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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル56巻9号

2022年09月発行

雑誌目次

特集 運動イメージ—科学的根拠に基づく臨床実践をめざして

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1002 - P.1003

 臨床において,運動イメージが理学療法と併用される機会は多い.しかしながら,運動イメージを用いた理学療法が経験則のみに基づいて臨床場面で使用されている例も少なくない. Evidence-based physical therapy (EBPT)という概念のもと,運動イメージを用いた理学療法のエビデンスを構築・強化するためには,運動イメージに関する知識をリアルタイムでアップデートしていく必要がある.そこで本特集では,理学療法の視点から運動イメージ研究の最前線について解説することで,EBPTに基づく運動イメージの臨床応用を加速させるための一助としたい.

運動イメージと理学療法

著者: 菅田陽怜

ページ範囲:P.1004 - P.1009

Point

●運動イメージには筋感覚性運動イメージと視覚性運動イメージがある

●さまざまな疾患や病態を対象として運動イメージを併用した理学療法が実践されている

●システマティックレビューにより,運動イメージと理学療法の併用効果に関するエビデンスが近年増加している

運動イメージ能力の客観的評価法

著者: 森内剛史 ,   西啓太

ページ範囲:P.1010 - P.1016

Point

●運動イメージ評価は,対象者の「運動イメージ能力評価」と,課題に対してどの程度鮮明にイメージできているかを評価する「鮮明度評価」に分類される

●鮮明度評価は,運動イメージ中の脳内の活動性を可視化できる神経生理学的評価との間に関連性がある

●運動イメージトレーニングの実践に向け,まずは,対象者が運動イメージトレーニングに適合するかを「運動イメージ能力評価」により判定し,その後,「鮮明度評価」によって運動イメージ中の鮮明度を担保することが重要である

