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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル56巻6号

2022年06月発行

雑誌目次

特集 医療現場におけるサルコペニア・フレイル

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.624 - P.625

 人口の高齢化に伴い,医療現場においてサルコペニアやフレイル合併患者への対応はきわめて重要になった.サルコペニアやフレイルを合併した患者では,理学療法の進行のみならず,主たる疾患の薬物療法や手術療法などの選択にも影響を及ぼす.本特集では,サルコペニア・フレイルが理学療法や疾病の治療そのものにどのような影響を及ぼすのか,また,サルコペニア・フレイルの評価,予防や治療に関する研究はどこまで進んでいるのか,さまざまな診療領域ごとに見ていく.

—エディトリアル—医療現場におけるサルコペニア・フレイル

著者: 神谷健太郎

ページ範囲:P.626 - P.629

はじめに

 サルコペニアやフレイルは,初期の段階では地域在住高齢者を対象とした疫学研究から多くの知見が提供されてきたが,近年では医療現場における重要な問題としてクローズアップされている.

 サルコペニアやフレイルを合併した患者では,近い将来に要介護状態に移行しやすいだけでなく,転倒や骨折,術後合併症,出血や血栓塞栓症,再発・死亡のリスクが高く,さまざまな診療領域において最もハイリスクな患者群に分類される.このことから,最近の多くの診療領域のガイドラインにおいてサルコペニア・フレイルに関する記載が盛り込まれるようになっている.しかしながら,サルコペニア・フレイルを合併した患者は今までの薬物療法や手術療法,リハビリテーション領域の介入研究では除外されてきた患者群であり,いわゆるエビデンスレベルの高い研究に基づく治療指針が示されていないのが現状である.

 上述のように医療現場におけるサルコペニア・フレイルは注目度の高い分野ではあるが,新たな研究成果が報告される頻度も高く,さまざまな疾患を有する患者を対象とする理学療法士が最新の情報をキャッチアップするのは容易ではない.

 本特集では,各分野のトップランナーの先生方に各領域において現在までにわかっていること,実臨床における取り組み,今後の課題などについてご紹介いただいた.これらの記事に目を通すにあたり,サルコペニア・フレイルの定義と基準をこのエディトリアルで紹介する.

脳血管疾患とサルコペニア・フレイル

著者: 野添匡史

ページ範囲:P.630 - P.636

Point

●サルコペニア・フレイルは脳血管疾患発症後に生じるだけでなく,脳血管疾患発症にも関与している

●脳血管疾患の評価に合わせてサルコペニア・フレイルの原因も探索する必要がある

●急性期からサルコペニア・フレイルを予防する取り組みが重要になる

整形外科疾患とサルコペニア・フレイル

著者: 南里佑太

ページ範囲:P.637 - P.643

Point

●変形性関節症におけるサルコペニアとフレイルは,生命予後,手術後の合併症や身体機能に関与する

●骨粗鬆症とサルコペニアの併発はオステオサルコペニアと呼ばれ,転倒,骨折および死亡と関与する

●整形外科疾患におけるサルコペニアとフレイルの予防や治療方法は現在確立していないが,運動療法と栄養療法の併用が有効な可能性がある

呼吸器疾患とサルコペニア・フレイル

著者: 金﨑雅史

ページ範囲:P.644 - P.649

Point

●慢性閉塞性肺疾患をはじめとした慢性呼吸器疾患におけるサルコペニアの有病率は高い

●サルコペニアを合併した慢性閉塞性肺疾患患者における換気病態は,動的肺過膨張の悪化ではなく,浅速呼吸の特徴を示す

●サルコペニアを合併した慢性閉塞性肺疾患患者における呼吸困難の増強は不快感や空気飢餓感,精神的呼吸努力感において観察され,浅速呼吸が呼吸困難の不快感の背景病態であることが示唆される

