icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩62巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

特集 ニューロリハビリテーションの最前線

Brain-machine interfaceの現在,未来

著者: 牛場潤一

ページ範囲:P.101 - P.111

はじめに

 Brain-machine interface(BMI)は,脳と機械を直接相互作用させる技術の総称である。脳は通常,身体を介して外部環境と関わりを持つが,その仲介となる身体を省き,脳と外部環境を直接作用させようという発想がBMIである。こういった考え方によって,完治が困難な身体障害を工学的に克服することが,BMIの目標の1つになっている。

 BMIは語意として,脳とメカトロニクスが連動するシステム全般を指しているため,神経系に対するメカトロニクスの関与のしかたによって,いくつかの種類に分類することができる。すなわち,機械から脳へ情報を送る“感覚入力型BMI”,脳内の情報処理過程に機械が関与する“介在型BMI”,脳から機械へ情報を送る“運動出力型BMI”である。このうち,感覚入力型BMIおよび介在型BMIに属する技術の一部は,既に臨床応用が進んでいる。例えば聴覚障害者の蝸牛に電極を挿入し,マイクロフォンでの集音結果に応じて聴覚神経を電気刺激することで聴覚を再建する人工内耳システム1)は,すでに臨床応用を果たした感覚入力型BMIと言って差し支えないだろう。また,パーキンソン病やジストニアに対しては,不随意運動を低減させる治療として,視床下核や淡蒼球をターゲットとした脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)が行われており2),これは感覚運動系の情報処理過程を機械によって変調する,一種の介在型BMIと言える。

 これに対して運動出力型BMIでは,臨床研究の端緒を開いた技術が近年登場し,急速にその研究規模を拡大させている。本稿では,重度運動障害者の麻痺肢機能を再建する運動出力型BMIについて,要素技術と臨床応用の両面を紹介する。本稿の後半では,運動出力型BMIの新しい潮流である,BMIを利用したニューロリハビリテーションの試みと展望を紹介する。

新しい機能的電気刺激によるニューロリハビリテーション

著者: 原行弘

ページ範囲:P.113 - P.124

はじめに

 脳卒中発症者の80%に上肢片麻痺を認めるとされているにもかかわらず1),発症6カ月後に巧緻機能が回復するのはその1/3にすぎない2)。従来,脳卒中上肢麻痺は発症後3カ月以降には機能がほぼプラトーになると言われ,リハビリテーションアプローチは“残存機能を生かす”つまり非麻痺側の機能を積極的に高めて麻痺肢を代償することによって,日常生活動作を獲得するものとされてきた。一方で,20世紀までは,脳をはじめとする中枢神経は,損傷すると再生しないと言われてきた。

 しかし,この10年間で脳にも神経幹細胞が発見され,脳神経が再生する可能性が示されると共に,ニューロイメージングの発展によって脳神経機構の再構築の存在が明らかにされてきている。また,中枢神経系のニューロイメージングの発展を背景に,損傷後の神経機能回復促進を目的にしたニューロリハビリテーション(以下,ニューロリハ)という概念が提唱されてきた。

 ニューロリハとは,残存した神経システムをトレーニングによって賦活し,部分的に損傷した中枢神経を補完するという基本理念に基づいている。この基本理念に基づいて中枢神経の回復過程における脳の可塑性や神経ネットワークの再構築がニューロイメージング研究で確認されている。神経機構再構築の機序として(1)神経結合の再構成,(2)感覚-運動統合,(3)運動領域の皮質結合などが考えられており,近年のリハビリテーションは,脳の可塑性を促通することに焦点をあててきていると言える。

近赤外光スペクトロスコピーを用いたニューロリハビリテーションの評価

著者: 三原雅史 ,   矢倉一 ,   畠中めぐみ ,   服部憲明 ,   宮井一郎

ページ範囲:P.125 - P.132

はじめに

 近年,機能的脳画像や神経生理学的手法などを用いた研究によって,脳損傷後の機能回復過程においては中枢神経での機能的・構造的な再構成が重要な役割を果たしていることが知られるようになり,これらの知見をリハビリテーション臨床に応用する動きが盛んになってきている。従来の研究における機能的脳画像手法としては,機能的MRI(functional MRI:fMRI),PET,SPECTなどの手法が主に用いられてきたが,いずれの手法も大がかりな専用の施設を必要とし,また基本的には撮影時に被験者の安静臥床が必要であることから,運動に関するタスクとしては上下肢の一部を動かす程度に制限されてしまうという問題があった。

