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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル57巻12号

2023年12月発行

雑誌目次

特集 疾病・介護予防のための運動療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1392 - P.1393

 運動療法は運動器への効果だけでなく,心血管機能や免疫・代謝機能,荷重支持組織や認知機能などへのさまざまな効果が明らかになってきた.理学療法士は身体活動のみでなく代謝・免疫・認知機能に運動がもたらすさまざまなエビデンスをもとにした介入方法を考案し,運動療法としてアプローチすることで専門性を勝ち得る必要がある.

 本特集では,疾病・介護予防のための運動療法をエビデンスに基づいてご解説いただいた.また,これからエビデンスの構築が期待されている領域については,現状と課題について述べていただいた.

—エディトリアル—疾病・介護予防のための運動療法の基礎

著者: 白谷智子

ページ範囲:P.1394 - P.1396

はじめに

 運動療法は運動器だけでなく,心肺,免疫,代謝,認知などさまざまな機能に対して効果をもつことが明らかになってきた.それは機能の改善だけでなく,予防の効果もある.

 運動不足によりインスリンシグナル伝達が抑制され,インスリンの血糖値低下作用が効きにくい状態(インスリン抵抗性)になる.そして組織内に脂質が過剰に蓄積することにより,脂肪毒性により細胞内ストレスや慢性炎症を引き起こす1).その結果,炎症経路のネットワークが活性化され,インスリン抵抗性,アテローム性動脈硬化症,神経変性の発症や腫瘍増殖を促進し,さらに2型糖尿病,心血管疾患,大腸癌,乳癌,認知症などの「運動不足の疾患群」の発症につながることが示唆されている2).運動不足による筋力の低下とインスリン抵抗性低下が同時に起こる1)と,相乗的に無症候性ラクナ梗塞のリスクが高まる3).また,2型糖尿病患者が高齢になると認知機能障害の危険性が高まる4,5).これらを踏まえると,「運動不足の疾患群」の発症を予防することが重要と考えられる.運動は抗炎症効果があることが推測されており,これら疾患予防の効果に期待が高まる.

 以下に抗炎症効果を発揮するメカニズムを理解するための基礎をまとめた.

糖尿病(生活習慣病)予防のための運動療法

著者: 井垣誠

ページ範囲:P.1397 - P.1402

Point

●2型糖尿病,生活習慣病の病態の一つであるインスリン抵抗性に対して,運動療法は重要な治療手段である

●身体活動は「運動」と「生活活動」で構成され,1日全体のエネルギー消費量の増大を考える場合,「生活活動(ニート)」を増やすことがポイントとなる

●有酸素運動,レジスタンス運動を中心として,患者の生活状況に応じて細切れ運動,座位時間の短縮を意識した運動療法が有効である

骨粗鬆症予防のための運動療法

著者: 加藤諄一 ,   栗原豊明 ,   木村慎二

ページ範囲:P.1403 - P.1408

Point

●骨粗鬆症は原発性と続発性に大別され,それぞれ異なる発症メカニズムが存在し,予防および治療のガイドラインが作成されている

●骨粗鬆症を予防する運動療法として,レジスタンス運動や荷重を伴う有酸素運動が有効であり,これらを複合した運動療法が骨密度の維持および上昇,さらに骨折を引き起こす転倒の予防に有効である

●骨粗鬆症の予防に関する運動療法のエビデンスは,近年で大きな変化はないものの,高齢化が進む本邦において転倒や骨折による介護状態を予防する観点からも重要であり,個人の社会的背景に配慮した運動処方を行う必要がある

