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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩59巻3号

2007年03月発行

雑誌目次

特集 分子イメージング

分子イメージング総論

著者: 福田寛 ,   岡村信行

ページ範囲:P.203 - P.207

はじめに

 分子イメージングという言葉は「生体内の分子の挙動を可視化」する技術,およびその応用研究を意味するが,実際にはかなり幅広い意味で用いられており,厳密な定義はないのが実情である。標識化合物を利用して生体の血流,代謝,受容体結合など,生体内分子の挙動を画像化するPET(positron emission tomography),あるいはSPECT(single photon emission computed tomography)は,すべて広い意味での分子イメージング法といえる。一方,基礎生命科学,分子生物学の飛躍的な発展により遺伝子の発現,すなわちゲノムに始まる転写,翻訳,蛋白合成,生理機能発現までの一連の生命現象の流れを解明することが現代科学の本流となっており,これらの過程における遺伝子や蛋白など生体分子の量や機能,挙動を画像化する試みがなされている。後者が本来の意味での分子イメージングであろう。

 米国においては,国を挙げてこの分野の研究を推進することを目指して,2000年に国立生体イメージング・生体工学研究所(NIBIB:National Institute of Biomedical Imaging and Bioengineering)が設立された。この研究所の設立目的には「物理学,化学,数学,計算機科学,工学に関する諸原理を統合して,生物学,医学,行動学および健康について研究をすすめて基礎的学問を発展させ,分子から器官にいたる知識を生み出し,最終的には病気を予防,診断,治療し健康増進を行う」ことが掲げられている。このプロジェクトではさまざまな研究アプローチの中でも,イメージングが特に強調されている。また,米国の国立癌研究所(NCI:National Cancer Institute)では,全米に5カ所,生体分子細胞イメージングセンター(ICMIC:In Vivo Cellular and Molecular Imaging Center)を設立して,この分野の研究を推進している。

 一方,わが国でも2005年度に,放射線医学総合研究所および理化学研究所を中心として分子イメージング・プロジェクトがスタートした。放射線医学総合研究所では,PET疾患診断研究拠点担当として,(1)次世代分子イメージング技術の研究開発,(2)精神・神経疾患のイメージング研究,(3)腫瘍イメージング研究を3本柱として研究を推進している。また,東北大学も研究推進および人材育成の点で,放医研と連携してプロジェクトを進めている。理化学研究所では,創薬候補物質探索拠点担当として,PETを用いる分子イメージング用分子プローブの設計・機能評価・動態評価応用を通じて,創薬プロセスの効率化・短縮を目指している。

 さらに,このような分子イメージング研究の機運をとらえて2006年5月に「日本分子イメージング学会」が発足した(藤林会長,福井大学)。米国に遅れること約5年であるが,ようやくわが国においても分子イメージング研究の幕が開いたといえる。分子イメージングは,分子の挙動から見た生命現象の解明に大きな貢献が期待されているが,その最終的な目標は疾患の早期診断,あるいは臨床的な症状はないが疾患リスクの高い者の診断など,より予防医学的観点から,感度と特異度の高いプローブを開発することである。

創薬のための分子イメージング

著者: 渡辺恭良

ページ範囲:P.209 - P.214

I.生体分子イメージング

 分子の持つ情報は,構造と機能だけではない。どの細胞内小器官に,どの細胞に,どの臓器に,というような「場」の情報,そして,どのような時間経過で発現し消長するかという時間情報がこれに加わる。その上で,さまざまな分子間での相互作用が起こり,結合-解離-変化の中で動的に機能を果たしている。生体分子イメージングは,特にこの場所と時間情報に加えて,機能と関わる定量的な分子情報を提供する。

 病態研究はヒトを対象にしているだけに,動物モデルでの研究も行うが,最終はヒト病態において,関連分子の変化量を定量化する必要がある。比較は,健常者との比較であったり,治療効果も含めた病態の変化による比較であったりする。その際,単なる2群間の引き算でなく,さまざまな症状の重篤度との相関や,治療効果度との間の相関を導くことが可能である。

