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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩61巻3号

2009年03月発行

雑誌目次

特集 Microneurography(微小神経電図法)の臨床応用

Microneurographyの基礎と臨床応用―宇宙医学の応用まで

著者: 間野忠明

ページ範囲:P.227 - P.242

はじめに

 Microneurography(微小神経電図法)はヒトの末梢神経から金属微小電極を用いて神経インパルスをin situの状態で,直接,記録する電気生理学的方法である。本法は現段階ではヒトの遠心性および求心性の末梢神経インパルスを同定して記録することのできる唯一の方法であるため,ヒトの末梢神経機能の解析にさまざまな領域で用いられている1,2)

 ヒトの末梢神経からインパルス活動を直接記録する試みは,1960年にドイツのHenselとBoman3)によって初めて報告された。彼らは被検者の皮膚を切開して神経をある程度露出した状態で,ガラス管微小電極を用いて単一感覚神経線維のインパルスを記録したが,皮膚の切開という侵襲的な方法であったため,その後,用いられていない。その約7年後の1967年にスウェーデンの異なる2つの研究グループ(KnutssonとWiden4)およびHagbarthとVallbo5))が皮膚を切開することなく,経皮的に金属微小電極をヒトの末梢神経に刺入して感覚神経インパルス活動を記録することに成功した。前者はガラスで絶縁・被覆したプラチナ・イリジウム微小電極を,後者はエポキシ樹脂で絶縁・被覆したタングステン微小電極を用いてインパルス活動を記録した。その翌年,HagbarthとVallbo6)はヒトの交感神経活動の初めての記録を報告した。その後,タングステン微小電極を用いたHagbarthとVallboの方法が発展し,現在microneurographyと呼ばれる方法の原法となった。

 Microneurographyの発展を目的として,1988年にわが国でニューログラム研究会が発足した。この研究会はさまざまな領域の研究者を含む学際的集会であり,これまでに21回の研究会が開催され,測定法,研究成果などについての発表とともに,本法実施のためのガイドラインの作成,倫理的問題の検討など活発になされている。研究発表にはロボット工学への応用(満淵邦彦,鈴木隆文,他),人工臓器制御への応用(山家智之,他),血糖制御への応用(中村孝夫,他)など,極めてユニークな目的を持つものも含まれている。第20回ニューログラム研究会は2007年10月8日に,第5回国際自律神経科学会議(ISAN2007)のサテライトシンポジウム“Microneurography as a potent tool of autonomic testing in humans”との共催で京都で開催された。これに先立ち本法のハンズオンセミナーが開かれ,研究会のメンバー(國本雅也,岩瀬 敏,新藤和雅,長谷川 修)が国内外の研究者に新しい測定装置などを用いた記録法の実際を供覧した。

皮膚交感神経活動の臨床応用

著者: 岩瀬敏

ページ範囲:P.243 - P.253

はじめに

 皮膚交感神経活動(skin sympathetic nerve activity:SSNA)は,末梢神経の皮膚交感神経活動から微小神経電図法(microneurography)により記録される神経活動である。ヒトの自律神経機能検査により測定される機能は,これまで末梢効果器の反応をもとに評価されてきた。これに対し,microneurographyは末梢神経における交感神経活動を直接記録できる方法である。Microneurographyとは,ヒトの末梢神経に微小電極を刺入して,神経活動を直接記録する方法である。本法を利用して,大径有髄線維のみならず無髄線維からも神経活動の記録が可能となる。

 最初のヒト末梢神経からの記録は,HenselとBomanによるガラス微小電極による記録である1)。その後,KnutssonとWiden2)がプラチナ-イリジウム電極を,HagbarthとVallbo3)がタングステン微小電極を使用して,健康成人の末梢神経から記録した。

