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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩64巻5号

2012年05月発行

雑誌目次

特集 神経疾患のバイオマーカー

アルツハイマー病のバイオマーカー―ADNI以後

著者: 東海林幹夫

ページ範囲:P.497 - P.504

はじめに

 脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)アミロイドβ(amyloid beta:Aβ)とタウはアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)の臨床診断,血管性認知症(vascular dementia:VaD)や非AD型認知症との鑑別,治療可能な認知症の除外,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)からAD発症の予測,抗Aβ抗体やセクレターゼ阻害薬などの病態修飾薬の評価のためのバイオマーカーとしての世界的なエビデンスを積み重ねてきた。一方で,PiB-PETによって脳アミロイド蓄積が可視化できるようになり,バイオマーカーとしての神経画像の重要性も増している。2004年に米国で開始されたADの早期診断・発症に関わる因子の解明を目指すAlzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)は,現在,日本,ヨーロッパ,オーストラリアでも進展しており,2009年から成果が報告されつつある。本稿ではADのバイオマーカーのエビデンスをまとめ,ADNI以後のCSFマーカー研究の進歩とPiB-PET,FDG-PET,MRI統計処理画像,標準化された神経心理検査との関連などを紹介する。

レヴィ小体型認知症の脳脊髄液・血液バイオマーカー

著者: 春日健作 ,   池内健

ページ範囲:P.505 - P.513

はじめに

 レヴィ小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)とは,脳にレヴィ小体と呼ばれる神経細胞内封入体を認め,進行性の認知機能低下を呈する疾患と定義される1)。DLBは本邦の高齢者認知症の原疾患としてはアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD),血管性認知症に次ぐ頻度であると考えられ2,3),稀ではない。認知機能の変動,幻視,パーキンソニズムといった特徴的所見4)を伴う典型的な症例では,病歴聴取および神経学的診察のみで比較的容易に診断できるものの,老人斑や神経原線維変化といったAD型病理の併存も臨床症状に影響するとされ5,4),生前には他の認知症性疾患と診断される症例も存在する3)

 現時点ではDLBに対しては,保険適応外であるもののコリンエステラーゼ阻害薬による認知機能および幻覚・妄想といった症状の改善効果が示されている。その一方で,抗精神病薬に対する著しい感受性もDLBの特徴であり1),容易に錐体外路症状や悪性症候群をきたすため抗精神病薬の処方には十分な注意を要する。すなわち日常診療においては,“臨床診断に苦慮する非典型例が存在する一方で,症状を改善あるいは悪化させる薬剤が存在するため的確な診断が求められる”といったジレンマがDLBの診断と治療には存在する。

 また,現在精力的に本疾患に対する治療薬の開発が行われていることから,将来的には治験で薬剤効果を適切にスクリーニングできる病勢指標が必要となることが予想される。

 以上のような観点から,DLBにおいても他の神経疾患と同様,臨床上有用なバイオマーカーの開発が望まれており,その候補として(1)血液や脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)を用いた体液マーカー,(2)神経心理検査,嗅覚機能検査およびMIBG心筋シンチグラフィを含めた自律神経機能検査といった臨床検査,そして(3)CTやMRIなどの脳形態画像,SPECTやPETなどの脳機能画像といった画像検査が挙げられる。本稿では体液マーカー,特にαシヌクレイン(α-synuclein:α-syn)とDJ-1についての最近の知見を概説する。

筋萎縮性側索硬化症のバイオマーカー

著者: 徳田隆彦

ページ範囲:P.515 - P.523

はじめに

 アルツハイマー病におけるバイオマーカー探索を1つの重要な柱とした大規模研究であるADNI(Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative)の成功により神経変性疾患領域でのバイオマーカー研究は現在大きな注目を集めている。筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)においても,近年の分子遺伝学および分子生物学の進歩によりその関連遺伝子が続々と同定され,分子病態を再現したモデル動物も作製されている1,2)。しかし,その診断は依然として臨床症状とその経過および神経生理検査所見を組み合わせた臨床診断基準に従って行われている。

