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文献詳細

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩61巻2号

2009年02月発行

原著

失行における身体部位の物品化現象(BPO)と接近現象(closing-in)の発生機序について

著者: 近藤正樹12 望月聡3 小早川睦貴2 鶴谷奈津子2 河村満2

所属機関: 1京都府立医科大学神経内科 2昭和大学医学部神経内科 3筑波大学心理学系

ページ範囲:P.196 - P.202

文献概要

はじめに

 失行症例においては,さまざまなタイプの誤反応が出現することが知られている。Rothiらは失行症にみられる誤反応を14種に分類した1)。これらは空間性,内容性,時間性,その他の誤反応に大別できる。この中には,手指を物品に見立て,これを用いて目標とするパントマイムを行う現象として「身体部位の物品化」現象(body part as object;以下BPO現象)が含まれている。BPO現象は,失語症患者におけるパントマイム能力を検討したGoodglassらによって報告され2),その後失行症例にしばしばみられる特徴として知られるようになった。具体的には,伸ばした人差し指で「歯ブラシ」を表現したり,握った拳によって「ハンマー」を表現したりする動作が挙げられる。この現象は健常成人においても時にみられるが,健常成人では「その物品を実際に持って使用しているつもりになってパントマイムをする」ように命ずれば,正しく行うことが可能となる。失行の誤反応としてのBPO現象は,教示をしてもなお出現する場合を指す3)。この現象そのものはよく知られているが,発現機序に関してはHaalandらの研究4)以外にはほとんど考察がなく,不明な点が多い。

 われわれはパントマイム失行を呈した大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration: CBD)疑い例において,失行検査中にBPO現象を認めたほかに,視覚呈示された物品について,それには触れずにパントマイムを行うよう求めると,呈示された物品に右上肢が近づいてしまう「上肢接近現象」を観察した。

 本研究ではBPO現象と上肢接近現象についての検討結果を述べ,これらの生ずるメカニズムについて考察する。

参考文献

1) Rothi LJG, Mack L, Verfaellie M, Brown P, Heilman K: Ideomotor apraxia: error pattern analysis. Aphasiol 2: 381-388, 1988
2) Goodglass H, Kaplan E: Disturbance of gesture and pantomime in aphasia. Brain 86: 703-720, 1963
3) Raymer AM, Maher LM, Foundas AL, Heilman KM, Rothi LJG: The significance of body part as tool errors in limb apraxia. Brain Cogn 34: 287-292, 1997
4) Haaland KY, Flaherty D: The different types of limb apraxia errors made by patients with left vs. right hemisphere damage. Brain Cogn 3: 370-384, 1984
5) Lang AE, Riley DE, Bergeron C: Cortical-basal ganglionic degeneration. In: Neurodegenerative Diseases. Calne DB (ed), WB Saunders, Philadelphia, 1994, pp877-894
6) Mayer-Gross W: Some observations on apraxia. Proc Roy Soc Med XXVIII: 1203-1212, 1935
7) Gainotti G: A quantitative study of the "closing-in" symptom in normal children and in brain-damaged patients. Neuropsychologia 10: 429-436, 1972
8) 中川賀嗣, 田辺敬貴, 柏木あさ子, 池尻義隆: 使用可能な物品を眼前に, 使用のパントマイムが拙劣であった脳出血の一例(会議録/症例報告). 失語症研究16: 53, 1996
9) Ohgami Y, Matsuo K, Uchida N, Nakai T: An fMRI of tool-use gestures: body part as objects and pantomime. Neuroreport 15: 1903-1906, 2004
10) 平山惠造: 前頭葉病変と行為障害. 神経心理学9: 2-12, 1993
11) 森 悦朗, 山鳥 重: 左前頭葉損傷による病的現象; 道具の強迫的使用. 臨床神経22: 329-355, 1982
12) Lhermitte F: ‘Utilization behaviour' and its relation to lesions of the frontal lobes. Brain 106: 237-255, 1983
13) 山口 博, 河村 満, 横地正之, 矢野雄三: 右半球優位障害による緩徐進行性着衣・構成失行: 特に着衣失行についての考察. 臨床神経38: 897-903, 1998
14) Kwon JC, Kang SJ, Lee BH, Chin J, Heilman KM, et al: Manual approach during hand gesture imitation. Arch Neurol 59: 1468-1475, 2002

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1344-8129

印刷版ISSN:1881-6096

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