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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル57巻8号

2023年08月発行

雑誌目次

特集 睡眠と理学療法の深い関係

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.892 - P.893

 睡眠は,再び覚醒するのに備えて休息,回復するための重要な役割をもつ.体を横にしただけの休息とは異なり,長時間の睡眠剝奪は適切に働くはずの機能(集中力,記憶力,思考力など)が一時的に障害され,成長や疲労回復を阻害する.つまり,睡眠は理学療法を実施するうえで,実は欠かせないものである.本特集では睡眠に関する基本的知識と睡眠障害,疫学研究,理学療法に関連する取り組みなどをご解説いただいた.理学療法を実施するうえで,どのように活用できるかについて考える機会としたい.

—エディトリアル—睡眠と理学療法の深い関係

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.894 - P.899

 睡眠と覚醒は,生物時計によるサーカディアンリズムと覚醒時間の長さや活動により量と質が決定されるホメオスタシス(恒常性)によって制御されており,睡眠は脳や身体を正常に保つための重要な役割を果たす.つまり睡眠は,覚醒時に繰り広げられる生活の根幹をなすと言っても過言ではない.理学療法士は患者の疾患・障害だけでなく「生活の質」を高める役割も担うため,見過ごせない部分である.しかし,誰もが毎日体験する睡眠・覚醒という状態の調整に関して,私たちは積極的に理学療法に取り入れてはいなかった.

 近年,睡眠への関心度は「どの程度睡眠がとれたか」という量的なものから,「よい睡眠がとれたか」という質的なものへと変化している.また,睡眠を左右するものが日中の活動や運動であることも徐々に認知され,運動に関して言えば,これも量的なものから「どのような運動がよいか」という研究に変わっている(後述).

