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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩65巻10号

2013年10月発行

雑誌目次

特集 神経系の発達メカニズム―最近の話題

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ページ範囲:P.1111 - P.1111

特集の意図

 近年,神経系の成長・発達を促進するさまざまな要因が明らかとなってきている。これらの要因は,神経の正常な解剖学的構造の構築や,生理学・生化学的機能の発現に寄与する。ヒトにおいては,その異常が多くの神経・精神疾患の発症と関連することが想定されている。本特集では,これら神経系の発達に関する最近の知見・話題を概説し,今後の神経・精神疾患の治療法を探る端緒としたい。

神経回路形成におけるミクログリアの役割

著者: 星子麻記 ,   山本亘彦

ページ範囲:P.1113 - P.1120

はじめに

 脳は1,000億個もの神経細胞からなる巨大なネットワークである。その神経回路網が形成される発生期に,細胞体からは軸索や樹状突起が成長し複雑な分岐をつくる。分岐した軸索は多数の標的細胞とシナプスを介して結合し,一方,樹状突起でも多数の入力線維との間でシナプス結合を形成する。しかし,軸索や樹状突起は単に増加するだけでなく,過剰な分が除去される。絶え間ない付加と除去を繰り返しながら,次第に回路が固まっていくのである。

 このネットワークの形成過程において,ミクログリア(microglia)に注目が集まっている。元来,ミクログリアは脳内のマクロファージ(macrophage)として損傷時や病理的な状況下で貪食作用を通じて異物や死細胞の除去に貢献している。このような成体脳における働きに加えて,発生期には余分に産生された神経細胞がアポトーシス(apoptosis)によって取り除かれる際,ミクログリアはやはり貪食細胞として働いている1)。さらに,近年の研究から,神経回路の形成期においてもミクログリアが重要な役割を演じていることが明らかになってきた。本稿では,神経回路の形成過程におけるミクログリアの役割,特にミクログリアのシナプス除去機能と回路成熟機能に焦点を絞り,筆者らの成果を含めて紹介する。

脳の形成とグルタミン酸

著者: 田中光一

ページ範囲:P.1121 - P.1132

はじめに

 グルタミン酸は,哺乳類中枢神経系において約80%の神経細胞が用いる主要な興奮性神経伝達物質であり,脳の形成や記憶・学習,認知,運動制御などの高次脳機能に重要な役割を果たしている1)。しかし,その機能的な重要性の反面,興奮毒性という概念で表されるように,過剰なグルタミン酸は神経細胞障害作用を持ち,さまざまな神経・精神疾患の原因と考えられている(Fig.1)2,3)

 グルタミン酸の高次脳機能における役割に比べ,脳形成における役割は不明な点が多い。In vitroの実験系では,グルタミン酸が脳の形成に重要な役割を果たすことが示されているが,個体レベルでのデータは少ない。筆者らのグループは,グルタミン酸の興奮毒性を再現したマウスを作製し,興奮毒性が脳の形成障害を起こすことを個体レベルで明らかにしてきた。本稿では,グルタミン酸の脳形成における役割を歴史的な経緯も含めて概説する。

大脳皮質の神経細胞配置と統合失調症

著者: 久保健一郎 ,   仲嶋一範

ページ範囲:P.1133 - P.1145

はじめに

 統合失調症の脳病理所見として,大脳皮質の微細な組織構築の異常が指摘されている。中でも,神経細胞配置の異常は,脳の発達段階において生じると考えられ,統合失調症の神経発達障害仮説に合致する所見と捉えられる。しかしその一方で,神経細胞配置の異常と統合失調症の発症の関連は明らかではない。本稿では,統合失調症の神経発達障害仮説と,正常の大脳皮質の組織構造およびその形成過程を説明したのち,統合失調症で報告された大脳皮質の微細組織構築の変化について概説する。また,それらの微細組織構築の異常がどのように生じるのか,そして統合失調症の症状にどのように結びつくのかについて考察する。

