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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩64巻8号

2012年08月発行

雑誌目次

特集 線条体の基礎と臨床

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ページ範囲:P.869 - P.869

特集の意図

 大脳基底核の中で最も大きく,また大脳基底核の入力部位である線条体は,これまで運動機能との関連で語られることが多かった。しかし,最近ではさまざまな高次脳機能において重要な役割を果たしていることが明らかになってきている。本特集では,線条体に関する基本的な神経回路の知識,線条体神経回路を調べる新たな技法について概説し,さらに線条体の障害に伴う認知機能障害や精神障害について今後の展望も含めて取り上げる。

大脳皮質-線条体の神経回路

著者: 高田昌彦

ページ範囲:P.871 - P.879

はじめに

 われわれは行動するとき,達成すべき行動目標を正しく設定するため,視覚,聴覚,体性感覚など,外界からの感覚情報や,学習,記憶,情動など,自己が持つ内部情報に基づいて行動計画を立案し,実行する。行動の発現と制御には,これらの情報やこれらの情報から生成される認知情報を扱う大脳皮質と,大脳皮質のほぼ全域から入力を受ける大脳基底核が重要な役割を担っている。線条体は大脳基底核の入力核であり,運動,感覚,認知,情動など,大脳皮質に由来するさまざまなタイプの情報が入力する。

 本稿では,このような皮質線条体入力をはじめ,大脳皮質と線条体をつなぐ神経ネットワークについて概説する。

光遺伝学を用いた線条体神経回路網研究

著者: 中馬奈保

ページ範囲:P.881 - P.890

はじめに

 線条体を含む基底核神経回路は大変に複雑であり,その機能解明のためには細胞群選択的な刺激あるいは抑制が欠かせない。古くから用いられている刺激方法のうち最も選択的に行うことができるものは,おそらくin vivoで解剖学的に同定された場所の局所電気刺激であろう。しかし,この方法では刺激部位にあるすべての神経細胞および神経線維が刺激されてしまうため,層状構造を持つ大脳皮質などを例外とすれば,細胞群選択的な刺激はほぼ不可能である。特に線条体は大脳前頭前野,視床,中脳などからの入力を受け,その比較的単純で均質な細胞構築にもかかわらず,シナプス入力は複雑に入り交じっており,遺伝学的方法によらない限り,細胞群選択的刺激および抑制は大変に難しい。細胞群選択的な遺伝子発現およびノックアウトは広く行われてきたが,選択的に細胞群の活動をin vivoでコントロールすることができるようになったのは,近年の光遺伝学(optogenetics)の進歩によるところが大きい。

 本稿ではまず光遺伝学,特にチャネルロドプシンおよびハロロドプシンなどのオプシン類およびその生体への導入方法について述べ,続いてオプシン(opsin)類の線条体神経回路研究への応用を,光遺伝学により可能になった実験に焦点を当てて述べる。

線条体と前頭前野における価値の表象

著者: 坂上雅道 ,   山本愛実

ページ範囲:P.891 - P.901

はじめに

 近年,大脳基底核,特に線条体は,価値の生成に重要な役割を果たす脳領域として注目を集めている。価値とは,ここでは,特定の刺激(物体・事象)や行動に対して期待できる報酬と罰の総和と定義する。線条体には,中脳の黒質緻密部と腹側被蓋野のドパミンニューロンから投射があり,この中に含まれる報酬予測誤差情報が,大脳皮質から送られてくる感覚情報や運動情報と結び付くことにより,報酬予測情報ができると考えられている1)

 報酬予測誤差とは,予測された報酬と実際に与えられた報酬の差のことを指す。Schultzら2)は,サルの中脳ドパミンニューロンから単一ニューロン活動の記録を行い,ドパミンニューロンが,サルに報酬を与えたときに応答することを見出した。視覚刺激を条件刺激,ジュースを無条件刺激としてサルに古典的条件づけを行うと,ドパミンニューロンは,もはやジュースを与えても応答しなくなり,それに先立つ視覚刺激(条件刺激)の呈示に応答するようになった。サルの期待を裏切って,条件刺激のあとジュースを与えないようにすると,ドパミンニューロンの応答は一時的に下がってしまう。

 つまり,条件づけ前は,報酬を期待していないところにジュースが来るので,正の報酬予測誤差が生じ,それに対してドパミンニューロンは活動を上昇させる。しかし,条件づけ後,報酬が来ると予期されているところにジュースが与えられても,報酬予測誤差は0なのでドパミンニューロンの活動に変化はない。逆にジュースが与えられないと負の報酬予測誤差が生じて,活動は減少する。ドパミンニューロンの報酬予測誤差は,報酬に先立つ刺激が,報酬と関係しているかどうかについての知識を書き換えるための,強化学習でいう教師信号になっていると考えることができる。

