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文献詳細

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩62巻6号

2010年06月発行

特集 改正臓器移植法の問題点とその対応

小児科医の立場から

著者: 水口雅1

所属機関: 1東京大学大学院医学系研究科発達医科学

ページ範囲:P.587 - P.594

文献概要

はじめに

 脳死をめぐっては医学のみならず法学,社会学,倫理学を含む多方面から,長年にわたり論議されてきた。しかしそれぞれの領域で互いに対立する意見や主張があり,今日に至るまでコンセンサスは得られていない。その一方で近年,脳死臓器移植をめぐる諸問題は深刻化してきた。とりわけ日本では脳死体からの臓器提供が少ないこと,15歳未満の小児脳死体からの臓器提供ができないこと,多くの日本人小児患者が海外に渡航して臓器移植を受けていることが,放置すべからざる問題として取り上げられた。

 このような環境下で2009年6~7月,「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律(以下,改正臓器移植法)」が国会で可決・成立し,7月17日に公布された。これに伴い,従来は不可能であった「臓器提供目的での小児の法的脳死判定」が,今後は可能になった。また「臓器提供に係る意思表示のあり方」も変更された。小児の観点からみた場合,改正臓器移植法の要点は次の3点である。
①ドナーの年齢制限が撤廃された。
②15歳未満の小児では,保護者の同意による臓器提供が可能となった。
③虐待による脳死事例は,臓器提供者から除外することとなった。

 この法改正を受け,厚生労働省は臓器移植委員会(委員長:永井良三 東京大学教授)およびいくつかの作業班を設置した。また厚生労働科学研究班(研究代表者・貫井英明 山梨大学名誉教授)が発足し,2010年3月まで以下の作業を進めてきた。
①小児脳死判定基準の作成
②小児脳死下臓器提供施設の要件の確定
③脳死判定における脳血流検査の役割の検討

 以上の状況に基づき,本稿では,小児の脳死について,主としてドナー側の見地から概説する。

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1344-8129

印刷版ISSN:1881-6096

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