運動イメージ能力の加齢による変化

著者: 野嶌一平 ,   矢口憲

ページ範囲:P.1017 - P.1023

Point

●加齢に伴い運動イメージ能力の全般的な低下がみられる

●運動イメージ課題実施時の脳活動領域は運動実施時の脳活動領域に類似する

●運動療法の補助的ツールとして運動イメージを利用することにより,イメージする運動そのものの学習だけではなく立位やバランスといった全身性運動の改善も期待できる

運動イメージの発達特性

著者: 儀間裕貴 ,   浅野大喜 ,   信迫悟志

ページ範囲:P.1024 - P.1031

Point

●運動イメージは,胎児期からの身体表象の獲得を基盤として幼児期に顕著に発達する

●脳性麻痺や発達障害を有する児の運動イメージには,それぞれの特性がある

●発達支援においては,運動イメージ特性の適切な評価に基づいた介入が求められる

運動イメージにかかわる脳内機構

著者: 酒井克也

ページ範囲:P.1032 - P.1038

Point

●運動イメージを行うと運動に関連する領域が活動する

●運動イメージには筋感覚的運動イメージと視覚的運動イメージがあり,それぞれ活動する脳領域が異なる

●運動イメージと運動実行,運動観察,運動錯覚では共通した脳領域が活動するとともに,それぞれ特徴的な脳領域が活動する

運動イメージと脊髄機能

著者: 文野住文 ,   鈴木俊明

ページ範囲:P.1039 - P.1045

Point

●運動機能の改善には脊髄神経機能の賦活が必要である

●運動イメージは脊髄神経機能を高める有効な治療法である

●運動イメージトレーニングの効果を上げるためには,イメージする運動の強度や感覚入力,想起方法を考慮することに加え,運動観察を併用するとよい

運動イメージと電気刺激療法の併用による脳卒中患者への治療アプローチ

著者: 髙橋容子 ,   川上途行

ページ範囲:P.1046 - P.1052

Point

●運動イメージと電気刺激の併用による効果のメカニズムには,皮質脊髄路の興奮性変化や,脊髄相反性抑制の増強などによる,神経の可塑的変化が関与していると考えられる

●脳卒中患者において,上肢運動イメージと電気刺激の併用による,上肢運動機能の改善効果が報告されている

●下肢においては,運動イメージの介入効果は脳卒中患者において検討されているものの,電気刺激との併用効果の報告は限られており,新しい研究が期待される

運動イメージを利用した歩行トレーニング

著者: 北地雄 ,   原島宏明 ,   宮野佐年

ページ範囲:P.1053 - P.1062

Point

●運動イメージを利用した歩行トレーニングは歩行速度を改善させる可能性がある

●歩行速度だけでなく適切な運動イメージ能力評価を行い,導入時期,使用するイメージの種類,イメージする効果器,実施姿勢,実施量,頻度,期間などを考慮し行うことで,より効果が得られるかもしれない.しかし,これらも確たるものではないため,今後の研究が必要である

Close-up 神経筋疾患update—症例に学ぶ

神経筋疾患の疼痛へのアプローチ

著者: 篠原佑太 ,   石川愛子 ,   川上途行 ,   小杉志都子

ページ範囲:P.1064 - P.1068

神経筋疾患における疼痛へのアプローチ

 国際疼痛学会では,痛みは「組織損傷が実際に起こったときあるいは起こりそうなときに付随する不快な感覚および情動体験,あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験」と定義されている1).慢性疼痛とは「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み,あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」と定義されている2).痛みの持続期間は慢性疼痛に定義されていないが,一般的に3か月以上を超えて症状が持続する病態を指していることが多い3,4)

 慢性疼痛は,心理的苦痛や機能障害と深く関連している.「疼痛の悪循環」を示す病態モデルとして知られる恐怖-回避モデル(fear-avoidance model)においては,恐怖,破局的思考,自己効力感の低下などの痛みに対するネガティブな反応に基づいて身体的・社会的活動を過度に回避した結果,痛みが慢性化することが説明されている5,6)(図1)7〜9).また,この悪循環を断つことが慢性疼痛の改善につながると示されている5,6)

神経筋疾患の呼吸へのアプローチ—侵襲的人工呼吸療法管理の筋萎縮性側索硬化症患者における側臥位でのmechanical insufflation-exsufflation 実施例

著者: 芝﨑伸彦

ページ範囲:P.1069 - P.1074

はじめに

 神経筋疾患における呼吸障害は,胸郭の狭小化や呼吸筋の運動障害のために十分な吸気および呼気が行えないために起こる拘束性換気障害が原則である.呼吸筋の運動障害のために,自己排痰が困難になると容易に肺炎を併発する.肺炎を予防するために,理学療法士はさまざまな気道クリアランス手技を提供できる準備をする必要がある.

 2017年に第228回European Neuromuscular Centre(ENMC)国際ワークショップがオランダで行われ,神経筋疾患における気道クリアランス技術について2本の論文をまとめている1,2).これらの論文では,機器による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation:MI-E)を気道クリアランスの理想的な手技と結論づけ,推奨している1,2).本稿では,MI-Eの初期導入について,初心者から上級者まで議論ができる内容の臨床現場での実施例を紹介する.本論文が,それぞれの読者のMI-E導入の再考の契機となれば幸いである.

神経筋疾患への歩行アプローチ

著者: 古関一則

ページ範囲:P.1075 - P.1079

神経筋疾患に対する運動療法,歩行練習の意義

 神経筋疾患は脳・脊髄,末梢神経・下位運動ニューロンの障害などの神経由来の疾患,神経筋接合部や筋肉自体の病変によって運動に障害を来す疾患群の総称であり,その症状や予後は疾患により異なる.多くの疾患では症状・障害の進行が認められ,病期に応じて運動機能の維持や,健康増進のための各種運動や補装具の使用,呼吸や嚥下,コミュニケーションへの介入(代替手段の検討を含む),在宅生活を行うための環境整備などさまざまな支援が必要となる.

