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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル56巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

特集 筋—理学療法士の視点から捉える

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.272 - P.273

 筋力は日常生活に必要不可欠であり,これまでさまざまな評価方法や筋力を増加させる方法が研究されてきた.これまでは量的に捉える方法が主であったが,近年では研究の進歩により,新たな質的評価や従来禁忌とされてきた疾患への適応の拡大,その他のデバイスとの併用などが行われるようになっている.本特集では,各テーマにおける最新の根拠とその臨床応用について整理する.

筋力の量的評価

著者: 嶋田誠一郎

ページ範囲:P.274 - P.278

Point

●筋力評価は今昔を問わず理学療法士にとって必要不可欠な手段である

●これまで理学療法の臨床で行われてきた筋力の評価方法には技術発展や社会的必要性に応じた変遷があった

●ハンドヘルドダイナモメーターの普及と測定方法の標準化の取り組みに伴い,目標と筋力の関係が明瞭化してくる

超音波画像診断装置を用いた筋の質的評価

著者: 工藤慎太郎 ,   堤真大 ,   野田逸誓 ,   河西謙吾

ページ範囲:P.279 - P.284

Point

●骨格筋の柔軟性や滑走性という性質を超音波画像診断装置により定量的に評価することが可能になっている

●筋機能の評価においては筋周囲の疎性結合組織や脂肪組織の存在を考慮することが重要になる

●骨格筋の柔軟性や滑走性の評価により,理学療法介入も変化が生じる

表面筋電図を用いた筋の質的評価

著者: 加藤浩

ページ範囲:P.285 - P.290

Point

●筋の質的評価として表面筋電図周波数パワースペクトル解析がある

●wavelet変換を用いた時間・周波数解析は動作時の筋の質的評価に適している

●股関節疾患患者の歩行時初期の周波数変化は中殿筋廃用性筋萎縮の程度と相関する

高齢者と筋力

著者: 池添冬芽

ページ範囲:P.291 - P.300

Point

●高齢者は筋力低下により日常生活活動制限を来す危険性が高くなる

●高齢者の筋力低下には筋骨格系因子や神経系因子に加え,代謝・内分泌系因子や感覚機能,個人因子など,さまざまな因子が関与している

●筋力低下はフレイルやロコモティブシンドロームの主たる要因である

脳血管障害と筋力

著者: 下瀬良太 ,   田村正樹

ページ範囲:P.301 - P.306

Point

●痙縮の定義には速度依存性の筋緊張増大だけではなく筋長依存性の筋緊張増大も含まれ,共同運動などの運動機能障害にも痙縮の要素は混在している

●痙縮を伴う筋の筋力評価には特化したものがなく,一般的に行われている等尺性筋力測定や等速性筋力測定などの定量的な測定が有効である

●痙縮を伴う筋に対して筋力トレーニングを行うことで痙縮が増悪することはなく,むしろ脳血管障害の回復に対して有効である

パーキンソン病および類縁疾患と筋力

著者: 清水裕斗 ,   菊地豊

ページ範囲:P.307 - P.319

Point

●パーキンソン病患者の筋力低下は中枢性要因,末梢性要因,加齢性要因から捉えられる

●パーキンソン病患者の適切な筋力評価には,症例の運動症候のサブタイプ,筋収縮様式,関節角度・角速度,服薬状況を踏まえた評価が求められる

●パーキンソン病の筋力低下に対してはレジスタンストレーニングの有効性が一部示されているのみで,背景要因別にみたアプローチの開発が期待される

脳性麻痺に対する筋力の捉え方

著者: 馬屋原康高

ページ範囲:P.320 - P.325

Point

●脳性麻痺患者では,思春期や若年成人期にかけて筋力や歩行能力が低下する可能性がある

●脳性麻痺患者に対する筋力トレーニングによって,痙縮が悪化する可能性は低い

●脳性麻痺患者に対する筋力トレーニングは,筋力を増強させ歩行能力を改善させる可能性がある

反復末梢神経磁気刺激による筋力増強

著者: 藤田寛 ,   土山和大 ,   谷川広樹 ,   大野真之介 ,   小西花奈 ,   江口諒 ,   加賀谷斉

ページ範囲:P.326 - P.330

Point

●筋力増強の方法には運動療法と物理療法があり,積極的な運動療法が行えない患者にとって物理療法による筋力増強は重要である

●物理療法による筋力増強には電気刺激が用いられるが,刺激時に皮膚に発生する疼痛のために十分な刺激を与えることができない場合が多い

●磁気刺激は,電極を用いずに筋収縮を誘発することができ,疼痛が少ないことから電気刺激に勝る有効な治療手段となる可能性がある

筋力と日常生活活動

著者: 山﨑裕司 ,   津田泰路

ページ範囲:P.331 - P.335

Point

●自立閾値以上の筋力では,筋力の大小は動作能力に大きな影響を与えない.自立閾値を下回ると筋力低下に従って動作能力は低下する

●等尺性膝伸展筋力でみた場合,自立閾値・下限閾値は,連続歩行で0.40・0.25kgf/kg,階段昇降で0.50・0.25kgf/kg,椅子からの立ち上がりで0.35・0.20kgf/kgである