 本検査は,元来,筋・腱,皮膚機械受容器の発射活動を記録することから始まったが,1980年代になり,筋支配の交感神経活動である筋交感神経活動の記録を循環器系の指標の1つとして用いるようになり,アメリカ,ヨーロッパを中心に研究人口の爆発的な増加をみた。一方,皮膚交感神経活動に関しては,スウェーデンの研究者が中心になって推進してきた。特に1980年のBiniらの論文4,5)は,最初に皮膚交感神経活動の詳細を記載したが,このころの『Journal of Physiology』誌は著者の掲載をアルファベット順に行っており,この論文はおそらくWallinが中心になり書かれたと考えられる。日本では,1980年代に間野の研究室において小川,菅屋との協力のもとに筆者らが体温調節との関連で皮膚交感神経活動の研究を進め,2004年,筆者が菅屋の研究室に移籍して日本での研究が発展した。

 臨床的に皮膚交感神経活動の応用を推進したのは,山梨大学の塩澤,新藤のグループで,各種神経疾患において皮膚交感神経活動を測定し,その価値を高めた。また,テキサス大学サウスウェスト医療センター運動環境医学研究所のCrandallのグループは循環調節と体温調節の相互作用についての研究を行っている。

 現在でもスウェーデンのイェーテボリ大学サールグレン病院のWallin, Elamのグループは,皮膚交感神経活動の研究において中心的役割を果たしている。

 本稿においては,皮膚交感神経活動の記録法,性質,筋交感神経活動との違い,同定法について述べ,各種特殊環境下における皮膚交感神経活動の変化を解析し,その異常によって生ずる病態について述べるが,microneurography全体については,Manoらの総説を参照されたい6-9)

Microneurographyの糖尿病性ニューロパチーへの応用

著者: 長谷川修

ページ範囲:P.255 - P.262

はじめに

 Microneurographyは,その名のごとく神経幹内のミクロ次元での神経活動を知るための手法で,特に単一神経線維活動や自律神経活動の記録に用いられている。しかし,電極を神経幹内に直接刺入してその神経活動電位を記録できる(神経幹内神経電図法,microneurographical intrafascicular neurography:MNG)ことから,神経幹全体の活動を記録するために用いると大きな神経活動電位が得られるとともに,神経幹―記録電極間距離の影響を除去できる。これは,神経活動電位振幅値をもとに大径有髄線維密度を評価するうえで大きな利点となる。この特徴を利用して,糖尿病性ニューロパチー評価への応用について述べる。

Microneurographyの神経変性疾患への応用

著者: 新藤和雅

ページ範囲:P.263 - P.269

はじめに

 神経変性疾患の中には,自律神経症状やその機能障害が重要な臨床症候の1つとされている疾患が多く含まれている。しかしながら,これまでの多くの自律神経系に関する臨床研究報告が,それぞれの効果器の反応性を観察するものが多かったために,変動しやすい自律神経系のパラメーターであることも加わって,研究者によって結果が一定せず,いまだ自律神経異常の有無に関するコンセンサスが得られていない変性疾患が少なくない。Microneurography(微小神経電図法,以下MNG)は,経皮的に末梢神経幹から感覚系求心性活動などのさまざまな種類の神経活動を区別して記録する方法である。なかでも交感神経活動は,自発性の遠心性バースト活動として記録可能であり,定量化も容易なことから,正常者における生理学的な知見が数多く蓄積され,MNG研究の中では最も発展してきた分野である1)。筆者はこれまでに,自律神経機能検査の1つとして,300例以上の神経疾患でMNGを用いた交感神経活動記録を行ってきた。本稿では,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症,パーキンソン病において,微小神経電図法を用いた交感神経活動を筋交感神経活動(MSNA)と皮膚交感神経活動(SSNA)に分けて,その特徴について概説し,今後の臨床応用の可能性についても言及することとした。なお,記録方法の詳細については,本特集の別項または検査法の成書をご参照いただきたい2)

