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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル58巻8号

2024年08月発行

雑誌目次

特集 全身持久力トレーニング

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.862 - P.863

 2023年に策定された「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(厚生労働省)では,成人のみでなく高齢者や子どもから慢性疾患を有する者まで,健康づくりのための身体活動・運動が推奨されている.このなかでは運動強度や時間などの条件は明示されているものの,「全身持久力トレーニング」をいかに安全かつ効果的に実践するのかは重要な課題である.

 本特集では,多様性のある幅広い対象者を想定して「全身持久力トレーニング」を処方するにあたり,運動負荷やトレーニング方法,リスク管理について具体的に紹介していただいた.

—エディトリアル—全身持久力トレーニングとは何か

著者: 横山茂樹

ページ範囲:P.864 - P.868

全身持久力トレーニングとは

 持久力とは,持続的もしくは繰り返される運動に必要なエネルギーを供給できる能力である.特に全身持久力は,全身の関節運動を持続的に遂行するため,筋収縮エネルギー供給系が重要な役割を果たす.

 全身持久力トレーニングの種類として,ジョギングからエルゴメータやトレッドミルなどを用いた持続的運動による有酸素的トレーニングや,運動と休息を繰り返しながら行うインターバル・トレーニング(interval training:IT)などが紹介されている.いずれもFITT(frequency;頻度,intensity;強度,time;時間,type of exercise;運動の種類)1)による運動負荷の条件設定を考慮して,目的に応じたトレーニングプログラムを立案することが重要である.

運動器疾患患者に対する全身持久力トレーニング

著者: 鬼塚勝哉 ,   島田直宜 ,   金村尚彦

ページ範囲:P.869 - P.876

Point

●変形性膝関節症患者における有酸素運動はQOLや身体機能の改善のみならず,関節組織に直接的な影響を及ぼす可能性があるが,コンセンサスは得られていない

●疼痛や重症度に関係なく,固定式自転車運動などの有酸素運動の実施が推奨され,運動頻度は週3回程度(1回50分程度),運動強度はHRmaxの70%前後を指標とする

●長期的な運動継続が課題であり,運動継続の障害因子と促進因子を特定して,個別性をもって対応をすることが望まれる

中枢神経疾患患者に対する全身持久力トレーニング

著者: 小宅一彰

ページ範囲:P.877 - P.884

Point ▶動画

●脳卒中片麻痺患者の全身持久力は,症候限界性漸増運動負荷試験を行い,最高酸素摂取量を測定することで評価する

●脳卒中片麻痺患者における全身持久力の低下には,骨格筋での酸素利用能の低下が主に関連する

●有酸素運動によって,全身持久力の向上だけでなく,脳卒中再発リスクの軽減や日常生活活動の改善も期待できる


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月31日).

呼吸器疾患患者に対する全身持久力トレーニング

著者: 古川大

ページ範囲:P.885 - P.891

Point ▶動画

●呼吸器疾患に対する全身持久力トレーニングは有効性が認められており,すべての重症度において適応となる

●トレーニングは,FITTの原則に基づいて処方するが,重症度や年齢,併存症も含めた病態を把握し,負荷量や方法を検討することが重要である

●トレーニング中のリスク管理として,バイタルサインの測定に加えて,呼吸困難をはじめとした患者の自覚症状の確認も重要である


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月31日).

心筋梗塞後患者に対する有酸素運動

著者: 柳英利

ページ範囲:P.892 - P.900

Point

●心筋梗塞後患者の約50%は,1年以内に複合イベント(死亡,非致死的心筋梗塞,心不全など)を経験するが,有酸素運動により長期的予後が改善する

●有酸素運動を行う前に禁忌がないことを確認し,運動療法を実施している間は運動療法の中止基準に従って,安全を確保することが重要である

●運動強度を調整できる種類の運動を中強度で週に150分以上の実施が推奨される


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月31日).

糖尿病患者に対する全身持久力トレーニング

著者: 森優太

ページ範囲:P.901 - P.906

Point ▶動画

●2型糖尿病のある人において全身持久力トレーニングにより食後血糖値が改善するが,これは骨格筋における糖取り込みが改善することが要因である

●全身持久力トレーニングによりglycosylated hemoglobin(HbA1c),最高酸素摂取量(peak oxygen consumption:peak VO2),Body Mass Index(BMI)の改善が期待できる

●2型糖尿病のある人における全身持久力トレーニングでは,低血糖や神経障害などの合併症のリスクがあり十分な栄養補給や適切な血糖管理が必要である


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月31日).