介護予防(フレイル予防)のための運動療法

著者: 大渕修一

ページ範囲:P.1409 - P.1413

Point

●日本の健康増進戦略は,疾病予防から介護予防(フレイル予防)へと変化した

●介護予防(フレイル予防)には,中等度以上の身体活動が有効である

●介護予防(フレイル予防)は老いの受容を促すものでなければならない

認知機能低下・認知症予防のための運動療法

著者: 片山脩 ,   島田裕之

ページ範囲:P.1414 - P.1418

Point

●軽度認知障害者は認知症だけでなく,ADL障害,転倒リスクを伴う

●身体活動は認知機能低下・認知症予防と用量反応関係がある

●軽度認知障害への運動療法は認知機能低下,認知症の予防につながる

非アルコール性脂肪性肝疾患・非アルコール性脂肪肝炎予防のための運動療法

著者: 水田敏彦

ページ範囲:P.1419 - P.1424

Point

●非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)を予防または治療することは,肝硬変や肝癌だけでなく,心血管イベントや他臓器癌も予防することにつながる

●NAFLDはサルコペニアを伴うことがあり,運動療法はNAFLD治療の大きな柱である

●NAFLDや肝硬変に対する「肝臓リハビリテーション指針」が公開され,今後の発展が期待される

がんの再発および重症化予防のための運動療法

著者: 井上順一朗

ページ範囲:P.1425 - P.1429

Point

●身体活動・運動は,がんサバイバーの身体・精神機能や日常生活活動,QOLの改善などに有効である

●近年,身体活動や運動が,がんの発症予防や再発予防,生命予後の改善にも有効であることが明らかになってきている

●がんサバイバーに対しては,リスク管理を行いながら,レジスタンストレーニングや有酸素運動を積極的に実施していくことが重要である

変形性膝関節症予防のための運動療法

著者: 黒木裕士

ページ範囲:P.1430 - P.1436

Point

●過度なメカニカルストレスでは関節軟骨破壊作用により変形性膝関節症進行を加速するが,適度であれば関節軟骨保護作用により病気の進行は遅くなる可能性がある

●変形性膝関節症の膝関節に加わるメカニカルストレスの程度は,膝内転(内反)モーメントおよび膝内反変形で評価できる

●膝装具療法,歩行方法の修正(gait modification),杖や足底板の使用と靴の種類の調整,大腿四頭筋やその他の下肢筋のトレーニングなどを組み合わせることで,変形性膝関節症の進行予防に寄与する可能性がある

情報通信技術(information and communication technology:ICT)活用による疾病予防のための運動療法

著者: 井尻朋人

ページ範囲:P.1437 - P.1441

Point

●情報通信技術(information and communication technology:ICT)活用にて運動療法実施の機会が広がる

●疾病予防のための「予備群」抽出が可能となる

●ビッグデータ活用により,大規模集団へのかかわりが容易になる

産業保健分野における疾病予防のための運動支援

著者: 川又華代

ページ範囲:P.1442 - P.1446

Point

●産業保健分野とは労働者の健康保持増進と安全の確保も含む

●労働者の高齢化や就業形態の多様化,作業行動に起因する労働災害の増加といった傾向がある

●産業保健で課題となっている諸問題に,運動を含む身体活動の促進が寄与する可能性がある

学校教育現場での疾病予防のための運動療法

著者: 川本晃平 ,   門脇俊 ,   内尾祐司

ページ範囲:P.1447 - P.1450

Point

●成長期の児童・生徒の特徴を理解しておく

●学校教育現場では,運動器機能不全や用具の不適合などさまざまな問題が散見する

●運動器疾患,スポーツ傷害予防のためには継続的な事後措置が必要である

Close-up BCP

医療機関におけるBCPの考え方

著者: 有賀徹

ページ範囲:P.1452 - P.1457

はじめに

 社会経済的な環境と人々の生活の両面について戦後の歴史を遡ると1),わが国の資本主義政策は国家主導の調整型市場経済から規制緩和の波などを受けつつ,自由主義型市場経済へと漸次変遷して今日に至っている.そのなかで当初は長期ないし終身雇用が多数であったところ,資本や労働力が国境を超えて自由に移動するグローバリゼーションの進展とともに終身雇用などが廃れていった.同時に,転職,女性の雇用,非正規雇用の増加など労働の流動化,柔軟化が進み,人口の都市への流入も顕著となった.その結果,人々の生活面では共働きの増加,離婚の増加があり,生涯独身の人々も増加していった.未婚の不安定就労者が高齢の親と同居する世帯の増加も顕著となった2).以上の次第により家族について,その「形成と解消が任意となった」1)とも言われる事態になって,今や独居老人,老々介護という課題に直面している.極端な個人化は社会の連帯という面も疲弊するところと懸念される.