 現在のALSの臨床診断基準では,上位運動ニューロン(upper motor neuron:UMN)症状がなく下位運動ニューロン(lower motor neuron:LMN)症状のみをきたす患者をその時点ではALSとは診断できないという限界があり,診断の遅れにつながっている。このような診断の遅れは,将来的に根治療法が開発された場合に適切な治療時期を逸してしまう可能性があり,迅速かつ正確な診断を可能にする診断バイオマーカーの開発は急務である。

 また,通常のALS患者では死亡までの期間はおおよそ2~5年であるが,約10%の患者は診断後10年以上の経過をたどる例も存在することが知られており3,4),症状の進行速度あるいは予後を判定するバイオマーカーがあれば,ケアプランの作成などの臨床的な場面以外に,薬剤の臨床治験における対象患者の正確な層別化および治療効果の判定にも有用であると考えられる。

 以上のように,ALSの臨床・治療開発研究においては,特に早期診断に有用な診断バイオマーカーおよび疾患の進行速度すなわち病勢の強さを判定する重症度判定バイオマーカーの開発が強く求められている。

 では,バイオマーカーとは具体的にどのようなものを指すのであろうか。広い意味でのバイオマーカーはTable1のように定義され,その様式としては生理学的検査,画像検査,遺伝子検査,生化学的検査(狭義のバイオマーカー=生化学的バイオマーカー)などが考えられる。さらに,バイオマーカーに求められる条件については,アルツハイマー病における「理想的な診断バイオマーカーの条件」がよくまとまっている(Table2)5)

 このような条件の中でも,(1)にある,「神経病理の本質的な特徴を検出できること」という項目が重要であると考えられる。近年のプロテオミクス(proteomics)の進歩によってヒトの体液中に多数のバイオマーカー候補蛋白が同定されているが,それらの蛋白分子がその疾患の神経病理とどのような関連を有するかは必ずしも明らかではない。このように,上記(1)の条件を満たさないバイオマーカーは,再現性が低いあるいはその疾患に対する特異度が低い可能性がある。ただ,神経変性疾患のバイオマーカー研究は発展途上であり,新規に同定された疾患関連蛋白がこれまでは明らかではなかった分子病態を解明する手がかりとなる場合もある。

 本稿では,これまでに検討されてきたALSのバイオマーカーについて,生化学的バイオマーカー(狭義のバイオマーカー)を中心に,また,生理学的および画像診断バイオマーカーも含めて概説したい。

視神経脊髄炎のバイオマーカー

著者: 三須建郎 ,   高橋利幸 ,   中島一郎 ,   藤原一男

ページ範囲:P.525 - P.535

はじめに

 視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は,1894年のDevicらによる研究に端を発した中枢神経系の炎症性疾患であり,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)との異同が繰り返し論じられてきた1,2)。病理学的には灰白質病変が多いこと,壊死性変化がMSより強く,時に著しい脊髄の萎縮をきたすことなどが知られ,NMOの特徴として考えられてきた歴史がある2)

 1999年にWingerchukら3)はメイヨー・クリニックで経験された71例のNMO患者を検証し,MSとは異なるNMOの特徴として,初期の脳MRI病変の欠如,髄液中細胞数の増加(>50/μL)や3椎体以上に及ぶ脊髄病変を報告した。NMOでは,脳病変が少ないこと,長い脊髄病変や横断性脊髄炎を有すること,MSの診断マーカーとして利用されてきたオリゴクローナルバンドの検出率が極めて低いということ,自己抗体を有する割合が多いこと,圧倒的に女性が多いことなどが知られていた4-6)。このような臨床的指標のそれぞれもまた,NMOの特徴として認識されてきた。

