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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩64巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

特集 iPS細胞と神経疾患

iPS細胞を用いた脊髄損傷治療

著者: 海苔聡 ,   辻収彦 ,   岡田洋平 ,   戸山芳昭 ,   岡野栄之 ,   中村雅也

ページ範囲:P.17 - P.27

はじめに

 20世紀初頭にスペインの神経解剖学者Ramon y Cajalが「成体哺乳類の中枢神経系は1度損傷を受けると再生しない」と述べて以来,このことが長い間定説として信じられてきた。脊髄損傷は,損傷部以下の知覚・運動・自律神経系の麻痺を呈する中枢神経系の損傷である。現在,わが国では年間6千人以上の脊髄損傷患者が発生し,その総数は15万人以上である。集学的医療の進歩によって脊髄損傷患者の平均余命は健常人と変わらなくなっているが,損傷された脊髄を直接治療する方法がないのが現状である。このため,日常生活の不自由や精神的負担が長期間にわたって患者を苦しめる結果となり,社会的問題となっている。しかしながら近年,幹細胞研究の急速な進歩によって,動物実験レベルでは,細胞移植をはじめ,損傷脊髄の修復が得られる治療法が多数報告されるようになった。基礎研究で得られた結果を臨床の現場で応用できれば,脊髄損傷に対して新たな治療法を確立することも夢ではないと考えられる。

 細胞移植は古くから注目を集めており,1980年代にスウェーデンLund大学のLindvallのグループ1)が,パーキンソン病患者の脳へ胎児中脳を移植し,機能の回復が得られることを報告した。その後,ラット脊髄損傷に対しても,ラット胎仔脊髄移植の有効性が示された2,3)。これによって,損傷した脊髄でも微小環境が整えば再生することが示され「中枢神経系は1度損傷を受けると再生しない」という通説が覆された。

 脊髄損傷における再生医療の戦略は,神経栄養因子や軸索伸展阻害因子の阻害剤4)などを組み合わせた細胞移植療法以外の治療法と神経幹細胞・ES細胞・iPS細胞などを用いた細胞移植療法の2つのアプローチに大別される5)。これらの方法を組み合わせた治療を行うことで,損傷された神経組織を再生し機能を回復させることができれば,脊髄損傷治療に新たな可能性が開けてくるものと確信している。本稿では,われわれがこれまで行ってきた神経幹細胞・ES細胞を用いた細胞移植研究の現状に触れながら,現在日本において再生医療分野で最も注目されている,「iPS細胞を用いた脊髄損傷治療の現状と今後の展望」について概説する。

パーキンソン病に対するiPS細胞技術の挑戦

著者: 森実飛鳥 ,   高橋淳

ページ範囲:P.29 - P.37

はじめに

 京都大学のYamanakaらによる2007年のヒト人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;以下,iPS細胞)樹立の報告1)によって,今まで治療困難とされてきた疾患に対する新たな治療法の開発や病態解明への道が開けてきた。その中でもパーキンソン病はiPS細胞を応用できる疾患として大きなターゲットの1つである。iPS細胞の臨床応用を考えた場合,細胞移植治療のドナー細胞としての利用と,疾患の細胞モデルとしての利用という2つのアプローチが考えられる。本稿ではパーキンソン病におけるこれら双方のアプローチについて,現在の研究の進行状況を概説する。

iPS細胞と筋ジストロフィー―筋ジストロフィーの細胞移植治療の実現化を目指して

著者: 西山尚志 ,   武田伸一

ページ範囲:P.39 - P.46

はじめに

 筋ジストロフィーとは,筋線維の破壊・再生を繰り返しながら,進行性の筋力低下,筋萎縮を引き起こす遺伝性筋疾患の総称である。臨床症状,遺伝形式,予後が異なるいくつかの病型があるが,その中でも最も発生頻度が高く,重篤な経過を示すものが,Duchenne型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)である。DMDはX連鎖性で,患者のほとんどは男児である。その頻度は新生男児3,500人に1人であり,2~5歳頃から歩行障害によって発症して筋力低下が進行し,患者の多くが30歳以前で心不全,呼吸障害などによって死亡する。DMDは,ジストロフィン(dystrophin)をコードするジストロフィン(DMD)遺伝子の変異によって,発症する。ジストロフィンは,運動・抗重力などによって生じる機械的負荷に対し,筋線維の強度を維持するために必要な細胞骨格蛋白質であり,ジストロフィンが欠損することによって,骨格筋膜が脆弱になり,筋変性・壊死が引き起こされる。インフレーム変異によって,短縮したジストロフィンが発現している場合は,軽症であるBecker型筋ジストロフィー(Becker muscular dystrophy:BMD)と呼ばれる表現型をとる。本稿ではDMDの治療研究の現状とiPSテクノロジーを用いたDMDの再生医療研究について概説する。