向精神薬開発における分子イメージング―PETによる受容体,トランスポーターの評価

著者: 高野晴成 ,   高橋英彦 ,   伊藤浩 ,   須原哲也

ページ範囲:P.215 - P.220

はじめに

 薬物は生体内のさまざまな分子を標的として作用を発現するが,positron emission tomography(PET:陽電子放射断層撮影法)では,この作用点である標的分子を非侵襲的に画像化することが可能である。本稿では抗精神病薬や抗うつ薬などの向精神薬のPETによる評価について概説し,さらに,薬物輸送トランスポーター機能に関するPETを用いた研究についても言及する。

ヒスタミン受容体の分子イメージング

著者: 田代学 ,   谷内一彦

ページ範囲:P.221 - P.231

I.ヒスタミン神経系の研究

 ヒスタミンは,アレルギー反応の引き金として作用するだけでなく,中枢神経系における伝達物質としても重要な役割を演じており,睡眠―覚醒サイクルの維持や食欲の調節など多様な神経機能に関与している。脳内ヒスタミンは視床下部後部に位置する「結節乳頭核」の神経細胞(ヒスタミン・ニューロン)によってのみ合成されており,このヒスタミン・ニューロンは大脳皮質のほぼ全域に加えて,視床,脳幹といった広範囲に投射線維を送っている(Fig.1)。ヒスタミン・ニューロンの存在に関する最初の報告は,1983年に日本人のWatanabeらによってなされた1)。すなわち,ヒスタミン合成酵素(L-ヒスチジンデカルボキシラーゼ)抗体やヒスタミン抗体を用いて,その脳内分布が明らかにされた2,3)。ヒスタミン作動性神経(ヒスタミン神経)は,4種類のヒスタミン受容体サブタイプ(H1,H2,H3,H4)を介して情報伝達を行っている。H1受容体は,睡眠―覚醒サイクルの調節,食欲の調節,ストレス反応,てんかん発作の抑制作用,そして学習・記憶,感情などといった多様な脳機能に関与している4,5)。H2受容体は胃酸分泌の調節にあたるほか,脳内ではH1受容体に類似した機能に関与していると考えられている。H3受容体はシナプス前膜上の自己受容体として発見されており,脳内ヒスタミンの合成・放出の調節に関与していることが明らかにされた5)

脳内アミロイドの分子イメージング

著者: 小野正博

ページ範囲:P.233 - P.240

はじめに

 生体内における遺伝子や蛋白質などの分子を,生物が生きたままの状態で画像化する「分子イメージング」は,さまざまな病態に関与する分子を画像化することで,疾患の高度な診断を可能にすると考えられている。分子イメージングによる診断が期待される疾病の1つにアルツハイマー病があり,アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβ蛋白を体外から画像化する,いわゆる「アミロイドイメージング」と呼ばれる分子イメージング技術が注目されている。

 現在,アルツハイマー病の生物学的診断マーカーはなく,一般的に問診,脳波測定,CTスキャンなどの方法がその診断に用いられている。しかし,これらの診断方法ではアルツハイマー病を診断するのは困難であり,確定診断には患者剖検脳の病理学的所見が必要である。また,多くの研究から,最初の臨床症状が現れる数十年前には,すでにアルツハイマー病に特徴的な神経変性が始まっていることが明らかとなっており,患者に臨床症状が現れたときには,脳内の病理学的変化はかなり進行した状態になっていると考えられている。このような状況下,アルツハイマー病の早期診断に対する社会的要求は高く,その早急な開発が強く望まれている。

 アルツハイマー病の特徴的病理学的変化として,脳内における老人斑の沈着と神経原線維変化の出現が知られている1)。前者の主構成成分はβシート構造をとったアミロイドβ蛋白であり,後者は過剰リン酸化されたタウ蛋白である。アルツハイマー病の確定診断は,患者死後脳におけるこれら病理学的変化の確認にゆだねられている。特にアミロイドβ蛋白の蓄積はアルツハイマー病発症の最も初期段階より始まることから,脳内でβシート構造をとったアミロイドβ蛋白の早期検出は,アルツハイマー病の早期診断につながると考えられる。

