文献詳細
原著
失行における身体部位の物品化現象(BPO)と接近現象(closing-in)の発生機序について
著者: 近藤正樹12 望月聡3 小早川睦貴2 鶴谷奈津子2 河村満2
所属機関: 1京都府立医科大学神経内科 2昭和大学医学部神経内科 3筑波大学心理学系
ページ範囲:P.196 - P.202
文献概要
失行症例においては,さまざまなタイプの誤反応が出現することが知られている。Rothiらは失行症にみられる誤反応を14種に分類した1)。これらは空間性,内容性,時間性,その他の誤反応に大別できる。この中には,手指を物品に見立て,これを用いて目標とするパントマイムを行う現象として「身体部位の物品化」現象(body part as object;以下BPO現象)が含まれている。BPO現象は,失語症患者におけるパントマイム能力を検討したGoodglassらによって報告され2),その後失行症例にしばしばみられる特徴として知られるようになった。具体的には,伸ばした人差し指で「歯ブラシ」を表現したり,握った拳によって「ハンマー」を表現したりする動作が挙げられる。この現象は健常成人においても時にみられるが,健常成人では「その物品を実際に持って使用しているつもりになってパントマイムをする」ように命ずれば,正しく行うことが可能となる。失行の誤反応としてのBPO現象は,教示をしてもなお出現する場合を指す3)。この現象そのものはよく知られているが,発現機序に関してはHaalandらの研究4)以外にはほとんど考察がなく,不明な点が多い。
われわれはパントマイム失行を呈した大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration: CBD)疑い例において,失行検査中にBPO現象を認めたほかに,視覚呈示された物品について,それには触れずにパントマイムを行うよう求めると,呈示された物品に右上肢が近づいてしまう「上肢接近現象」を観察した。
本研究ではBPO現象と上肢接近現象についての検討結果を述べ,これらの生ずるメカニズムについて考察する。
参考文献
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