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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル58巻3号

2024年03月発行

雑誌目次

特集 骨盤底機能障害と運動器障害の連関

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.264 - P.265

 骨盤底筋群は骨盤内臓器の支持,排泄機能(排尿・排便),姿勢保持,骨盤の安定化,腹圧コントロール,性的活動と役割が多岐にわたる.このため,骨盤底機能障害は尿失禁,骨盤臓器脱,便秘などの排泄・生殖器症状だけでなく,腰痛・骨盤帯疼痛,股関節疾患などの運動器疾患に大きく関連するため,かかわる診療科も多様である.本特集により,骨盤底機能と骨盤底機能障害の理解を深め,骨盤底機能障害を運動器障害として捉える.さらに他診療科と連携し,適切な評価・治療が普及していくことを願う.

—エディトリアル—骨盤底機能と機能障害に対する理学療法

著者: 田舎中真由美

ページ範囲:P.266 - P.268

Point

●骨盤底筋群は臓器の支持,排尿・排便のコントロール,骨盤の安定化,姿勢保持,腹圧コントロール,性的活動と役割が多岐に及ぶ

●骨盤底機能障害は排泄・生殖器症状(尿失禁,頻尿,骨盤臓器脱,便秘など)と運動器症状(腰痛・骨盤帯疼痛・股関節疾患)を呈する

●骨盤底機能障害に対する理学療法は,運動器理学療法として局所の骨盤底機能だけでなく関連筋群の機能評価も考慮する

泌尿器科医から理学療法士に求めること—泌尿器科医とともに取り組む泌尿器科疾患・骨盤底機能障害

著者: 青木芳隆

ページ範囲:P.269 - P.272

Point

●尿失禁などの下部尿路症状や慢性骨盤痛に対して,骨盤底筋トレーニングを含む理学療法の役割は重要である

●尿失禁は産後および40歳以上において多く起こる一般的な問題で,そのタイプによって治療法も異なるため,丁寧に多角的に評価することが大切である

●泌尿器科疾患を有する患者に対し,理学療法士と泌尿器科医が連携し,専門的な知識と情報を共有しながら,適切な治療やケアを提供することが期待される

産婦人科医から理学療法士に求めることと期待—ライフコースに応じたマイナートラブルへの対応

著者: 重見大介

ページ範囲:P.273 - P.276

Point

●妊娠中〜産後の時期は骨盤底機能障害によって尿失禁や骨盤臓器脱,恥骨痛,腰痛などが生じやすい

●妊娠中〜産後の時期は薬物療法や外科治療に制限が多く,理学療法への期待は大きい

●日本で妊産婦への理学療法を普及するために,エビデンスや事例の共有,データベース構築が重要である

整形外科医から理学療法士に求めること—骨盤底と股関節との関連を診療科を超えて診る

著者: 田巻達也

ページ範囲:P.277 - P.280

Point

●変形性股関節症に対する人工股関節置換術後に尿失禁症状が改善する症例が存在する

●骨盤底において内閉鎖筋は肛門挙筋と密接な解剖学的関係をもつ

●股関節機能の低下は,尿失禁や骨盤臓器脱の危険因子の一つと考えられる

リハビリテーション科医から理学療法士に求めること—障害者の妊娠・出産について考えるリハビリテーション医療の視点

著者: 上出杏里

ページ範囲:P.281 - P.284

Point

●リハビリテーション医療の視点から,Bio-Psycho-Social(BPS)モデルに基づいて評価,訓練・支援計画を立てる

●障害がある場合,妊娠・出産に伴う身体変化により補装具や介助者の有無,介助方法の変更など生活機能(活動・社会参加)に影響が及ぶ

●生活機能(活動・社会参加)の改善のためには,多職種連携による包括的支援の必要がある

骨盤底機能と腰椎・骨盤帯疼痛

著者: 城内若菜

ページ範囲:P.285 - P.292

Point

●腰痛,骨盤帯疼痛は慢性化することで疼痛の原因が複雑化するため,識別は重要である

●骨盤底筋は腹横筋や多裂筋とともに働くことで腹圧を上昇させ,腰椎の安定化に関与している

●骨盤底筋は共同収縮により仙腸関節を安定させており,機能不全により仙腸関節痛の要因となり得る

スポーツにおける骨盤底機能障害