 こうした背景をもとに,現在,脳内に蓄積した老人斑アミロイドを体外より鋭敏に画像化できる,アミロイドイメージングプローブの開発研究が活発に行われている。重篤な認知症症状が出現する前に,アルツハイマー病の早期診断を可能とする脳内アミロイドイメージング技術の開発は,早期治療の導入により,重度の患者を減少させることが可能になると考えられる2-4)。また,アルツハイマー病と臨床的に類似したほかの認知症性疾患との鑑別診断,病状進行の判定,薬剤の治療効果の判定にもその有用性が期待される。さらに,アルツハイマー病患者とその家族の精神的および経済的負担の軽減にも,早期診断は極めて重要であり,その意義は大きいと考えられる。本稿では,アルツハイマー病の診断を目的とする脳内アミロイドの分子イメージング技術について,アミロイドイメージングプローブの開発状況とともに薬学的視点から概説を行う。

総説

神経筋の電気診断

著者: 園生雅弘

ページ範囲:P.241 - P.250

はじめに

 いただいたテーマは「神経筋の電気診断」ということだが,これは優に1冊の教科書が書けるテーマである1)。相当なスペースをいただいたとはいえ,神経筋の電気診断について,すべて論ずることは不可能である。そこで,本稿では,電気診断のあるべき姿,臨床的問題を解決するための基本的strategyなど,総論的事項を中心に述べることとする。

悪性神経膠腫に対するペプチド療法

著者: 山中龍也 ,   伊東恭悟

ページ範囲:P.251 - P.261

はじめに

 悪性脳腫瘍の中でも神経膠芽腫は膵臓がん,悪性黒色腫などと並び最も治療困難な腫瘍である。悪性神経膠腫に対しては,手術,放射線,化学・免疫療法などの集学的治療法が行われており,また最近,化学療法薬テモゾロマイドがわが国でもようやく認可となり標準治療が変化しつつあるが,その治療成績はいまだ十分な改善がみられず51),有効な治療法の開発が熱望されている。

 一方で,近年のゲノム医学の急速な発展と相まって,悪性神経膠腫の分子生物学的異常の解明から治療法の開発を目指す研究が,少しずつではあるが進歩しつつある11,25,32,34,39,49,58,64)。例えば,テモゾロマイドの有効性にMGMT(O(6)-methylguanine-DNA methyltransferase)遺伝子のpromotor領域のメチル化の重要性が13),またチロシンキナーゼ阻害剤へのresponderの解析からEGFR(epidermal growth factor receptor)発現亢進,inactive PKB/AKT(protein kinase B/Akt) pathway,intact PTEN(phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome ten)が治療反応性に重要であることが明らかになり12,26),腫瘍の分子病態異常に応じた個別化分子標的療法の選択が主流となりつつある。

 近年,分子生物学の飛躍的な発展と相まって,キラーT細胞による抗原分子認識機構が分子レベルで明らかにされた。主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex: MHC)クラスⅠもしくはⅡドメインにより構成される小さな溝に,約8~15個のアミノ酸からなるペプチド分子が乗っていることが明らかにされた。すなわち,T細胞抗原受容体,標的細胞上のMHC分子,およびその分子に結合する抗原,すなわちペプチド分子がT細胞による抗原認識の分子基盤を作っていたのである。これらにより,ようやくT細胞が腫瘍細胞を認識する実体を分子レベルで解明できるようになった。このような分子生物学の進歩と前述したヒト腫瘍免疫学の進歩が,がん抗原遺伝子の同定,すなわちヒトがん細胞上でMHCクラスⅠ分子上に提示され,宿主T細胞の標的分子となる抗原をコードする遺伝子としてMAGE(melanoma antigen-encoding genes)遺伝子が,1991年Boon T博士らにより同定され52),その後の爆発的な研究発展の礎となった。これらの科学的基盤に支えられ,現代の腫瘍免疫学は腫瘍抗原という明らかな標的分子を見すえ,特異的免疫療法として飛躍的に進歩しつつある10)

