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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル57巻5号

2023年05月発行

雑誌目次

特集 関節間トレードオフ

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.510 - P.511

 臨床実習では関節可動域を評価した後,可動域制限をミクロに分解して,器質的要素を探すことが多いが,臨床ではその論理展開では少しすると限界を感じてくる.しかし何年経っても同じように考えている理学療法士もいる.そのアイデアの枠組み(frame of reference)が狭いために起こる因果律の限界である.関節に協調性のようなものがあることは,臨床を行うと気づく.その協調性をどう臨床に活かすことができれば疾患に太刀打ちできるのであろうか.運動器疾患,中枢性疾患を問わず人の動きの協調性について論議していただく.

—エディトリアル—協調性とトレードオフ

著者: 福井勉

ページ範囲:P.512 - P.514

 運動器疾患の治療では治療対象を要素還元的に捉える方法と身体他部位との連続性を考える方法論があり,互いに相容れない印象がある.しかしながら,この両者は本来背反するものではなく,互いを補完するものである.後者の例に挙げられる,投球肩障害と股関節など障害部位と身体他部位との関連性立証の試みは広範に行われている一方で,診断学的には連続性が言及されていないと言ったほうが正確である.外傷に関しては傷害部位の治療を行うことは当然であるが,変性疾患や使い過ぎ症候群においては,他部位からの影響を受けるという認識が理学療法士にとっては必要である.その大きな理由を2つ挙げる.1つは「運動は単関節では行われない」からであり,いま1つは「人体が常に重力場の影響を受ける」からである.この身体他部位との連続性を,具体的な動作を通して考えていく.

Uncontrolled manifold(UCM)概論

著者: 浅賀忠義

ページ範囲:P.515 - P.520

Point

●制御システムにおける冗長性とは,最終的に制御したい変数(目的変数)の数よりも,直接制御できる変数(要素変数)または自由度の数のほうが多いという状態を意味する

●繰り返し運動の場合,要素変数間の組み合わせを協調的に変化させることによって,目的変数のばらつき(変動性)を減少させることができる

●要素変数間の協調性の定量化は,各要素変数の値の組み合わせにおいて,目的を達成するうえで影響を及ぼさない成分の分散とエラー値に直結する成分,つまり,その直行成分の分散との相対差によって算出される

動作における運動協調性

著者: 阿南雅也 ,   井原拓哉 ,   徳田一貫 ,   緒方悠太

ページ範囲:P.521 - P.525

Point

●人は関節や筋など制御されなければならない多くの自由度をもつ

●運動協調とは,リーチや歩行などの意図した動作を行うために必要な,複数の身体部位の協調的な運動のことである

●動作達成のために各要素が独立しているのではなく関連し,さらに関連する要素は,機能的要求を満たすように相互に作用することで協調していると解釈できる

シナジー解析と関節間協調性

著者: 舩戸徹郎

ページ範囲:P.526 - P.530

Point

●運動中に複数関節が同じ関係を保って動くことがあり,関節間協調または運動学シナジーと呼ばれる

●関節間の協調は,各関節の角度を軸とする空間上での平面のような低次元の構造として現れる

●データからシナジーを推定するシナジー解析では,最小二乗法による平面の座標軸の推定に相当する処理が行われる

上肢リーチ動作の運動等価性を支える関節間協調性とシナジー—脳卒中患者における「回復」と「代償」とは

著者: 冨田洋介

ページ範囲:P.531 - P.535

Point

●ヒトは豊富な身体自由度を有しており,さまざまな関節角度の組み合わせによって動作を遂行することができ,この特徴は運動等価性と呼ばれる

●脳卒中患者で観察される代償運動は,動かしづらい身体自由度の運動を比較的動かしやすい自由度の運動に依拠した運動等価性の結果とも言える

●脳卒中患者における理学療法では,焦点とする運動課題の達成度の回復を,どの程度代償によって達成するのか,患者の希望や潜在能力を踏まえて過大でも過小でもない運動戦略を想定したうえで評価・治療が展開される必要がある