●筋力に立位バランス能力を加味することで,より正確な歩行能力の判別が可能となる

Close-up 痙縮

痙縮

著者: 正門由久

ページ範囲:P.336 - P.343

 リハビリテーションにとって古くて新しい問題である痙縮について,その定義,病態の複雑さ,評価など,あらためて多角的な視点からご解説いただきました.

連載 とびら

ストロマトライトの独り言

著者: 飯田有輝

ページ範囲:P.269 - P.269

 ずいぶん前のことだが,オーストラリアのハメリンプールを訪れた.ここは生きたストロマトライトの群生地として知られている.ストロマトライトはシアノバクテリアの集合体で,ハメリンプールの海岸に無数に鎮座している.そんなものをなぜ見に来たかというと,太古の地球で酸素が作り出される光景を見てみたいと思ったからだ.シアノバクテリアは地球で最初の光合成生物で,27億年前に誕生し古代大気に酸素をもたらした.ストロマトライトは見た目は大きめの岩石にしか見えないが,海中ではポロリと気泡を出していて生命体であることがわかる.「こんな少しずつで?」と億単位の年月の流れを思い,遠く水平線に目を移したのを覚えている.

 先カンブリア紀の生物はほぼ嫌気性で酸素は生命を脅かす猛毒でしかない.そんなものを出し続けるシアノバクテリアはおそらくはた迷惑な隣人であったに違いない.そのなかでミトコンドリアと呼ばれる細胞小器官を携え,酸素のなかで生きられるようになった真核細胞がいる.このミトコンドリア,紅色細菌の一種が原始的な真核細胞に取り込まれ「細胞内共生」したもので,宿主細胞とは別のDNAを持った器官である.取り込まれて細胞内にとどまったのか,ミトコンドリアが自ら潜り込んだのかは不明だが,おそらくこのシステムができ上がるには長い年月がかかり,芸術家が失敗を重ねた先に最高傑作を生み出したときの奇跡に近いドラマがあったのだろうと推測する.

画像評価—何を読み取る? どう活かす?・第3回

人工股関節全置換術

著者: 川端悠士

ページ範囲:P.265 - P.267

症例情報

患者:69歳,女性

診断名:左人工股関節全置換術後(後方アプローチ,後方関節包・深層外旋六筋の縫合あり),両変形性股関節症(右:進行期,左:末期)

現病歴:普段は病院の看護助手として勤務している.2年前より左股関節痛が出現し,近医を受診し鎮痛薬内服にて保存的に加療中であった.数か月前より左股関節痛が増強し,仕事の継続が困難となったため,左人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)目的で入院となる.

既往歴・合併症:脂質異常症

スポーツ外傷・障害の予防・第3回

シンスプリント

著者: 中宿伸哉

ページ範囲:P.346 - P.347

はじめに

 シンスプリントは,主に繰り返されるジャンプやランニングによって脛骨内側縁中下1/3に生じる疼痛である.Medial tibial stress syndrome(MTSS)または脛骨過労性骨膜炎とも呼ばれている.脛骨疲労骨折は,その初期症状や発生機序がシンスプリントと類似するため,理学所見に加え定期的な観察が必要である.

理学療法のスタート—こうやってみよう,こう考えていこう・第3回

さわる・みる・つたえる—理学療法士の仕事/うまくいかない経験もリアルなのです

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.348 - P.351

新人さんではない指導者の方へ

 COVID-19の蔓延により,臨床実習は大きく影響を受けました.実習の制約は,学生が理学療法士へ,新人が理学療法士へ変貌する過程で大切なことは何かを振り返るきっかけになったとも言えます.

 新人理学療法士の緊張と戸惑いの要因は,技術的なことや患者さんとの対話など,さまざまです.しかしCOVID-19に臨床実習の機会を制約された本人たちは,それ以前の新人との違いを実感することはできません.私たち現場指導者は,新人なら当然のことまで「実習経験量のせい」と捉えてしまうかもしれません.本連載は,入職1,2年目の新人理学療法士を応援すべく,日常の臨床で出会うエピソードを提示し,理学療法のおもしろさ・難しさ・ポイントを伝えたい,と企画しました.

