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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩61巻6号

2009年06月発行

雑誌目次

特集 脊椎・脊髄外科の最近の進歩

脊椎変性疾患に対する手術適応とその変遷

著者: 呉屋朝和 ,   森田能弘

ページ範囲:P.627 - P.635

はじめに

 変形性脊椎症は脊椎の退行変性に伴う病態であり,椎間板,椎体および椎間関節の変性を意味しているが,加齢に伴って生じる椎間板や終板軟骨の変性,椎間板腔の狭小,椎間板ヘルニア,すべり,亜脱臼,弯曲異常,椎間関節肥厚,靱帯肥厚,骨化,骨棘形成,などを含んで呼んでいる場合が多い1)。中年以降では多くの人が何らかの脊椎骨の変性を有するが,臨床症状まで呈するものは少ない。しかし,これらの形態変化やそれに伴う圧迫などが進展すると,神経症状を呈する。脊髄を直接圧迫したり,慢性的な圧迫に伴う慢性のくも膜炎を引き起こす。また血管系への圧迫によって虚血性変化が生じ,脊髄の変性や軟化をもたらす。さらに椎間孔内で神経根に圧迫や循環障害を起こしたり,椎骨動脈の循環障害などを招く。肋骨が脊椎の動きを制限している胸椎には少なく,脊椎の可動性が高い頸椎と腰椎にほとんどみられる。

 本稿では脊椎変性疾患の中で頻度の高い変形性頸椎症,変形性腰椎症について,手術適応と変遷について述べてみたい。

頸椎疾患に対する低侵襲手術

著者: 高安正和

ページ範囲:P.637 - P.644

はじめに

 最近の外科手術においては低侵襲手術が最も重要なテーマの1つとなっている。これは良好な手術成績と安全性を確保したうえに,患者への侵襲をできるだけ少なくする手術の考え方である。さて,この低侵襲手術はそもそも小さな皮膚切開・開窓という考えから始まったが,そのほかに術後の痛みの減少,機能の温存,ADL(activities of daily living)制限が少ないこと,早期社会復帰など,さまざまな要素が含まれるようになり,現在,低侵襲手術に関する考え方は患者においても術者においてもまちまちである。筆者らのグループでは,低侵襲手術を実現するためにはそれぞれの患者のニーズに合わせ,いくつかの手技から最適な方法を選択すること(テーラーメイド医療)が重要であると考える。特に頸椎手術の場合は,皮膚切開の大きさよりも,むしろ術後の創部痛や軸索痛,外固定の必要性・期間などがより重要となることが多い。また手術器具として最近は内視鏡手術も広まりつつあるが,安全性と精度に優れる顕微鏡手術が頸椎手術の基本と考える。ここではわれわれの施設における頸椎疾患に対する低侵襲手術の取り組みについて紹介したい。

 頸椎手術は大きく前方到達法と後方到達法に分類されるが,その選択も重要である。基本的には1~2椎間の前方病変には前方到達法が,3椎間以上の病変で発達性脊柱管狭窄を伴う場合や後方病変が主な場合には後方到達法が優先される。前方到達法と後方到達法に分けて,それぞれの低侵襲手術について述べる。

脊髄血管障害治療の最前線

著者: 矢野俊介 ,   飛騨一利

ページ範囲:P.645 - P.654

Ⅰ.脊髄血管障害

 脊髄血管障害は,同じ中枢神経である脳血管障害とは大きく異なる病態を持つ。脳血管障害では動脈硬化に由来する脳梗塞や脳内出血が多くみられるが,脊髄血管障害の原因として動脈硬化は稀である。脊髄血管障害とその主な原因としては大きく分けるとTableのように分類される。外傷や凝固異常はさまざまな病態をとり,出血性疾患の原因となることもあれば虚血の原因ともなる。