しゃがみ動作の関節間トレードオフ

著者: 滝澤恵美

ページ範囲:P.536 - P.541

Point

●理論的には,動作は与えられた身体機能の範囲で,関節運動のさまざまな組み合わせによって遂行できる

●しゃがみ動作のような基本的動作は,ステレオタイプかつ協調的な関節運動で実施される

●基本的動作に現れる協調的な関節運動は,選択圧によって合目的的に選択された結果である

ランニング中の後足部・下腿間の協調性パターン

著者: 高林知也

ページ範囲:P.542 - P.547

Point

●ランニング中の後足部と下腿の動きを把握し,ランニング障害発生の機序を推測する

●後足部・下腿間の運動連鎖と協調性パターンをcoupling angleで捉え,障害部位だけでなく他部位にも着目して理学療法を検討する

足部可動性への介入により膝関節前額面モーメントを制御する

著者: 佐藤俊彦

ページ範囲:P.548 - P.555

Point

●足部の内側はアーチを形成し柔軟であり,外側は地面と接地し強固な構造となっているため,歩行時の前額面上の負荷や運動に関与する

●踵骨内反を保持し,舟状骨下方可動性を確保することで,歩行時の足底面での衝撃吸収,足部剛性を維持したけり出しが可能となり,外的膝関節内転モーメント積分値が減少する

●内果下方可動性を確保することで,歩行時の下肢の外方傾斜を制御し,足関節背屈による推進が可能となり,外的膝関節内転モーメント積分値が減少する

歩行時の下肢の協調性

著者: 山縣桃子

ページ範囲:P.556 - P.561

Point

●日常生活において歩行を安全に遂行するためには身体を協調的に運動させることが重要である

●歩行中の運動制御を評価するためには,局所的な関節運動や筋活動に着目するだけでなく関節や筋活動同士のかかわりを包括的に評価することが大切である

●身体の協調性を定量化することによって,正常な運動制御や障害発生メカニズムの理解を深め,新たな介入方法の確立の一助となり得る

脳性麻痺児の足関節と股関節の関係

著者: 石原みさ子

ページ範囲:P.562 - P.567

Point

●脳性麻痺児には荷重経験が圧倒的に不足している

●より自由に(協調して)動くには,「重力との戦い」に勝つ必要がある

●「脳性麻痺だから仕方がない」ではなく,「退化予防」の概念をもって運動発達を促す

Close-up Long COVID

Long COVIDとは何か?

著者: 大平雅之 ,   髙尾昌樹

ページ範囲:P.570 - P.575

はじめに

 新型コロナウイルスSARS-Cov-2による感染症(COVID-19)は,2019年に発生して以来,全世界に広まりいわゆるパンデミックとなった.世界保健機関(World Health Organization:WHO)への報告に基づくと,2023年3月6日時点で,全世界で758,390,564例,死者は6,859,093人を記録している1).2022年以降も,本邦でのいわゆるオミクロン株による感染者の増大があり,変異株による感染者数の増減を繰り返している.

 COVID-19の影響は,急性期のみならず感染後の長期にわたり,回復したとされた患者のなかに,さまざまな症状が残存する可能性が指摘されている.特に,感染初期から慢性期まで,急性期の重症度にかかわらずさまざまな神経症状を来すことが知られており,特に嗅覚・味覚障害が有名である.報告によってその頻度は異なるものの,それぞれ53%および44%に至るとする報告がある2).神経症状に限っても,頭痛がCOVID-19の患者ではよくみられ,それ以外にも筋肉痛,めまいなどのさまざまな神経症状が知られている.

 しかし,このようなCOVID-19の長期にわたる一連の臨床症状は,現時点でも完全に理解されているとは言いがたい.例えば,その呼称でもpost-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)や,Long COVIDなどの名称で知られている3).これはその定義の違いに由来していることもあり,混乱に拍車をかけている.すなわち,Long COVIDは,その症状の有無ないしは程度にかかわらず4週間以上症状が継続するか,それ以降に新たに症状が出現した状態と広く定義されている4〜6).WHOは,類似の病態をpost COVID-19 conditionとして定義している7).本邦では,WHOの定義を参考に「罹患後症状」と表現されることもある8).本稿では仮に「Long COVID」を用いることとし,俯瞰する.

