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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩63巻9号

2011年09月発行

雑誌目次

特集 脳卒中の最新画像診断

MDCTによる脳血管障害の診断

著者: 井上悟志 ,   細田弘吉 ,   藤田敦史 ,   大野良治 ,   藤井正彦 ,   甲村英二

ページ範囲:P.923 - P.932

はじめに

 「脳の世紀」は画像診断技術の発達抜きには語れない。Digital subtraction angiography(DSA)では回転撮影が日常的となり,magnetic resonance angiography(MRA)も3 tesla(T)の高磁場装置が普及した。しかし,脳の画像診断において最も頻用されるのはCTである。

 CT技術の開発により,HounsfieldとCormackの両名がノーベル生理学・医学賞を受賞したのは1979年である。1986年にはヘリカルCTが開発され,1998年には多列検出器CT(MDCT:multi-detector row CT)が登場し,2002年には16列MDCT,現在では320列面検出器CT(320-row area detector CT:320列ADCT)が市販されている。

 320列ADCTでは,0.5mm×320列=160mmの範囲を1 scan(最短0.35秒)で撮像可能である。造影剤投与後に複数回のscanを行うと,時間軸に沿って連続した3D-CTA volume dataのシリーズとなる(dynamic 4D-CTA)。この経時的データからはDSA類似の血行動態評価に加えて,全脳の脳血流評価が可能である(whole brain CT perfusion:CTP)。Helical scanを用いないことでデータの座標が正確となり,骨除去(bone subtraction)などvolume subtractionの精度が向上した。一方で,サーバーの大容量化,画像処理用workstationの高速化に伴う後処理技術の進歩も近年特筆すべきものがある。

 本稿では,脳血管障害に対するMDCT,特に3D-CT angiography(3D-CTA)の有用性について述べる。また,エンドユーザーとしての脳神経外科医の視点から,日常診療で利用している3D-CTA画像を紹介する。さらに,320列ADCTによる画像診断についても紹介したい。画像はすべて当院放射線部のZIOSTATION 1.3(Ziosoft社)を用いて筆者が作成したものである。

 各論に先立って主要な後処理方法について略記する。

SPECT・PETによる頸部頸動脈狭窄症に対する血行再建術前後の評価

著者: 黒田敏

ページ範囲:P.933 - P.944

はじめに

 近年の欧米における大規模臨床試験によって,頸動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)や頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)が高度の頸部内頸動脈狭窄に起因する脳梗塞を予防するうえで有効であることが明らかとなってきた。わが国においても,食生活の変化などを背景に頸部頸動脈狭窄症が以前よりも増加していることから,CEAやCASの実施件数が増加していると考えられている。ただし,これらのデータは欧米における臨床試験から得られたエビデンスであり,日本人にそのままあてはめることには注意が必要である。また,脳梗塞を予防するうえでのCEAやCASの意義は,あくまでも治療に伴う合併症が数%以下であることが前提であることに留意しなければならない。高度内頸動脈狭窄症に対するCEAやCASでは術前後で脳循環動態が大きく変化する症例が少なくなく,そのモニタリングは周術期の合併症を回避するうえで極めて重要である。

 臨床においてはSPECT(single photon emission computed tomography),PET(positron emission tomography),perfusion CT,perfusion MRI,TCD(transcranial Doppler),近赤外線スペクトロスコピー(near infrared spectroscopy:NIRS)など数多くの検査装置が脳循環動態を把握するために利用されている。なかでもPETは脳血流のほかに脳代謝や受容体分布など,さまざまなパラメータを3次元画像として測定することが可能であり,その開発以来,脳循環代謝測定のgold standardとしての役割を担っている。しかし,サイクロトロンが必要であるなど,一般病院での使用には制約があるのが現実である。一方,SPECTは数多くの病院に設置されており,サイクロトロンなどの施設も必要なく,3次元の脳血流画像を簡便に撮像することが可能であることから,わが国では最も広く使用されている。