 神経筋疾患患者では身体活動量の低下が生活の質(QOL)や健康関連のアウトカムに悪影響を及ぼすとされている1,2).そのため,不活動に伴う廃用による身体機能低下を予防し,よりよい身体状態を保つためにも,病期に応じて適切な運動療法を提供することが重要である.歩行練習は神経筋疾患患者の筋力,バランス,歩行能力の維持・改善に効果的である3〜5).その一方,内部疾患の合併の有無や過用性筋萎縮への配慮が必要な疾患もあるため,疾患の特徴や個人の運動耐容能に応じ最適な運動負荷量を決める必要がある6〜11)

連載 とびら

古来よりもつ生体機能に思いを馳せる

著者: 椿淳裕

ページ範囲:P.999 - P.999

 われわれの体には運動を行いやすく,また継続しやすくするためのさまざまな仕組みが備わっていることに,知れば知るほど驚かされ,のめり込んでいきます(ここでは,断りのない限り全身的な一過性の有酸素運動を指すとご理解ください).

 運動には筋の収縮が必要です.筋が収縮するにもエネルギー源であるグルコースや酸素が必要であり,これらは血液によって筋に運ばれます.運動をすると,自律神経系の作用により一回拍出量が増加し,心拍数も増えます.これらの変化により,運動に関与する筋へ血液が届けやすくなります.同時に,運動に関与しない臓器への血流を減らすことも行われています.運動による筋の収縮と弛緩は静脈血を心臓に戻しやすくしますが,静脈血が心臓に多く戻れば心臓が送り出す血液も増え,運動に関与する筋も多くの血液供給を受けることができ,好都合です.運動によって血管が広がりやすくなることは活動する筋にとって有利です.

画像評価—何を読み取る? どう活かす?・第9回

間質性肺炎(特発性肺線維症)

著者: 有薗信一 ,   片岡健介

ページ範囲:P.991 - P.995

症例情報

患者:74歳,男性

診断名:間質性肺炎(特発性肺線維症)

現病歴:長引く咳の精査のために撮影した胸部X線にて異常を指摘され,4年前(70歳時)に紹介受診となった.高分解能computed tomography(high-resolution computed tomography:HRCT)にて間質性肺炎と診断され,引き続き外科的肺生検を行い,種々の臨床情報を含めた総合判断にて特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)と診断された.診断後から抗線維化薬(ニンテダニブ)内服による治療を継続してきたが,緩やかな病状進行に伴い,労作時呼吸困難が悪化してきた(図1).

身体所見:身長153cm,体重52kg,SpO2 93%,呼吸数20回/分,両側下肺にfine crackleを聴取

6分間歩行試験:430m,最低SpO2 80%

理学療法のスタート—こうやってみよう,こう考えていこう・第9回

先輩理学療法士から学ぶお喋り・説明・指示タイミングのテクニック/「大丈夫」,「がんばります」—患者さんの遠慮や疲労に配慮するには

著者: 岩﨑武史

ページ範囲:P.1082 - P.1086

新人さんではない指導者の方へ

 COVID-19の蔓延により,臨床実習は大きく影響を受けました.実習の制約は,学生が理学療法士へ,新人が理学療法士へ変貌する過程で大切なことは何かを振り返るきっかけになったとも言えます.

 新人理学療法士の緊張と戸惑いの要因は,技術的なことや患者さんとの対話など,さまざまです.しかしCOVID-19に臨床実習の機会を制約された本人たちは,それ以前の新人との違いを実感することはできません.私たち現場指導者は,新人なら当然のことまで「実習経験量のせい」と捉えてしまうかもしれません.本連載は,入職1,2年目の新人理学療法士を応援すべく,日常の臨床で出会うエピソードを提示し,理学療法のおもしろさ・難しさ・ポイントを伝えたい,と企画しました.

臨床実習サブノート 退院後から振り返るゴール設定—推論を事実と照合して学ぶ・第4回

在宅復帰 歩行自立

著者: 那須高志

ページ範囲:P.1088 - P.1092

 Aさんは85歳の男性,身長160cm,体重47kgです.8月中旬,自転車運転中に転倒し,大腿骨頸部骨折(Garden分類Ⅱ)を受傷しました.翌日,骨接合術(ハンソンピンロック)が施行され,3週間後に退院し,約2か月が経過しました.