循環器疾患領域におけるサルコペニア・フレイル

著者: 片野唆敏 ,   長岡凌平 ,   沼澤瞭

ページ範囲:P.650 - P.656

Point

●サルコペニアやフレイルを合併する心不全では予後が悪い

●サルコペニアはフレイルの中核因子であり,心不全の病態と密接に関連する

●フレイル合併心不全の治療では,心不全の標準治療,運動療法,栄養療法が中心となる

内分泌代謝疾患とサルコペニア・フレイル

著者: 浅田史成

ページ範囲:P.657 - P.662

Point

●糖尿病を中心とする内分泌疾患はサルコペニア・フレイルのリスク要因の一つである

●内分泌疾患とサルコペニア・フレイルは相互に関連し悪循環をなす

●内分泌疾患を有する患者のサルコペニア・フレイルの予防・治療には運動,食事の改善が必須である

慢性腎臓病とサルコペニア・フレイル

著者: 松沢良太

ページ範囲:P.663 - P.669

Point

●慢性腎臓病はサルコペニア・フレイルの強力な危険因子である

●末期腎不全患者には定期的な身体機能評価を行う

●末期腎不全患者には身体不活動を是正するための運動療法・指導を行う

がんとサルコペニア・フレイル

著者: 田中伸弥

ページ範囲:P.670 - P.677

Point

●がんはサルコペニアとフレイルを合併しやすく,その合併は機能予後および生命予後を不良にする

●評価可能な方法を用いて予後不良となるリスクが高い患者を早期に発見することが重要である

●サルコペニアとフレイルを有するがん患者には,対象疾患や介入時期を考慮したうえで,運動療法と栄養療法などの多面的な介入が必要である

集中治療領域におけるサルコペニア・フレイル

著者: 中西信人

ページ範囲:P.678 - P.682

Point

●集中治療領域ではサルコペニア・フレイルは約30%に認められる

●サルコペニアの評価にはcomputed tomographyと超音波画像診断装置が有用である

●サルコペニア・フレイルの予防には早期リハビリテーションや神経筋電気刺激療法が有効である

回復期リハビリテーション病棟におけるサルコペニア・フレイル

著者: 井上達朗

ページ範囲:P.683 - P.689

Point

●回復期リハビリテーション病棟入院患者のサルコペニアの有病割合は48〜85%である

●回復期リハビリテーション病棟入院患者のサルコペニアはADL回復や自宅退院を阻害し,医療費を増加させる要因である

●骨格筋量・機能を正確に評価し,全身の運動療法と栄養療法を併用することが現段階で最も効果的なサルコペニアへの介入戦略である

Close-up 身体内滑走

骨の滑走—肩甲骨の動きについて

著者: 斉藤嵩 ,   宮本亮 ,   湯田智久

ページ範囲:P.692 - P.695

はじめに

 ヒトの上肢機能には,投げる・支える・持つなど,さまざまな場面で多様な機能が必要となる.そのため,肩関節は上腕骨,肩甲骨,鎖骨,脊椎,肋骨が複合体として機能し,大きな可動域と安定性が求められる.

 そのなかで,重要な役割を果たすのが肩甲骨である.上肢は肩鎖関節部のみで体幹と連結しており,肩甲骨は胸郭上に浮遊し不安定な状態となっている.そのため,肩関節の問題として肩甲骨の動きが取り上げられることは多い.例えば,Kiblerら1)は肩甲骨の生理・力学・運動の制御不能を表す状態をscapular dyskinesis(SD)と表現し,さまざまな疾患と関連することを報告している.SDが障害の原因か障害の結果として生じるのかは双方考えられるが,肩関節障害において肩甲骨の動きが無視できない問題であることは明らかである.このような点から,肩甲骨に求められることは肩関節のさまざまな機能を維持するために胸郭上をうまく動くことである.本稿ではこの動きを肩甲骨の身体内滑走とし,これらの機能や問題について論述する.


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年6月30日).

筋・腱の滑走

著者: 川口雄一 ,   山﨑敦

ページ範囲:P.696 - P.701

はじめに

 円滑な身体動作には,関節周囲に存在する軟部組織の柔軟性,さらには軟部組織間の滑走が不可欠となる.近年では,超音波画像診断装置(以下,エコー)による臨床評価が行われ,脂肪体や滑液包といった軟部組織の変位や変形,あるいは筋・腱の動態をある程度,可視化できるようになってきた.