 現時点では,診断・検査・治療法が確立しておらず,個々の患者の症状を評価し,各患者に合わせた対応が求められていると言える.本邦でもこれらの病態を長期的に検討する体制の構築の必要性につき,認識されつつあるところである9〜11).これに先立ち,国立精神・神経医療研究センター総合内科では2021年6月以降,われわれによってコロナ後遺症外来(以下,当外来)が開設された.その後半年で90人のLong COVIDの患者が受診し,その概要を報告した11).この報告以降,現在まで受診のペースは変わらず,2022年末までは1年間半で330人を超えるLong COVIDの患者が受診し,2023年に入ってもそのペースが落ちた印象はない.

 本邦における本病態への理解のニーズは高く,また,筋力低下を訴える患者もいることから,リハビリテーションが治療法として選択肢に挙がることもしばしばある.そのため,本病態への広い理解が必須であり,当外来での経験も踏まえ,Long COVIDの概要を解説する.

Long COVIDに対する回復期理学療法の実際

著者: 松尾知洋 ,   森本陽介

ページ範囲:P.576 - P.579

はじめに

 Long COVIDを呈した患者の多くは,身体機能や認知機能だけでなく,健康関連QOLや社会参加に影響を及ぼすとされており1),患者本人だけでなく介護者や社会に大きな影響を与える.よって,Long COVIDに対する回復期リハビリテーション病院(以下,回復期病院)での理学療法は重要な役割を担うと考えられる.本稿では,回復期病院に転院する症例の特徴と理学療法の実際について解説する.

Long COVIDと世界の理学療法

著者: 永田健太郎 ,   伊藤智典

ページ範囲:P.580 - P.584

はじめに

 世界保健機関(World Health Organization:WHO)は2017年に「Rehabilitation 2030 Initiative」を立ち上げた1).Universal health coverage(UHC)の達成やリハビリテーションを必要とするすべての人々がアクセスできるシステムの構築を目標としている.

 また,2022年10月にWHOブリテンで報告されたコロナウイルス感染症2019(COVID-19)後のリハビリテーションケアモデルに関するシステマティックレビュー2)では,理学療法士を含む多職種による種々の医療資源・アプローチの活用が提案されている.

 世界理学療法連盟ではCOVID-19のパンデミックが始まった早期から,関連する情報を公開している.2021年6月には,COVID-19が与えた影響について9つの報告を発表した3).COVID-19に関する理解を深めるための一般向けの情報だけでなく,理学療法士向けに運動療法を行うにあたっての注意点など,より質の高い,安全な理学療法,リハビリテーションを提供するための情報を発信している.そのなかには,Long COVIDについての報告も含まれている4).しかしLong COVIDと理学療法,リハビリテーションに関連する日本での報告や取り組みは少ないことから,本欄での情報公開は,広く関心を高めるためのきっかけになるのではないかと期待するところである.本稿では世界理学療法連盟のLong COVIDに対する取り組みと,日本を含む各国の理学療法士協会の取り組みを紹介する.

連載 とびら

ぼくらが旅に出る理由

著者: 美﨑定也

ページ範囲:P.507 - P.507

 私の父は,鉄工関係の技術職として建築会社に30歳台半ばまで勤めて,父の弟が鉄工所を起業したことをきっかけに,そちらに転職しました.私の母は,事務職として一般企業に勤めて,姉と私が生まれてしばらくは,専業主婦でした.私が小学校3年生のとき(母40歳),母が焼き鳥屋(テイクアウト専門)を開業しまして,父が鉄工所を定年退職してからは2人でその店を続けていました.かれこれ三十数年続けて2018年の秋に廃業したとき,父が76歳,母は72歳でした.

 私たちは,仕事という旅に出てから,さまざまなターニングポイントを通って,そしていつかは旅を終えます.その旅の時間をどのように使いましょうか.

