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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩60巻5号

2008年05月発行

雑誌目次

特集 「痛み」の研究と治療の最前線

神経因性疼痛の分子メカニズム

著者: 小畑浩一 ,   野口光一

ページ範囲:P.483 - P.492

はじめに

 疼痛は,「組織の実質的または潜在的傷害と関連した,またはそのような傷害の言葉によって表される不快な感覚,情動的経験(The International Association for the Study of Pain, 1994)」と定義される。痛みは生理的な急性痛と,炎症性疼痛(inflammatory pain)や神経因性疼痛(neuropathic pain)の慢性痛に分けられる。急性痛は生体の警告系として重要な役割を果たすが,慢性痛はそれ自体が生体に悪影響を及ぼす。慢性痛の1つである神経因性疼痛は神経系に起因する感覚障害であり,自発痛,痛覚過敏(hyperalgesia),およびアロディニア(allodynia:異痛症とも呼ぶ)などの症状が特徴的である。海馬でのシナプス長期増強と非常に類似した神経系の可塑性(plasticity)によって慢性痛の病態の一側面を説明できるようになっているが,その発症メカニズムは非常に複雑であり,いまだ不明な点が多い。このような背景から本病態のメカニズム解明に向けてさまざまな動物モデルが作製され,分子生物学的アプローチをはじめとする多角的な研究がなされている。本稿では神経因性疼痛の分子メカニズムについて,一次知覚ニューロンと脊髄グリア細胞の役割を中心に概説する。

カプサイシン受容体TRPV1

著者: 富永真琴

ページ範囲:P.493 - P.501

はじめに

 侵害刺激を受容する陽イオンチャネル(多くは高いCa2+透過性を持つ)のいくつかは,TRP(transient receptor potential)スーパーファミリーに属する。TRPチャネルの1つのサブユニットは6回の膜貫通領域を有し,4量体として機能的なチャネルを形成すると考えられている。trp遺伝子は,1989年にショウジョウバエの眼の光受容器異常変異体の原因遺伝子として同定された1)。その後,trpのコードする蛋白質TRPはCa2+透過性の高いチャネルであることが明らかとなり,これまでに多くのTRPホモログが発見されている。現在,TRPスーパーファミリーは,哺乳類では大きくTRPC,TRPV,TRPM,TRPML,TRPP,TRPAの6つのサブファミリーに分けられている2)。そのうち,TRPVサブファミリー〔「V」はTRPV1を活性化するバニロイド(vanilloid)の頭文字「v」に由来する〕に属するカプサイシン受容体TRPV1は,侵害刺激受容神経(nociceptor)での発現が強く,侵害刺激受容に関わっていると考えられている。1997年に遺伝子がクローニングされてから10年,TRPV1の研究は大きく進み,数々の有効刺激が明らかになり,活性化機構や制御機構が解明されてきた。機能に関わる構造基盤もかなりわかってきた。侵害刺激受容の中心分子として,鎮痛薬としての阻害薬に対する期待は大きく,いくつかの化合物が臨床治験の段階に進んでいる。本稿では,TRPV1に関して最近注目を浴びているいくつかのポイントに焦点を当てて概説したい。