 本稿で紹介する近赤外光スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy:NIRS)は被験者に対する制約が少なく,装置が比較的小型で測定環境に対する自由度が高いことから,リハビリテーション分野における一般臨床場面での応用に適した機能的脳画像手法として注目されてきている。本稿では,NIRSを用いた脳機能測定の概要とリハビリテーション分野への応用例に関して述べる。

リハビリテーション医療におけるロボット訓練

著者: 蜂須賀研二

ページ範囲:P.133 - P.140

はじめに

 厚生労働省の統計によれば,2007年の脳卒中死亡率は人口10万人あたり100.8人で悪性新生物,心疾患に次いで第3位であるが1),入院治療に要する期間は81~123日と長く,心疾患やがんの3倍以上の入院期間を必要とする。さらに入院治療を終了して自宅に退院しても,片麻痺が残存し歩行や日常生活になんらかの支援が必要であることも稀ではない。『平成19年国民生活基礎調査』によれば,介護が必要になった原因の第1位は脳卒中で23.3%であり,介護保険の要介護度1~5の中で27.3%は脳卒中が原因であった2)。脳卒中など中枢神経に傷害を生じて四肢に運動麻痺を生じる疾患は国民の生活に重大な影響を与える。

 脳卒中によって知的障害,言語障害,認知障害,運動麻痺,感覚障害などさまざまな機能障害を生じるが,片麻痺による上下肢の痙性麻痺は最も重要なリハビリテーション(以下,リハ)課題である。片麻痺患者の運動回復は,脳神経内科医あるいは脳神経外科医による専門的な治療が必要であることは言うまでもないが,早期から十分なリハ訓練を実施することが重要である3)。一般に,上肢機能障害は集中的訓練によって改善は得られるものの麻痺が残存することが多く,補助的な使用に限定されるかまたは廃用手となり,日常生活では非麻痺側上肢による機能代償を余儀なくされることも多い。一方,下肢機能障害は訓練によってある程度の改善が得られ,杖や補装具を用いて移動能力を再獲得できることが多い。

 Kwakkelら4)の無作為化比較試験によれば,1日30分1週5日に運動訓練を増加させると上肢では対照群に比較して有意に巧緻性が向上し,下肢では日常生活動作と歩行機能が有意に改善した。この結果は日常臨床の成果を適切に説明しており,早期から専門的で集中的なリハ訓練を実施することの重要性を示唆しているが,麻痺側上下肢の運動障害に対する治療は依然として未解決の重要課題である。

 近年,上肢訓練に対しては課題に特異的で,目的を持った反復訓練である麻痺側上肢強制使用療法(constrained-induced movement therapy)5),ロボット支援訓練6),下肢に対しては体幹を懸垂して部分的に体重を免荷したトレッドミル歩行訓練7,8),ロボット支援歩行訓練9)が報告された。限られた医療費の中で,理学療法士や作業療法士が急性期,回復期,維持期にわたりすべての脳卒中患者に十分量の人対人のリハ訓練を実施するのは非現実的であり,これらの新しい試みが治療効果の向上や訓練期間の短縮ばかりではなく,十分なリハ訓練量確保に役立つと考えられる。そこで本稿では,上肢および下肢のロボット訓練と自験例に関して概要を報告し,リハ訓練領域の新しい展開を期待する。

失語における脳機能画像とニューロリハビリテーション

著者: 安保雅博 ,   角田亘

ページ範囲:P.141 - P.149

はじめに

 現在,positron emission tomography(PET),functional magnetic resonance imaging(fMRI),magnetoencephalography(MEG)に代表される脳機能画像法の発達には目覚ましいものがあり,毎年非常に多くの論文が発表されている。そして,言語機能に関与する神経ネットワークの仕組みも明らかにされつつある。また,失語の回復過程の評価も,健常者と同じ課題を行い比較することで,損傷によって言語ネットワークがどのような変化をしたのか,あるいは失語の回復に関係する脳機能再構築部位の推測など有意義な情報が報告されている。