 大脳基底核線条体では,大脳皮質から送られてくる刺激や行動の情報が,ドパミンからの報酬予測誤差の情報と結び付き,報酬予測に関わる情報,すなわち価値が生成される3,4)。Reynoldsら5)は,大脳皮質からのグルタミン酸入力と中脳からのドパミン入力が結び付いて長期増強を起こす過程を,ラットのスライスを用いて見事に示している。

 しかし,ヒトが持つ複雑な価値もこの線条体-ドパミンのメカニズムですべて説明できるのか。そもそも,価値をつくり出す神経メカニズムは1つだけなのか。このような問いに答えるために,筆者らは,意思決定課題を遂行するサルやヒトの大脳皮質前頭前野の神経活動と大脳基底核線条体の活動を直接比較することによって,大脳基底核の価値生成の特徴について理解するための研究を行ってきた6)

線条体操作から強迫性障害を理解できるか

著者: 田中謙二

ページ範囲:P.903 - P.909

はじめに

 精神疾患を遺伝子,神経回路,行動の3つの階層から統合的に理解したいと多くの人が願う。ヒト遺伝学から明らかになる遺伝子異常が神経回路をどのように変えているのか,特定の神経回路がどのような行動を支配し,その回路異常がどのような行動異常に至るのか,といった具合に。さらに,疾患からの回復という観点では,既存の治療によって行動異常が是正される背景にある神経回路の変化は何か,回路変化はどのような遺伝子発現変化を背景とするのかという具合に。強迫性障害はこのような指向から研究を進めるうえで有利な点が多い。光遺伝学(optogenetics)という神経回路研究における革命児の出現,遺伝子改変モデル動物の出現がその有利性を高めたといってよい。

 本稿では筆者がとっているアプローチ,すなわち線条体操作から強迫性障害を理解する試みを中心にして線条体と強迫性障害の関係について述べてみたい。

線条体と依存症

著者: 戸田重誠

ページ範囲:P.911 - P.917

はじめに

 依存症は薬物やアルコールの慢性的使用の結果,次第に使用量が増加し,そのうち止めようとか使用量を減らそうと試みても果たせず,強まる欲求にあらがえなくなり,最後には社会的地位や家庭,社会のルールをも顧みずに強迫的な使用を続けて,心身ともに破綻する精神疾患である。依存性物質への強い渇望感(craving)は使用時の環境や心理的状況と強く条件付けされ,患者自身も気がつかないうちに,半ば無意識的に呼び出されてしまう1)。患者は依存対象以外の愉しみや関心を次第に失い,一見うつ状態のようにみえることもあるが,一度依存性物質の摂取を始めると,それこそ倒れて病院に運ばれるまで止められないことも多く,これをbinge(どんちゃん騒ぎの意)という。患者の多くは病識に乏しく,医療機関を訪れたときには,既に病状や患者を取り巻く状況はかなり悪化していることが多い。加えて先に述べた半自動的に誘発される渇望感を抑える薬物が開発されていないため,治療は困難を極め再発を繰り返す。そのため他の精神疾患と比べても,最も治療成績の悪いものの1つとされる。

 依存症の研究は,精神刺激薬であるコカイン・覚せい剤や,麻薬であるヘロイン・モルヒネ,あるいはアルコールを用いた動物研究が欧米を中心に盛んに行われており,特に薬物依存の動物モデルは,数ある精神疾患動物モデルの中でも,完成度が高いものと見なされている2)。近年はPETやfMRIを用いたヒト患者での画像研究の進展も目覚ましく,加えて意思決定のメカニズムと絡めて回路理論的に病態を理解しようとする試みが盛んになった。

 本稿では依存症と線条体の関わりについて,特にコカイン依存の動物研究の成果からいくつかのトピックを簡単に総説したい。

うつ病における線条体機能変容の役割

著者: 古屋敷智之 ,   出口雄一

ページ範囲:P.919 - P.926

はじめに

 うつ病は抑うつ気分や興味または喜びの喪失を主体とする精神疾患である。その生涯有病率は高く,自殺の主要な原因である。うつ病の治療には抗うつ薬による薬物治療や認知行動療法,電気痙攣療法が行われる。これらの治療の有用性は大きいが,再発予防には治療の継続が必要であり,寛解に至らない患者も多い。既存の治療に抵抗性の難治性うつ病も10~20%程度存在するとされる。このため,うつ病の病態に基づく新たな治療法の確立が待望されている。

