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雑誌目次

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理学療法ジャーナル58巻7号

2024年07月発行

雑誌目次

特集 視覚障害を併存する対象者の理学療法を考える

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.744 - P.745

 理学療法対象者は重複障害を抱えることがしばしばあり,視覚に問題があることも少なくない.感覚機能としての視覚には重要な役割があり,視覚障害を合併すると運動機能の改善にも影響を与え,時に視覚障害のほうが主たる問題となることもある.一方,理学療法教育では視覚障害に関する知識を整理することは少なく,臨床現場で視覚障害のある方への対応に苦慮することも多いと予想する.本号の特集の目的は,視覚障害について知識を深め,視覚障害を合わせもった理学療法対象者への対応,対処の方法について学び,実践に生かすことにある.

視覚障害に対するリハビリテーション

著者: 清水朋美

ページ範囲:P.746 - P.750

Point

●眼科医療では,視覚障害に対するリハビリテーションはロービジョンケアと呼ばれている

●歩行訓練士という存在を知っておく

●眼科とリハビリテーション科との連携は今後ますます重要である

目の不自由とはどのようなことか

著者: 平田怜子 ,   安川力

ページ範囲:P.751 - P.756

Point

●視機能の評価には視力,視野,色覚,光覚などさまざまな要素が存在する

●各原疾患によりに視機能に及ぼす影響は異なる

●正しい視機能評価と疾患別特徴を考慮した視覚リハビリテーションが重要である

目の不自由な方に関する施策やサービス

著者: 萬代由希子

ページ範囲:P.757 - P.762

Point

●障害者権利条約において障害者がサービスを受けることは権利として位置づけられている

●目の不自由な方のサービスの同行援護は,目の不自由な方の外出支援を行い,社会参加を促進する重要なサービスである

●わが国における政策策定過程においても障害当事者の参加・参画のもと,つくられることが必要である

目に不自由がある方とのコミュニケーションスキル

著者: 藤下直美

ページ範囲:P.763 - P.767

Point

●「見る,見える」は視力,視野,色覚から構成される

●「見えない・見えづらい」ことで視覚障害者は“不確信さ”にさいなまれる

●視覚の補完に聴くこと・触ること・記憶することを活用しつつ,その人と向き合う

後天眼球運動障害による複視の視能訓練

著者: 岡真由美 ,   米田剛

ページ範囲:P.768 - P.772

Point

●両眼複視による日常生活への支障は,身体障害者程度等級6級に該当する

●麻痺性斜視の複視に対する視能訓練では,麻痺した外眼筋の筋力回復と拮抗筋の痙縮解除により,融像野拡大を図る

●Sagging eye syndromeは加齢性斜視であり視能訓練の適応でないが,屈折矯正(眼鏡装用)により複視の改善を試みることが治療の第一歩となる

視覚障害のある方の歩行

著者: 別府あかね

ページ範囲:P.773 - P.778

Point

●視覚障害リハビリテーションは視機能の回復を主眼としたものではなく,保有視覚を活用しながら,聴覚,触覚,運動感覚など他の感覚を活用して新たな技術を身につける

●視覚障害者の歩行は「屋外歩行」,「屋内歩行」,「誘導(手引き)歩行」の3つに大別される

●環境整備を行うことで安全・安心で能率的な歩行ができる

視覚障害が姿勢制御や運動学習に与える影響

著者: 長谷川直哉

ページ範囲:P.779 - P.784

Point

●視覚障害を抱える対象者の多くは全盲に至らないロービジョンと呼ばれる病態である

●視覚障害が姿勢制御に与える影響および代償戦略は全盲患者を対象に明らかにされつつある一方で,ロービジョンに対しては今後のさらなる検証が必要である

●ロービジョンの対象者の運動学習を促進するポイントは「前庭覚や体性感覚での代償」と「身体活動量の維持・向上」である

視覚障害がある理学療法対象者のケーススタディ—病院などの医療機関編

著者: 坂上詞子 ,   後藤美和

ページ範囲:P.785 - P.790

Point

●視覚障害の患者と接する際の基本的対応を理解しておく

●視覚障害により活動量低下が懸念されるため,安全に活動量を増やすことを検討する

●日常生活における問題点を早期に抽出し,理学療法プログラムを立案する必要がある

●後天性に視覚障害を発症した患者への精神心理面のケアを担うことがある

