icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩63巻6号

2011年06月発行

雑誌目次

特集 ニューロパチー

初心者のための閾値追跡法

著者: 島谷佳光 ,   野寺裕之 ,   梶龍兒

ページ範囲:P.531 - P.538

はじめに

 現在神経伝導検査は簡便に行い得る検査となり,末梢神経疾患の病態把握が容易となってきている。しかし,重要な末梢神経機能である軸索の興奮性,イオンチャネル機能,膜電位の評価は容易ではない。閾値追跡法(threshold tracking)の歴史は長いが,技術的な問題から何年も忘れ去られ臨床の現場で応用されることは稀であった。この状況を変えたのが英国のHugh Bostock教授が開発したQTRACと呼ばれる半自動プログラムである1)。このプログラムは,15分程度で種々の神経興奮性検査を行うことができる。これを用いてさまざまな疾患の病態生理が明らかにされてきている。

遺伝性ニューロパチー―多様な原因遺伝子と遺伝子診断法の進歩

著者: 橋口昭大 ,   髙嶋博

ページ範囲:P.539 - P.548

はじめに

 遺伝性ニューロパチーの最も代表的な疾患はCharcot-Marie-Tooth病(CMT)で,遺伝性運動感覚性ニューロパチー(hereditary motor sensory neuropathy:HMSN)とも表現される。近縁疾患としては,運動神経障害のみの遺伝性運動性ニューロパチー(hereditary motor neuropathy:HMN)や感覚障害のみの遺伝性感覚性ニューロパチー(hereditary sensory neuropathy:HSN),感覚神経と自律神経が障害される遺伝性感覚・自律神経性ニューロパチー(hereditary sensory and autonomic neuropathy:HSAN)などがある。これらは臨床的,遺伝学的に多くの型に分けられ,少なくとも30以上の原因遺伝子が報告されている。CMTは通常,少年期~中年期に,四肢遠位筋優位の進行性筋萎縮・筋力低下で発症するが,原因遺伝子の種類や変異部位によりさまざまで,発症時期の幅は広い。臨床症状は,大腿を高く上げて歩く鶏歩や,逆シャンペンボトル様下腿筋萎縮,凹足(pes cavus)などにより特徴づけられる。さらに,進行により足趾が屈曲し槌状趾(hammer toe)を形成することもある。上肢は手の骨間筋や母指球筋の萎縮が目立つ。正中神経の障害により母指球筋が萎縮し猿手(ape hand),また尺骨神経障害のため骨間筋が萎縮し鷲手(claw hand)となる。

 感覚障害を発症初期に自覚することは少ないが,診察すると手袋靴下型感覚消失や振動覚消失などが認められる。これらの症状は左右対称性で,腱反射なども左右対称性に低下または消失する。

 CMTは,遺伝形式および電気生理学的に分類され,正中神経の神経伝導速度が38m/秒以下を脱髄型,神経伝導速度が38m/秒以上を軸索型と分類する。また,電気生理学的に脱髄型とも軸索型とも分類できないタイプを中間型としている。

 脱髄型で常染色体優性遺伝(autosomal dominant:AD)のものをCMT1,常染色体劣性遺伝(autosomal recessive:AR)のものをCMT4,軸索型はADもARもCMT2に分類される。CMT3は,おおよそ2歳以下発症のDejerine-Sottas症候群(DSS)と同義であるが,CMT3の名称はあまり使用されていない。X染色体連鎖性のCMTはCMTXに分類される。

免疫性末梢神経障害の診断・治療と最近の話題

著者: 上田昌美 ,   楠進

ページ範囲:P.549 - P.555

はじめに

 免疫性末梢神経障害は,末梢神経の髄鞘あるいは軸索を標的とする自己免疫機序による疾患の総称であり,多くの病型がある。急性疾患としては,ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS),慢性疾患としては,慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)や多巣性運動性ニューロパチー(multifocal motor neuropathy:MMN),IgM(immunoglobulin M)パラプロテイン血症を伴うニューロパチー,などがある。