ボツリヌス毒素による痛みの治療

著者: 野寺裕之

ページ範囲:P.503 - P.508

はじめに―ボツリヌス菌とボツリヌス毒素

 ボツリヌス毒素は,グラム陽性嫌気桿菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生する分子量約15万の蛋白質であり,細胞外に分泌された後に菌自身のプロテアーゼまたは動物消化管のトリプシンによって,活性サブユニット(Aサブユニット,軽鎖)と結合サブユニット(Bサブユニット,重鎖)がS-S結合で結合した二本鎖蛋白となり,活性型のボツリヌス毒素となる。活性サブユニット(軽鎖)は毒素の本体である亜鉛結合性の金属プロテアーゼであり,結合サブユニット(重鎖)は標的となる神経細胞表面に特異的に存在し,毒素受容体となる特定の蛋白質との結合に関与する。ボツリヌス菌は菌の性状の差異によりⅠからⅣの4群に分けられ,ボツリヌス毒素は抗原性によりAからGの7型に区別されるが,ヒトはA,B,E,F型毒素で,動物(哺乳類,鳥類)はC,D型毒素で中毒する。ボツリヌス毒素のマウスへの最小致死量はわずか数pgであり,知られている細菌毒素や植物性毒素の中では最も強力である。A型ボツリヌス毒素のヒトに対する致死量は,筋肉注射の場合3,000~30,000単位(1単位はマウス腹腔内投与LD50値)と推定されているので,後述するボツリヌス毒素製品(ボトックス(R))の含量が1バイアル中100単位であることを考慮すれば,一度に30バイアル分を投与されることはまず考えられず,ボツリヌス毒素を用いた治療法が生命に及ぼす危険性は極めて低いと考えられる。本毒素は易熱性の蛋白であり,100℃1分または75~85℃5~10分の加熱で不活化され,また0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液などのアルカリでも失活する。ボツリヌス毒素は神経毒素であり,ボツリヌス症には食餌性ボツリヌス症,乳児ボツリヌス症,創傷ボツリヌス症がある。いずれも芽胞を産生する陽性嫌気性菌のボツリヌス菌が原因となる。本菌はボツリヌス毒素を産生し,血行性に主に神経筋接合部に到達し,この部からのアセチルコリン放出を阻害し,筋麻痺を引き起こすが,そのメカニズムは以下のとおりである。

 A型ボツリヌス毒素はsynaptic vesicle protein 2(SV2),B型とG型毒素ではそれぞれsynaptotagminⅠとⅡが受容体として認識されており,運動神経終末に結合する。膜に結合した毒素は受容体介在型エンドサイトーシスにより,エンドゾームとして細胞内に取り込まれる。エンドゾーム内部が酸性化することにより,活性成分である軽鎖が細胞質内に送り込まれ,細胞質内で亜鉛メタロプロテアーゼとして,神経伝達物質のカルシウム依存性放出に関わるSNARE複合体蛋白を酵素的に切断する。その結果,運動神経終末においては,アセチルコリン放出を阻害し,筋の麻痺を引き起こす。各毒素サブタイプにより作用するSNARE蛋白は異なり,SNAP25はA,E,C1型,syntaxinはC型,VAMP/synaptobrevinにはB,D,F,G型が作用する1)

 さて,ボツリヌス毒素が作用するのは運動神経終末のみではない。自律神経節,副交感神経の節後線維終末,交感神経の節後神経終末(多量の毒素が必要)にも作用するため,発汗過多や唾液分泌過多に対する臨床応用が海外ではなされている(Table)。

プログラマブルポンプによる髄腔内薬物慢性投与による疼痛コントロール

著者: 平孝臣

ページ範囲:P.509 - P.517

はじめに

 本邦では2005年春から,脊髄損傷や脳性麻痺などに起因する重症の痙縮に対して,体内に植え込んだプログラマブルポンプによるバクロフェン髄腔内投与を行う治療が健康保険治療の適応となり,従来有効な治療法のなかった重度の痙縮に対する治療として普及しつつある。一方,難治性の疼痛に対しても,同様の方法で痛みをコントロールする治療は,欧米ではモルヒネをはじめとし,さまざまな薬剤が古くから実際の臨床に応用され,さらにいくつかの新薬の開発も考えられている1)。しかし本邦ではさまざまな理由から,疼痛を対象とした慢性的治療に,髄腔内薬物投与ポンプを使用できる状況にはほど遠いのが実情である。本稿では髄腔内薬物投与による難治性疼痛のコントロールに関して,筆者のバクロフェン投与治療の経験2,3)をもとに,現状を紹介したい。

痛み治療の選択基準―ドラッグチャレンジテストによる基準

著者: 花岡一雄 ,   有田英子 ,   長瀬真幸 ,   井手康雄 ,   田上恵 ,   林田眞和

ページ範囲:P.519 - P.525

はじめに

 痛みは病気の兆候の中でも最も多くみられ,医療・医学の原点でもある。患者の多くは痛みを訴えて来院する。既に米国においては,2001年から2010年にかけて「痛みの10年」としてキャンペーンを開始し,重点的に痛みの研究やその治療に対して,社会が対応するレベルを向上するための積極的な施策が取られている。就労不能やそれに関わる介護者の費用,薬物の経費など,経済的な損失が1年間に8兆円にも達するものと推計されており,そのような状況を改善するためにも,痛みを第5のバイタルサインとして,医療サイドとして痛みを評価することを診療の義務としている1)