 エコーを用いた評価では,解剖学や組織学の基礎知識に加え,運動に関与する筋・腱や軟部組織などの動態の理解が必要となる.本稿では,足部における筋・腱の滑走について概説したうえで,足部からの上行性の運動連鎖について解説する.


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年6月30日).

神経の滑走

著者: 河端将司 ,   宮武和馬 ,   宮田徹

ページ範囲:P.702 - P.706

神経は滑走するのか?

 「神経は滑走するか?」と疑問に感じたら,百聞するよりまずは動画をご覧いただきたい(正中神経:▶動画1,図1).関節運動に伴って,正中神経が長軸上に近位,遠位に移動する様子が見える.筋や骨はあまり動いていないように見えるが,正中神経は手関節や頸部の動きに合わせて移動しており,非常に興味深い.まるで一本の紐が滑り動くように身体内で神経は移動している.神経の「滑走(sliding,gliding)」と「移動(excursion)」は厳密には異なる概念であるが,本稿では「滑走=滑るように進む」として同義で扱うことにする.

 また,神経は引っ張られてゴムのように緊張(伸張)する機能をもっており,これを「伸張(tension,strain)」と呼ぶ.神経が滑走できないと過剰な伸張が生じてしまう1).この「滑走」と「伸張」の相互関係は,神経障害を考えるうえでキーワードとなる神経の機械的機能である.


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年6月30日).

特別座談会

社会の変化に応じた理学療法教育—立法・行政からみた現状と期待

著者: 小川克巳 ,   内山靖 ,   金谷さとみ ,   藤澤宏幸 ,   大西秀明 ,   村永信吾 ,   永冨史子 ,   網本和 ,   堀本ゆかり

ページ範囲:P.707 - P.713

 人口構造や人々の価値観の変化に伴い,今日の理学療法教育には大きな変革が求められています.社会の要請に応えるだけでなく,これからの社会をどう創っていくか,そのためにどのような人材育成が必要なのか,理学療法士自身が設計図を描き,戦略的に取り組んでいく必要があります.

 本座談会では,理学療法士の強みと可能性を踏まえ,4年制大学化を含めた今後の理学療法教育についてご議論いただきました.

連載 とびら

諦めず,念じて進めば道は開ける

著者: 荒木智子

ページ範囲:P.621 - P.621

 年を重ね,理学療法の世界に入ってからの時間が,人生の半分をとうに超えていることに最近気づいた.その間,いつもそばに伴走者がいてくれた.

 第一歩,私の背中を押したのは母だった.センター試験が惨敗に終わり,インフルエンザになり,その後の試験はことごとく残念な結果が続いた.ストレスと免疫力低下からか口内炎が多発,体重は1か月で6kg落ちた.3月半ばの最後の受験,旅費もかかるし,と諦めかけていたら,「受験票が届いたのだから行きなさい」と母の一声.結果,逆転満塁ホームランのごとく,合格した.急展開で大学生活が始まった.

画像評価—何を読み取る? どう活かす?・第6回

人工膝関節全置換術

著者: 森田伸

ページ範囲:P.615 - P.618

症例情報

患者:70歳台,男性

診断名:両側変形性膝関節症(Kellgren-Lawrence分類:右Grade Ⅳ,左Grade Ⅳ)

現病歴:6年前頃より両膝関節の疼痛に対して保存的治療を受けていたが,疼痛が改善せず徐々に両膝関節可動域制限,歩行困難となり当院整形外科を受診した.右膝関節に対して人工膝関節全置換術[total knee arthroplasty:TKA,デザイン:後十字靱帯(posterior cruciate ligament:PCL)温存型(CR型),関節展開:medial parapatellar approach]が施行された.術側の膝関節可動域(他動)として,術前は屈曲130°,伸展−10°,術中(麻酔下)屈曲135°,伸展0°,術後3週屈曲115°,伸展0°であった.