 免疫反応には大きく分けて,細胞性免疫と液性免疫があり,免疫性末梢神経障害ではそのどちらも重要な働きをすることが知られている1)。細胞性免疫の機序は,神経組織外で感作されたT細胞が,血液神経関門を越えて末梢神経内に入り,各種の神経障害因子を放出,さらに,マクロファージを刺激することにより,神経障害を引き起こすと考えられる。細胞性免疫によるニューロパチーの発症メカニズムは,動物モデルである実験的自己免疫性ニューロパチー(experimental autoimmune neuropathy:EAN)によって詳細に検討されており,GBSやCIDPでも同様の機序が働いていると推定される。

 液性免疫の機序は,神経組織外でB細胞が刺激を受け,抗体を産生する。この際GBSでは,先行感染因子が神経組織の膜表面に含まれる糖脂質と同様の糖鎖を持つために,糖鎖に対する抗体が産生されるというメカニズム(分子相同性機序)が考えられている。B細胞によって産生された抗体は,末梢神経の標的抗原の局在部位に結合して,抗体依存性細胞介在性細胞障害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)や補体の関与により神経障害をきたす。GBSやIgMパラプロテイン血症を伴うニューロパチーにおける,この抗体の標的については,多くの場合に細胞膜表面に存在するガングリオシドなどの糖脂質の糖鎖であることがわかっている。

 本稿では,急性免疫性末梢神経障害としてGBS,慢性免疫性末梢神経障害としてCIDP,MMN,IgMパラプロテイン血症を伴うニューロパチーを取り上げる。慢性免疫性末梢神経障害の治療については,主に難治例を対象として近年種々の治療が試みられているが,本稿では現時点で広くコンセンサスの得られている欧州神経学会連合・国際末梢神経学会(European Federation of Neurological Societies and the Peripheral Nerve Society:EFNS/PNS)のガイドラインを中心に,最近の知見も踏まえ述べることとする。

血液神経関門update

著者: 神田隆

ページ範囲:P.557 - P.569

はじめに

 神経系はimmunologically priviledged siteとされ,全身の免疫現象からは隔絶された部位であると長らく認識されてきた。この考え方は,基本的に中枢神経系は①実質内にMHC(major histocompatibility complex)クラスⅠ,Ⅱを発現する細胞がない,すなわち,T細胞が抗原を認識するのに必要な細胞がない,②中枢神経系に移植された同種異型グラフトまたは異種グラフトは,中枢神経外に移植されたものと比べてはるかに拒絶反応が少ない,③免疫系の求心路であるリンパ管が存在しない,といったことに加えて,④中枢神経系への免疫系の遠心路は,血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)と血液脳脊髄液関門(blood-cerebrospinal fluid barrier:BCSFB)によってシャットダウンされている,という4つの事実に基づく。現在,この“immunologically priviledged site”という考え方に数々の批判が加えられているのは周知の通りであるが,神経系が強固なバリアシステムで保護・コントロールされているということに関しては異論がない。神経系のバリアシステムには,このBBB,BCSFBに加えて血液網膜関門(blood-retinal barrier:BRB),血液脊髄関門(blood-spinal cord barrier),血液迷路関門(blood-labyrinth barrier)などが含まれ,blood-neural barrierと総称される。本論文の主題である血液神経関門(blood-nerve barrier:BNB)は,末梢神経系に存在するblood-neural barrierの1つである。

 BNBはかつてはBBBと比較して不完全な構造物と考えられていた。しかし,現在では,末梢神経系を全身循環系から隔絶するBBBとほぼ同等の機能を持つ強固なバリアシステムと認識されており1),上記①~③の特徴はそのまま末梢神経系にも共通であることが知られている。BNBをヒトの疾患という側面からみた場合,BNBの破綻と修復が,例えば免疫性ニューロパチーの発症・増悪・治癒過程と密接に関連していることについては大きな異論はないであろう。しかし,BNBの分子機構に関する研究成果は驚くほど少ない。BBBに関する知見がこの10年間で飛躍的に蓄積しているのに対し,BNBはBBBとの比較のうえで語られることが多く,マクロ的にもミクロ的にもBNB研究はBBBのそれのはるか後塵を拝しているのが現状である。