著者: 磯あすか ,   半谷美夏

ページ範囲:P.293 - P.299

Point

●アスリートの骨盤底機能障害の症状は尿失禁が多く,特に女性で多い

●アスリートの産後の機能評価は一般産褥婦と同様だが,競技姿勢や競技動作を想定して行う

●骨盤と隣接している股関節の評価と機能改善はスポーツ動作に重要である

骨盤底機能と変形性股関節症

著者: 西村圭二

ページ範囲:P.300 - P.307

Point

●股関節と骨盤底は密接に関係している

●変形性股関節症患者は,骨盤底と股関節周囲筋との筋・筋膜連結や姿勢アライメントの影響により,尿失禁や骨盤臓器脱などの骨盤底機能障害も有している

●股関節と下部体幹をリンクさせて理学療法を行うことで,排尿障害および歩容改善の一助となる

骨盤底機能と妊娠期の腰痛

著者: 山﨑愛美

ページ範囲:P.308 - P.313

Point

●妊娠による身体的変化および内分泌動態の運動器への影響を理解する

●腰痛,骨盤帯疼痛を引き起こす要因を理解し,他の疾患との鑑別を行いながら機能評価介入を実施する

●尾骨痛は尾骨に付着する靱帯や筋機能の非対称性の有無を確認する

骨盤底機能と排便困難型便秘

著者: 永井豊美

ページ範囲:P.314 - P.318

Point

●排便に関連する構造・組織は骨盤底の後方・最底部に位置する

●排便には体幹の機能も関与する

●排便に対する理学療法評価には,運動器疾患と同様に胸郭・腰椎・骨盤帯・股関節の評価も必要である

男性における骨盤底機能と排泄機能障害

著者: 井出志正

ページ範囲:P.319 - P.327

Point

●骨盤底筋群は体幹・骨盤底・股関節機能を評価し,治療することが重要である

●骨盤底筋トレーニングはバイオフィードバック療法や触診を併用し,正確に指導することが大切である

●骨盤底筋群は尿失禁を呈するさまざまな姿勢や動作で適切に機能するようにトレーニングする必要がある

Close-up 高齢者とのコミュニケーション

高齢者とのコミュニケーション—想いを推察する

著者: 山口美和

ページ範囲:P.331 - P.336

はじめに

 日本は「察しの文化」に代表されるように,多くを語らずとも相手がわかってくれることを期待する「高コンテキスト文化」註1)であると言われている.何も話さなくても自分の気持ちを理解してくれる人の存在はありがたいものであるが,高齢者の気持ちを理解することは実際には難しいことが多い.本論では,高齢者を理解するために,彼らの人生史とその多様性に想いを馳せながら,言葉や行動の背景となる個々の高齢者が有する「事情や理由」を推察することを通して,理学療法士として高齢者にかかわる際のポイントについて解説する.

高齢者とのコミュニケーション—機能と能力を理解する

著者: 横山友徳

ページ範囲:P.337 - P.342

はじめに

 わが国の問題の一つに高齢化がある.日本では2022年10月1日現在で高齢化率は29.0%である.さらに2070年には高齢化率が38.7%と推計されている1).高齢化が進むにつれ,高齢者を支える医療や介護の分野では加齢に伴う身体・精神的変化を理解し,対応することが求められている.

 そのなかでも相手の特性を理解して行われるべき行為であるコミュニケーションへの対応は欠かせない.コミュニケーションには聴覚や視覚,認知機能,発声発語機能など複数の機能がかかわっており,高齢者においては,それぞれの機能が加齢に伴って変化するため,問題が生じている原因を整理して,対応する必要がある.

 高齢者のコミュニケーション障害の原因には,加齢に伴うもの,加齢が伴って生じる疾患に起因するもの,先天性疾患によるコミュニケーション障害に加齢が伴うものに分けられる2).コミュニケーション障害の有病率については,McAuliffeら3)がニュージーランドの65歳以上の高齢者地域住民71,859人(平均年齢82.7歳,女性61%)のうち,36.2%の人が理解面に,30.6%の人が表出面にコミュニケーション障害を示したと報告している.鈴木4)は,本邦のコミュニケーション障害の有病率は障害の多様性や体系的な調査の困難さから十分ではないものの,加齢性難聴や軽度認知障害などのコミュニケーションにかかわる障害の有病率を考慮して,ある一定数は存在していると述べている.