 NMOに特異的な自己抗体であるNMO-IgGの発見によって,NMOの日常診療は大きく変わった7)。現在は,HEK293T細胞などを用いたヒトアクアポリン4(aquaporin 4:AQP4)特異的抗体の検出法やenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法などが開発され,感度・特異度には違いがあるものの,おおよそ70%前後の感度と90%以上の特異度をもって国際的にNMOの診断が行われるようになっている8)。NMO-IgGは診断だけではなく治療の選択においても非常に重要な意味がある。NMO-IgG陽性例ではMSで第一選択薬として使われてきたインターフェロン(interferon:IFN)療法ではかえって病態を悪化させる症例が多く,初めに選択すべき治療ではないことは既に周知された事実である9-12)。また,AQP4抗体以外にもNMOの臨床病勢や免疫病態を理解するうえでの有用なバイオマーカーが数々報告されるようになってきている。

 本稿では,NMOの診断や治療などについては他の優れた文献に譲り,近年問題となっているAQP4抗体の検査法や神経傷害マーカーとしてのアストロサイト関連マーカーの意義,病態を反映する数々のサイトカインなどに焦点を当てることとする。

神経膠腫の遺伝子異常とバイオマーカー

著者: 永根基雄

ページ範囲:P.537 - P.548

はじめに

 悪性脳腫瘍を代表する神経膠腫(glioma),特に最も悪性度の高い(WHO分類のgrade Ⅳ)神経膠芽腫(glioblastoma)は,手術・放射線治療(radiation therapy:RT)・化学療法による集学的治療を行っても依然予後不良で,最終的に腫瘍死を免れがたい。現在,膠芽腫に対する標準治療薬は,血液脳関門の透過性に優れたアルキル化剤であるテモゾロミド(temozolomide:TMZ)である。その根拠は,2005年に欧州のEuropean Organisation for Research and Treatment of Cancer(EORTC)とカナダのNational Cancer Institute of Canada(NCIC)が共同で施行した第Ⅲ相ランダム化比較試験において,RT単独に比し,TMZ併用療法群で有意に生存期間の延長が認められた報告による1)。しかし,このRT併用TMZ療法およびその後の維持単独TMZ療法によっても,膠芽腫の生存期間中央値(median survival time:MST)は14.6カ月に過ぎず1,2),TMZに対する耐性機序の解明とその対策が予後改善に向けての重要な課題と考えられている3)

 近年画期的に進歩してきた腫瘍の分子遺伝子学・生物学の知見により,これら悪性脳腫瘍に対する分子標的治療が開発され,腫瘍ごとの個別化治療が現実のものとなれば,難治性悪性腫瘍の治療成績の飛躍的改善も期待される。実際,網羅的な膠芽腫の遺伝子異常解析や発現解析により,組織診断的には同一疾患でありながら異なる性質を持つ悪性神経膠腫の分子的サブクラス分類が可能であることが報告されてきている3,4)。しかし現状では,悪性脳腫瘍に対する分子マーカー(バイオマーカー)を用いた診断・治療法の選択は,慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABL遺伝子や,乳癌におけるHER2遺伝子のような厳密な治療反応性との関連をもって臨床で応用できる段階には至っていない。本稿では,神経膠腫においてこれまで明らかにされてきた遺伝子変異や分子異常の中で,診断,予後や治療効果の予測に関与する可能性のある因子について紹介する。

総説

RNA editing活性低下とTDP-43病理―孤発性ALS運動ニューロンにおける疾患特異的両分子異常の分子連関

著者: 郭伸

ページ範囲:P.549 - P.556

Ⅰ.ALSの分子病態

 ALSはいうまでもなく上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの選択的かつ進行性の変性・脱落として定義される。その分子病態の異同は問題にしていない。したがって,運動ニューロンが変性脱落する原因が複数あればその数だけの分子異常を異にするALSが存在し得ることになる。ALSの10%程度は家族性に発症するが,90%以上は孤発性である。

