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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩62巻8号

2010年08月発行

雑誌目次

特集 辺縁系脳炎

辺縁系脳炎―歴史,症状,最新分類

著者: 湯浅龍彦 ,   藤田浩司

ページ範囲:P.817 - P.826

はじめに

 脳を大きく3つに分ける。すなわち,脳幹と辺縁系,そして大脳皮質である。脳幹は,歩行,嚥下,呼吸などを反射的自動的に制御し,意識レベルを維持する。一方,大脳皮質は,内的,外的な感覚を統合し,論理的,合理的,理知的に処理し,思索,言語,読み書き,芸術・創作などをとおして外界へ働きかける。ヒトが実践する社会的・創造的活動を企画統合する。これらの外界への働きかけが巧く正確に実行されるよう制御するのが,大脳基底核と小脳である。

 これらに対して辺縁系は,脳幹と大脳皮質の中間に位置し,記憶,情動,自律神経系など生存に関わる機能を制御する。第一義的には情動と記憶を管理し,さらには大脳皮質を制御する。つまり,基本的には五感から得た情報や快・不快などの情動を統合し,同時に,それに基づき大脳皮質の機能を調節し,生存や種の継続に直結する行動を管理する。

 すなわち,生物の進化の過程をとおして生存を保障する仕組みといってよく,匂いや触覚の記憶,捕獲行動,逃避行動などに始まり,快・不快の情動,摂食,性行動,ホルモン調節機能などに関わる。より高等な感情としては,愛情,悲哀,嫉妬,怒り,思いやり,共感などを制御する。

 辺縁系の働きは極めて多岐にわたるが,辺縁系の役割を意識する機会は少ない。しかし,いったん辺縁系が疾患におかされるとき,われわれは改めて辺縁系の働きがいかなるものであるのかを認識する。

 本稿ではこうした辺縁系の機能に焦点を当てて,辺縁系脳炎の臨床研究に関する今日の到達点を解説する。

辺縁系脳炎とグルタミン酸受容体抗体

著者: 高橋幸利 ,   最上友紀子 ,   高山留美子 ,   池田浩子 ,   今井克美

ページ範囲:P.827 - P.837

はじめに

 急性脳炎とは,急性脳炎症状を示し中枢神経系からウイルスが分離されるものと狭義には定義される。ウイルス感染時(あるいはその直後)に急性脳炎症状を示した症例であっても,髄液中のウイルスpolymerase chain reaction(PCR)検査あるいは剖検脳組織解析でウイルスの中枢神経系直接侵達が否定される症例があり,ウイルスが中枢神経系に侵達しなくても脳炎症状を示す,傍感染脳症と呼ばれる一群がある。また,脳炎症状を示す症例の中には,ステロイド治療が臨床経過から有効と判断される症例の存在も知られていて,一部の傍感染脳症症例では,免疫的な機序で急性脳炎症状が起こっているのではないかと,以前から推測されてきていた。

 急性脳炎・脳症の病態を分類すると,①ウイルス直接侵襲(1次性)脳炎,②傍感染性脳炎・脳症,③傍腫瘍性脳炎・脳症,④全身性膠原病合併脳炎・脳症,⑤その他・分類不能があると推定される。②~④では免疫的な機序で急性脳炎症状が起こっている可能性がある。

 脳炎に関する免疫の研究は,1960年に傍腫瘍性の辺縁系脳炎(paraneoplastic limbic encephalitis:PLE)が報告されたことに始まる1)。PLEは急性・亜急性に進行する記銘力障害,認知機能障害,精神症状,痙攣などを特徴とし,肺癌(50%),睾丸癌(20%)乳癌(8%)などが多い2)。傍感染性の非ヘルペス性急性辺縁系脳炎(non-herpetic acute limbic encephalitis:NHALE)に比べて,亜急性の経過をとることが多い。PLEにみつかった抗Hu抗体,抗Ma-2抗体などの自己抗体は細胞内・核内蛋白を抗原とし3),抗体のみでは組織障害は起こらず,CD8T細胞の役割が重要と,今日では考えられている2)