 近年,画像診断の進歩に伴って脊髄疾患の診断能は向上し,詳細な病因や病態に関する診断も可能となってきている。この画像診断の進歩に相まって脊髄外科手技の向上も目覚しいものがあるが,今日の社会背景の影響もあり,より精度の高い治療が望まれるのが現状である。脊髄機能を可及的に温存すべく安全性を重視した治療が望まれる一方で,より完全な治療結果が求められる。とりわけ脊髄血管障害の治療にあたっては,1つの誤りが大きな神経症状を呈することも少なくない。複雑な治療戦略が望まれる脊髄動静脈奇形の外科治療を例にとってみても,1本でも誤った血管を処置すると極めて重篤な神経症状を後遺し得る。逆に中途半端な治療に終わるといずれ再発をきたす可能性が高く,再発例の外科治療では微細な責任血管の同定に難渋し,完治はさらに困難を極める。したがって,脊髄動静脈奇形の治療戦略を立てるにあたっては,いかに術前に正確な診断をつけ,術中にも可能な限りの工夫を駆使して根治を目指すかが重要である。

腰部脊柱管狭窄症の最新治療

著者: 金景成 ,   井須豊彦

ページ範囲:P.655 - P.662

はじめに

 腰部脊柱管狭窄症は腰椎や椎間板,黄色靱帯の変性に伴って脊柱管狭窄が起こり,その結果馬尾神経障害が出現した疾患である。本疾患に伴う下肢痛やしびれなどの症状は,患者のADL(activities of daily living)やQOL(quality of life)へ影響を与えるが,症状のみに関していうと,自然経過の中で一方向性に悪化し続けるとは限らず,本疾患に対する治療は薬物治療や運動療法,ブロック療法等の保存療法が主となることに論を俟たない。しかし,症状の軽快が得られず,患者ADLやQOLへ大きな影響を与えている場合は,外科治療により劇的な症状の改善が得られることも稀ではない。近年,脊椎・脊髄外科領域においてもless invasive surgeryが重要なテーマの1つとして挙げられ,腰部脊柱管狭窄症に対する手術においても,手術アプローチ法に対するさまざまな工夫が行われ,その有用性についての報告がみられる1)。本稿においては,腰部脊柱管狭窄症に対する外科治療の適応および筆者らが最近行っている手術方法などについて報告する。

椎体形成術の動向

著者: 川西昌浩

ページ範囲:P.663 - P.668

はじめに

 脊椎椎体骨折は骨粗鬆症が関連する骨折の中で最も発生頻度が高く,高齢者のQOLを低下させる代表的疾患である。これらを改善させる治療として,椎体形成術が近年着目を浴びている1,2)。本稿では,脊椎圧迫骨折に対する椎体形成術の適応と実際,治療成績,問題点を述べる。

特別寄稿 Zürich大学脳神経外科学教室主任教授(1993年~2007年)定年退官に当たって

Zürich大学-Zürich工科大学のNeuroscienceの研究の推移―われわれの近年の業績とともに

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.669 - P.676

はじめに

 前回(60巻5号)は,Zürich大学脳神経外科主任教授退官に当たって,ここ20年近くZürich大学で体験してきた脳神経外科疾患の治療の対象およびその変遷について略述した1)

 今回は,この間に行われた,Zürich大学脳神経外科研究室および並列するHirnforschungsinstitutをはじめとするチューリッヒの各施設の神経科学研究の状況を,その歴史の概略とともに紹介する。

総説

悪性脳腫瘍の放射線治療における高気圧酸素の応用―現状と今後

著者: 別府高明 ,   田中克之 ,   合志清隆

ページ範囲:P.677 - P.681

Ⅰ.はじめに

 高気圧酸素治療(hyperbaric oxygenation:HBO)は2~3気圧下での酸素療法であり,一般には減圧障害,ガス塞栓症,一酸化炭素中毒などで低酸素に陥った組織の酸素化に用いられる。一方で酸素化は細胞傷害を増強させることから,HBOは細菌感染症や癌の治療に応用されている。癌治療への応用では,HBOが放射線治療や化学療法の効果を増強する可能性が示唆されている。放射線治療(radiotherapy:RT)との併用は1950年代から試みられ,頭頸部癌と子宮頸癌ではランダム化比較試験(RCT)にて有効性が確認されている1)。さらに,HBOは放射線治療による腫瘍周囲の放射線障害に対しても用いられている。本稿では,主に悪性脳腫瘍の放射線治療におけるHBOの応用の現状と可能性を紹介する。