既往歴:高血圧症,骨粗鬆症,変形性脊椎症

スポーツ外傷・障害の予防・第6回【最終回】

ジャンパー膝

著者: 佐保泰明 ,   大桃結花

ページ範囲:P.716 - P.717

はじめに

 膝蓋腱障害はジャンパー膝とも呼ばれ,バレーボールやバスケットボール,陸上など,膝蓋腱に繰り返しの負荷がかかり,とりわけ競技特性としてジャンプや着地動作が多いスポーツで発生頻度の高い障害である1).ジャンパー膝は膝関節伸展機構の障害により発生することが多いため,その予防には膝蓋骨周囲の組織,膝蓋大腿関節のアライメントを確認することが重要である.またジャンパー膝のリスクファクターとして大腿四頭筋やハムストリングスの柔軟性低下2)や,膝蓋骨のアライメント異常として膝蓋骨後傾3),膝蓋骨の高位4)が挙げられることから大腿四頭筋のタイトネスのチェックと膝蓋骨のアライメントを評価し,改善する必要がある.膝関節以外でジャンパー膝を誘発する可能性のある因子として足関節の背屈制限5,6)があり,動作中の下腿の前傾が十分であるかチェックする.また,着地動作としては,接地時間が短く膝関節の屈曲可動域が小さいstiff kneeでの着地7)がリスクとされており,動作の改善も必要となる.最近ではシューズの形状により,fore footで走行する者も増えているためランニング動作の確認も必要である.

 そこで本稿では,リスクファクターを考慮したセルフケアの方法,理学療法士によるチェック項目,スポーツ動作の評価の観点からジャンパー膝の予防について説明する.

理学療法のスタート—こうやってみよう,こう考えていこう・第6回

タイムマネジメントの混乱—段取りや時間の使い方/勉強しても足りない・アドバイスをまとめきれない

著者: 長谷川真人

ページ範囲:P.718 - P.722

新人さんではない指導者の方へ

 COVID-19の蔓延により,臨床実習は大きく影響を受けました.実習の制約は,学生が理学療法士へ,新人が理学療法士へ変貌する過程で大切なことは何かを振り返るきっかけになったとも言えます.

 新人理学療法士の緊張と戸惑いの要因は,技術的なことや患者さんとの対話など,さまざまです.しかしCOVID-19に臨床実習の機会を制約された本人たちは,それ以前の新人との違いを実感することはできません.私たち現場指導者は,新人なら当然のことまで「実習経験量のせい」と捉えてしまうかもしれません.本連載は,入職1,2年目の新人理学療法士を応援すべく,日常の臨床で出会うエピソードを提示し,理学療法のおもしろさ・難しさ・ポイントを伝えたい,と企画しました.

臨床実習サブノート 退院後から振り返るゴール設定—推論を事実と照合して学ぶ・第1回【新連載】

臨床実習におけるゴール設定を考える

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.723 - P.725

正答率99%は何のこと?

 理学療法を実施するなかでの私の最大の目標は,「患者の正確なゴール設定ができる」ということであった.一人の患者を評価してゴール設定した後,それが現実的に達成できたかという割合を正答率とすれば,若い頃は正答率70%程度だったものが年をとるごとに90%をゆうに超えるようになった.

 正答率を高めて楽しんでいるのではなく,科学的な理学療法を提供するためである.目標もなく,ただ漫然と理学療法を実施するなら,方法をまねて誰にだって理学療法はできる.正答率100%とは言わないが,99%にするために「さまざまな研究」が日々行われているとも言えるのである.では,正答率を高めるものを具体的に挙げてみよう.

私のターニングポイント・第29回

つなぐ,つなげる,つながるための受け皿になるために

著者: 小谷伊織

ページ範囲:P.715 - P.715

 理学療法士人生を振り返るなかで私には3つのターニングポイントがありました.

