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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩61巻10号

2009年10月発行

雑誌目次

特集 片頭痛の予防療法

片頭痛の予防療法のオーバービュー

著者: 清水俊彦

ページ範囲:P.1107 - P.1115

はじめに

 2000年に片頭痛の頓挫薬として,片頭痛の病態生理に基づき開発されたトリプタン製剤が本邦で上市されて以来,片頭痛治療における選択肢は頓挫薬による急性期治療が前面に置かれるようになった(Table)。しかしながら片頭痛の発生機序をさらに深く追求していくと,治療における,生活指導や投薬加療を含めた予防的加療の重要性が浮き彫りにされてくる。本項では,このような現状を踏まえて,片頭痛の予防療法の重要性と投薬加療法について述べていくこととする。

抗てんかん薬による片頭痛の予防療法

著者: 濱田潤一

ページ範囲:P.1117 - P.1124

はじめに

 片頭痛は,日常臨床で遭遇することの多い疾患の1つであり,かつては致命的でないこともあり単なる持病として見過ごされることも多かった。しかし近年,片頭痛発作時(急性期)の治療薬として,トリプタン系薬剤(スマトリプタン,ゾルミトリプタン,エレトリプタン,リザトリプタン,ナラトリプタン)が使用されるようになり,片頭痛の治療は大きく変貌を遂げた。これらにより片頭痛患者の日常生活の活動性は著明に改善した。しかし,これらの薬剤が有効であっても高頻度に発作が出現する時には,鎮痛剤やトリプタン系薬剤の頻繁な使用により,さらに治療が困難である薬物乱用頭痛へと頭痛の内容が変容するなど,新たな臨床的な問題を起こす。このような事態とならぬように,予防薬として,発作とは別に連日服用する薬剤の使用が検討される。このようなときに使用される予防薬として,プロプラノロールなどのβ遮断剤,三環系抗うつ剤のアミトリプチリン,抗てんかん薬のバルプロ酸が既に知られている。最近,他の抗てんかん薬でも予防療法で有効性があるものがあることが知られつつある。本稿では,片頭痛予防効果のある(可能性のある)新しい抗てんかん薬につき,その臨床成績および作用機序,特に片頭痛の病態生理との関連について概説する。なお現在のところ,いずれの薬剤も「片頭痛」の病名では保険適応となっていないことも付記しておく。

ベータ遮断薬による片頭痛の予防療法

著者: 清水利彦

ページ範囲:P.1125 - P.1130

はじめに

 片頭痛発作予防にはいくつかの薬剤が使用されている。2006年に日本頭痛学会で編集された『慢性頭痛の診療ガイドライン』には,ベータ遮断薬の1つであるpropranololについて以下のように記載されている。「ベータ遮断薬(propranolol)は片頭痛発作予防効果があり,30mg/日程度から開始して,30~60mg/日の用量がQOLを阻害する片頭痛発作がある患者の第一選択薬の1つとして勧められる。ベータ遮断薬は高血圧や冠動脈疾患合併例にも使用でき,かつこれらの合併症もともに治療できるという利点も有している」と記載され,推奨のグレードとしてAにランクされている1)

 ベータ遮断薬は狭心症や不整脈の薬剤として開発されたが,その後,高血圧に有効であることが使用により明らかになった。片頭痛への有効性についても,propranololを内服していた狭心症患者の片頭痛が改善したことから知られるようになった2)

 その後,ベータ遮断薬の片頭痛発作予防効果についての比較試験が行われた結果,propranolol,nadolol,metoprolol,atenolol,timololおよびbisoprololなどベータ遮断薬が片頭痛発作予防に対し有効性を示すことが明らかにされた3)。本稿ではベータ遮断薬およびその片頭痛発作予防効果について述べることにする。

抗うつ薬による片頭痛の予防療法

著者: 永田栄一郎

ページ範囲:P.1131 - P.1134

はじめに

 慢性頭痛の代表的疾患である片頭痛は日常生活に支障をきたす頭痛であるが,近年,トリプタン製剤が発売されてから急性期治療が画期的に進歩した。しかし,発作回数が多い場合などには,トリプタン製剤のみでは頭痛発作ごとに内服しなければならないことや,タイミングを誤ると効果が低下することがあり,かなりの苦痛を強いられる。そこで,発作回数,痛みの程度を軽減することを目的に予防薬が用いられている。しかし,現在までに片頭痛発作予防に対していくつかのエビデンスを示す薬剤はあるが,片頭痛発作予防に特異的で,著効する予防薬はない。したがって,抗うつ薬,カルシウム拮抗薬や抗てんかん薬などにより片頭痛発作予防を行っているのが現状である。