 本稿では,まず現時点でのBNBの解剖学的・細胞学的知見の概要を整理し,続いて現時点で明らかになっているバリアシステム破綻のメカニズムについて概説することとする。前述したように現時点ではBNB固有の知見は極めて少なく,多くはBBBまたは一般臓器の微小血管をもとにした研究で得られた成果であることを最初にお断りしておく。また,BNBという用語からは,常にめまぐるしく変化している血液成分から末梢神経系実質を隔てる“壁”としてのイメージがつきまとうが,実際には,BNBは単なる障壁ではなく,末梢神経系に必要なものを能動的に取り込み,不要物を積極的に排出する機能もあわせ持つ優れたインターフェースである。このことから,BNBよりもBNI(blood-nerve interface)という用語がより適切であると主張する研究者も存在する2)。筆者はこの考え方に基本的には賛成であるが,BBBという用語が既に定着している今,BNIという言葉を末梢神経系のバリアにのみ使用するのはいたずらに混乱を招くだけであるので,本稿ではBNBという形で記載を進める。またもう1つ,『神経学用語集』ではendoneuriumに対して神経内鞘という用語が採用されているが,本稿では神経実質を囲む鞘状構造物との混同を避けるため,従来の“神経内膜”をendoneuriumの訳語として使用することもあわせてお断りしておく。

糖尿病性ニューロパチーの臨床と研究の進歩

著者: 八木橋操六

ページ範囲:P.571 - P.582

Ⅰ.ヒト糖尿病性ニューロパチーの疫学の進歩

 2007年の厚生労働省の全国調査によると,わが国で糖尿病が疑われる人は現在890万人,糖尿病の可能性が否定できない人は約1,320万人とされ,あわせて約2,210万人にのぼる。この数は成人の5人に1人の割合であり,糖尿病がもたらす合併症が日常臨床ではもちろんのこと,医療経済学的にも深刻な問題となっている。なかでもニューロパチー(本稿では糖尿病性多発神経障害を統一してこの言葉で用いる。なお,糖尿病性神経症や神経炎という用語は通常用いられない)は,合併症の中で最も頻度の高い合併症であり,下肢の痛み,しびれなどの症状,自律神経障害,足壊疽などの重篤な症候を示す。糖尿病患者のQOL(quality of life)を著しく減退させ,寿命を短くする合併症である。その重要性にもかかわらず,ニューロパチーの認知度は網膜症,腎症,大血管障害に比べ低く,患者へのより積極的な啓蒙が必要とされている。

 1型糖尿病での合併症進展に対する血糖コントロールの影響をみた米国のDiabetes Control and Complications Trials(DCCT)試験では,強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールで,通常療法のHbAlc9%におけるニューロパチーの発症率13%に比べ,強化療法のHbAlc7%での発症率は5%となり,発症者数を約60%減少させることができたとしている。さらに顕著なことは,試験終了後の8年間観察で新規ニューロパチー発症率がさらに抑制されたことから,厳格な血糖コントロールの効果が,その終了後も持続する,いわゆる「遺産効果(legacy effect)」あるいは「糖記憶(glucose memory)」として残されることが示され,改めて血糖コントロールの合併症発症に対する重要性が確認されている(Fig.1)1)。血糖コントロールのニューロパチーへの影響は2型糖尿病においても同様で,わが国でのKumamoto studyにおいて強化インスリン療法が神経伝導速度低下や振動覚閾値の改善効果を示すことが証明された2)。一方,英国でのUK Prospective Diabetes Study(UKPDS)では,10年間の経過観察でHbA1c0.9%の低下では網膜症,腎症の減少をみたものの,ニューロパチー,大血管障害への影響はみられなかったとしている3)。ニューロパチー進展の危険因子として,Tesfayeらは,1型糖尿病患者を平均7.5年にわたって経過観察し,糖尿病罹病期間,HbA1c,高血圧,脂質異常(高中性脂肪血症,高リポプロテイン血症),喫煙,高BMI,ミクロアルブミン尿,高von Willebrand因子血症を挙げている4)。このようなデータからみて,高血糖の持続がニューロパチーの発症,進展の中心となっており,その促進因子として,血管障害を伴う病態の意義が示唆される。