原著

パーキンソン病およびアルツハイマー型認知症における無嗅症と認知機能および局所脳血流の関係について

著者: 今村一博 ,   松本慎二郎 ,   馬渕直紀 ,   小林靖 ,   岡安直樹 ,   渡辺賢一

ページ範囲:P.683 - P.690

はじめに

 嗅覚障害はパーキンソン病(Parkinson disease: PD)において軽度のものを含めると7~8割の症例に認められる症候であり,その運動症状の発現前から認められる1,2)。またその嗅覚障害は,特定の症状の程度,全般的な重症度,罹病期間や治療内容,認知機能障害と関連しないことも報告されている3)。さらに病理学的にも嗅球,嗅索および嗅覚野にレビー小体が早期より出現することが報告されており4),このことがPDにおける嗅覚障害の原因になっていると考えられる。一方,び漫性Lewy小体病5)やアルツハイマー型認知症(Alzheimer disease: AD)6,7)の症例も早期から嗅覚障害を呈しており,それが認知障害の重症度と相関することが報告されている。しかし,これらの疾患の嗅覚障害と嗅覚野の局所脳血流との関連について検討した報告は見当たらない。

 近年,個々の症例の脳血流画像を標準脳に変換して,正常データベースと比較することにより,異常部位をより客観的に表示する統計画像解析が行われるようになってきている8,9)。われわれは123I-IMP SPECTに3D-stereotactic surface projection(SSP)を用いることにより脳血流の三次元統計画像解析処理を行っているが,所見を定性画像として表示できる利点がある反面,特定の領域について解析する場合には該当部位の局所データを抽出することは技術的に困難であった。最近になり,三次元統計画像処理にstereotactic extraction estimation(SEE)法10)を併用することで,より客観的な評価が可能であることが報告されている。

 既にわれわれはPDにおける嗅覚脱失(無嗅症)と認知機能障害に密接な関連があることを報告しているが,今回はPDにおける無嗅症と認知機能の関連についてADとの比較の上で検討し,さらに嗅覚野の局所脳血流との関連についても123I-IMP SPECT(SEE法)を用いて検討したので報告する。

症例報告

神経根圧迫症状をきたしたガス含有腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 安岡宏樹 ,   根本理 ,   川口雅久 ,   内藤智子 ,   山元浩治 ,   請川洋

ページ範囲:P.691 - P.694

はじめに

 単純X線像で椎間板内に貯留したガス像を認めるvacuum disc phenomenon(VDP)は,椎間板の変性や椎体の不安定性を示すとされ1),日常診療でしばしば遭遇するが,椎間板ヘルニア内にガスが貯留し神経根の圧迫をきたした症例の報告は少ない。今回われわれは,ガス含有椎間板ヘルニアが神経根を圧迫し,手術によって症状が軽快した1例を経験したので文献的考察も含めて報告する。

遠位筋優位の筋萎縮を呈した成人型ネマリンミオパチーの1例

著者: 丹羽文俊 ,   滋賀健介 ,   木村正志 ,   山口達之 ,   近藤正樹 ,   中川正法

ページ範囲:P.695 - P.699

はじめに

 ネマリンミオパチーは,Gomoriトリクローム変法で赤紫色に染色される桿状構造物(ネマリン小体)を筋線維内に認める先天性ミオパチーである1)。新生児期あるいは乳児期発症のネマリンミオパチーが主として呼吸筋・体幹筋や選択性の乏しい四肢筋萎縮を呈するのに対し,成人期発症のネマリンミオパチーでは近位筋優位の筋萎縮を示すことが多いとされている2)。今回われわれは,遠位筋優位の筋萎縮を認めた20歳発症の成人型ネマリンミオパチーの1例を報告する。また,成人型ネマリンミオパチーにおける障害筋の選択性に着目して,これまでの報告例を検討した。