ヒトiPS細胞の再生医療および創薬研究への応用の現状と展望

著者: 早川堯夫 ,   水口裕之

ページ範囲:P.47 - P.57

はじめに

 2007年にヒト人工多能性幹細胞(human induced pluripotent stem cells:hiPScs;以下,ヒトiPS細胞)が山中らにより発明されて以来早5年が経過した。これは,分化したヒト細胞をリプログラミング(初期化)できることを示したものであり,ヒト細胞の分化・脱分化が人為的に自在に操作できる可能性を示唆する金字塔である。その活用により,生命現象解明のための基礎研究,病因や発症機構解明などの医学研究,毒性・薬効評価系確立などを通した創薬研究,さらに再生医療の実用化にも無限の可能性が拓かれた。

 ヒトiPS細胞は,胚性幹(embryonic stem:ES)細胞と異なり倫理的な問題が少なく,また自己iPS細胞由来の製品では,ドナーとレシピエントが同一人であり,移植した場合の拒絶反応の回避が期待できるなど,再生医療のための素材として大きな脚光を浴びている。ヒトiPS細胞による再生医療の本格的な実用化には時間を要すると思われるが,一部では着実な進展もみられている。一方,創薬研究のためiPS細胞に由来する細胞アッセイ系を活用しようとするアプローチは,再生医療用製品におけるような安全性の観点からの課題を多くの場合考慮に入れる必要はなく,より早期の実用化が期待されている。本稿では,主にわが国での再生医療および創薬研究(医薬品開発研究)へのヒトiPS細胞の応用に関する現状と今後の展望について解説する。

巻頭言

巻頭言 フリーアクセス

著者: 河村満

ページ範囲:P.5 - P.5

 本号から岩田 誠先生に代わって,本誌編集主幹の指名を受けましたので,ご挨拶させていただきます。

 私は,学生時代に平山惠造先生(千葉大学名誉教授)の『神経症候学』(文光堂)を読んで,大変な刺激を受けました。神経症候と神経系との関連を解き明かす臨床医学的アプローチに大きな魅力を感じたのです。母校の横浜市立大学には神経内科の独立した講座がまだなかったこともあり,卒業してすぐに,平山先生が開設・主催なさった千葉大学神経内科に入局させていただきました。その後,大脳病変の神経症候学に特に興味を持って,臨床神経心理学を専門に選びました。研究を進めるうちに,神経心理学は,生理学や心理学などの多くの領域と関連があることがわかり,内外の多方面にわたる専門家と知り合うことができました。16年ほど前に,現在の昭和大学神経内科に移りました。本誌の前身である『脳と神経』の編集メンバーに加えていただいたのは12年前で,まだ助教授の時であったと思います。最初の会議で近くの席にいらした柳澤信夫先生(信州大学名誉教授)が,緊張している私に優しく声をかけ,リラックスさせてくださったことをまだ鮮明に記憶しています。

座談会

BRAIN and NERVEの未来

著者: 河村満 ,   神田隆 ,   桑原聡 ,   酒井邦嘉 ,   泰羅雅登 ,   三村將 ,   森啓

ページ範囲:P.7 - P.15

 本誌は本号より編集委員体制を大きく変更した。これまで以上に読み応えのある誌面づくりにさきがけ,新編集委員7人に今後の脳神経科学の方向性と編集委員としての抱負を語っていただいた。

総説

片頭痛病態研究の展開と新たな治療への展望

著者: 清水利彦 ,   鈴木則宏

ページ範囲:P.59 - P.64

はじめに

 片頭痛は,悪心,嘔吐および光過敏や音過敏などを伴う,拍動性の著しい痛みを特徴とする日常生活に支障をきたすほどの頭痛である。中枢神経系におけるセロトニンの低下が基本的病態であり,セロトニンの5-HT1B/1D受容体アゴニストであるトリプタンが効果を示す。しかし一部にはトリプタンが有効性を示さない症例もあり,さらなる病態の解明およびトリプタンに代わる新しい片頭痛治療薬も必要とされている。本稿では片頭痛の最新の病態理論と仮説を解説するとともに,最近開発され海外で治験が進みつつある片頭痛新規治療薬であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)受容体アンタゴニストの効果について概説する。