 かかる高齢社会における地震や風水害による犠牲者,つまり死亡ないし行方不明者全体に占める高齢者割合は,漸次上昇する高齢化率を遥かに凌駕して上昇している(図1)3〜6).2018年7月の西日本豪雨での岡山県倉敷市真備地区における犠牲者46人はみな高齢者であり,そのうち42人は避難行動要支援者であった7).つまり,今やhealthcare business continuity plan(BCP)は高齢者にこそ焦点を当てるべきことが理解できる.

 そこで本稿では,医療機関のBCPについて,例えば病院でそのための委員会を立ち上げ,職員の参集やライフラインのいかんを論ずるなどの一般論のみではなく,地域社会との関連性に焦点を当てて医療機関,特に病院におけるBCPの考え方について論考する.

医療情報システムのBCPへの取り組み—バックアップの考え方

著者: 黒田知宏

ページ範囲:P.1458 - P.1462

IT-BCP

 徳島県つるぎ町立半田病院1)や大阪急性期・総合医療センター2)など,医療機関がサイバー攻撃を受けて病院情報システムを失い,一定期間にわたって医療提供能力を失う事例が散発的に続いている.サイバー攻撃を受けても病院情報システムを失わないようにサイバーセキュリティを向上させる取り組みも広く行われているが,ソフトウェアの脆弱性が発見されてから対策方法が確立する前に行われる「ゼロデイ攻撃」など,防ぐことが大変難しい攻撃も少なくない.したがって,たとえサイバー攻撃を受けて病院情報システムが失われたとしても,医療提供機能を維持し続け,早期に回復できるように構えることが重要になる.このような構えをとることを,information technology-business continue plan(IT-BCP)と呼ぶ.

 無論,病院情報システムは自然災害によっても失われる可能性があることから,自然災害対策の一部としてIT-BCPを位置づける場合もある.情報セキュリティ対策と同様に,病院情報システムのレジリエンスを維持するために,その一か所が壊れるとシステム全体が停止に追い込まれる単一障害点(single point of failure)をなくすよう,ネットワーク,電源,ハードウェア二重化などの対策を施したとしても,病院建物の損壊やサーバ室の水没などによって病院情報システムが失われることは十分想定できる.病院の情報機器に被害がなかった場合でも,インターネット回線側の切断によって病院情報システムの一部が機能を失った例なども報告されている3)

医療施設リハビリテーション部門におけるBCP策定の具体的ポイント—COVID-19対応を例に

著者: 彦田直 ,   池田一樹 ,   村永信吾

ページ範囲:P.1463 - P.1466

はじめに

 「大地震などの自然災害,感染症のまん延,テロなどの事件,大事故,サプライチェーン(供給網)の途絶,突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても,重要な事業を中断させない,または中断しても可能な限り短い時間で復旧させるための方針,体制,手順等を示した計画」のことを事業継続計画(business continuity plan:BCP)と呼ぶ1)

 医療施設のリハビリテーション部門における重要な事業は「リハビリテーション医療」に置き換えられる.本稿では医療施設(急性期)リハビリテーション部門におけるコロナウイルス感染症(COVID-19)対応BCP策定とそのポイントについて,当院の運用事例を中心に紹介する.

連載 とびら

安全な理学療法のための心得

著者: 関公輔

ページ範囲:P.1389 - P.1389

 理学療法士がかかわる医療安全に関連する事案の代表として,転倒・転落が挙げられる.運動機能が低下している対象者に働きかけるさまは,まさにリスク管理の何物でもない.経験上,その状況に遭遇し,ヒヤリしたことも多かった.それらの経験を踏まえ,理学療法という専門特性から,広く医療安全の概念を理解することで,どのような視点で見ていくことが重要か考え方が深まったように思う.本稿では,臨床で必要な医療安全のスキルとその質に触れてみたい.