 失語の回復に関わる脳内の部位的な関わり1)としては,(1)損傷された左半球言語領域の回復,(2)損傷部位周囲の残存領域における機能代償,(3)右半球の対応部位による代償機能,の3つが考えられているが(Fig.1),実際には,それぞれの病態や損傷において,最も効果的な機能が働いていると考えられる。

 しかしながら,エビデンスに乏しいと言われるリハビリテーション医学の中でも,高次脳機能障害のリハビリテーションのエビデンスは,その量も質も特に不良であると言わざるを得ないのが現況である。失語は脳卒中の実に21~38%に認められる2)メジャーな高次脳機能障害であるにもかかわらず,明確な有効性を証明されたと言えるようなリハビリテーションは存在しない。

 その理由3)として,(1)言語は全人格的な機能であること,(2)失語そのものが多様であること,(3)倫理上の問題もあり厳格な対照研究が難しいこと,(4)急性期は回復の通過時期でもあり,自然回復や失語タイプの移行があり本質的問題点がつかみにくいこと,(5)訓練外で言語の無刺激ではないことなどが挙げられる。

 また,失語においてもその程度や回復,治療効果の判断などに適切な評価が重要であることは言うまでもない。疫学的には,失語は発症後2週間~3カ月までの改善が著明であり4,5),その後も改善度は低下するものの1年程度は緩徐に改善6),結果的に失語症状の40%は1年でほぼ完全に戻るとされている7,8)。また,発症時の重症度によって最も改善するタイミングも異なり9),最終的な改善に対する最大の予測因子は発症時の重症度であるため5,6,8,9),初回の評価は特に重要である。Davidら10)は失語訓練の有効性に対する研究において,むしろ訓練よりも患者の適切な環境設定,そのための評価が重要であるとしている。

 脳卒中による上肢麻痺11)では,重度麻痺の場合11週で,軽度麻痺の場合6週で95%プラトーになるのに対して,言語機能の回復はなぜ四肢の麻痺より遅いのか?という疑問がある。これに対する答えとしては,(1)言語は高次脳機能であること,(2)純粋に“脳機能そのもの”の回復であること,(3)真に科学的な治療法の確立と障害に応じた適切なプログラムが未完成であることなどが挙げられる3)。失語における脳機能画像とニューロリハビリテーションを考える場合,上記のことを加味しなければならない。

ニューロリハビリテーションのための新しい定量的運動指令評価システム

著者: 筧慎治 ,   李鍾昊 ,   鏡原康裕

ページ範囲:P.151 - P.163

はじめに

 ニューロリハビリテーションは,神経科学におけるさまざまな成果を理論的な基盤とするリハビリテーションのことであり,現在発展中の概念である。損傷後の脳で進行している(と推定される)神経の再編過程のメカニズムを念頭に,機能回復に有利なメカニズムを増強し,逆に不利なメカニズムは抑制し,リハビリテーション効果の促進を図るものである。

 古典的には,神経細胞は再生せず軸索の伸長さえ限定的であり,中枢神経系の再編能力は極めて限られていると信じられていた。しかし近年,この常識は大きく修正された。反証となる数々の発見が積み重ねられたからである。例えば,霊長類の脳でもリハビリテーションによる機能地図の再構築が起こることが示されている1)。また,海馬歯状回では生涯にわたって神経細胞の新生が続いていることは,実は1960年代に既に発見されていた2)。これらの発見は,中枢神経に未知なる再編能力があることを強く示唆する。

 臨床的にはなんらかの方法でその潜在能力を呼び覚まし,そのいわば覚醒状態を利用して再学習に導くことが未来のニューロリハビリテーションの目標となる。その最新の方法論とその基盤については,既に本号の特集に詳しく述べられているので他稿を参照されたい。