 家族性ALSを引き起こす責任遺伝子として,これまでに10種類以上の遺伝子異常[SOD1(ALS1)1),Alsin(ALS2)2),Senataxin(ALS4)3),FUS/TLS(ALS6)4,5),VAPB(ALS8)6),ANG(ALS9)7),TDP-43(ALS10)8-11),FIG4(ALS11)12),OPTN(ALS12)13),VCP(ALS14)14),UBQLI2(ALS15)15)など]が見出されており,家族性ALSの約半数程度にこれらの遺伝子異常がみられると推計されている。遺伝形式の多くは優性遺伝であるが,劣性,X染色体性のものもある。また,一部の孤発性ALSにも,これらの遺伝子異常が見出されているが,その割合は数%にとどまり16,17),大多数には遺伝子異常が見出されていない。すなわち,大多数の孤発性ALSはこれらの遺伝子異常が発症原因ではないことも意味している。

家族性脳腫瘍の基礎と臨床

著者: 菅野洋

ページ範囲:P.557 - P.564

はじめに

 家族性脳腫瘍を生ずる疾患には,神経線維腫症1型(neurofibromatosis 1:NF1)・2型(NF2),結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC),von Hippel-Lindau病(VHL),多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine neoplasia type1:MEN1)などの遺伝性疾患がある。これらの疾患では,それぞれの原因遺伝子の異常によってさまざまな腫瘍が発生し,原因遺伝子は腫瘍抑制遺伝子に属する。家族性脳腫瘍は,ほとんどが良性であるが,悪性の性質を示すものもある。家族性脳腫瘍は基本的に手術により治療が行われるが,孤発性の腫瘍と異なり,多発性に発生することが多く,また1度だけの手術で治せないことも少なくなく,他臓器の腫瘍を合併することも多い。家族性脳腫瘍の診断は,各疾患の原因遺伝子が単離されてからは遺伝子診断によることもあるが,通常は臨床診断基準に拠って診断されている。本稿では,家族性脳腫瘍の基礎と臨床に関する知見について解説する。

症例報告

多発性脳転移をきたした後腹膜平滑筋肉腫の1症例

著者: 川原一郎 ,   藤本隆史 ,   小野智憲 ,   高畠英昭 ,   戸田啓介 ,   堤圭介 ,   馬場啓至 ,   米倉正大 ,   伊藤正博 ,   森勝春

ページ範囲:P.565 - P.569

はじめに

 後腹膜腫瘍は全腫瘍の0.2%程度で,その多くは悪性である。腫瘍別では脂肪肉腫が最も多く,次いで悪性リンパ腫,平滑筋肉腫となる。平滑筋肉腫は,平滑筋細胞由来の比較的稀な悪性腫瘍であり,一般的には後腹膜,皮下組織,消化管,子宮などで発生する1,2)。その治療法に関しては,放射線療法や化学療法に対して抵抗性を持つ傾向があるため,通常は腫瘍およびその周囲を可能な限り広く切除する外科的手術が推奨されている。遠隔転移病巣として,肝臓,肺,骨,軟部組織,皮膚などへの血行性転移がよく知られているが,脳転移の報告は少なく比較的稀である3)

 今回われわれは,後腹膜平滑筋肉腫からの多発性脳転移をきたした症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

神経画像アトラス

内包前脚に虚血性病変を認めた糖尿病性舞踏病の1例

著者: 中嶋浩二 ,   中條敬人 ,   加藤晶人 ,   河面倫有 ,   今泉陽一 ,   清水裕樹 ,   杉江正行 ,   村上秀友 ,   市川博雄 ,   泉山仁

ページ範囲:P.570 - P.571

〈症 例〉 66歳,女性

 現病歴 2011年3月頃から右上下肢の不随意運動を自覚していた。同年5月,ふらつき,冷汗,顔面蒼白を主訴に救急外来を受診した。不随意運動も続いていたため,精査加療目的で入院となった。