 その後,腫瘍細胞のクラスⅠ上に提示されるCD8陽性CTL(cytotoxic T lymphocyte)が標的とする最小ユニットである腫瘍抗原エピトープペプチドの同定があいついで報告された。これまでに決定されたエピトープペプチドを有する腫瘍抗原は約250種類以上あり1,2,8,15-20,27,30,35,36,38,47,53-56,59),ペプチドの投与により患者体内で特異的CTLを誘導し,抗腫瘍効果を期待するがんワクチン療法が施行されてきた。欧米およびわが国を中心に多数の第Ⅰ相臨床試験が施行され,グレード3以上の有害事象はなく,ワクチンしたペプチドに対する特異的CTLの誘導が確認された症例があり,臨床効果を示した症例もあった28,31,33,37,40,44,48,65)。これらの結果をふまえ,第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験や第Ⅱ相臨床試験が開始されている。

 今回,悪性神経膠腫に対するバイオセラピーという観点から,腫瘍免疫学の進歩,ペプチドワクチン療法の現状,免疫療法の今後の展望などにつき概説してみたい。

原著

運動ニューロン疾患を伴う認知症の2症例の臨床・病理学的検討

著者: 山本涼子 ,   井関栄三 ,   村山憲男 ,   峯岸道子 ,   木村通宏 ,   江渡江 ,   新井平伊 ,   大生定義 ,   畑中大介 ,   日野博昭 ,   藤澤浩四郎

ページ範囲:P.263 - P.269

はじめに

 運動ニューロン疾患を伴う認知症(dementia with motor neuron disease: D-MND)は認知機能障害と筋萎縮を伴う運動障害をきたす疾患で,前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia: FTD)の運動ニューロン疾患型に相当する。FTDは1994年に提唱された新しい疾患概念で1),従来のピック病(Pick's disease: PiD)の概念を発展させたものであり,前頭・側頭葉の前方部に優位な萎縮を示す非アルツハイマー型変性性認知症の総称である。FTDの神経病理学的亜型として,前頭葉変性型・ピック型・運動ニューロン疾患型の3型が挙げられている。

 従来PiDとされていたもののうち,前頭葉優位の萎縮を示すものはFTDのピック型に相当するが,側頭葉優位の萎縮を示すものはFTDには含められないことから,FTDに進行性非流暢性失語,意味性認知症を加えた概念として,前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration: FTLD)が新たに提唱された2)。前頭葉優位の萎縮を示すPiDは,人格変化や脱抑制などの前頭葉症状で発症し,神経病理学的にリン酸化タウの蓄積よりなるピック小体を有しており,狭義のPiDはこのタイプを指す。一方,側頭葉優位の萎縮を示すPiDは,語義失語で発症して意味性認知症を示すことが多く,神経病理学的にピック小体を持たず,ユビキチン陽性封入体を有しており,非定型ピック病(atypical Pick's disease: aPiD)と呼ばれている3,4)

 わが国のD-MNDは,1964年に湯浅5)が認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis with dementia: ALS with dementia)として臨床報告し,1979年にMitsuyamaら6)によって運動ニューロン疾患を伴う初老期認知症(presenile dementia with motor neuron disease)の名称で1疾患として提唱された。臨床的には,初老期に人格変化や脱抑制などの前頭葉症状と言語障害で発症することが多い。神経症状の多くは認知機能障害の発症後1年以内に併発し,線維性攣縮を伴う上肢の筋萎縮と球麻痺がみられる。神経病理学的にはPiDのような強い限局性萎縮はなく,ALSほど強い脊髄病変もない。Okamotoら7)によってD-MNDの海馬歯状回と前頭・側頭葉皮質の神経細胞にaPiDと類似したユビキチン陽性封入体が示されている。

