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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル57巻6号

2023年06月発行

雑誌目次

特集 脳卒中の予後予測と目標設定

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.634 - P.635

 理学療法の目標設定は,各疾患の症状や病態,そして患者背景を加味した予後予測に基づいて行われる.しかし,個々の症例によって症状や病態が大きく異なる脳卒中の場合,適切な予後予測に基づいた目標設定は難しく,特に経験の浅い初学者や学生が難渋する場面が多い.

 本特集では,脳卒中者における症状や病態ごとの予後予測とそれに基づく目標設定について,理学療法士が臨床現場で行える手法とその背景にあるエビデンスを中心にみていく.

—エディトリアル—脳卒中における予後予測と目標設定の重要性

著者: 野添匡史

ページ範囲:P.636 - P.641

はじめに

 理学療法を対象者に提供する際には,通常何らかの目標が設定される.しかし,筆者自身が学生だった頃のレポートを思い返すと,ステレオタイプに「歩行自立」,「自宅復帰」といった目標を記載し,対象者の希望(hope)と寸分狂わぬ目標を設定していたことが思い出される.臨床実習が終わる頃,もしくは理学療法士として現場で働き始めた頃,これらの目標設定が机上の空論であり,私自身の勝手な妄想であることを思い知ったのはついこの前のように感じる.筆者ほどのことはないにしても,読者の皆さんにも似たような経験があるのではなかろうか.

 本特集では従来重要視されながらも依然として臨床現場での応用が難しい脳卒中における機能予後予測について,脳卒中理学療法に精通した専門家より多面的に情報提供していただく.特に,一般的な医学モデルにおける予後の中心は生命予後であるが,われわれ理学療法士は健康寿命に対して注力することが多い.本特集では脳卒中における健康寿命延伸に必要な機能予後の予測と,それらの予測を用いた目標設定の実際についてご紹介いただく.その導入として,本稿では脳卒中者に対する予後予測と目標設定の意義や重要性について解説する.

脳卒中後運動障害の予後予測と目標設定

著者: 久保田雅史 ,   橋本直之 ,   高田勇

ページ範囲:P.642 - P.650

Point

●予後を検討するためには,神経障害および運動障害の適切な評価と,それらの回復状況の理解が重要となる

●運動障害の予後予測においては,臨床評価から予測ツールを活用する方法,脳画像に基づく方法などがあり,発症早期から予後予測に活用できる標準的な評価尺度を的確に活用していく