 入院時神経学的所見 意識は清明で,不随意運動は右手,右足関節の屈伸を繰り返す舞踏運動と,右上肢を振り回す,右下肢を蹴り出すといった粗大なバリズムであった。

Neurological CPC

臨床的にレヴィ小体型認知症が疑われ,αシヌクレイン沈着を認めなかった87歳女性例

著者: 融衆太 ,   市原和明 ,   内原俊記 ,   織茂智之 ,   横地正之 ,   河村満 ,   後藤淳 ,   福田隆浩 ,   藤ヶ﨑純子 ,   鈴木正彦 ,   星野晴彦

ページ範囲:P.573 - P.582

症例提示

司会 (織茂) まず,臨床経過をお話しいただきます。融先生,よろしくお願いします。

臨床医(融) 症例は87歳女性です。主訴は歩行困難です。既往として高血圧と乳癌があります。家族歴は,本症例は四女で,姉(三女)に認知症があります。詳細はわかりませんが,血族婚はありません。

学会印象記

15th International Congress of Parkinson's Disease and Movement Disorders (2011年6月5日~9日)

著者: 宮本亮介

ページ範囲:P.583 - P.584

 2011年6月5~9日までTorontoで開催された15th International Congress of Parkinson's Disease and Movement Disordersに参加してまいりました。今回も世界各国から3,750人が集まり,movement disorderという分野に対するさらなる注目や今後の発展に対する期待を強く感じました。

 会場はTorontoの有名なランドマークであるCNタワー(写真1)近くの,Metro Toronto Convention Centerという地階に拡がる施設(写真2)でした。Abstractは約1,200集まっており,パーキンソン病の大規模研究から非常に稀で興味深い不随意運動の症例報告まで,その内容は多岐にわたっていました。私はGLUD1遺伝子異常に伴う全身性ジストニアについてのポスター発表を行いましたが,興味を持っていただいた何人もの不随意運動の専門家と議論することができ,非常に貴重な経験となりました。

第20回世界神経学会議(WCN2011) (2011年11月12日~17日)

著者: 高橋良輔

ページ範囲:P.585 - P.586

 モロッコというと,古い映画ファンの方はラブロマンス映画「カサブランカ」を想起されるであろう。WCN2011はカサブランカから列車で4時間の,世界的に有名な古都マラケシュで開催された。初日の午後は空き時間ができたので,本誌編集顧問の中野今治先生とともに,世界文化遺産に指定されているメディナと呼ばれる旧市街に出かけた。マラケシュは1070年に成立した最初のイスラム国家ムラービト朝の首都であり,幾多の王朝の興亡の中で,経済・学問の中心として栄えた都市である。旧市街にはマラケシュのシンボルであるクトゥビアという高い塔がそびえ,その近くに多くの屋台やスーク(市場)が軒を並べるフナ広場がある(写真1)。マラケシュで出会った人々は概して律義で親切な人であったが,戸惑ったのは,スークのような小売店では商品に値段がついておらず,最終的な値段が交渉の結果,決まることである(ホテルや空港の売店などは例外)。しかし,このような交渉を楽しめる人にはよい旅の思い出になるかもしれない。

追悼

萬年 甫先生を偲ぶ フリーアクセス

著者: 和氣健二郎

ページ範囲:P.587 - P.591

 わが国を代表する神経解剖学者,東京医科歯科大学名誉教授 萬年 甫先生には2011年12月27日,東京目黒のご自宅で急逝されました。机上にはご執筆中の原稿が開かれたままでした。

