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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩65巻2号

2013年02月発行

雑誌目次

特集 血液脳関門研究の進歩

フリーアクセス

ページ範囲:P.115 - P.115

特集の意図

 血液脳関門の「発見」から100年。分子生物学を中心に研究は進み,中枢神経を保護する単なるバリアーシステムではなく,より高度な機能を有するインターフェースであることが明らかになってきた。脳にとって不要な物質をただブロックするのではなく,進入しようとする物質の要不要を瞬時に判断し,取り込み・排泄を行っている。また,中枢神経内の免疫制御の中心となる臓器でもある。血液脳関門研究は神経疾患の新規治療薬の開発の鍵となる分野だけに,神経疾患の研究,治療に携わる多くの方に読んでいただきたい。

序―血液脳関門の基礎知識

著者: 神田隆

ページ範囲:P.117 - P.120

はじめに

 中枢神経系には血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)と血液脳脊髄液関門(blood-cerebrospinal fluid barrier:BCSFB)が存在し,常にめまぐるしく変化している血流構成成分の中枢神経内侵入はここで阻止される。脳を保護する“壁”として機能するのがBBBに代表されるこの中枢神経バリアーシステムの第1の意義であり,防護壁としてのBBBの概念は既に20世紀の初頭にEhrlich1)や,その弟子のGoldmann2)らによって確立されていること,本誌の読者であればすでにご存知のことであろうと思う。しかし,彼らの発見から100年余りを経て,BBBの分子生物学の進歩とともにその概念は大きな変容を遂げた。

 BBBは静的な“壁”ではなく,脳に必要な物質を能動的に取り込んで不要物質を瞬時に排泄する機能的なインターフェースであること,中枢神経系内での免疫制御の中心をなす構造物であることなどが近年の研究で次々に明らかにされている。BBB破綻を修復すること,さらに進んでBBB機能を人為的にコントロールすることは,多発性硬化症をはじめとする自己免疫性・炎症性中枢神経疾患だけでなく,アルツハイマー病,パーキンソン病などの神経変性疾患や脳血管障害,脳腫瘍を含めた広範な中枢神経疾患の新規治療法開発に直結する。

 この序文の目的は,現時点でBBBを理解するうえで最低限必要な基本的知識を提示しておくことにある。なお,BBBは単なる障壁ではないことから,“barrier”という旧来からの呼称よりも“blood-brain interface(BBI)”という呼び名がより適切ではないかという主張がある。末梢神経系のバリアーである血液神経関門(blood-nerve barrier:BNB)に関しては,blood-nerve interface(BNI)という呼称を用いた論文も既に散見される。筆者はこの考え方に全面的に賛成であるが,BBIという術語はまだ広く浸透したものとはいえず,本稿では従来どおりBBBを血液脳関門の同義語として用いることをご容赦願いたい。

動的インターフェースとしての脳関門輸送システムと脳関門生理学・創薬研究

著者: 立川正憲 ,   内田康雄 ,   寺崎哲也

ページ範囲:P.121 - P.136

はじめに

 脳には,循環血液と脳実質細胞および脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)の間の物質輸送を厳密に制御する血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)および血液脳脊髄液関門(blood-cerebrospinal fluid barrier:BCSFB)がそれぞれ存在する(Fig.1)。脳関門の物質輸送システムの解明は,脳機能発現における神経血管ユニットの病態生理学的役割を理解するだけでなく,良好な脳移行性を持った中枢作用薬の開発戦略の創出および末梢作用薬の中枢性副作用の軽減に直結する重要な課題である。具体的な課題としては,①アミノ酸などの低分子から,ペプチド/蛋白質などの高分子に至る物質輸送機構を,分子レベルで定量的に解明する,②それらの制御機構を分子レベルで解明する,③ヒトにおける脳関門輸送を評価する,などが挙げられる。本稿では,筆者らの最新データを含めたこれまでの研究成果を中心に取り上げ,脳関門輸送研究の進歩とそのゆくえについて概説する。