透析患者に対する全身持久力トレーニング

著者: 臼井直人 ,   小島将 ,   小林諒哉 ,   齊藤正和

ページ範囲:P.907 - P.912

Point

●腎機能の低下とともに全身持久力は低下し,末期腎不全(透析期)では高度な低下を示す

●全身持久力の改善には,有酸素運動だけでなくレジスタンストレーニングを併用することでより高い効果が得られる

●腎不全に起因する特異的な症状と,透析治療に伴う影響に配慮した運動処方とリスク管理が重要である

骨粗鬆症患者に対する全身持久力トレーニング

著者: 松本浩実

ページ範囲:P.913 - P.918

Point

●全身持久力トレーニングは生活習慣病を予防し,酸化ストレスの増大から起こる骨質の劣化を防ぐことに有効と考えられる

●骨折・転倒リスクおよび運動機能評価に基づき,対象者の骨折リスクごとにトレーニング方法を考えることが重要である

●骨折後患者では運動によって二次性骨折を起こすことがないようにトレーニングの種類や負荷量に十分な配慮が必要である

若年者(児童)に対する全身持久力トレーニング

著者: 鈴木誠

ページ範囲:P.919 - P.924

Point

●全身持久力は,特に児童において運動やスポーツ,遊びを通じた人間形成に欠かすことのできない重要な体力要素の一つである

●小学校高学年から中学1・2年生の時期は男女ともに全身持久力を高めていくうえで,非常に重要な時期であると言える

●全身持久力を高めるうえでは,個々の運動能力や思春期の身体変化を考慮した対応が必要である

Close-up 精神疾患における運動の意義を考える

運動が精神疾患患者に与える影響と効果

著者: 中村恭子

ページ範囲:P.926 - P.932

はじめに

 筆者の専門はダンスで,精神科デイケア通所の患者を対象にダンスを用いた運動介入を20年ほど継続している.ダンスは自己表現や他者との交流を目的としており,音楽を伴うことから陶酔感や気分高揚効果がある.また,運動強度や難度が多様で,体力や技能に合わせて老若男女が楽しめる運動である.そのため,高齢者などへの身体的・認知的リハビリテーションとしての有効性も報告されている1〜4)

 本稿では,精神疾患患者に対する運動介入の意義について概説するとともに,筆者のデイケアでの実践経験から,ダンス運動が精神疾患患者に与える影響と効果についても報告する.

精神疾患患者への運動指導と理学療法士の役割

著者: 細井匠

ページ範囲:P.933 - P.936

はじめに

1.精神科病院の現状

 本邦の精神科医療は入院治療を中心とした体制から地域移行が進展し,約30年前の1995年と2022年のデータを比較すると入院患者数は341,041人から204,635人に減少し,平均在院日数も468.2日から276.7日に短縮している1,2)

 2020年時点での入院患者の疾患別内訳は「統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害」が60.4%を占め,「気分[感情]障害」が11.8%,「血管性及び詳細不明の認知症」が10.7%であり,今後は認知症の割合の増加が予測される.また,年々入院患者の高齢化が進展し,65歳以上の割合は56.4%に達している.年齢別に平均在院日数をみると,15〜34歳は69.3日,35〜64歳は214.9日であるのに対して,65歳以上では497.1日と長く,さらに65歳以上の統合失調症患者に絞ると1,147.7日であり,高齢の精神疾患患者が長期に入院している3)

2.精神疾患患者の体力と運動能力

 精神疾患患者は若年時から,認知機能障害や向精神薬の副作用,長期入院などの影響で巧緻性を要する運動や,敏捷性,持久力,バランス能力などの身体機能が同年代の健常者と比べて低下している4,5).加えて患者の高齢化が進んだ結果,この数十年間,精神科で最も多い医療事故は転倒となっており,全国の精神科では少なくとも年間4人に1人が転倒している6)

連載 とびら

ケセラセラな生き方

著者: 鮫島一雄

ページ範囲:P.859 - P.859

第1章 キャリアの始まり

 私は1981年に理学療法士国家試験に合格しました.理学療法士をめざしたきっかけは,障害をもつ子どもたちのサマーキャンプでのお手伝い経験です.小児理学療法を希望して就職しましたが,就職先の法人が身体障害者療護施設を新設することになり,日曜日ごとに職員研修として腰痛予防や移乗動作介助の指導を行いました.