 本稿では,高度内頸動脈狭窄症に対してCEAやCASを実施する場合に理解しておくべき脳虚血の病態を詳細に論じるとともに,SPECTやPETを用いた術前後の脳循環動態測定の実際について概説したい。

脳主幹動脈閉塞性疾患における虚血性大脳皮質神経細胞障害と認知機能障害―PETによる評価

著者: 山内浩

ページ範囲:P.945 - P.953

はじめに

 アテローム硬化性内頸動脈(internal carotid artery:ICA)または中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)病変患者における認知機能障害は多様であるが,主に2つの発生機序が考えられる1-3)。まず,認知機能に関与する特殊な領域の梗塞による局所脳機能障害が挙げられる。これの主な原因は,動脈原性塞栓による局所血管閉塞と考えられる。この場合,MRIなどの形態画像による梗塞の局在と認知機能障害との関連を検討可能である。そして,多発性の梗塞が多数の局所脳機能を障害すれば「認知症」を生じる。これは「多発梗塞性認知症」として一般的に知られている。

 一方,あまり知られていない機序として,血行力学障害による慢性脳虚血がある。慢性低灌流により認知機能障害をきたすことは古くから指摘されており2),血行再建術により認知機能が改善したという報告も散見される3)。慢性低灌流により一過性脳虚血発作や軽症脳梗塞を呈し,梗塞が認知機能障害の原因として特定しにくい患者では,認知機能障害は全般的であり,比較的軽症であることが特徴である4)

 近年の脳循環動態評価法の普及により,手術前後に脳循環動態と神経心理学的検査が多数例で検討されるようになり,認知機能障害は脳循環障害の存在と関連はあるものの,血行再建術後の変化は多様であることがわかってきた5)。慢性虚血による機能障害は初期には可逆的かもしれないが,なんらかの要因により不可逆的組織障害が進むと,血行再建術を行っても血流の改善は不十分で機能低下は残存する可能性がある3)。しかし,どれくらいの慢性虚血で不可逆的組織障害が生じるかは明らかではない。

 脳主幹動脈閉塞により脳梗塞が生じるよりも軽度の脳虚血が生じると,大脳皮質に選択的神経細胞障害(不完全脳梗塞)が生じることが,動物実験で明らかにされてきた6)。近年,神経細胞表面に存在する中枢性ベンゾジアゼピン受容体(benzodiazepine receptor:BZR)を画像化することにより,虚血性神経細胞障害の生体での評価が可能になった7-12)。BZRは抑制性神経伝達物質のγ-アミノ酪酸の受容体と複合体を形成している。臨床的には,BZRは,11C-標識flumazenil(FMZ)とpositron emission tomography(PET)を,あるいは,123I-標識iomazenilとsingle photon emission computed tomography(SPECT)を用いて画像化される。アテローム硬化性ICAまたはMCA病変患者においても,形態画像上梗塞のない大脳皮質にBZR低下が検出され13-15),高度脳循環障害(misery perfusion)と関連して生じることが明らかになった16-19)。すなわち,高度脳循環障害を呈する患者では,灌流圧低下による血行力学的脳虚血が間歇的に神経細胞障害の閾値を超えることにより,形態画像上梗塞を伴わない選択的神経細胞障害を引き起こすと考えられる。この選択的神経細胞障害が,慢性虚血による不可逆的機能障害の一因である。本稿では,大脳皮質BZR低下と認知機能障害との関係について,われわれの研究を中心に概説する。