 脳イメージング,剖検脳研究,神経科学研究の知見から,うつ病の多様な症状は,前頭前皮質,海馬,扁桃体,線条体など,広範な脳領域の異常の総和と捉えられている。線条体の異常は,その強化学習や情動発現にお

ける重要性から,抑うつや快感覚の低下といったうつ病の主症状と関連づけられている。ストレスによる抑うつを対象とした小動物研究では,抑うつの発現に側坐核とそこに投射するドパミン系の遺伝子発現制御が重要であることが示された。抑うつにおける側坐核の役割の理解を通じて,ストレス抵抗性や抑うつ発現機構の多様性に関する新たな概念も提唱されている。

 そこで本稿では,うつ病における線条体の機能変容を明らかにした脳イメージング研究と,抑うつにおける側坐核の役割とその制御機序を調べた小動物研究を紹介する。最後に,うつ病に関する線条体研究の今後の展望を述べたい。

書評

「新てんかんテキスト――てんかんと向き合うための本」―静岡てんかん・神経医療センター 井上有史・池田 仁●編集 フリーアクセス

著者: 池田昭夫

ページ範囲:P.927 - P.927

 このたび南江堂から『新てんかんテキスト――てんかんと向き合うための本』が発刊されました。これは『てんかんテキスト――理解と対処のための100問100答』として,大変好評であったテキストの改訂新版です。旧版は1991年に発刊され,1999年に改訂2版が出版されています。

 旧版シリーズは,わが国において,1980年代以来現在に至るまで,てんかんの内科・外科治療を含めた包括的てんかん診療の,名実ともにメッカである旧 国立療養所静岡東病院(現 静岡てんかん・神経医療センター)が中心となり,清野昌一先生と八木和一先生の編集でスタッフの方々によって作成されたものでした。てんかん診療では,てんかんの診断・治療の単に学問的な知識だけではなく,日常生活の問題と対処,社会生活上のさまざまな問題点や社会制度の活用のための知識と経験なども必要で,特に後者は大変重要です。このような患者さんが抱える問題は種々多様であるにもかかわらず,後者に関するまとまった情報あるいは指南書的なものは,本書以外には,まったくといってよいほどありませんでした。本テキストの中では,日頃のプロフェッショナルとしての経験と学問的な知識を,実情に沿うようにわかりやすく解説されていました。もちろんこれは患者さんの抱く疑問に対して答える形で作成されていたものの,てんかんの初学者には,大変役に立つものでした。評者も本書あるいはその内容を患者さんに紹介するだけではなく,自分自身の浅学を補うべく初版のときから購入して,利用させてもらってきた1人です。

「クリニカルクエスチョンにこたえる!臨床試験ベーシックナビ」―臨床試験を適正に行える医師養成のための協議会●編 フリーアクセス

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.969 - P.969

 日本において新薬や医療機器の開発の遅れが指摘されてから,かなりの年月が経過した。厚生労働省,医療関係者および企業の方々の努力にもかかわらず,いまだ思うような成果がみられていない。文部科学省でも,医科系大学や研究所の最先端研究を少しでも早く実用化させるため,橋渡し研究の拠点を整備し,新薬や新しい医療機器の開発支援に力を入れている。このような動きを加速させるために重要なことは,新薬や医療機器の開発において欠かすことができない臨床試験をもっと推進させることであり,それには医師,薬剤師,看護師をはじめ臨床試験に携わる多くの方々に臨床試験の重要性を理解してもらう必要がある。

 臨床試験にはいろいろな種類がある。新薬や医療機器の開発ばかりでなく,各診療領域において,診断や治療に関する日本人のエビデンスを得るための大規模臨床試験も重要な試験であり,その普及も強く求められている。

総説

自殺の神経科学

著者: 有田秀穂

ページ範囲:P.929 - P.935

はじめに

 うつ病で自殺したヒトの脳を調べることによって,自殺の脳内機構を解析する研究が地道に続けられてきている。1980年代になって選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRI)がうつ病治療で脚光を浴びるようになってからは,自殺脳でのセロトニン(5-HT)神経の数や密度,投射領域での5-HT受容体,5-HTトランスポーターの計測など,多方面からの検討がなされてきている。特に,ニューヨークのArangoとMannらのグループの研究1)は自殺脳を多方面から検討していて注目に値する。うつ病における自殺企図と関係するのは,背側縫線核の5-HT神経が前頭前野腹外側部に投射する経路であり,その回路の5-HT伝達機能低下が主要な役割を果たすという知見が蓄積されつつある。いまだ十分な解明には至っていないが,現時点での情報を整理した。