家族性アミロイドポリニューロパチー

著者: 山下太郎 ,   安東由喜雄 ,   内野誠

ページ範囲:P.583 - P.595

はじめに

 βシート構造を豊富に有する蛋白質の立体構造の変化(ミスフォールディング)を引き金とした重合により生じた不溶性の線維性蛋白質であるアミロイドが,諸臓器の細胞外に沈着することによって機能障害を引き起こす疾患群をアミロイドーシスという1)。これらの中には,家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP:familial amyloid polyneuropathy)や,AL(amyloid light chain)アミロイドーシス,AA(amyloid A)アミロイドーシス,Alzheimer病,伝搬性プリオン病などが含まれる2,3)。αシヌクレインによるLewy小体や,タウ蛋白による神経原線維変化,TDP-43(TAR DNA-binding protein of 43kDa)によるスケイン様封入体,ハンチンチンによる細胞内封入体などは,細胞内に線維性無構造物が沈着しておりアミロイドには分類されていないが,ミスフォールディングがその病態に関与している点はアミロイドと共通である4)

 FAPとは,遺伝的に変異を起こしたトランスサイレチン(transthyretin:TTR),ゲルソリン,アポAIなどを前駆蛋白質としたアミロイドが神経節を含む末梢神経や自律神経,そのほかの組織に沈着することにより臓器障害を引き起こす常染色体優性遺伝性の全身性アミロイドーシスである。本項では,この中で患者数が最も多いTTR型FAPについて概説する。

総説

摂食行動の脳内機構

著者: 箕越靖彦

ページ範囲:P.597 - P.604

はじめに

 摂食行動は,代表的な本能行動の1つであり,動物個体の生存にとって必須である。実際に,われわれの体重は驚くほど精密に制御されている。例えば,1年間に体重が1kg増加する場合を考えよう。この体重増加が脂肪組織重量に起因するならば,カロリー計算で約7,000kcalとなる(脂肪組織のエネルギー含量は水分も考慮すると7kcal/g)。これは1日19kcalの増加に相当し,一日の標準摂取カロリーを2,000kcalとすると,誤差は実に1%以下である。

 体重調節は摂食量だけでなく,エネルギー消費量によっても制御され体重が維持される。しかし,エネルギー消費量の調節にも限界があり,エネルギーバランス調節の要として摂食量の調節が重要である。生体恒常性調節機構の代表である血糖値でさえ,摂食によって90mg/dLから140mg/dLまで変化する。このことからも,摂食量がいかに厳密に調節されているかがわかる。さらに,このような摂取エネルギー量の調節に加え,必須アミノ酸,必須脂肪酸を含む各栄養素,ビタミン,微量元素の摂取調節が加わり,1日の食事内容が決定される。

 摂食調節を大きく分類すると,homeostaticな調節とhedonicな調節に分けることができる。これらの調節を各脳領域にあてはめると,homeostaticな調節を視床下部と脳幹が,hedonicな調節を扁桃体などの大脳辺縁系,側坐核,前頭前野などが担当すると考えられる。この考え方は今でも大枠において妥当であり,われわれが“美味な”食事に対して過食になることはhedonicな調節によるところが大きい。しかし,たとえ一過性に過食となっても,われわれの体は長期的にみると摂取エネルギー量や各栄養素の摂取を厳密に制御しているので,その意味で視床下部および脳幹はとりわけ重要である。