単純X線写真 読影達人への第一歩・第2回

間質性肺疾患

著者: 竹内里奈 ,   名倉弘樹 ,   及川真人 ,   花田匡利 ,   神津玲

ページ範囲:P.499 - P.504

症例情報

●基本情報:50歳台,男性.過去喫煙(30本/日,34年間)

●診断名:特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)

●主訴:労作時呼吸困難

●現病歴:X−3か月にIPFの診断にて,在宅酸素療法(安静時1L/分,労作時6L/分)の導入ならびに抗線維化薬の投与が開始された.呼吸機能の低下が進行し,脳死肺移植術適否のための精査目的でX日に入院となった.

●呼吸機能検査:努力性肺活量(%予測値)3.8L(104.4%),1秒量(%予測値)3.1L(106.1%),1秒率83.2%,一酸化炭素肺拡散能(%予測値)7.9mL/分/mmHg(38.6%)

●呼吸困難:modified Medical Research Council息切れスケール グレード3

●身体所見:呼吸数20回/分,吸気時の頸部呼吸補助筋群の収縮あり,胸郭拡張運動は減少.両側下葉背側に捻髪音を聴取.四肢末梢は冷感,ばち指を認めた.

「経営者」の視線・第5回

豊かな施設生活のために

著者: 野尻晋一

ページ範囲:P.586 - P.587

 筆者は,1999年より介護老人保健施設の副施設長,2021年より施設長を務めている.事業所のトップだが,本連載の他の執筆陣のように,自らの志と強い意思で起業し,事業展開している方とは立場を異にしている.法人創設者のリハビリテーションを通じた地域医療への貢献に共感し,それを支える素晴しいチーム,師に恵まれてきた延長線上に筆者の今のポジションがある.業務内容は社会医療法人のなかの一部の事業所管理であり,最終的な事業に関する決定権は理事会および理事長がもっている.とはいえ副施設長として管理運営にかかわっていたときとは,できることおよび判断する領域の広さと責任の重さは大きく異なる.

臨床研究のススメ—エビデンスを創ろう・第5回

無作為化比較試験

著者: 牧野圭太郎 ,   島田裕之

ページ範囲:P.589 - P.592

無作為化比較試験とは

 無作為化比較試験(randomized controlled trial)は,治療法などの有効性を検証するために,研究対象者を複数のグループにランダム(無作為)に分類し,グループ間でアウトカムを比較する介入研究のことを指す.ある治療法の効果を証明したいとき,治療を行う場合と行わない場合(もしくは従来の治療法など)との間で効果の大きさを比較する必要がある.そのため,研究対象者は治療を受けるグループ(介入群)と治療を受けない(もしくは従来の治療法を受ける)グループ(対照群)とに振り分けられることになり,この作業を割り付けと呼ぶ.この作業においてグループ間で対象者の属性が偏っていた場合,比較した結果が本当に治療法に起因する差なのか,それとも対象者属性の偏りに起因する差なのかを結論づけることが困難になってしまう.このような偏りの影響(選択バイアス)を取り除くため,ランダム割り付け(random assignment)と呼ばれる方法で対象者を無作為にグループ分けした研究が無作為化比較試験である(図1).ランダム割り付けは未測定さらには未認知の交絡因子の影響を最小化することができるため,これを用いた無作為化比較試験は質の高いエビデンスが得られる研究手法として知られている1)

臨床に役立つアプリケーション活用術・第5回

解剖学とアプリケーション利用

著者: 町田志樹

ページ範囲:P.594 - P.595

変化し続ける解剖学

 解剖学は人体や動物,生物の内部構造,体の成り立ち,形態,構造などを理解する学問である.人体の構造の理解は解剖学書を通じて行われるが,その図譜には時代ごとの人体のイメージが投影されている.

 解剖学の図譜は1543年にアンドレアス・ヴェサリウスが「De humani corporis fabrica」によって人体の複雑さと精緻を表現して以降,近代に続くまで脈々と歴史を受け継ぎながら変化し続けている1,2).特に近年ではメディカルイラストレーション領域の発展に伴い,解剖学の視覚的情報提供力も多様化している.