NIRSによる脳循環モニタリングの進歩

著者: 酒谷薫 ,   横瀬憲明 ,   片桐彰久 ,   星野達哉 ,   藤原徳生 ,   村田佳宏 ,   平山晃康 ,   片山容一

ページ範囲:P.955 - P.961

はじめに

 近年,生体透過性に優れた近赤外光を用いて,脳酸素代謝や脳循環を非侵襲的に計測する近赤外分光法(near infrared spectroscopy:NIRS)が急速に進歩してきた。NIRSは新生児の脳虚血や低酸素による脳酸素代謝変化をモニタリングすることを目的に開発されたが,成人の脳循環も計測できることが明らかとなり,内頸動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)の術中モニタリングなどに応用されてきた1,2)。連続光を用いた一般のNIRSでは,光路長(光が飛行する距離)は一定と仮定してヘモグロビン(hemoglobin:Hb)濃度変化を算出しているが,最近の研究によると光路長は測定部位や個体による違いが少なくないことが報告されており3),測定制度の問題が指摘されている。また,安静時Hb濃度を測定できないという問題点もある。

 本稿では,NIRSを用いた脳循環計測の測定精度を向上させ,NIRSの臨床診断における有用性を向上させることを目的とした最近の研究について解説する。

プラーク診断の最前線

著者: 高崎盛生 ,   斎藤こずえ ,   福島和人 ,   山田直明 ,   植田初江 ,   飯原弘二

ページ範囲:P.963 - P.968

緒言

 頸動脈狭窄症は,本邦において近年の高齢化社会や生活習慣の欧米化に伴い急増している動脈硬化性疾患の1つである。その治療法においては,NASCET(North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial)1),ACAS(Asymptomatic Carotid Atherosclerosis Study)2)など大規模なstudyに基づいて行われていることが多いが,最近はより安全,確実な治療方針を検討するうえで,プラーク診断の重要性が認識されている。本稿では,現在のプラーク診断の実際と臨床的意義について概説する。

総説

病態を考慮した脊髄空洞症の診断

著者: 寺江聡 ,   飛騨一利 ,   佐々木秀直

ページ範囲:P.969 - P.977

はじめに

 脊髄空洞症とは,数髄節以上にわたる,管腔様の空洞が脊髄内に生じた状態をいう1)。その内腔は液体で満たされている。脊髄中心管が拡大して生じた空洞は水髄症(hydromyelia)と呼ばれ,その壁は上衣組織である。一方,空洞の全体ないし大部分が中心管の外に存在するものは脊髄空洞症(syringomyelia)と呼ばれる。しかし,hydromyeliaとsyringomyeliaの区別は臨床上は困難なことが多い。これらをまとめたものを指す,syringohydromyeliaという疾患名もあるが,通常は,これを脊髄空洞症(syringomyelia)と表現していることが多い。本稿でも,原則として,脊髄空洞症はsyringohydromyeliaの意味で用いる。空洞は主に灰白質を中心として存在するが,しばしば後角に伸展し,ときに後角の軟膜直下に及ぶ。また,しばしば白質に伸展する1)

 脊髄空洞症は,MRIの登場によって容易に診断可能となった。脊髄空洞症は,外科治療によって治療可能な疾患であるが,適切な治療法の選択には,脊髄空洞症の原因疾患や病態の把握が必要である。脊髄空洞症の診断基準は1997年に厚生省特定疾患神経変性疾患調査研究分科会で提唱された2)。しかし,初回診断基準の作成から10余年を経ており,その後の医療環境を踏まえて今後の診療と臨床研究に役立てるために,2009年に診断基準を再検討した。

 脊髄空洞症の発生機序についてはいまだ不明な点が多く,脊髄空洞症の発生機序を解明していくうえでも,原因疾患や病態を考慮した脊髄空洞症の診断と分類が必要と思われる。本稿では,われわれが「厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 神経変性疾患に関する調査研究 平成21(2009)年度」で提案した脊髄空洞症診断基準を紹介し,その説明を行う3)