 お仕事は定年を迎えた後,していません.妻と二人暮らしで,散歩やスーパーマーケットでの買い物が趣味です.手術直後のAさんの希望は「受傷前と同様の暮らしがしたい」でした.

私のターニングポイント・第32回

「本当にやりたいこと」を大切に

著者: 島田雅史

ページ範囲:P.1087 - P.1087

 私は今年で臨床14年目を迎えました.ちょうど前半の約7年は地域の総合病院で勤務し,その後現職である大学病院に移り忙しくも充実した日々を過ごしています.そんな14年間を振り返ったとき,転職する決断に至ったある期間の出来事が私のターニングポイントだと思っています.

 在学中および理学療法士として働き始めた頃の私の目標は,「大学教員」として教育・研究に携わることでした.臨床経験を積みながら修士課程を修了し,臨床6年目の年に母校の教員採用に応募しました.しかしながら結果は書類選考時点でふるいにかけられ落選.その後はひとまず博士課程に進学することを検討し,ある大学院の研究室を学生時代の恩師2名とともに見学させていただく機会を得ました.その際に研究室の先生から「教員になりたいならうちの大学に来てみるか?」とのお誘いを受けました.誘っていただいた真意はわかりかねますが,当時私は結婚を考えていたことや,これまで働いていた場所と大学のある地域がとても離れていたことを理由に即答することができず,大きなチャンスを逃してしまいました.恩師の一人からは「この場で即答できないならそれは本当にやりたいことではないんじゃないか」との厳しいご指摘も受けました.そのときは素直に受け入れられなかったと同時に,教員になってその先何がしたいのか明確な答えが出せず,半年ほどはこれまでのキャリアや目標に自信をなくし,日々悩んでいたことを覚えています.

My Current Favorite・6

アプリケーションによる情報収集とタスク管理

著者: 庄司寛

ページ範囲:P.1093 - P.1093

現在の関心事は?

 スマートフォン(以下,スマホ)やデバイスの革新的な進歩により生活は大きく変わりました.スマホ一つで情報を手軽に入手でき,世界中の人とsocial networking service(SNS)などでかかわれるようになりました.便利さゆえ失敗も多い.勉強するはずが,動画を見てしまい1時間以上経過してしまい後悔した経験はないだろうか? そんな私も,情報という波に飲まれてしまいました.アプリケーション(以下,アプリ)を試すものの数日経つと使わなくなる日々を繰り返し,生産性は一向に上がりませんでした.現在はアプリを駆使し情報を整理することが少しだけできるようになったので紹介します.

報告

超音波画像を用いた末梢動脈疾患における下肢骨格筋の組成と6分間歩行距離との関連

著者: 湯口聡 ,   越智裕介 ,   相方由香理 ,   井手迫光弘 ,   前田紫乃 ,   旭竜馬 ,   榊聡子 ,   谷口将人

ページ範囲:P.1095 - P.1102

要旨 【目的】末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)の下肢骨格筋の組成を超音波診断装置によって測定し,健常者と比較した.また,超音波所見と6分間歩行距離(6-minute walking distance:6MD)の関連を検討した.【方法】対象は血行再建術を目的に入院したFontaine Ⅱの男性PAD症例10名であり,虚血肢13肢,非虚血肢7肢の計20肢(平均78.5歳)と男性健常者38名38肢(平均76.0歳)である.PADの超音波画像は左右の腓腹筋内側頭から皮下脂肪厚,筋厚,筋輝度および補正筋輝度を求めた.また,6MDは手術前日に測定した.健常者における超音波画像は別日に同様の方法で測定し,健常者の右下肢(健常肢)とPADの虚血肢と非虚血肢の3群において超音波所見を比較した.さらに,PADの6MDと超音波所見の相関係数を求めた.【結果】健常肢と虚血肢の超音波所見では筋厚,筋輝度および補正筋輝度に有意差を認めた.また,PADの6MDと筋輝度(r=−0.74,r2=0.54,p=0.02),補正筋輝度(r=−0.72,r2=0.53,p=0.02)に相関関係を認めた.【結語】PADの虚血肢における腓腹筋の筋組成は健常者と異なり,筋組成は6MDと関連した.