PETを用いた血液脳関門機能のイメージングと薬物の脳移行性

著者: 高野晴成 ,   須原哲也

ページ範囲:P.137 - P.143

はじめに

 PET(positron emission tomography;陽電子放射断層撮影法)は短半減期のポジトロン放出核種(11C,18F,15O)で標識した放射性プローブを生体内に投与し,その分布と経時的変化をポジトロンカメラにより検出して画像化する核医学的手法である。PETでは投与する放射性プローブの性質に応じて,臓器の血流や代謝,受容体やトランスポーターなどの標的分子への特異結合など,さまざまな生体機能の評価が可能である。今日では腫瘍や循環器疾患の診断のほか,精神神経疾患の病態研究や脳機能研究など,幅広く利用されている。

 血液脳関門はこれまで内皮細胞間あるいは上皮細胞間のタイトジャンクションなどに由来するものと解釈されてきたが,最近の速度論的,分子生物学的研究により,いったん脳内皮細胞に取り込まれた異物が,P糖蛋白などのトランスポーターの働きにより能動的に血液中に汲み出されているために正味の脳移行が制限されていることが明らかにされている。関門における排出輸送の個人差は,脳内濃度の個人差ひいては薬効・副作用の個人差の一因となりうる。PETによる血液脳関門の評価は,血液脳関門に発現している薬物排泄トランスポーターの基質をポジトロン標識し,脳への移行の程度からトランスポーター機能を測定する方法が主に用いられている。一方,薬物の脳移行という観点からは,薬物を直接標識してその移行の程度を測定したり,脳内の薬物の標的部位での受容体占有率などから薬物の脳への移行の程度を間接的に評価したりするなどの方法も用いられている。

血液脳関門とアルツハイマー病

著者: 桑原宏哉 ,   西田陽一郎 ,   横田隆徳

ページ範囲:P.145 - P.151

はじめに

 アルツハイマー病の発症機序はまだ十分に明らかとはなっていないが,脳内へのアミロイドβペプチド(amyloid-β:Aβ)の異常集積が上流の病態となり,認知機能障害をきたすとの考えが広く受け入れられている(アミロイドカスケード仮説)。Aβがアミロイド前駆体蛋白からβセクレターゼやγセクレターゼといった酵素により切り出され,オリゴマー形成などにより凝集して老人斑を形成し,異常リン酸化タウ,神経原線維変化,神経細胞傷害をもたらすとされている1)

 血液脳関門(blood-brain barrier)は,血液から脳へのAβの流入および脳から血液へのAβの排出に寄与していることから,アルツハイマー病の発症機序を考えるうえで非常に重要である。また,アルツハイマー病の発症に血管傷害が直接関与している可能性は以前から指摘されているが,最近では改めて血管性要因の重要性が見直されてきている。治療面においても,脳内のAβの排出をターゲットとしたいわゆる“peripheral sink”に基づく治療をはじめとして,血液脳関門におけるアルツハイマー病の病態を考慮したさまざまな治療法が開発され,臨床応用が大きく期待されている。

 本稿では,アルツハイマー病の病態および治療に関連する血液脳関門の知見について概説する。

血液脳関門とライソゾーム蓄積病治療

著者: 浦山昭彦

ページ範囲:P.153 - P.163

はじめに

 ライソゾーム蓄積病(lysosomal storage disease)は,細胞内の小器官のうち不要物質の代謝・回転に関わるライソゾームの機能不全によって引き起こされる先天性代謝異常疾患の総称である。ライソゾーム中に本来あるはずの加水分解酵素の欠損により,代謝を受けるべき物質がライソゾーム内に蓄積し,脂質蓄積症,糖蛋白蓄積症,糖原病,ムコ多糖症(mucopolysaccharidosis:MPS)などの疾患に至る。欠損している酵素によって病名や症状が異なり,50種類程度の病気が知られている1)