 そして,コミュニケーション障害の心理的影響について,Coshら5)はノルウェーの60歳以上の成人2,890人を対象として,視力低下と聴力低下,双方の感覚低下がうつ病と不安症状に及ぼす影響を調査した.その結果,双方の感覚低下は経時的に抑うつ症状を増加させ,片方の感覚低下のみを有する場合よりも,抑うつの重症度にさらなる長期的リスクをもたらしたと報告している.これらのことから,ある一定数の高齢者がコミュニケーションの問題によって社会的孤立に陥っている可能性が高いため,私たちは高齢者のコミュニケーションの特性を理解してかかわることが大切である.

 ここからは,コミュニケーションの専門家である言語聴覚士として,コミュニケーションの成立と加齢性変化と機能に応じた対応方法について解説をする.

特別記事

理学療法士が活躍するマンガ,知っていますか?—境界のエンドフィール(集英社)

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.329 - P.329

「関節は曲げようとする筋肉だけでなく反対の筋肉が伸びることでスムーズに曲がるんですよ」

「上肢の方はまだ関節がゆるいなインピンジメントに気をつけないと…」

連載 とびら

私とリンパ浮腫

著者: 木ノ下悠子

ページ範囲:P.261 - P.261

 私とリンパ浮腫の初めての出会いは,新人の当時,外来リハビリテーションに通院していた乳癌術後の続発性リンパ浮腫の患者さんだったと思う.まだがんリハビリテーションという分野は確立されておらず,リンパ浮腫という言葉さえ,私は知らなかったかもしれない.紙カルテにて指示されたプログラムには,中周波の出力設定とともに電極を貼る部位が図示されていた.胸筋合併乳房切除術および放射線療法後で,遅発性神経障害を伴い廃用手にもなっていたので,筋ポンプによるリンパ還流促進を目的とした立案だったのだろう.

 当院ではその後,リンパ浮腫外来が開設されて,医師・医療リンパドレナージセラピスト(以下,セラピスト)による専門的治療が実施されるようになり,数年後,リハビリテーション部が連携を開始した.当時,リンパ浮腫外来の診察日は週1回で,毎度,夜遅くまで医師・セラピストが残業していたはずだ.そのようななか,外来ブースにおじゃまして,小さな勉強会から交流が始まったように記憶している.

単純X線写真 読影達人への第一歩・第12回【最終回】

脊椎圧迫骨折

著者: 古谷英孝

ページ範囲:P.251 - P.258

症例情報

●基本情報:70歳台,女性.

●診断名:第12胸椎圧迫骨折.

●主訴:動くと痛い.

●現病歴:1週間前に自宅で転倒して受傷.転倒直後の腰背部の痛みは軽度であった.転倒5日後,痛みがだんだん強くなり,体動時に激痛があったため,整形外科を受診する.第12胸椎圧迫骨折の診断を受け,入院加療の運びとなる.

●理学療法評価:動作時腰痛Visual Analogue Scale(VAS)88mm,下肢の神経障害(−),第12胸椎の叩打痛(+),Young Adult Mean(YAM)67%

今月の深めたい理学療法周辺用語・第3回

発達性協調運動障害(developmental coordination disorder:DCD)

著者: 新田收

ページ範囲:P.346 - P.347

発達性協調運動障害の認識

 発達性協調運動障害(発達性協調運動症,developmental coordination disorder:DCD)は,現在「発達障害」というカテゴリーに分類されている.一般に「発達障害」は,自閉症スペクトラム障害(自閉スペクトラム症,autism spectrum disorder:ASD),注意欠陥・多動性障害(注意欠如多動症,attention deficit hyper activity disorder:ADHD),限局性学習障害(限局性学習症,specific learning disorder:SLD)を含む障害として知られている.これら発達障害は,コミュニケーションと社会性スキルの問題として捉えられることが多い.

