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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩60巻3号

2008年03月発行

雑誌目次

特集 特発性正常圧水頭症(iNPH)―最近の話題

特発性正常圧水頭症―オーバービューと病態生理

著者: 石川正恒

ページ範囲:P.211 - P.217

はじめに

 正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus: NPH)は,歩行障害,認知障害,尿失禁などの症状があり,髄液シャント術で症状改善を得る症候群である。1965年にHakimら1)によって提唱されて以来,外科治療可能な認知障害(treatable dementia)として注目を浴びたものの,くも膜下出血後や髄膜炎後のような原因の明らかな二次性正常圧水頭症で治療効果が明白な例が多いのに対して,原因の明らかでない特発性(idiopathic NPH: iNPH)は症状が高齢者に非特異的で,先行疾患が明らかでなく,シャント合併症が多かったことから,次第に関心が持たれなくなっていた。しかし,わが国では高齢化が急速に進行しており,高齢者対策は社会的にも重要な課題である。日本正常圧水頭症研究会では社会的意義を重視して,2004年にiNPH診療ガイドライン(以下,本邦ガイドライン)をevidence-based medicineの方法に基づいて作成した2)(Table1)。この診療ガイドラインは(財)日本医療評価機構からも高く評価され,同機構の主催するMinds事業(http://minds/jcqhc.or.jp/)にも採用されている。2005年には国際iNPH診療ガイドラインが公表され,iNPHに対する関心がより高まった。両者は同じevidence-based medicineの手法で作成されたものであるが,考え方の違いや医療環境の違いから微妙な違いがみられる。一方,病態生理に関しては,長年にわたって髄液はくも膜顆粒で吸収されると信じられてきたが,MRIなどの新たな技術革新の波に乗って,髄液のほとんどは中枢神経系の至るところの毛細血管から吸収されるという仮説が提示されるようになり,交通性水頭症の病態生理について再考が迫られている。

 本稿では初めにiNPHに関するわが国の診療ガイドラインの概要を述べ,次いで,国際ガイドラインとの比較を述べ,最後に最近の病態生理をめぐる論争について概説する。

特発性正常圧水頭症の歩行障害

著者: 森悦朗

ページ範囲:P.219 - P.224

はじめに

 歩行障害,認知障害,尿失禁が特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)の三主徴である。これらの症状は高齢者にはさまざまな理由で非特異的にみられ,ともすれば老化によるものと見過ごされたり,脳血管障害や変性疾患など老化関連疾患と誤診される可能性も高い1)。iNPHと鑑別すべき疾患あるいは病態は,臨床的には高齢者を冒し,痴呆,歩行障害,およびその両方をきたす疾患である。ここではiNPHの歩行障害に注目し,その特徴,特に他疾患との鑑別点,さらにその発現機序に関する仮説についてまとめる。

特発性正常圧水頭症の認知機能障害

著者: 数井裕光

ページ範囲:P.225 - P.231

はじめに

 特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は,治療可能な認知症として以前より知られている疾患である。しかしiNPHにおいてどのような認知機能が障害されやすいのか,あるいはシャント術によってどのような認知機能が改善するのか,などについては必ずしも明確にされてこなかった。本稿では筆者の経験およびこれまでの研究を整理し,iNPHの認知機能障害についてまとめる。

特発性正常圧水頭症の排尿障害

著者: 榊原隆次 ,   内山智之 ,   神田武政 ,   内田佳孝 ,   岸雅彦 ,   服部孝道

ページ範囲:P.233 - P.239

はじめに

 排尿障害は,高齢者の生活の質,早期入院・入所,医療経済などの観点から,近年注目を集めている1,2)。正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus: NPH)は,歩行障害,認知症とともに排尿障害をきたす疾患であり,くも膜下出血などに続発するものと,原因が特定できない特発性(idiopathic NPH: iNPH)のものとがある3-6)。尿失禁は一般に,泌尿・婦人科疾患に由来するものと,中枢病変に由来するものに分けられる。前者には,腹圧性尿失禁と,前立腺肥大症に伴う溢流性尿失禁があり,それぞれ問診と残尿測定等によって鑑別できる。後者には,機能性尿失禁と,神経因性膀胱がある。本稿では,NPHに関連する機能性尿失禁,排尿の自律神経支配と神経因性膀胱についてまず述べ,NPHの排尿障害について次に述べる。