 ライソゾーム蓄積病における酵素補充療法(enzyme replacement therapy)の開発は,その基礎医学研究から臨床応用への展開をみせた,最も顕著なトランスレーショナルリサーチの成功例である。この治療法は,先天的に欠損しているライソゾーム酵素を静脈内投与によって全身性に補うことで,特定のライソゾーム蓄積病における代謝異常を改善しようとする対症療法である。これまで20年以上にわたり,酵素補充療法は,末梢での病態が主体のⅠ型ゴーシェ(Gaucher)病の治療に非常な有効性を発揮してきた。また,ファブリ(Fabry)病,ポンペ(Pompe)病やいくつかのMPSに対して,それぞれ酵素補充療法が開発されており,現在のところ,ニーマン・ピック(Niemann-Pick)病A型およびB型や,MPSⅣA型に対する臨床試験が進行中である。さらに,静脈内投与による酵素補充療法は末梢組織の症状改善には有効であるが,中枢神経系症状の改善には効果が非常に乏しいとう現状に鑑みて,中枢神経系症状の改善を目標とするライソゾーム酵素の脊髄髄腔内投与による臨床試験も行われている。

 こうした手法が採られるのは,脳実質への非侵襲的な薬物送達が非常な困難を伴うためで,その主たる理由として,脳毛細血管内皮細胞を主体とした「血液脳関門」として包括される恒常性維持のための複合的なメカニズムが,循環血液中に投与されたライソゾーム酵素の脳移行,ひいては脳内での治療効果の発現を妨げているためである。したがって,酵素補充療法によるライソゾーム蓄積病の中枢神経系症状の改善には,血液脳関門を介したライソゾーム酵素の脳内送達に関連する研究成果の積み重ねとさらなる応用が必要とされている。

 筆者は,血液脳関門における内因性の特徴を利用したライソゾーム酵素の脳内送達を,血液脳関門研究者William Banks医師およびMPSⅦ型の発見者William Sly医師らとともに進めてきた。MPSは,結合組織の構成に関わるグリコサミノグリカンの代謝異常によって惹き起こされ,その代謝過程(Fig.1)では,さまざまな基質特異的な酵素が協調して機能している。したがって,これらの代謝のステップごとに異なる加水分解酵素が特異的に関わっているので,どれか1つの酵素が機能しなければ,中間代謝物が分解処理されないまま蓄積していく。

 MPSⅦ型は,βグルクロニダーゼ(β-glucuronidase)の欠損によりヒアルロナン,ヘパラン硫酸,デルマタン硫酸,コンドロイチン硫酸のライソゾーム内蓄積,尿中排泄の増加が認められる。症状として,精神運動発達遅滞,ガーゴイリズム,肝臓・脾臓の肥大,骨変形などがみられる。本稿は,このβグルクロニダーゼをライソゾーム酵素のモデルとして中枢神経系への送達を試みた研究の総説である。またこれに関連して,他のライソゾーム酵素であるスルファミダーゼ(sulfamidase),酸性αグルコシダーゼ(acid α-glucosidase),アリルスルファターゼA(arylsulfatase A)の場合を含めて統合的に考察することで,ライソゾーム酵素の血液脳関門透過性とその輸送様式を論じた。

血液脳関門と神経免疫疾患

著者: 清水文崇 ,   神田隆

ページ範囲:P.165 - P.176

はじめに

 微小循環系は循環器系の最終目的である物質交換のなされる場である。血液成分から組織への必要物質の移行と老廃物の回収を円滑に行うため,多くの微小循環系の血管内皮細胞は有窓であるが,体内の限られた部位では微小血管内皮細胞は隣接する細胞間でタイトジャンクションを構成し,物質の自由な往来を制限している。これを血液組織関門(blood-tissue barrier)といい,血液網膜関門(blood-retinal barrier),血液神経関門(blood-nerve barrier)など多数のバリアーシステムが存在する。なかでも中枢神経系におけるバリアーシステムは,脳の内部環境を維持するうえで極めて重要であり,血液脳関門(blood-brain barrier)がそれに当たる。血液脳関門の本体は脳微小血管を構成する内皮細胞である(Fig.1)1,2)