 このように,FTLDは異なる病態機序を持つ疾患を包括した臨床症候群であり,臨床診断基準として「社会的対人行動の早期からの障害」や「早期からの自己行動の統制障害」などの必須症状と,従来のPiDの症状に一致する常同行動や食行動異常などの支持症状が挙げられている8)。しかしながら,この基準では病初期には各亜型の鑑別が困難なことが多く,例えば,初期に運動障害がみられず前頭葉症状が前景に立ち,画像上で前頭葉の限局性萎縮を示す場合は,PiDとD-MNDを区別することができない。

 今回われわれは,初期から前頭葉症状が強く,画像上で前頭葉に限局性萎縮を認めたことからPiDと診断されていたが,末期に嚥下障害が急速に進行し,剖検によりD-MNDと確定診断した1例と,初期から前頭葉症状とともに歩行障害がみられたことからD-MNDと診断されており,剖検によってD-MNDと確定診断されたが,aPiDと共通した病理所見を示した1例を経験したので,これら2例を臨床・病理学的に比較検討して,若干の考察とともに報告する。

症例報告

先天性プロテインC欠損症を有し甲状腺クリーゼと同時に発症した上矢状静脈洞血栓症

著者: 南雲清美 ,   福島剛志 ,   高橋宏和 ,   榊原優美 ,   小島重幸 ,   秋草文四郎

ページ範囲:P.271 - P.276

はじめに

 脳静脈血栓症の原因として,頭蓋内・外の感染症,血液凝固異常,ベーチェット病や潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患,悪性腫瘍,経口避妊薬を含むホルモン異常,外傷などが知られている。われわれは若年女性で虫垂炎の術後6日に,頻脈,血圧上昇,発汗,発熱などの甲状腺中毒症状出現と同時に,上矢状静脈洞血栓症を発症した症例を経験した。本例の脳静脈洞血栓症は,甲状腺中毒症が発症原因の1つと考えられたため報告する。

共同偏視にて発症した延髄内側虚血の3症例

著者: 木下良正 ,   安河内秀興 ,   原田篤邦 ,   津留英智 ,   奥寺利男

ページ範囲:P.277 - P.283

はじめに

 延髄外側梗塞はWallenberg症候群としてよく知られている一方,病巣側の舌下神経麻痺,対側の顔面を含まない片麻痺,内側毛帯の障害による深部感覚障害の3徴候を示す延髄内側梗塞であるDejerine症候群を経験することは少ない。MRI普及により脳幹病変の画像診断が容易になり,延髄内側梗塞の報告が増加しているが,病巣が小さいことから延髄内側梗塞を診断するには,脳幹病変を疑うことが重要である。共同偏視や水平注視麻痺を認める脳虚血の場合,天幕上の虚血を疑うことが多いが,脳幹の虚血例でも共同偏視を呈することがあり,注意を要する。われわれは初発症状に病巣と反対側への共同偏視がみられた延髄内側虚血の3症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

神経画像アトラス

カルバマゼピンにより脳梁膨大部に可逆的病変を呈した症例

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛

ページ範囲:P.286 - P.287

 症 例 症例は32歳,男性。後頭部痛を主訴に当院へ救急搬送となった。入院時,明らかな神経脱落症状は認めなかった。入院時,頭部CT,MRIにて異常所見を認めなかった。後頭神経痛を疑われたため第4病日よりカルバマゼピン(CBZ)内服を開始した。CBZ投与量は1日200mgから開始したが,軽快なく,第7病日より1日600mgに増量した。以降,頭痛の程度は軽快傾向を示したためCBZを第21病日より内服中止とした。第30病日に撮影された頭部MRIにて脳梁膨大部にT1強調画像でやや低信号,T2強調画像で高信号,拡散強調画像で高信号を示す病変を認めた(Fig.1)。同病変は造影にてenhanceを受けなかった。第52病日に撮影されたフォローの頭部MRIにて脳梁膨大部の病変は消失した(Fig.2)。