臨床実習サブノート 診療参加型臨床実習—「ただ見ているだけ」にならないように!・12【最終回】

在宅

著者: 阿部将之

ページ範囲:P.353 - P.357

在宅における理学療法の考え方

 在宅での理学療法を進めるうえで,対象者を患者ではなく生活者と捉える生活モデルという考え方があります(図).生活モデルはおおまかに「脳卒中モデル」,「廃用症候群モデル」,「認知症モデル」の3つに分類されます1).「脳卒中モデル」とは脳卒中のように発症を機に急激に生活機能の障害を来すもので,脳卒中でだけではなく骨折なども含まれます.「廃用症候群モデル」は明らかな転機が不明確で徐々に生活機能が低下してしまうタイプで,自宅に閉じこもってしまう方に多くみられます.「認知症モデル」は多様な経過を示すため2つのモデルのように明確なモデル化はされませんでしたが,アルツハイマー病のように変性の進行経路がある程度わかる対象者は時期別に考えることができます.

私のターニングポイント・第26回

環境と仲間に感謝

著者: 磯あすか

ページ範囲:P.352 - P.352

 私は医療機関で数年勤務した後,企業に所属しフィジオセンターで保険外のコンディショニングに携わっています.現在の職場に来たことが一つの「ターニングポイント」と思っています.「患者さんをよくすることがすべて」と思っていた私は「英語は私には関係ない」,「研究発表興味ない」,「人前でしゃべるのは苦手」でした.しかし,フィジオセンターでは,学会エントリーは当たり前,英論文も読む,講習会参加+講師も務める,海外研修にも参加,さらに海外の理学療法士を招致する,という仲間たちと一緒に働くことになりました.

 コンディショニング以外にも,リハビリテーション機器の臨床使用のサポート,メーカーとのやり取り,販売促進ツールの作成,デイサービスの運営,働く方々の腰痛予防対策などを行ってきました.苦手な学会発表や講習会の講師,執筆も経験させてもらいました.まったく興味のなかったことも少しできるようになったのは,環境と職場の先輩を含めた仲間の存在が大きく,このような環境をとてもありがたく感じています.転職前にも刺激を受けた方は大勢いましたが,どこかで他人ごとだったのかもしれません.自分の苦手分野を当たり前にやっている仲間と毎日過ごしていたら,いつの間にか自分もチャレンジするようになっていました.

報告

少年野球選手の肩関節可動域の経時的変化—縦断研究

著者: 桑原基宏 ,   竹中裕人 ,   水谷仁一 ,   後藤慎 ,   伊藤岳史 ,   岩堀裕介

ページ範囲:P.358 - P.363

要旨 【目的】無症候性少年野球選手の肩関節可動域の2年間の経時的変化を調査すること.【方法】小学4年から6年生時と連続してメディカルチェックに参加できた45名を対象とした.肩関節90°外転位内旋角度(2nd internal rotation:2nd IR)・外旋角度(2nd external rotation:2nd ER)を計測し,2nd IRと2nd ERの和を,外転位総回旋角度(total rotation:2nd TR)とし,各学年による比較を行った.【結果】小学4年から6年生時までは非投球測に比べ投球側の2nd IRと2nd TRは有意に低値であり,5年生時と6年生時は非投球測に比べ投球側の2nd ERは有意に高値であった.【結論】非投球側に比べ,投球側の2nd TRと2nd IRの低下は小学4年生からすでに始まっており,6年生までに変化することはなかった.

症例報告

外傷性肩関節後方不安定症に対する後方Bankart修復術後のリハビリテーション

著者: 辰田明紀 ,   平本真知子 ,   松井知之 ,   東善一 ,   小林靖典 ,   三木茂樹 ,   宮崎哲哉 ,   横田祥吾 ,   畑林大貴 ,   岩崎一真 ,   古川龍平 ,   森原徹

ページ範囲:P.364 - P.370

要旨 症例はアメリカンフットボールのブロックで受傷し,外傷性肩関節後方脱臼と診断され肩関節後方Bankart修復術(arthroscopic posterior Bankart repair:APBR)を施行した2例であった.APBR後のリハビリテーションでは,術後プロトコルを作成し実施した.ポイントは修復した後方関節唇へのストレスを考慮した関節可動域練習(range of motion exercise:ROM ex)と,再脱臼の予防を目的とした動的安定機構を高めるための筋力強化練習の2つとした.ROM exでは修復部へのストレスが少ない外転運動や外旋運動から開始し,6週以降から修復部へストレスが生じる屈曲運動や内旋運動を実施した.筋力強化練習では,術後早期から等尺性収縮を利用した運動を実施し術後の廃用予防を図った.また,前鋸筋や棘下筋などの腱板の作用による再脱臼の予防に着目して筋力強化練習を実施した.その結果,2例ともにROMと徒手筋力テストについて,リハビリテーション終了時に左右差は消失した.2例とも再発なく競技復帰できた.