 本邦においては,2005年3月に日本頭痛学会により『慢性頭痛の診療ガイドライン』が出版された1)。これは,慢性頭痛診療における疑問に対してエビデンスをもとに回答するといった形式で書かれたものであり,片頭痛発作に対する予防療法に関しても詳しく記載されている。片頭痛予防療法の目的は,①発作頻度,重症度と頭痛持続時間を軽減し,②急性期治療の反応を改善させ,③生活機能の向上と,生活への支障の軽減させることにある。具体的には,月に2回以上の生活に支障をきたす程度の頭痛があり,急性期治療薬のみでは,日常生活に支障が出る場合や急性期治療薬が使用できない場合,永続的な神経障害をきたすおそれのある特殊な片頭痛には予防薬を用いる。

 片頭痛の予防薬では,それぞれ有効性に関して科学的なエビデンスがあり,予防薬の選択に際しては,そのエビデンスをもとに有害事象が少ない薬剤を低容量から開始する。一般に,十分な臨床効果が得られるまでに2~3カ月を要する。

 予防薬の中でも抗うつ薬は,比較的一般的に処方される場合が多く,慢性頭痛患者の中には,抑うつ状態を合併することがあるが,抗うつ薬の使用により抑うつ状態の改善のみならず,頭痛も改善する。また,抑うつ状態のない片頭痛患者でも頭痛の軽減に有効であり,その作用機序として,片頭痛病態にセロトニンなどの神経伝達物質が関与していると考えられている1)。本稿では,片頭痛の予防薬として用いられる抗うつ薬に的を絞り,詳述していく。

カルシウム拮抗薬による片頭痛予防療法

著者: 根来清

ページ範囲:P.1135 - P.1141

はじめに

 片頭痛予防薬にはバルプロ酸・トピラマートなどの抗てんかん薬,アミトリプチリンなどの抗うつ薬,プロプラノロールなどのβ遮断薬,ロメリジン,フルナリジンなどのカルシウム拮抗薬などがある1)

 一般に,臨床でカルシウム拮抗薬と称される薬物は,狭心症・高血圧・不整脈などの循環器疾患に使用される電位依存性L型カルシウムチャネルを主として遮断する薬物がほとんどである2)。カルシウム拮抗薬がどのような機序で片頭痛を予防するか,いまだ明らかでない点が多い。

 本稿では片頭痛の病態とカルシウムチャネル,カルシウム拮抗薬の関連について概説し,さらに,ピペラジン系カルシウム拮抗薬であるロメリジン,フルナリジンを中心に,ベンゾチアゼピン系のジルチアゼム,フェニルアルキルアミン系のベラパミルに加え,ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬であるニフェジピン,ニモジピンなどについて解説する(Fig.1)。

メタボリックシンドローム治療による片頭痛の予防

著者: 竹島多賀夫

ページ範囲:P.1143 - P.1153

 片頭痛の予防療法にはさまざまなものがあるが,近年「メタボリックシンドローム(metabolic syndrome,MetS)治療による片頭痛の予防」という視点での研究が行われ始めている。MetS治療によって,片頭痛の予防が可能かどうかについて,明確なエビデンスはないが,魅力的な課題で,今後,注目されると思われる。片頭痛の共存症研究や,共存症に配慮した治療戦略は極めて重要である。頭痛外来の普及,片頭痛診療を軸にしたトータルヘルスケアなどの観点からも片頭痛とMetSの関連は重要なポイントである。

 本稿ではまず,片頭痛,MetSについて現在の理解を簡単にまとめ,次に,MetSが片頭痛の発症リスクあるいは片頭痛の病態変化のリスク要因となるかどうかを検討し,MetS治療による片頭痛の予防治療について考えてみる。