 「発達障害」が広く認識されたのは,2005年に施行された「発達障害者支援法」(以下,支援法)による影響が大きい.支援法は,発達障害の定義と社会福祉法制における位置づけを確立し,発達障害者への福祉的援助の道を開くことを目的に制定された.支援法では「発達障害」の定義を以下のように示している.「自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」.

中間管理職の悩み・第9回

スペシャリストであるスタッフの働き方を,どのように考え進めればいいでしょうか?

著者: 森憲一

ページ範囲:P.348 - P.349

はじめに

 筆者は,大阪回生病院で技師長として長年管理職に従事し,その後の3年間はクリニックの副院長を経験しました.現在は起業し,保険外にてリハビリテーションを提供する株式会社を経営しています.

 今回は,筆者が悩みながらどのようにスペシャリストのための組織をつくり,進めていったかをcase studyとして述べたいと思います.本稿では,スペシャリストを「臨床家であり,実践する分野にて講師依頼を受けるまでに発展させた者」と定義して解説します.

理学療法士のための「money」講座・第3回

老後の資金のために投資を! って言われても……—年金だけではだめなのか?

著者: 細川智也

ページ範囲:P.353 - P.356

はじめに

 連載第2回(本誌2024年2月号)では理学療法士の経済的側面と,お金以外に大事なことを述べました.第3回は「投資」に焦点を当て,その必要性をひもといていきます.

 多くの方が「つみたてNISA」や「iDeCo」を耳にしたことはあるでしょう.なかでもつみたてNISAは,制度がスタートした2018年と比較しNISA口座をもっている人が明らかに増えてきました.しかし,投資がなぜ必要なのか,その動機や目的を明確にもっている人はどれほどいるのでしょうか.投資は単なる「資産を増やす」手段ではなく,それぞれのライフプランや目的達成に向けた手段,そして経済活動としての側面もあります.今回は,そんな投資における価値を探求していきます.

臨床実習サブノート 臨床実習で技術のステップアップをめざそう・第12回【最終回】

治療技術⑥ 日常生活活動練習

著者: 岡崎俊秀 ,   菅野拓人

ページ範囲:P.357 - P.361

はじめに

 日常生活活動(ADL)は,日常生活で必要な移動動作や階段昇降,食事や整容,更衣,排泄,入浴といった身の回りの動作を行う能力のことを指します.ADL練習は,さまざまな方法で評価した情報をもとに,身体機能面だけでなく,福祉機器選択を含めた環境因子や個人因子にも介入していく必要があります.本稿では,臨床実習指導者,実習生双方の一助になるように,個別性が高く多角的に考えていく必要があるADL練習を整理をして,伝えるポイントや見るポイントについて記載します.

私のターニングポイント・第50回

知識と知恵

著者: 諏訪かおり

ページ範囲:P.345 - P.345

 誰かの一言や日々の出来事,震災やコロナ禍といった未曾有の出来事など,数々のターニングポイントが今の私を形成しています.今回は理学療法士として,次のキャリアへの転換となったポイントを図に記しました.なかでも私の意識を大きく変えたターニングポイントは,最初の職場の退職時に上司から「知恵より知識をつけろ」と指摘されたことです.何となくやって,うまくいっている私の感覚的な面を危惧されたのでしょう.自分の曖昧さと甘さを見透かされたようで,情けない気持ちになりました.

 それ以降,基本や裏づけの検証を心がけてきました.出発点が感覚的な場合にはなぜ成功したのか,失敗したのかを振り返って精査するようにしています.その積み重ねで物事の解像度が上がり,結果の拠り所が少しずつ見えるようになってきました.仕事においても,研究においても,人生においても,常に根底にある言葉です.この言葉があったから大学院に進む決断ができました.その姿勢は今の企業勤めでも活きています.

My Current Favorite・24

理学療法士に必要なキャリアデザインとは

著者: 土居誠治

ページ範囲:P.350 - P.350

現在の関心事は?

 読者の皆さんは,「現在のキャリアに満足していますか」.また,「未来のキャリアについて希望や目標はありますか」.この問いかけは,私自身が常に意識していることです.キャリアとは「仕事を含めた人生全体」のことであり,今まで歩いてきた道のりです.そして,今後どのような道を歩いていくか目標を立て実行するプロセスが,「キャリアデザイン」となります.