視覚障害がある理学療法対象者のケーススタディ—訪問リハビリテーションなどの在宅編

著者: 山本真未 ,   林野翔太 ,   髙木智博

ページ範囲:P.791 - P.795

Point

●身体機能や生活の質の低下を防ぐため,生活環境に応じた多職種との連携方法の検討が重要となる

●生活上の問題点や疾患の進行に合わせた住環境設定や福祉用具の選定が必要である

●住み慣れた「家」での生活を継続できるよう在宅における適切なサービスを検討するには,多くの情報の収集が必要である

Close-up 物理療法と運動療法の併用

経皮的迷走神経刺激と運動療法の併用

著者: 横田裕丈

ページ範囲:P.798 - P.802

総論

1.tVNSの概要

 迷走神経において80〜90%を占める求心線維を非侵襲的に刺激する新たな物理療法(脳刺激法)として,経皮的迷走神経刺激(transcutaneous vagus nerve stimulation:tVNS)が注目されている.tVNSのなかでも,迷走神経耳介枝に対して選択的に刺激を行う手法は経皮的耳介迷走神経刺激(transcutaneous auricular vagus nerve stimulation:taVNS),頸部枝に対するものは経皮的頸部迷走神経刺激(transcutaneous cervical vagus nerve stimulation:tcVNS)と呼ばれる.いずれもてんかん発作やうつ症状の抑制,偏頭痛の緩和,自律神経機能や心機能の改善,さらには脳卒中後の運動機能の改善などが報告されている1,2)

 迷走神経求心線維からの情報は,延髄の孤束核(nucleus tractus solitarius:NTS)へ入力された後,青斑核(locus coeruleus:LC),縫線核(raphe nucleus)を介して感覚運動野や前頭前皮質,島といったさまざまな皮質領域へ投射する3).機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)を用いた研究において,taVNSによりこれらの皮質領域の活動が高まることや4,5),活動に関連する神経伝達物質の脳内濃度が高まること6)が明らかになっている(図1).

経頭蓋直流電気刺激と運動療法の併用

著者: 松田雅弘 ,   山口智史 ,   藤原俊之

ページ範囲:P.803 - P.807

はじめに

 経頭蓋直流電気刺激法(transcranial direct current stimulation:tDCS)は,頭蓋の外から非侵襲的に微弱な直流電流(数mA程度)を10〜20分程度与えることで,脳内のシナプス可塑性に影響を与えるneuromodulationの手法である(図1).簡単に表現すれば,脳に対する物理療法の一種といえるだろう.

 脳を非侵襲的に刺激する物理療法としては,反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial mag-netic stimulation:rTMS)もtDCSと同様に代表的なneuromodulationである.これらは神経疾患の患者の機能回復だけでなく,精神疾患患者のうつ症状の改善やアスリートのパフォーマンスの改善も報告されている2〜4).tDCSの欠点として,空間分解能と時間分解能がrTMSに比べて低いことが挙げられる5)

 ここ数年でtDCSに関する臨床研究がさかんとなり,関連文献も増えてはいるものの,2024年3月の時点で,tDCSは本邦で医療機器の認可を受けるに至っていない.そのため臨床的な使用の保険適用はなく,使用にあたっては医師と相談のうえ,最新のエビデンス,使用方法や適応と禁忌のガイドライン1)について熟知しておく必要がある.また,研究として患者に実施する場合には,特定臨床研究の倫理審査が必要である.今後本邦でtDCSを有効活用するためには,エデビンスの構築と使用に関する詳細な検討が必要不可欠である.

全身振動刺激と運動療法の併用

著者: 小宮諒

ページ範囲:P.808 - P.812

全身振動刺激の特徴

 現在の全身振動刺激(whole body vibration)は,主に身体機能の改善を補助・加速させる物理療法という位置づけで用いられることが多く,運動療法(運動やストレッチングなどを含む)と併用することでその真価を発揮する.特に,全身振動刺激を利用した運動の実施は,全身振動刺激機器を使用しない運動と比較して,バランス能力,跳躍高,筋力や筋パワー,神経筋機能などの身体機能の向上や改善につながることが知られている1).最近では,これまで関連が指摘されるにとどまっていたヒトの脳活動への影響に関する具体的な報告も増えてきた.前頭前野,運動野,体性感覚野で脳活動の活性がみられ2),軽度認知症患者の認知機能改善につながることもわかってきた3)