特発性正常圧水頭症の画像診断

著者: 佐々木真理 ,   山下典生

ページ範囲:P.241 - P.245

はじめに

 特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus: iNPH)の診断や治療方針決定に画像診断は重要な役割を果たしているが,検査戦略に関するコンセンサスや画像所見に対する理解は十分とはいえない。本稿ではiNPHに関する形態画像診断,機能画像診断の最近の動向について解説し,診療ガイドラインにおける位置づけについても言及する。

特発性正常圧水頭症の治療におけるシャント・システムの現状

著者: 橋本正明

ページ範囲:P.247 - P.255

はじめに

 水頭症の治療は,感染症と手術法および手術合併症との歴史的な変遷の中で,病態の認識変化やそれに合わせたシャント・システムの進化などが重層しつつ,その治療成績も改善してきている。正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus:NPH)は,Hakim and Adams(1965)ら1,2)によって,その髄液圧が正常圧を示し,脳室拡大を伴って進行する認知症,歩行障害,尿失禁を認め,短絡術により改善する症例群として定義された。特に原因の特定されない特発性正常圧水頭症(idiopathic NPH: iNPH)は交通性水頭症として分類され,超高齢社会を迎えるにあたり,シャント治療が可能とされるiNPHへの関心は世界的に高まりつつあり,その診療ガイドラインも刊行された3,4)。iNPHの診断と治療において,外科的シャント治療の安全性やシャント・システムの機能は,その予後に大きな役割を担っている。シャント手術方法や,使用されるシャント製品などの基本的な知識を確認しておくことは重要となる。Table1に現在日本に流通している主なシャント・システムの一覧を示す。最近は各種シャント製品の開発も進み,跳躍の進歩がみられる一方,その製品の名称や構造等は多種類に分類され,またシャント・メーカーによる説明表現が種々あり,一般臨床医にはその理解や比較が複雑で,困難にも思われる。本稿ではNPH治療に使用されるシャント・システムの歴史的変遷や現状における状況を確認し,iNPHに関わる治療における今後の問題点を提案する。

総説

達人の脳内機構

著者: 田中悟志 ,   花川隆 ,   本田学

ページ範囲:P.257 - P.262

はじめに

 達人(もしくは熟練者:expert)とは,ある特定の領域で,長年にわたる学習や練習を積むことにより,数多くの知識や優れた能力を取得した者のことをいう1)。“達人”と言ってしまうと何か非常に特殊で崇高な人間であると聞こえるかもしれないが,実はそうではない。なぜならば,本を読む,文章を書く,箸を使う,自転車に乗る,などの行為をわれわれは普段,何気もなく行っているが,これらの行為のほとんどを,子供の頃はあまりうまく行うことができない。人間は長い間,これらの行為を繰り返すことにより,成長するにつれ段々と当たり前のようにこれらの技能を獲得していくのである。またわれわれ日本人が使用する日本語も,外国人にとっては学習するのが非常に難しい。われわれ日本人は外国人からみれば日本語の達人であるというのは一目瞭然である。そのような視点から眺めてみると,われわれはさまざまな面で達人であると気づく。しかしながら,多くの人々がそれらに熟練して,一見目立たないためにその事実を見逃してしまう。達人を研究するということは,なにも特殊な人間の特殊な能力を研究するということではなく,やり方次第で,われわれ人間の誰もが持ちうる一般能力を研究することに他ならないのである。

 達人研究のこのような重要性が認識し始められた1970年代中ごろから,達人の心理学的研究は非常に活発になった2-5)。その結果,達人の能力の高さは,その人の持つ高い一般知能や人格に由来するというよりは,むしろその熟練領域における豊富な知識と,その知識を効率的に運用するための極めて高度な方略を学習により獲得しているから,と考えられるようになった。一方で,脳という物質的な側面からみた場合,達人の脳が実際にどのように他の人々と異なっているのかはほとんど明らかにされてこなかった。達人は非達人と同じ脳領域をより強く活動させることにより,高い能力を発揮しているのだろうか。それとも達人は前頭前野など高次な認知機能の座であると考えられている脳領域を使用し,優れた能力を発揮しているのだろうか。もしくは熟練化の知識や方略に応じて,脳の異なった領域を働かせているのだろうか。さらに言えば,そもそも達人の脳は解剖学的に非達人と異なった構造を持っている可能性もあるのだろうか。本論文は記憶と計算の達人の脳画像研究を中心として,最新の知見をレビューすることにより,達人の脳内機構を論じたものである。