症例報告

理学療法と適切なフットウェア使用が有効であった多発性糖尿病性足潰瘍の1例

著者: 平井勝 ,   大熊克信 ,   渡邉亜紀 ,   宮田聡子

ページ範囲:P.1103 - P.1108

要旨 糖尿病は,末梢閉塞性動脈疾患の危険因子の1つであり,動脈硬化や動脈閉塞を有する糖尿病患者では,皮膚潰瘍や壊疽から切断に至る症例も少なくない.今回筆者らは,右足の壊疽によりすでに右下腿を切断し,義足を装着している糖尿病患者に生じた難治性の潰瘍症例を経験した.本症例は,左第1,5趾,左踵の3か所に潰瘍を形成し,血管内手術に加えて,理学療法士による靴の選択や調整と右義足を健側として使用する歩行方法に改善を図ることで,歩行能力とQOLを維持したまま下肢救済ができた.理学療法士の役割は,運動療法に主眼が置かれる傾向にあるが,患者の病状に合ったフットウェアの選択は,社会生活をサポートする点で非常に重要である.当院では,理学療法士が外来診療に加わっている.そのメリットは,通常の診療では気づかれない患者個々の生活上の問題点を明確にし,それらを解決に導ける点であると考えている.

縫工筋と内側広筋間における伏在神経膝蓋下枝の絞扼性神経障害が疑われた1症例—超音波診断装置を用いた病態解釈

著者: 吉井太希 ,   赤羽根良和

ページ範囲:P.1109 - P.1114

要旨 [目的]伏在神経膝蓋下枝(infrapatellar branch:IPB)障害が起因となり,歩行時に膝関節前内側部痛を呈した症例を経験したため報告する.[症例紹介]症例は30歳台の男性である.縫工筋と内側広筋の間に著明な圧痛とTinel signが認められた.同部位に対して超音波診断装置(以下,エコー)による観察を実施した結果,両筋の滑走不全により,筋間を走行しているIPBに圧迫が生じていた.その一方,徒手的に両筋の滑走運動を促した状態で観察した結果,IPBの圧迫は生じなかった.[理学療法と結果]理学療法は縫工筋と内側広筋間の滑走性を向上させる目的で実施した.その結果,エコー所見では縫工筋と内側広筋間の滑走運動が確認され,IPBの圧迫が生じない様子とともに疼痛は消失した.[結論]IPBの走行次第では,縫工筋と内側広筋間における絞扼性神経障害を招く場合がある.その評価にはエコーが有効であり,圧迫ならびに疼痛が生じない条件を視覚的に検証することで,理学療法が確立し良好な結果が得られたと考える.

ひろば

言語学と理学療法(学・士)

著者: 奈良勲 ,   山本大誠

ページ範囲:P.1115 - P.1115

 言語は世界各地域の文明とともに生まれ,変遷しながら発展した.現在,その数は使用頻度と関係なく国の数以上の6,000あまりに上る.人類誕生時に言語はなく,主に意思疎通は叫び声,ボディランゲージなどが使われ,壁画は文字に代わる記録の方法であった.言語は人類の進化の過程で突然に表れたとの仮説と,一般的に符号化された事象による文化的で社会的な交流を通じて習得された体系だとの仮説がある.

 言語学者ノーム・チョムスキーは,不連続性理論の提唱者だが,このテーマに関して彼は同僚たちのなかで孤立していた.彼は,約10万年前に言語機能が瞬間的に人間の普遍的特性によって発現したという生物学的な言語生得説を唱え,言語をヒトの生物学的な器官によるものと捉えた.そして,その仮説とは別に彼は「生成文法」について研究した.これは演繹的な方法論であり,① 人間の言葉の本質とは何か,② 人間が生まれてから短期間で言葉を覚えるのはなぜか,③ 言語使用の特色は何か,④ 人間の言葉をつかさどる生物学的基盤は何か,の問いを追究した.これらは,それまでの言語学に比べて飛躍的に言語研究の質と精密さを高めたと言われている.