睡眠の科学—睡眠研究の最前線とリハビリテーションへの応用の可能性

著者: 岡部雄斗 ,   林直子 ,   稲富宏之 ,   林悠

ページ範囲:P.900 - P.907

Point

●レム睡眠とノンレム睡眠のそれぞれが身体や脳の健康維持に重要であると考えられる

●「恒常性制御」と「体内時計」の2つの要因によって,睡眠へ移行しようとする「睡眠圧」が決まる

●レム睡眠とノンレム睡眠を制御する脳部位や脳内物質が徐々に明らかになりつつある

睡眠の疫学

著者: 植田結人 ,   和田裕雄 ,   谷川武

ページ範囲:P.908 - P.913

Point

●睡眠は健康に負の影響を与えるため,睡眠状態(長さ,質,リズム)の把握は重要である

●子どもの睡眠不足は深刻な問題であり,保護者への睡眠に関する知識普及と客観的評価手法の確立が求められる

●睡眠の客観的評価指標の活用による効果的なヘルスプロモーションが求められる

睡眠障害の治療と薬剤

著者: 西條史祥 ,   井上雄一

ページ範囲:P.914 - P.920

Point

●睡眠障害のなかでは不眠症と睡眠時無呼吸症候群の頻度が高い

●不眠症の薬物治療は依存性や筋弛緩作用の少ない睡眠薬が主流となりつつある.一方で海外では薬物治療ではなく認知行動療法が第一選択である

●睡眠時無呼吸症候群は日中の眠気や生活習慣病,心血管障害の原因となる.治療はマウスピースや持続陽圧呼吸療法が主体である

睡眠と運動

著者: 小島将 ,   内藤翼 ,   椿淳裕

ページ範囲:P.921 - P.927

Point

●急性および慢性的な睡眠不足は,心身機能の低下に関与する

●中等度〜激しい身体活動および運動は,睡眠状態の改善に寄与する

●入院患者における不良な睡眠は,リハビリテーションによる機能回復を妨げる可能性がある

睡眠と寝具

著者: 木暮貴政

ページ範囲:P.928 - P.934

Point

●寝具に関する睡眠研究成果を理解する

●寝返りしやすさ・寝心地の改善,高温・低温環境への適応,睡眠呼吸障害の軽減などを介して寝具は睡眠に影響する

●寝具の睡眠への効果も使用環境や使用者によって変化する

—睡眠障害と理学療法—寝返りと睡眠の関係

著者: 山口正貴

ページ範囲:P.935 - P.940

Point

●疼痛や身体機能低下は睡眠の質・量の低下,睡眠中の寝返りの少なさに関係がある

●睡眠中の寝返りの役割や特徴を理解する

●睡眠中の寝返り回数を増やすために,睡眠環境と身体機能の2点からアプローチする

—睡眠障害と理学療法—在宅要介護高齢者と睡眠

著者: 武昂樹 ,   芦澤遼太 ,   本田浩也 ,   吉澤康平 ,   亀山裕斗 ,   吉本好延

ページ範囲:P.941 - P.946

Point

●在宅要介護高齢者は,認知症や脳血管疾患などの慢性疾患を複数有することで,さまざまな要因により睡眠障害を呈することが多い

●睡眠障害に着目し評価・介入することで睡眠の質が向上し,在宅要介護高齢者の転倒リスクの軽減や抑うつの改善に寄与する可能性がある

●不眠症に対して理学療法士が実施できることとして,認知行動療法や身体活動量増加・座位行動減少のための介入が挙げられる

—睡眠障害と理学療法—認知症と高照度光照射

著者: 緑川亨 ,   小松泰喜 ,   東郷史治 ,   三谷健 ,   橋本昌也 ,   山口潔

ページ範囲:P.947 - P.951

Point

●睡眠障害は認知症の症状進行や介護者負担の増加の要因となる

●認知症高齢者の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)への対応は,薬物療法における有害事象のリスクの観点から非薬物療法が優先される

●十分な強度での朝の光照射は認知症高齢者の睡眠障害を改善する可能性がある

—睡眠不全と理学療法—睡眠不全に対するbasic body awareness therapy

著者: 山本大誠

ページ範囲:P.952 - P.955

Point

●睡眠不全は心身の変調を来し,日中の遂行能力の低下の原因になる

●睡眠不全には,アロスタシス負荷およびストレス対処の改善が重要である

●睡眠不全に対してはbasic body awareness therapyの効果が期待される

Close-up 筋力評価—○○と組み合わせると何がみえる?

体重からみた筋力評価

著者: 山本利春

ページ範囲:P.958 - P.963

下肢筋力と体重との関係からみた指標—体重支持指数(WBI)

 運動の基本は体重の移動であり,自身の体重を支えるだけの十分な脚筋力があるかどうかを評価する必要がある.特に大腿四頭筋は,歩く,走る,跳ぶなどといった身体活動における下肢の基本的動作の主動筋であり,体重の支持,重心の移動,膝関節の安定性に重要な役割を果たす.それゆえに大腿四頭筋の筋力不足は,スポーツに多く見られる膝関節傷害を中心とした下肢のスポーツ傷害の要因として重要視されている.この大腿四頭筋の筋力評価は,体重支持力の評価とも言える.自分の体重を支えるだけの十分な筋力があるかどうかを評価することはスポーツ活動(または荷重運動)を安全に効率よく行ううえで重要な要件となる.

 それではこの大腿四頭筋は,一般にどの程度の筋力を発揮できればよいのだろうか.スポーツ選手における大腿四頭筋の最大筋力(等尺性膝関節伸展筋力,膝関節70°屈曲位)と体重との関係は体重が重いほど筋力値が高く,両者は高い相関関係にある(r=0.7166,図11)).筆者らは「ヒトは体重に見合った脚筋力を備えているのではないか」という関心のもとに,スポーツ傷害をもたない健常なスポーツ選手600例について,大腿四頭筋の筋力(等尺性膝関節伸展最大筋力)を測定し,体重で除して体重1kg当たりの筋力(kg)を算出してみたところ,その平均は1.00(±0.2)kg/kgとなった1).体重当たりの値が1.00ということは,片脚で発揮される大腿四頭筋の筋力が,ほぼ自分の体重値と同じであるということになる.

歩行速度からみた筋力評価

著者: 片山訓博 ,   重島晃史 ,   山﨑裕司 ,   加嶋憲作

ページ範囲:P.964 - P.967

はじめに—歩行速度と下肢筋力の関係

 歩行速度と下肢筋力の関係は直線関係ではなく,ある筋力閾値を想定したモデル(図)がより適合する1,2).筋力閾値以上の筋力をもつ症例A,Bは,筋力が異なる一方で歩行速度には差がない.しかし,症例Bの下肢筋力は筋力閾値に近似しており,筋力低下が進行すれば歩行速度が制限される.症例Cは筋力閾値を下回っており,歩行速度がやや低下している.症例Dは筋力閾値を大きく下回っており,著しく歩行速度が制限されている.症例Eは筋力閾値を上回っているが,歩行速度は制限されている.片麻痺や下肢関節可動域の制限など,筋力以外の問題を有することが推測される.