SCA36(別名Asidan)

著者: 阿部康二 ,   池田佳生

ページ範囲:P.937 - P.941

はじめに

 岡山大学神経内科では,50歳以降に小脳失調症で発症し,後年になって舌や四肢の筋萎縮や脱力,線維束性収縮などの運動ニューロン障害を呈し常染色体優性遺伝形式で疾患が伝達される家系を集積し,2001年以降その臨床的特徴を報告してきた1,2)。これらの家系の先祖は皆,岡山県と広島県の県境にある芦田川流域の出身であることから,われわれは本遺伝性疾患を芦田川にちなんで「Asidan」と命名し呼び習わしてきた。

 2011年になりこのAsidan家系の遺伝子解析により,nucleolar protein 56(NOP56)遺伝子イントロン1に存在するGGCCTGの6塩基繰り返し配列の異常延長が本疾患の原因遺伝子変異として同定することができ,脊髄小脳失調症36型(spinocerebellar ataxia type36:SCA36)としてHUGO遺伝子命名法委員会に登録された。

症例報告

非流暢性失語で発症し,左右対称性の大脳変性所見を呈した大脳皮質基底核変性症剖検例

著者: 石原健司 ,   三村將 ,   石垣征一郎 ,   塩田純一 ,   中野今治 ,   河村満

ページ範囲:P.943 - P.949

はじめに

 病理学的に大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)と診断された症例の臨床表現型は,遂行機能障害と運動障害の合併を呈する一群の頻度が最も高く,他に非流暢性失語,前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD),後部皮質萎縮症を呈する場合もあることが報告されている1)。さらに最近では,進行性核上性麻痺(progresssive supranuclear palsy:PSP)の一臨床表現型であり,姿勢反射障害,早期からの易転倒性,核上性垂直方向性眼球運動障害,左右対称性の運動障害,嚥下障害を主徴とするRichardson症候群の臨床像を呈するCBDの一群が存在することも報告されており2),CBDは臨床的に多彩な症状を呈し得ることが示されている。一方,CBDの原型ともいえる左右非対称性の失行および錐体外路症状を中核とする変性疾患は,臨床的に皮質基底核症候群(corticobasal syndrome:CBS)と呼ばれ,その病理学的背景はCBDを主体としながらも,アルツハイマー病や進行性核上性麻痺,ピック病(ピック小体病)など,種々の変性疾患を含んでいる3,4)

 筆者らは,非流暢性失語で発症し画像検査で左右対称性の変性所見を認めたCBDの剖検例を経験し,臨床症状の経過と病理所見の対比について考察した。

30年にわたる頻回の再発により激しい脊髄萎縮をきたした胸腺摘出後視神経脊髄炎の1例

著者: 廣西昌也 ,   石本進士 ,   澤西正 ,   三輪英人 ,   河内泉 ,   近藤智善

ページ範囲:P.951 - P.955

はじめに

 わが国で視神経脊髄型多発性硬化症(opticospinal form of multiple sclerosis:OSMS)と呼ばれてきた疾患と,欧米を中心に視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)と呼ばれてきた疾患の異同に関する議論があった。その後,NMO-IgGと呼ばれる自己抗体が発見され1),またその対応抗原がアクアポリン4(aquaporin 4:AQP4)と呼ばれる水チャネルであることが判明し2),NMOは独立した疾患として認識され3),治療法も別個に検討されるようになった。

 本例は1986年に,「重症筋無力症の胸腺摘出療法後発症した多発性硬化症の1症例」として報告されたが4),その後も複数の治療法を施行されつつも,視神経炎と脊髄炎の再発を執拗に繰り返し,30年の経過を経て非常に激しい脊髄萎縮をきたすに至った。視神経脊髄炎に関する予後,特に経過にしたがって再発が減少する現象に関する考察を加え報告する。

Neurological CPC

ALSの経過中に認知症症状を認めた78歳女性剖検例

著者: 石原健司 ,   中野今治 ,   鈴木正彦 ,   横地正之 ,   河村満 ,   後藤淳 ,   織茂智之 ,   福田隆浩 ,   藤ヶ﨑純子 ,   星野晴彦

ページ範囲:P.956 - P.963

症例提示

臨床医(石原) 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)の経過中に認知症症状を認めた78歳女性剖検例について提示します。

