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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル58巻10号

2024年10月発行

雑誌目次

特集 小脳update—運動と認知

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1088 - P.1089

 小脳病変では四肢・体幹の協調運動障害に対する理学療法を中心に進められてきたが,認知,情動や学習の遅延など多彩な症状によって長期にわたる治療介入が必要な場合もある.本特集では,小脳構造と機能,運動,認知にかかわる最新のトピックスを踏まえて,臨床実践での理学療法の評価の視点と治療戦略について詳細に解説いただくこととした.

小脳の構造と機能

著者: 杉原泉

ページ範囲:P.1090 - P.1097

Point

●ヒト小脳は,後葉半球部(第Ⅰ脚,第Ⅱ脚小葉)と前葉虫部・傍虫部が発達している

●小脳の神経回路は豊富な入力から最適な適応のための調節信号をつくり脳幹に出力する

●小脳の機能的区分は,入出力の連絡に,特に苔状線維入力の分布に依存している

小脳型運動失調の症候学

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.1098 - P.1105

Point

●運動失調は小脳性と感覚性と分けるよりも小脳型と後索型とするほうがよい

●Miller Fisher症候群の運動失調は感覚性とされるが,後索型ではなく背側脊髄小脳路の障害と考えられ,小脳型である

●頭頂葉病変による運動失調には小脳型と後索型がある

小脳と認知機能

著者: 森本千恵 ,   小池進介

ページ範囲:P.1106 - P.1112

Point

●小脳は大脳と連関し,運動から認知・情動まで多岐にわたる機能に関与する

●小脳-大脳連関の破綻により,社会生活機能全般に広く影響する障害がもたらされる可能性がある

●臨床での小脳病変の評価には,潜在的に存在する認知・情動機能の障害を慎重に検討することが重要である

小脳ならびに小脳脳幹病変に伴う運動失調に対する評価と理学療法

著者: 廣谷和香

ページ範囲:P.1113 - P.1121

Point

●前庭小脳・脊髄小脳・大脳小脳系の神経経路を理解する

●損傷部位から小脳システムの障害を予測し臨床での評価・観察および治療戦略を検討する

●運動失調のみでなく運動学習や非運動性機能も考慮する

小脳・脳幹の多彩な臨床症状の評価と理学療法—脊髄小脳変性症

著者: 近藤夕騎

ページ範囲:P.1122 - P.1129

Point

●脊髄小脳変性症は遺伝性,孤発性,痙性対麻痺に分類される

●協調運動障害に対する理学療法では,“動作の速さの調整”に重点を置くことがポイントである

●理学療法士として,自律神経障害やめまいに対しても改善可能な要因を特定することが重要である

小脳機能の低下を伴う他疾患症例に対する理学療法—下肢骨折

著者: 中谷知生

ページ範囲:P.1130 - P.1135

Point

●小脳の機能低下を呈する疾患では身体機能や活動性の低下などさまざまな要因で転倒による下肢骨折の受傷リスクが高い状態にある

●小脳の機能低下に加え下肢骨折を受傷するなどの複合疾患では明確な介入の指針に乏しく,臨床判断に悩むことが多い

●本稿では小脳疾患を既往にもつ大腿骨近位部骨折の症例の理学療法の考え方と介入の方向性について解説する

Close-up 宇宙医学

宇宙環境が運動器・循環器系に及ぼす影響とその予防方法

著者: 山田深

ページ範囲:P.1138 - P.1141

宇宙医学とは

 宇宙医学とは,宇宙という環境因子に関連して人類の生活機能が受ける影響を明らかにし,宇宙飛行,あるいは宇宙滞在における健康問題の解決を図るための学問である.

 宇宙での生活に伴って生じる問題の一つが,地上とは異なる微小重力環境が及ぼす心身機能・身体構造への直接的な作用である.加えて,地球から離れ,限られた閉鎖空間での生活機能における活動制限と参加制約が,運動器・循環器系にさらなる悪影響を及ぼすこととなる.

民間の宇宙進出に対応する健康管理体制—宇宙医学の立場から考える責務と展望

著者: 門馬博 ,   森貴史 ,   三垣和歌子

ページ範囲:P.1142 - P.1146

はじめに

 宇宙開発といえば,かつては国家的プロジェクトであった.特に20世紀後半のアメリカと旧ソ連の宇宙開発によって,有人宇宙飛行,人工衛星打ち上げ,月面着陸などが次々と現実のものとなった.これらはまさに国の威信をかけた競争の成果と言えるものであった1).その後アメリカ,ロシア,カナダ,日本,欧州11か国の計15か国により国際宇宙ステーション(International Space Station:ISS)が運用され,現在に至るまで宇宙における研究開発拠点として大きな役割を果たしている(2022年には中国も宇宙ステーション「天宮」を完成させている).