自閉症スペクトラムとシナプス蛋白質のアンバランス

著者: 宍戸恵美子

ページ範囲:P.65 - P.70

はじめに

 1943年にアメリカの精神科医Leo Kannerがはじめて報告して以来,自閉症スペクトラム(autism spectrum disorder:ASD)は多くの人にとってミステリアスな病気だった1)。診断基準については,1970年にイギリスの児童精神科医Lorna Wingが「自閉症の3つ組」と呼ばれる中心的症状を定義し,社会性の問題,コミュニケーションの問題,想像力の問題という3つの性質によって特徴づけられるようになった2,3)。ASDには言語的なコミュニケーションの遅れが著しく知的障害を伴うグループと,言語的なコミュニケーションに大きな障害がないグループがあり,後者には高機能自閉症やアスペルガー症候群が含まれる3)

 自閉症の原因については,①生育環境や内分泌攪乱物質などによるとされる環境要因説,②家系や遺伝子の突然変異に原因があるとする遺伝的要因説,③DNAメチル化などの影響を考慮に入れたエピジェネティクス要因説が考えられ,半世紀以上にわたり研究や報告がなされてきた2,4,5)。しかし,これらが時としてASDの症状の特異性とあいまって,さまざまな流言や憶測を生んできたのもまた事実である。同時代に家庭に普及したテレビの視聴をはじめとするメディアが問題だとされたこともあるし,水銀原因説からワクチン接種への疑いがもたれた時期もある4)。ASDの症状を合理的に説明するだけの原因がわからないため,治療法についても,効果が検証されたもの,されていないものを含めて一過的な流行を作ることがしばしばあった。しかし,2007年にASD患者の全ゲノムDNAへのアプローチが報告されて以来,こうした情勢は大きく変わりつつある。ASD患者の全ゲノムを網羅的に調べることにより,ASDと特定の遺伝子のコピー数に相関関係があることがわかった。そして,多くの場合に神経のシナプスを構成する蛋白質の遺伝子コピー数が,通常と異なることがわかってきた。このことから,ASDの発症に神経シナプス蛋白質のアンバランスが関与することが想定されるようになった。

症例報告

両側視床病変が遅発性に出現した悪性リンパ腫関連傍腫瘍性辺縁系脳炎の1例

著者: 金光宗一 ,   上野弘貴 ,   内藤かさね ,   関根真悠 ,   大下智彦 ,   中村毅 ,   山脇健盛 ,   松本昌泰

ページ範囲:P.71 - P.77

はじめに

 傍腫瘍性辺縁系脳炎(paraneoplastic limbic encephalitis:PLE)は悪性腫瘍の免疫介在性機序による遠隔効果のため,主に大脳辺縁系が障害される病態と考えられている。悪性リンパ腫関連PLEでは抗神経抗体との関連が示唆される報告がいくつかある。しかし,その病態発症に関する機序や抗体の意義については不明な点が多い。また,悪性リンパ腫関連PLEは画像的特徴として,発症時に海馬や扁桃体など側頭葉内側にMRIで異常信号がしばしば認められる。

 われわれは,び漫性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma)関連PLEの62歳男性症例を経験した。悪性リンパ腫寛解後も神経症状は進行性であり,免疫療法にも反応は得られなかった。また,治療経過中に側頭葉内側の病変に遅れて両側視床に病変が出現した。本例は,悪性リンパ腫関連PLEとしてはこれまでの報告に比べ治療抵抗性であり,画像所見の経過が特徴的で貴重な症例と考えられたため,ここに報告する。

Tissue-plasminogen activator使用後脳浮腫が1カ月以上遷延した脳梗塞の1例

著者: 秋山真美 ,   小関宏和 ,   大渕英徳 ,   萩原信司 ,   谷茂 ,   田中典子 ,   藤林真理子 ,   久保長生 ,   糟谷英俊

ページ範囲:P.79 - P.84

はじめに

 脳梗塞後の脳浮腫は,発症後24~72時間がピークと言われているが1),脳浮腫が長く残る症例を稀に経験する。われわれは,脳梗塞と診断後,t-PA(tissue-plasminogen activator)を使用したところ,症状は劇的に改善したが,その後脳浮腫が1カ月以上にわたって増強し症状が悪化,腫瘍との鑑別を要した症例を経験した。画像の経時的変化と病理組織学的検索の結果から,本例において脳浮腫が遷延した原因を文献的に考察した。