連載 神経学を作った100冊(3)

R.B.Todd 1849

著者: 作田学

ページ範囲:P.288 - P.289

 Robert Bentley Todd(1809~1859)は,ロンドンのKing's Collegeの生理学の教授とKing's College Hospitalの内科医を歴任した。彼の名前が今日まで残っているのは,いわゆるToddの麻痺,すなわちてんかんの痙攣後に弛緩性麻痺が残ることを記載したことによる。

 それが最初に出るのは,1849年にロンドンのLumleian Lecturesでの講演である(Fig.1)1)。「痙攣性疾患の病理と治療」と名付けた講演で,42頁のパンフレットの中で,第10頁に記載がある。「麻痺の状態はときによっては痙攣のあとも続く。これはとりわけ痙攣が一側あるいは一肢だけに生じたときにみられる。このとき,一肢あるいは一側の麻痺は数時間あるいは数日も,痙攣が終わってからも残る。しかしながら,結局は完全に回復する」。

書評

「カラーアトラス神経病理 第3版」―平野 朝雄●編著 フリーアクセス

著者: 日下博文

ページ範囲:P.290 - P.290

神経学の基本知見を的確・明快に提示

 1980年『カラーアトラス神経病理』の第1版が出版された。膨大な数のカラー写真からなる神経病理アトラスはまさに圧巻,そして,他に類を見なかった。ちょうど神経内科の認定医試験を控えており,早速に購入して平野先生のもう一つの名著『神経病理を学ぶ人のために』と併せて勉強した覚えがある。同じような経験の方は多数おられると思う。その後,これほど多くの国で翻訳されたアトラスは他にはないということを平野先生にうかがったが,十分うなずける。文字通り神経病理学の世界的なベストセラーである。記念すべきことに今年その改訂第3版が出版された。

 「正常を知らないと異常はわからない」という平野先生の言葉どおりに,それぞれのセクションの冒頭に,正常の肉眼所見(大脳の外観と水平断など)と正常の顕微鏡所見が掲げられている。そして,その後に貴重な病理所見が続いている。非常にわかりやすい構成である。血管障害,外傷,発達障害,腫瘍,感染症,脱髄性疾患,種々の変性疾患,代謝異常など多彩な症例が収められている。これらは長年Montefiore Medical Centerで毎週行われているbrain cuttingの膨大な症例の中から,選び抜かれた知見・写真である。それぞれに平野先生の卓越した観察眼に基づいた解説が付いている。脳を観察するときの非常に実際的な注意点(たとえば高齢者と小児の硬膜の違いなど),顕鏡するときのアドバイスに加えて,実地の臨床に役立つコメントも多数みられる。神経病理を専門にする者だけでなく,神経学を学ぶ人であれば誰でも参考にすべき写真・知見である。

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あとがき フリーアクセス

著者: 川島隆太

ページ範囲:P.294 - P.294

 今号では分子イメージングを特集しました。わが国では,理化学研究所や放射線医学総合研究所を中心に巨額な予算を使った国家プロジェクトが走っていることを,報道で聞いたことがある読者の方もいらっしゃるのではないかと思います。しかし,実際に分子イメージング研究の全体像や詳細は,聞きなれない新しい言葉であることもあり,よく知らなかった方が多いのではないでしょうか?

 巻頭の福田先生の総論にあるように,現在,分子イメージング研究とは,臨床のPETやSPECTを用いた非侵襲的脳機能イメージングから,細胞・分子レベルの光イメージングまで,さまざまな領域を包括しています。臨床医学と直接関連する新領域研究としては,生体内の薬物動態の観察が可能なことから,分子イメージングの創薬への応用が始まっています。また,小野先生の論文にあるようにβアミロイドのイメージングから,アルツハイマー病の早期診断や治療への応用が少しずつ見えてきており,これらの研究の進展が大いに期待されるところであります。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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