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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩60巻8号

2008年08月発行

雑誌目次

特集 脳硬膜動静脈瘻

脳硬膜動静脈瘻の疫学・成因

著者: 里見淳一郎 ,   佐藤浩一

ページ範囲:P.883 - P.886

はじめに

 硬膜動静脈瘻は,硬膜に発生する異常な動静脈短絡を病態とする疾患である。多くは硬膜を栄養する動脈が流入血管となるが,稀に脳軟膜動脈が関与する例もみられる。短絡部位の多くは海綿静脈洞,横-S状静脈洞などの硬膜静脈洞に関与するが,前頭蓋底,小脳テント部,大脳円蓋部など,硬膜静脈洞から離れた部位で発生することもある。流出静脈経路は順行性のパターン,脳皮質静脈へ逆流するパターン,もしくはそれらが混在する場合があり,症状および重症度に関与することが多い。成人に発生する場合,ほとんどが後天性疾患であると認識されているが,その成因は不明な点も多い。本稿では,硬膜動静脈瘻の疫学,成因および自然歴に関し,これまでの諸家の報告,ならびに自験例から得られた知見を報告する。

脳硬膜動静脈瘻の分類と診断

著者: 桑山直也

ページ範囲:P.887 - P.895

Ⅰ.硬膜動静脈瘻の分類

 頭蓋内硬膜動静脈瘻は次のような部位に発生する;海綿静脈洞,横-S状静脈洞,上矢状静脈洞,静脈洞交会,前頭蓋底,下錐体静脈洞,上錐体静脈洞(またはテント外側型),直静脈洞(またはテント正中型),テント,頭蓋頸椎移行部,脳表静脈(頭蓋円蓋部や小脳表面),脳底静脈叢,蝶形頭頂静脈洞,辺縁静脈洞,anterior condylar confluence。

 本疾患には発生部位による分けかた以外に,以下のようにさまざまな分類法が提唱されている。中でも静脈還流形態による分類法(Cognard,Borden,Lalwani分類)は症候学,治療適応,治療方法に直接結びつくものであり,血行動態を理解し,治療法を選択するうえで最も重要な分類法といえる。いずれも「静脈洞閉塞の有無」,「シャントの還流方向が順行性か逆行性か」,「正常脳静脈還流が障害されているか否か」が要点である。

脳硬膜動静脈瘻の外科治療

著者: 川口正一郎 ,   榊寿右

ページ範囲:P.897 - P.906

はじめに

 脳硬膜動静脈瘻は硬膜動脈と静脈洞との動静脈瘻で,組織学的には静脈洞壁内における硬膜動脈と硬膜静脈の短絡である1,2)。頭蓋内血管奇形の10~15%を占め,現在では硬膜に生理的に存在する動静脈吻合が外傷や炎症,静脈洞閉塞,頭蓋内圧亢進などの後天的要素により拡張し,発生するとの考えが主流である1)。静脈還流路の狭窄や閉塞を伴うので,圧が高く速い動脈から短絡した血流が緩徐な流れの静脈洞へ流入し,脳皮質静脈を逆流するので脳の静脈還流障害をきたし,さまざまな症状を惹起する(Fig.1A,B)。致死的な出血,めまいや頭痛,虚血発作などのさまざまな臨床症状や,MRAなどの画像診断で偶然発見される無症候性のものまで,症状は多彩である。治療は,外科的治療,血管内治療(経静脈的塞栓術,経動脈的塞栓術),定位放射線治療の単独もしくは組み合わせで行われる。最近の血管内治療の技術的進歩や定位放射線治療の臨床応用により,外科的治療が必要な症例は減少しているが,部位や血行動態に応じて外科的治療が適する症例がある。本報告では,頭蓋内硬膜動静脈瘻(海綿静脈洞部を除く)の外科的治療の適応,手技について概説する。