雌型脳と雄型脳

著者: 山元大輔 ,   佐藤耕世

ページ範囲:P.1147 - P.1158

はじめに

 女と男はいろいろな点で異なっている。女性は卵をつくり,男性は精子をつくる。乳房は女性で大きく発達し,陰茎は男性の特徴をなす。生殖細胞や生殖器の性差はあまりにも明らかで,その存在を否定する人はほとんどいない。これに対して,行動や認知機能に男女差があるかどうかについては,延々と論議は続いている。

 しかし,いくつかの行動的・認知的機能については,安定して有意な性差が検出されるのである。例えば,ボードにずらりと並んだ小さな穴に棒切れをはめ込む速さを競うペグボードというテストがある。もともと手先の器用な人を採用するために工場が考案したものだそうであるが,この作業は女性が男性を常に圧倒するという1)。一方,的をめがけて矢を投げるダーツは,男性が得意である1)。こうした性差は幼児期に既に認められ,教育や社会慣習によらない生得的な性差を反映するものと考えられるが1),それを立証することは思いのほか困難である。

 こうした行動的性差や認知機能の性差を生み出す臓器は脳神経系である。卵をつくる臓器が卵巣であり,精子をつくる臓器が精巣であるというのと同じである。卵巣と精巣の違いが極めて顕著であるのに対して,男女の脳に違いがあるのかどうか,これもまた論争的課題であった。少なくとも自然科学の世界では,脳に性差があること自体,今では疑問の余地はなくなっている。しかし,その機能的意味や成因については,いまだ多くが不明である。最近になって,ショウジョウバエやマウスなどのモデル動物を用いた研究から,性的二型を示す個々のニューロンが行動の性差に直接寄与することが明確になり,また,ニューロンの性差を生み出す分子機構の一端が明らかにされるに至っている。

 本稿では,ヒト脳の性差の実態,脊椎動物脳の性差とその形成機構,ショウジョウバエの単一ニューロンの性差を生み出す遺伝子機構という3項目を中心に従来の研究を俯瞰し,今後の研究の発展を占うこととしたい。

脳発達の臨界期のメカニズム―精神・発達障害への示唆

著者: 佐條麻里 ,   森下博文

ページ範囲:P.1159 - P.1166

はじめに

 精神疾患を他の身体疾患と比較した際に大きく異なるのはその発症時期である。精神疾患の多くは10代から20代に発症し,実際10~30代の年齢層に最も甚大な損失をもたらす疾患であることが知られている。この時期には,遺伝的プログラムに基づいて配線を終えた神経回路が,さらに経験依存的に精緻化する成熟過程が進行中であり,そのメカニズムの解明は精神・神経疾患の病態解明には必須である。

 この過程において重要な現象として「臨界期」が知られている。例えば,言語の習得は大人よりも子供の頃のほうが容易であるが,臨界期とはこのように外界への感受性が高く適応能力に優れている期間のことを指し,さまざまな脳機能の発達に重要であることが報告されている。一方で,臨界期中の異常な経験,もしくは臨界期自体の異常は,神経回路の精緻化不全をきたし,精神・発達障害の原因になると推測される。本稿では,マウス視覚皮質の可塑性の臨界期をモデルとして最近明らかになった臨界期の分子メカニズムを概説し,臨界期の視点から精神・神経疾患の病態ならびに治療へのアプローチを考察する。

お知らせ

第7回レビー小体型認知症研究会 フリーアクセス

ページ範囲:P.1145 - P.1145

日 時 2013年11月2日(土)

会 場 新横浜プリンスホテル(新横浜駅徒歩5分)

書評

「〈アクチュアル脳・神経疾患の臨床〉すべてがわかるALS・運動ニューロン疾患」―祖父江元●専門編集 辻 省次●総編集 フリーアクセス

著者: 田代邦雄

ページ範囲:P.1169 - P.1169

 このたび,『すべてがわかるALS・運動ニューロン疾患』と題する書籍が出版された。難病が多い神経疾患,その中でも“難病中の難病”である本疾患に対し,タイトルで“すべてがわかる”と言及されている如く,この領域のトップ・リーダで専門編集者である祖父江元名古屋大学教授が,本邦におけるエキスパートを網羅し,本文総計370ページにわたる単行本を完成されたことに対し,まず心からなる敬意を表する次第である。