Microneurographyの循環器疾患への応用

著者: 麻野井英次

ページ範囲:P.270 - P.276

はじめに

 交感神経活動の臨床的評価法には,筋・皮膚交感神経活動,血漿・尿ノルエピネフリン濃度,131-I-MIBG,心拍変動スペクトル解析など種々の方法が用いられている。これらはいずれも規定要因や反映する交感神経活動の機能が異なる。例えば,筋交感神経活動(muscle sympathetic nerve activity:MSNA)は中枢から末梢筋交感神経への直接的刺激状況をみているのに対し,血漿ノルエピネフリンは中枢からの交感神経刺激のみならず,神経終末におけるノルエピネフリンの再取り込みなどのターンオーバーに規定される。また,心拍変動スペクトル解析は自律神経活動だけでなく,神経活動に対する臓器応答性に大きく規定される1)。MSNAは現段階で,人の交感神経神経活動を直接的に観察しうる唯一の方法である。本法は,骨格筋支配の交感神経節後線維の活動を腓骨または脛骨神経に刺入したタングステン微小電極により記録するものである。この交感神経は骨格筋内の血管平滑筋を支配する血管運動神経からなり,血圧上昇により抑制され血圧下降により亢進する。これは動脈圧受容器を介する反射性交感神経調節によるものであるが,これ以外にも心肺圧受容器,化学受容器,骨格筋の代謝受容器などにより制御される。したがって,MSNAは末梢血管抵抗を規定する交感神経活動の強さだけでなく,循環を制御している反射調節系の働きに関する重要な情報を提供する。本稿では,交感神経活動の亢進が著しい心不全を中心に,循環器疾患へのMSNAの応用を提示する。

Microneurographyの今後の応用

著者: 國本雅也

ページ範囲:P.277 - P.284

Ⅰ.従来のMicroneurography研究の流れ

 これまでmicroneurography(MNG)は,どちらかというと基礎的かつ生理学的知見を得るための研究手段という色彩が強かった。それはこの手法が開発された経緯が,「動物で取れてヒトで取れないはずはない」というHagbarthの強い意思とともに,何とかヒトからも末梢神経活動を直接観察したいという生理学的興味に由来したものであったことからも伺える1)。その初期において,運動神経やその中に含まれる筋紡錘からの求心性活動,および感覚神経からの求心性活動が記録されていた頃は,特にその傾向が濃かった。しかし自律神経活動が記録されて以来,MNGが臨床症例の病態解析にさかんに用いられたことは,この特集でも既に述べられたとおりである。特に循環器領域における高血圧2)や心不全3,4)の発症機序の検討,代謝関連では肥満5),呼吸器系では睡眠時無呼吸6)の病態解明,神経疾患では変性疾患7-9),脊髄損傷10),ギラン・バレー症候群11),糖尿病性ニューロパチー12),掌蹠多汗症13),全身性無汗症14),かゆみ15)といった分野で,MNGでなければ観察できない現象を明らかにしてきた。しかしこれらはいずれも患者を検査室に運んでMNGを施行したもので,全身状態があまりよくない患者であっても検査室に搬送して検査中体動を抑制しなければならなかった。また針の刺入時には局所の痛みを伴う点や,何よりも末梢神経に電極を刺入する点から侵襲性のある検査として位置付けられてきた。本特集の長谷川らの方法は他のものと違って電極が神経幹に刺入されるとすぐに記録できるので16),その探索に要する時間は短くて済むが,通常は神経幹に電極が刺入された後,そこから目的とする神経束あるいは単一の神経線維まで電極を微調整して移動させなければならず,これが検者には時間と労力を,そして被検者には忍耐を要するポイントである。また探索中皮下では電極の針先が見えない状況で操作を行っているので,神経以外の例えば血管に触れていることもあり得る。それは検査中においては,被検者が神経に触れたときとは違う痛みを訴えたり,検査終了後に電極を抜いた後刺入部位から出血を認めることで従来は確認されていた。以上の流れからすると,今後MNGのさらなる普及には,その機器の可搬性を高めることと,刺入から記録までの時間をいかに短縮し,被検者にとってはいかに安全で迅速に施行できるようになるかが求められていると言える。

総説

TRIAD―第3の細胞死

著者: 岡澤均

ページ範囲:P.285 - P.292

はじめに

 神経変性疾患の病理学的特徴は,異常蛋白質蓄積と細胞死だといわれる。しかし,近年の分子遺伝学的あるいは分子生物学的な病態解析の結果,細胞死が起きる前から,神経細胞機能障害によって神経変性疾患は発症することが明らかになってきた。この事実は一見,変性病態あるいは変性治療における細胞死の重要性を低下させたように感じさせる。しかし,細胞死は,特に神経細胞死はヒトが長い年月をかけて蓄積してきた情報(海馬ニューロンであれば記憶情報,小脳や脊髄運動ニューロンであれば運動情報)を失うことを意味している。これは,その個人の「人生の記憶」を失うことともいえる。したがって,将来仮に神経再生治療が実用化したとしても,細胞死のダメージは計り知れないものがあり,細胞死の臨床的重要性に変わりはない。