臨床実習サブノート 臨床実習で技術のステップアップをめざそう・第2回

評価① 関節可動域検査

著者: 伊藤雄矢

ページ範囲:P.597 - P.602

はじめに

 関節可動域(range of motion:ROM)検査について,2020年より改定された診療参加型実習に則した「見学」,「協同参加」,「実施」に関して,指導者として実際に実習生を指導する際,どのように考え,どこに注意しているのかなどを記述したいと思います.ROM自体の診るべきポイントは,2021年の本誌1)に掲載されているのでぜひそちらをご参照ください.本稿では,実習生指導や指導に付随するモノは何かという着目点で解説します.この項が日々の実習生指導や後輩指導等の一助となればと思います.

私のターニングポイント・第40回

本気になると,毎日の臨床はもっと面白く,難しく,奥深い

著者: 長坂脩平

ページ範囲:P.593 - P.593

 私のターニングポイントは,臨床2年目に参加した勉強会での出来事です.その頃の私は仕事が終わると毎日のように職場の近くの川や池に釣りに出かけ,週末は県外遠征釣行に出かけており,釣りの腕前だけはメキメキと上達していました.

 そんな楽しい時間を過ごしつつも,理学療法士としてこのままでよいのかと言葉にできない虚無感だけが募っていました.毎日の臨床業務はなんとなくこなせている…….しかし,このままでは成長がないと感じた私は,まずは地元で開催される勉強会に参加してみることにしました.そこでは,自分がまったく知らなかった情報,考えたこともなかった技術が紹介されており本当に衝撃を受けました.「理学療法士の手は,人の身体を変えられる」ことを目の前で,自分の身体で感じたという衝撃が私を奮い立たせました.そして,この旧態依然としたままでは自分は取り残されてしまうことに気がつきました.勉強会終了後の私は,高まるモチベーションと同時に何とも言えない焦燥感と不安に襲われました.

My Current Favorite・14

慢性疼痛患者に対するリハビリテーション—「いきいきリハビリノート」を用いた認知行動療法に基づく運動促進法

著者: 岩﨑円

ページ範囲:P.596 - P.596

現在の関心事は?

 慢性疼痛患者さんに対するリハビリテーションです.皆さんも一度は慢性疼痛患者さんに対する理学療法の経験があるのではないでしょうか.本邦の慢性運動器疼痛患者さんの10%に就学・就労の制限があり,その経済的損失は約3700億円と言われています.

 当院は集学的痛みセンターの役割があり,他院で治療に難渋した慢性疼痛患者さんが紹介され理学療法が処方されます.慢性疼痛患者さんに対しては徒手療法を行うことも多いと思いますが,「慢性疼痛診療ガイドライン」では認知行動療法および患者教育を組み合わせた運動療法が強く推奨されています.当院では医師と理学療法士が協働して「いきいきリハビリノート」を用いた認知行動療法に基づく運動促進法(以下,本法)を行っています.

症例報告

人工膝関節全置換術後に脆弱性踵骨骨折を呈した1例

著者: 濵澪 ,   田中創 ,   三栖翔吾 ,   宮城哲 ,   松田秀策 ,   徳永真巳 ,   吉本隆昌

ページ範囲:P.603 - P.606

要旨 【目的】人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)後の合併症として脆弱性踵骨骨折を呈す頻度は0.5%と報告されている.今回,TKA後に踵骨の脆弱性骨折を呈した症例を経験し,その発生要因について検討した.【症例】70歳台女性,左大腿内側顆骨壊死に対してTKAを施行した.術後の経過は良好であったが,術後約1か月時のステッキ歩行時に左外果下方に荷重時痛が出現し,magnetic resonance imagingで脆弱性踵骨骨折が認められた.【方法】歩行時の踵骨への負荷について対照群を抽出して比較した.【結果】立脚初期時の踵部への負荷は術前よりも増加していた.【結論】術後の歩行時の踵骨への過負荷,使用していた靴のサイズや素材が影響していると考えられた.これらより,TKA後の脆弱性踵骨骨折を予防するためには術前の活動性や術後の歩行速度に応じた踵骨を保護する足底挿板の作製や,適切な靴の選択が重要である.