 視床下部での摂食調節機構に関する研究は,古くは破壊実験,電気生理学的な実験が中心であった。しかし,1994年にレプチン,1999年にグレリンが発見されて以後,視床下部,脳幹における摂食調節機構が生化学,内分泌学の分野においても議論されるようになった。さらに,肥満やメタボリックシンドロームのモデル動物において視床下部での摂食調節機構の異常が明らかにされ,視床下部の重要性が改めて浮き彫りとなった。

 視床下部は,栄養素,ホルモン,あるいは感覚神経を通して生体のエネルギーレベルを感知し,摂食行動とエネルギー消費,代謝を調節する。視床下部は,ヒト脳では非常に小さな領域を占めるに過ぎないが,この脳領域にはグルコースや脂肪酸を感受する化学感受性ニューロンが存在し,かつレプチン受容体などホルモン受容体が豊富に発現する。視床下部では,これらの機構を用いてわれわれの体の栄養状態を常にモニターし,その情報をもとに摂食行動を調節している。

 一方,近年の発見によって視床下部の一部のニューロンには肝臓や膵臓など末梢組織とよく似た代謝調節機構が存在し,これによって神経活動,遺伝子発現を変化させ,摂食量を調節することが,明らかとなった。そのため,肥満や糖尿病などさまざまな代謝疾患において,末梢組織と同様の異常が視床下部でも引き起こされ,そのことが過食,さらには視床下部を介した末梢組織への代謝調節作用を破綻させる可能性がある。

 本総説では,このような視床下部における代謝調節機構と摂食調節との関係について,“metabolic sensor”として知られるAMPキナーゼ(5'-adenosine monophosphate-activated protein kinase:AMPK)を中心に概説する。

症例報告

rt-PA静注療法により頭蓋内出血をきたした前大脳動脈解離による脳梗塞の1例

著者: 上山謙 ,   小山誠剛 ,   中村良一

ページ範囲:P.605 - P.610

はじめに

 血栓溶解剤recombinant tissue plasminogen activator(rt-PA)(アルテプラーゼ)静注療法は,本邦でも2005年に脳梗塞超急性期治療法として認可されて以来,急速に普及し,現在では臨床の場で広く行われている治療法である。本療法施行にあたっては出血を惹起するような病態については禁忌あるいは慎重投与が求められるが,頭蓋内動脈解離に起因した脳梗塞に対するrt-PA静注療法の適応については,十分なエビデンスがなく,『脳卒中治療ガイドライン2009』1)でも明確な指針は示されていない。

 今回,前大脳動脈領域の脳梗塞で発症し,rt-PA静注療法を行ったところ,rt-PA投与後に頭蓋内出血をきたし,その後の検査で前大脳動脈解離の診断が得られた1例を経験した。虚血発症の動脈解離は本療法における危険なピットフォールとなる可能性があり,急速に広まりつつある本療法に対する警鐘として報告する。

進行する脊髄症を呈したテント部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 竹下朝規 ,   豊田啓介 ,   宗剛平 ,   諸藤陽一 ,   堀江信貴 ,   林健太郎 ,   北川直毅 ,   陶山一彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.611 - P.615

はじめに

 テント部の硬膜動静脈瘻の多くは静脈洞を介さずに直接脳皮質静脈に還流するため頭蓋内出血や小脳・脳幹症状などの明瞭な臨床症状を呈することが多いが1,2),脊髄症で発症する例は比較的稀である3,4)。今回われわれは,進行する脊髄症を呈したテント部硬膜動静脈瘻の症例に対し血管内治療に続く直達手術を行い良好な結果を得た1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

このヒトに聞く

脳神経画像診断の歴史を振り返る

著者: 佐野圭司 ,   岩田誠

ページ範囲:P.616 - P.625

 このインタビューは2008年10月に東京脳神経センターで行われたものです。佐野圭司氏の偉大な足跡への敬意を表し,哀悼の意を込めて掲載いたします。佐野氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