 多発性硬化症(multiple sclerosis:MS),視神経脊髄炎,中枢神経ループスなどのさまざまな自己免疫性神経疾患で,血液脳関門の破壊は最も初期に起こる病理学的現象であると考えられている。MSは中枢神経系髄鞘を標的とする自己免疫疾患であるが,病的T細胞が脳内に侵入し増殖するためには血液脳関門を通過する必要がある。視神経脊髄炎では近年,特異的な自己抗体として抗アクアポリン4(aquaporin 4:AQP4)抗体が同定され,同抗体によるアストロサイト傷害が病態形成に重要なプロセスであると考えられている3)。しかし,同抗体の中枢神経内流入は血液脳関門の存在を抜きには議論できない。また,近年急速に普及したMRIは,自己免疫性神経疾患の早期診断や活動性の評価を可能とし,“血液脳関門の破壊”という現象をわれわれの前に提示してくれるようになった。

 自己免疫性神経疾患における血液脳関門破壊を,単に中枢神経内の炎症に引き続いて現れる二次的な現象ではなく,脳内の免疫現象を調節するインターフェースの破綻と捉え,自己免疫性神経疾患において血液脳関門を制御するという観点から有効かつ効果的な治療法を探るのが本稿の目的である。

総説

加齢と神経変性疾患におけるRNA酸化傷害

著者: 布村明彦

ページ範囲:P.179 - P.194

はじめに

 さまざまな生物種におけるゲノム解析プロジェクトの完了によって,予想外にも蛋白質をコードする遺伝子の数は下等生物から高等生物に至るまで大差がないことが明らかになった1)。他方,高等生物には下等生物に比べて蛋白質をコードしないDNA領域がより多く存在することが明らかになり,非コードDNA領域の割合と生物の複雑さの間には強い相関が見出された1)。非コードDNA領域の割合はヒトでは実に98.8%に達し,その大部分はnon-coding RNA(ncRNA)へと転写されており,これらがヒトの高次脳機能に深く関与している可能性が指摘された1,2)

 近年,ncRNAによる遺伝子発現制御機構が解明されつつあり,発生期の遺伝子調節のみならず,加齢,認知機能,あるいは神経変性にもncRNAが重要な役割を果たしている可能性が指摘され始めた1-4)。さらに,ncRNAの品質管理機構の破綻と疾病の関連性も注目されている5)。このような近年のRNAバイオロジーの急展開を受け,RNA酸化傷害と疾病の関連性が注目され始め6-9),神経系のRNA酸化傷害に関する知見も集積されつつある10-13)

原著

てんかん性高次脳機能障害の検討

著者: 杉本あずさ ,   緑川晶 ,   小山慎一 ,   二村明徳 ,   黒田岳志 ,   藤田和久 ,   板谷一宏 ,   石垣征一郎 ,   河村満

ページ範囲:P.195 - P.202

はじめに

 てんかんは中心症状として痙攣を呈することが多いが,欠神発作や自動症など非痙攣性の症状も知られている。さらに近年においては,痙攣を伴わない持続する意識障害1)や自律神経障害2),あるいはアルツハイマー病と類似の病像を呈する記憶障害3)など,てんかん性の特異な臨床像が少なからず認められている。このような新規病態の報告が増加している背景には,1990年代以降の持続脳波モニタリングの開発・普及による,てんかんの診断感度の向上があると考えられる4)