 全身振動刺激の作用機序については,振動プレートから筋や皮膚受容器へと伝わる振動刺激が緊張性振動反射(tonic vibration reflex)を引き起こし,筋機能が高まることで身体機能の改善につながると考えられている(図)4).緊張性振動反射は,骨格筋に振動刺激を加えた際に生じる反射性の単シナプス反応で,筋紡錘中のIa群線維からの求心性インパルスがα運動ニューロンを興奮させ,遠心性インパルスによって筋収縮が生じる.また,このときγ運動ニューロンも遠心性インパルスを発生させており,錘内線維を収縮させ,筋紡錘中のIa群線維が求心性インパルスを生じている.ほかの固有感覚受容器からの求心性信号も中枢神経系を介し,筋活動を誘発させていると考えられているが,脳機能で生じている作用機序はいまだ不明な点が多く,今後具体的な機序の解明が進んでいくと思われる.

特別記事 連載スピンオフweb企画 開催レポート

難しい症例から理学療法を考える—誌面には書きにくい悩みの本音

ページ範囲:P.813 - P.813

 本誌連載「難しい症例のみかた」(2023年7〜12月)を題材にしたセミナーが,2024年3月18日(月)18:30からオンラインにて開催されました.

 冒頭で,本連載の企画担当者でもあった司会の内山靖先生(名古屋大学)より企画趣旨が紹介されました.本連載のテーマ「難しい」とは「困っている」ことだと言い換えて,誰が困っているのか,何に困っているのかを解きほぐすことで,症例に対して「難しい」と感じる理由を探り,その解決の道しるべになればとの思いが述べられました.

連載 とびら

藤の花

著者: 河尻博幸

ページ範囲:P.741 - P.741

 私は岐阜県の山間部で生まれ育ちました.子どもの頃の遊びといえば,山で探検をし,時には野イチゴやアケビを見つけ,川で魚とりをすることでした.遊び疲れて腰掛ける自宅の濡れ縁からは,庭や畑,野辺から里山,そして奥山へと続く風景が広がっていました.春になれば木々の間にヤマザクラ,少し遅れてヤマツツジが咲き,新緑の季節には若葉のみずみずしく澄んだ淡い緑が広がり,だんだん深まる夏,秋を迎えて紅葉に染まり,そして雪化粧をしていく.そんな山の様子はいつも私を清々しい気持ちにさせてくれました.林業も今に比べれば盛んだったようで,山の谷間にワイヤーロープが張られ,伐採された木々が空中をロープウェイのように運ばれる様子には興味を引かれたものです.

 今は少し離れた場所に暮らしていますが,実家へと帰省する際には慣れ親しんだ山の風景が見られることも楽しみの一つです.そして時には発見があることも.

視覚ベースの動作分析・評価・第3回

膝関節—下肢運動機能パターン障害を生じる変形性膝関節症の症例

著者: 市川和人 ,   市川辰哉

ページ範囲:P.733 - P.737

症例紹介

年齢 70歳,女性.

診断名 左変形性膝関節症,左膝内側半月板障害.


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年7月31日).

運動療法に活かすための神経生理(学)・第1回【新連載】

ストレッチと筋の随意収縮後のリラクセーションが筋にもたらす神経生理学的機序の違いは?

著者: 原田恭宏 ,   森下勝行

ページ範囲:P.817 - P.823

はじめに

 筋の柔軟性低下は関節運動を制限することから,理学療法を進めるにあたって問題となることが多い.筋の柔軟性低下を改善する直接的アプローチには,当該筋のストレッチや随意収縮後のリラクセーションなどがある.

 本稿では,ストレッチと筋の随意収縮後のリラクセーションの効果についてまとめるとともに,それぞれの神経生理学的機序の違いについて解説する.また,柔軟性改善後の筋力の変化についても解説する.

今月の深めたい理学療法周辺用語・第7回

TeamSTEPPS

著者: 池田一樹

ページ範囲:P.824 - P.825

TeamSTEPPS誕生の経緯

 1999年,米国医学研究所が医療安全システムの構築を目的に「To err is human」を報告した1).「人は誰でも間違える」と題したこの報告では,米国で毎年9万8000人が医療事故により死亡している状況を打開するべく,患者の安全を向上させるための計画を提言している.そのなかで言及されたのが,多職種によるチームトレーニングの研修・教育プログラムの開発の必要性である.これを受け米国医療研究品質局と米国国防総省は2005年に,航空・軍隊・原子力などのエラーの影響が大きいハイリスク環境で働くチームから得られたエビデンスに基づきTeamSTEPPSを開発した.

理学療法士のための「money」講座・第7回

知っておきたい住宅ローン—固定金利,変動金利って何? 頭金,繰り上げ返済はどうする?