 その内容は,Ⅰ章「運動系の構造と機能」に始まり,II章以降は「臨床像と診断」「関連運動ニューロン疾患」「病態関連遺伝子と遺伝子変異」「病態」,そしてⅥ章の「治療と介護」に至り,さらに最後には興味あるCase Study5症例を呈示,Lectureとして解説するという構成となっている。

「脳動脈瘤とくも膜下出血」―山浦 晶●編 山浦 晶,小林英一,宮田昭宏,早川 睦●執筆 フリーアクセス

著者: 橋本信夫

ページ範囲:P.1204 - P.1204

 本書を手にすると,山浦 晶先生が脳動脈瘤手術の達人として,また学会のリーダーとして私たち後進の頭上に燦然と輝いておられた頃がありありと思い出される。本書をめくると,学会の座長席での先生の的確かつ無駄のないご発言を思い出す。

 一般に教科書はエンサイクロペディアの要素を否定できず,さまざまな現象や病態,治療法などの羅列となりがちである。教科書を読んで,その内容を自分の中で概念化,あるいはイメージ化できるかといえばいささか怪しくなる。すなわち,読んで理解し,記憶したはずの内容を,他者にうまく説明できるか,という視点でみれば多くの教科書は難しいといわざるを得ない。

総説

記憶の分子機構―神経細胞の情報伝達効率を調節するメカニズム

著者: 奥野浩行

ページ範囲:P.1171 - P.1178

はじめに

 「脳の世紀」と言われる今世紀に入り早10年以上が経った。この間,これまで生理学,解剖学,神経病理学,精神医学など個別に発展してきた脳神経の研究分野の学際的研究が飛躍的に進み,さらに分子生物学やゲノム医学との融合により,まさに脳の世紀と呼ばれるに相応しい研究成果が出始めている。特に脳イメージングおよび解析技術の革新的な進化などによって,われわれヒトや生きた動物の脳の活動や構造を直接観察できるようになり,現在,国内外で脳の神経細胞の活動や神経細胞同士の連絡様式を網羅的に解析しようという大型プロジェクトが進んでいる1)

 日本のように少子高齢化が進んだ社会において,脳の発達を助け,生涯にわたり機能を維持し,さらに,もしも機能低下が起こった場合には可能な限り回復させる,という医療的要求が今後ますます高まっていくことは想像に難くなく,脳機能の発現機構の解明や脳機能改善のためのそう薬は現在の最重要課題の1つである。特に,最近の知見により,神経ネットワークの発達異常が精神・認知活動の機能的障害をもたらす根本原因の1つであると考えられるようになってきた2,3)。また,われわれは日々の経験を“記憶”として脳の神経ネットワークに書きこみ保存しているが4,5),ストレスや加齢による神経ネットワーク局所の機能不良が蓄積されることにより,記憶の維持や想起能力が低下していくと考えられる。このように,さまざまな脳機能およびその障害を理解するためには神経ネットワークの動作原理を理解することが重要であり,そのためには,まず神経細胞同士の情報伝達機構の基本構造を知り,その作動原理を明らかにする必要がある。

 本稿では,このような観点から,はじめに神経情報伝達の基本素子であるシナプスの機能と構造について概説し,次に,シナプス伝達効率の調節機構について,さらに,シナプス伝達効率の変化を長期化するメカニズムについて最近の研究結果を交えながら解説したい。

DIAN研究

著者: 嶋田裕之

ページ範囲:P.1179 - P.1184

はじめに

 アルツハイマー病研究における究極の目的はその治療であるが,近年のアミロイドカスケード仮説に基づく治療法の開発研究は格段の進歩を遂げ,抗体療法は治療の道を一気に開くのではないかと大きな期待を持たせるものであった。しかし,現在そのことごとくが大きな成果を出せず事実上の失敗に終わり,アミロイドカスケード仮説の限界を皆が感じていたところである。

 一方でKlunkら1)により開発されたPiB(Pittsburgh compound B)を用いたアミロイドイメージングは瞬く間に世界中で広く行われるに至り,その重要性と有用性に大きな期待が寄せられることとなった。そして早期診断,早期治療への道を開くとして始まったADNI(Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative)研究の大きな主眼が,当時の考えとしては最も有力と考えられた軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)からアルツハイマー病への進行予測をバイオマーカーにて確立することであったが,アミロイドイメージングはそこに大きな進歩をもたらすこととなった。また同時にアミロイドイメージングと髄液のアミロイドβ(Aβ)やタウなどのバイオマーカーとの関連に関する研究も進んだのである。