短報

理学療法士国家試験に対するChatGPTのパフォーマンス評価

著者: 澤村彰吾 ,   尾藤貴宣 ,   安藤貴洋 ,   増田健人 ,   古桧山建吾

ページ範囲:P.363 - P.366

要旨 【目的】本研究では,ChatGPT-3.5およびアップグレード版であるChatGPT-4の理学療法士国家試験におけるパフォーマンスを検証することを目的とした.【方法】第57回および第58回理学療法士国家試験を対象として,ChatGPT-3.5とChatGPT-4に回答を生成させた.なお,画像問題や厚生労働省が不適切と判断した問題は対象から除外した.【結果】第57回理学療法士国家試験の正答率はChatGPT-3.5が47.6%(79/166問)であり,ChatGPT-4が80.7%(134/166問)であった.第58回理学療法士国家試験の正答率はChatGPT-3.5が55.5%(96/173問),ChatGPT-4が72.3%(125/173問)であった.【結論】ChatGPT-3.5は第57回,第58回ともに合格基準を満たさなかったが,ChatGPT-4は合格基準に達していた.しかし,臨床場面や教育現場での使用を考慮すると,生成された回答の正確性を確認し,情報を検証することが必要であると考えられた.

症例報告

妊娠前から分娩後に至る骨盤形態の縦断的症例検討

著者: 増田一太 ,   来田宣幸

ページ範囲:P.367 - P.370

要旨 本研究は,妊娠前に骨盤形態計測を実施し得た経産婦を対象に,妊娠初期から分娩後8週間にわたる骨盤形態変化を前方視的に調査したケーススタディである.骨盤形態計測は,妊娠11週以降より分娩後8週まで実施し,妊娠前の値と比較検討した.特徴的であったのは,妊娠から分娩後までの両上前腸骨棘間距離の変化は,妊娠19週で妊娠前の計測値に比べ2cm(8.9%)の開大を認め,全計測期間中の最大値となり,分娩後5日目には妊娠前と同値となった点である.この妊娠初期の変化は,胎児の発育状況から考え,女性ホルモンの影響が強い可能性が示唆された.一方,分娩後の骨盤形態は,わずか5日目で妊娠前と同値となったことから,分娩に伴う力学的環境の変化が形態変化の原動力となった可能性が高い.このような周産期を通した一連の骨盤形態変化は骨盤帯痛の一因にもなるため,円滑な社会復帰を促すためにも管理していく必要がある.

ひろば

理学療法の原理原則論を問う

著者: 中村壮大

ページ範囲:P.371 - P.371

 本邦における理学療法士は,医師,看護師,薬剤師などに続き,正規の医療関連職種の一角を担う専門職として1966年に誕生した.それから半世紀以上が経過し,理学療法士は国民の保健・医療・福祉にかかわる要請に応えるべく尽力してきたと思える.しかし,社会の絶え間ない変遷に対して理学療法士は順守すべき新たな原理原則論を学び,あるいは創造して臨床現場に反映しているのだろうか.

 理学療法の英語名称には,physical therapy(米国圏)とphysiotherapy(英国圏)とがある.前者のphysicalには身体的な意味もあるが,歴史的原則論は物理的エネルギーを治療手段とするものである.後者のphysiotherapyはphysiology(生理学)の接頭語であるphysioが使用され,治療手段を問わずインプット・アウトプットの生理学的機序を表している.ちなみに,世界理学療法連盟の英語名は2020年に従来のWorld Confederation for Physical TherapyよりWorld Physiotherapyと改められている.

学会印象記

—第11回日本運動器理学療法学会学術大会—課題を探求し,新たな課題を探究する

著者: 下澤駿介

ページ範囲:P.351 - P.351

 2023年10月13日〜15日に第11回日本運動器理学療法学会学術大会が福岡国際会議場にて開催されました.新型コロナウイルスの影響で3年ぶりの完全対面形式となりましたが,約2,000人の参加者と500題を超える一般演題が発表されるなど終始活気溢れる学術大会でした.