 近年,わが国においても高齢化社会を反映し,疼痛患者数が著しく増加しており,同様に国民総生産にも大いに影響する重要な問題になりつつある。そのためにも,痛みのメカニズムの解明や治療法の選択などの研究が急務とされている。

総説

視神経脊髄炎(NMO)とアクアポリン4抗体

著者: 三須建郎 ,   藤原一男 ,   糸山泰人

ページ範囲:P.527 - P.537

はじめに

 視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は,視神経と脊髄を病変の主座とする炎症性疾患であり,多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)の亜型と考えられてきた。Devicによって1894年に重症急性脊髄炎と視神経炎を起こした剖検例が初めて報告され,その弟子Gaultによってそれまでの類似症例がまとめられたことに端を発する1,2)。本邦では,Devic病は単相性に両側視神経炎と脊髄炎をきたす症例と捉え,再発例は視神経脊髄型多発性硬化症(optic spinal MS: OSMS)と呼んできた歴史的背景があるが,その臨床的特異性から両者は長い間古典的MSとの相違が議論されてきた。2004年,Mayo Clinicと東北大学との共同研究によって,欧米人NMOと日本人OSMSの血清中に中枢神経系の軟膜や血管周囲に特異的に反応するNMO-IgGが見出され,2005年にその対応抗原がアストロサイトの足突起に高密度に発現するアクアポリン4(AQP4)であることが報告された。われわれは2006年から2007年にかけて,世界に先駆けてNMOとAQP4抗体に関連する一連の研究を報告した。NMOの剖検脊髄病変における免疫組織学的検討では,本来AQP4の豊富な脊髄灰白質や白質の血管周囲においてAQP4は欠落し,同部位でグリア線維性酸性蛋白(glial fibrillary acidic protein: GFAP)も低下しておりアストロサイト障害が関連すること,またAQP4・GFAPの欠落とは対比的にミエリンは比較的保存されることを初めて報告し,NMO病変はMSの脱髄病変とは異なった病態を有することを明らかにした。当科で行ったAQP4抗体の検討では,AQP4抗体はNMOと診断された患者の91%,再発性視神経炎や横断性脊髄炎を呈したハイリスク群症例の85%で陽性であり,MSや対照群では0%であり,非常に強い疾患特異性を有している。今後は,疾患特異的なマーカーとして必須の検査となるだけでなく,AQP4やアストロサイトの障害から神経系の障害に導かれる病態機序の解明が期待されている。本稿では,その長く混沌としたNMOの研究史からAQP4抗体の発見に至った最新知見までに焦点を当ててみたい。

特別寄稿 Zurich大学脳神経外科学教室主任教授(1993年~2007年)定年退官に当たって

脳神経外科手術の最近の変貌およびその周辺のvon Monakow教授らに源を発するZurich大学―Zurich工科大学ETHのNeuroscience研究の推移について

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.538 - P.546

はじめに

私儀

 2007年5月31日(木)をもってZurich大学医学部脳神経外科学主任教授を定年退官した。その日はそれまでの毎日とほとんど変わらぬプログラムに終始した。すなわち,私の在任期間を象徴する2つの手術,難治性内側頭葉てんかんmesial temporal lobe epilepsy(MTLE)に対するselective amygdalohippocampectomy(SAHE)と破裂脳動脈瘤のclippingを終えた。その後,病棟回診,さよならの立食パーティー(Apero)で大学病院での活動に終止符を打った。その前後に“Wie hat sich die Neurochirurgische Universitatsklinik Zurich traditionsbewusst gewandelt? Neurologia medicochirurgia Turicencis ―Status praesens―”のタイトルのもとにZurich大学で“さよなら講演”を行ったこと,同じ題で日本でも京都国際会館でかつて一緒に働いた人々にそれぞれ活躍の分野について報告するコンパクトなシンポジウム(Fig.1)を行った。これらの詳細は京都大学脳神経外科同門会報42(2007年)に収載してもらった。