 2001年に電位依存性カリウムチャネル(voltage-gated potassium channel:VGKC)に対する抗体(抗VGKC抗体)4)が,傍腫瘍性のみならず非傍腫瘍性辺縁系脳炎でも報告され,細胞表面蛋白を抗原とする自己抗体の研究が始まった。抗VGKC抗体陽性辺縁系脳炎(LE-VGKC)は,壮年期発症で,亜急性の経過をとり,記憶障害,見当識障害,てんかん発作,SIADHを中核症状とし,約半数を占める傍腫瘍性では胸腺腫合併が多い5)。抗VGKC抗体の作用は,二価のIgGが2つのVGKCをcouplingし,degradationを生じることで,膜上のVGKCの総数を減じることによってK電流の抑制が起こると考えられているが,今後の検討が待たれる。

 2001年にわれわれは,Rasmussen症候群でのN-メチル-D-アスパラギン酸(N-methyl-D-aspartate:NMDA)型グルタミン酸受容体(glutamate receptor:GluR)の1つのサブユニットであるGluRε2(NR2B)に対する抗体の経験を踏まえ6-11),急性脳炎症状を呈する症例でGluRε2全長蛋白を抗原とする抗GluRε2抗体の検討を開始し,腫瘍を合併しない症例の中に抗GluRε2抗体が存在する症例を見出し,日本小児科学会分野別シンポジウムで報告した12)。その際の髄液抗GluRε2抗体陽性例は,IgA欠損症を有する症例で言動の異常から始まったNHALEの症例を含んでいた。その後,傍感染性NHALEなどの急性脳炎・脳症,感染が先行しない亜急性脳炎・脳症,橋本脳症,PLEなどでも抗GluRε2抗体が存在する症例を見出した13)

 2005年にはenolaseのamino terminalに対する抗体(抗NAE抗体)が橋本脳症に関連する自己抗体として報告された14)。橋本脳症の臨床像は多彩で,急性脳症型が大部分であるが,辺縁系脳炎(LE-NAE),うつや統合失調症,Creutzfeldt-Jakob病(CJD)に似た病像を示すものもある15)。発病年齢は壮年~老年期が主体で女性に多く,甲状腺機能は正常が多いが抗甲状腺抗体を有し,急性の意識障害発症が多く,脳波異常は高率であるが頭部MRIの異常頻度が低いという特徴があるとされている。

 2007年,卵巣奇形腫を伴う急性辺縁系脳炎(NHALE-ovarian tumor:NHALE-OT)においてNMDA型GluR複合体(NR1+NR2AまたはNR2B)の細胞表面立体構造を抗原とする自己抗体が報告され16),抗NMDA型GluR抗体と急性脳炎との関係が大きく注目されるところとなった。

 このように近年,辺縁系脳炎を主体とする脳炎で抗神経抗体の意義が注目されてきている。本稿では,傍感染性NHALEおよびNHALE-OT症例でのNMDA型GluRに対する抗体についての知見を述べる。

抗Ma2抗体陽性脳炎と傍腫瘍性辺縁系脳炎

著者: 山本知孝 ,   辻省次

ページ範囲:P.838 - P.851

はじめに

 Anti-Ma2-associated encephalitis(本稿では,抗Ma2抗体陽性脳炎と表記する)は,細胞内のonconeuronal antigenであるMa2に対する抗体の存在を特徴とする傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndromes:PNS)の1つであり,辺縁系脳炎をはじめとした特徴的な症候群を呈する。抗Ma2抗体は,同様に傍腫瘍性辺縁系脳炎に関連し,神経細胞内抗原と結合する抗Hu抗体,抗CV2/CRMP5抗体,抗amphiphysin抗体などとともに,いわゆるwell-characterized onconeuronal antibodies1)に分類され(最近はPNS-related onconeuronal antibodiesという分類も提唱されている2)が,本稿では文字数の関係もあり古典的抗体と表記する),PNSにおける診断的意義が確立しているが,病態における抗体の役割は未解明である。