食餌性ボツリヌス症

著者: 中村優子 ,   澤田幹雄 ,   池口邦彦 ,   中野今治

ページ範囲:P.979 - P.985

はじめに

 ボツリヌス症はグラム陽性嫌気性桿菌であるボツリヌス菌Clostridium botulinumの産生する毒素によって四肢麻痺を生じる疾患であり,その病型としては食餌性ボツリヌス症,乳児ボツリヌス症,そう傷性ボツリヌス症および成人腸管定着ボツリヌス症がある。食餌性ボツリヌス症はボツリヌス菌が産生した毒素が食物とともに摂取され,腸管から吸収されて発症する生体外毒素型の食中毒の一種であり,他の病型は感染型中毒である。ボツリヌス症を診療する機会は稀であるが,遭遇した場合には迅速かつ的確に診断し治療を開始する必要がある。ボツリヌス症のうち主に食餌性ボツリヌス症について,自験例を提示しながら概説する。

痛みと痒みの脳内認知機構

著者: 柿木隆介 ,   望月秀紀

ページ範囲:P.987 - P.994

はじめに

 ヒト脳内での痛みと痒みの認知機構の研究は,極めて重要なテーマであるにもかかわらず,種々の技術的困難のために遅々として進まなかった。ヒトを対象とする場合,非侵襲的検査を用いなければならないことが最大の理由である。しかし,近年の科学技術の急速な進歩によって,従来から行われてきた脳波に加え,ポジトロン断層撮影(positron emission tomography:PET),機能的磁気共鳴画像(functional magnetic resonance imaging:fMRI)および脳磁図を用いた研究発表が増加してきた。脳磁図は時間分解能が高いため初期反応の時間的情報を得るのに適しており,fMRIは空間分解能が高いため詳細な活動部位の解析に適している1,2)。本稿では,痛みと痒みに分けて,それらに関連した脳活動について脳磁図とfMRIを用いた筆者らの最近の研究成果を紹介したい。

原著

脳卒中緊急入院症例の院内死亡率―病型別背景因子の比較

著者: 定政信猛 ,   吉田和道 ,   鳴海治 ,   沈正樹 ,   山形専

ページ範囲:P.995 - P.999

はじめに

 厚生労働省の統計1)上,脳卒中は昭和26年から昭和55年までの30年間にわたって日本における死亡原因の1位であった。現在脳卒中の死亡率は過去に比し低下してきているものの,病型によっては依然として比較的高い死亡率を保ち続けている。しかし,脳卒中急性期病院に緊急入院した症例が実際にどの程度入院中に死亡しているのか,また,直接の死亡原因としては何が多いのかについて調べ,病型別に背景因子を比較した報告は少ない。

 今回われわれは,単一施設において1年間に経験した脳卒中症例から死亡例を抽出し,頻度,年齢,死亡原因などの因子について比較検討を行ったので報告する。

症例報告

進行性多巣性白質脳症(PML)の1剖検例―MRIと病理所見の対比

著者: 飯田円 ,   川上治 ,   安藤哲朗 ,   吉田眞理 ,   橋詰良夫 ,   早川清順

ページ範囲:P.1001 - P.1007

はじめに

 悪性リンパ腫(malignant lymphoma:MLy)治療中の患者やAIDS(acquired immunodeficiency syndrome)患者に脳内病変が生じた場合には,脳内MLy,トキソプラズマ感染などと,進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)を鑑別するために脳生検が必要になることがある1-4)。ただし,脳生検では少量の組織しか採取できないので,最も診断的価値が大きい部位を選択して生検する必要がある。しかしながら,PMLにおいて脳生検の適切な部位を検討した報告は少ない。本症例報告ではMRI所見の経過を追い,生検結果を踏まえてPMLのMRI所見と病理所見を対比して,確定診断に適切な生検部位を検討した。

遺残性原始三叉動脈変種に関連した高齢者三叉神経痛の1症例

著者: 川原一郎 ,   本川哲史 ,   梅野哲也 ,   諸藤陽一 ,   高畠英昭 ,   戸田啓介 ,   堤圭介 ,   馬場啓至 ,   米倉正大

ページ範囲:P.1009 - P.1012

はじめに

 三叉神経痛の発生機序に関してはさまざまな議論があるが,一般的には血管による神経圧迫説が最も有力である。その仮説に基づき,現在では後頭下開頭による神経血管減圧術(MVD:microvascular decompression)が幅広く行われている。知覚神経の脆弱性もあり神経根全長にわたって原因となる圧迫が起こり得るとされる。その責任血管には動脈と静脈があるが,75~80%の頻度で上小脳動脈が原因である1)