 そしてアミロイドイメージング研究で次に着目されたのは健常高齢者におけるアミロイド沈着の意義である。それがアミロイドイメージングを含む種々のバイオマーカーを用いた大規模な研究により,アミロイド沈着のある健常高齢者をアルツハイマー病発症の予備軍として捉えられる可能性が出てきたのである。その考え方の背景にあるのがDIAN(dominantly inherited Alzheimer network)研究2)である。またその後,治療的な介入に関して種々の大規模研究が計画され,実施されようとしている。

 本稿ではDIAN研究を中心に,今後行われる予定となっている臨床試験のAPI(Alzheimer's prevention Initiative),A4(anti amyloid treatment in asymptomatic Alzheimer disease)研究も合わせて概説する。

Restless legs症候群の診断と新規治療法―Ⅰ.病態生理と診断

著者: 平田幸一 ,   鈴木圭輔

ページ範囲:P.1185 - P.1197

はじめに

 むずむず脚症候群はそもそもrestless legs症候群(RLS)の異訳で,日本神経学会による『神経学用語集』では下肢静止不能症候群と命名されている。17世紀に著された英国の著名な医師トーマス・ウィリス(Thomas Willis;1621-1675)の『The London Practice of Physick』における下肢の不快感による不眠の記載が初めてとされる。その後1944年カール-アクセル・エクボム(Karl-Axel Ekbom;1907-1977)により“asthenia crurum paraesthetica(irritable legs)”として初めて詳細な記述がなされ,それ以降はRLSとして報告されている1)

 RLSを正確に診断し,また治療反応性などをみるには睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)が必要である4)。なぜならRLS患者の多くに(睡眠時)周期性四肢運動[periodic limb movement (in sleep):PLM(S)]がみられるからである。PSGは主に睡眠中の前脛骨筋の表面筋電図によりPLMSの有無や程度をみるものである。しかし,RLSは欧米に限らずわが国でも多くの人々にみられ,いわばcommon diseaseであり,外来の第一線臨床で診断が下されなければならない。

 以上の点に鑑み,2003年米国NIH(National Institute of Health)の国際RLS研究グループ(International RLS Study Group:IRLSSG)は4項目の診断基準を提唱した(Table1)5)。これはバイオマーカーなどを用いずにRLSの定義に基づき診断するものと解釈できるが,睡眠障害に関する記述は症状が日中より夕方・夜間に増強する,もしくは夕方・夜間のみに起こることの日内変動の記載があるにすぎない。

 一方,睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)では,RLSはそもそも睡眠関連運動障害群として分類される(Table2)6)。しかし,RLSでみられる運動は睡眠関連運動障害の定義である単純で常同的なものではないが,症状発現のピークが夕方および夜であるという症状の日内変動の存在のほか,中等症以上のRLSでは睡眠障害が頻発すること,さらには多くの患者にPLMSがみられることによる。

 以上より,RLSの定義は,IRLSSG診断基準に準拠するのが現実的である。すなわち,覚醒安静時および入眠時の四肢異常感覚(知覚異常)を特徴とする知覚障害であり,その症状は,発現部位の筋肉を活動させることによって軽減する。またRLSの知覚異常は脚を中心に局所的で原因不明の特発性のものが多く,発現のピークは夕方および夜である。また,多くの患者にPLMSがみられる。そしてさらに,高い確率で遺伝し,また,これらの症状はドパミンアゴニストによって緩和されるとしてよいと考えられる。本稿ではRLSの病態生理および鑑別診断,新規治療薬にも焦点を合わせて解説する。

症例報告

Broad-range PCR法による16SリボソームRNA解析で起因菌Streptococcus intermediusが同定された培養陰性脳膿瘍の1例

著者: 尾原信行 ,   浅井克則 ,   大楠清文 ,   若山暁

ページ範囲:P.1199 - P.1203

はじめに

 脳膿瘍は致死率の高い神経感染症であり1),適切な治療のためには起因菌の正確な同定に基づく抗菌薬選択が重要である。しかし,広域な抗菌薬が使用開始された後に膿瘍穿刺や脳脊髄液採取が行われるなどの理由で,実際には培養による起因菌の同定が困難なことが多い。