 下肢筋力が筋力閾値より上の対象者では,歩行速度から下肢筋力を推定することは不可能であろう.しかし,筋力閾値以下の対象者であれば,歩行速度によって筋力を推測することができる.また,筋力以外の要因によって歩行速度が修飾される症例では,歩行速度から筋力を推測することはできない.よって,本稿のデータは,運動器疾患のない高齢患者に限定した.

 歩行速度では,快適歩行速度と最大歩行速度の2種類が用いられる.快適歩行速度では対象者の努力程度が曖昧となるため,さまざまな環境因子によって測定値が修飾される.先行研究3)では,快適歩行速度を測定する際,その前に速歩を行っていると歩行速度が速くなり,ゆっくり歩くと歩行速度が遅くなることが示されている.一方最大歩行速度では,歩行率と歩幅との間に一定の関係を示し,膝伸筋群や足底屈筋群の筋活動(筋力)との相関が明らかで,より大きな膝伸筋群や足底屈筋群の筋活動(筋力)が必要となる.そこで,本稿では最大歩行速度によって下肢筋力を推測する.

 なお,下肢筋力の評価は,安価で,簡便性・汎用性・信頼性に優れ,多くの臨床データが蓄積されているベルト固定を併用したhand-held dynamometer(HHD)によって測定された等尺性膝伸展筋力を下肢筋力の代表値として用いた4)

姿勢からみた筋力評価

著者: 鈴木あかり

ページ範囲:P.968 - P.971

はじめに

 姿勢はその人の内面までも映し出す.そのような言葉を何度か耳にしたことがある.筆者は理学療法士として働くようになり,その言葉の意味を体感することがある.理学療法士にとって,姿勢評価は理学療法評価の一つに過ぎないが,対象者の姿勢からカルテには書かれていない既往歴や生活状況,癖や習慣が見えてきたとき,その対象者の過去から現在に至るまでの人生が姿勢に現れているのかもしれないと感じる.さらには,仮にこの姿勢のままであれば将来はどうなるだろう,と考えることもある.本稿ではそんな姿勢を筋力評価の視点で観察したときに,見えてくるものを考える.

連載 とびら

忘れられないE先生の言葉—臨床実習の思い出

著者: 奥田憲一

ページ範囲:P.889 - P.889

 大学勤務を始めて7年目に入った.実習地訪問も終わり,4年生にとって最後の長期実習が終盤に差しかかってきた.そんなときに,この原稿を書いている.

 小児を専門にしようと思っていた私は,2年生の評価実習,3年生の初めての長期実習を重症心身障害児者病棟や筋ジストロフィー病棟で過ごした.2期目は大学病院での長期実習で,中枢疾患や骨関節疾患などの障害をもつ人たちとの初めての実習であった.

単純X線写真 読影達人への第一歩・第5回

心不全・胸水

著者: 中尾周平 ,   窪薗琢郎

ページ範囲:P.883 - P.886

症例情報

●患者情報:80歳台,女性,独居.

●診断名:うっ血性心不全,頻脈性心房細動,間質性肺炎.

●現病歴:入院2週間前から胸部絞扼感や呼吸困難感,起座呼吸を認め,心臓超音波検査(以下,エコー)で左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)50%と以前より低下を認めた.今回,当院心臓血管内科にて精査加療目的に入院となった.

●身体所見:身長147cm,体重52.1kg,Body Mass Index 24.1kg/m2.血圧138/81mmHg,心拍数100回/分,酸素飽和度(SpO2)94%(O2-2L鼻カニュラ),体温37.0℃.頸動脈怒張なし,心雑音なし,呼吸音清,副雑音あり(水泡音),末梢動脈触知良好,末梢冷感なし,末梢浮腫なし.

●冠危険因子:なし.

●内服薬:ビソプロロールフマル酸塩,スピロノラクトン,アゾセミド.

●血液生化学検査:ヘモグロビン 12.6g/dL,カリウム 4.5mmol/L,推算糸球体濾過量(eGFR) 33.5mL/分/1.73m2,C-reactive protein(CRP) 1.90mg/dL,アルブミン(Alb) 3.4g/dL,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP) 327.7pg/mL,N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP) 3,402.0pg/dL.

