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文献概要
Close-up 重力を意識する—人体機能・構造への影響
ヒトの身体構造と直立二足歩行の重力適応
著者: 荻原直道1
所属機関: 1東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
ページ範囲:P.1088 - P.1095
文献購入ページに移動はじめに
約46億年前に誕生した地球に,最も原始的な生物が誕生したのが約38億年前である.その後多細胞生物が誕生し,植物・動物は陸に上がり,生物は多様に進化した.そのなかから哺乳類,さらには霊長類,つまりサルの仲間が誕生し,その一員として,常習的に二足で歩く霊長類,すなわちヒトが誕生した.
地球上に誕生し,生活する以上,好むと好まざるとにかかわらず,われわれの身体には常に重力(地球の引力と地球の自転による遠心力の合力)が作用している.普段の生活においてわれわれが重力を意識することはほとんどないが,実際にはかなり大きな力が作用している.自分の体重と同じ重さの荷物を運ぶことを考えると,われわれの身体に作用する重力がきわめて大きいことに気づかされる.また宇宙飛行士が長い間宇宙空間に滞在すると,重力が身体に作用しないため骨や筋が衰えてしまい,地球に帰ってきてから長期のリハビリテーションに取り組まなくてはならない.このことからも,地球上で身体に作用する重力がいかに大きいかが想像できよう.
進化は,環境への適応の結果,生物が世代を経るにつれて変化していく現象である.ヒトにおいてもそれは例外ではなく,われわれの身体は,進化の長い道のりのなかで,重力環境への適応の蓄積として形作られてきた.地球上で進化してきたわれわれ人類は,身体に作用する巨大な重力にどのように適応して,二足歩行する特異な霊長類として進化してきたのだろうか.本稿では,地球上に暮らす以上,逃れることのできない重力環境への適応という観点から,ヒトの身体構造と二足歩行の進化について概説する.
約46億年前に誕生した地球に,最も原始的な生物が誕生したのが約38億年前である.その後多細胞生物が誕生し,植物・動物は陸に上がり,生物は多様に進化した.そのなかから哺乳類,さらには霊長類,つまりサルの仲間が誕生し,その一員として,常習的に二足で歩く霊長類,すなわちヒトが誕生した.
地球上に誕生し,生活する以上,好むと好まざるとにかかわらず,われわれの身体には常に重力(地球の引力と地球の自転による遠心力の合力)が作用している.普段の生活においてわれわれが重力を意識することはほとんどないが,実際にはかなり大きな力が作用している.自分の体重と同じ重さの荷物を運ぶことを考えると,われわれの身体に作用する重力がきわめて大きいことに気づかされる.また宇宙飛行士が長い間宇宙空間に滞在すると,重力が身体に作用しないため骨や筋が衰えてしまい,地球に帰ってきてから長期のリハビリテーションに取り組まなくてはならない.このことからも,地球上で身体に作用する重力がいかに大きいかが想像できよう.
進化は,環境への適応の結果,生物が世代を経るにつれて変化していく現象である.ヒトにおいてもそれは例外ではなく,われわれの身体は,進化の長い道のりのなかで,重力環境への適応の蓄積として形作られてきた.地球上で進化してきたわれわれ人類は,身体に作用する巨大な重力にどのように適応して,二足歩行する特異な霊長類として進化してきたのだろうか.本稿では,地球上に暮らす以上,逃れることのできない重力環境への適応という観点から,ヒトの身体構造と二足歩行の進化について概説する.
参考文献
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