著者: 細川智也

ページ範囲:P.827 - P.831

はじめに

 多くの人がマイホームの購入を夢見ると思います.筆者も10年以上前に住宅ローンを組み,念願のマイホームを手に入れました.住宅ローンはマイホームの購入に際し一般的に利用される手段ですが,その種類や金利,返済方法にはさまざまなものがあります.今回は,住宅ローンの基礎から実際の活用法までをわかりやすく解説します.

臨床実習サブノート 「どれくらい運動させていいかわからない」をどう克服するか・第4回

—スポーツ外傷—前十字靱帯(ACL)再建術後のジャンプ・着地動作練習

著者: 松尾高行

ページ範囲:P.833 - P.838

 前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷は,高頻度に発生するスポーツ外傷であり,他者との接触を伴わないジャンプからの着地や急な停止,急な方向転換などでの損傷が多いです1).ACLは,血行に乏しく自然治癒能が低いため,治療は一般的に,骨片付き膝蓋腱(bone-patellar tendon-bone:BTB),多重折りハムストリング筋腱(hamstring tendon:HT),大腿四頭筋腱(膝蓋骨骨片付き)などの自家移植腱を用いた靱帯再建術が施行されます1〜3)

私のターニングポイント・第54回

どの時期に,どのメンターを選択するか

著者: 髙村雅直

ページ範囲:P.826 - P.826

 遡ること二十数年前,臨床3年目の私は濃霧が佇む臨床海原をひたすらもがいていました.念願の心臓リハビリテーション指導士は取得したものの,ただただ目前の浮かぶ瀬にしがみつき,目標となる島を見出せず,大海原でコンパスを失った軽薄の極みというべき航海士のような日々を送っていました.

 しかし,転機は突然訪れます.ふと書店を訪れた際,医学書棚ではない場所に『ブラック・ジャックはどこにいる?』(PHP研究所)というタイトルの本を見つけました.著者は心臓外科医・南淵明宏(以下,ボス).これが人生最大のメンター(以下,師)との出会いでした.何気なく読み始めると吸い込まれていく感触があり,ぜひ会って話がしたい,ただそれだけの理由で著者の勤務先へ電話,アポをとった1週間後に面会しました.当時,年間200件を超える開心術を実施,テレビで医療監修もされ,スタイリッシュな外科医かと勝手に想像していたところ,バリバリの関西弁を操る職人気質の巨人(身長190cm近く)が目前に現れました.「先生,一緒に働きたいです」この一言でその後約17年にわたり苦楽をともにしました.

My Current Favorite・27

整形外科学に基づく理学療法

著者: 宮本梓

ページ範囲:P.839 - P.839

現在の関心事は?

 皆さんは整形外科学に基づく理学療法と運動器の理学療法に違いがあると思いますか.私の認識では整形外科学に基づく理学療法のなかに運動器の理学療法があると考えています.疼痛や関節可動域制限の原因をまず整形外科学に求めることが重要であると感じています.

症例報告

左視床出血によるhypesthetic ataxic hemiparesisを呈した症例に対して急性期よりエルゴメーターを実施した1例

著者: 吉津智晃 ,   川口正二郎

ページ範囲:P.841 - P.844

要旨 左視床出血によるhypesthetic ataxic hemiparesisを呈した症例に対して急性期よりエルゴメーターを実施した結果,身体機能の変化がみられたため報告する.症例は40歳台の男性であり,右半身の運動麻痺,感覚障害,運動失調,バランス能力の低下を認め,移乗動作能力および歩行能力の低下が生じていた.また入院後に糖尿病と診断されたため,糖尿病に対する運動療法の効果も期待し,入院7日よりエルゴメーターを実施した.その結果,血糖コントロールや運動失調,バランス能力の改善がみられ,歩行能力や日常生活動作能力が向上した.本症例において急性期からのエルゴメーターの実施は運動失調や日常生活動作の改善の一助となった可能性が示された.

臨床のコツ・私の裏ワザ

呼吸リハビリテーションにおける非侵襲的モニタリング活用のコツ

著者: 石光雄太

ページ範囲:P.845 - P.847

 呼吸リハビリテーション中,理学療法士は運動療法や日常生活活動の練習とともに,在宅酸素療法導入症例であれば各種動作ごとの適切な酸素流量の評価を行う.また慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や間質性肺炎の予後予測因子として身体活動量が重要1,2)であるため,酸素療法の導入支援と平行して離床を奨励する.