●経胸壁心エコー:LVEF 50.0%,左房径 45.7mm,E/e' 16.6,僧帽弁・三尖弁逆流moderate.

インシデント,ヒヤリハットから学ぼう・第2回

インシデント報告—ヒヤリハットでとどめる大切さ

著者: 高橋明美

ページ範囲:P.973 - P.976

 インシデント(ヒヤリハット)報告は始末書や責任を問われるものではないということは,皆さんもご存知でしょう.しかしその目的については漠然としか理解していない方が多いようです.読者の皆さんは,管理職の立場の方やスタッフの方それぞれいらっしゃると思いますが,改めてインシデント報告の意味を共有しインシデント(ヒヤリハット)でとどめる大切さを一緒に考えてみたいと思います.

難しい症例のみかた・第2回

小児先天性四肢形成不全,欠損症における理学療法—膝関節離断術を施行した先天性両脛骨列欠損児の1例

著者: 井上和広

ページ範囲:P.977 - P.980

 先天性四肢形成不全は,胎生期に生じ出生時に四肢の形態異常を示す疾患の総称であり,四肢の低形成や変形,欠損などさまざまな臨床像を示す.海外の疫学調査では1万人出生あたり5〜6人とされており,国内においても1万人出生あたり4.5人と報告されている1)

 治療は保存的治療をはじめ,整形外科的手術による四肢再建術や切断,義肢や装具療法,発達促進や機能向上に対するリハビリテーションが組み合わされ実施される.また,稀少疾患ゆえにリハビリテーションや義肢に関する報告や情報も少なく,家族をはじめ担当医師やセラピストは悩みながら支援を続け,患者の出生時から成長に伴う継続的かつ長期的な対応が必要となる1,2).本稿では,膝関節離断術を施行し歩行獲得に至った先天性両脛骨列欠損児の整形外科的手術や理学療法経過,装具・義肢処方経過などを報告する.

Platypnea orthodeoxia syndromeを呈した重症肺炎患者

著者: 宮崎慎二郎

ページ範囲:P.981 - P.983

 Platypnea orthodeoxia syndrome(POS)は,臥位で緩和され,直立位で悪化する低酸素血症や呼吸困難を特徴とするまれな症候群であり,臥位から直立位での動脈血酸素分圧(arterial oxygen partial pressure:PaO2)>4mmHgまたは,動脈血酸素飽和度(arterial oxygen saturation:SaO2)>5%の低下と定義されている1).心房中隔欠損など左右の心房間シャントで生じる場合が多く,肺実質疾患によるPOSの報告は3.7%ときわめて少ない1)

 重症肺炎や間質性肺炎などに合併するPOSは,重力の影響による換気血流比不均等2)や,低酸素血症に対する肺血管収縮の無反応が原因と考えられている3).POSでは,座位や直立位で低酸素血症や呼吸困難を招くため,離床の妨げとなる可能性がある4).今回は,重症肺炎によりPOSを呈し,長期間座位や立位が制限された症例への理学療法について解説する.

中間管理職の悩み・第2回

プレイングマネジャーとして,管理と臨床のかかわり方に悩んでいます

著者: 永田英貴

ページ範囲:P.984 - P.985

はじめに

 管理者は管理と診療の両立を求められており,そのタイムマネジメントに関する悩みをよく耳にする.管理と診療の両立方法は環境により異なるため,自身の環境に合わせた方法を模索する必要があるが,その方法や経験を知る機会は限られている.

 今回,筆者が実施してきた管理と診療の両立方法(タイムマネジメント)の考え方を中心にお伝えする.少しでも読者の先生方の参考になれば幸いである.

臨床実習サブノート 臨床実習で技術のステップアップをめざそう・第5回

評価④ 姿勢観察,運動学的分析

著者: 高田将規

ページ範囲:P.987 - P.993

 姿勢観察,運動学的分析は,理学療法士にとって基本的な評価であり,治療につながる,また効果判定として多くの情報を得ることができる評価の一つです.しかし,多くの情報が詰まっているからこそ,姿勢観察・運動学的動作分析は難しく,臨床実習生にとっての難関です.姿勢観察・運動学的分析には,総合的な知識や情報を統合する能力が必要であり,実習指導者にも臨床実習生の能力を把握し,適切な補助・助言を行うための能力が必要とされます.