神経画像アトラス

ステロイド療法が奏功した中枢神経原発リンパ腫様肉芽腫症の1例

著者: 島田さやか ,   上野弘貴 ,   山崎文之 ,   杉山一彦 ,   安冨浩子 ,   関根真悠 ,   大下智彦 ,   倉重毅志 ,   中村毅 ,   西原広史 ,   山脇健盛 ,   栗栖薫 ,   松本昌泰

ページ範囲:P.85 - P.87

 中枢神経原発リンパ腫様肉芽腫症(central nervous system lymphomatoid granulomatosis:CNS-LYG)は非常に稀な疾患で,病理所見やMRI所見が特異的であり診断上重要である。われわれはステロイド療法単独で良好な転帰を得たCNS-LYG症例を経験したので報告する。

Neurological CPC

起炎菌不明の髄膜炎治療中に,急性多臓器不全を併発し死亡した65歳男性例

著者: 藤ヶ崎浩人 ,   大橋健一 ,   藤ヶ崎純子 ,   横地正之 ,   河村満 ,   後藤淳 ,   織茂智之 ,   福田隆浩 ,   鈴木正彦

ページ範囲:P.89 - P.96

症例提示

司会(藤ヶ崎純子) 今回は藤ヶ崎浩人先生から,臨床・病理ともに提示いただきます。

 それでは,臨床の経過から,よろしくお願いします。

主治医(藤ヶ崎浩人) 今回のタイトルは,ちょっと謎かけのようで,あまりよろしくないのですが,結果をご覧いただくとおわかりいただけると思います。本症例は,病理解剖の重要性を再認識させられた例です。

書評

「神経内科ハンドブック 第4版 鑑別診断と治療」―水野美邦●編 フリーアクセス

著者: 高橋良輔

ページ範囲:P.97 - P.97

 神経内科ハンドブックの初版は1987年4月に発行された。ちょうど私は卒後5年目で神経内科専門医(当時は認定医)試験受験の直前であった。コンパクトでありながら,読みやすい文章で多くの情報が無駄なく偏りなく取り上げられており,短時日で読みとおしてしまった。試験に役立ったのはいうまでもないが,それよりもベッドサイドでこれほど実践的な教科書はこれまでなかったのではないかという強い印象を受けた。最も目を瞠ったのは,編集者の水野美邦先生ご自身が執筆され,第4版でもそのエッセンスは変わっていない神経学的診察法と局所診断の項目であった。臨床に有用な神経解剖・神経生理の記載が充実しているだけでなく,初心者にやさしく語りかけるようなアドバイスも書き込まれている。例えば局所診断の章の最初に掲げられている「経験者は複雑な症候の患者をみても,すぐどの辺りに障害があるか見当がつくが,初心者は末梢から順に考えていくとよい」という金言は,後に水野先生の病棟回診を見学する機会を得て,難しい症例に関しては水野先生ご自身がそのとおり実践されているのを目の当たりにすることができた。

「《神経心理学コレクション》ふるえ[DVD付]」―柴﨑 浩,河村 満,中島雅士●著 山鳥 重,河村 満,池田 学●シリーズ編集 フリーアクセス

著者: 廣瀬源二郎

ページ範囲:P.98 - P.98

 神経心理学コレクションシリーズとして出版された『ふるえ』は極めてユニークである。神経心理学とは大脳皮質の高次機能を脳の構築と関係づける学問であり,医学書院のこの神経心理学コレクションも言語,行為,知覚から意識や記憶まで多岐にわたる人間の高次機能を新しい切り口でとらえ直すシリーズとして発刊されたものである。

 今回の『ふるえ』は振戦のみならず,ミオクローヌス,ジストニー,舞踏運動などいわゆる不随意運動について臨床神経生理学の第一人者である柴﨑 浩先生が経験された症例の動画を提示して説明し,2人の聞き手が問いかけ,コメントする形でつくられている。多くは基底核,小脳の機能障害である不随意運動を神経心理学シリーズで取り上げた点は今までにない発想である。ただ不随意運動はすべて運動障害であり,その多くはどこに原因があろうと運動野を中心とする運動調節中枢が最終的に関与して脊髄前角細胞を発火させるfinal common pathを考えればこのユニークさも理解できる。