 しかし,高次脳機能障害の鑑別において,てんかん性である可能性を初期から考慮することは,いまだ十分に一般化しているとはいえない。本研究では,てんかん性高次脳機能障害の5症例を検討し,その病像を明らかにすることを目的とする。また,診断における問題点,特に非痙攣性てんかん重積(non-convulsive status epileptics:NCSE)との異同について検討する。

痙性斜頸患者を対象としたナーブロック®(B型ボツリヌス毒素)の単回投与による有効性および安全性を評価するプラセボ対照二重盲検比較試験

著者: 梶龍兒 ,   清水博喜 ,   高瀬貴夫 ,   大澤美貴雄 ,   柳澤信夫

ページ範囲:P.203 - P.211

はじめに

 ナーブロック®(米国:MYOBLOC®,欧州:NeuroBloc®)は,米国Elan社(現在はUS WorldMeds社に移譲)で開発されたB型ボツリヌス毒素製剤であり,痙性斜頸治療薬として欧米はじめ世界18カ国以上で使用されている。

 痙性斜頸(頸部ジストニア)は,頸部筋の異常収縮により頭位偏倚をきたす局所性ジストニアの一型である。主な症状は,頭位偏倚および振戦であり,脊柱側彎もしばしばみられ,頸部痛の合併が多くみられる。発症は突発的であり,外傷,精神的ショック,過度の労作などが誘因と考えられている。従来,治療には抗コリン薬や筋弛緩薬などの薬物療法,外科的手術などが試みられてきたが,必ずしも十分な治療方法ではない。

 ボツリヌス毒素は,嫌気性細菌であるClostridium botulinumにより産生される蛋白質毒素であり,その抗原性によりA~G型の7型に分類される。毒素型により受容体および作用する蛋白質が異なるが,ボツリヌス毒素の基本的な作用は末梢のコリン作動性神経終末からのアセチルコリン放出を抑制することであり,これにより神経筋伝達を阻害し,筋の麻痺をきたす。

 この毒素の作用を応用した臨床研究は古くから行われており,1960年代に米国の眼科医A. Scottは極少量のボツリヌス毒素を局所に筋注し,神経伝達阻害作用による限局性の筋緊張亢進の緩和を目的とした臨床研究を行った1)。1980年代後半には,米国を中心に痙性斜頸に対するA型ボツリヌス毒素の臨床試験が開始され,ボツリヌス治療が従来の治療法に比較して有効性が高く,安全な治療であることが示された。B型ボツリヌス毒素についてもA型ボツリヌス毒素と同様に痙性斜頸に対する治療薬として開発され,外国ではElan社が1993年から痙性斜頸を対象に臨床試験を開始した。その後,米国,欧州でそれぞれ2000年12月,2001年1月に同適応で承認された。

 今回,日本人の痙性斜頸患者におけるB型ボツリヌス毒素の有効性および安全性を検証するために,プラセボを対照とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した。主要評価には痙性斜頸の評価尺度であるToronto Western Spasmodic Torticollis Rating Scale(TWSTRS)*1を用いた。本稿では本試験の結果を報告する。

神経画像アトラス

術後に一過性脳梁膨大部病変を呈した脳動静脈奇形の1例

著者: 内田和孝 ,   白川学 ,   阪本大輔 ,   安藤久美子 ,   石藏礼一 ,   前野和重 ,   有田憲生

ページ範囲:P.212 - P.213

〈症 例〉 27歳,女性

 主 訴 嘔吐,意識障害

 現病歴 2012年7月○日未明,飲食中に突然の嘔吐,意識障害を認め,近医に救急搬送された。頭部CT(computed tomography)で右頭頂葉に出血を認めたため,精査・加療を目的に兵庫医科大学脳神経外科を紹介された。

学会印象記

Neuroscience 2012 The 42nd Society for Neuroscience Annual Meeting(2012年10月13~17日,ニューオーリンズ)