脳の時間順序判断

著者: 北澤茂

ページ範囲:P.263 - P.272

はじめに

 物理学の理想的な観測者は,1つひとつの出来事が起こった時間を時計で正確に読み取ることができる。このような理想的な観測者がいれば,信号Aと信号Bの順序を判断するのは簡単である。それぞれの信号の到着時刻を観測して,その時刻に従って並べればよい。脳はもちろん理想的な観測者ではない。しかし,理想的な観測者に似た役割を果たす決定機構が仮定されることが多い。SternbergとKnoll1)によれば,時間順序の決定機構は信号Aの到着時刻TAと信号Bの到着時刻TBを読み取って,到着時刻の差(TB-TA)の単調増加関数Gに従う確率で信号の順序を決定する(Fig.1左)。

 このモデルは実際のデータを基本的にはよく説明する(Fig.1右)。縦軸に信号Aが早いと判断する確率,横軸に信号AとBの時間差をとってデータをプロットすると,いわゆるシグモイド(S字状)のグラフが得られる。このS字状のグラフには重要な要素が2つある。1つは明らかに時間分解能そのもので,通常75%正解を与える時間差(JND: just noticeable difference,最小弁別値),が使われることが多い。しかし,単純に横軸に平行な75%ラインを引いて交点の時間差を読んでも最小弁別値が得られないこともある。もう1つのパラメータである,「シグモイドの左右方向の平行移動」も考慮する必要がある。こちらは判断が五分五分となる時間差(ここでは同時点と呼ぶ)である。古典モデルでは,同時点は感覚器から決定機構に到達するまでの経路の時間差を反映するとされた1)。時間分解能は,この同時点から75%正解点までの時間差と定義するのがよい1)。最小弁別値に関しては,経験を積んだ被験者では感覚の種類(視覚,聴覚,触覚)の組み合わせによらずほぼ一定で,20~30ms程度であるとされてきた2,3)。また,同時点の0からのずれは,数ミリ秒程度のものが報告されていた4)。つまり,古典的には時間差0近辺で判断が五分五分となるシグモイドで,ほとんどすべてのデータを説明することができたのである。

 しかし近年になって,これら古典的な知見を拡張する現象が相次いで報告されている。「同時点」については,経験に依存して最大100msも動くことが報告されている5-7)。また,単調増加のシグモイドとまったく異なるN字型の反応曲線が得られる条件が2つ発見されている。1つは腕の交差に伴う時間順序判断の逆転8,9)であり,もう1つはサッケード直前の時間順序判断の逆転10,11)である。これらの現象は,脳の中の時間順序判断が古典的なモデルだけで説明できるほど単純ではないことを示している。これらの現象から示唆される時間順序判断の脳内メカニズムについて考察し,臨床への応用可能性に言及する。

原著

脳ドックにおける髄膜腫の偶発頻度と臨床放射線学的検討

著者: 池田憲 ,   樫原英俊 ,   細沢健一 ,   阿南耕三 ,   田村政紀 ,   岩本康之介 ,   伊藤裕乃 ,   川瀬裕士 ,   岩崎泰雄

ページ範囲:P.273 - P.278

はじめに

 髄膜腫は成人で最もよく遭遇する原発性脳腫瘍である1)。最近では脳ドックが徐々に普及してきた結果,偶然発見されるケースが増加しているのが現状である2,3)。さらに,何らかの主訴を持って来院する外来診療で施行される頭部magnetic resonance imaging(MRI)でも髄膜腫が偶然に描出される患者も経験する。そこで,無症候性髄膜腫の有病率は脳ドックやMRIの普及により,確実に増加してくると推察される。しかし,わが国に特有な脳ドック健診を介して,偶発に描出される無症候性髄膜腫の頻度を算出した報告は少ない4)。今回われわれは,脳ドック受診者を対象に髄膜腫が偶然に発見される頻度と臨床放射線学的所見を分析した。本調査の結果を主に,本邦の脳神経外科からの報告と比較検討したので報告する。