 一般に細胞内抗原を標的とする抗体を伴う傍腫瘍性脳炎の場合には,神経伝達物質受容体などの細胞表面抗原に対する抗体を伴う自己免疫性脳炎の場合と異なり,治療による神経症状の改善が期待できないと考えられている。しかし,抗Ma2抗体陽性脳炎は,早期治療に反応する症例が少なくない点で際立っている3)。特に治療効果が期待されるのは原発腫瘍が限局性の精巣腫瘍の場合であるが,性別や年齢などの患者背景がそろえば精巣腫瘍の存在を極めて正確に予測できる点も大きな特徴である。しかし,臨床診断が極めて困難な上皮内癌の段階でも重篤な神経傷害をきたし得るというジレンマも抱えている4)

 このように,抗Ma2抗体陽性脳炎は早期の診断治療を必要とする,辺縁系脳炎の重要な鑑別診断の1つであるが,PNSとしての古典的症候群と異なる臨床像を呈する場合が多い点に注意が必要である。本稿では,自験例の提示とともに,本疾患の臨床的特徴について概説する。

非ヘルペス性辺縁系脳炎の臨床

著者: 庄司紘史

ページ範囲:P.853 - P.860

はじめに

 非ヘルペス性急性辺縁系脳炎(non-herpetic acute limbic encephalitis:NHALE)は,急性脳炎像を示し,痙攣発作,記憶障害などを中核とし,両側海馬・扁桃体など大脳辺縁系にMRI異常所見を認める。髄液からの単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)へのポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)陰性,酵素抗体(enzyme immunoassay:EIA)検索などでHSV抗体陰性で,単純ヘルペス脳炎(以下,ヘルペス脳炎)から分離され,髄液サイトカインの検討では,インターロイキン(interleukin:IL)-6の軽度増加がみられ,インターフェロン(interferon:IFN)-γの変動はなく,直接の感染よりも免疫学的機序が推論されていた1,2)

 NHALEはヘルペス脳炎,傍腫瘍性辺縁系脳炎とオーバーラップし,多彩な成因・病態が報告され多くの亜型群を形成しているが(Table1),抗グルタミン酸受容体ε2サブユニット(glutamate receptor ε2:GluRε2)抗体,抗N-メチル-D-アスパラギン酸(N-methyl-D-aspartate:NMDA)受容体抗体,抗電位依存性カリウムチャネル(voltage-gated potassium channel:VGKC)抗体など辺縁系脳炎・脳症の主要な病態に絡む抗神経抗体が検出され,自己免疫機序を巡って活発な展開をみている3-5)

 今回,3例の近縁の疾患(NHALE,抗NMDA受容体脳炎)を評価する機会を得たので概略6)を記載し,最近の知見を中心にNHALEの変遷・病態,臨床,後遺症などに関し言及したい。

非ヘルペス性辺縁系脳炎の病理

著者: 望月葉子 ,   水谷俊雄

ページ範囲:P.861 - P.868

はじめに

 非ヘルペス性辺縁系脳炎(non-herpetic limbic encephalitis:NHLE)は臨床的に新しいサブグループと考えられ,比較的良好な経過をたどり,生命予後は良好であることが特徴の1つである1)。しかし,剖検例が非常に少なく,その病理像が確定しない点が問題点の1つに挙げられていた2)。現在,痙攣重積状態が抗痙攣薬に反応せずに死亡した3例のNHLE剖検報告がある(Table)3-5)。この3症例は,発熱の数日後に意識障害,痙攣をきたし,髄液の細胞と蛋白の軽度増加,そして,両側側頭葉内側に画像所見があり,単純ヘルペス脳炎(herpes simplex encephalitis:HSE)をはじめとしたウイルス脳炎,膠原病,悪性腫瘍の合併がなかったことから,NHLEと診断された。本稿では,第12病日で死亡した自験例の病理所見を中心に記載し,他のNHLEや関連疾患の病理所見について紹介する。