 先生は1923年5月23日,千葉県千葉郡津田沼町771番地でお生まれになり,幼時を市川の真間で過ごされた後,医師のご尊父が開業される機に,現在のご自宅近くへ転居されました。芝の白金小学校から府立高等学校尋常科,続いて理科乙類を経て,1947年東京帝国大学医学部医学科を卒業されました。卒業後は脳研究施設の小川鼎三教授を慕って大学院へ進学されました。1954年に東京大学医学部助手,1957年講師,1958年助教授,さらに1960年には東京医科歯科大学医学部附属難聴研究施設助教授を併任され,1966年に同医学部解剖学第3講座教授に昇任されました。1989年3月31日に定年退官されるまで23年間にわたり,神経解剖学の教育と研究に専念されました。その間,大学評議員ならびに附属図書館長の要職を歴任されました。ご定年後は週1日を東邦大学解剖学教室へ出向かれ,文献収集や講義で過ごされる以外は,もっぱらご自宅の書斎にひきこもって執筆に没頭されました。

萬年 甫先生の思い出 フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.591 - P.591

 萬年 甫先生がご逝去されました。私は35年前に東京医科歯科大学医学部の学生として先生の謦咳に接する幸運を得ましたが,同級生の優秀な何人かが先生の教室に出入りし,脳切片のスケッチやフランス語の読書会を行っていたのと比べますと,遠巻きに偉い先生を眺めていたごく平均的な学生でした。

連載 神経学を作った100冊(65)

ガワーズ『神経系疾患の臨床講義』(1895)

著者: 作田学

ページ範囲:P.592 - P.593

 本書はガワーズ(William Richard Gowers;1845-1915)がクイーン・スクエアで講義をした講義録である。また,2章を除いて,いろいろな雑誌に掲載したものの再録であるとともに,ガワーズの神経学臨床の集大成となっている1)

 その構成は1.神経疾患の診断の原則,2.誤診,3.銀皮症と梅毒,4.梅毒による片麻痺,5.球麻痺,6.顔面筋麻痺,7.麻痺後の顔面筋収縮,8.急性上向性麻痺,9.脊髄癆(I),10.脊髄癆(II),11.足クローヌスの意味するもの,12.脊髄空洞症,13.筋収縮の治療,14.てんかんの小児期の原因(I),15.てんかんの小児期の原因(II),16.神経痛,17.鉛麻痺,18.鉛毒による脊髄癆,19.視神経炎(I),20.視神経炎(II)からなっている。

お知らせ

第23回日本末梢神経学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.513 - P.513

会 期 2012年8月31日(金),9月1日(土)

会 場 九州大学医学部百年講堂〔〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1〕

第7回臨床神経生理技術講習会・東京 フリーアクセス

ページ範囲:P.514 - P.514

主 催 臨床神経生理技術講習会・東京

共 催 日本光電株式会社,大日本住友製薬株式会社

日 時 2012年8月5日(日)9:00~16:30

場 所 東京医科歯科大学(お茶の水キャンパス)

公益財団法人かなえ医薬振興財団 2012年度アジア・オセアニア交流研究助成金募集要項 フリーアクセス

ページ範囲:P.523 - P.523

趣  旨 近年の生命科学分野において研究者間の交流,ネットワーク,および共同研究が急速な発展に寄与しており,これらの交流は革新的な発見から臨床応用まで少なからぬ貢献ができると考え,アジア・オセアニア地域における共同研究に対する助成を行います。

助成研究テーマ 生命科学分野におけるアジア・オセアニア諸国との交流による学際的研究。特に老年医学,再生医学,感染症,疫学,医療機器,漢方,そのほか。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.536 - P.536

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.594 - P.595

あとがき フリーアクセス

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.596 - P.596

 バイオマーカーという言葉は流行っている。近年多くの論文で頻繁に用いられており,キーワードとしても挙げられることが多い。狭義のバイオマーカーは,神経疾患では髄液あるいは血清における生化学的マーカーを指すが,広義には神経画像,神経生理学による定量的評価法に対しても使用されている。バイオマーカーの本来の意義は高い疾患特異性と感度を有する指標として病態の本質を反映することである。高い精度で診断に寄与するべく診断マーカーに関する研究が進展している。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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