症例報告

左前頭葉背外側部梗塞により記憶力障害を呈した1例

著者: 吉田紀明 ,   黒田裕久

ページ範囲:P.279 - P.283

はじめに

 記憶の中枢として側頭葉内側部,間脳,前脳基底部などがよく挙げられる部位であるが,前頭葉背外側部の障害による記憶力障害の報告は比較的稀である。今回われわれは,左前頭葉背外側部の限局性梗塞による記憶障害例を経験したので報告する。

頭部MRIで異常信号を呈し,Bickerstaff型脳幹脳炎と考えられた1例

著者: 堀聡 ,   福田修 ,   小山新弥 ,   亀田宏 ,   高橋輝行 ,   遠藤俊郎

ページ範囲:P.287 - P.290

はじめに

 Bickerstaff型脳幹脳炎(Bickerstaff's brainstem encephalitis:BBE)は眼筋麻痺,小脳性運動失調に加え,意識障害,錘体路症状など多彩な症状を呈するものの,一般的に予後の良好な疾患と考えられている1,2)。現在,BBEは病因論的にGuillain-Barre症候群やFisher症候群と連続する疾患単位とみなされており1-3),IgG抗GQ1b抗体が陽性を示すことが診断に有用とされる4)。また,BBEは頭部MRIで異常像として描出されることは比較的稀(30%)である2)

 われわれは,頭部MRIで脳幹部に明瞭な異常信号を認め,BBEと診断した1例を経験したので報告する。

環軸椎後方固定術後に発生した椎骨動脈動静脈瘻の1例

著者: 高柿尚始 ,   西村茂 ,   恩田純 ,   原田薫雄 ,   高安武志 ,   風川清

ページ範囲:P.291 - P.294

はじめに

 椎骨動脈動静脈瘻は刺創や銃創などの外傷,中心静脈穿刺,頸椎手術などの合併症として稀にみられる病態1-3)であるが,頸椎環軸椎後方固定術後に発生することは非常に稀である。今回われわれは,若年性関節リウマチによる環軸椎亜脱臼に対する環軸椎後方固定術後に発生した右椎骨動脈動静脈瘻に対し,血管内手術を行い良好な結果を得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

学会印象記

第13回欧州脳神経外科学会印象記(9月3日~7日,Glasgow)

著者: 野手洋治

ページ範囲:P.284 - P.285

 欧州脳神経外科学会は通常「EANS」と略され,「European Association of Neurosurgical Societies」が正式名称である。本学会は4年に1回,ヨーロッパのいずれかの国で開催される。当初この学会は「European Congress of Neurosurgery」と呼ばれており,第1回はSwissのZurichで開催された(会長はKrayenbulh先生)。その後,第4回のCzechoslovakia(当時)のPrahaより,現在のEANSという呼称に変更され,現在に至る。したがって本学会は第1回から現在に至るまで,約50年の歳月が流れたということになる(Table)。

 私自身は,1987年にSpainのBarcelonaで開催された第8回から出席し,今回まで6回連続して参加している。したがって,第8回の初参加から既に20年の歳月が過ぎたわけである。私の脳神経外科医としての歴史を照らし合わせると,本学会の影響およびその体験が私自身の歴史といっても過言でないほど,この学会に対して私自身「強い思い入れ」を持っている。本学会に6回連続して出席・発表を行っていると,自ずから本学会の歴史的変化や各学会の特徴がみえてくる印象がある。

神経画像アトラス

Biparietal thinningの3D CT所見

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛

ページ範囲:P.296 - P.297

 症例 82歳,女性。既往歴に白内障,胆石症,子宮癌がありそれぞれ過去に手術を受けている。エスカレーターに乗っていて後方に転倒し当院に搬送された。搬送時,意識清明であり神経学的に異常所見を認めなかったが,触診上,両側頭頂部陥凹を認めた。頭部単純X線写真にて両側頭頂部に透亮像を認め(Fig.1),頭部CTにて外傷性くも膜下出血を認めた。また,骨条件にて両側頭頂骨の外板,板間層を中心とした菲薄化を認め(Fig.1),biparietal thinningと診断した。3-dimentional (3D) CTにて骨形態の把握は容易であった(Fig.2)。入院管理とし,入院翌日のフォローCTにて脳挫傷が認められたが増悪なく,独歩退院となった。

連載 神経学を作った100冊(15)

チャールス・ベル「絵画における表情の解剖論」(1806)

