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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル57巻1号

2023年01月発行

文献概要

Close-up パラリンピックブレイン

パラアスリートの脳研究

著者: 中澤公孝1

所属機関: 1東京大学大学院総合文化研究科(運動神経生理学)

ページ範囲:P.76 - P.80

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はじめに

 筆者の研究グループは,「パラアスリートの脳は神経リハビリテーションの最良モデルである」との視点からパラアスリートの脳の特異性と,それをもたらす神経メカニズムについて研究している.

 オリンピック選手に代表されるエリートアスリートの脳構造・脳機能に特異的な適応が観察されることは旧知の事実であった1).しかしパラアスリートに関しては多くの研究者の注目を集めることがなく,ましてやニューロリハビリテーションとの関連からこれを取り扱う研究は筆者が知る限り皆無であった.

 パラアスリートは例外なく何らかの障害を有する.障害は先天性にせよ,中途にせよ,中枢神経系内に障害由来の可塑的変化を誘導する.この点において,障害がないアスリートと障害があるアスリートには決定的な違いがある.すなわち,パラアスリートの脳においては,傷害由来の可塑的変化と競技トレーニング特異的な可塑的変化があいまって,障害がないアスリート以上に特徴的な変化が中枢神経系内に生じると考えられる.それらの長期にわたる相乗作用の結果が障害特異的かつ競技特異的な脳再編として表出するのであろう.

 さらに,パラアスリートにみられる脳再編は,競技パフォーマンスを最大化するための限界に近い身体トレーニングに加え,勝利や記録突破をめざす高いモチベーションが強く影響していることが容易に想像される.これらがいかなる神経メカニズムのもとに生じるのかを解明することは,リハビリテーションにおいて,より効果的,効率的な機能回復を促す介入法の開発につながるのである.

 リハビリテーションへの再生医療の本格的導入がまさに始まろうとする今日,人間の中枢神経が本来有する再編能力をいかに引き出すのか,この課題解決に向けた基礎研究を加速することが急務と言える.このような視座に立つとき,パラアスリートの脳が神経可塑性とそれを基盤とする神経再編能力を実証する存在であることに気がつく.パラリンピックブレインの表出形は障害特性,競技特性に応じて多様であるが,その背後には統一的な原理が存在するはずである.それを探究することこそ,パラリンピックブレイン研究の本質的意義と言える.

 本稿では,筆者らが近年研究対象としてきたパラアスリートのなかから,パラリンピックスイマーの例を取り上げ,水中環境での運動能力と陸上での運動能力の相違,そしてそれをもたらす神経機序についての仮説を述べる.さらに,その仮説に基づいて実施された脳卒中片麻痺患者のニューロリハビリテーションの例についても紹介する.

参考文献

1)Nielsen JB, et al:The Olympic brain. Does corticospinal plasticity play a role in acquisition of skills required for high-performance sports? J Physiol 2008;586:65-70
2)Nakazawa K, et al:“Paralympic brain”. Compensation and reorganization of a damaged human brain with intensive physical training. Sports(Basel)2020;8:46. doi:10.3390/sports8040046
3)Dietz V, et al:Spastic movement disorder:impaired reflex function and altered muscle mechanics. Lancet Neurol 2006;6:725-733
4)Kamibayashi K, Nakazawa K, et al:Invariable H-reflex and sustained facilitation of stretch reflex with heightened sympathetic outflow. J Electromyogr Kinesiol 2009;19:1053-1060
5)Hjortskov N, et al:Sympathetic outflow enhances the stretch reflex response in the relaxed soleus muscle in humans. J Appl Physiol 2005;98:1366-1370
6)Horslen BC, et al:Effects of postural threat on spinal stretch reflexes:evidence for increased muscle spindle sensitivity? J Neurophysiol 2013;110:899-906
7)Nakazawa K, et al:Effect of different preparatory states on the reflex responses of ankle flexor and extensor muscles to a sudden drop of support surface during standing in humans. J Electromyogr Kinesiol 2009;19:782-788
8)Obata H, et al:Effects of aquatic pole walking on the reduction of spastic hypertonia in a patient with hemiplegia:a case study. Int J Physi Med Rehabil 2017;5:401. doi:10.4172/2329-9096.1000401
9)Nakazawa K:Brain reorganization and neural plasticity in elite athletes with physical impairments. Exerc Sport Sci Rev 2022;50:118-127

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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