 施設が完成後,運動発達の遅れのある乳幼児から成人脳性麻痺まで幅広い年代の理学療法を一人職場で行うことに対する不安が大きかったです.

視覚ベースの動作分析・評価・第4回

歩行—人工股関節全置換術後に変形性膝関節症を呈した患者の歩行時の膝関節痛

著者: 髙田雄一

ページ範囲:P.853 - P.856

症例紹介

 75歳,女性.両変形性股関節症,右変形性膝関節症,第4腰椎すべり症.

 腰痛と右膝痛を主訴に来院した.両側の変形性股関節症に対して,2018年に左人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA),2019年に右THAを受けた.2023年7月より腰痛,右膝関節内側部痛が出現して理学療法開始となる.歩行時の右膝の痛み改善を目標にしている.下肢痛,神経症状は認めない.現在も脚長差を認め医師から足底挿板の提案があるものの,本人の希望により使用していない.X線画像所見を図1に示す.


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月31日).

運動療法に活かすための神経生理(学)・第2回

静的ストレッチングは伸張時間により柔軟性および筋出力に及ぼす影響に差異はあるか?

著者: 谷澤真

ページ範囲:P.939 - P.943

はじめに

 静的ストレッチングは運動療法において用いられる頻度の高い重要な手技の一つである.静的ストレッチングにより期待される効果は,関節可動域の改善,痙縮の抑制,疼痛軽減,血液循環の促進,障害予防,神経-筋伝達機能の促進など多岐にわたる.

 一方,静的ストレッチングの即時効果として,筋力低下やパフォーマンス低下も指摘されている1,2).先行研究3,4)では,伸張時間の差異により静的ストレッチングの効果は異なることが報告されており,臨床場面で用いる際には,その点を考慮したアプローチが望ましい.

 本稿では,筆者ら3)の研究をもとに,静的ストレッチングにおける伸張時間の違いがもたらす神経生理学的な効果の差異について解説する.紹介する研究は,特に短時間の静的ストレッチングに注目したものである.それまで静的ストレッチングに関する研究は,30秒かそれ以上の長い伸張時間による効果を扱ったものが多かった.一方,実際に臨床で行われるストレッチングの多くは6秒程度と短い伸張時間にとどまっており,30秒間と6秒間の静的ストレッチングを比較することで効果の違いを明らかにしたものである.

今月の深めたい理学療法周辺用語・第8回

放課後等デイサービス

著者: 稲葉政徳

ページ範囲:P.944 - P.945

放課後等デイサービスの役割

 放課後等デイサービス(以下,放デイ)は,2012年に改正された「児童福祉法」において学齢期における障害児の放課後等対策の強化を図る目的で創設されました.また,放デイ運営の指針となるガイドライン1)は,制度化後に放デイの開設が急増したことを背景に,サービスの基本指針を明確化する目的で2015年に厚生労働省が公表したものです.

 ガイドラインでは,放デイの基本的役割として,① 子どもの最善の利益の保障,② 共生社会の実現に向けた後方支援,③ 保護者支援の3点が明記されています.また,放デイの基本的活動については,① 自立支援と日常生活の充実のための活動,② 創作活動,③ 地域交流の機会の提供,④ 余暇の提供の4点が示されています.なお,厚生労働省は事業所サービスの質を担保するため,各事業所がガイドラインを遵守するとともに,自己評価結果を公表することを義務付けています.2016年度には,児童発達支援管理責任者の資格要件ならびに人員配置基準の見直しを行っています.

理学療法士のための「money」講座・第8回

やってみたい,ふるさと納税

著者: 細川智也

ページ範囲:P.947 - P.950

はじめに

 ふるさと納税と聞いて,「まったく知らない」という人は今やいないのではないでしょうか.2023年9月現在,ふるさと納税の認知度は96.8%,利用経験は37.6%であり,iDeCo,企業型確定拠出年金,NISAと比べて圧倒的に高い結果となっています1)

 「ふるさと」納税と呼ばれていますが,寄附先は必ずしも生まれ故郷でなければいけないというわけではありません.そして本質的には「納税」ではなく,「寄附」です.ふるさと納税は,寄附を行った自治体から返礼品がもらえる嬉しい制度ですが,制度を理解していないと逆に資金的負担が増加する場合もあります.今回は,ふるさと納税の仕組み,活用方法,メリット,そして注意点について詳しく解説します.

