

2022年02月発行

文献概要

Close-up 自律神経

自律神経の知識が理学療法士に必要な理由

著者: 鈴木郁子1 鈴木慶1 大森啓之1 湯口聡1

所属機関: 1日本保健医療大学保健医療学部理学療法学科

ページ範囲:P.213 - P.217

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はじめに

 理学療法の大きな目的は,患者の運動機能を回復させることであろう.そのため理学療法士は骨格筋,関節やそれらに分布する運動神経に着眼することが多い.ただ運動機能の維持には,まずもって身体の器官を調節する自律神経の支えが欠かせない.

 患者のリスク管理の観点からも自律神経の知識は必要になる.理学療法士は運動療法や物理療法を通じて患者の機能回復にあたるが,そのとき医療行為を受けている側の患者の身体状況は,自律神経の制御下にある血圧や心拍などバイタルサインを介して把握される.バイタルサインすなわち自律神経の働きは,患者が日常的に服用している薬に影響されることもあれば,加齢,情動,サーカディアンリズムなどによっても変動する.仮に高齢者の圧受容器反射が若年者に比べ低下しやすいことを知らなければ,患者を臥位から座位に急に移しただけで血圧が下がってしまう事態に術者は困惑するであろう.

 そもそも理学療法士が診る患者にはパーキンソン病,糖尿病,循環器疾患を患っている人は少なくなく,彼らは起立性低血圧など何らかの自律神経障害を併発していることが多い.高齢者の起立性低血圧などで最初に検討すべきは非薬物治療とされる1,2).とりわけ運動療法は推奨される治療法の一つである1〜4).運動に際し骨格筋から分泌されるインターロイキン-6やミオスタチンなどのマイオカインは治療に効果的で,自律神経の関与が指摘されている3,5).高齢者のフレイルにも自律神経がかかわっている可能性が示唆されている2).このように患者の自律機能の改善に取り組むうえでも,さらには高齢者の心身の健康を維持するためにも,今後の超高齢社会で活躍する理学療法士には自律神経の正確な知識が求められよう.

 本稿では自律神経系の基礎について概略を述べる.

参考文献

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11)Spencer NJ, et al:Enteric nervous system:sensory transduction, neural circuits and gastrointestinal motility. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2020;17:338-351
12)Mayer E(著),高橋 洋(訳):腸と脳—体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか.紀伊国屋書店,2018
13)鈴木郁子(編著):やさしい環境生理学—地球環境と命のつながり.錦房出版,2019

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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