総説

標準治療抵抗性中枢神経系原発悪性リンパ腫に対する薬物療法

著者: 山中龍也

ページ範囲:P.1155 - P.1164

はじめに

 中枢神経系原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は中枢神経系に原発する節外性非ホジキン型リンパ腫で,多くはB細胞リンパ腫である。PCNSLは原発性脳腫瘍の3~5%の発生率であると報告されているが1),その頻度は最近増加している2-4)。その増加は,最近のMRIをはじめとする画像診断技術の進歩などだけでは説明できないと考えられている4)。PCNSLはあらゆる年齢層に発生するが,50~60歳代に好発し,その男女比は1.5と報告されている5)。症状は局所神経脱落症状,精神障害,頭蓋内圧亢進症状が主なものであるが,脳炎や脳卒中様発作あるいは脳神経麻痺などで発症することもある。特徴的な画像所見は単純CTでは等~高吸収値を示すことが多く,均一な増強効果と脳梁,基底核,視床などに及ぶ脳室周囲の病変であり,内部に壊死による低吸収域を含むことが少ないのも他の腫瘍との鑑別に役立つ。拡散強調MRI画像およびMR-spectroscopyでの代謝亢進6),IMP(N-isopropyl-p-[123I]-iodoamphetamine)SPECT画像での取り込み亢進7)なども特徴的な所見として考えられている。腫瘍は多発性で,テント上に発生する場合が多い。PCNSLの多くは脳に原発するが,眼球内あるいは脊髄にも併発することがしばしば経験される。中枢神経系原発であることの証明には他臓器病変の存在が否定されることが必要である。一般的にはsystemic lymphomaの脳実質への転移は稀で,逆にPCNSLの他臓器転移も少ない。ステロイドホルモンは40~85%の症例で一時的な腫瘍退縮を生ずる8)。病理組織学的診断が必要であるが,免疫グロブリン重鎖遺伝子の再構成をDNAレベルで診断することも有用と考えられている9)。多くのPCNSLはREAL分類のび漫性大細胞B細胞リンパ腫の組織型である10)

 大量methotrexate(HD-MTX)療法はPCNSLに対する最も有効な化学療法であると広く認められている。HD-MTX療法あるいはHD-MTXを基本とした多剤併用化学療法と放射線療法の併用で25~51カ月の生存期間が得られると報告されており11-16),HD-MTXを中心とした放射線化学療法が現在ではPCNSLの標準的治療法として広く行われている。しかしながら,晩期の高次脳機能障害によるquality of life(QOL)の低下は大きな問題である17)。一方,高次脳機能は化学療法単独で保存されるため,化学療法で寛解に持ち込めた場合,放射線療法は腫瘍の再発時まで待つべきであるという多くの報告が認められるようになった18-22)

 しかしながら,PCNSLの10~35%の症例ではHD-MTXに対して抵抗性であり,一方初期治療に成功しても35~60%の患者が再発をきたす23,24)。また5年生存者の半数以上が5~13年の間に再発するとされている25)。このため治療不応性ないし再発腫瘍をいかに治療するのかは極めて重要な問題である24)。標準治療抵抗性例の治療は難しい問題を含んでいるが,化学療法に反応し,生存期間の延長が得られる場合があるとされている。Reniら24)はメタアナリシスの結果,①1年以上の遅発再発例では1年以下の早期再発例と比較して,長期の生存期間が期待できる。②再発時無治療では2カ月の生存期間に過ぎないのに対して,再発時治療を加えることにより14カ月の生存期間延長が得られるとしている。現状では,再発時の標準治療が存在するわけではなく,今後の新規抗癌剤,分子標的薬の開発がさらに期待される。本論文では,実地臨床において,初期治療不応・再発例に対してどのような薬物療法が行われているのか文献的に考察する。

症例報告

伝導失語を呈した交叉性失語の1症例

著者: 金井尚子 ,   前島伸一郎 ,   関口恵利 ,   根木宏明 ,   森川栄治

ページ範囲:P.1165 - P.1169

はじめに

 右手利きで右大脳半球損傷によって起こる失語は交叉性失語と呼ばれ,その出現頻度は失語症全体の0.38~1.8%と報告されている1,2)。その言語症状は,左半球損傷による失語の病巣と同様という報告3-6)がある一方で,通常の対応関係を示さない変則タイプの報告7-9)もみられる。変則タイプの中には,Broca失語やWernicke失語など古典分類に当てはまる症状を呈している症例が存在するが,伝導失語の報告は少ない10-14)

 今回われわれは,右側頭後頭頭頂葉の広範な脳梗塞で伝導失語を呈した症例を経験したので報告する。

くも膜下出血を伴わず被殻出血のみで発症した破裂中大脳動脈分岐部動脈瘤の1例

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛 ,   菅原貴志

ページ範囲:P.1171 - P.1175

はじめに

 破裂脳動脈瘤に脳内血腫を伴うことは血腫型くも膜下出血ではしばしば経験されるが,くも膜下出血を伴わず脳内血腫のみで発症した破裂脳動脈瘤の報告は少ない1-18)