学会印象記

Alzheimer's Association International Conference on Alzheimer's Disease 2011(2011年7月16日~21日,パリ)

著者: 冨所康志 ,   玉岡晃

ページ範囲:P.99 - P.99

 本学会は,アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)に関する世界最大の国際学会であり,本年より公式名称がthe Alzheimer's Association International Conference on Alzheimer's Disease(AAICAD)からthe Alzheimer's Association International Conference(AAIC)に変更された。本年のAAICは,7月16日~21日にポルテ・ド・ベルサイユコンベンションセンターにて開催された(写真)。

 ADの臨床診断基準の改定案が昨年提示されたことに続いて,本年はさらに,“preclinical AD”,“MCI due to AD”,“dementia due to AD”の概念の説明がなされた。認知症発症前にADの診断が可能となったことを受けて,ADの病理学的診断基準であるNIA-Regan Neuropathologic Criteriaの改訂に関する論議が行われた。

連載 神経学を作った100冊(61)

『ジョン・ヒューリングス・ジャクソン選集』(1931~1932)

著者: 作田学

ページ範囲:P.100 - P.101

 ジャクソン(John Hughlings Jackson;1835-1911)は英国の神経病学者である。信頼できるケリー(Emerson Crosby Kelly;1899-1977)の『医学出典百科』(1948)やギャリソン(Fielding Hudson Garrison;1870-1935)の『医学史 第4版』(1929)では1834年生まれとしているが,1835年4月4日生まれが正しいようである。ジャクソンはヨークシャーのハマートン近郊のあまり裕福とはいえない農家の家に生まれたが,若い頃のことはあまり記録に残っていない。この地はロンドンとエジンバラのちょうど中間にあり,現在でも農地ばかりが広がっている。グラマースクールを終え,ヨーク内科外科学校で医学を学習し,1856年に学位を得,近在のヨーク診療所で働き始めた。ハーバート・スペンサー(Herbert Spencer;1820-1903)の書物に啓発され,1859年にロンドンに出て哲学を専攻しようとした。このとき,同郷のジョナサン・ハッチンソン(Jonathan Hutchinson;1828-1913)の強い勧めでムーアフィールズ眼科病院に勤めたが,その10年ほど前にヘルムホルツ(Hermann Ludwig Ferdinand von Helmholtz;1821-1894)が発見した眼底鏡が彼を魅了し,神経学へ進むこととした。1860年にロンドンの国立神経病院(クイーンスクエア)がブラウン-セカール(Charles Édouard Brown-Sèquard;1817-1894)を主任医師として設立されたが,1862年にジャクソンはこの国立神経病院に雇用され,この後45年間をここで過ごすことになる。

 1878年にはフェリアー(David Ferrier;1843-1923)らと雑誌『Brain』を創刊し,編集に携わった。

お知らせ

平野朝雄教授神経病理セミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.27 - P.27

会 期 2012年5月18日(金)~5月20日(日)

会 場 山西福祉記念会館〔〒530-0026 大阪市北区神山町11-12〕

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.88 - P.88

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.102 - P.103

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.104 - P.104

 地域医療の崩壊が叫ばれてずいぶんになります。この現象の引き金を引いたのが2004年に導入された新臨床研修制度であることは明らかですが,その功罪はともかくとして,医師の不足に危機感を持ったいくつかの県が寄附講座の形で当該県に地域医療学の拠点を設けています。私が奉職しております山口大学にも地域医療学の教室ができ,先日,この教室から“不足している診療科”についての県内病院長を対象とした調査が論文として発表されました。神経内科は“不足している診療科”の最上位にランクしていただきましたが,県内のどの地域の院長先生が“神経内科が足らない”とおっしゃっているのか詳細にみてみますと,私の教室から常勤・非常勤の形で人が出せていない地域では不足度が低く,常勤医を複数置いている地域での不足感が強いことがわかりました。私自身は神経内科そのものの認知度をさらに高めること,扱う疾患の広汎性をアピールしていくことで,今後神経内科医の活躍する場は大きく拡がるであろうと確信を持った次第ですが,そのためにはこの科を志望する人材を1人でも多く獲得することが必要となります。私は2011年春から山口大学の臨床研修センター長(今はもう少しややこしい名称に変わっています)を拝命しており,神経内科のみならず全学の人材確保に責任のある立場です。一般技能の習得に大きな比重の置かれる研修制度の中でアカデミアにどのように人を集めるか,頭の痛い毎日です。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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