文献詳細
原著
脳の硬さの臨床応用に関する球状圧迫子押込試験による弾性係数の計測
著者: 永井秀政1 高田大慶1 神原瑞樹1 萩原伸哉1 大洲光裕1 宮嵜健史1 秋山恭彦1
所属機関: 1島根大学医学部脳神経外科
ページ範囲:P.85 - P.92
文献概要
脳の硬さは脳神経外科で重要な手術情報であり,脳ベラの牽引力,探触子や鑷子による圧排,腫瘍やグリオーシスなどの異常部と正常部との境界剝離,穿刺での抵抗感,水頭症や脳浮腫あるいは急性脳腫脹の評価などに用いられる。しかし,硬さを客観的に表すことは容易ではない。
物体の硬さは,他の物体により変形させられた際の抵抗の大小を示す尺度として定義される。本来は機械特性による比較値であるが,物体を弾性体と仮定することで硬さを物理量で表すことができる。一般に弾性体の外部から加えられた力(外力)に対して物体内に歪み(変形の程度)が生じるが,瞬時にこの歪みを元に戻そうとする力が働く。この物体内部に生じた力を,外力に反応する力という意味で応力という。フックの法則では応力(σ)は歪み(ε)と比例し,その比例係数を弾性係数(μ)という。弾性係数は外力により異なり,引張りの一方向の力に対してヤング率(E)で,ズリの2方向の力に対して剪断弾性係数(G)で表す。その他の物理量としてポアソン比(ν)があり,これは加えた力の方向の歪みと直交する方向の歪みとの比で,通常は0~0.5の値を示す。
材料力学では引張試験などで硬さの物性値のヤング率を同定するが,生体は粘弾性体である。粘弾性体とは弾性と粘性の特性を持つ物質である。弾性は外力で瞬時に変形し外力を除くと復元する性質で,フックの法則で示される。粘性は内部抵抗でありニュートンの法則で示され,変形と復元に時間的な遅れを生じさせる。粘性があると伝播する運動エネルギーは減衰する。粘弾性特性は,弾性要素のspringと緩衝要素のdash-potの組み合わせで表現され,フォークト(Voigt)モデルやマクスウェル(Maxwell)モデルを基本とし,この要素を複雑に組み合わせた一般化粘弾性構成モデルが演算される。
こうした硬さの研究で,静的測定法として引張試験,圧迫試験がある。また動的測定法として共振現象により測定する方法がある。本稿では,比較的理解が容易な球状圧迫子押込試験(spherical indentation)を提示する。
参考文献
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