私のターニングポイント・第43回

異業種他職種の経験を経て実感する,“療法士”という職の特殊性

著者: 奥山航平

ページ範囲:P.972 - P.972

 私は,現在所属している回復期リハビリテーション病院で勤務する以前に,ベンチャー企業に勤めていました.そこではリハビリテーション医療に関するプロダクトを開発しており,プロダクトの要件検討や開発の進捗管理・マーケティング・営業などのさまざまな役割を経験しました.異業種他職種の経験をしたことは,療法士という職がもつ特殊性を再認・実感する機会(ターニングポイント)となりました.

 私が感じた特殊性の一つは,療法士の生み出す利益の安定性が高いことです.療法士は,患者へ一定時間のリハビリテーションを提供することで即時的かつ確実性をもって組織に利益を生むことができます.さらに言うと,時間単価の設定要件に提供されるリハビリテーションの内容は問われていません(施設基準を除く).

My Current Favorite・17

誘発筋電図—F波を用いて,運動の習熟度を判断できるかもしれない

著者: 鈴木俊明

ページ範囲:P.986 - P.986

現在の関心事は?

 現在の私の関心事は「誘発筋電図F波の波形分析」です.F波は運動神経に最大上の電気刺激を与えるとすべての運動神経が発火し,そのインパルスが逆行性にも軸索を伝導する.この逆行性インパルスに対し軸索小丘で再発火することで順行性活動電位を生じ,筋まで伝導し筋活動電位として記録される波形がF波といわれ,脊髄前角細胞の興奮性の指標です.このF波の波形はさまざまであり,その波形の形を追究することで単に脊髄前角細胞の興奮性だけでなく,F波が記録できる筋の運動能力も評価できるのではないかと予想でき,F波の波形の解析に最も注目しているところです.

原著

成長期新鮮腰椎分離症における体幹硬性装具装着下のストレッチングが骨癒合と柔軟性に与える影響

著者: 三宅秀俊 ,   石川徹也 ,   杉山貴哉 ,   氷見量

ページ範囲:P.995 - P.1000

要旨 【目的】成長期新鮮腰椎分離症患者において,ストレッチング時の体幹硬性装具装着の有無が骨癒合と柔軟性に影響するか検討した.【方法】対象は体幹硬性装具を装着し骨癒合を図った者であり,ストレッチング時の硬性装具装着の有無により時期によって旧プロトコル群(293例)と新プロトコル群(65例)の2群に分類した.骨癒合評価は骨癒合率,骨癒合期間とした.柔軟性評価として初回時と骨癒合時に立位体前屈距離,下肢伸展挙上角度,踵殿部間距離,股関節外旋可動域,股関節内旋可動域,Thomas testを行った.【結果】骨癒合率は旧プロトコル群85.8%,新プロトコル群92.2%であった.全柔軟性項目にて旧プロトコル群,新プロトコル群ともに骨癒合時は初回時と比較し有意に改善していた(p<0.01).骨癒合時の柔軟性についてThomas testは新プロトコル群のほうが旧プロトコル群と比較して陽性者の割合が有意に低かった(p<0.01).その他の柔軟性項目は有意差を認めなかった.【結語】新プロトコル群は骨癒合率が上昇し,柔軟性が改善したので,より有効なプロトコルであると考えられた.

症例報告

母趾MTP関節周辺の瘢痕組織との癒着によりクロスフィンガーを呈した長母趾伸筋腱断裂縫合術後の1症例

著者: 小瀬勝也 ,   赤羽根良和 ,   棚瀬泰宏 ,   山川祥平 ,   吉井太希 ,   藤田圭佑 ,   野々村諒太

ページ範囲:P.1001 - P.1006

要旨 長母趾伸筋腱断裂縫合術後の理学療法は,およそ術後4週から開始し,縫合腱の再断裂や瘢痕組織の形成を予防しつつ滑走性を改善することが重要とされている.今回,創部の感染により術後7週から理学療法が開始され,術後12週にクロスフィンガーを呈した症例を経験した.本症例のクロスフィンガーは,腱と瘢痕組織間の滑走障害が起因となり母趾metatarsophalangeal(MTP)関節軸は外側に偏位するとともに,母趾を屈曲すると母趾は外反方向に牽引され生じていた.理学療法では超音波画像診断装置を用いて経時的に確認しながら,瘢痕組織から縫合腱の浮き上がりを促した後に遠位滑走を促し,慎重に屈曲可動域を増加させた.以上の理学療法を実施した結果,術後16週でクロスフィンガーは消失し,組織間の滑走性と母趾屈曲時の遠位方向への滑走性も改善した.腱の滑走性の獲得に併せた段階的な屈曲可動域の獲得が,クロスフィンガーを軽減させたとともに二次的な関節障害を抑止し,治療を進展させる手段と考えた.