 本稿では,ニューロリハビリテーションの本流から少し引いた位置に立ち,リハビリテーションを行ううえで見過ごされてきた運動機能の評価の問題を取り上げる。その問題に対するわれわれのアプローチと,ニューロリハビリテーションに新しいエビデンスを提供する試みについて紹介する。

原著

脳槽シンチグラフィーにおけるトレーサークリアランスと年齢

著者: 浅利泰広 ,   堀越徹 ,   内田幹人 ,   渡辺新 ,   池川博昭 ,   梅田貴子 ,   荒木力 ,   木内博之

ページ範囲:P.165 - P.171

はじめに

 特発性低髄液圧症(spontaneous intracranial hypotension:SIH)は脳脊髄液圧が低下し,起立性頭痛や嘔気,頸部痛などの症状を呈する疾患である。近年の画像診断の進歩に伴いSIH症例の多くで脊髄硬膜管からの脳脊髄液漏出が認められ,従来考えられていたほど稀ではないことがわかってきている1,2)。特に低侵襲でかつ解像度の高い画像診断法であるMRIの応用によって,び漫性硬膜増強効果,下垂体の腫大および小脳下垂などの所見が診断上重要であることが指摘されている3,4)

 しかしこれらは低髄液圧による間接的な所見であり,直接髄液の漏出を示すものではなくその検出率も低い。そのため脳脊髄液漏出の確定には放射性同位元素脳槽シンチグラフィー(radioisotope cisternography:RIC)やCT脊髄造影による直接的な髄液漏出の証明が必要である5,6)。最近では慢性的な脳脊髄液漏出が外傷後頭痛や慢性連日性頭痛などの原因となっていた症例についても報告されているが,その診断においてもRICの有用性が指摘されている7,8)

 RICは腰椎穿刺によって注入されたRIが脳脊髄液腔内で拡散し,くも膜顆粒で吸収されて血液中に移行し腎から排泄される過程をガンマカメラで撮影するもので,漏出像を直接描出することに加えて,RI排泄の異常亢進である膀胱像の早期描出も漏出を示す所見とされている9,10)。しかしこれらの間接所見の判定には客観性のある指標がなく,また漏出のない例においても早期膀胱描出が認められたという報告もあることから,SIHと正常との区別は容易ではない11)。さらに健常者の脳脊髄液腔内のRI動態を経時的に解析した報告もみられない12)

 2007年4月に発表された脳脊髄液減少症研究会の『脳脊髄液減少症ガイドライン2007』によれば,脳脊髄液漏出を示す異常値とされるのは脳脊髄液腔における24時間後のRI残存率が初期値の30%以下であるが13),これも臨床経験に基づいたものであり明確な科学的根拠に乏しい。また若年者においてはRIの頭蓋腔への到達が早いことは以前から知られているが11),脳脊髄液が頭蓋冠部のくも膜顆粒から吸収され排泄されているとすれば,若年者ではRIのクリアランスが高いことが予想され,脳脊髄液循環の基準値を策定するうえでは年齢による影響も考慮しなければならないと考えられる。

 そこで本研究においてはRICにおける基準値策定に資するため,脳脊髄液漏出を認めず正常と判断された自験例における脳脊髄液腔内RI動態について解析し,さらに年齢との関連について検討した。

症例報告

頸動脈ステント留置術でデバイスを用いた穿刺部止血後に総大腿動脈閉塞をきたした1例

著者: 林健太郎 ,   森川実 ,   堀江信貴 ,   諸藤陽一 ,   宗剛平 ,   陶山一彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.173 - P.176

はじめに

 頸動脈ステント留置術は保険適用となり,その施行はますます拡がりつつある。頸動脈ステント留置術では8Fr程度の比較的大きなサイズのシースが必要となり,抗血小板薬も複数使用することから血管穿刺部の止血が困難となることがある。Angio-Seal(St. Jude Medical社, Minnesota)は血管内のアンカーと組織側のコラーゲンスポンジで穿刺部の血管壁を挟み込み,止血するデバイスで,簡便に使用できることからステント留置術に際して多く用いられる1)。今回,われわれはAngio-Sealで止血後に同部に血管閉塞をきたした1例を経験した。文献的考察を加えて報告する。