著者: 佐藤暢哉

ページ範囲:P.214 - P.215

 米国ルイジアナ州ニューオーリンズで10月13~17日に開催された,Society for Neuroscienceの42回目の年次大会であるNeuroscience 2012に参加してきました。この学会の年次大会としては6度目のニューオーリンズ開催だそうです。私自身としては2000年と2003年に続いて,9年ぶり3度目のニューオーリンズ訪問となりました。

 Society for Neuroscienceの年次大会は,参加者が30,000名を超える非常に大きなものです。その規模のために大会を開催できる場所が限られるのか,近年では,米国内の都市数カ所をローテーションで回っていくのが通例となっています。かつてはニューオーリンズも,そのローテーションに組み込まれていたのですが,2005年8月アメリカ南東部に甚大な被害を与えたハリケーン・カトリーナのために,しばらく開催地となることはありませんでした。カトリーナの翌年2006年にもニューオーリンズでの開催が予定されていたのですが,開催地はアトランタに変更になりました。

28th Congress of the European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis(2012年11月10~13日,リヨン)

著者: 田中正美

ページ範囲:P.216 - P.217

 28th Congress of the European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis(ECTRIMS)が2012年11月10~13日にフランス・リヨン市で開催されました(写真)。同様の組織は北米のACTRIMS,南米(ラテン系)のLACTRIMSとあり,2009年にはアジア・オセアニア地域のPACTRIMSが齋田孝彦先生を会長に設置されています。PACTRIMSは昨年,京都で開催される予定でしたが,震災の影響で急遽シンガポールでの開催となりました。今年は北京の日本大使館がデモ隊で包囲されている日に近くのホテルで開催されましたが,来年は日本で開催予定です。ECTRIMSは世界最大の多発性硬化症(MS)に特化した学会で,臨床研究を中心としていることが特徴であり,数多くの治験結果やコホート研究が報告されます。演題数は毎年漸増しており,今年は1,000を超えました。抄録は『Multiple Sclerosis Journal(旧:Multiple Sclerosis)』のSupplementとして出版されています。昨年から抄録集は500頁を超えました。

 リヨンはイタリア国境に近いフランス南東部に位置し,ローヌ川とソーヌ川の流れるフランス第2の美食の都市です。最寄りの空港は市内中心部から30キロほど離れており,タクシーがなかなか高速道路から下りず手持ちの現金が乏しいとドキドキします。実際に住んでいた期間は短いようですが,リヨン生まれということで『星の王子さま』の作者であるサンテグジュペリの名を空港に冠しています。しかし,日本語のガイドブックでは紹介しているのに,市内のホテルやインフォメーション・センターで配布している地図には,市内中心部の広場にあるサンテグジュペリの座像の表示はありませんでした。

連載 神経学を作った100冊(74)

フォア,ニコレスコ『脳解剖学』(1925)

著者: 作田学

ページ範囲:P.218 - P.219

 フォア(Charles H. Foix;1882-1927)は,バイヨンヌ近郊で出生し,パリ大学卒業後サルペトリエール病院で,1917年まではデジュリーヌ(Joseph Jules Dejerine;1849-1917),次いでマリー(Pierre Marie;1853-1940),ギラン(Georges Guillain;1876-1961)に師事した。口蓋ミオクローヌスにおける中心被蓋路病変とオリーブ核の仮性肥大(1924),フォア症候群(赤核の前半部の障害により,動眼神経は障害されずに,赤核性振戦などを生じるもの=赤核症候群)(1925),フォア・アラジュアニーヌ症候群(脊髄の血栓性静脈炎で,亜急性壊死性ミエロパチーを生じるもの)(1926),フォア・シャヴァニ・マリー症候群(顔面・咽頭・舌・咬筋の両側性麻痺。随意運動と自動運動の乖離を伴う),フォア・ジェファーソン症候群などで知られる。