●運動障害の予後予測から,症例ごとの活動・参加レベルの目標を的確に想定し,回復予測や想定される回復ステージに沿った治療プランを考えていく

脳卒中後起居動作の予後予測と目標設定

著者: 石渡正浩

ページ範囲:P.651 - P.657

Point

●起居動作は,日常生活を自立していくのに必要な基本動作であり,運動パターン,難易度を理解しておくことは,患者の能力予後,治療計画を考えるうえで重要なことである

●標準化された体幹における有効な評価ツールは,臨床と研究の双方において重要である

●体幹機能は起居動作および日常生活活動に対する予測因子として重要である

脳卒中後歩行障害の予後予測と目標設定

著者: 関口雄介

ページ範囲:P.658 - P.664

Point

●脳卒中片麻痺患者の歩行障害の特徴やメカニズムについて理解する

●歩行障害の回復メカニズムについては神経科学的視点から,回復過程や予後予測については臨床評価指標を用いて疫学的視点から理解する

●患者の目標設定は客観的指標を用いた予後予測を参照し,患者の希望を踏まえて行う

脳卒中後pusher現象の予後予測と目標設定

著者: 深田和浩 ,   関根大輔 ,   藤野雄次 ,   網本和 ,   高橋秀寿

ページ範囲:P.665 - P.672

Point

●Pusher現象は,6か月以内に消失する

●Pusher現象は,ADLの回復や入院期間を長期化させる

●Pusher現象の回復は,損傷半球や年齢,運動機能障害,認知機能障害,高次脳機能障害の影響を受けるため,多角的に分析し,予後予測や目標設定を行う必要がある

高齢脳卒中患者の予後予測と目標設定

著者: 阿部貴文 ,   佐藤陽一 ,   大口陽子 ,   今井遼太

ページ範囲:P.673 - P.679

Point

●高齢脳卒中患者に対するサルコペニアや低栄養の評価の重要性が高まっている

●脳卒中患者にサルコペニアは広く蔓延し,機能予後にも関与している

●栄養に関連した評価を実施したうえでの,サルコペニアや低栄養を予防・改善するための介入が重要である

脳卒中治療の進歩と理学療法への影響

著者: 徳田和宏

ページ範囲:P.680 - P.685

Point

●血栓回収療法後の理学療法場面は増加しつつある

●血栓回収療法後は劇的な神経症状の改善を認める症例がある

●急性期からの情報収集および経過をたどり予後予測と理学療法の目標設定をする必要がある

予後予測と目標設定に基づいた脳卒中患者への装具療法

著者: 脇坂成重 ,   東條明徳 ,   遠藤正英

ページ範囲:P.686 - P.691

Point

●脳卒中リハビリテーションで装具療法は不可欠であり,的確な予後予測に基づき,装具処方や装具療法の必要性を検討していく必要がある

●脳卒中後の装具療法では,理学療法士が立てる治療戦略が科学的根拠に基づいていることが求められる

●科学的根拠に基づいた治療戦略を実施していくうえで,「評価」,「現象」,「脳画像情報」を踏まえた病態解釈ならびに的確な予後予測が重要である

脳卒中後疼痛の発生予測と予防

著者: 壹岐伸弥

ページ範囲:P.692 - P.696

Point

●脳卒中後疼痛の特に中枢性脳卒中後疼痛は生活期リハビリテーションにおいて,介入に難渋することが多い

●近年は病態メカニズムに関する報告が増えている一方で,理学療法に関する介入研究や症例報告は少ない

●なかでも温冷覚障害が中枢性脳卒中後疼痛の主要な病態の問題と考え,仮説段階である温度覚課題を実施した症例経過を報告する

Close-up 職場管理

職場管理—経営者として

著者: 松井一人

ページ範囲:P.698 - P.701

はじめに

 職場管理はその規模や組織の形態によって異なる.そのため,まずは筆者が経営している株式会社ほっとリハビリシステムズ(以下,弊社)を紹介する.弊社は,福井県内に5つの拠点で事業を展開し,通所介護や訪問看護・介護の在宅サービスや,短期入所生活介護や介護付有料老人ホームなどの入居系サービス,看護小規模多機能型居宅介護事業所や認知症グループホームなどの地域密着型サービスなど23の事業所を運営する企業である.スタッフ数は397名であり,うち理学療法士は40名と,スタッフに占める構成比は10%ほどである.

 理学療法士が経営者であるが故,訪問,通い,泊まり,住まいのすべての介護事業に,自立支援・重度化防止の視点を深く練り込み,運営することに努めている.

 本稿では,経営者の視点で,職場の管理をどのように実践しているのかについて紹介する.

職場管理—中規模民間病院の部門責任者として

著者: 田中隆司

ページ範囲:P.702 - P.706

背景

 琵琶湖中央リハビリテーション病院は滋賀県大津市(人口34.4万人)にある,180床の回復期リハビリテーション病棟を有する病院である.また,外来・通所・訪問リハビリテーションを実施し,2012〜2019年の8年間で同病棟を60床から180床に転換・増床を実施した経緯があり,同圏域では唯一の回復期リハビリテーション病棟を運営している医療機関である.

 病院機能,転換などの経緯における職場管理の実践について私見を交え述べる.

職場管理—大学病院の部門責任者として

著者: 山本周平

ページ範囲:P.707 - P.711

はじめに

 大学病院の特性として,病床数に対して雇用されているリハビリテーション職員が少ない,また常勤職員と非常勤職員が併存している,という特徴がある.したがって,リハビリテーション職員単独介入でアウトカムを達成するというよりは病棟スタッフを巻き込むスキル,すなわちチーム医療やマネジメントスキルの基本が必要となる.

 さらに,患者層の高齢化によってさらにリハビリテーションが必要となるケースが増加していることが推察され,今後もリハビリテーション依頼件数が増加していくことが想定される.したがって,リハビリテーション依頼件数が増えても提供するリハビリテーションの質を保証したうえで提供していくかは非常に重要な課題である.

 本稿では,リハビリテーションの質を担保するために教育方針,各専門領域によるグループ編成,理学療法の品質保証,キャリアパスについて触れていく.