 遺残性原始三叉動脈(PTA:persistent primitive trigeminal artery)やその変種(PTA variant)は,動脈瘤やほかの血管奇形を合併しやすいことで知られており,三叉神経痛の原因となることは比較的稀である2-7)

 今回われわれは,PTA variantに関連した高齢者三叉神経痛の症例を経験したので文献的考察を加え報告する。

神経画像アトラス

造影後FLAIR画像が診断に有用であった癌性髄膜炎の1例

著者: 有島英孝 ,   山内貴寛 ,   竹内浩明 ,   菊田健一郎 ,   山元龍哉 ,   木村浩彦 ,   門脇麻衣子 ,   梅田幸寛 ,   石崎武志

ページ範囲:P.1014 - P.1015

〈症 例〉59歳,女性

 既往歴 3年前から肺癌のため当院で治療中。

 現病歴 3年前に上背部痛が出現,脊髄MRIで第2胸椎椎体腫瘍が判明し,生検と全身検索の結果,左肺尖部肺癌(扁平上皮癌)と胸椎への直接浸潤と診断された。以後,放射線化学療法が施行され,胸椎の病変に対してはpedicle screwで固定術が施行された。その後も化学療法が継続されたが,肺癌の縦隔と脊椎への浸潤が進行し呼吸困難と両下肢対麻痺が悪化して呼吸器内科に入院中であった。徐々に意識レベルが低下したため頭部単純CTを施行,脳室拡大を認め脳神経外科にコンサルトがあった。

このヒトに聞く

わが神経生理学史―好奇心のままに歩んで

著者: 伊藤正男 ,   岩田誠

ページ範囲:P.1017 - P.1025

 今回は世界の脳研究をリードし続けてきた伊藤正男氏にご登場いただいた。東大医学部時代の教え子でもある岩田 誠氏が聞き役ということもあり,インタビューは終始リラックスした雰囲気で進み,さまざまな学部の授業にもぐり込んだ学生時代から,エックルス氏との出会い,世界的大発見とその後の苦労,そして現在の関心事まで,常に新しいことに取り組んできたその軌跡をお話しいただいた。

連載 神経学を作った100冊(57)

パーキンソン『振戦麻痺に関する論文』(1817)

著者: 作田学

ページ範囲:P.1026 - P.1027

 この本は日本にはない。それどころか,故豊倉康夫教授によれば世界中に8冊しか存在が知られていない。例えば,かなり早くにスウェーデンで紹介されているが,肝心の本は彼の地にはないようである。

 唯一,個人の蔵書であった本はシカゴのクー(Sydney Kuh)博士を経て,サンフランシスコのノーマン(Haskell F. Norman)博士が所有していた。それは1998年3月にニューヨークのクリスティーズでオークションに掛けられ,1,000万円でどこかに売られていった。冒頭に掲げたのがこのノーマン博士の蔵書である。これはシャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893)がマンチェスター大学図書館のウィンザー(Windsor)氏から原本を手に入れたまさにその書物である。左上には「Thomas Windsor Feb, 1888」とある。シャルコーは1888年6月12日の火曜講義で,このいきさつを書いている2)

書評

「多発性硬化症 治療ガイドライン2010」―日本神経学会,日本神経免疫学会,日本神経治療学会●監修 「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会●編 フリーアクセス

著者: 田平武

ページ範囲:P.978 - P.978

 多発性硬化症(MS)治療ガイドラインが改訂された。初版は斎田孝彦前国立病院機構宇多野病院長が委員長として2002年に日本神経免疫学会と日本神経治療学会により共同で策定された。あれから8年がたちMSの考え方も治療法も大きく進歩した。今回は厚生労働省免疫性神経疾患調査研究班の班長であった吉良潤一九州大学神経内科教授を委員長としてエビデンスの詳細な検討が行われ,日本神経学会も加わって3学会により合同で策定された。