臨床実習サブノート 「どれくらい運動させていいかわからない」をどう克服するか・第5回

—中枢神経疾患—回復期脳卒中患者に対する関節可動域運動

著者: 大田瑞穂

ページ範囲:P.951 - P.955

 脳卒中患者は発症後6か月以内に約5割の症例で少なくとも1箇所以上の関節拘縮が発生します1).発生率は部位によって12〜28%と異なりますが(表),肩関節や股関節の発生率が高いと報告されています1),また,身体障害が重症になるほど関節拘縮の発生率が増加するとされており1,2),筋緊張亢進や痙縮,運動麻痺による関節の不動が関節拘縮の形成に大きく関与します3).本稿では回復期における脳卒中患者を想定した関節可動域運動の具体的な方法も交えながら解説します.

私のターニングポイント・第55回

点と点が線になるように導かれ……—意味は後からついてくる

著者: 成田研

ページ範囲:P.946 - P.946

 「成田,こんなのがあるぞ」高校の進路相談で初めて知った理学療法士.飽きっぽい自分が25年間続けられたのもいろいろな方の支えがあってこそでした.平凡な病院勤務理学療法士のこれまでを振り返ります.

 私が理学療法学生になってほどなく,入院していた父が危篤との連絡を受け最期に立ち会いました.最期とわかっていましたが自発呼吸が弱まる父に,無我夢中で習ったばかりの呼吸介助を行っていました…….おそらく私が理学療法学生ということを考慮して,担当医の先生は気の済むまで行わせてくれたのでしょう.この経験は担当した寝たきりで動けない患者さんに何かできることはないかと悩んだ時期に「3学会合同呼吸療法認定士」をめざすきっかけになっていたかもしれません.

My Current Favorite・28

DXの推進を通じて思うこと

著者: 石田水里

ページ範囲:P.956 - P.956

現在の関心事は?

 昨今著しく進展しているデジタルトランスフォーメーション(digital transformation:DX)は,自身の日常生活まわりでも活用され,その便利さの恩恵を身近に感じる機会が増えています.同時に,アナログならではのよさについて見直すこともあり,そのような側面も含めて関心をもっています.

原著

理学療法士が経験する患者やその家族・同僚・関連職者の感情から受けるストレス—語りをベースにした質的事例研究

著者: 喜多一馬 ,   池田耕二

ページ範囲:P.957 - P.963

要旨 【目的】理学療法士が経験する患者やその家族・同僚・関連職者の感情から受けるストレスの質を質的事例研究で探究すること.【方法】医療職としてキャリアが熟達した19名の理学療法士を対象とし,「患者やその家族・同僚・関連職者の感情に巻き込まれたり,傷ついたりしたことがあるか」についてインタビュー調査した.分析は,特徴的な語りを抽出して概念化した.【結果】概念は,① 対応が困難と感じる患者の言動や行動からくるストレス,② 患者の理不尽さからくるストレス,③ 患者の病状進行や死に直面することからくるストレス,④ 後輩(部下)の行動や上司批判からくるストレス,⑤ 自分より経験のある他職種や経営者との考えの相違からくるストレス,⑥ 他職種とのミスコミュニケーションからくるストレスの6つが抽出された.【考察】理学療法士が経験するストレスには特有の質や特性があることが示唆された.

症例報告

化膿性脊椎炎による慢性疼痛にて低活動が続いた不全対麻痺患者における理学療法プログラム修正後の活力と日常生活活動の改善:4年間追跡症例報告

著者: 長谷川大輝 ,   北出一平 ,   山西侑花 ,   中島健太 ,   髙橋藍

ページ範囲:P.965 - P.970

要旨 対麻痺と腰痛を認め,長期の活動性低下を認めた化膿性脊椎炎患者に対し,慢性期において理学療法プログラム修正により活動量に劇的な改善を認めたため,活力とADLの変化について議論した.化膿性脊椎炎と診断された71歳の男性は,対麻痺と腰痛を認め,術後早期から理学療法が実施されたが,身体機能やADLの改善は認めず,術後10か月に介護老人保健施設に入所となった.腰痛による離床困難が続いたため,症例の意向の聴取から具体的に趣味を行うために必要な目標設定と治療プログラムの再構築を実施した.座位時間の延長,活力,ADLおよび活動量の改善,歩行練習への移行を認め,術後17か月に自宅退所となり,術後4年時も再発なくさらなるADL維持および向上を認めた.慢性期においても具体的な目標設定や治療方針の再構築にて,活力,ADLそして活動量の改善に有用と考える.

