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文献詳細

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩64巻6号

2012年06月発行

原著

難治てんかんに対する迷走神経刺激療法導入1年後の状況―九州労災病院と全国における状況

著者: 森岡隆人1 佐山徹郎1 下川能史1 濱村威1 橋口公章2 川合謙介3 迎伸孝4 村上信哉4 佐々木富男4

所属機関: 1九州労災病院脳神経外科 2飯塚病院脳神経外科 3東京大学大学院医学系研究科脳神経外科 4九州大学大学院医学研究院脳神経外科

ページ範囲:P.681 - P.687

文献概要

はじめに

 迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation:VNS)はてんかんに対する非薬剤性治療の1つである。VNSは,前胸部皮下に埋め込んだ電気刺激装置により,左頸部の迷走神経を間歇的に刺激し,薬剤抵抗性の難治性てんかん発作を減少・軽減する緩和的治療である。効果は根治的ではなく,その作用機序も十分に解明されてはいないが,米国では1997年既に食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)によって承認されており,この装置の出荷台数は5万台を超えている1,2)。難治性てんかん発作に対する効果は無作為化二重盲検試験で確認された信頼度の高いものであり3,4),1999年の米国神経学会指針5)でクラスIエビデンス認定に至っている。

 わが国においては,1990年代に比較試験ではないが,34例の多施設治験が行われ,同様の有効性と安全性が確認され6,7),1998年に薬事承認取得申請されたが,試験時装置のその後変更などの理由で,2005年に申請は却下された。その後2007年に日本てんかん外科学会(第30回日本てんかん外科学会会長 森岡隆人)から「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入」項目として再申請された。2008年7月,厚生労働省「第8回医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」で審議の結果,有用性と早期導入の必要性が認められ,2010年1月8日に薬事法承認となった1,2)。この薬事法承認は米国に遅れること13年であるが,対象患者の年齢や発作型の制限を設けない一方で,米国のような国内大規模治験なしに承認されたので,施行医師や市販後調査に厳重な制限が設けられている(Table1)。そこで,日本てんかん学会,日本てんかん外科学会,日本脳神経外科学会が合同でVNS資格認定委員会を設け,そこでVNSと刺激装置植込術に関するガイドラインが設定され(Table2),2010年7月1日に保険収載された1,2)。その後に発刊された日本神経学会監修の『てんかん治療ガイドライン2010』では,薬剤抵抗性てんかんの治療において,補助的治療としての有効性が示されている8)

 このVNS療法は,2011年6月末日をもって導入1年目を迎えた。この1年間のVNS普及の状況を調査することは,今後わが国のてんかん治療におけるVNSの役割やその問題点などを考察するうえで重要なことと思われる。そこで本稿では,九州労災病院と全国における状況を報告する。なお,VNSの治療成績については,刺激開始後1年以上の長期観察が必要であるので,今回の報告では触れない。

参考文献

1) 川合謙介: てんかんに対する迷走神経刺激療法. Brain Nerve 63: 331-346, 2011
2) 川合謙介: 迷走神経刺激療法. Clin Neurosci 29: 76-77, 2011
3) The Vagus Nerve Stimulation Study Group: A randomized controlled trial of chronic vagus nerve stimulation for treatment of medically intractable seizures. Neurology 45: 224-230, 1995
4) Handforth A, DeGiorgio CM, Schachter SC, Uthman BM, NaritokuDK, et al: Vagus nerve stimulation therapy for partial-onset seizures. A randomized active-control trial. Neurology 51: 48-55, 1998
5) Fisher RS, Handforth A: Reassessment: vagus nerve stimulation for epilepsy. A report of the Therapeutics and Technology Assessment Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology 53: 666-669, 1999
6) 朝倉哲彦, 中村克巳, 八代一孝, 清水弘之, 石島武一, 他: 難治てんかんに対する迷走神経刺激療法. 新しい医療機器研究5: 7-18, 1998
7) 河村弘庸: 迷走神経刺激. 榊 寿右, 平 孝臣, 山本隆充, 加藤天美(編), 先端医療シリーズ16 機能的脳神経外科の最先端. 先端医療技術研究所, 東京, 2002, pp74-81
8) 「てんかん治療ガイドライン」作成委員会: てんかんの刺激療法. てんかん治療ガイドライン2010.医学書院, 東京, 2010, p98
9) 森岡隆人: クリニカルカンファレンス 側頭葉てんかんを疑わせたinsulinomaに伴う低血糖発作の1例. 九州大学病院てんかんカンファレンス(2006.10.13)より. てんかん研究24: 281-284, 2006
10) 酒田あゆみ, 森岡隆人, 重藤寛史, 吉良龍太郎, 大塩麻夕, 他: 脳波検査技師と診療従事者で支えるてんかんのビデオ脳波モニタリング検査. 臨床脳波51: 185-192, 2009
11) 酒田あゆみ, 森岡隆人, 重藤寛史, 吉良龍太郎, 大塩麻夕, 他: ビデオ脳波モニタリングシステムの構築: てんかん診療において. 機器・試薬32: 175-181, 2009
12) 森岡隆人, 橋口公章, 酒田あゆみ, 佐々木富男: てんかん治療スタンダード. 外科治療. Clin Neurosci 29: 71-75, 2011
13) 川合謙介: 解剖を中心とした脳神経手術手技. 難治性てんかんに対する迷走神経刺激療法. 刺激装置の埋込術. No Shinkei Geka 36: 979-989, 2008
14) Attarian H, Dowling J, Carter J, Gilliam F: Video EEG monitoring prior to vagal nerve stimulator implantation. Neurology 61: 402-403, 2003
15) Morioka T, Sayama T, Mukae N, Hamamura T, Yamamoto K, et al: Nonconvulsive status epilepticus during perioperative period of cerebrovacular surgery. Neurol Med Chir (Tokyo) 51: 171-179, 2011
16) 川合謙介: 難治性部分てんかんと迷走神経刺激療法. 神経内科72: 262-269, 2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1344-8129

印刷版ISSN:1881-6096

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