 一方,「細胞死以前の発症」は新たな疑問を提示することになった。つまり,「いかなる細胞機能障害が症状につながるのか?」そして「細胞機能障害がどのように細胞死につながるのか?」という疑問である。本稿では,この2つの疑問についての最近の考え方をレヴューした後に,これらの疑問と密接な関連を持つ新しい細胞死TRIAD(transcriptional repression-induced atypical cell death)の紹介を行いたい。また,TRIADとTDP43-FTDあるいは劣性遺伝ジストニア(DYT3)との関連の可能性についても触れたい。

「失行」の新しい捉え方

著者: 小早川睦貴

ページ範囲:P.293 - P.300

はじめに

 失行の機序の解明はいまだ検討の余地を残している。このことは,失行理論の構築のみではなく,臨床現場における症状の理解の妨げにもなっている。本稿では,従来の失行の捉え方との関連から,新しい失行の捉え方について概観する。近年の研究の流れを総括すると,失行は「身体」と「行為対象」との相互作用として考えることができる。

原著

高電撃回避ラット(THAラット)における重積性頭部外傷の検討

著者: 羽賀大輔 ,   清木義勝 ,   本多満 ,   野本淳 ,   羽鳥努 ,   相川浩幸

ページ範囲:P.301 - P.308

はじめに

 近年,頭部への軽微な衝撃が繰り返し加わった結果,脳挫傷や頭蓋内出血などの明らかな病変がないのにもかからず,長期間を経て運動障害や高次機能障害などを起こす病態が注目されている。周知のものとして,ボクシングにおけるpunch drunk syndrome(PDS),dementia pugilistica(DP)が挙げられ1-4),retrospectiveな評価では,17~50%のボクサーに認められるとの報告もある5)。近年ではサッカー選手の反復するヘディングが原因と考えられる,後発性の記憶障害や認知機能障害などの報告も散見される6,7)。しかし同病態が長期間にわたって緩徐に進行するため剖検例や組織検体が少なく,さらには特徴的な症状である高次機能障害の評価が実験動物では困難であることなどの理由から,現在においても十分な基礎的研究がなされていない。

 筆者らは本病態のように,①軽微な頭部外傷の繰り返しにより発生し,②明らかな頭蓋内病変を認めないにもかかわらず,後に高次機能障害や運動障害などの種々の神経症状を呈する頭部外傷を「重積性頭部外傷」と定め,同実験モデルの作製と病態解明を目的として,頭蓋振盪実験後の高電撃回避ラット(THAラット)における高次機能や病理組織の変化から検証を行った。

 なお,本研究にあたっては東邦大学・東海大学動物実験委員会の承認を得ている。

症例報告

小脳性運動失調と拡張型心筋症とを伴うミトコンドリアDNA11778番塩基対変異を有するLeber遺伝性視神経症の1例

著者: 渡邉由佳 ,   小鷹昌明 ,   平田幸一

ページ範囲:P.309 - P.312

はじめに

 Leber遺伝性視神経症(Leber's hereditary optic neuropathy:LHON)は,母系遺伝形式をとる両眼性の急性ないし亜急性視神経症であり,1988年にミトコンドリアDNA(mtDNA)の11778番塩基対の点突然変異が発見されてから,ミトコンドリア脳筋症の1つとして認知されている1)。LHONに心伝導障害2)や心筋,骨格筋,外眼筋に異常病理所見3)を呈することが知られているが,一般的に顕性化することは少ない。その一方で,視神経症に心筋症や不随意運動(振戦,ジストニア,チック,ジストニアを伴うパーキンソニズム),運動失調,末梢神経障害,脊柱後弯,多発性硬化症類似症候などを伴った例が散見され,それらは“LHON-plus”という概念で議論されている4)。視神経症に加えて,小脳性運動失調と拡張型心筋症,末梢神経障害を伴い11778番塩基の点変異を有した,初めての女性LHONを経験したので報告する。