連載 とびら

トップは孤独なのか

著者: 小島伸枝

ページ範囲:P.631 - P.631

 「決定の場面においては,トップは常に孤独である」と,現代経営学の父と呼ばれるドラッカーは名言を残した.広辞苑によると経営とは経済活動を運営することであり,運営は組織を働かせることである.

 私が部門長となった6年前は理学療法士として患者の理学療法を行い,時折起こるトラブルの解決,インシデントやクレーム対応,他部署との調整といった業務をこなし,転びながらも何とか前に進む気力だけは失わないようにするのに精一杯の日々であった.日本企業の歴史を見てもミドルマネージャーは一人ですべてを判断し,指示し,率いていく英雄型リーダーシップが多かったように思う.それは医療の場でも例外ではなく,私自身も万能でなければならないと考えていた.

単純X線写真 読影達人への第一歩・第3回

肺炎・急性呼吸促迫症候群

著者: 花田匡利 ,   名倉弘樹 ,   及川真人 ,   竹内里奈 ,   神津玲

ページ範囲:P.623 - P.627

症例情報

●患者情報:50歳台,男性.

●診断名:コロナウイルス感染症2019(COVID-19)肺炎,急性呼吸促迫症候群(ARDS).

●現病歴:発熱と咳嗽にて当院トリアージ外来を受診.経皮的酸素飽和度(SpO2)が50%台と著明な低酸素血症を認め緊急入院.ただちに気管挿管にて人工呼吸管理となり,集中治療室(ICU)入室となった.

●理学療法開始時所見(入院第2病日):

・鎮静:筋弛緩薬投与下にてRichmond Agitation-Sedation Scale −5(昏睡)

・人工呼吸器設定:Assist/Control mode,FiO2 0.7,設定呼吸数15回/分,pressure control 15cmH2O,positive end-respiratory pressure(PEEP) 10cmH2O

・動脈血液ガス所見:pH 7.437,PaCO2 43.8Torr,PaO2 61.7Torr,HCO3 29.1mmol/L

・酸素化指標:PaO2/FiO2 ratio 88

・身体所見:視診にて吸気時に両側胸部の肋間陥没を認めた.胸郭拡張性に左右差はなく,rattlingの触知もなし.感染対策上,胸部の聴診は実施し得ず.

「経営者」の視線・第6回【最終回】

社会での存在意義

著者: 岡持利亘 ,   馬崎昇司

ページ範囲:P.712 - P.713

はじめに

 筆者(岡持)は経営者ではないが,医療法人のリハビリテーション部門の経営的運営に向き合ってきた.新卒入職から35年間,100床に対する理学療法士一人体制から始まり,入院から在宅,通所や訪問,地域包括ケア,保険制度以外でも,常に理学療法の可能性を感じてきた.その経験から社会での理学療法士の存在意義を考えてみたい.

臨床研究のススメ—エビデンスを創ろう・第6回

臨床研究に必要な統計知識

著者: 田島敬之

ページ範囲:P.715 - P.718

はじめに

 「臨床研究における統計」と聞いて何を思い浮かべるだろうか.読者のなかには,それすなわち統計的仮説検定(t検定や分散分析など)をイメージする方も少なくないのではないかと思う.実際,筆者がこれまでに臨床研究を始めたい初学者から受けた相談は,検定手法の選び方や対象者数(サンプルサイズ)に関する内容が大半を占めた.さらには検定結果の一つである有意確率(p値)に関して誤解をしている方も少なくなかった.

 エビデンスを正しく理解し,活用し,創るためには,統計に関する基本的な知識を身につけることが肝要である.本稿では,臨床研究をこれから始めたい方や統計にまだ自信がない方を主な対象に,押さえておくべき統計知識について解説をする.

臨床に役立つアプリケーション活用術・第6回【最終回】

文献検索

著者: 森山英樹 ,   井上翔太 ,   髙村大祐

ページ範囲:P.720 - P.721

文献検索(情報収集)

 研究や院内勉強会,そして臨床でも,情報収集せずに臨むことはないと思う.そのときの情報源になるものが文献である.文献とは,すでに公表された研究などの記録であり,これまでに何が行われ,何が考えられてきたか,さらに,ある問題についてどこまで解決され,残されている問題は何なのかを知ることができる.