 宇宙飛行士の往来は地球から打ち上げるロケットと宇宙飛行士が乗船する有人宇宙機によって行われているが,アメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration:NASA)はCommercial Crew Program(商業乗員輸送プログラム)として民間企業であるSpaceX社のロケット(Falcon 9),および有人宇宙機(Crew Dragon)での運用を2020年より開始している.また,民間企業単独としてもBlue Origin社やVirgin Galactic社が独自の有人宇宙機により短時間ながら微小重力を体験できる商業的宇宙旅行を実現させている2)

 そして今後の月面探査,火星探査などにおいては,官民一体となった国際的プロジェクトとして月周回有人拠点(Gateway)建設,月面基地建設,月面ローバーの開発などが計画されている.また,2030年に運用終了となるISSの後継としての新たな地球低軌道ステーション建設についても複数の民間企業が計画している.このように,現代の宇宙開発は国単独のプロジェクトではなく,国と国,そして国と民間が協力しながら進めていく新たなフェーズに入ったといえる.

連載 とびら

理学療法の核心を守りながら,しなやかに変化を楽しむ

著者: 松浦道子

ページ範囲:P.1085 - P.1085

 理学療法士をめざしていた学生時代のおぼろげな自分の将来イメージは,自転車で患者さんの自宅へ赴く訪問リハビリテーションでした.そして気がつけば卒後26年が経ち,現在は病院でリハビリテーション部の部長として勤務しています.昔にはまったく想像していなかった現在の仕事ですが,大変だと思うこと以上にやりがいを感じることが多く,周りのたくさんの方々に助けられ,支えられていることに感謝する日々です.

 振り返ってみると,20代の頃は,仕事やプライベートの環境が時間とともに変わっていくということを,あまり自分のこととして捉えていませんでした.しかし実際には,社会も,制度も,リハビリテーションのエビデンスや方法も,そして自分自身のライフステージも,大きく変化していました.現在は,変化の渦中で理学療法士にとって大切な核心と考える部分を守りながら,柔軟に変化に対応すること(先取りする,礎になるエビデンスを発信することも)と,それらのバランスが重要だと考えています.

視覚ベースの動作分析・評価・第6回

腰部—腰痛緩和のための骨盤,胸郭への介入

著者: 城内若菜

ページ範囲:P.1079 - P.1082

症例紹介

 20歳台の男性.しゃがみ動作での作業が続き左腰痛が出現した.以前より作業後の腰痛は時折あったが,徐々に休憩しても症状が残存するようになった.近医を受診し,物理療法のみ実施されるも効果なく,成尾整形外科病院(以下,当院)を受診し,精査,加療目的で入院となった.医師の診断は腰椎椎間板症であり,理学療法実施の指示が出た.既往歴は左前腕骨骨折(11年前),左気胸(手術あり,6年前)であった.


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年10月31日).

運動療法に活かすための神経生理(学)・第4回

運動療法はどのようなメカニズムで関節疾患の痛みを軽減するのか?

著者: 坂本淳哉 ,   佐々木遼

ページ範囲:P.1147 - P.1152

はじめに

 関節疾患は理学療法の診療場面で遭遇する頻度が高い運動器疾患であり,なかでも,変形性膝関節症(knee osteoarthritis,以下,膝OA)は罹患者数が多く,慢性疼痛の原因となる主要な疾患でもある.そのため,疼痛の病態解明が進められ,最近では膝OAを限局的な関節疾患としてではなく,神経系の感作・可塑的変化や神経免疫の異常,精神心理学的障害なども含めた全身性疾患として捉える必要性が提唱されており,包括的アプローチの重要性が示唆されている1).そして,世界各国のガイドラインでは運動療法と患者教育が膝OAの中核的治療(core treatment)に位置づけられており,すべての膝OA患者に対して実施することが推奨されている.

 そこで,本稿では膝OAにおける主要な疼痛の病態(図1)とそれらに対する運動療法の効果について,生物学的ならびに神経生理学的側面から概説する.