 近年,broad-range PCR(polymerase chain reaction)法を用いて,細菌に共通な16SリボソームRNA(16S rRNA)遺伝子を増幅し,解析することで菌種を同定する方法が,培養が困難あるいは培養できない病原体の検出に有用であるとされ,感染症診療に用いられている2-5)。しかし,この検査法は少なくともわが国ではまだ十分に普及しておらず,神経感染症を診療する医師の間でも広く知られているとは言い難い。筆者らは,血液・脳脊髄液培養で陰性であったが,broad-range PCR法による16S rRNA解析で起因菌を同定し,治療で良好な転帰を得た多発性脳膿瘍の1例を経験したので報告する。

Neurological CPC

MIBG心筋シンチグラフィーの集積低下を認めたFTLD-MNDの62歳男性

著者: 野本信篤 ,   内原俊記 ,   織茂智之 ,   横地正之 ,   河村満 ,   後藤淳 ,   福田隆浩 ,   藤ヶ﨑純子 ,   鈴木正彦 ,   星野晴彦

ページ範囲:P.1205 - P.1213

症例提示1

司会(織茂) 症例の提示をお願いいたします。

主治医(野本) 症例は,62歳男性,主訴は構音障害,既往歴は高血圧,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)や認知症の家族歴はなし。アルコールは1日1~2合,喫煙歴なし。

学会印象記

The 22nd European Stroke Conference(2013年5月28~31日,ロンドン)

著者: 豊田一則

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 初のゲルマン対決で沸きに沸いたCL決勝(欧州サッカー連盟チャンピオンズリーグ)の余韻が冷めやらぬロンドン,その東部,旧ロンドン港を再開発したドックランズの巨大な展示会場ExCeL Londonで,European Stroke Conference(ESC)2013が開かれた。ESCは臨床脳卒中の特に内科診療に関する話題が大きく取り上げられることが多く,日本人研究者にも馴染み深い学会である。あいにく2012年,2013年と続けて日本神経学会学術集会と日程が重なり,日本からの参加はやや低調であったが,今回も興味深い発表が満載であった。

The 22nd European Stroke Conference(2013年5月28~31日,ロンドン)

著者: 河野友裕

ページ範囲:P.1216 - P.1217

 2013年5月28日(火)~31日(金)にイギリス,ロンドンで開催されたThe 22nd European Stroke Conference(ESC2013)に参加してまいりました。時折ロンドンらしい小雨がちらつくこともありましたが,晴れると気温も20℃前後まで上がり過ごしやすい気候の中,テムズ川沿いのExCeL Londonという新しく,広大なコンベンションセンターでの開催でした(写真1)。この施設では2012年ロンドンオリンピックで卓球,柔道,フェンシングなどの競技が行われています。

 初日の午後はTeaching Courseが行われました。“Update on stroke prevention”がテーマの講演では,Prof. Lindgren(ルンド大学)による虚血性脳血管障害のリスクファクターに関する概説が行われました。従来から指摘されている高血圧症,脂質異常症,糖尿病などに加え,新たに危険因子となりうる項目として炎症マーカー(CRP,ICAM-1,eNOSmm)や感染症罹患(Chlamydia PneumoniaeやHelicobacter pylori,サイトメガロウイルスなど),血液凝固異常症などの説明はわかりやすい内容でした。またスコアシステムを用いて10年間の致死的心血管病イベント発症予測を行うリスク計算(Eur Heart J 33: 1635-1701, 2012)の説明も行われました。そのほかに,Prof. Kappelle(ユトレヒト大学メディカルセンター)による一過性脳虚血発作/脳梗塞の2次予防のエビデンスとギャップに関するレクチャーなどが印象的でした。

The 19th Annual Meeting of the Organization for Human Brain Mapping(2013年6月16~20日,シアトル)