小児頭部外傷後重症痙縮に対しITB(intrathecal baclofen)療法を施行した1例

著者: 松田良介 ,   西村文彦 ,   平林秀裕 ,   本山靖 ,   三島秀明 ,   朴永銖 ,   中瀬裕之 ,   榊寿右

ページ範囲:P.313 - P.315

はじめに

 1985年に重症痙縮に対し,バクロフェンの持続髄腔内投与がPennらにより開始された1)。本邦においても2002年に治験が開始され,その結果を踏まえ2006年より本薬の髄腔内投与が保険医療として認可された。ITB(intrathecal baclofen)療法により治療困難であった痙縮を改善し,QOL(quality of life)の向上が期待できるため,近年注目されている。当初ITB療法の適応とされたのは成人のみであり,小児の認可は見送られていた。その理由として,治験例の中で小児例が少なかったためであるが,その後オーファンドラッグ指定を受けた薬剤であり,海外での実績を考慮され2007年1月より小児にも適応が拡大された。当院でも頭部外傷後重症痙縮に対しITB療法を施行した。欧米では,脳性麻痺を中心に多くの症例報告がなされているが,本邦では2008年3月末時点で成人例を含めた全147例中小児は2例に施行されたのみである。今回われわれは,成人例と比較し,小児ITB療法の問題点につき検討を行ったので報告する。

拡散強調画像が診断および治療効果判定に有用であった感染性硬膜下血腫の1例

著者: 成田恵理子 ,   丸屋淳 ,   西巻啓一 ,   平安名常一 ,   宮内孝治 ,   中畑潤一 ,   北原洋 ,   皆河崇志

ページ範囲:P.319 - P.323

はじめに

 硬膜下膿瘍は急性な経過で予後不良となることが少なくなく,迅速かつ適切な治療が不可欠な神経救急疾患であるが1),近年では拡散強調画像(diffusion-weighted imaging:DWI)での早期診断が可能になってきている2-5)。一方,慢性硬膜下血腫に感染が波及して生じる感染性硬膜下血腫(infected subdural hematoma:ISH)は非常に稀であり6-11),DWIの所見に関する報告についてはわれわれが渉猟し得た限りではいまだ2例しかない9,10)。今回われわれは,脾臓摘出後の患者において尿路感染症に起因するISHの1例を経験したが,その診断および治療効果判定にDWIが非常に有用であったので文献的考察を含め報告する。

Posttraumatic pseudomeningoceleの1例

著者: 永石雅也 ,   鈴木亮太郎 ,   岩楯兼尚 ,   木幡一磨 ,   田中喜展 ,   保谷克巳

ページ範囲:P.324 - P.327

はじめに

 Pseudomeningoceleは頭部外傷後に発症する,非常に稀な合併症の1つである。小児に多く合併し,そのほとんどは無症状で自然消失する1)。しかし,貯留液の増大による神経症状の出現や,長期的に残存すると拡大性頭蓋骨骨折を合併することもあり,この場合には積極的な治療が必要となる。

 今回われわれは,頭部外傷後にpseudomeningoceleを合併し,皮下ドレナージと包帯による外部からの圧迫で,良好な結果を得た症例を経験したので報告する。

学会印象記

第133回米国神経学会総会(2008年9月20日~9月24日)

著者: 久保田暁

ページ範囲:P.316 - P.317

 2008年9月20日から24日にSalt Lake Cityで開催された「第133回米国神経学会総会(American Neurological Association 133rd Annual Meeting)」に参加してきました。初めてのSalt Lake City訪問でしたが,人口約18万人の,規模は小さいけれど整然とした印象を受ける街でした(写真1)。2002年に冬季五輪が開催された経緯もあってか(写真2),路面電車の利便性の高さなど,交通の整備のよさに感心しました。

 学会はGland America Hotelのballroom2カ所にて,それぞれ講演とポスター展示および企業展示(写真3)が行われており,5日間の総計でシンポジウム6つ(30講演)・教育講演4つ・ポスター268題が出展されました。学会は比較的小規模な印象を受けましたが,参加者の熱意は決して低くなく,参加者の間では緊密な意志疎通が図られているようでした。また新たに加入した会員を,歴代の会長が迎える歓迎セレモニーを設けるなど,第133回という回数からもうかがえる,この学会の歴史を感じさせました。