 なお,自験例は,抗グルタミン酸受容体(glutamate receptor:GluR)抗体はIgM-ε2が血清で±,IgG-δ2が髄液で陽性,抗電位依存性カリウムチャネル(voltage-gated potassium channel:VGKC)抗体,抗P/Q型電位依存性カルシウムチャネル(voltage-gated calcium channel:VGCC)抗体は血清,髄液とも陰性であった3)

HHV-6脳炎

著者: 吉川哲史

ページ範囲:P.869 - P.875

はじめに

 現在,ヒトに感染するヘルペスウイルスは8種類知られており,生物学的な性状(宿主域,増殖サイクルの長さ,感染細胞に認められる病理学的特徴,潜伏感染細胞など)に基づきα,β,γの3つの亜科に分類されている(Table1)。Human herpesvirus 6(HHV-6)は,リンパ球増殖性疾患患者から分離された6番目のヒトヘルペスウイルスで1)日和見感染の病原体として重要なcytomegalovirus(CMV)や,HHV-6に引き続いて発見されたヒトヘルペスウイルスであるHHV-7と同じβヘルペスウイルス亜科に属している。特にHHV-6とHHV-7の類似性は高く,いずれも初感染が乳幼児期の熱性発疹症である突発性発疹(以下,突発疹)の原因であることが明らかにされている。

 一般的に予後良好な疾患ではあるが,合併症としては熱性痙攣が比較的高率に認められ,頻度は低いものの脳炎・脳症といったより重篤な中枢神経系合併症を引き起こすことも知られている。そしてHHV-6も他のヘルペスウイルス同様初感染後宿主体内に潜伏感染し,宿主が免疫抑制状態に陥った際に再活性化し脳炎をはじめとしたさまざまな病態に関与することが示唆されている。

 本稿では,小児だけでなく成人領域でも中枢神経病原性についての注目が集まっているHHV-6について,初感染ならびに再活性化時の脳炎に分けて概説する。

総説

Williams症候群を通して社会脳(social brain)を探る

著者: 長峯正典 ,   三村將 ,   アランリース ,   ヘイフト典子

ページ範囲:P.877 - P.884

はじめに

 近年の脳科学の著しい進歩に伴い,“社会脳(social brain)”という言葉をよく耳にするようになった。この言葉は,自己と他者を認識し,対人交流を可能とするのに必要な社会的情報処理に特化した脳の神経基盤として使用されている1)

 社会脳の障害とされる自閉症は,社会脳研究の中心に位置する疾患であるが,その原因遺伝子および神経基盤についてはいまだ十分に解明されてはいない。その大きな理由として,自閉症という疾患の不均質性(heterogeneity)が挙げられるが,それに加え遺伝子型(genotype)から表現型(phenotype)までの距離の遠さが考えられる。社会性というわれわれの表現型と比較すると,それを支える脳の神経基盤は遺伝子からより直接的な影響を受けると考えられており,感受性も高いとされている。したがって,脳の神経基盤や神経活動をgenotypeからphenotypeへの中間表現形(endophenotype)として位置付けることによって,遺伝子と高次機能の関係性をより詳細に調べることができる2)

 Williams症候群(Williams syndrome)は,心血管奇形や精神発達遅滞などの症状を呈する遺伝子疾患であると同時に,過剰な社交性(hypersociability)を呈することが近年注目されている。Hypersociabilityという特異な症状を示すこの遺伝子疾患を研究することで,自閉症という疾患が抱える不均質性の問題を克服することができ,社会性の神経基盤に関する貴重な情報を手に入れることができる3)

 本稿ではこの特徴ある遺伝子疾患について概観し,特にhyper sociabilityに注目することによって,社会脳の神経基盤について考えてみたいと思う。

神経生理学からみたALSの病態と治療展望

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.885 - P.891

はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は進行性に上位および下位運動ニューロンの系統変性をきたす,代表的な神経難病である。1869年のCharcotによる疾患の記載以来,140年を経てその発症機構はいまだ不明であり,その解明は21世紀の神経学における大きなテーマとして残されている1)