ひろば

教育への挑戦!!—第二の人生に向けて

著者: 神戸晃男

ページ範囲:P.371 - P.371

 筆者は,養成校を卒業した後に大学病院に39年間勤務して病気や怪我,術後のリハビリテーション医療を必要とする対象者に,理学療法士として長く携わってきた.その間,臨床実習教育,国内外の学術大会での報告,研究論文の公表にも関与してきた.2021年度より,第二の人生として,大学教育に携わることになり,対象者中心の職場から,学生中心の職場に変わることになった.

 病院では,近年,入院期間は以前に比べずいぶん短縮化されてきたが,臨床現場で理学療法士が対象者と日々直に接する時間は,他の医療スタッフよりも長い傾向にある.その間の問診や介入に際して年齢,性別,最近では国籍を問わず,種々の疾病,境遇の方々に対して,機能損傷,ADLはもとより個々人の多様なニーズに適したプログラム,社会参加などを支援することが通常の業務である.症例によっては家族,地域,国籍や文化の違い,特性などにも配慮して対象者の満足度,QOLを勘案した対応が望まれる.当然ながら,エビデンスに基づいた治療技術の選択や指導などを駆使して最大限の治療効果を得るために,日々の生涯学習を通した自己研鑽に励むことの必要性は言うまでもないことであろう.こうした姿勢を貫く信条は,本来,社会人として,かつ国家資格を有するプロフェッションとしての責務であると言われている.

書評

—上杉雅之(監修)長倉裕二,岩瀬弘明(編集)—「イラストでわかる義肢療法」/—上杉雅之(監修)長倉裕二,岩瀬弘明(編集)—「イラストでわかる装具療法」

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.345 - P.345

 「義肢装具療法」として企画されたそうですが,ボリュームが多くなり「義肢療法」と「装具療法」とに分冊されたそうです.確かに,この2冊が1冊になると重々しいですし,初学者たちが文字離れしているこの時代にはそぐわないでしょう.義肢も装具も義肢装具士がかかわり作製されるので1冊にまとめられた書籍であってもおかしくはないのですが,義肢と装具とでは必要とする対象者はまったく違いますし,理学療法士のかかわり方は自ずと異なります.理学療法士の卒前教育に用いられてきたこの類の書籍は義肢と装具とが1つにまとめられており,本書はこれまでの概念を打ち破ったものとして評価できます.

 実習生や新卒者は,装具のことをよく知らない傾向がありますし,装具の適応や装具を用いた運動療法の具体的な方法がほとんど教育されていないと感じます.大切なのはツールとしての装具をどのような対象者にどう使うかであり,それは理学療法士に委ねられているのです.『イラストでわかる装具療法』ではその説明が加わりました.画期的なことです.臨床ではもっと詳しく,もう少しかゆいところに手を伸ばして,という思いはありますが,教科書レベルとしてはこれでよいと思います.教員の立場にしても正直助かるのではないでしょうか.文章もコンパクトですし,多くのイラストが学生の目を引きそうです.

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目次

ページ範囲:P.270 - P.271

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.278 - P.278

バックナンバー・次号予告のお知らせ

ページ範囲:P.374 - P.375

編集後記

著者: 福井勉

ページ範囲:P.376 - P.376

 人の運動は主として筋によってもたらされます.寝返りや立ち上がりといった運動からトップアスリートの高度なパフォーマンスまで,あるいは日常生活でも中枢神経系の高度な制御下で筋は毎日働いています.このように筋を用いることなしに,毎日の活動は行えません.また筋は健康志向の高い現在では一般の方の興味の対象にもなっており,健康情報誌でも専門書と見間違うほどの内容が掲載されています.帰宅途中でジムやフィットネスクラブなどに通う人の数は驚くほど多い一方で,理学療法の対象となる筋力低下は身体へさまざまな悪影響を及ぼします.

 理学療法士としての視点から,筋は評価や治療の,あるいは基礎研究の対象でもあり,恐らく将来もそのようにあり続けるだろうと考えられます.筋力をはじめ,筋の特徴は常に頭に入れておかなければならない必須事項であるともいえます.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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