 これを機会に厚生省特定疾患ウィリス動脈輪閉塞症調査研究班(班長,1988-1992),日本脳卒中学会(理事,1992),循環器病委託研究費班(班長,1988-1992)などさまざまなかたちでお世話になった日本の(脳神経外科のみでなく)神経科学に携わる先生方に一区切りつけたことの,ないしはお別れのメッセージを届けたい旨を本誌の編集委員の皆さまに伺ったところ,上記のTopicsでとの示唆を頂き快諾を得た。

原著

酸素吸入光トポグラフィーによる脳虚血診断法の開発

著者: 海老原彰 ,   田中裕一 ,   渡辺英寿 ,   小幡亜希子 ,   市川祝善

ページ範囲:P.547 - P.553

はじめに

 現在,脳虚血患者に対する脳血流の評価は,SPECTや脳血管撮影などの方法で行われている。しかしこれらの従来の検査方法は,解決すべきさまざまな問題点がある。すなわち,①検査時間が長い,②検査中に患者の拘束度が高い,③リアルタイムに測定できない,④患者を病室から検査室まで移動させなければならず重症患者では検査し難い,⑤緊急時に即座に対応できない,⑥設備が大掛かりで高額である,といった点が考えられる。

 近年臨床的に使用されるようになった光トポグラフィーは,その特徴として,①簡便であること,②被験者に対して無侵襲,非拘束的であること,③リアルタイムにかつ持続的に測定可能であること,④可搬性でありベッドサイドでも測定可能であること,⑤速やかに検査が可能であること,などが挙げられる1,2)

 われわれは,光トポグラフィーのこれらの特徴を利用して,脳虚血患者の脳血流状態をリアルタイムに,場所を選ばず,無侵襲で測定解析することができれば従来の検査方法の欠点を補い,脳虚血の診断や治療のうえで迅速かつ的確な対応ができると考え,光トポグラフィーによる脳虚血の評価方法を開発,検討した。

症例報告

軽微な頭部外傷で発症した動眼神経単独障害の1例

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛

ページ範囲:P.555 - P.558

はじめに

 頭部外傷患者で動眼神経単独障害を呈する症例は比較的稀であり,また報告例の多くは,意識障害があり,頭蓋底骨折や外傷性くも膜下出血などの頭蓋内合併損傷を併発していることが多い。今回われわれは,軽微な頭部外傷を契機に意識障害や頭蓋内合併損傷を認めず,片側性動眼神経単独障害を呈した稀な症例を経験したので報告する。

Creutzfeldt-Jakob病と類似の臨床経過を示した,Basedow病を伴った橋本脳症の1例

著者: 櫻井岳郎 ,   田中優司 ,   香村彰宏 ,   林祐一 ,   木村暁夫 ,   保住功 ,   米田誠 ,   犬塚貴

ページ範囲:P.559 - P.565

はじめに

 橋本脳症は甲状腺自己抗体と臨床症状が相関する,自己免疫性の脳症と考えられている。意識障害,ミオクローヌスなど多彩な神経症状を示し,時に脳波でperiodic synchronous discharge(PSD)様の突発異常波を伴うことからCreutzfeldt-Jakob病(CJD)と鑑別を要することがある。橋本脳症では,CJDと異なりステロイド治療などが有効であるため,その鑑別は非常に重要である。近年,橋本脳症では血清抗N末端α-enolase(NAE)抗体が高率に陽性であることから,その診断に有用と報告されている1,2)

 また橋本脳症は基礎疾患として一般に橋本病を伴うが,時にBasedow病を伴う報告もある3-5)。われわれは臨床症候と脳波所見がCJDに類似し,Basedow病を伴った橋本脳症の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