 1つ目は,研修会に参加した際,講師の先生が患者さんに対し治療デモンストレーションを行う場面を拝見したときのことです.車椅子で入室され介助歩行されていた患者さんが,1回の介入で見守りでの歩行が可能となっていました.なぜよくなったのかは当時の私には理解できませんでしたが,患者さんが笑顔になり,患者さん自身が自発的に動こうとされたこと,そして講師の先生が「歩けないから歩行練習」,「歩けないから歩行補助具」ではなく,「なぜ歩けないのか」の中身を患者さん自身と向き合っていた姿ははっきりとわかりました.この経験が私の学びの原点であり,自分の能力の限界が患者さんの限界とならないよう向き合い,向き合えるようになるために学び,成長し続けたいと思えたターニングポイントです.

My Current Favorite・3

障がい者スポーツ

著者: 塚田鉄平

ページ範囲:P.726 - P.726

 障がい者スポーツにかかわり20年近く経ち,現在,北海道理学療法士会の障がい者スポーツ支援部部長を務めています.

 TOKYO 2020では,パラリンピックがたくさんの方の目に触れ,身体と道具が融合した素晴らしいパフォーマンスに魅了されたことと思います.

報告

人工膝関節置換術後の患者満足度向上に向けた取り組みの効果検証

著者: 岡智大 ,   今井亮太 ,   山本洋輔 ,   和田治

ページ範囲:P.727 - P.732

要旨 【目的】本研究の目的は,人工膝関節置換術(knee joint replacement:KJR)後の患者満足度向上に向けた取り組みの効果検証を行うことである.【方法】あんしん病院で施行したKJR患者を対象とし,調査期間をPhase 0〜3に分類した.Phase 0では術前の患者教育,Phase 1では術後早期からの電気刺激療法を併用したトレーニング,Phase 2では術後2か月での不満足要因の聴取,入院中の患者教育,Phase 3では満足度低値症例の担当スタッフへのスタッフ教育を実施した.患者満足度は術後3か月,術後6か月に評価した.患者満足度の比較にはKruskal-Wallis検定およびSteel-Dwass検定を用いて検討した.【結果】Phase 0とPhase 3の患者満足度を比較した結果,術後3か月では80.3点から90.6点,術後6か月では83.5点から90.6点に向上していた(ともにp<0.01).【結論】KJR後の患者満足度向上には,膝機能や運動機能の改善だけでなく,個々の目標や心理状態に沿った患者ベースの取り組みも有効であることが示唆された.

超音波画像診断装置を用いた肩峰下における大結節通過時の肩甲上腕関節角度の検討

著者: 為沢一弘 ,   小野志操 ,   佐々木拓馬 ,   永井教生

ページ範囲:P.733 - P.737

要旨 【目的】上腕骨大結節骨折や腱板修復術後の理学療法では,肩関節屈曲・外転時に大結節が肩峰下を通過する角度を知ることが重要であるが,肩甲帯マルアライメントがこの角度に影響するかは不明である.今回,肩峰下の大結節通過角度と屈曲・外転の差,肩甲帯肢位が通過角度に変化を及ぼすのか否かを検討した.【方法】対象は,健常者10者20肩とした.仰臥位にて大結節の肩峰下通過時の屈曲・外転角度および肩峰床面距離(acromion-floor distance:AFD)を測定した.屈曲と外転の通過角度の差と,AFDが通過角度に影響するかをAFD中央値で2群に分けて各項目を比較検討した.【結果】大結節の通過角度は屈曲時のほうが有意に大きかった.AFDと通過角度の間には負の相関を認めた.AFDの大小で分けた2群間でも各項目で有意差を認めた.【結論】若年健常者を対象として行った本研究では,関節可動域練習は屈曲方向で,かつ肩甲骨を良肢位としたうえで実施するほうが安全であることが示唆された.

