icon fsr

文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル58巻3号

2024年03月発行

文献概要

Close-up 高齢者とのコミュニケーション

高齢者とのコミュニケーション—機能と能力を理解する

著者: 横山友徳1

所属機関: 1川崎医科大学総合医療センターリハビリテーションセンター

ページ範囲:P.337 - P.342

文献購入ページに移動
はじめに

 わが国の問題の一つに高齢化がある.日本では2022年10月1日現在で高齢化率は29.0%である.さらに2070年には高齢化率が38.7%と推計されている1).高齢化が進むにつれ,高齢者を支える医療や介護の分野では加齢に伴う身体・精神的変化を理解し,対応することが求められている.

 そのなかでも相手の特性を理解して行われるべき行為であるコミュニケーションへの対応は欠かせない.コミュニケーションには聴覚や視覚,認知機能,発声発語機能など複数の機能がかかわっており,高齢者においては,それぞれの機能が加齢に伴って変化するため,問題が生じている原因を整理して,対応する必要がある.

 高齢者のコミュニケーション障害の原因には,加齢に伴うもの,加齢が伴って生じる疾患に起因するもの,先天性疾患によるコミュニケーション障害に加齢が伴うものに分けられる2).コミュニケーション障害の有病率については,McAuliffeら3)がニュージーランドの65歳以上の高齢者地域住民71,859人(平均年齢82.7歳,女性61%)のうち,36.2%の人が理解面に,30.6%の人が表出面にコミュニケーション障害を示したと報告している.鈴木4)は,本邦のコミュニケーション障害の有病率は障害の多様性や体系的な調査の困難さから十分ではないものの,加齢性難聴や軽度認知障害などのコミュニケーションにかかわる障害の有病率を考慮して,ある一定数は存在していると述べている.

 そして,コミュニケーション障害の心理的影響について,Coshら5)はノルウェーの60歳以上の成人2,890人を対象として,視力低下と聴力低下,双方の感覚低下がうつ病と不安症状に及ぼす影響を調査した.その結果,双方の感覚低下は経時的に抑うつ症状を増加させ,片方の感覚低下のみを有する場合よりも,抑うつの重症度にさらなる長期的リスクをもたらしたと報告している.これらのことから,ある一定数の高齢者がコミュニケーションの問題によって社会的孤立に陥っている可能性が高いため,私たちは高齢者のコミュニケーションの特性を理解してかかわることが大切である.

 ここからは,コミュニケーションの専門家である言語聴覚士として,コミュニケーションの成立と加齢性変化と機能に応じた対応方法について解説をする.

参考文献

1)内閣府:令和5年版高齢社会白書(概要版).2023.https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/gaiyou/index.html(2023年12月15日閲覧)
2)Yorkston KM, et al:Communication and aging. Phys Med Rehabil Clin N Am 2010;21:309-319
3)McAuliffe MJ, et al:An epidemiological profile of communication disability among older adults with complex needs:a national cross-sectional study. Int J Speech Lang Pathol 2019;21:537-546
4)鈴木瑞恵:地域在住高齢者の摂食嚥下とコミュニケーションの現状.日老療会誌2023;2:1-6
5)Cosh S, et al:The association amongst visual, hearing, and dual sensory loss with depression and anxiety over 6 years:The Tromsø Study. Int J Geriatr Psychiatry 2018;33:598-605
6)内田育恵,他:全国高齢難聴者数推計と10年後の年齢別難聴発症率—老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)より.日老医誌2012;49:222-227
7)太田有美:加齢性難聴の病態と対処法.日老医誌2020;57:397-404
8)Salthouse, TA:What and when of cognitive aging? Curr Dir Psychol Sci 2004;13:140-144
9)Uekermann J, et al:Humor processing, mentalizing, and executive function in normal aging. J Int Neuropsych Soc 2006;12:184-191
10)Uekermann J, et al:Proverb interpretation changes in aging. Brain Cogn 2008;67:51-57
11)Mashal N, et al:Age-related changes in the appreciation of novel metaphoric semantic relations. Aging Neuropsychol Cogn 2011;18:527-543
12)Nicholas M, et al:Lexical retrieval in healthy aging. Cortex 1985;21:595-606
13)Au R, Joung P, et al:Naming ability across the adult life span. Aging Neuropsychol Cognit 1995;2:300-311
14)Ramsay CB, et al:Verb naming in normal aging. Appl Neuropsychol 1999;6:57-67
15)Stine-Morrow EAL, et al:Language in aged persons. Whitaker HA(ed):Concise Encyclopedia of Brain and Language. p285-290, Elsevier, Amsterdam, 2010
16)Madhavan KM, et al:Superior longitudinal fasciculus and language functioning in health aging. Brain Res 2014;1562:11-22
17)James LE, et al:Production and perception of “verbosity” in younger and older adults. Psychol Aging 1998;13:355-367
18)Ruffman T, et al:Verbosity and emotion recognition in older adults. Psychol Aging 2010;25:492-497
19)Marini A, et al:Age-related differences in the production and textual descriptions. J Psycholinguist Res 2005;34:439-463
20)山内彰人:高齢者音声障害と加齢性音声障害への対応—生理・検査.喉頭2021;33:135-140
21)平野啓一郎:私とは何か—「個人」から「分人」へ.講談社,2012
22)喜多村 健:言語聴覚士のための聴覚障害学.医歯薬出版,2002
23)小嶋知幸:なるほど! 失語症の評価と治療—検査結果の解釈から訓練法の立案まで.金原出版,2010
24)中村 光:コミュニケーションと認知機能—障害と評価.日老療会誌2022;1:1-7

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?