 さて,パーキンソン病の主病変が黒質に存在することが明らかになったのは,それほど古い話ではない。これが中脳に存在するかもしれないということは,1894年にブロック(Paul Oscar Blocq;1860-1896)とマリネスコ[Georges Marinesco;Gheorghe Marinescu(ルーマニア語表記);1863-1938]によって初めて明らかにされた。それは中脳の結核腫によって一側のパーキンソン症候群が出現したという『Revue Neurologique』誌での報告であった。これは1895年にブリッソー(Édouard P Brissaud;1852-1909)の著書によって取り上げられた。「パーキンソン病の性質と病変」と題する章で黒質の一側性病変と反対側に生じたパーキンソン症状との関連を指摘し,そのような病変は不明瞭ではあるが,1つの仮説であるといって,ハッパをかけたのである(Fig.1)1)(501頁)。

書評

「標準神経病学 第2版」―水野美邦●監修 栗原照幸,中野今治●編 フリーアクセス

著者: 岩田誠

ページ範囲:P.152 - P.152

 これは,極めて便利な書物である。帯には,学生のための神経内科の教科書,と書いてはあるが,どうして,どうして,この書物に書かれている内容は相当に高度であり,研修医どころか,神経内科の専門医の座右の書としても,十分に活用できる内容である。しかも,高度な内容が実に要領よく,わかりやすく説明されているので,学生が読んだとしても,十分に内容を把握していくことができよう。それにしても,よくまあ,これだけの内容の濃い書物を,五百数十ページにまとめられたものと,感心するのである。

 評者が特に感心したのは,この書物の1/5が,筋肉と末梢神経の病気の記述に当てられていることである。神経系の病気を取り扱う科としては,神経内科のほかに,脳神経外科,整形外科,そして精神医学があり,多くの神経系疾患は,これらのうちの複数の科における共通の診療対象である。しかし,筋肉疾患と末梢神経障害とは,それらのほとんどが神経内科の独壇場である。そこに大きく焦点を当てた編集方針は,極めて的を射たものとして,評者の共感を呼ぶ。

「ボツリヌス療法アトラス」―Wolfgang Jost●著 梶 龍兒●監訳 フリーアクセス

著者: 木村彰男

ページ範囲:P.177 - P.177

 ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素は,神経筋接合部でアセチルコリンの放出を妨げる働きを持つ。一般にボツリヌス毒素の作用は末梢性に限られるとされており,筋弛緩,鎮痛作用に効果のあることが確認されている。そのため,近年では各種疾患の治療に用いられるようになり,多方面から注目を集めている。

 日本国内においてはA型ボツリヌス毒素製剤ボトックス®が注射剤として承認されており,1996年に眼瞼痙攣,2000年に片側顔面痙攣,2001年に痙性斜頸,2009年に2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足へと徐々にその適応が拡大され,2010年に上肢痙縮・下肢痙縮への適応承認へと至る経過をたどっている。リハビリテーション医学・医療の分野では上肢痙縮・下肢痙縮に対するボツリヌス毒素の適応が拡大されたことにより,特に脳卒中患者の後遺症に対する治療として急速に広まりつつある。ただ,どの筋を目的に,どのくらいの用量を使用するかに関してはまだ基準がなく,臨床経験の積み重ねにより標準化されていくことが期待されている状況である。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.211 - P.211

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.220 - P.221

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.222 - P.222

 年の瀬の慌ただしい衆議院選挙が一段落したところで原稿を書いています。3年半前とまったく逆の結果とマスメディアは口を揃えて報道していますが,私には改めて同じ光景が現出したとしか思えませんでした。政治の舵取りがうまくできなかった政党の候補者を大量に落選させてリベンジする,という仕組みであるとすれば,小選挙区制は今回もよく機能したというべきでしょうか。ともあれ,今回あまり争点にならなかった医療・教育・学術研究といった領域の着実な進展を新政権には期待したいところです。難病制度の大幅な見直しもこれから動き出すものと思います。2013年が読者の皆様にとってよい年であることを心より祈念したいと存じます。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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