(『BRAIN and NERVE』編集室)

連載 神経学を作った100冊(54)

トゥルソ『パリ オテル・ディユの臨床医学』(1861)

著者: 作田学

ページ範囲:P.626 - P.627

 トゥルソ(Armand Trousseau;1801-1867)は,生まれ育ったトゥールの病院で医学の道を歩み始めた。そこではインターンとして数年間ブルトノ(Pierre Fidèle Bretonneau;1778-1862)の下で学んだ。ブルトノはジフテリアの命名者として,また最初に気管切開を成功裡に行ったことでも知られている。その後トゥルソはパリに出て,1825年に医学部を卒業した。1826年に教授資格者となり,1831年Hôpital St. Antonieの病院医師になった。1839年に治療学の講座を受け持ち,1852年にはオテル・ディユの臨床医学講座の教授に就任した(Fig.1)1)

 彼はフランスの臨床医学の礎を築き上げた。それを示すように彼の名を冠する医学用語が現在まで多く残っている。Trousseau's phenomenonとは,1つにはテタニーのときに神経を圧迫するとその支配筋が収縮するものであり,また,Trousseau's spot(tache cerebral, cerebral spot)は,皮膚を爪でかくと生じる充血性の線条をいい,各種の脳・神経疾患において,特に髄膜炎の場合に顕著にみられる。Trousseau's twitchingとは,顔面筋の反復する短い攣縮をいい,Trousseau's pointとは,神経痛における脊椎棘突起の圧痛点をいう。また,Trousseau's signとは,潜在性のテタニーの場合,圧迫帯や血圧計のマンシェットで上腕を圧迫した際に手のテタニー発作が生じることをいい,Trousseau's syndromeとは,内臓癌の際にみられる移動性血栓性静脈炎を指す。

お知らせ

第22回日本末梢神経学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.555 - P.555

会 期 2011年9月2日(金),3日(土)

会 場 沖縄コンベンションセンター〔〒901-2224 沖縄県宜野湾市真志喜4-3-1〕

Worldsleep2011 -New Horizon of Sleep Research for Our Planet フリーアクセス

ページ範囲:P.610 - P.610

会 期 2011年10月16日(日)~20日(木)

    ※日本睡眠学会第36回定期学術集会併催[10月15日(土)~16日(日)]

会 場 国立京都国際会館(京都市左京区宝ヶ池/Tel:075-705-1234)

--------------------

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.596 - P.596

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.628 - P.629

あとがき フリーアクセス

著者: 梶龍兒

ページ範囲:P.630 - P.630

あとがき

 3月11日,私は島根県のある患者さんを診察するため,松江にいた。ちょうど3時ごろ診察が終わり,病院を出で駅に向かおうとしたときに,看護師さんが「先生,関東のほうで大きな地震があったようですよ,気をつけてお帰りください」と言ってくれた。ちょうど病院のテレビがついていたので見てみると,ヘリコプターからの映像で,津波が仙台付近の海岸と河口から信じられない速さでそ上しているのが映し出されていた。その200~300m先には何も知らないかのように農道を軽四輪がゆっくりと動いていた。「これは危ない!」と思った瞬間,テレビの中継が途絶えた。日本のマスコミはおそらく「最も悲惨なシーン」を伝えることを自粛するのであろう。その後,徳島に帰ってからメディアにくぎ付けになっていたが,本当に悲惨な現状はかえって海外のメディアによって伝えられていた。すぐに海外の知り合いから山のように私の安否を心配するメールがやってきたが,おそらくフクシマとトクシマを混同していたようである。悲惨な現実をあえて伝えない理由は沢山あると思う。しかし,日本の報道だけで本当の被災地の姿を知るためには,報道の背景にいる人々への共感と想像力が必要であるように思う。徳島にいて何もできなかった自分が歯がゆいが,事実が風化しないように見守りたい。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら