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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル56巻4号

2022年04月発行

雑誌目次

特集 臨床に活かすニューロリハビリテーション

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.384 - P.385

 伝統ある国際誌として知られる「Neuropsychological Rehabilitation」は1991年に創刊され,神経心理学的症状の評価や発生メカニズムへの言及に加えてそのリハビリテーションがフォーカスされつつあった.その後,神経科学を基盤としたリハビリテーションは今や誰もが知るメインストリームとなり,ニューロリハビリテーションという用語も人口に膾炙することとなった.

 このように比較的短い期間に急速に発展してきたニューロリハビリテーションについて,これまでの知見を整理し,現状の成果を概観し,理学療法の臨床でどのように活用されているか紹介していただいた.

ニューロリハビリテーションと理学療法

著者: 金子文成

ページ範囲:P.386 - P.394

Point

●“Neurorehabilitaion”と“Neurological Rehabilitation”は意味が異なる

●脳神経システムおよびシナプスに関連する可塑性を理解する

●さまざまなテクノロジーは,その治療原理に基づいて使い分けることが望まれる

診断技術の原理と進歩

著者: 山田尚基 ,   渡邉修

ページ範囲:P.395 - P.402

Point

●神経の可塑性に対する新たな治療戦略としてニューロイメージング技術は不可欠である

●神経活動に由来する微細な変化を直接検知できる自由度の高い検査法の開発が期待される

●ニューロリハビリテーションにとって,fMRI,fNIRSは有益なモニターとして機能するが,それぞれの長所,短所,および技術の限界を理解することが重要である

臨床に活かすニューロリハビリテーション Virtual reality

著者: 田邉淳平 ,   網本和 ,   酒井克也

ページ範囲:P.403 - P.410

Point

●VRの種類には非没入型,没入型,さらには拡張現実があり,リハビリテーション介入に応用されている

●VRを用いた介入では安価で簡易的なゲーム機を使用したものが多いが,脳卒中片麻痺患者への麻痺側上肢機能への効果は示されているものの,バランス機能への効果は低く,今後のさらなる検討が必要である