 今回われわれは,くも膜下出血を伴わず被殻出血のみで発症した破裂中大脳動脈分岐部動脈瘤の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

Infundibular dilatationから発生した小動脈瘤が出血源であったくも膜下出血の1例

著者: 梨本岳雄 ,   斉藤隆史 ,   倉島昭彦 ,   関泰弘

ページ範囲:P.1177 - P.1181

はじめに

 後交通動脈が起始部において拡張している状態は,一般的にinfundibular dilatation(ID)と呼ばれている。そのIDに動脈瘤が発生してくも膜下出血を発症した報告例もあり1-5),IDの経過観察の重要性が指摘されている。また各種画像診断の進歩に伴い直径2mm以下の小動脈瘤が発見されるようになったが,それらが破裂することは稀であると考えられている。今回,われわれは後交通動脈のIDに大きさが1.5mmの小動脈瘤が認められ,そこが出血源と考えられたくも膜下出血の1例を経験したので,若干の文献的考察も含めて報告する。

このヒトに聞く

神経学史逍遥記

著者: 高垣玄吉郎 ,   高坂新一

ページ範囲:P.1183 - P.1189

 ノーベル賞候補にもあがった生理学者加藤元一氏,そして木々高太郎というペンネームを持つ林 氏という2人の生理学者のもとで,神経伝達物質であるアミノ酸研究を始め,それをライフワークにされてきた高垣氏。本号では,インタビュアーに高垣玄吉郎先生の後輩にあたる国立精神・神経センター神経研究所所長高坂新一氏(本誌編集委員)を迎え,アミノ酸研究を通して日本の神経生理学の歴史の一端を振り返っていただいた。〈2008年11月11日収録〉

学会印象記

今後の五十年へ―第50回日本神経病理学会総会学術研究会,日本神経病理学会50周年記念事業

著者: 小栁清光

ページ範囲:P.1190 - P.1191

 日本神経病理学会は,2009年6月4~6日に香川県高松市サンポートホール高松およびかがわ国際会議場において,第50回総会学術研究会と50周年記念事業とを行った。これらは「神経病理学会の裾野を広げ,神経病理学の更なる発展を図る」ことを願って,これまで神経病理学会活動が比較的希薄であったと思われる四国の高松で開催されたものである。

 神経病理学の種を蒔きたい,との願いの1つとして「技術・教育セミナー:これから神経病理に携わる人のために」を行った。これには四国のみならず全国から140名あまりが参加され,「解剖法と脳の切り出し(発表:橋本智代)」「ブレインバンクの稼働の実情と活用について(村山繁雄ら)」「バーチャルスライド時代の病理(宇於崎宏)」「脳の標準的な染色法と見方(小森隆司)」「脳・脊髄の迅速診断をどう進めるか(平戸純子ら)」「診断のための免疫組織化学(山田光則)」「脳・脊髄の感染症の診断について(新宅雅幸)」「筋・神経生検:実施から診断まで(松原四郎)」「電顕が必要な時―脳腫瘍の診断(廣瀬隆則)」「病理検体を用いた遺伝子解析(田中伸哉)」の10テーマで行った。内容は,神経病理の基本から研究活動にもつながることがらであり,極めて好評であった。経年の開催を求める声も多く,神経病理学的検索を行う施設と人員が増えることが期待される(写真1)。

連載 神経学を作った100冊(34)

ジョン・ブラウン『筋肉学』(1681)

著者: 作田学

ページ範囲:P.1192 - P.1193

 ジョン・ブラウン(John Browne)はイギリスの医師で,1685年に肝硬変について記述したことで知られている(Fig.1)。

 17世紀のイギリスではヨーマン(独立自営農民)やジェントリ(郷紳)が市民階級を形成し,議会に進出していた。ジェームス1世とその息子チャールズ1世は議会を軽視し,ピューリタンを弾圧。議会は王党派と議会派に分かれて内乱状態になった。クロムウェルが王党派を破り国王を処刑し,ピューリタン革命を成し遂げた。その死後,1660年に長老派が王党派と組んで前王の子チャールズ2世を迎え,王政に復古した。1688年に名誉革命(無血革命)が起こって権利章典が制定されるが,その少し前に出版されたのがこの書物である。したがって,本書はチャールズ2世に捧げられている。