今月の深めたい理学療法周辺用語・第10回

ハイドロリリース

著者: 斉藤究 ,   田島嘉人

ページ範囲:P.1154 - P.1155

ハイドロリリースの概要

 ハイドロリリースとは,生理食塩水などの麻酔効果のない点滴溶液を患者の発痛源に注射することで,疼痛の軽減または消失を図る治療である.ハイドロリリースにより痛みの改善だけでなく,関節可動域の改善,筋出力の向上,しびれや知覚異常の改善など,リリースする組織によってさまざまな効果が得られる.

 1980年にFrostら1)は筋筋膜性疼痛に対して注射を行ったところ,生理食塩水でも麻酔薬と同等の鎮痛効果を示し,麻酔効果がないぶん,神経ブロックなどの副作用も少なかったと報告した.これが現在のハイドロリリースへと発展した.ハイドロリリースには麻酔効果がないため,除痛が得られた際にはその効果が注射部位の組織間滑走や機能異常,血流障害などによって得られたと解釈できる.このように,病態理解に役立つこともハイドロリリースの利点の一つである.

理学療法士のための「money」講座・第10回

給料が増えない……副業するか

著者: 細川智也

ページ範囲:P.1157 - P.1160

はじめに

 本連載でも,理学療法士の給与水準に関して何度か述べてきました.収入に不安を抱いている理学療法士が多いのは確かで,「まず副業を」と考えている人は多いと思います.

 2017年に政府が発表した「働き方改革実行計画」では,「労働者の健康確保に留意しつつ,原則副業・兼業を認める方向で,副業・兼業の普及促進を図る」という内容が盛り込まれ,副業の容認が推奨されるようになりました.それ以降,副業に関する話題が増えたように感じます.ただ,副業をどう考えたらよいのか,何が正解なのかなどをしっかりと学んでいる人は少ないでしょう.副業をお小遣い稼ぎと思っている人もいるでしょうし,スキルアップの機会やキャリアの多様化と考えている人もおり,スタンスはさまざまです.

 そこで本稿によって,副業の考え方や,何が自分に適切な副業なのかを知っていただき,よく考えたうえで選択をできるようになっていただければ,と思います.

臨床実習サブノート 「どれくらい運動させていいかわからない」をどう克服するか・第7回

—中枢神経系疾患—回復期脳卒中患者に対するバランス練習

著者: 大田瑞穂

ページ範囲:P.1161 - P.1167

脳卒中患者のバランス練習

 脳卒中患者では36.8〜83%と幅広い範囲でバランス障害を呈していると報告されており1,2),主に運動麻痺,感覚障害,認知処理の問題などのさまざまな機能低下によりバランス能力が低下するため3),日常生活活動の制限,転倒リスクの増加,生活の質の低下につながります4,5).そのため,脳卒中患者のバランス練習は活動性の改善を促す回復期においても重要です.

 バランスとは姿勢の動揺を最小限に抑えながら,身体重心(center of mass:COM)を支持基底面内(base of support:BOS)に保持する能力を指しますが6),自然立位や座位などの姿勢を保持し一定の位置にCOMを保持する静的バランスと,COMの移動を伴う動作を達成する機能である動的バランスに分類されます.本稿では回復期の脳卒中患者を想定して,動的バランスに対する練習について解説します.

私のターニングポイント・第57回

恩を公言することでチャンスが生まれる

著者: 水谷準

ページ範囲:P.1153 - P.1153

 私は小学3年生にバスケットボールという競技と出会い,この競技の面白さにとりつかれ,五十路手前の現在でもバスケットボールにかかわっている.

 現在,新潟県バスケットボール協会(以下,協会)スポーツ医科学委員会にも所属し,大会サポートや県代表チームへの帯同などを行っている.

My Current Favorite・30

地域連携と臨床推論でリハビリテーションの質を高める

著者: 青島健人

ページ範囲:P.1156 - P.1156

現在の関心事は?

 近年,リハビリテーション分野において「連携」と言う言葉をよく耳にします.私自身,脳卒中のリハビリテーションにかかわる機会が多く,連携の重要性は高いと考えています.「連携」と言うと,装具ノートや高次脳機能障害者支援のための各種ツールやシステムの活用をイメージしがちですが,回復過程に沿った一貫性のあるリハビリテーションの提供も重要な「連携」だと考えています.しかし,施設が変わるとさまざまな影響で一貫したリハビリテーションの提供が困難となっていることも事実です.