課題指向型アプローチによりロッカー機能を再獲得した人工距骨置換術後の1例

著者: 加藤俊宏 ,   西村明展 ,   三谷将史 ,   雪岡陽 ,   桒原健太 ,   中空繁登 ,   福田亜紀

ページ範囲:P.607 - P.611

要旨 距骨壊死は疼痛や機能制限によるgait asymmetryを示し,手術療法後も歩行障害が残存する例が報告されている.人工距骨置換術を受けた距骨壊死例の歩行パターンを1年間定量評価した.症例は71歳女性で,疼痛と歩行障害が生じ距骨壊死と診断され,人工距骨置換術を受けた.理学療法は術後3週から可動域練習,8週から全荷重を行った.9週の歩行パターンは左アンクルロッカー・フォアフットロッカーが消失し,歩幅のsymmetry ratioは0.77であった.歩行の空間的対称性低下に対して,ステップ動作を機能的運動課題とした運動療法を行った.アンクルロッカーは6か月,フォアフットロッカーは12か月で確認され,歩幅のsymmetry ratioは1.01となった.距骨壊死に対する人工距骨置換術後の歩行機能は1年以内に段階的に改善し得るため,gait asymmetryが残存した場合には適切な運動療法を実施する必要がある.

紹介

進行期パーキンソン病のリハビリテーションプログラムの紹介

著者: 渡邉志保 ,   髙橋寛人 ,   松浦美香 ,   信太春人 ,   佐藤暢彦 ,   渡辺雄紀 ,   西舘亜希子 ,   武田芳子 ,   阿部エリカ ,   小林道雄 ,   和田千鶴 ,   豊島至

ページ範囲:P.613 - P.615

はじめに

 パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は人口の高齢化とともに有病率が増加し,指定難病のなかでも特に有病率の高い疾患の一つである.PD治療において薬物療法は必須であるが,近年,運動療法の重要性が強調されている.

 PDの既存のリハビリテーションプログラムの代表的なものとして,Lee Silverman Voice Treatment BIG(LSVT® BIG)1)と,ParkFit2)があるが,これらのプログラムは軽症から中等症を対象としていて,進行期である中等症から重症例を対象としたリハビリテーションプログラムの報告は少ない.

 あきた病院では,これまでPDリハビリテーションプログラム開発として,国立病院機構の共同研究であるtraining strategy for PD(TSPD)に参加した.しかしながら,TSPD-A群(中等症・重症)患者の身体状況が幅広く,設定したプログラムの個々の症例に対応する自由度が不足し,実施上の困難が実感された.そこで,TSPD-AをA1,A2,A3,A4の4つに細分化し,対象者である中等症から重症PD患者それぞれの患者の重症度に合致したプログラムを策定した.本稿ではプログラムの内容について紹介する.

学会印象記

—第9回日本地域理学療法学会学術大会—地域理学療法学の過去,現在,未来を学ぶ

著者: 石塚大悟

ページ範囲:P.585 - P.585

 2022年12月3,4日に第9回日本地域理学療法学会学術大会に参加しました.今回は新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の感染状況などの影響により完全オンライン開催となりました.学会は幅広い内容で構成されており,地域理学療法学の過去,現在,未来についての講演やシンポジウムが多く含まれており,バランスよく学ぶ機会が与えられていました.

—第11回日本支援工学理学療法学会学術大会—知識×技術×情熱=社会課題解決

著者: 小川秀幸

ページ範囲:P.588 - P.588

学術大会の概要

 第11回日本支援工学理学療法学会学術大会がオンライン開催されました.「社会課題解決のための支援工学的視点と技術の発展」というテーマで,特別講演6題,シンポジウム2題,一般演題発表60題と内容の充実した学会でした.

 また,会期後にアーカイブ配信により講演を見返すことができ,当日参加できなかった場合や復習にも活用でき,充実した学びの機会を設定していただきました.社会状況の変化に合わせて対面での開催からweb開催への変更など大会長や副大会長の春名弘一先生(北海道科学大学)をはじめ準備委員の皆様のご尽力により本学術大会が成功裏に開催できたことに感謝いたします.