脳硬膜動静脈瘻の血管内治療

著者: 宮地茂

ページ範囲:P.907 - P.914

はじめに

 頭蓋内の硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula: DAVF)は硬膜内または静脈洞壁に異常な動静脈シャントの存在する後天性疾患で,静脈洞壁に発生するものはほとんどの場合,罹患静脈洞の進行性閉塞性変化を伴う。Dural arteriovenous shuntとも呼ばれる。部位としては①海綿静脈洞部,②横-S状静脈洞部,③上矢状静脈洞部,④anterior condylor confluence,⑤テント部,⑥頭蓋頸椎移行部,⑦前頭蓋底部(篩板部),⑧中頭蓋窩,円蓋部などに発生する。これらは静脈洞の関与,drainage route,発生などによりさまざまな分類がされている(Table1~3)1-3)。これらのタイプによりアプローチや治療戦略が異なる。治療として静脈洞が関与する①②は,静脈洞から独立したシャント部位〔dural vein: (parasinus)〕が同定されれば経静脈的塞栓術が根治的である。静脈洞閉塞が不可能な場合には経動脈的塞栓術を行う。液体塞栓物質を用いた根治的経動脈的塞栓術が有用な場合もあるが,不可能な場合には観血的シャント部閉塞を行う。アプローチが不可能な場合または遺残シャントについては,radiosurgeryが適用される。また閉塞・狭窄した静脈洞を拡張させる(sinoplasty)ことにより,順行性の導出路を確保できる場合もある。本稿ではDAVFに対する脳血管内治療の適用と方法について,各部位ごとに詳説する。

頭蓋内DAVFのガンマナイフ治療―その適応と限界について

著者: 木田義久

ページ範囲:P.915 - P.921

はじめに

 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:DAVF)は,脳硬膜あるいは静脈洞にfistulaの主座を有する血管奇形である。しばしば出血,静脈圧の上昇により激しい神経症状を呈することが知られている。手術的摘出のほか,経動脈性,あるいは経静脈性の塞栓術が行われてきた。類似疾患である脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)に対するガンマナイフ治療は,本疾患の主要な治療法として確立されたことから,DAVFに対してもその治療効果が期待されている。今回の報告では,各種のDAVFの治療におけるradiosurgery,特にガンマナイフ治療の効果について報告するとともに,その役割について検討した。

総説

パーキン蛋白とミトコンドリア

著者: 三ツ井貴夫 ,   黒田由紀子 ,   梶龍兒

ページ範囲:P.923 - P.929

はじめに

 パーキンソン病は代表的な神経変性疾患の1つであり,その頻度は60歳以上の1%,85歳以上の5%にのぼるともいわれている1,2)。本疾患は,病理学的には黒質緻密層のドーパミンニューロンの変性とLewy小体の形成を特徴としている。病因は不明であるが,電子伝達系複合体Ⅰの阻害剤である1-methyl-4-phenyl-1,2,3,4-trahydropyridine(MPTP)やロテノン3)の投与でパーキンソン病と同様の病像が形成されることから,ミトコンドリアの機能障害がその病態に密接に関連していると考えられている。近年,家族性パーキンソン病(PARK)の原因遺伝子が次々に同定され,その解析から孤発性パーキンソン病の病態解明の手がかりを得ようとする試みが,精力的に行われている。現在,家族性パーキンソン病の病態はミトコンドリア障害に関連したもの,ユビキチン・プロテオソームの障害に関連したもの,および両者が関連したものに大別することができる(Fig.1)。

 パーキンは常染色体劣性若年性パーキンソン病(ARJP)の原因遺伝子として1998年に発見され4),現在は家族性パーキンソン病(PARK)2として分類されている。PARK 2は最も高頻度(10~20%)に認められる家族性パーキンソン病で,ARJPの50%以上がパーキン遺伝子の異常に起因すると考えられている2,5)。パーキン遺伝子の転写産物は,これまでユビキチン・プロテオソーム系に関連した機能を有すると考えられてきた。しかしながら,最近ではパーキン蛋白がミトコンドリアに関連した機能も有することが相次いで報告されてきたことから,本総説ではこの点に焦点をあて,われわれの成績を含めて概説する。

アルツハイマー病に対する新ワクチン療法―現状とわれわれの試み

著者: 大倉良夫 ,   松本陽

ページ範囲:P.931 - P.940

はじめに

 アルツハイマー病は今から100年前,ドイツの精神医学者Alois Alzheimerにより最初に報告された神経疾患である。認知障害(記憶障害,見当識障害,学習の障害,注意の障害,空間認知機能,問題解決能力の障害など)を主症状として中年期以降に多発し,世界中で1,200万人を超える患者が存在すると考えられている1)。発症後数年の経過を経て徐々に症状は進行し,重度になると摂食や着替え,意思疎通なども不可能となり,数年から十数年で寝たきりになり死に至る。経過中に被害妄想,幻覚や暴言・暴力・徘徊・不潔行為などの問題行動が出現することが多く,患者本人ばかりか家族や介護者を含めて大きな社会問題となっている。