●近年では,脳卒中片麻痺患者に対する拡張現実を使用した視覚性運動錯覚の効果が報告されており,iPadを使用して行えるため,臨床で実施しやすい介入方法である

臨床に活かすニューロリハビリテーション 運動麻痺

著者: 小針友義 ,   村山尊司

ページ範囲:P.411 - P.421

Point

●CI療法は脳の可塑的な変化や神経ネットワークの再構築を促すニューロリハビリテーションである

●時間や期間を短縮し,ボツリヌス療法や電気刺激療法,装具療法を組み合わせることで臨床に活かす機会を増やすことができる

●下肢に対しても応用されており,運動麻痺や歩行能力,バランス能力,身体活動量の改善に有効である可能性がある

臨床に活かすニューロリハビリテーション 歩行能力低下

著者: 荻野智之

ページ範囲:P.422 - P.428

Point

●ロボットリハビリテーションは,脳卒中や脊髄損傷などの歩行障害に対するニューロリハビリテーションの重要な一環である

●歩行練習支援ロボットの種類には,設置型(外骨格型,エンドエフェクタ型)と移動型がある

●体重免荷トレッドミル練習や歩行練習支援ロボットを用いた歩行練習は,亜急性期脳卒中患者の歩行能力向上に有効である

臨床に活かすニューロリハビリテーション 疼痛

著者: 壹岐伸弥

ページ範囲:P.429 - P.433

Point

●中枢性脳卒中後疼痛に対する神経リハビリテーションの科学的根拠は乏しい

●中枢性脳卒中後疼痛のさまざまな病態メカニズムに基づいた臨床観察が重要となる

●感覚識別課題,両側性動作,温冷覚刺激,ミラーセラピー,ラバーハンド錯覚を用いた神経リハビリテーションを紹介する

臨床に活かすニューロリハビリテーション パーキンソン病

著者: 近藤夕騎 ,   鈴木一平

ページ範囲:P.434 - P.440

Point

●修正版Hoehn-Yahrの重症度分類に応じて,大脳基底核を介したもしくは介さない神経回路を意識した理学療法を展開する必要がある

●理学療法は,二次的機能障害・動作障害だけでなく進行予防にも効果を示す

●声かけや環境設定は即時的な効果がある一方で危険を孕むことを理解すべきである

臨床に活かすニューロリハビリテーション 高次脳機能障害

著者: 尾崎新平

ページ範囲:P.441 - P.448

Point

●脳卒中になると脳活動は左右不均衡になる

●非侵襲的脳刺激(NIBS)により刺激した脳部位の活性化や抑制が試みられている

●NIBSと従来のリハビリテーションを組み合わせた治療は,効果的なリハビリテーションの一つとなる可能性がある

Close-up ウィメンズヘルス 産前産後

妊産婦の身体変化とリスク管理

著者: 吉田志朗

ページ範囲:P.450 - P.454

はじめに

 妊娠に伴い,子宮は前上方に向かって増大する.子宮内容(胎児,臍帯,胎盤,羊水)の総量は約5kgに達し,体重は妊娠前に比べ10kg程度増加する.この変化により身体重心が移動し,姿勢の保持や動作時の重心移動などにおいて,妊娠前とは異なる調節がなされる.この結果,関節や骨格筋の疼痛が現れることがある1,2)

 本稿では,産婦人科医の立場から,外見に表れにくい妊娠による血液や臓器の変化について概説し,妊娠中の運動について述べる.妊娠・分娩・産褥管理上の問題として,静脈血栓塞栓症予防の観点から,切迫流産・切迫早産,帝王切開周術期の管理について説明する.なお,「妊婦・産婦・褥婦」の代わりに,いずれの時期にも共通し,胎児と対照をなす「母体」という用語で記述する.

産前女性への理学療法アプローチ

著者: 須永康代

ページ範囲:P.455 - P.458

はじめに

 妊娠中は,内分泌系から呼吸器系,循環器系,筋骨格系にわたり,さまざまな変化が複合的に生じる.本稿では,理学療法を行う場面が想定され,出産後にも影響が及ぶと考えられる筋骨格系の変化に着目して概説する.


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月30日)。

産後女性への理学療法アプローチ

著者: 平元奈津子

ページ範囲:P.459 - P.463

 産後の女性は妊娠・出産・育児による身体機能・体力の低下,極度の疲労などが生じやすく,身体症状の発症や悪化の可能性がある.しかし,育児だけではなく家事なども担うことで,十分な身体の回復が得にくく,また育児休暇中の女性は職場復帰後に今の身体状態で仕事が行えるか,不安を抱えていることが多い.

 第1子出生時の日本人女性の平均年齢は,1980年では26.4歳,2011年に30.1歳,2020年に30.7歳1)であり,40歳以上の第1子出産は35.2%である1).このことから,35歳以上の高齢出産が増え,第1子または第2子出産後に数年で閉経(平均年齢約50歳)や更年期を迎えることとなり,妊娠・出産によるホルモン動態の大きな変化だけでなく,加齢や更年期による女性ホルモン分泌の低下も加わり,産後の身体機能や身体症状に影響を及ぼすことが考えられる.

連載 とびら

「井の中の蛙」にならないために

著者: 三森由香子

ページ範囲:P.381 - P.381

 「踊る阿呆に見る阿呆,同じ阿呆なら踊らにゃ損々」

 一度はどこかで耳にしたことのあるフレーズではないだろうか?

画像評価—何を読み取る? どう活かす?・第4回

変形性膝関節症—典型的な内側型

著者: 森口晃一

ページ範囲:P.377 - P.379

症例情報

患者:68歳,女性

診断名:左変形性膝関節症

現病歴:数年前より左膝関節に軽度の歩行時痛を有するも日常生活に大きな支障のない状態であった.第12胸椎圧迫骨折により入院・加療を終えて,退院より約2か月経過した頃から左膝関節痛が強くなったため,当院整形外科受診,上記診断となる.