 神経生理学的観点からみると,筋電図・神経伝導検査はALSの診断,および多巣性運動ニューロパチーなどの他疾患の除外に必須であり,また経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位は上位運動ニューロン障害の評価に用いられている。これらの神経生理学的手技はALSの病態によってもたらされた神経変性の結果を検出するものであり,ALSの診断には有用であるが,病態そのものに迫る手法としての意義は限られていた。

 しかし,近年新たなアプローチとして,下位運動ニューロンの軸索特性の変化を検討することが可能となり2),また磁気刺激によって上位運動ニューロンの興奮性を評価する試みもなされ3),ALSの病態に神経生理学的側面から迫ろうとする一連の研究が進められている。これまでの検討の結果をまとめると“皮質運動ニューロン,脊髄運動ニューロン軸索の興奮性は増大している”ことに集約される。

 神経細胞~軸索興奮性増大に対応するALSの臨床症候の最大の特徴は線維束性収縮(fasciculation)である。線維束性収縮は一般に下位運動ニューロン徴候とされてきたが,多くの神経原性筋萎縮性疾患の中で広範な線維束性収縮を呈するものはALSのみである。脊髄性筋萎縮症,頸椎症性筋萎縮症や軸索変性型ニューロパチーにおいて線維束性収縮は稀にしかみられない。このことは線維束性収縮が筋萎縮性疾患の中でALSにかなり特異的に生じており,運動ニューロン死に関与している可能性を示唆している。

 本稿ではALSにおいて運動ニューロン死に関わるメカニズムとして推定されている細胞生物学的異常(酸化ストレス,細胞内蛋白凝集,ミトコンドリア機能異常,軸索輸送障害,グルタミン酸興奮毒性,グリア細胞機能異常1))を踏まえて,線維束性収縮を中心に神経生理学的観点からALSの病態についてこれまでに得られている知見を概説する。

症例報告

腫瘍摘出後に一過性有形性幻視をきたした右側頭頭頂部髄膜腫の1例

著者: 吉村政樹 ,   内山良則 ,   金子彰 ,   林紀子 ,   山中一浩 ,   岩井謙育

ページ範囲:P.893 - P.897

はじめに

 有形性幻視は,まとまった形を有する幻視が視野欠損部分や視野全体にみえる現象である。原因病巣としては側頭―後頭葉や頭頂葉下部の病変によって出現するとされる。原因疾患としては脳梗塞や皮質下出血などによって生じた例の報告がみられるが,髄膜腫摘出後に生じた症例の報告は少ない。今回,髄膜腫摘出後に一過性の有形性幻視を認めた症例を経験したので報告する。

神経画像アトラス

MRIのSTIR法で描出された視神経管骨折のない外傷性視神経損傷の1例

著者: 有島英孝 ,   磯崎誠 ,   竹内浩明 ,   菊田健一郎 ,   山元龍哉 ,   植松秀昌 ,   木村浩彦 ,   高村佳弘 ,   久保江理 ,   赤木好男

ページ範囲:P.898 - P.900

 症 例 43歳,男性

 既往歴および家族歴 特記すべきことなし。

 現病歴および入院時現象 200X年8月上旬,歩行中に車にはねられ全身を強打し当院へ救急搬送された。入院時意識レベルはJapan Coma ScaleでⅠ-1,左顔面に擦過傷を認めた。

学会印象記

International Stroke Conference 2010(2010年2月23日~2月26日,サンアントニオ)

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.901 - P.902

 International Stroke Conference (ISC) 2010が2010年2月23~26日に米国テキサス州サンアントニオ市で開催された(写真1)。本学会は名前こそ国際脳卒中会議と銘打っているが,実際にはAmerican Heart Association(AHA;米国心臓協会)とAmerican Stroke Association(ASA;米国脳卒中協会)主催の学会なので本来ならば米国脳卒中学会というべきかもしれない。ただし,最近のISCは米国以外からの参加者が増加しており,確かにISCという名称にも違和感がなくなった。