覚醒下手術の脳神経外科および脳神経科学における役割

著者: 篠浦伸禎 ,   山田良治 ,   田部井勇助 ,   齊藤邦昭 ,   鈴木雄一 ,   吉田瑞穂 ,   高橋雅道 ,   中村治 ,   高山吉弘 ,   八木一夫

ページ範囲:P.941 - P.947

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科領域の新しい治療法として,覚醒下手術が最近行われるようになった1)。覚醒下手術とは,手術中に患者を覚醒させ,電気刺激で脳表の機能を落として機能局在を確認したり(マッピング),持続的に手足を動かしたり発話してもらうことにより神経症状の悪化がないか確認しながら手術を施行する方法である。神経症状の悪化を術中に確認し,その部位の手術を回避したり,悪化した場合には術中に回復を待って手術を再開することができるため,基本的には,神経症状を悪化させない一番安全な手術法であると考えられる。脳腫瘍摘出術に関しても,神経症状の悪化を最小限に抑えつつ腫瘍の摘出が可能であったという報告も多数なされている1-3)。一方,脳神経科学の分野においても,術前に確認した神経線維の走行と覚醒下手術の術中の神経症状の変化を対照し,神経線維の機能を同定する報告が最近なされるようになった4)。今回,われわれの施設における経験を踏まえ,覚醒下手術が脳神経外科および脳神経科学にどのように寄与しているか,文献的考察を含めて報告する。

症例報告

人格・行動変化にて発症する胚芽腫は鑑別診断に苦慮する場合がある

著者: 稗田宗太郎 ,   福井俊哉

ページ範囲:P.949 - P.953

はじめに

 今回われわれは,慢性肉芽腫性疾患,特に神経サルコイドーシスと脳腫瘍との鑑別が困難であった胚芽腫の1例を経験したので報告する。

再発を繰り返した腕頭動脈原性脳塞栓症の1例―その臨床像と血管エコー診断法

著者: 森真由美 ,   湧川佳幸 ,   矢坂正弘 ,   齊藤正樹 ,   緒方利安 ,   岡田靖

ページ範囲:P.955 - P.961

はじめに

 抗血小板療法や抗凝固療法に抵抗して再発を繰り返す脳塞栓症例を時折経験する。特に塞栓源が不明であり,なおかつ症状の増悪を防ぐことができない場合は治療方法の選択に難渋することも多い。今回われわれは,梗塞巣が特異的な血管領域分布を示し,その診断と経過観察に2MHzのセクタ型プローベによる血管エコー検査が有用であったものの,再発抑制に難渋した腕頭動脈硬化病変からのcalcified emboliによる動脈原性多発脳塞栓症を経験したので文献的考察を加えて報告する。

子かんにおける脳循環動態の経時的変化―症例報告

著者: 渡部憲昭 ,   今田隆一

ページ範囲:P.963 - P.966

はじめに

 子かんは妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし,てんかんや二次性痙攣が否定されるものと定義されている。近年,先進国では発症頻度は減少し,全分娩数の約0.05%程度と比較的稀な病態になりつつある。しかし,妊産婦における脳出血・脳梗塞の約半数は子かんに関連するとされ,今なお重篤な妊娠合併症であることに変わりはない1,2)。画像診断の進歩により,高血圧性脳症などと同様のvasogenic edemaを主体とした病態であるreversible posterior leukoencephalopathy syndrome(RPLS)として理解されているが3),必ずしも可逆的な病態ではなく,解明されていない点も多い。

 今回,当院で経験した子かん症例について,MRI(magnetic resonance imaging),SPECT(single photon emission CT)所見の経時的変化を評価・検討したので文献的考察を加え報告する。

神経画像アトラス

軽症頭痛で診断し得た経口避妊薬による横静脈洞血栓症

著者: 木下良正 ,   原田篤邦 ,   安河内秀興 ,   津留英智 ,   奥寺利男

ページ範囲:P.968 - P.969

〈症 例〉 46歳,女性,喫煙歴なし

 主 訴 6カ月前,子宮内膜症による月経困難症の診断で産婦人科クリニックより経口避妊薬(ノルゲストレル0.5mg,エチニルエストラジオール50μg)を処方され継続していた。2~3カ月前より左後頭部痛を自覚し,市販薬の鎮痛剤を内服しても頭痛が改善しないため当科外来を受診した。