 認知症を伴うALS(ALS-D)は一般的に次のような特徴が知られています。「球麻痺型が多い」「認知症が先行する,あるいは運動症状とほぼ同時期に発症する場合が多い」「病識の欠如など,前頭葉性の特徴を示すことが多い」。そして,病理学的には,TDP-43蛋白質異常症と関連しています。

ポートレイト

マーク・ジャンヌロー―手の動きの解析から,心の生理学へ

著者: 浜田隆史 ,   ロゼッティイブ

ページ範囲:P.965 - P.968

はじめに

 行動の認知神経科学に大きな貢献をなしたフランスのマーク・ジャンヌロー(Marc Jeannerod;1935-2011)が2011年6月1日に亡くなった。筆者のうち,浜田は彼のもとに留学し,ロゼッティは彼のラボを引き継いだ。彼の絶筆となった自伝1)をもとに,彼の足跡を振り返える。

 なお,ジャンヌローの詳しい研究内容については,文献2を参照されたい。

連載 神経学を作った100冊(68)

マリー『脊髄疾患講義録』(1892)

著者: 作田学

ページ範囲:P.970 - P.971

 マリー(Pierre Marie;1853-1940)はパリの裕福な家庭に生まれた。25歳のときにパリ病院のアンテルヌとして絶頂期のシャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893,当時54歳)に仕えた。マリーは1886年に今日シャルコー・マリー・トゥース病として知られている症例を報告する1)。さらに1886~1889年にかけて,アクロメガリーを臨床報告し,さらに1890,1891年に病理報告をした。35歳でパリ病院医師,36歳で教授資格試験に合格し病棟医長として1891年夏にパリ大学医学部の連続講義を行った。それをまとめて本にしたのが本書であり2),したがって,本書にはシャルコーへの献辞がある。

 本書の構成は,1章「脊髄の解剖」,2章「錐体路の二次変性」,3章「脊髄の横断性障害による下向変性」,4章「神経根の障害による上向変性」,5章「脊髄の横断性障害による上向変性」,6,7章「肢の切断による神経と脊髄の変性」に始まる。第8,9章はtabes dorsal spasmodiqueについてであるが,これは1875年にエルプ(Wilhelm Heinrich Erb;1840-1921)がspasmodic spinal paralysisと名づけ,リトル(William John Little;1810-1894)が脳の障害によると考えたものである。今ではリトル病として知られている。

お知らせ

平成24年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会 フリーアクセス

ページ範囲:P.879 - P.879

会 期 2012年9月7日(金)~9日(日)

    ※9日(日)は第16回国際アルコール医学生物学会総会(ISBRA)との共催

会 場 札幌コンベンションセンター〔札幌市白石区東札幌6条1-1-1〕

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.901 - P.901

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.972 - P.973

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.974 - P.974

 7月はじめは西日本では梅雨のまっただ中であり,私の奉職しております山口県では数年に1度,とんでもない土砂災害が起こります。今年は九州北部が梅雨前線の標的のようですが,油断できない日々がしばらく続きます。もう1つ,この時期は特定疾患継続申請書類の季節でもあります。かつては机の上にうず高く積まれたカルテと,“7月○日までにお願いします”という医事課からの付箋を前に,診療時間終了後の誰もいない外来診察室で1枚1枚空欄を埋めていたものですが,医師不足のかけ声とともにここ数年でこういったペーパーワークの支援体制が充実し,電子化された情報をほとんど追認するだけで継続書類が書けるというありがたい時代になっています。神経内科は脳卒中,てんかん,頭痛,認知症などのcommon diseaseを対象とする実に多忙な診療科で,決して変性疾患を含む難病ばかりを診ているわけではありませんが,いまなお私たち神経内科医は“治らない病気ばかりに興味のある変わり者の集団”と評されることしばしばです。私はこの風評を払拭すべく,学生諸君には,神経内科は治せる病気が沢山あること,神経内科の臨床は幅広い内科の知識を駆使しないと成立しないこと,いま流行の総合診療科に最も近い仕事をしている診療科は神経内科であることなどをことあるごとに話しています。しかし,56特定疾患のうち3割が神経内科固有の疾患であり,神経内科医が関わる疾患は特定疾患全体の実に過半数を超えること,そしてこの書類の山の大部分と,厚生労働省・地方自治体の難病行政の大きな部分に私たちが関わっているということ:やはりわれわれは希少難病を診なければならない診療科なのだ,という自覚を再確認する1カ月間でもあります。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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