第6頸椎側塊骨折後の外傷性椎骨動脈解離による若年性小脳梗塞

著者: 吉田武史 ,   陣内重郎 ,   豊田一則 ,   長谷川英一 ,   藤本茂 ,   岡田靖

ページ範囲:P.567 - P.570

はじめに

 椎骨動脈解離は,若年性脳梗塞の重要な一因である1)。一般に,頸椎の可動性が高い第1~第2頸椎(C1~C2)レベルで解離が起こりやすいが2),外傷時には下位頸椎骨折によって同部位の椎骨動脈が損傷され,解離に至る可能性がある3)。われわれは,第6頸椎(C6)側塊骨折によって頭蓋外椎骨動脈解離を生じ,小脳梗塞に至った若年男性例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

肺炎球菌感染により後咽頭膿瘍から頸椎化膿性脊椎炎,髄膜脳炎に進展した糖尿病の1例

著者: 中村新 ,   小鷹昌明 ,   平田幸一

ページ範囲:P.571 - P.574

はじめに

 化膿性脊椎炎の起炎菌は,従来黄色ブドウ球菌の頻度が高く,先行感染としては尿路感染が多く,次いで肺炎,皮下膿瘍,胆囊炎,心内膜炎がみられる1)。しかしながら,最近では,高齢化や糖尿病などの生活習慣病の増加,薬剤耐性菌の出現により病態が変化しつつある。成人の市中肺炎で最も分離頻度の高い肺炎球菌は,浸潤性感染としても重要な起炎菌の1つであり,細菌性髄膜炎を引き起こす2)。肺炎球菌による後咽頭膿瘍が,頸椎化膿性脊椎炎へと進展し,髄膜脳炎を合併したと考えられる糖尿病患者を経験したので報告する。

Neurological CPC・134

悪性リンパ腫を合併した全身性エリテマトーデス(SLE)の85歳男性例

著者: 小林禅 ,   藤ヶ崎浩人 ,   土谷邦秋 ,   藤ヶ崎純子 ,   井上聖啓 ,   横地正之 ,   河村満 ,   高木誠 ,   織茂智之

ページ範囲:P.575 - P.584

 司会 1題目は,武蔵野赤十字病院の症例です。では,小林先生,よろしくお願いします。


症例呈示

 小林 今回,われわれは脳幹,脊髄に病変を認め,当初全身性エリテマトーデス(SLE)と診断したものの,後に悪性リンパ腫が判明した85歳男性例を経験いたしましたので,報告いたします。

連載 神経学を作った100冊(17)

フィリップ・ピネル 臨床医学(1802)

著者: 作田学

ページ範囲:P.586 - P.587

 フィリップ・ピネルは1745年4月20日に南フランスのカストル近郊のサン・タンドレーで生まれた1)。トゥールーズおよびモンペリエで医学を学び,1778年パリに出て10年間,学究生活を続けた。この当時,米国の独立戦争が終わったばかりで,フランスではその興奮冷めやらぬ頃であった。ピネルは駐フランス全権公使のベンジャミン・フランクリンと出会い,米国への移住をすんでのところで決断するところだった。

 1783年にピネルは1人の観察事例を報告した。それは彼の友人で,マニーの病状で痛ましい結末を迎えていた。ピネルはこの友人を毎日診察したという。これを機に,彼の興味は外科から精神科へと転向する。

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あとがき フリーアクセス

著者: 梶龍兒

ページ範囲:P.590 - P.590

 痛みを主訴とする患者は全診療科を合わせてみても最も多い。筆者も一昨日から歯痛があり,歯科を受診すると,歯槽膿漏の始まりと診断されがっかりした。しかしこの痛みがなければ,さらに手遅れになっていたという。

 痛みは生体にとって危険信号を発する重要な感覚である。しかし,片頭痛など慢性疼痛に代表されるような難治性で,しかもQOL(クオリティーオブライフ)を著しく低下させる病態も多い。しかし,これらの患者さんの訴えは,しばしば「心因性」の要素を帯びていることもあり,筆者も含めて,臨床の場では敬遠しがちであるように思える。痛みの治療といえば,すぐに消炎鎮痛剤を思い浮かべるが,実際痛みの治療は,それだけでは完結しない場合が多くみられる。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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