 神経学所見 左後頭部の鈍痛以外には異常所見はなく,同部の発赤や腫脹,叩打痛などの炎症所見は認めなかった。

3D-CT angiographyで認めた右総頸動脈欠損の1例

著者: 新居浩平 ,   鬼塚正成 ,   風川清

ページ範囲:P.970 - P.971

〈症 例〉 71歳,女性

 既往歴 特記すべきことなし

 現病歴 2006年4月,近医にて後頭部痛の精査のために施行された頭部MRAで右内頸動脈狭窄を疑われて当科を紹介され,受診した。

Neurological CPC・136

59歳で発症し,10年間に3回の発熱と頭痛をきたした症例

著者: 太田聡 ,   土谷邦秋 ,   安野みどり ,   横地正之 ,   井上聖啓 ,   横地正之 ,   河村満 ,   高木誠 ,   織茂智之 ,   福田隆浩 ,   藤ヶ崎純子

ページ範囲:P.973 - P.982

 司会 演題にある,このような症例の剖検というのは,非常に稀なのではないでしょうか。その意味でも,大変興味深く思っております。では,さっそく安野先生,症例をご紹介ください。

連載 神経学を作った100冊(20)

ビシャ「記述解剖学」(1801~1803)

著者: 作田学

ページ範囲:P.984 - P.985

 1799年,ビシャはオテル・ディユ(人類病院)の内科医になった。

 1801年に『一般解剖学』全4巻と『記述解剖学』の第1巻を出版している。ますます研究に没頭した彼は,1801年から1802年にかけての冬の間に600体の剖検を行ったと言われている。その後彼は数日間急性疾患を病み,1802年7月22日に亡くなった。彼が着手していた『記述解剖学』の第3,4巻は弟子のMFBビュイッソン,第5巻は弟子のFJルーによって完成された。ルーはビシャの頭をアルコール漬けにして,43年間も自分の手元に置いておいたという1)

書評

「国際頭痛分類―第2版 新訂増補日本語版」―日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会●訳 フリーアクセス

著者: 寺山靖夫

ページ範囲:P.922 - P.922

 第11回国際頭痛学会(International Headache Society: IHS, Rome, Italy, 2003)における国際頭痛分類第2版(ICHD-II)の発表を受け,日本頭痛学会(坂井文彦理事長)では,新国際分類普及委員会(間中信也委員長)を中心として日本語化に取り組んできた。本書は15年ぶりに改訂されたこのICHD-IIの系統的,合理的な分類の翻訳版であると同時に詳細な解説を加えた188頁の大著である。初期の翻訳版は日本頭痛学会誌(31巻1号,2004年)と日本頭痛学会ホームページ(http://www.jhsnet.org)上に掲載され,会員からはさまざまな批評と意見が寄せられた。これらの批評と意見をもとに加筆訂正が加えられ,Blackwell社との版権交渉も完了し「国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版」としてこの度,医学書院から刊行されるに至った。

 原著のICHD-IIにみられた参考文献の誤りと引用形式の不統一に修正が加えられ,初期の翻訳版にみられた訳語と表現の不均一性が修正され,非常に理解しやすいものとなっており,極めて完成度の高い日本語版である。

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あとがき フリーアクセス

著者: 中込忠好

ページ範囲:P.990 - P.990

 先日,日本脳神経財団主催で行われた「脳神経外科専門医教育研修会」でくも膜下出血の講義を行ってきた。まず驚いたのが会場の雰囲気であった。会場は300名に及ぶ受講者の熱気で溢れかえっていた。講義の途中会場を見ながら気がついたのであるが,女性の専門医受験者が非常に多い。そういえば,わが大学でも数年に1人は脳神経外科に入局してくるし,脳神経外科学会の地方会などでも演者としてよく見かけている。中部地方のある大学では,教授になった方もおられる。一昔前は開頭や穿頭手術は力がいることから,女性医師から脳神経外科は敬遠される傾向にあった。しかし,機器の進歩もあり今は問題とはならないようである。

 女性脳神経外科医が活躍できる分野が昔よりは広がったことも後押ししているのだろうか。女性でも比較的取り組みやすいカテーテルや内視鏡を用いた治療が一般化している。また,機能的脳神経外科の分野なども女性に向いているかもしれない。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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