神経画像アトラス

一側の視床・線条体病変を認めた深部脳静脈血栓症の1例

著者: 新島悠子 ,   小鷹昌明 ,   中村利生 ,   平田幸一

ページ範囲:P.177 - P.179

 症 例 60歳,男性

 主 訴 頭痛,嘔吐,歩行障害

 既往歴 56歳時に上行結腸癌で右結腸切除術を受けたが,3カ月前に肺転移が確認された。

 現病歴 200X年5月7日,夕方に突然後頭部痛が出現した。翌朝になっても頭痛は持続していたが,そのまま外出した。外出先で嘔吐したため,直ちに帰宅し臥床した。正午に歩行障害を認め,呂律緩慢も加わったために同日16時に当科外来を受診した。

 入院時所見 頸部血管雑音は聴取せず,心音正常,心雑音もなかった。意識はJapan Coma Scale(JCS)3であったが,髄膜刺激徴候はなかった。脳神経系では麻痺性の構音障害を認めた。運動系では,Barre徴候で軽度回内,落下する程度の右片麻痺を認めたが,四肢腱反射は正常であった。感覚系と自律神経系とに異常はなかった。

このヒトに聞く

未開の荒野でロボットと出会う

著者: 川人光男 ,   岩田誠

ページ範囲:P.181 - P.189

 学習によって小脳に道具や他人の脳などの機能をまねる神経回路が獲得されるという「小脳内部モデル理論」を提案・実証し,それを応用して人間に近いヒト型ロボットを開発することで脳の働きを解明するという新しいタイプの研究開発を行っている川人氏。30年来の旧知で,川人氏を「日本でいちばん頭がよい」と評す岩田 誠氏(本誌編集主幹)が,川人氏の独創性がどのように生まれてきたか,これまでの軌跡を交えてお話を聞いた。〈2009年10月15日収録〉

学会印象記

International Stroke Conference 2009(2009年2月17日~2月20日,サンディエゴ)

著者: 末田芳雅

ページ範囲:P.190 - P.191

 2009年2月18日から2月20日にかけて,米国脳卒中協会(American Stroke Association)主催によるInternational Stroke Conference 2009が,米国カルフォルニア州サンディエゴにて開催された。サンディエゴは,ロサンゼルスから南へ約200km,メキシコ国境からはわずか25km弱の場所に位置し,人口約131万人,米国で7番目(カルフォルニア州では2番目)の大都市である。全米で最も気候のよい街と形容されるほど,穏やかな地中海性気候に,波の穏やかなサンディエゴ湾,整然と浮かぶ豪華なヨット,学会会場であるコンベンションセンターやホテルといった芸術的な建物がみごとに調和した,本当に美しい街であった。

XIV World Congress of Neurological Surgery of the World Federation of Neurological Societies(WFNS)

著者: 高橋弘

ページ範囲:P.192 - P.193

 4年ごとに開催されるXIV World Congress of Neurological Surgery of the WFNSが2009年8月30日から9月4日の6日間米国のボストンで開かれました。この学会は,WFNS PresidentであるベルギーのJacques Brotchi先生とCongress PresidentであるRobert C Heros先生を中心に開催されました。各国からの参加者数は,登録段階でみる限り開催国の米国を除いて日本が185人でトップ,中国は123人で2位,韓国は73人で6位とアジアの3強は健在でした。

 この学会のOpening Ceremonyは,有名なThe Boston Pops Orchestraのお膝元であるBoston Symphony Hallで8月30日に開催されました(写真1)。会長らの挨拶後にThe Boston Pops Orchestraの素晴らしい演奏を聞くことができ心底感激しましたが,それ以上にわれわれ日本人にとって大変嬉しいことがこのCeremonyでありました。それは,この年わずか5人しか受賞しなかったYoung Neurosurgeons Awardを東京医科歯科大学の田村 郁先生が受賞されたことです。田村先生は現在ハーバード大学に留学中ですが,このたびは“Accumulation of CD133-positive glioma cells after high dose irradiation by gamma knife radiosurgery plus external beam radiation”という論文で受賞されました。日本伝統の着物姿で登壇された際には満場の喝采を浴びていました(写真2)。