 日本医療機能評価機構医療事故情報収集・分析・提供事業2021年報によると医療事故の発生要因の約34%が,「確認・観察・判断を怠った」という結果であり,ヒューマンファクターや環境・設備要因よりも圧倒的な事故要因となっている.この要因は,ノンテクニカルスキルと称され,普段何気なく失敗する「エラー」が,専門的技術であるテクニカルスキルの事故よりも多いという結果である.このことを自動車運転に譬えると,運転技能が未熟なときは,「予測,確認,注意,認知,判断」を顕在化させることで,「不慣れな運転」を補完し,安全なドライブを可能とするが,技能が熟達し,無意識に操作パターンが形成されると,2つのスキルが冗長性をもち,互いに協調することで,パフォーマンスの定常化が図られていることに気づく.

単純X線写真 読影達人への第一歩・第9回

頸椎症性脊髄症

著者: 大坂祐樹 ,   古谷英孝

ページ範囲:P.1383 - P.1387

症例情報

●基本情報:70歳台,男性.

●診断名:頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy:CSM).

●主訴:両手指のしびれ・巧緻性低下,歩行時のふらつき.

●現病歴:約2年前から手指のしびれを認めていた.2か月前から両手指の巧緻性低下を認める.その後,転倒を繰り返すようになり整形外科を受診し,CSMの診断を受ける.

●理学療法評価

 しびれ:両手指,握力(右/左):21/24kg,腱反射:両膝蓋腱反射亢進,Grip and Release Test(右/左):12/18回,Berg Balance Scale:39点.

インシデント,ヒヤリハットから学ぼう・第6回【最終回】

個人情報関連のインシデントから学ぶ

著者: 木村泰

ページ範囲:P.1469 - P.1472

はじめに

 われわれ理学療法士は,患者の個人情報が記載された書類を置き忘れる,多床室で患者・家族へ説明を行う,他職種と院内の廊下で情報交換を行うなど,意図せず個人情報漏洩につながるインシデントを経験することがあり,そのインシデントに当事者が気づいていないことがある.本稿では,理学療法士が普段よく遭遇する個人情報漏洩に関するインシデント事例をもとに,その要因や対策,個人情報管理に対する安全文化の醸成について解説する.

難しい症例のみかた・第6回【最終回】

肺癌の進行に伴い多発骨転移と急性呼吸不全を併発した症例

著者: 瀬崎学

ページ範囲:P.1473 - P.1475

はじめに

 肺癌はほかの癌種と比較し進行が早く,多臓器に転移しやすいという特徴がある.また早期には自覚症状が乏しいことから,診断初期にすでに病期が進行していることも少なくない.各種の殺細胞性抗癌剤や免疫療法の進歩が目覚ましい領域である一方,完治に至らずリハビリテーションや緩和ケアの介入を必要とする症例も多く存在するのが現状である.

 本稿では肺癌進行に伴い多発骨転移と急性呼吸不全を併発した症例を通じ,多職種連携をも含めて理学療法を実施した1例を提示する.

難しい症例のみかた—症例報告の意義と方法

著者: 内山靖

ページ範囲:P.1476 - P.1478

症例を共有する意義

 症例を共有するための方法の一つとして「症例報告」がある.臨床でのカンファレンス,新人研修,地方会での発表に加えて,国際誌の原著論文まできわめて多岐にわたる.

 言うまでもなく,1例1例は固有の存在でありその価値に軽重はない.各症例には,教科書や科学論文で示されている一般論が当てはまらない部分があることは自明である.対象者に最大公約数の比率が高ければ典型例と呼ばれる.日常の臨床ではその診かたを基本として,経験と知見に基づく省察を通じて臨床推論と技術を精緻化していく.そのうえで,対象者固有の要素を際立せることで柔軟な対応と新しい挑戦が可能となる.