 文献には,一次資料と二次資料がある.前者は論文や会議録などオリジナリティをもつ情報であり,後者には一次資料をまとめた総説,書籍,診療ガイドラインなどがある.効率よく情報収集するためには,大量の一次資料を検索する前に,関連する二次資料にあたり,おおよその知識をつかむほうがよい.

臨床実習サブノート 臨床実習で技術のステップアップをめざそう・第3回

評価② 筋力検査

著者: 磯邉崇

ページ範囲:P.723 - P.727

はじめに

 基本的な理学療法評価技術の学修目標として「筋力低下の程度と関連要因を把握する評価が実施できる」ことが掲げられています1).この「筋力低下の程度と関連要因を把握する評価」として筋力検査が挙げられます.筋力検査の目的は,① 筋力低下の有無,範囲と分布,程度を明らかにする,② 疾病経過指標とする,③ 発達の指標とする,④ 介入法選択の資料とする,⑤ 帰結評価と予後推定の資料とする2)ことです.代表的な筋力検査として,徒手筋力検査(Manual Muscle Testing:MMT)や徒手握力計が挙げられます.MMTは特別な機器を使用せず実施することができ,その簡便性から臨床で広く用いられています3).本稿では臨床場面で実践する機会が多いMMTによる筋力検査について述べていきます.

私のターニングポイント・第41回

“理学療法士という人”との出会い

著者: 桑原渉

ページ範囲:P.719 - P.719

 この機会に,あらためて私の人生を振り返ると,多くの“理学療法士という人”と出会い,その一つひとつがターニングポイントとなっていることに気づきました.

 まず,理学療法士を志すきっかけとなった出会いです.高校2年生のとき,私が通う高校の野球部(私はサッカー部)で,OBがトレーナーを務めているということが地方紙に取り上げられました.理学療法士という資格があること,自分の大好きなスポーツに大きく貢献できることを知り,強く惹かれました.野球部の顧問であった担任に紹介していただいたそのOBの方は,県内の理学療法士養成校の3年生であり,当時の私の抽象的な質問に対して,文書で非常に丁寧に回答をくださいました.

My Current Favorite・15

地元の理学療法のあり方を考える—日本理学療法士協会の活動を通して

著者: 渡邊家泰

ページ範囲:P.722 - P.722

現在の関心事は?

 日本理学療法士協会の活動を通してさまざまな企画運営に興味があります.今年度は ① 2023年度四国理学療法士学会の大会準備委員長,② 認定理学療法士臨床認定カリキュラム教育機関の管理者,③ 日本神経理学療法学会地方会の高知県支部局長を同時に担うこととなりました.初めての役割ばかりで無事に遂行できるのかと戸惑いがありますが,33歳の私にとって,今後につながる縁や意味がきっとあるのだろうと感じています.

報告

小学生の軟式野球選手におけるFunctional Movement Screenと過去の肘・肩痛との関連

著者: 大山祐輝 ,   海津陽一 ,   本間佑介

ページ範囲:P.729 - P.733

要旨 【目的】少年野球選手の多くはシーズン中に肩や肘の痛みを経験しており,早期からの障害予防に対する対策を実践していく必要がある.本研究では,小学生の野球選手におけるFunctional Movement Screen(FMS)と上肢障害との関連性を明らかにすることを目的とした.【方法】小学生364名の軟式少年野球選手(平均年齢10.5±0.5歳)に対して,横断的にFMSを測定した.過去の肩・肘痛の有無を従属変数,FMSの合計点,各項目の得点を独立変数とし,ロジスティック回帰分析を用いてオッズ比と95%信頼区間を算出した.【結果】FMSのなかでshoulder mobility(SM)が過去の肩痛(オッズ比:2.08,95%信頼区間:1.292-3.337)の独立した関連因子であった.【結論】SMは過去の肩痛との関連を示した.SMをスクリーニング検査として導入することにより,過去の肩痛を有した選手を推定することが可能である.今後は縦断研究によって,SMが小学生の野球選手において肩の障害を予測できるかを明らかにしていくことが重要である.