神経画像アトラス

大きな視神経鞘髄膜腫

著者: 有島英孝 ,   磯崎誠 ,   新井良和 ,   半田裕二 ,   久保田紀彦 ,   赤木好男

ページ範囲:P.328 - P.329

〈症 例〉53歳,女性

 既往歴および家族歴 特記すべきことなし

 現病歴 約10年前より徐々に進行する左視力障害を自覚していたが放置していた。5年前から左眼球の突出がゆっくり進行し,1年前ついに左眼が失明となるも病院を受診せずそのまま放置していた。最近になり左眼球の突出が気になり近医を受診し,CT,MRIで左眼窩内に腫瘤を認めたため当院脳神経外科と眼科に紹介となった。

 入院時現象 入院時意識は清明。視力は右0.8(矯正1.2),左は失明(わずかに光を感じる程度)。瞳孔不動はなく左右共に3.5mm,左直接対光反射は弱かったが左間接対光反射は速やかであった。また左眼球は上転障害があるものの,内外転および下転は可能であった。左眼球突出の程度は,Hertel眼球突出計で,右13mm,左20mmであり,体位による変化はなかった。なお血液生化学検査では明らかな異常は認めなかった。

連載 神経学を作った100冊(27)

マーシャル・ホール 「脊髄反射神経系の概要」(1850)

著者: 作田学

ページ範囲:P.330 - P.331

 1836年に“Lectures on the Nervous System”(本連載第8回,59巻8号参照)を出版したマーシャル・ホール(Marshall Hall)は,1850年4月にRoyal College of Physiciansにおいて,Croonian Lecturesを講演した。この講演の概要をまとめたものが1850年に出版された「脊髄反射神経系の概要」であり,この書物はホールの反射研究の集大成となった(Fig.1)1)。この著書の3頁目にdiastaltic movement(脊髄反射運動)と名づけたのは,peristaltic movement(蠕動運動)との対比によるものとしている。このほかにも,精神と脳,反射と脊髄,蠕動と神経節とを対比している(p.29)。彼は本書の中で,diastaltic nervous arc(脊髄反射神経弓),esodic nerve(求心性神経),spinal centre(脊髄中枢),exodic nerve(遠心性神経)などの新語を編み出した。またspinal shockの語を用いたのも彼が最初である。

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あとがき フリーアクセス

著者: 岩田誠

ページ範囲:P.334 - P.334

 もうだいぶ前のことになってしまったが,2007年10月,京都において日本自律神経学会と日本学術会議の共同主催によって第5回国際自律神経科学会議が開催された。日本で開催される自律神経関係の国際学会としては,これが3回目であり,4日間にわたる会期中,内外から約430名の参加者があった。この学術集会の中で極めて人気の高かった企画の1つは,Microneurographyのハンズオン・セミナーであった。本特集の著者である,岩瀬,長谷川,新藤,國本の4氏が,参加者に対し実際のテクニックのデモンストレーションをその場で行って,多くの参加者に深い感銘を与えた。そのハンズオン・セミナーの成功を目の当りにした筆者は,本誌でMicroneurographyの特集を組もうと考え,同セミナーの企画者であった國本雅也氏に編集を依頼した。そういった経緯ででき上がったのが今回の特集である。

 わが国ではMicroneurographyの研究者が比較的多く,特に臨床の場での自律神経研究において,この方法を用いている研究者が少なくない。そして,今日のようにMicroneurographyの研究がわが国に広まり,多くの研究者が輩出するに至った背景として,Microneurography研究の先頭に立ち,「ニューログラム研究会」を牽引してこられた間野忠明先生の多大な貢献を忘れることはできない。実際,わが国におけるMicroneurographyの研究者のほとんどは,間野先生から直接あるいは間接的に教えを受けていると言っても過言ではないだろう。そのような意味において,本研究方法の真の開拓者である間野先生ご自身に,本特集号の目玉とも言うべき冒頭論文をご執筆いただけたことに,編集者の1人として心から満足している次第である。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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