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文献詳細

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩59巻10号

2007年10月発行

増大特集 ALS―研究と診療の進歩

ALSの嚥下障害対策―喉頭気管分離術/気管食道吻合術の有用性と適応基準

著者: 箕田修治1

所属機関: 1独立行政法人国立病院機構 熊本再春荘病院神経内科

ページ範囲:P.1149 - P.1154

文献概要

はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic latpral sclerosis:ALS)では数年の経過で,嚥下障害と呼吸障害が前後して出現するため,それぞれの障害に対して迅速な対応が必要となる。嚥下障害は栄養摂取および誤嚥による窒息や肺炎など,直接生命予後に関連する。そして,誤嚥性肺炎から患者を守るために大きな労力を必要とする。日本では,嚥下障害や呼吸不全が出てくると気管切開を行う場合が多い。さらに,気管切開による人工呼吸器を装着するALS患者は,日本ではALS患者全体の30~40%であるが1),欧米では多くて3%であり,多くの患者は非侵襲的陽圧呼吸器を選択する2)。このように,日本ではALSの嚥下・呼吸障害の対策としては気管切開術が一般に広く普及した方法であり,定期的な喀痰吸引によるコントロールで誤嚥性肺炎をある程度防ぐことができる。しかしながら,①気管切開後に嚥下障害は悪化すること,②誤嚥の増悪による頻回の喀痰吸引は患者本人の苦痛,介護者や医療スタッフの負担を増すこと,③それでもなお誤嚥性肺炎のリスクを伴うこと,誤嚥性肺炎のリスクから経口摂取を断念せざるを得ず,食の楽しみを失ってしまうこと,など問題点も多い。このような患者に対して,さらなる対策として気道と食道を完全に分離することで誤嚥を防止する誤嚥防止術がある3)。日本神経学会によるALS治療ガイドラインでは,栄養管理の中で,嚥下障害が進行した時には,食物道とともに同時に呼吸道を形成する気管分離・食道吻合術や喉頭摘除術の選択も行われる4),との簡単な記載があるが,アメリカ神経アカデミー学会のALS治療指針では,気管切開による人工呼吸器装着についての記載はあるものの,誤嚥防止術についての記載はまったくない5)。実際,多くの神経内科医は誤嚥防止術の詳細について,十分な知識をもっておらず,ALSをはじめとする神経難病における誤嚥防止術の有用性や,患者・家族の満足度を評価した研究はごく少数である6,7)

 筆者らは神経難病患者に対する誤嚥防止術として,喉頭気管分離術または気管食道吻合術(喉頭気管分離術/気管食道吻合術)を施行し,その有用性について検討してきた8,9)。喉頭気管分離術/気管食道吻合術は,ごく一部の病院で嚥下障害のため誤嚥性肺炎を繰り返し起こす重症心身障害児,脳血管障害患者や成人神経難病患者に試みられている程度である10-12)。ここでは,ALS患者における有用性,誤嚥防止術の適応基準とアルゴリズム(手段決定の手順)について述べる。これは,そのほかの神経難病患者についても同様に適用できるものである。

参考文献

1) Kimura I: Patient support in Japan. Amyotroph Lateral Scler 7(Suppl 1): 7, 2006
2) 三本 博: 最近注目される脳神経疾患治療の研究―筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療戦略. No To Shinkei 59: 383-391, 2007
3) 湯本英二: 嚥下障害を治す. 耳鼻咽喉科診療プラクティス, 文光堂, 2002, pp198-205
4) 日本神経学会治療ガイドライン: ALS治療ガイドライン2002. 臨床神経42: 678-719, 2002
5) Miller RG, Rosenberg JA, Gelinas DF, Mitsumoto H, Newman D, et al: Practice parameter: the care of the patient with amyotrophic lateral sclerosis (an evidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology: ALS Practice Parameters Task Force. Neurology 52: 1311-1323, 1999
6) Takano Y, Suga M, Sakamoto O, Sato K, Samejima Y, et al: Satisfaction of patients treated surgically for intractable aspiration. Chest 116: 1251-1256, 1999
7) Eibling DE, Snyderman CH, Eibling C: Laryngotracheal separation for intractable aspiration: a retrospective review of 34 patients. Laryngoscope 105: 83-85, 1995
8) 箕田修治, 山口喜久雄, 今村重洋, 鮫島靖浩: 神経難病患者の嚥下障害に対する喉頭気管分離術/気管食道吻合術―有用性と適応基準―. 厚生労働省精神・神経研究委託費 政策医療ネットワークを基盤にした神経疾患の総合的研究班(湯浅班)平成15~17年度研究報告書, 2006, pp104-106, 163-164
9) 箕田修治: 今後の筋萎縮性側索硬化症医療のあり方を考える. 筋萎縮性側索硬化症の嚥下障害に対する誤嚥防止術の適応基準. 医療60: 620-624, 2006
10) 内藤理恵: 小児外科関連領域 私はこう考える. 耳鼻咽喉科領域―喉頭気管分離術の適応と実際. 小児外科37: 1391-1395, 2005
11) 後藤理恵子, 星川広史, 森 望, 印藤加奈子, 市原典子: 神経難病における気道食道分離術の検討. 日気食会報54: 416-421, 2003
12) Takamizawa S, Tsugawa C, Nishijima E, Muraji T, Satoh S: Laryngotracheal separation for intractable aspiration pneumonia in neurologically impaired children: experience with 11 cases. J Pediatr Surg 38: 975-977, 2003
13) Lindeman RC: Diverting the paralyzed larynx: a reversible procedure for intractable aspiration. Laryngoscope 85: 157-180, 1975
14) Lindeman RC, Yarington CT Jr, Sutton D: Clinical experience with the tracheoesophageal anastomosis for intractable aspiration. Ann Otol Rhinol Laryngol 85: 609-612, 1976
15) Eisele DW, Yarington CT Jr, Lindeman RC: Indications for the tracheoesophageal diversion procedure and the laryngotracheal separation procedure. Ann Otol Rhinol Laryngol 97: 471-475, 1988
16) 箕田修治: 神経難病患者さんの嚥下障害に対する喉頭気管分離術の有用性. 難病と在宅ケア10: 40-43, 2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1344-8129

印刷版ISSN:1881-6096

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