症例報告

Extension thrust patternを呈する脳卒中片麻痺患者の下肢装具変更後4年間の歩行能力の変化

著者: 栗田慎也 ,   久米亮一 ,   尾花正義

ページ範囲:P.735 - P.739

要旨 【目的】Extension thrust pattern(ETP)を呈する生活期脳卒中片麻痺患者1例に,株式会社佐喜眞義肢製の多軸膝遊動式膝継手(Sakima CB03A-01)とタマラック継手付きプラスチック製短下肢装具[タマラックankle foot orthosis(AFO)]を組み合わせた長下肢装具[center bridge-knee ankle foot orthosis(CB)-KAFO]を作製した.CB-KAFO作製後約4年間の歩行能力の変化を報告する.【症例と経過】視床出血発症後25年の70歳台女性で,歩行はオルトップAFOとT字杖を使用し自立していたが,ETPを認めた.歩行能力改善のため,CB-KAFOを作製し,それを使用して理学療法を行うことで即時的に歩行能力が改善した.7か月後に患者の希望でタマラックAFOへカットダウンをしたところ,転倒や歩容の悪化から,CB-KAFOに戻した.その結果,歩行速度や歩容の再改善を認め,30か月後までその改善を維持できている.【結論】ETPを呈する生活期脳卒中片麻痺患者に対するCB-KAFOの使用は歩行能力を改善し,その使用を継続できれば,長期にわたり歩行能力の維持・改善に寄与することが示唆された.

有鉤骨鉤摘出術後に尺骨神経障害を呈した1症例—超音波画像診断装置を用いた病態解釈

著者: 西野雄大 ,   増田一太 ,   河田龍人 ,   笠野由布子

ページ範囲:P.740 - P.745

要旨 有鉤骨鉤骨折とは,すべての手根骨骨折の2〜4%を占める比較的まれな骨折であり,本疾患に対する鉤摘出術後の約35%に一過性の環指尺側から小指のしびれを呈する.しかし実際にその病態を非侵襲的に可視化した報告はない.今回,有鉤骨鉤骨折に対する鉤摘出術後に尺骨神経障害を呈した症例を経験し,超音波画像診断装置にて術創部遠位部を観察した.その結果,環指近位指節間関節屈伸時の短軸像にて,環指の浅指屈筋腱と尺骨神経浅枝とが一塊となり滑走制限を呈していたのと同時に,牽引され扁平化する尺骨神経浅枝を確認した.さらに長軸像にて手関節掌背屈中間位での環指中手指節・指節間関節伸展最終域で,皮膚とともに遠位方向に牽引される浅指屈筋腱が観察できた.本症例は手術侵襲が環指の浅指屈筋腱と尺骨神経浅枝上に存在することに加え,術後の創部痛の持続に伴う不動により,術創部の皮膚とその直下の浅指屈筋腱,尺骨神経浅枝との間で癒着が生じたため,尺骨神経浅枝の牽引ストレスが増大し,一過性のしびれと感覚鈍麻が出現したものと考えられた.

書評

—前田眞治(監修)菅原光晴,原 麻理子,山本 潤(編)—「—臨床で使える—半側空間無視への実践的アプローチ」

著者: 網本和

ページ範囲:P.697 - P.697

 脳血管障害のリハビリテーションにかかわる臨床家なら,誰もがその症状の不思議に驚き,その回復と支援に苦労するのが「半側空間無視」だと思います.評者もまた新人のとき(40年以上昔!),半側空間無視症例を担当し,自分のアプローチがいかに無力かということを痛感し,以後生涯を通じてこの半側空間無視とその関連症状であるpusher現象の評価と治療を探求してきました.

 ここに前田眞治先生監修,菅原光晴先生,原麻理子先生,山本潤先生の編集になる『臨床で使える 半側空間無視への実践的アプローチ』について,僭越ながら書評を差し上げる機会をいただき,たいへん光栄なことと思います.

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目次

ページ範囲:P.632 - P.633

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.672 - P.672

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.748 - P.749

編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.750 - P.750

 爽やかな初夏の季節となりました.理学療法ジャーナル第57巻第6号をお届けします.

 本号の特集は「脳卒中における予後予測と目標設定」です.一般的に医学の臨床試験では,予後と言うと「死亡の回避・再入院の抑制」が最も重要であり,「死亡」や「再入院」はハードエンドポイントとして重要視されています.一方,理学療法では,運動能力や生活機能がどこまで改善するのか,QOLの改善などが重要視されます.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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