ひろば

臨床実習指導者から臨床実習教育者への変換期

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.971 - P.971

 日本で最初に3年制各種学校として理学療法学教育が開始されたのは,1963年,当時の国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院(所在地:東京都清瀬市)であった.しかし,当然ながら日本人理学療法士の教員は存在しない時代であり,外国人理学療法士が教員として招聘されるなど,理学療法界自体が発展途上の草創期であった.

 当初のカリキュラムは単位制ではなく,総計3,300時間であり,即戦力を培う目的で約50%は臨床実習であったが,上記のごとくまだ資格を有する理学療法士は存在していなかった.そのため,臨床実習施設は,米国軍の横田基地の病院や東京都内の肢体不自由児施設,心身障害者福祉センターなどにおいて外国人教員をスーパーバイザー(supervisor)として臨床実習が実施されていた.この形態は,有資格の理学療法士が増える過程で徐々に現在の状態に変わってきた.

書評

—山口 美和(著)—「—PT・OT・STのための—これで安心コミュニケーション実践ガイド 第3版」

著者: 菅原憲一

ページ範囲:P.938 - P.938

 「あなたが医療職種をめざすうえで最も大切なものは何ですか?」という問いは,受験という場面で必ず聞かれる質問の一つではないかと思われます.私自身が教員となって30年近くのなかで,受験に際して必ず聞いてきた質問でもあります.多くの受験生は「コミュニケーションである」ということを切々と話してくれます.医療者としてコミュニケーションが重要であることは,それをめざす方々は十分に理解していることがうかがえます.私も聞く側としていつも「なるほど」と,何気なく納得してそれを聞いています.しかし,それほど重要な“コミュニケーション”というものを人はどのように確立していくのか,と質問を重ねると,そこから先はさまざまな意見に分かれたり,答えに窮したりと人それぞれであるとともに,確信の得られる答えは少ないように思えます.そういう私自身も,自信をもって答えられる状況にはありません.

 医療職種は,専門的な技術を対象者に的確に提供することが必要です.技術は自らの不断の努力や成功,失敗を繰り返して向上していくものであり,コミュニケーションもきっとそのような経験が重要なものであることは論をまたないでしょう.対象者を前にしたとき,医療職種としての技術は十分とは言えないまでも,少なくとも卒前の実習その他で学習したものを持ち合わせています.一方でコミュニケーションはというと,それを体系的に学ぶ機会は少なく,何が正しくて何が間違いなのかということは,経験的なものに頼らざるを得ない状況にあります.対象者との関係のなかで,その医療者の人格そのものが試されるのがコミュニケーションであると思います.人が人に対して行うのが治療と考えると,コミュニケーションはまさに人格と人格が相対する際の重要なツールであり,人の温もりが伝わる場面と言えます.それはマニュアル化されたものではなく,真に人が求めるものであり,その核心は忘れてはならないものだと思います.さらにそのうえで,医療者として備えていなければならない重要なコミュニケーションの能力,そしてそれを医療技術とともに切磋琢磨し鍛えあげていく考え方やその道筋は,実践の上に必要な「規範」と呼べるものです.

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目次

ページ範囲:P.860 - P.861

動画配信のお知らせ

ページ範囲:P.856 - P.856

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.900 - P.900

バックナンバー・次号予告

ページ範囲:P.974 - P.975

編集後記

著者: 加藤浩

ページ範囲:P.976 - P.976

 8月号をお届けします.今月の特集は,スポーツ障害や運動器疾患の予防を研究テーマに長年ご活躍されている横山茂樹先生をゲストエディターとしてお迎えして,「全身持久力トレーニング」の企画を頂きました.一般的理論としての全身持久力トレーニングに関する専門書は数多くありますが,疾患特性などを考慮した運動療法の頻度,負荷,時間,運動の種類(FITT)といった具体的なトレーニング方法や実施にあたってのリスク管理を示した論文は,それほどありません.本特集では,運動器,中枢神経,呼吸器,循環器,代謝,高齢者,そして若年者の各分野の最前線でご活躍されている先生方に具体的実践方法を詳細にご解説いただきました.動画付きの論文もありますので,イメージしやすいかと思います.ぜひ,明日の臨床にご活用ください.

 Close-upでは,「精神疾患における運動の意義を考える」にフォーカスを当てました.社会の理学療法に対するニーズが拡大するなかで,精神疾患患者に対する運動の効果や運動指導のあり方,さらには今後の課題などについてわかりやすく解説していただきました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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