報告

大腿骨近位部骨折患者における日本語版Cumulated Ambulation Scoreと術後短期的な歩行能力の関連性

著者: 鳥山貴大 ,   櫻井利康 ,   富井啓太 ,   小平博之

ページ範囲:P.1169 - P.1175

要旨 【目的】大腿骨近位部骨折患者に対して日本語版Cumulated Ambulation Scoreを用いて算出した術後3日間の移動能力(以下,3-day CAS)と,術後短期的な歩行能力の関連性を明らかにする.【方法】2021年1〜12月に当院で加療された大腿骨近位部骨折患者214例を解析対象者とした.術後1週時,術後2週時,退院時の歩行能力の関連因子および歩行自立に必要な3-day CASのcut off値を分析した.【結果】解析対象者の平均年齢は85.8歳,女性164例であった.歩行能力(自立群の症例数/関連因子/3-day CASのcut off値)は,術後1週時が14例/年齢,3-day CAS/8.5点,術後2週時が47例/年齢,受傷前Motor items-Functional Independence Measure(M-FIM),受傷前Cognitive items-Functional Independence Measure(C-FIM),3-day CAS/7.5点,退院時が自立群81例/受傷前M-FIM,受傷前C-FIM,3-day CAS/6.5点であった.【結論】日本語版Cumulated Ambulation Scoreを用いて算出した3-day CASは大腿骨近位部骨折患者の短期的な歩行予後を予測する因子として有用であることが示唆された.

ひろば

理学療法士の臨床推論の原理原則

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.1177 - P.1177

 臨床推論(clinical reasoning)とは,端的に言えば患者の病態などを明らかにし,そこから解決の方法を導くための臨床的思考過程である.この思考過程は,ある事実に基づいて未知の事象を推し量り論じる,まさしく「推論」なのである.臨床推論は医師をはじめ,理学療法士,看護師などの医療関連専門職(allied health profession:AHP)が行う一連の能動的な医療行為の基礎となる.患者の病気・変調は,医師による診断に基づき,医師およびAHPにより治療が実施される.そこでは,それぞれのAHPが患者の機能診断・評価に即したキュア・ケアの到達目標を設定し,それらのプログラムを遂行する.この過程において臨床推論が求められる.

 近年,医学・医療の発展に伴い,「治療ガイドライン」の信頼性が高まっていると言えるが,一般的な研究の結果と同様に,あくまでも平均化したデータに準じて提示されたものであることを忘れてはならない.つまり,「治療ガイドライン」を参考にすることはあっても,鵜呑みにして臨床推論を怠ってはならない.

書評

—宮坂 道夫(著)—「弱さの倫理学—不完全な存在である私たちについて」

著者: 山内志朗

ページ範囲:P.1137 - P.1137

 著者は倫理を次のように宣言する.倫理とは,「弱い存在を前にした人間が,自らの振る舞いについて考えるもの」であると.

 倫理学は正義とは何か,善とは何か,幸せとは何か,そういったことを考える学問だと考えられている.ただ,そういった問題設定は強い者目線での思考に染まりがちだ.強さは戦いを招き寄せる.だからこそ,世界的な宗教は,キリスト教も仏教も徹底的に弱者の地平から人間の救済を考えてきた.本質的に人間は弱く不完全であり,不完全なまま生き続けるものであるという事態を前にして,私たちは絶望に陥らず希望を語ることが求められている.

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目次

ページ範囲:P.1086 - P.1087

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1097 - P.1097

動画配信のお知らせ

ページ範囲:P.1152 - P.1152

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.1180 - P.1181

編集後記

著者: 白谷智子

ページ範囲:P.1182 - P.1182

 日本の四季が感じられにくくなっているものの,朝晩は1枚羽織が欲しいと感じるようになり,夏から秋へと移り変わることを肌で感じる季節となりました.そして,読書の秋です.この気候のよい時期を活用して,本誌をゆっくりと読んでいただければ幸いです.

 さて,本号の特集は「小脳update—運動と認知」です.これまで本誌で小脳のみを真正面から取り上げた特集はなく,本号が初めての小脳をメインにした特集となります.私が理学療法士となった約25年前は,小脳障害といえば運動失調が主な症状と考えられており,認知機能や情動などの高次脳機能への影響について記述されたものはほとんど見られなかったように思います.今回の特集では,近年の脳機能解析の発展により,小脳機能が運動だけでなく認知や情動にも広くかかわっていることが明らかになってきている点が記述されています.また,小脳病変を有する患者においても高齢化が進んでいるため,小脳病変と骨折を併発するケースも増えており,時代の変化に伴う理学療法のアプローチについても触れられています.ぜひご一読いただきたいと思います.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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