中間管理職の悩み・第6回

マニュアルを浸透させたうえで,どのように医療の個別性を上げていけばよいでしょうか

著者: 津田陽一郎

ページ範囲:P.1480 - P.1481

マニュアルの役割

 マニュアルは,スタッフおのおのが均一かつ安全に業務を実施するための概要とルールを示したものです.そして部門・組織運営において「質の担保と均一化(業務の効率化も含む)」,「リスク管理(安全と安心)」を継続させ,さらにその時々の社会,制度の変化や現場の状況に沿って定期的に見直し,業務改善をしていくためにも必要なものです.

 同時に,マニュアルをスタッフが遵守し,管理者がマニュアルの運用が正しくできているか確認する作業は,臨床現場で事故などが発生した場合,その行為の正当性を保証しスタッフの立場を守るためにも重要です.

臨床実習サブノート 臨床実習で技術のステップアップをめざそう・第9回

治療技術③ バランス練習

著者: 高橋拓真

ページ範囲:P.1483 - P.1490

はじめに

 バランスという用語ほど“便利”な表現はないのかもしれません.「バランスが悪いから転倒しやすい」という表現は臨床において頻繁に用いられ,患者・家族にとって理解しやすい表現です.

 一方,バランスという用語ほど“曖昧”な表現もないのかもしれません.バランスとは,「重力をはじめとする環境に対する生体の情報処理機能の帰結・現象を指すと定義され,支持基底面に重心を投影するために必要な平衡にかかわる神経機構に加えて,骨のアライメント,関節機能,筋力“など”の要素が含まれる」(“”は筆者による)とされています1).定義中の“など”を含むバランスを構成する複雑な要素に加え,症例により異なる病態や生活環境が加わることで,実習生にとって難渋する課題になることが推測されます.

 本稿のテーマである「バランス練習」に至る前に,曖昧で複雑なバランスの「構成要素を実習生とともに紐解く」ことが,バランス練習の技術習得に必要不可欠であると考えます.本稿が,臨床実習生の疑問を解決する一助になることを期待しています.

私のターニングポイント・第47回

挫折を得て,得たもの

著者: 別所慶宗

ページ範囲:P.1467 - P.1467

 私は現在臨床5年目を迎えました.4年目のときに転職し,今は人工関節置換術後と術後の早期のスポーツリハビリテーションを中心に提供している急性期病院に勤務しています.

 これまでの理学療法人生のターニングポイントは4年目の春です.当時私は,回復期リハビリテーション病棟で勤務していました.そこでは,仕事終わりに同期や後輩などの仲間と楽しい時間を過ごしていました.しかし,3年目の終わり頃から楽しい時間を過ごしつつも,このままでいいのか,自分が理学療法士になって何をやりたいのか,やっていきたいのかを考えることが多くなりました.

My Current Favorite・21

選択アーキテクチャーとしての能力開発の場を提供すること

著者: 八木麻衣子

ページ範囲:P.1468 - P.1468

現在の関心事は?

 選択アーキテクトとは,一般的に望ましい意思決定を自発的に促すため,行動科学を活用して環境,仕組み,初期設定や情報の見せ方などをデザインすることです.選択アーキテクチャー(選択の設計者)は,これらの大切さを理解し,社会や組織にプラスの効果をもたらすデザインを選択することが求められます.これは,組織においてはまさに「マネジャー」の役割であるため,自分がこの能力開発をしつつ,興味を持った方々がそのエッセンスを学び,実践を支援できる場を提供することを考えています.

プラクティカル・メモ

情報機器作業における障害予防の指導のポイント

著者: 上田泰久

ページ範囲:P.1491 - P.1493

情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン

 情報通信技術の発展に伴い,デスクワーカーの筋骨格系障害は増加傾向にある1).本邦におけるデスクワーカーの疼痛の部位別有病率は,頸部が最も高い2).頸部痛は,日本人の労働生産性低下による年間損失の大きな要因である3)

 このような社会的背景から,情報機器を使って作業を行う労働者の健康を守るためのガイドラインとして,厚生労働省労働基準局より2002年に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」4)が示された.そして,近年の情報通信技術革新に伴う多様な作業形態に対応するため,2019年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」5)が新たに制定された.