著者: 浅野孝平

ページ範囲:P.1218 - P.1220

 今年のThe 19th Annual Meeting of the Organization for Human Brain Mapping(OHBM2013)は,6月16~20日にアメリカ合衆国シアトルで行われました。シアトルといえば,(移籍前の)イチロー,スターバックス発祥の地といったメジャーなことしか思いあたらない私の脳に,OHBM2013の記憶が,新たに刻まれることになりました。

 実は私は,長い間公立小学校の教員をしていました。しかし,私には子どもの頃から別の夢がありました。それは「科学者になりたい」という夢です。同じ事象に出会っても子どもの認識が異なることは現場の教師は肌で感じています。この個性の違いは,きっと脳の個人差であるはず。それは認知のしかたにどう影響しているのだろう。ずっと興味を持ちながら教壇に立っていました。その疑問を自分で解き明かすべく,2008年から社会人大学院生となり川島隆太先生のご指導をいただいてきました。そして,今春学位を取得し,脳科学と教育現場をつなぎたいという思いを持ち,研究者生活をスタートさせたばかりです。そして,ポスドクとして初の国際学会がこのOHBM2013なのです。

連載 神経疾患の疫学トピックス・2

筋萎縮性側索硬化症は利き手から発症することが多い。

著者: 桑原聡 ,   佐藤泰憲

ページ範囲:P.1222 - P.1223

今回は筋萎縮性側索硬化症と利き手の関連についての研究を紹介する。

統計学的手法については二項検定と帰無仮説について概説する。

神経学を作った100冊(82)

モニス『脳血管造影術』(1940)

著者: 作田学

ページ範囲:P.1224 - P.1225

 モニス(Egas Moniz;1874-1955)は,ポルトガルの神経学者である。1874年にポルトガルのアヴァンカに生まれた。コインブラ大学医学部に入るまでは,叔父から教育を受けたという。さらにボルドー大学とパリ大学で学んだ。特にバビンスキー(Jpseph Francois Félix Babinski;1857-1932),マリー(Pierre Marie;1853-1940),デジュリーヌ(Joseph Jules Dejerine;1849-1917)に師事したという。

 1902年に28歳でコインブラ大学医学部の教授となり,1911年には37歳でリスボン大学医学部神経学の主任教授となった後は,終生ここで過ごした。同時に彼はリスボンのサンタマリア病院の医師としても診療を行った。モニスはまた1903年に政治の世界にも入り,スペイン大使や外務大臣も務めた。彼の大きな業績として,脳血管造影術と統合失調症の不安興奮症状に対する前頭白質切截術が挙げられる1)。後者の業績に対して1949年にノーベル医学・生理学賞が与えられた。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1120 - P.1120

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.1226 - P.1227

あとがき フリーアクセス

著者: 三村將

ページ範囲:P.1228 - P.1228

 私が精神・神経科に入局したのは約30年前になるが,当時,統合失調症や躁うつ病といったいわゆる「内因性精神病」では脳の形態的異常はないものと教えられた。もちろん精神疾患の生化学的異常や電気生理学的異常の研究は数多くあったが,神経病理学的に脳の組織や構造を調べても異常は見出せないと考えられていた。だからこそ「器質性」ではなく,「内因性」なのだと。しかし,今月号の特集「神経系の発達メカニズム――最近の話題」においては,例えば久保と仲嶋「大脳皮質の神経細胞配置と統合失調症」(1133~1145頁)の冒頭で言及しているごとく,「統合失調症の脳病理所見として,大脳皮質の微細な組織構築の異常が指摘されている」のである。通常の顕微鏡や染色では異常を検出しえない精神疾患の脳組織において,大脳の神経細胞配置をはじめとした構造異常は明らかに存在することが今日ではもはや前提となっている。その意味では,生物学的精神医学領域の技術の進歩には目を見張るものがあり,一世代前とは文字どおり隔世の感がある。統合失調症や気分障害,自閉症スペクトラムをはじめ,多くの精神疾患は発達段階からの脳構造の変化が指摘されており,さらにさまざまな環境要因の影響を受けて,形態的にも機能的にもエピジェネティクな変化が生じてきている。このような問題をさらに解明していくには,精神科領域でのブレインバンク・バイオリソースの集積が不可欠である。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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