 今回の特徴はクリニカル・クエスチョン形式をとっていることで,MS医療の現場にいる医師が直面する疑問に容易に答えを見出すことができる。さらにエビデンスレベルおよびMindsの推奨のグレードが明確に示されており,EBMの実践を可能にしている。

「《脳とソシアル》ノンバーバルコミュニケーションと脳―自己と他者をつなぐもの」―岩田 誠,河村 満●編 フリーアクセス

著者: 鈴木匡子

ページ範囲:P.1000 - P.1000

 コミュニケーションは「自己と他者をつなぐもの」である。本書は,その中でも言語を使わないノンバーバルコミュニケーションのために脳がどんなしくみを持っているのかをさまざまな角度からみせてくれる。本書で取り上げられているノンバーバルコミュニケーションは多岐にわたる。目の認知や視線の方向から,顔の表情や向き,身体の姿勢,動きや行為,さらに社会の中での行動までカバーされている。そして,話題はこれらの機能を支える神経基盤だけでなく,ミラーシステム,脳指紋,社会的要因と脳機能の相互関係,脳科学の社会的意義にまで及ぶ。

 本書の斬新さは,広汎な研究をノンバーバルコミュニケーションという視座からとらえ直すことによって,それぞれの研究の意義を浮き彫りにしている点にある。例えば,顔認知を支える脳に関して,神経細胞活動記録,脳波,脳磁図,近赤外線分光法,機能的MRIなどを駆使した各研究は,それぞれ非常に読み応えがある。それだけでなく,岩田誠先生と河村満先生の対談で,ノンバーバルコミュニケーションとしての顔認知の位置づけが明らかにされることによって,個々の研究結果を統合的に理解することができる。

お知らせ

第16回認知神経科学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.985 - P.985

テーマ 認知神経科学の基礎と応用

会 長 蜂須賀研二(産業医科大学リハビリテーション医学講座・教授)

会 期 2011年10月22日(土),23日(日)

会 場 産業医科大学ラマツィーニホール(〒807-8555 北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1)

第24回日本総合病院精神医学会総会 フリーアクセス

ページ範囲:P.1025 - P.1025

会 長 神庭重信(九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野)

会 期 2011年11月25日(金),26日(土)

会 場 福岡国際会議場(〒812-0032 福岡市博多区石城町2-1)

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1013 - P.1013

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.1028 - P.1029

あとがき フリーアクセス

著者: 作田学

ページ範囲:P.1030 - P.1030

 近年論文を書かない傾向がとみに顕著になっている。日本神経学会の総会を見れば,昔に比べて倍近い数の発表があり,決して書くべき研究成果がないわけではない。『臨床神経学』『脳と神経』『BRAIN & NERVE』の編集委員をこれまで4半世紀以上続けてきた経験からすると,ただ単に論文を書かないということのようで,日本語の論文ではなく英語の論文を書いている,ということでもなさそうだ。論文を書かないということにおいては私自身も人後に落ちないほうであるが,自戒の意味も含めていかに論文を書くか,を考えてみたい。

 論文の書き方を系統的に習う機会が少ないことが論文を書かない第1の原因と言われることがある。しかし,私がある病院の部長をしていた頃は,私自身は何も教えなかったが,そこでは医局員の切磋琢磨があり,ごく自然に日本や米国の雑誌に論文が次々に掲載された。ある医局員は米国の雑誌にrejectされたにもかかわらず,粘りに粘り,とうとうヨーロッパの雑誌に掲載されたこともある。しかしながら,最近はいったんrejectされると,2度と書かない,あるいはrejectされるのが嫌で書かないということもあるようだ。論文がrejectされるのは,何も人格が否定されたのでもなんでもない。その雑誌には合わないということだけだ。落とされても落とされても這い上がるというチャレンジ精神は大切である。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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