リバース型人工肩関節置換術後におけるリハビリテーション—肩関節挙上時前方詰まり感に対する超音波画像診断装置を用いた評価・治療の一考察

著者: 氷見量 ,   中嶋康之

ページ範囲:P.1007 - P.1013

要旨 リバース型人工肩関節置換術の術後理学療法では,術創部周囲の癒着予防や肩甲帯周囲の機能改善が挙上角度獲得に重要な要素であるとされる.今回,リバース型人工肩関節置換術にL'Episcopo変法が併用された症例を経験した.本症例において,先行報告を参考にした運動療法と大円筋・広背筋移行腱への介入を術後4週目より実施した結果,自動屈曲可動域は85°から125°と改善を認めた.しかし,屈曲最終域における肩関節前方での詰まり感が残存していた.再評価として超音波画像診断装置を用い,詰まりを訴えていた烏口突起周囲の動態を確認したところ,同部位に瘢痕組織の存在と特徴的な所見を動態にて確認した.同部位の瘢痕組織に対する運動療法を追加した結果,術後32週で屈曲140°と改善を認めるとともに詰まり感も消失した.術後早期よりリバース型人工肩関節特有の円滑な関節運動が行われなかったことで,烏口突起周囲に瘢痕形成が生じ,このことが関節可動域制限や前方詰まり感の要因と考えられた.

書評

—柳谷登志雄・川本竜史・長野明紀・谷川 聡・広瀬統一(監訳)—「スポーツと運動のバイオメカニクス」

著者: 中村雅俊

ページ範囲:P.957 - P.957

 バイオメカニクスと聞くと,関節モーメント・床反力,ベクトルに代表される専門用語,はたまたsin,cos,tanといった数学的なものを想像し,バイオメカニクスと聞くだけで逃げ出してしまいたくなるテーマだと推察される.実際に大学での講義の際にモーメントという言葉を出すや否や,拒絶に近い反応を示す学生もいるような印象がある.

 私自身も高校時代はいわゆる理系の勉強をしていた人間であり,現在もバイオメカニクスを専門とする研究者の端くれとして,上記の言葉をスポーツや運動を学ぶ理学療法学や体育・スポーツ科学を専攻とする学生にわかりやすく教えたいと常々感じていた.しかし,バイオメカニクスに関する書籍の多くは,力学の理論や公式がふんだんに含まれ,数学的・理論的な学習をするにはうってつけであるが,その反面,スポーツや運動に対する情報が少なく,実際の運動やスポーツへの理解・応用が難しい場合も多い.一方,スポーツパフォーマンスや運動に対して説明を行っている書籍では,概念的な理解はしやすい反面,実際の計算的な手法が不明であったり,用語の正確な理解が少し難しい場合が多い.いわゆる帯に短し襷に長しとなることが多かった.しかし,この『スポーツと運動のバイオメカニクス』においては,この現状を打破することが可能である構成をしている.

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目次

ページ範囲:P.890 - P.891

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.971 - P.971

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.1016 - P.1017

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.1018 - P.1018

 今月の特集である「睡眠の最前線」は金谷さとみ先生が企画・編集されたものですが,4月から顧問に就任されましたので代わりに編集後記を担当しています.

 企画の意図は金谷先生ご自身がエディトリアルで存分に述べられています.基礎知識やトピックスを扱う講座などとは異なり,理学療法の臨床実践に生かす具体的な内容を含んだ特集として睡眠を取り上げたことに理学療法の発展と変革を実感します.従来の理学療法は,運動というエネルギーを消費・表出するパフォーマンスに焦点が当てられていましたが,今日では,栄養,睡眠,排泄,身体活動を含めた健康・疾病管理に基づきwell-beingをめざす包括的な枠組みが確立しつつあります.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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