臨床のコツ・私の裏ワザ

肩こりに関係する筋肉に対するセルフケアのコツ

著者: 上田泰久

ページ範囲:P.1116 - P.1117

肩こりに関係する筋肉

 肩こりに関係する筋肉には,僧帽筋・肩甲挙筋・頭板状筋・頸板状筋・菱形筋・棘上筋が挙げられる1).このなかでも,特に僧帽筋上部線維(以下,僧帽筋)と肩甲挙筋の滑走障害は,肩こりを有する症例で問題になることが多い.

 僧帽筋は後頭骨の上項線・外後頭隆起・項靱帯から鎖骨外側1/3に付着し,肩甲骨の挙上・上方回旋に作用する.肩甲挙筋は第1〜4頸椎横突起から肩甲骨内側縁の上部1/3に付着し,肩甲骨の挙上・下方回旋に作用する2).僧帽筋は頸筋膜浅葉,肩甲挙筋は椎前葉と別々の頸筋膜に包まれている.そのため,僧帽筋と肩甲挙筋は別々に触診することができ,この筋間を意識した触診で各筋の滑走性を評価することが重要になる.特に僧帽筋と肩甲挙筋の間には,第XI脳神経の副神経外枝が走行する3)ため,僧帽筋と肩甲挙筋の滑走障害は末梢神経の絞扼性神経障害を引き起こすと推察される.この滑走障害に伴う肩こりでは,筋間の触診が難しいことが多く,セルフケアでは僧帽筋と肩甲挙筋を選択的に収縮させて筋間の滑走性を促すことが重要と考える4)

書評

—安保雅博(監修)原 寛美,髙橋忠志(編集)—「エビデンスに基づくボツリヌス治療—上肢・下肢痙縮に対するリハビリテーションの最適化のために」

著者: 松田雅弘

ページ範囲:P.1081 - P.1081

 脳卒中に代表される中枢神経疾患発症後の上肢・下肢の痙縮に対するボツリヌス治療の保険適用は2010年10月に承認され,今は痙縮の治療には欠かせない薬剤である.多くのガイドラインやレビューに,ボツリヌス治療による痙縮の軽減,関節可動域の拡大,歩行能力・ADLの改善の報告がみられる.特に,「脳卒中治療ガイドライン2021」には「脳卒中後の上下肢痙縮を軽減させるために,ボツリヌス毒素療法を行うことが勧められる」(グレードA)として紹介されている.しかし,ボツリヌス治療の機序をよく知らずに痙縮の臨床症状に役立つことを理解しているだけでは,医師による痙縮の治療手段としての理解で終わってしまう.

 この書籍は,痙縮の病態理解から関節拘縮や痛みのメカニズム,ボツリヌス治療の医学的基礎に加えて,併用されるリハビリテーション技術,理学療法・作業療法,介護負担軽減まで多岐にわたり収載されている.これはボツリヌス治療にあたる医師だけでなく,専門職全員が知っていてほしい知識であるという編集の先生方の意図が明確な書籍である.しかも,今回は医師とセラピストの共同作業という点も注目すべきである.

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目次

ページ範囲:P.1000 - P.1001

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1092 - P.1092

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.1120 - P.1121

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.1122 - P.1122

 運動イメージと聞いて皆様はどんなイメージをもちますか? スポーツにかかわっている方なら,例えばスキーでコブコブのきつい斜面を降りるとき,どのコブを攻めるべきかをいったんアタマのなかで繰り返してイメージすることをイメージするかもしれません.

 神経生理学者の彦坂興秀先生はその著『眼と精神』(医学書院,2003年)のなかで,異なった向きの「手」の絵を見せてそれが右手か左手かを判断する課題での反応時間実験について,自分がその手の格好をするのにかかる時間と同等である(動かすイメージが複雑だと時間がかかる)と紹介されています.このように「運動イメージ」はとても身近なものから,基礎的な研究分野でも焦点が当てられているのです.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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