35年の罹患中に意識障害を伴う脳MRIで再発性病変を呈した神経Behçet病の1例

著者: 福田和浩 ,   石田志門 ,   坂根貞樹 ,   古川恵三 ,   杉野正一

ページ範囲:P.701 - P.705

はじめに

 Behçet病は口腔内粘膜の再発性アフター性潰瘍,皮膚症状,ブドウ膜炎などの眼病変,外陰部潰瘍を主症状とした全身性の難治性炎症性疾患であり,病因はいまだに不明であるが,HLA-B51との関連が指摘されている。神経Behçet病(neuro-Behçet disease:NBD)は初発から一定の期間を経た遷延期に運動失調や構音障害,認知機能低下など多彩な神経症状や精神症状を呈して進行性の経過をとることが知られている1,2)。慢性進行期のNBDはステロイド治療に抵抗性であり3,4),再発発作を繰り返す症例や治療中断後に増悪する症例は予後不良であり1),死亡例も報告5)されている。

 われわれは,35年に及ぶ長期のNBD罹患歴があり,対麻痺,構音障害,認知機能低下などを呈した慢性進行期に嚥下障害の進行からステロイドの内服を中止したところ,約1年後に意識障害を認め,脳MRIにて再発性の脳病変を呈した高齢のNBD症例を経験した。本症例では,慢性進行期における急性増悪の病態に対してステロイド治療がよく反応して臨床症状およびMRI画像にて改善が認められたのでここに報告する。

頭部打撲を契機に増大をきたした頭蓋骨類上皮嚢胞の1症例

著者: 相山仁 ,   宇都宮昭裕 ,   鈴木晋介 ,   平野孝幸 ,   鈴木一郎 ,   仁村太郎 ,   西野晶子 ,   鈴木博義 ,   上之原広司 ,   桜井芳明

ページ範囲:P.707 - P.710

はじめに

 頭蓋骨に発生する類上皮嚢胞は稀な良性腫瘍であるが,頭蓋骨腫瘍の鑑別診断に加えなければならない疾患である2)。本疾患は胎生期遺残産物から発生する腫瘍であり,稀な例として頭部外傷により皮膚組織が頭蓋骨板間層に残り腫瘍化するとされる1,2)

 この報告は,前額部類上皮嚢胞が同部の打撲を契機に増大したと推察された症例である。われわれが渉猟し得た範囲では,同腫瘍の増大機序に外傷が関連したとする報告はない。今回,その増大機序について以下に考察を加えていく。

このヒトに聞く―特別版

iPS細胞の可能性

著者: 岡野栄之 ,   山中伸弥 ,   辻省次

ページ範囲:P.711 - P.718

 人間のさまざまな細胞を作り出すことのできる「iPS細胞」は,倫理的問題や免疫拒絶反応といった難問をクリアするだけでなく,病気の原因の解明や薬剤開発,そして再生医療などへの応用と,ES細胞に代わる万能細胞として大きな注目と期待を集めている。今回は,日本のiPS細胞研究を先導する岡野氏,山中氏にこれまでの歩みとこれからのiPS細胞研究の行方についてお話を伺った。〈2009年2月5日収録〉

学会印象記

9th International Conference for Alzheimer's disease/Parkinson's disease

著者: 藤岡俊樹

ページ範囲:P.720 - P.721

 2009年3月11日から15日まで,チェコ共和国の首都プラハで開かれた,9th International Conference for Alzheimer's disease/Parkinson's disease(AD/PD)に参加しました。

 AD/PDは,神経変性疾患に関した演題であればなんでも発表可能ですが,演題の過半数は痴呆性疾患に関連した演題で,次がパーキンソン病関連疾患に関したものでした。会場のプラハ国際会議場は,旧共産党時代に建てられた文化宮殿と呼ばれていた建物で大変広いものです。口演会場は3会場に分かれそれぞれでトピックは異なりますが,特定のトピックに関する聞き逃しが少なくなるように予定が組んであり好感が持てました。ポスター会場も余裕があり,1,000以上のポスターを2回に分けてそれぞれが2日間の展示期間でしたのでゆっくり見て回ることができ,ランチやコーヒーブレークの間にディスカッションもでき,大変有意義でした。

連載 神経学を作った100冊(30)

ウィリアム・ガワーズ「眼底鏡図譜」(1879)

著者: 作田学

ページ範囲:P.722 - P.723

 最近は眼底鏡の売れ行きが極端に悪いという。眼科医は備え付け型の大きな機械(ボンノスコープ)しか使わず,買うのは神経内科の医師ぐらいだそうである。また私自身,大学では医学部の学生に眼底鏡について1時間教える時間があるが,交替で見せてもついに見られずに終わってしまう学生もいる。見られなかった学生の大多数が,一生眼底鏡を見ることなく終わるのかもしれない。