既往歴・合併症:第12胸椎圧迫骨折

スポーツ外傷・障害の予防・第4回

足関節内反捻挫

著者: 岡戸敦男

ページ範囲:P.465 - P.467

はじめに

 足関節内反捻挫は,スポーツ活動時に発生する代表的な外傷であり,再発率も高い.予防・再発予防においては,スポーツ動作(動的アライメント)の問題と関係する機能的要因の改善が重要となる.本稿では,足関節内反捻挫の予防・再発予防について解説する.

理学療法のスタート—こうやってみよう,こう考えていこう・第4回

動作介助は介助量が多いつもりで—起居動作能力評価と練習/「立ちましょう」という前に立てるのか? 歩けるのか? 歩いて戻れるのか?

著者: 植野拓

ページ範囲:P.468 - P.472

新人さんではない指導者の方へ

 COVID-19の蔓延により,臨床実習は大きく影響を受けました.実習の制約は,学生が理学療法士へ,新人が理学療法士へ変貌する過程で大切なことは何かを振り返るきっかけになったとも言えます.

 新人理学療法士の緊張と戸惑いの要因は,技術的なことや患者さんとの対話など,さまざまです.しかしCOVID-19に臨床実習の機会を制約された本人たちは,それ以前の新人との違いを実感することはできません.私たち現場指導者は,新人なら当然のことまで「実習経験量のせい」と捉えてしまうかもしれません.

 本連載は,入職1,2年目の新人理学療法士を応援すべく,日常の臨床で出会うエピソードを提示し,理学療法のおもしろさ・難しさ・ポイントを伝えたい,と企画しました.

My Current Favorite・1【新連載】

デジタルヘルスと遠隔リハビリテーション

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.464 - P.464

現在の関心事は?

 2019年6月にデンマークを訪れた際,デジタルヘルスの圧倒的な進歩に驚愕した.それ以降,世界規模で進むデジタル技術の進歩に取り残されないように,何よりも食わず嫌いにならないために,患者目線でテクノロジーを有効活用する方法を知りたいと,日々更新されるデジタルヘルスの最新情報に関心を寄せている.

私のターニングポイント・第27回

サービス業としての理学療法

著者: 稲持裕太

ページ範囲:P.478 - P.478

 執筆の依頼をいただき,私の理学療法人生におけるターニングポイントについて考えてみました.たぶんターニングポイントは,そのときには気づかず,今の自分の価値観に合った記憶のことではないかと考えが至りました.ですので,今の私の価値観に沿って2つの出来事を紹介させていただき,憚りながら理学療法士に対する考えを書いてみたいと思います.

症例報告

著明なすくみ足を認めるパーキンソン病患者に対する臨床推論の実践

著者: 福本悠樹 ,   鈴木俊明

ページ範囲:P.473 - P.477

要旨 症例は,重度のすくみ足により歩行障害が認められたパーキンソン病患者である.動作特徴として,右足尖が床に接地し続けた状態で右股関節と膝関節の屈曲,右足関節底屈と右中足指節関節伸展が生じ,右踵離地する.その後も右足関節底屈と膝関節屈曲が継続することで足尖離地が困難なすくみ足を認めた.動作分析に基づき骨格筋レベルで機能障害の仮説を立て検証した結果,ヒラメ筋の筋緊張亢進と前脛骨筋の筋緊張低下を認めた.さらに表面筋電図測定においては,ヒラメ筋は立脚相で常に活動し,前脛骨筋は踵接地から荷重応答期間のみ活動していた.両筋群に対する理学療法実施後,ヒラメ筋は足尖離地に向けて活動が収束,前脛骨筋も踵接地から荷重応答期と踵離地から足尖離地の二峰性で活動を認めるようになり,いずれも正常な筋活動パターンへと変化し,すくみ足は著明に改善した.動作分析に基づく臨床推論が,すくみ足の改善にも有用であることが示唆された.