ひろば

学生と教員への助言—断片的知識を統合した教育活動

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.1495 - P.1495

 筆者は日本の大学(教育学専攻)と米国の大学(理学療法学専攻)で学生生活を過ごした.そして,米国と日本で臨床を合計10年間経験した後,教員職を40年間務め,75歳から年金生活を送っている.それらの体験から,学生と教員への助言を簡潔に記述してみたい.

 授業や実習などを通じて,特定の専門分野について学習する課程を「専門教育」と称する.教育には初等・中等・高等教育があり,より専門的な教育になればなるほど,授業科目は細分化されるため,教員は専門教育に特化した科目の授業を担当する.

学会印象記

—日本呼吸・循環器合同理学療法学会学術大会2023—呼吸理学療法と循環器理学療法の「融合と統合」

著者: 中村可愛

ページ範囲:P.1479 - P.1479

呼吸・循環器理学療法合同学会

 日本呼吸・循環器合同理学療法学会学術大会2023が木村雅彦大会長(杏林大学)のもと開催された.このような合同学会の開催はまさに「融合と統合」であり,2つの分野に関連した最新の知見や研究発表,学際的な講演を拝聴する貴重な機会となった.

 今大会は,現地開催+ライブ配信+オンデマンド配信のハイブリッド形式で行われた.コロナウイルス感染症2019(COVID-19)が五類感染症に移行したこともあり現地参加者が多く,立ち見が出るほどだった.各分野のスペシャリストの先生方の興味深い貴重な講演や200超の演題発表と活発な討議の展開,事前のオンデマンドショートレクチャーの配信や学会オンデマンド配信により,さらに学びを深めることができた.

—第21回日本神経理学療法学会学術大会—理学療法の原点と未来—臨床知の探究

著者: 杉山黎

ページ範囲:P.1482 - P.1482

 第21回日本神経理学療法学会学術大会がパシフィコ横浜にて開催されました.今大会は昨年に引き続き対面で行われ2,000名以上の参加者が来場しました.プリズムアダプテーションを開発したYves Rossetti先生(Lyon Neuroscience Research Center)の海外招聘講演も企画されており,そのほかの各会場でも立ち見が出るほどの盛況でした.

 学会のテーマは「臨床知へのあゆみ—学際性への架け橋」で行われました.各シンポジウムでも臨床知をテーマにした内容が多く,総合討議も多く設けられていました.特に研究の内容をどう臨床に応用するかなど普段では交わることの少ない,研究者と現場で働く理学療法士の間で知見が共有される貴重な場となりました.

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目次

ページ範囲:P.1390 - P.1391

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1462 - P.1462

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.1498 - P.1499

編集後記

著者: 白谷智子

ページ範囲:P.1500 - P.1500

 われわれ理学療法士は「運動」という方法を用いて患者や対象者への介入を行います.しかし,この運動効果についてどの程度のことを先生方はご存じでしょうか.本号の特集テーマは「疾病・介護予防のための運動療法」です.この特集を企画するにあたりさまざまな論文を読み,「運動」の効果のすごさをあらためて感じさせられました.運動は適切に実施できれば「自然の薬」です.本特集では,各分野のエキスパートの先生方にエビデンスに基づく運動療法の方法や効果についてご執筆いただく贅沢な内容となっています.「自然の薬」の効果への理解をいっそう深める機会になれば幸いです.

 2020年からのここ数年間はコロナウイルス感染症2019の流行の影響でweb形式での開催でしたが,久しぶりに完全対面形式で学術大会に参加しました.スマホの万歩計を確認したら2日間で20,000歩.学術大会で座って講演など本当に聴いているのだろうか? という歩数でした.座りっぱなしが身体に及ぼす影響を調べた論文によると,30分以上座り続けることは寿命を縮めてしまうらしいです.そのことを考えると,コミュニケーション面だけでなく身体活動面においても,対面形式での学術大会は悪くないのでは? と感じました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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