書評

「脳脊髄のMRI 第2版」―細矢貴亮,宮坂和男,佐々木真理,百島祐貴●編 フリーアクセス

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.1142 - P.1142

 細矢先生が序文に書かれているように,10年ぶりに山口昂一先生と宮坂和男先生が編集された名著を全面改定されるにはさぞかし大変な労力を要したであろうことは想像に難くない。それくらい本書には豊富な内容がコンパクトに凝縮されており,多くの代表的な画像と,その読影に必要な基礎知識が詰め込まれているが,それらが極めて系統的に整理されており,全体のスタイルが統一されているので,とても読みやすい。

 画像診断技術の進歩は目覚ましく,従来は捉えることができなかった微細な構造まで可視化できるようになったが,読影技術がなければ重要な病変を見逃してしまうことになり,読影技術を培うには読影訓練が必要である。そのための教科書として本書は神経内科,脳神経外科,放射線科の専門医のみならず,これから専門医を目指す諸君,さらには医学生に至るまで幅広い読者に有用性を発揮するであろう。最新の知識がわかりやすく,教育的に述べられており,ビジュアルにも見事な出来栄えに仕上がっている。宮坂先生に加えて,現在わが国において,この分野で最も目覚ましく活躍されている細矢,佐々木,百島の3先生の編集能力には改めて敬意を表する次第である。

「神経文字学―読み書きの神経科学」―岩田 誠,河村 満●編 フリーアクセス

著者: 下條信輔

ページ範囲:P.1154 - P.1154

 この本の帯には「時空を超えたヒトと文字の神秘」とある。惹句にしてもいかにも大げさな,と評者は最初思ったが,本書の中身に触れた今は「まったく同感」としか思わない。ヒトの脳と,文字という文化の間には,実にそれだけの豊かな内容が広がっているのである。

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あとがき フリーアクセス

著者: 作田学

ページ範囲:P.1198 - P.1198

 今月号は片頭痛の予防療法という興味深い特集号になった。本号をご企画いだいた北里大学濱田潤一先生に感謝を申し上げたい。本特集の冒頭では「片頭痛の予防療法のオーバービュー」を東京女子医科大学の清水俊彦先生にご執筆いただいた。必ずしもすべてが対照例を置いておらず,また片頭痛のプラセボ効果も時に40~60%の場合があるので難しい。しかし,今後このいくつかがより正確に評価されるようになるだろう。続いて「抗てんかん薬による片頭痛の予防療法」は本号のご企画者である濱田先生の手による論文である。予防療法が必要になる場合として9条を挙げているが,これらはいずれも納得できるものである。またVPA,TPMなど有効とされているものが,いずれもNaチャネル阻害薬であることが興味深い。PHT,CBZといった日常で広く使われている薬剤はいずれもNaチャネル阻害薬であり,これらの効果も興味がある。慶應義塾大学の清水利彦先生には,古くから使われているβブロッカーについてご執筆いただいた。米国のガイドラインでは特に,プロプラノロールは十分な予防効果があるとされている。東海大学の永田栄一郎先生には抗うつ薬による予防療法についてご執筆いただいた。以前は頭痛というと,鎮痛薬と精神安定薬が日常的に処方されたが,アミトリプチリンのエビデンスがAであるという。しかし,大多数の抗うつ薬は効果がないようである。カルシウム拮抗薬による予防については,山口大学の根来 清先生にご執筆いただいた。たしかにどのようなカルシウム拮抗薬でも服用を始めると自然に片頭痛が起きなくなってしまう。この機序について詳しく述べられている。本特集の最後は鳥取大学の竹島多賀夫先生による「メタボリックシンドローム治療による片頭痛の予防」である。興味のあるテーマだが,動脈硬化症が起こる40~60歳にかけて,徐々に片頭痛が減少していくこととの整合性はどうなのだろうか。今後の検討が待たれるところである。

 総説欄では,久留米大学の山中龍也先生が「標準治療抵抗性中枢神経系原発悪性リンパ腫に対する薬物療法」についてご投稿いただいたが,この治療法ほど近年進歩しているものは少ない。そのいろいろの治療法と成績について詳述されており,今後の臨床に大いに役に立つに違いない。

 このほか,症例報告として,「伝導失語を呈した交差性失語の1症例」,「くも膜下出血を伴わず被殼出血のみで発症した破裂中大脳動脈分岐部動脈瘤の1例」,「Infundibular dilatationから発生した小動脈瘤が出血源であったくも膜下出血の1例」の3本が掲載された。

 このヒトに聞くでは,高垣玄吉郎先生に本誌編集委員の高坂新一がお話を伺った。「神経学史逍遥記」と題して先生の有名なグルタミン酸研究,各国の図書館事情などをお話しいただいた。

 今月号も実に充実した号となっている。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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