ひろば

理学療法士に求められる哲学・倫理学とは

著者: 中村壮大 ,   奈良勲

ページ範囲:P.479 - P.479

 日本に理学療法士が誕生したのが「理学療法士及び作業療法士法」が制定された1965年とすれば,半世紀以上が経過したことになる.そして,同法制定翌年の1966年に第1回理学療法士・作業療法士国家試験が実施された.日本の理学療法士の歴史も55年以上に至り,変遷してきたことに鑑み,理学療法士における哲学・倫理学に関して改めて考察してみたい.

 哲学(philosophy)とは,ギリシア語で愛智の意味であり,古代ギリシアでは学問一般を意味し,近代における諸科学の文化・独立によって,諸科学の基礎づけをめざす学問,生の哲学・実学主義など世界・人生の根本原理を追求する学問となった.また,経験などから築き上げた人生観・世界観,諸科学全体を貫く基本的な考え方・思想とされている.

童話から学ぶ倫理感覚

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.483 - P.483

 古今東西,人間の性善説・性悪説は宗教・哲学分野の命題の一つとして思惟され議論されてきた.しかし,現在に至る過程でその結論は得られていない.なぜなら,人間相互の利害関係は歴史的事実であり,なかなか是正されることはないからである.

 世界各地には童話(昔話)と称する作品群がある.保護者をはじめ,保育士,幼稚園教諭が,一部の話しことばが獲得される1歳前後から就学する6歳頃までの幼少期・幼児期(児童福祉法や母子保健法では,幼児とは1歳から小学校就学の始期に達するまでの者)に童話を読み聞かせる場面を設けている.幼少期は人格形成の基盤となる大切な時期でもあり,上記の関係者のほかに祖父母などのすべての大人の果たす役割はきわめて大きいといえる.

紹介

モンゴルにおける青年海外協力隊としての活動と今後の課題

著者: 竹内寛貴 ,   濵田光佑

ページ範囲:P.480 - P.482

はじめに

 2017年1月から2年間,筆者は青年海外協力隊に参加し,モンゴルのシャスティン国立第三病院(以下,国立第三病院)で理学療法士として活動を行った.同病院のモンゴル人理学療法士ら(以下,カウンターパートら)の質の向上およびリハビリテーションの普及に努めた.今回,国立第三病院での活動と今後の課題について,同国のリハビリテーションへの理解を深めるために報告する.

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目次

ページ範囲:P.382 - P.383

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.482 - P.482

バックナンバー・次号予告のお知らせ

ページ範囲:P.486 - P.487

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.488 - P.488

 日本では,4月は始まりの季節です.多くの人たちが新しい学校で,職場でその第一歩を歩み始めます.スタートラインに立った人たちだけでなく,日々更新されアップデートされる臨床現場では,新たなエビデンス,重要な知見,確実な技術が求められています.それに応えるべく,本号では多様な情報が得られるよう構成されています.

 まず「特集」は「臨床に活かすニューロリハビリテーション」として8編の論文が掲載されています.総論部分である「ニューロリハビリテーションと理学療法」(金子論文)では,NeurorehabilitationとNeurological Rehabilitaionの定義,理学療法への展開として神経可塑性の誘導,関連テクノロジーの活用などについて言及されています.「診断技術の原理と進歩」(山田論文)では,fMRI,fNIRSについて臨床評価との関連が詳細に示されています.各論として「Virtual reality」(田邉論文),「運動麻痺」(小針論文),「歩行能力低下」(荻野論文),「疼痛」(壹岐論文),「パーキンソン病」(近藤論文),「高次脳機能障害」(尾崎論文)の多彩な論説が展開されています.例えば「運動麻痺」では,下肢CI療法の構成要素,エビデンスが自験例とともに紹介されています.また「パーキンソン病」では,二重課題トレーニングを基盤とした臨床的アプローチについて具体的に解説されています.ここですべてを紹介することはできませんが,ほかの論文も読みごたえのあるものばかりです.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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