症例報告

予期不安をもつパーキンソン病患者のすくみ足に対する認知行動療法と運動療法を組み合わせた介入効果—ケーススタディ

著者: 太田経介 ,   中城雄一 ,   森若文雄 ,   萬井太規

ページ範囲:P.738 - P.743

要旨 【はじめに】すくみ足(freezing of gait:FOG)に情動的側面の関与が疑われたパーキンソン病(Parkinson's disease:PD)患者に対し,認知行動療法を併用した運動療法介入が奏効した症例を経験したため報告する.【症例紹介】症例は,発症から3年で急速にFOGが進行したPDの70歳台男性.理学療法介入に加え(A期),認知行動療法を適用した(B期).FOGに対する情動的側面の改善のため,負の思考と行動に隔たりをもたせること(認知的脱融合),FOGからの回避行動の制限(受容)を図った.【結果】A期では,身体機能面への理学療法介入にて姿勢制御能力は向上したが,FOGの変化は乏しかった.B期では,FOGの出現回数および持続時間の減少,不安尺度の改善を認めた.【結論】FOGに対する介入は,身体機能面や認知的側面および情動的側面といった種々の要因から介入する必要がある.情動的側面の関与が示唆されるFOG症例に対する認知行動療法は有用である可能性が示唆される.

臨床のコツ・私の裏ワザ

深層外旋筋から考える股関節屈曲可動域制限の捉え方のコツ

著者: 辻川勇次 ,   清水正一

ページ範囲:P.744 - P.745

股関節の重要性

 股関節は大腿骨と臼蓋からなる臼状関節であり,関節の構造上幅広い可動域を有している.しかし,その反面,荷重関節であり可動域だけでなく安定性も必要とされる関節である.特性上,幅広い関節可動域を有しているため可動域制限が生じるとさまざまな動作が制限され,代償動作が出現することにより二次的な機能不全につながる.そのため,股関節の可動域制限を早期に改善することが臨床上重要であると考えられる.本稿では臨床上よく接する股関節の屈曲可動域制限の捉え方について,深層外旋筋に着目しながら報告する.

書評

—柏木哲夫(著)—「老いを育む」

著者: 鷲田清一

ページ範囲:P.691 - P.691

 病も老化も心の持ちようだと,お医者さんから言われるとうれしくなる.

 柏木先生はたとえばこんな例をあげる.同じ交通事故に遭い「むち打ち症」のかなりきつい症状に苦しむ二人の患者さん.その一人は,「えらい目に遭いました.でも,頭を打たなかったし,外傷もなかったので,それはよかったです」と言う.もう一人は,追突した運転手が許せないと憤り,なぜこんなめに遭わないといけないのかと「恨みの感情」をつのらせる.このあとの入院治療と回復の経過は二人のあいだで大きく異なったという.もちろん前者の退院のほうがうんと早かった.医師は存外,こころをしっかり診ているのだ.

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目次

ページ範囲:P.622 - P.623

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.656 - P.656

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.748 - P.749

編集後記

著者: 横田一彦

ページ範囲:P.750 - P.750

 本号の特集は「医療現場におけるサルコペニア・フレイル」です.各種疾患の治療に当たる医療現場において,新たにサルコペニア・フレイルの発生するリスクを高めているのではないか,疾患自体や各種治療に伴うこれらの発生リスクに理学療法士はどのように立ち向かっていけるのか,という問題意識から本特集は企画されました.エディトリアルを書いていただいた神谷健太郎先生をゲストエディターにお迎えして,多種多様な疾患・障害と領域でのサルコペニア・フレイルとその対策について論じていただきました.疾患ごとの特徴が整理され,その共通点と違いについて医療現場のみならず施設や地域サービスで勤務する読者の方々にもお役に立つものと考えます.多くの論文で栄養療法との密接な関係が明らかにされており,今後は理学療法と栄養療法の体系的な整理と方法論の展開が期待されます.

 Close-upは「身体内滑走」です.超音波診断装置が理学療法士にも身近なものになり,それまで見えなかったものを動的に把握しながら理学療法を進めることも広まってきました.今回は,骨,筋・腱,神経について,具体的な部位を挙げ,動画も示していただきながら,身体内滑走と理学療法評価と治療を述べていただいています.また,本号では特別座談会を企画・掲載できました.一読必見です.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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