 ここで問題となるのが低酸素血症の増悪である.理学療法時では動作スピードや休憩頻度を十分に指導するため適切な経皮的酸素飽和度(SpO2)を保てたとしても,正しく酸素療法が使用できていなかった場合や,動作スピード・休憩のタイミングの定着が不十分であった場合,自身で離床した際に理学療法評価時と比べ,低酸素血症が増悪してしまうケースを経験する.低酸素血症の増悪につながる要因を評価・抽出することでそれに伴う呼吸困難感などからの不活動を予防できる.そのための山口宇部医療センター(以下,当院)での工夫を紹介する.

書評

—西田 修(監),中村謙介(編)—「ICUが変わる! PICS診療実践マニュアル—入院時から退院後まで,予後改善のためのスタンダード」

著者: 篠原史都

ページ範囲:P.797 - P.797

 集中治療医学の発展により,集中治療を受けた患者の救命率は飛躍的に改善しています.故に,集中治療は救命のその先にある社会生活への復帰を目標とすべきものへと変化しています.こういった背景があるなか,本書のテーマでもある,集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)が新たな課題として顕在化しました.PICSは集中治療室(intensive care unit:ICU)に入室中あるいは退室後に生じる身体,認知,精神の障害であり,長期に及ぶこれらの症状は,患者の社会生活への復帰を困難にします.加えて,患者家族に対して,精神的な影響のみならず介護負担の問題や経済的な問題を生じさせます.

 このようにPICSは社会問題になりつつあり,これまで数多くの書籍が発刊されてきましたが,本書の最大の特徴は啓発用のパンフレットやポスター,勉強会スライドがダウンロードできること,臨床現場で活用できるさまざまなチェックシート,申し送りやICU日記のフォーマットが収載されていることです.これらは,これまでの書籍とは一線を画す点であると思います.また,PICS対策には回避・介入できる因子にリソースを割くことが重要です.これらの因子に対する評価の意義や手順・ポイントについて明示されている点に加えて,ICUでの療養環境,患者の記憶を補完・是正する手段として期待されるICU日記について言及されていることも特徴と言えます.これまで,PICS診療は各施設で手探りに行われてきましたが,本書により,どの施設でも一定の水準で啓発・診療が行えるようになることは本書が発刊された大きな功績とも言えます.

—上杉雅之(監),木下めぐみ,篠原 博(編)—「動画でイメージ! 理学療法はじめての臨床実習」

著者: 浦辺幸夫

ページ範囲:P.815 - P.815

 本書を前にして,私が理学療法を学んだ45年前のこと,教職についてから現在までの社会と理学療法学の変遷を考えました.この期間に,臨床実習に関係する診療参加型やobjective structured clinical examination(OSCE)などずいぶんと変わったところ,臨床研究の沈滞などあまり変わらないところ,利他主義をベースにして変わってはいけないところ,などが総括できるところでしょうか.

 「教科書は大切」,という考えはいつももっています.臨床実習に出て守らないといけないルールを知ることは必須です.臨床現場でのクリニカルリーズニングについての学習書はありますが,臨床実習そのものをテーマにしたものは意外にも少ないので,本書の価値は教科書としても高まると思います.

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目次

ページ範囲:P.742 - P.743

動画配信のお知らせ

ページ範囲:P.737 - P.737

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.831 - P.831

読者の声

ページ範囲:P.838 - P.838

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.850 - P.851

編集後記

著者: 神津玲

ページ範囲:P.852 - P.852

 第58巻第7号を読者の皆様にお届けいたします.幅広く読み応えのある内容で構成されています.本号の特集は「視覚障害を併存する対象者の理学療法を考える」です.理学療法士が視覚障害について学ぶ機会は大変限られているなかで,本特集は視覚障害と理学療法の実際について,現場の視点から具体的に解説されています.視覚障害を単なる「視覚」の問題にとどめず,理学療法における視覚障害の意義を考える大変よい機会になると考え,その幅や考え方が広がることが期待されます.

 Close-upでは,経皮的迷走神経刺激,経頭蓋直流電気刺激,全身振動刺激を取り上げ,その単独効果とともに,運動療法との併用に焦点を当てた内容で構成されています.昨今の物理療法機器の発展には目覚ましいものがあり,その作用機序や効果検証に関するエビデンスも蓄積されてきています.「運動療法との併用」という本来の物理療法の位置づけや意義を再認識するうえでも有益な内容となっています.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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