 見えるはずだと思っていてもなかなか見えない眼底を最初に見たのは,生理学者であり物理学者のヘルマン・ルートヴィヒ・フェルナンド・フォン・ヘルムホルツ (1821-1894)である。彼は1850年にベルリン物理学会で発表し,翌年の1851年に小著“Beschreibung eines Augen-Spiegels zur Untersuchung der Netzhaut im lebenden Auge. (Forstner, Berlin ,1851, 43pp)”(生きた目の網膜を検査するための検眼鏡の記述)を出版した。こののち,眼底鏡は眼科の世界において急速に取り入れられ,神経疾患の領域においてもクリフォード・アルバットの著書“On the Use of the Ophthalmoscope in Diseases of the Nervous System and of the Kidneys”が代表するように,眼底鏡を用いた報告がなされるようになった。そして,各種の神経疾患にみられる眼底所見について総合したのが,ガワーズによってまとめられた本書である(Fig.1)1)。このxii+352ページの書物は以下の3部に分れている。

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あとがき フリーアクセス

著者: 中込忠好

ページ範囲:P.726 - P.726

 「先生,ぼけないためにはどうしたらいいのですか?」60歳を超える頃になると急に記憶力が衰えるせいか,認知症が心配で検査を希望してくる患者さんは多い。以前は高名な先生の受け売りで,「オーケストラの指揮者にぼけている人はいません。頭を使って楽譜を記憶し,体全体を使って指揮しているからです。だから,頭だけでなく,体全体も使って運動してください」と答えていた。しかし,これができる高齢者はまずいない。そこで,最近ではこう答えている。まず,「お芝居や映画をみる,読書をする,音楽を聴く,歌う,友人とおしゃべりをする,おいしいものを食べる,できそうなものから始めてください」と。つまり,頭のトレーニングは,「五感」を1つでもいいから刺激することから始める。体のトレーニンングにはこの一言,「できるだけ外出をしてください。外出の時はなるべくおしゃれをして出かけてください」。以前米国に留学していた折,かの地の高齢者,特に女性が,赤やピンクの洋服を上手に着こなし,積極的に社交の場に出ていたことに驚かされた。その時,日本の高齢者もこうでなくてはいけないと直感した。それ以来,機会があれば高齢の女性におしゃれを勧めている。いつか,池袋あたりでは,おしゃれな服装でショッピングや食事をしている高齢者が普通にみうけられる日が来ることを願って。

 さて,今月号の特集は「脊椎・脊髄外科の最新の進歩」である。脊椎・脊髄外科の分野でも,専門医以外は治療を避ける傾向にあるが,神経を扱う医師としては,最新の知識だけは共通のものとして習得していきたいと読みながら感じた。また,総説では,悪性脳腫瘍の放射線治療における高気圧酸素療法の応用の可能性について興味深く読ませていただいた。Zürich大学脳神経外科主任教授を定年退官された米川泰弘先生には,「Zürich大学―Zürich工科大学のNeuroscienceの研究の推移―われわれの近年の業績とともに」という題で,特別に原稿を寄せていただいた。その中に,前脈絡叢動脈の閉塞の症状(=Monakow症候群)で有名なvon Monakow教授が設立したHirnforschungsinstitutがこれまでスイスの神経科学の基礎研究で中心的な役割を果たしてきたこと,また,近年では分子生物学の発達とともに,研究機関同志の横のつながりが重要となっていることなどが書かれている。米川先生の研究もこの流れの中で,Zürich大学およびSwiss連邦工科大学との研究連携により行われたとのことである。わが国もこのような趨勢と無関係でなく,基礎と臨床の融合,研究機関同志の連携がさまざまなかたちで進行しているようである。最後に,「このヒトに聞く」では,今回,「iPS細胞の可能性」というテーマで,岡野栄之先生,山中伸弥先生に,これまでの研究の道のり,iPS細胞実現のインパクト,学際的なコラボレーションを含めた今後の研究の方向性などについて伺っている。楽な気持ちでご一読を!

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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