著者: 作田学

ページ範囲:P.298 - P.299

 チャールス・ダーウィンの「人間および動物の表情」(1872)の記載が素晴らしいことを豊倉康夫先生からお聞きし,私はそれ以後十数回読み直した。この書物は「種の起源」を補強する意味で書かれたことは言うまでもないが,主として3冊の先行図書を批判あるいは引用する形で成立している。その第1のものは,ここで挙げるチャールス・ベル(1774~1842)の「絵画における表情の解剖論」(1806年)である。

 この本には顔面筋の解剖と生理およびその表情との関連についての詳細が,ベル自身の手による美しい図版を用いて説明されている(Fig.1)1)。そして,強く閉眼すると眼球が奥へ押し下げられること(p.60)や,表情筋は収縮によってだけではなく弛緩によっても表情を表出することがあること(p.99),などの今日でも重要な観察がもられている。また,表情筋の解剖(Fig.2),死の表情(Fig.3),痛みの表情(Fig.4)など多くの図が記載されている。このほかにも犬や馬の顔面筋の解剖とその表情についても美しい図が載っている。この第2版は1824年にMurray社から4折版218頁で出版された2)。さらに第3版は1842年4月29日のベルの死後,1844年に出された3)。第3版は上述のように初版と比べるとタイトルも異なっているが,全体にしっかりとした構成を持った,体系的な記述に変えられている。この改訂の大部分はベルが1840年にイタリアを旅行し,当地の多数の絵画を研究した後に自ら行ったものである。そして,1877年に第7版を出し,終わっている4)。息の長い書物といえよう。

書評

「神経文字学―読み書きの神経科学」―岩田 誠,河村 満●編集 フリーアクセス

著者: 田代邦雄

ページ範囲:P.256 - P.256

 神経文字学(neurogrammatology)とはなにか?

 その斬新な用語にまず驚かされる。有名書店で本書が目立つ場所に積み上げられているのをいち早く見つけ直ちに手に取ってみたが,その書評のご依頼を受け感激である。また,この用語は,編者の岩田 誠先生の造語であることも知り,まさに言語の神経科学者による素晴らしい発想と言えるであろう。

 2006年の第47回日本神経学会総会(岩田 誠会長)シンポジウムで,今回の編者である岩田 誠・河村 満 両先生が司会をされた「神経文字学」を聴衆の1人として拝聴した者として,その際のシンポジストのほかに新たな著者も加え1冊の本にされたことに対し,両先生ならびに関係各位に敬意を表する次第である。

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あとがき フリーアクセス

著者: 作田学

ページ範囲:P.302 - P.302

 今月の特集は特発性正常圧水頭症(iNPH)である。北野病院の石川正恒氏によると,その診察基準として日本のガイドライン(2004年)と国際診療ガイドライン(2005年)の2つがあるが,日本のガイドラインの優秀性が示されている。国際診療ガイドラインは発症年齢が40歳以上と,比較的若年でもよいとしており,むしろlong standing overt ventriculomegaly in adult(LOVA)を念頭に置いているが,LOVAとiNPHはまったく違う病態であると,論旨の展開もわかりやすい。東北大学の森 悦朗氏は,iNPHでみられる歩行障害について述べている。特徴は通常の歩行失行と比べ,平衡障害も顕著にみられるとし,発現機序に関しては,前頭葉機能障害としている。

 大阪大学の数井裕光氏は,特に認知機能障害の面を詳しく述べている。アルツハイマー病と対比することで,いずれも精神運動速度と注意機能の障害は強いが,エピソード記憶と意味記憶の障害が軽度であればiNPH,逆であればアルツハイマー病を疑うとした。そしてiNPHではシャント術後に記憶障害と精神運動速度の低下,作動記憶の障害,視覚構成機能障害などが改善しやすいとした。東邦大学の榊原隆次氏らは,排尿障害について述べている。NPHの排尿障害の中で頻尿・尿意切迫感(OAB)は早期症状として注目される。NPHの排尿障害の病態機序としては,右前頭葉の血流低下などによる排尿筋過活動と二次的な機能性尿失禁の両者が働くとした。岩手医科大学の佐々木真理氏らは画像診断について述べ,日本で注目された高位円蓋部くも膜下腔の狭小化とSylvius裂・基底槽の拡大に関しても,考慮すべきであるとした。治療の面では公立能登総合病院脳神経外科の橋本正明氏が,golden standardとしてのシャント手術は揺らぐことはないとしている。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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