臨床のコツ・私の裏ワザ

回旋運動を引き出すコツ—内腹斜筋に着目したエクササイズ

著者: 飯田開

ページ範囲:P.616 - P.617

 脊柱の回旋可動域は胸椎(第1〜12胸椎)では30〜35°,腰椎(第1〜5腰椎)では5〜7°1)と言われており,体幹回旋運動は主に胸椎部で生じている.また歩行中の骨盤と反対方向へ体幹が回旋することで体幹内部の角運動量を相殺し歩行中の平衡を維持すること2)や,片側の肩関節外転運動時には体幹の同側回旋が生じる3)ことについての報告があり,体幹回旋運動を拡大することは動作や隣接関節にも影響を与える.臨床においても体幹回旋運動の不均衡や可動域制限を来している症例を多く経験するため,本稿では体幹回旋運動を引き出すために胸郭に作用する内腹斜筋のエクササイズを紹介する.

 内腹斜筋は,胸腰筋膜の深葉,腸骨稜の中間線,上前腸骨棘,鼠径靱帯の外側2分の1に起始し,第10〜12肋骨の下縁,腹直筋鞘の前・後葉・白線,精巣挙筋との境界に停止し,片側が作用する場合は体幹の同側の側屈・回旋,両側が作用する場合は体幹の前屈を導く4).この内腹斜筋の片側の活動を促すことで体幹回旋運動を引き出すことを目的に座位での骨盤挙上運動エクササイズを行う.

書評

—工藤慎太郎(編)—「—運動学×解剖学×エコー—関節機能障害を「治す!」理学療法のトリセツ」

著者: 赤羽根良和

ページ範囲:P.569 - P.569

 本書の編集である工藤慎太郎先生がご卒業された平成医療専門学院理学療法学科(現 平成医療短期大学)は私の母校でもあり,彼は学生の頃からとても優秀でした.臨床,研究,教育に力を注いでおり,後輩でありながら,尊敬する理学療法士の1人です.

 私は現在,運動器疾患を中心に理学療法を行っています.運動器疾患に対しては機能解剖学の知識を中心とした評価を行いますが,特に重要な点は,臨床的に意義のある圧痛所見を確実にとることです.最近では,超音波画像診断装置(エコー)を用いることで,圧痛を認める組織がどのような病態であるかを可視化できるようになりました.理学療法士はこれらの情報をベースに治療戦略を組み立て,的確な触診と操作技術を持ったうえで運動療法を実施する必要があります.

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目次

ページ範囲:P.508 - P.509

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.567 - P.567

読者の声

ページ範囲:P.602 - P.602

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.620 - P.621

編集後記

著者: 福井勉

ページ範囲:P.622 - P.622

 素粒子物理学とその周辺領域が熱いようです.素粒子は物質の大もと,最小単位であると考えられ,宇宙に存在すると考えられる物質やエネルギーのうちの5%程度しか説明できなかった「標準理論」を超えたヒッグス粒子の存在明示で大進歩を遂げているようです.そしてその素粒子はヒトの感情にも影響を与えていると言われています.ただし,このあたりの書籍を読む際に,自分の理解不能な事象は「理解不能」領域にしまいこんで,日常では考えないことも多いと思います.

 一方,ヒトの動きを扱う学問分野では,脳などによる制御を考えてきましたし,その臨床応用も発展してきています.しかしながら,臨床効果が十分だと思っている理学療法士はいないと思います.臨床はその不明事象の集合にもなっていますので,「理解不能」領域に閉じ込めるだけでは,未来がありません.われわれに重要なのは理論の飛躍を少なくして,積み上げていくことです.ミクロ,マクロの視点どちらも大事と言えば正論で面白くありませんが,その境界は五感での理解ではないかと思います.関節が一つずつ別々に動いているわけではないことは臨床を少し経験すれば感じます.その一つが協調性です.われわれは拮抗関係,中枢と末梢,近位と遠位などの分け方をして理解を高める努力をしてきたのだと思います.そしてそれは運動器疾患のように比較的局所で扱われがちな疾患であっても,「感じる」わけです.そこが不十分な現状の目標は,阿南論文で述べられているように,「運動協調性を高める理学療法プログラムの確立」であることまでは明確なように思います.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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