 大会2日目,開会式前に行われたオープニングセミナー1では,メインホールの会場に立ち見の聴講者が出るほど多くの方が参加し,大盛況のなかでの幕開けとなりました.その後に行われた各シンポジウムや講演,一般演題セッションにおいても活発なディスカッションがなされ,大きな盛り上がりを見せていました.

—第10回日本予防理学療法学会学術大会—介護予防の変遷と地域づくりを学ぶ

著者: 鹿内誠也

ページ範囲:P.362 - P.362

 記念すべき第10回の日本予防理学療法学会学術大会は「予防理学療法学の学際性」をテーマに,4年ぶりの完全対面にて開催されました.多くの演題や参加者,多職種の参加で,非常に活気溢れる大規模な学術大会でした.

 また「学際性」のテーマにふさわしく,さまざまな職種や幅広い領域の講演やシンポジウムを聴講することができ,充実した学びの機会を得ることができました.

臨床のコツ・私の裏ワザ

大殿筋の収縮を確認するコツ—その背景と考え方を治療に活かすには

著者: 岡本和久

ページ範囲:P.372 - P.373

 ヒトの進化において歩行における主役はハムストリングから大殿筋へと移行した1).股関節伸展(大殿筋)の筋力は徒手筋力検査(manual muscle testing:MMT)では腹臥位で検査をするが,術後の急性期や円背の症例など臨床においては実施しにくい場面もある.

 今回,肢位別に大殿筋の収縮を確認することにより治療に役立てるコツをお伝えしたい.

書評

—加藤 実(著)—「子どもの「痛み」がわかる本—はじめて学ぶ慢性痛診療」

著者: 倉澤茂樹

ページ範囲:P.343 - P.343

 感覚過敏や鈍麻など,臨床を通じ肌身で捉えた子どもの感覚世界を,子どもの代弁者となり保護者や多職種に伝えることの重要性を実感している.本書を読み終え,著者である加藤実先生に勝手ながら妙な親近感を覚えた.長年にわたり子どもたちの痛みと向き合ってきた臨床家としての経験知,そしてエビデンスを重視する研究者としての姿勢に共感したのである.

 子どもの痛み体験は,身体的反応だけでなく,不安や恐怖など情動体験として認知形成され,長期的な影響も引き起こす.この事実はわが国の児童・思春期医療において十分に認識されていない.処置時の痛みは「一瞬だから」と軽視され,「そのうち慣れる」と放置されることも少なくない.リハビリテーションに携わるセラピストも例外ではない.新生児集中治療室ではカテーテルやモニター機器が装着され,臓器発達の未熟な新生児では動くことにさえ苦痛を伴うだろう.術後早期から開始されるリハビリテーションにおいて“機能回復”を優先するあまり,痛みを蔑ろにしていないだろうか? エビデンスとともに示される事実によって,われわれセラピストは内省する機会を得るだろう.

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目次

ページ範囲:P.262 - P.263

読者の声

ページ範囲:P.292 - P.292

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.307 - P.307

本誌連載スピンオフ企画参加者募集

ページ範囲:P.352 - P.352

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.376 - P.377

編集後記

著者: 横田一彦

ページ範囲:P.378 - P.378

 2024年度は2年に1回の診療報酬改定,3年に1回の介護報酬改定と障害福祉サービス等報酬改定の重なるトリプル改定にあたります.読者の皆さまもその情報収集と対策に忙しいことと思います.時代の流れに合わせ医療・介護・福祉の連携に重きを置いた改定が見込まれ,すべての領域にかかわる理学療法士の役割がますます重要になると感じています.

 さて,本号の特集は「骨盤底機能障害と運動器障害の連関」です.長年にわたり骨盤底機能に着目して臨床・研究活動を続けておられる田舎中真由美先生をゲストエディターにお迎えし,渾身の企画を準備していただきました.骨盤底機能と排泄の関係性は理学療法士にも定着しつつありますが,もっと深く運動器障害との連関を考えることで,また新たな視点が広がることを各論文では述べていただきました.関連する診療科の医師からの熱い期待をお読みいただき,明日からの臨床活動に活かしていただきたいと思います.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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