 ASAはAHAの分科会であり,AHAといえば毎年秋に行われている世界最大級の年次総会(Scientific Session)が有名であるが,脳卒中関連の演題は大多数がAHAではなく,ISCで発表される。残念ながら,日本からのISCへの参加者は2年に1度(これまでは4年に1度)行われる世界脳卒中学会(World Stroke Congress:WSC)と比べるとはるかに少ない。その大きな理由の1つはISCの演題の採択率がAHAと同様極めて低いことが挙げられる。筆者はAHAのfellowであり,演題査読委員の1人でもあるが,多数の査読者が厳格に演題のレベルを評価しており,演題が採択されるだけで名誉と思わせる敷居の高い学会なのである。脳卒中専門医たちに「WSCはお祭りで,ISCは真剣勝負」と言われるゆえんはここにある。

連載 神経学を作った100冊(44)

ブラウン・セカール『中枢神経系の生理学と病理学の講義録』(1860)

著者: 作田学

ページ範囲:P.904 - P.905

 マダガスカルの東,数百海里に位置するモーリシャス島は18~19世紀にかけてドイツ,フランス,イギリスと統治国が変わり,またインド商人の貿易中継地として栄えたため現在まで雑多な民族が同居する地域である。この地に生まれ育ったことがブラウン・セカール(Charles-Édouard Brown-Sequard;1817-1894)のコスモポリタンな一生を規定したのだった。

 1817年4月8日にアメリカ人の船長とフランス人の母との間にブラウン・セカールは生まれた(Fig.1)2)。1838年にパリに出て,医学校(École de Médecine)に入学し,1842年にはトルーソー(Armand Trousseau; 1801-1867)のエクステルヌ(実習医)となったが,その頃感染症と母の死が彼を襲った。

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あとがき フリーアクセス

著者: 作田学

ページ範囲:P.908 - P.908

 本号の特集においては,辺縁系脳炎についての6本のいずれ劣らぬ玉稿が揃った。この辺縁系脳炎という概念は,近年大きなパラダイムシフトがあった。湯浅龍彦先生らの「辺縁系脳炎―歴史,症状,最新分類」は,そのところを精緻な論考でお示しになった。また,著者自身の経験を踏まえ,2010年の改定案を提示された。それによると第1項ウイルス性辺縁系脳炎,第2項自己抗体介在性辺縁系脳炎,第3項自己免疫疾患に関連する辺縁系脳炎,第4項疾患の位置づけが不明な辺縁系脳炎に分類した。これは今後各方面に大きな影響を与えるとともに,読者に資するところが大変大きいと思う。高橋幸利先生らは辺縁系脳炎とグルタミン酸受容体抗体についてお書きになった。非ヘルペス性急性辺縁系脳炎は年間550人の発生があると考えられるが,抗GluRε2抗体はその約60%にみられるという。また陽性群では初発神経症状として言動の異常,陰性群では痙攣が多かったという。最近注目されている抗NMDA受容体複合体抗体についても論述されている。山本知孝先生らは抗Ma2抗体陽性脳炎と辺縁系についてお書きになった。抗Ma2抗体陽性脳炎は早期に反応する症例が少なくない点が重要なポイントである。臨床症状,病理変化,予後などについて自験例をまじえて詳しい総説をお書きになった。

 庄司紘史先生は非ヘルペス性急性辺縁系脳炎(NHALE)の臨床をお書きになった(ただし,庄司先生も書かれているように,NHALEあるいはNHLEはわが国で汎用されているが,国際的には認知されていない)。これはヘルペス脳炎,傍腫瘍性辺縁系脳炎とオーバーラップする病態があるが,特にNHALE,抗NMDA受容体抗体陽性脳炎の3自験例を中心に臨床,後遺症などを詳細にお書きいただいた。吉川哲史先生は小児だけでなく,成人でも中枢神経病原性について注目されているHHV-6脳炎の病態と臨床,脳波などについてお書きいただいた。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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