連載 神経学を作った100冊(38)

シャルコー「サルペトリエール病院火曜講義」(1887-1888)

著者: 作田学

ページ範囲:P.194 - P.195

 シャルコーは本連載第11回(本誌第59巻11号)に紹介した体系的な金曜講義(「神経疾患講義録」)のほかに,火曜講義と言われる講義も行った。現在残っている講義録は,1887年11月15日に行われた脊髄癆の後に発症した顔面神経麻痺の症例講義から1888年6月28日に行われた脊髄空洞症の2例の症例講義までの29回の講演の中で行われた80の症例講義録である(Fig.1)1,2)

 金曜講義はあらかじめ患者を診察し,細心の注意を払い,熟考を重ねて研究した患者を呈示した。その講義録はあらかじめ一言一句を大切にして書かれ,講義が終わったときには印刷に回せるほどだったという。これに対し火曜講義は,彼が述べているように「毎回の講義は,毎日当たり前のように行っている神経学がいかに驚きにみち,複雑であるかを強調したもの」である。すなわちサルペトリエール病院の外来に診察を受けに来た患者をその場で診察し,診断し,予後・治療法まで述べる。

書評

「神経診断学を学ぶ人のために」―柴﨑 浩●著 フリーアクセス

著者: 田代邦雄

ページ範囲:P.164 - P.164

 神経学,神経内科学,神経症候学,神経生理学,神経病理学など,神経に関する書名のある教科書はわが国においても数多く出版されているが,「神経診断学」を冠するものとしては,本書の著者である柴﨑浩先生らがまとめられた「ダイナミック神経診断学」(柴﨑浩,田川皓一,湯浅龍彦 共編)とする分担執筆があるのみである。

 このたび,柴﨑浩先生(著)の単行本が世に出ることとなったことは画期的であり「神経診断学とは何か!」が語りかけられることとなった。本書の意図,特徴はその序に詳しく述べられており,その内のエッセンスの一部をそのまま引用すれば,“少し熟練した神経内科医であれば,典型的な疾患をもつ患者が診察室に入って来た場合,その瞬間にほとんど直感的に診断をつけられることがまれでない”,しかし“症候から種々の可能性を考慮に入れて病歴聴取と診察に当たり,理論的・系統的に考えて正しい診断に到達するのが妥当な方法である(序より一部引用)”という言葉に集約されると思われる。

--------------------

あとがき フリーアクセス

著者: 梶龍兒

ページ範囲:P.200 - P.200

 高齢者医療・介護費の急増が国家予算をひっ迫させている。血栓溶解療法などの発達によって脳卒中は死因の3位に後退したが,これは卒中になっても単に死ななくなったためであり卒中患者そのものが減ったわけではない。特に脳卒中後遺症に悩む患者はわが国では現在推計約160万人とされ,脱力や痙縮,高次脳機能障害などで他者の介助を常に要する人々の年間の介護費用だけで2兆円,脳血管障害全体の医療費がこれとは別に3~4兆円かかっている。その年間の総費用は最近マスコミをにぎわした“事業仕分け”による節約分の数倍にも及ぶ。しかも卒中患者は過去10年間で倍増しており,これから10年後にはさらに費用も倍増しているかもしれない。他の高齢者に多い神経疾患であるAlzheimer病による社会的損失を加えるとわが国はこれら高齢者の神経疾患だけで財政破たんする可能性すらある。

 わが国でのリハビリテーション医学は,米国のそれとは異なった発展を遂げている。整形外科を中心とした外傷の治療の一環として始まり,その後米国でトレーニングを受けたリハビリテーション科の医師が専門とするようになった。米国では,physiatristと呼ばれるリハビリテーション専門医とともに,神経内科医を中心としたneurorehabilitationが発達している。後者は神経科学をベースとした科学的なアプローチが強調され,経験的な側面が強い従来のリハビリテーションとは一線を画している。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら